説明

膵線維症の治療のためのグルコシダーゼ阻害剤の使用

本発明は、膵線維症の処置に使用する医薬の調製のための、一般式(I)(式中、Rは、CH基またはCHOHを示し、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示すか、あるいは、RおよびRは、先に述べた式(I)の(a)の位置の炭素および窒素と一緒になって式(II)を有する基を形成している)から選択されるグリコシダーゼ阻害剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、嚢胞性線維症の処置用医薬の調製のためのグルコシダーゼ阻害剤の使用である。
【0002】
嚢胞性線維症(CF)は、欧州および北米の人口集団において最も広まっている致死性の常染色体劣性遺伝性疾患である。CF遺伝子(遺伝子座7q31)は、CFTR(嚢胞性線維症膜貫通調節因子(Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator))と呼ばれる膜貫通タンパク質をコードしている(Tsuiら、1985;Riordanら、1989)。CF遺伝子の変異により、肺、汗腺、腸、および膵外分泌部などの様々な器官の細胞膜を通る水および電解質の輸送に異常が生じる。CFTRタンパク質の1000を超える変異が存在するが、最も頻繁に起こる変異(患者の70%)は、NBF1ドメインの508位のフェニルアラニンの欠失である(delF508)。CF患者の主な死亡原因はこの欠失に関連しており、粘液の粘性上昇により引き起こされる感染または肺不全が生じる。この粘性により気道が閉塞し、日和見細菌による感染のリスクが高まる。更に消化管系、特に膵臓系(膵不全の患者)に増悪が認められる。CFTRタンパク質は、ABC膜輸送体スーパーファミリーに属する1480アミノ酸の糖タンパク質である。CFTRは、健康個体の肺上皮細胞の先端形質膜に位置する塩素チャネルである。CFTRは、水および電解質の経上皮輸送に関与し、これにより健康個体における肺気道の水和が可能となる。CF患者では、小胞体(ER)に留まるこのタンパク質が正しくアドレッシングされないため、このタンパク質は形質膜に存在しない。この場合、肺気道の水和はもはや機能していない。delF508欠失によりNBF1ドメインの折りたたみがむちゃくちゃになり、核タンパク質の完全な成熟が妨げられ、その結果、その生合成中の極く早い時期に分解される。しかし、delF508タンパク質は膜に到達すると、クロライドチャネルとして機能する。それ故、この疾患の処置における鍵の1つは、細胞膜に向かうようにdelF508を再度アドレッシングすることである。一旦膜に到達すると、delF508の輸送活性は、内因性または外因性の生理的アゴニストにより刺激され得る。
【0003】
CFTRタンパク質をアドレッシングする機序は、以下のように遂行される。その新合成後、CFTRタンパク質は小胞体腔に見出されるが、そこにおいてグリコシルトランスフェラーゼにより様々なグリコシル化を受ける。該タンパク質は、とりわけ3個のN−結合グルコースおよび1個のN−結合マンノースを伴なって見出される。該グルコース2個が、グルコシダーゼIおよびIIにより除去される。従属的なカルシウムを有するシャペロンであるカルネキシンまたはカルレティキュリンが、モノグリコシル化タンパク質を認識し、N−結合グルコースを介して該モノグリコシル化タンパク質に結合する。これらのシャペロンは、ERに存在する種々のCFTRタンパク質が互いに凝集するのを防ぎ、ERp57などの他のシャペロンが結合できるようにする。このようにして形成されたCFTR/カルネキシン/ERp57複合体により、CFTRの折りたたみが可能となる。その後、グルコシダーゼIIが残りのグルコースを除去し、これによりシャペロンからCFTRが放出される。折りたたみが正しくなければ、グルコシルトランスフェラーゼによりグルコースがCFTRに付加され、良好に折りたたまれるまで再度1回以上のサイクルを受けることができる。折りたたみが依然として正しくなければ、マンノシダーゼによりN−結合マンノースが除去され、その後、該タンパク質はトランスロコンチャネル複合体を介してサイトゾルへと輸送され、ここで分解されることができる(Ellgard & Helenius、2003)。この現象は、CFTR−WTの80%に、delF508−CFTRの99%に観察される。一旦サイトゾルに入ると、該タンパク質は、Hsp70、Hsp90、またはHdj−2などの種々のシャペロンにより助けられる。これらのシャペロンにより、ユビキチンはCFTRに結合できるようになる。このように標識されているのでCFTRは認識され、ATP依存性である26Sプロテアソーム複合体により分解される(Gelmanら、2002)。CFTRの折りたたみが、小胞体制御機序により正しいと判断された場合、該タンパク質はゴルジ装置へと到達することができる。このタンパク質は、マンノースを介してCFTRに結合している「積み荷」タンパク質ERGIC−53(レクチンファミリーに属する)により助けられる。ERGICの通過は、COPI因子により形成される小胞を介して起こる(Ellgard & Helenium、2003)。該タンパク質は、正しく折りたたまれていない場合、ゴルジ装置のエンドグリコシダーゼHに感受性であり(Chengら、1990)、その後、小胞体へと戻され、そこで分解されるようである。一方、正しく折りたたまれたタンパク質は、エンドグリコシダーゼHに抵抗性であり、VIP36因子(ERGIC−53の相同体)により助けられ、先端膜へと運ばれる(Fiedler & Simons、1995)。
【0004】
グルコシダーゼ阻害剤のカスタノスペルミンは、肺上皮細胞表面上でのdelF508の存在の回復に対して効果を及ぼすことがすでに観察されているが(Weiら、1996)、他方で、この化合物が、膜のdelF508のアドレッシングを回復できるだけでなく、delF508をイオン輸送体として機能させることができることまでは記載されていない。それ故、この文献の著者は、嚢胞性線維症の処置の枠組み内での、この化合物の可能性ある使用に関する仮説は提唱していない。
【0005】
本発明者らは、このグルコシダーゼ阻害剤が、delF508のイオン輸送活性または細胞生存度に影響を及ぼすことなく、delF508の正しくかつ特異的なアドレッシングを確実に行なうことができるかどうかを判断するために、このグルコシダーゼ阻害剤を厳密に研究した。
【0006】
N−ブチル−デオキシノジリマイシン(NB−DNJ)は、小胞体のグルコシダーゼIおよびII阻害剤であり、これは最初ヒトの抗ウイルス分子として開発された。これらの酵素の阻害により、HIVウイルス(ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus))のエンベロープの糖タンパク質の折りたたみが改変され、結果として、ウイルスサイクルが遮断されることが判明している(Plattら、2001)。NB−DNJを使用した治療は、後天性免疫不全症候群をかかえている患者で評価されており、この分子は十分に耐容性があり、高濃度(2mM)でさえ培養液中の組織に対して細胞毒性ではない。更に、これらの臨床治験により、NB−DNJはまた、グリコシルトランスフェラーゼに対しても阻害効果を有することが判明した。これが、この分子(OGT918とも命名されている)がゴーシェ病の処置においても研究されている理由である(Dwekら、2000、Coxら、2000)。この遺伝病は、リソソーム酵素のβ−グルコセレブロシダーゼの欠乏により引き起こされ、これによりグルコセレブロシド(酵素の基質)が蓄積する。したがって、グルコセレブロシドの生合成に関与するグルコシルトランスフェラーゼ阻害剤であるNB−DNJは、その合成および蓄積を妨げる(Dwekら、2000、Coxら、2000)。NB−DNJは、2002年に、ザベスカ(Zavesca(登録商標))の名称でゴーシェ病の医薬として販売の許可を得た。
【0007】
本発明は、NB−DNJおよび他のグルコシダーゼ阻害剤全般が、他のクロライドチャネルを変化させることなく、膜のdelF508のアドレッシングを回復させることができ、delF508をイオン輸送体として機能させることができるという事実の、本発明者らによる実証からもたらされている。
【0008】
本発明の主題は、嚢胞性線維症の処置用医薬の調製のためのグルコシダーゼ阻害化合物の使用である。
【0009】
「グルコシダーゼ阻害剤」の表現は、あらゆるグルコシダーゼIおよび/またはII阻害剤を意味し、これらのグルコシダーゼの阻害は、特にPlattら、1994に記載の方法に従って測定することができる。
【0010】
本発明の主題は、より特定すると、特に欠失delF508についてヒトのホモ接合型肺上皮CF15細胞で行なった本明細書で後記した実験の枠組み内でのグルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用であり、上記化合物は、他のクロライドチャネルを変化させることなく、膜のdelF508のアドレッシングを回復させることができ、delF508をイオン輸送体として機能させることのできる化合物から選択される。
【0011】
より特定すると、本発明の主題は、以下の一般式(I):
【化10】


(式中、
は、CHまたはCHOH基を示し、
は、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示すか、
あるいは、RおよびRは、上記式(I)の(a)の位置の炭素および窒素と一緒になって、式:
【化11】


で示される基を形成している)
で示される化合物から選択される、グルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用である。
【0012】
より特定すると、本発明は、以下の式:
【化12】


で示される式(I)の化合物の先に述べた使用に関する。
【0013】
より特定すると、本発明は、以下の一般式(II):
【化13】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択されるグルコシダーゼ阻害剤の先に述べた使用に関する。
【0014】
より特定すると、本発明の主題は、以下の一般式(IIa):
【化14】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択される、先に定義したグルコシダーゼ阻害剤の先に述べた使用である。
【0015】
本発明の主題はまた、以下の一般式(II.1)または(II.2):
【化15】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択される、請求項1〜4の一項に記載のグルコシダーゼ阻害剤の先に述べた使用である。
【0016】
より特定すると、本発明は、以下の式:
【化16】


で示される、先に定義した式(II.1)または(II.2)(式中、Rが、HまたはN−ブチル基を示している)の化合物の先に述べた使用に関する。
【0017】
好ましくは、本発明の枠組み内で使用される化合物は、NB−DNJおよびNB−DMJである。
【0018】
また好ましくは、本発明の枠組み内で使用される化合物は、NB−DNJである。
【0019】
本発明の主題はまた、経口(シロップ剤、懸濁剤、ゼラチンカプセル剤、錠剤、散剤、または顆粒剤)、直腸(坐剤)、鼻腔経路(吸入によるエアゾール剤、または滴剤)により、特に、成人については1日当り約1mg〜2gの有効成分の割合で、または小児および乳児については1日当り1mg〜1gの割合で、1回以上の用量で投与できる医薬の調製のための、先に定義したグルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用である。
【0020】
本発明はまた、CFTRチャネル活性化化合物と組み合わせた先に定義したグルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用に関する。
【0021】
それ故、本発明の主題は、より特定すると、以下の式:
【化17】


で示されるゲニステインまたは以下の式(II):
【化18】


(式中、
およびRは、水素原子を示すか、またはCおよびCとの組合せで6個の炭素原子を有する芳香族環を形成し、
は、水素原子、または、1〜10個の炭素原子を有する直鎖もしくは置換アルキル基、特にブチル基、あるいは式COOR’(R’は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖または置換アルキル基、特にエチル基を示す)で示されるエステルを示し、
Yは、−OH、−SH、−NH、または−NHCOCH基を示し、
、R、R、およびR10は水素原子を示すか、あるいは、R、R、R、またはR10の少なくとも1つは、ハロゲン原子、特に、塩素、臭素、もしくはフッ素原子を示し、
Xは、アニオン形態のハロゲン原子、特に臭素Brもしくは塩素Cl原子、またはアニオン形態の原子基を示す)
で示されるベンゾ[c]キノリジニウムの誘導体から選択されるCFTRチャネル活性化化合物と組み合わせた、先に定義したグルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用である。
【0022】
より特定すると、本発明の主題は、以下の化合物:
【化19】








から選択される式(II)のベンゾ[c]キノリジニウムの誘導体と組み合わせた先に定義したグルコシダーゼ阻害化合物の先に述べた使用である。
【0023】
本発明の主題はまた、嚢胞性線維症の治療において、同時にもしくは別々に使用するかまたは時間をかけて使用するための組合せ製品としての、少なくとも1種類のグルコシダーゼ阻害化合物、特に先に定義した式(I)または(II)の化合物と先に定義したCFTRチャネル活性化化合物の少なくとも1種類とを含む製品である。
【0024】
本発明は更に、MB−DNJがdelF508のイオン輸送活性または細胞生存度に影響を及ぼすことなく、MB−DNJによりdelF508が正しくかつ特異的にアドレッシングされる効果についての実験的証明に関する以下の詳細な記述により説明される。
【0025】
I)材料および方法
M1.細胞培養
CHO−WT細胞:CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞は、野生型CFTR遺伝子(CFTR−WT)でトランスフェクトされた線維芽細胞である。それ故、この細胞は、CFTRタンパク質を過剰発現する。
【0026】
培養培地:MEMα培地(ギブコ)+7%ウシ胎児血清+0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン+100μMのメトトレキサート(アメトプテリン、シグマ製)。
【0027】
CF15細胞:CF15細胞は、ΔF508−CFTR遺伝子を発現する鼻から得られたヒト上皮細胞である。
【0028】
培養培地:DMEM培地+HAM F12+10%FCS+0.6%ペニシリン/ストレプトマイシン+成長因子(インスリン5μg/ml、トランスフェリン5μg/ml、エピネフリン5.5μM、アデニン0.18mM、EGF10ng/ml、T3 2nM、ヒドロコルチゾン1.1μM)。
【0029】
Calu−3細胞:Calu−3細胞は、野生型CFTR遺伝子を発現する肺から得られたヒト上皮細胞である。
【0030】
培養培地:DMEM培地/グルタマックスを含むF12+7%ウシ胎児血清+1%ペニシリン/ストレプトマイシン。
【0031】
M2.免疫標識
抗CFTR一次抗体(Ab)、次いでCy3フルオロフォアで標識した一次抗抗体二次抗体による免疫標識により、細胞におけるCFTRタンパク質の位置が視覚化できるようになされた。細胞は、前もって、適切な培養培地中の薄層に播種した。各回5分間3回のTBS(NaCl:157mM、トリス塩基:20μM、pH7.4)での洗浄を行なった。その後、細胞を、TBS−パラホルムアルデヒド(3%)の添加により20分間かけて固定した。TBSで3回(5分間)洗浄した後、細胞を、細胞膜における穴の形成を可能とする0.1%TBS−トリトンと共にインキュベートし(10分間)、その後、TBSでの3回の洗浄をもう一度行ない、その後、細胞を、0.5%TBS−BSA−0.05%サポニンと1時間一緒にした。その後、細胞を、CFTR抗C末端一次抗体(2μg/ml)と共に1時間インキュベートした。各回5分間3回のTBS−BSA−サポニンでの洗浄を行ない、その後、GAM−cy3二次抗体(1/400)と共に1時間インキュベートした。5分間の2回のTBSでの洗浄の後、核を、Topro3(1/1000)と共に5分間インキュベートすることにより標識した。最後に、薄層を、最後の5分間3回のTBSでの洗浄後、スライド上に乗せることができた。スライドを、適切な波長のレーザーを用いた励起により共焦点顕微鏡(バイオ・ラッド製)で観察した。Cy3標識とTopro3標識を区別するために、Topro3の蛍光色を青色(核の色)に変えておいた。
【0032】
M3.放射性トレーサエフラックス
細胞中のクロライドイオン輸送の測定は、放射性ヨウ化物エフラックス技術(Becqら、1999;Dormerら、2001)を使用して行なった。トレーサ(125I)を、細胞内媒体に取り込ませた。その後、細胞を出る放射性トレーサの量を、種々の薬理学的試薬の添加後に計測した。ヨウ化物は、クロライドイオン輸送のトレーサとして使用した。2種類の放射性トレーサ125Iおよび36Clは、クロライドチャネルの活性を測定する上での等価体と考えることができる(Venglarickら、1990)。125Iは、更に、35Clと比べて寿命が短いという利点がある(それぞれの半減期:30日間および300,000年間)。細胞を、24ウェルプレートの適切な培地中で培養した。エフラックス培地(NaCl:136.6mM、KCl:5.4mM、KHPO:0.3mM、NaHPO:0.3mM、NaHCO:4.2mM、CaCl:1.3mM、MgCl:0.5mM、MgSO:0.4mM、HEPES:10mM、D−グルコース:5.6mM)で2回濯ぎ、無秩序に放射能を放出する死滅細胞を除去した。その後、細胞を、500μlの投入物(1μCi/mlの125INa)と共にCHO−WTでは30分間、または、CF15およびCalu−3では1時間インキュベートした。ヨウ化物は、細胞膜の両側において平衡状態にあった。ロボット(MultiPROBE、パッカード製)により以下の段階を行なった:投入培地をエフラックス培地で濯ぎ、細胞外放射能を除去した。上澄みを、溶血チューブ中に1分毎に収集し、培地を等容量(500μl)で置き換えた。最初の3分間に採取した試料には薬物は添加せず、これにより受動的なIイオンの排出を特徴づける安定なベースラインを得ることが可能となった。以下の7つの試料は、試験する分子の存在下で得られた。実験終了時に、細胞を、500μlのNaOH(0.1N)/0.1%SDSの添加により溶解する(30分間)ことで、細胞内に残存する放射能を測定することができた。溶血チューブに存在する放射能は、ガンマカウンター(Cobra II、パッカード製)を使用して1分当りのカウント数(cpm)で計測した。cpmで示した結果は、以下の式に従って、放射性ヨウ化物(R)の排出速度の形で表わした:R(分−1)=[ln(125I t)−ln(125I t)]/(t−t)、ここで、125I t:時間tにおけるcpm;125I t:時間tにおけるcpm。このヨウ化物の流量は、曲線の形で示した。試験する分子の投与に起因するヨウ化物の排出を定量するために、以下の相対流量を計算し、これによりベース流量を除外できた:相対速度(分−1)=Rピーク−Rベース。最後に、これらの結果は、様々な薬物の効果を互いに比較できるようにするために標準化した。結果は、平均+/−SEMの形で示した。スチューデントの統計検定を使用して、薬物の効果を対照物と比較した(P<0.01に相当する数値を、統計学的有意と判断した)。
【0033】
M4.細胞毒性試験
MTT毒性試験は、MTT(黄色のテトラゾリウム塩)からホルマザン(紫色)へのミトコンドリアデヒドロゲナーゼの代謝能に基づいた比色試験である。それで、変換された色素の濃度に比例する吸光度を分光計により測定することができた。細胞を、試験する試剤の存在下で96ウェルプレート中で2時間インキュベートした。3つの対照試験を行なった:100%生存細胞:試剤を含まない細胞;0%生存細胞:開放された空気中に放置された細胞;ブランク:細胞を含まない培地。培地の色が吸光度測定を妨害しないように、細胞をフェノールレッドを含まないRPMI培地で濯いだ。その後、それらを、MTT(0.5mg/ml)を補充したRPMI溶液100μlと共に4時間インキュベートした。その後、培地を除去し、100μlのDMSOの添加により、変換された色素(ホルマザン)を可溶化することができた。吸光度を、570nm(紫色);630nm(バックグラウンドノイズ)で分光計により測定した。バックグラウンドノイズを取り除くために、以下の計算を行なった:OD真の=OD570nm−OD630nm。その後、結果を、対照(100%および0%生存細胞)に対して標準化し、平均+/−SEMの形で示した。
【0034】
II)結果
R1.CF15細胞におけるdelF508のアドレッシングに対するNB−DNJの効果
delF508−CFTRタンパク質のアドレッシングに関する研究を、実験室において、欠失delF508についてのホモ接合型肺ヒト上皮CF15細胞に関する薬理学、細胞イメージング、生化学的および電気生理学的試験のアプローチを組み合わせることにより行なった。CFTRのアドレッシングに関与する特定の因子に干渉できる種々の分子が存在する。これは、グルコシダーゼIおよびII阻害剤であるN−ブチル−デオキシノジリマイシン(NB−DNJ)の場合であり、これが試験された。
【0035】
各実験において、カクテル(フォルスコリン10μM、ゲニステイン30μM)の添加により、CFTRが膜上にある場合にはCFTRを活性化することができた。したがって、delF508のアドレッシングが回復された場合、ヨウ化物エフラックスを観察できた。ヒストグラムの形で示した結果は、100%CFTR活性があると判断されている基準となる処理(250μMのMPB−91で2時間かけて細胞を処理)に対して標準化した。本発明者らは、グルコシダーゼ阻害剤であるN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)(構造は以下に示した)を用いて37℃で2時間かけてCF15細胞を処理すると、delF508タンパク質のアドレッシングが回復し、delF508タンパク質はイオン輸送体として機能することができるようになることを本発明書に示した(図1)。
【0036】
細胞を処理しなければ、delF508タンパク質は膜状ではなく、カクテル(フォルスコリン10μM、ゲニステイン30μM)により刺激されるヨウ化物エフラックスはなかった。NB−DNJのEC50(最大効果の50%をもたらす分子の濃度)は、123μmolにおいて測定された(図2)。細胞イメージングにより、本発明者らは、NB−DNJでの処理後に形質膜区画におけるdelF508タンパク質の位置を決定した。
【0037】
R2.Calu−3細胞におけるCFTR活性に対するNB−DNJの効果
NB−DNJの効果がdelF508のアドレッシングに特異的であり、他のクロライドチャネルを変化させないことを示すために、NB−DNJを、Calu−3細胞における可能性ある活性化物質として試験した。図3に示した結果は、Calu−3細胞におけるヨウ化物エフラックスで得られた。対照物は、フォルスコリン(5μM、n=8)およびMPB−91(250μM、n=8)であった。NB−DNJ(n=8)は、NB−DNJを含む効果と含まない効果(ベース)との間に有意差がなかったことから、野生型CFTRの活性化物質でもなく、この細胞の他のアニオン輸送体の活性化物質でもない。
【0038】
R3.Calu−3細胞におけるCFTRのアドレッシングに対するNB−DNJの効果
NB−DNJの効果が、delF508のアドレッシングに特異的であることを示すために、NB−DNJを、Calu−3細胞における野生型CFTRのアドレッシングのモジュレーターとして試験した。図4に示した結果は、NB−DNJ(500μM)で2時間処理したCalu−3細胞におけるヨウ化物エフラックスで得られた。図4では、ベースは、処理せずMPB−91により刺激しなかった細胞に相当する。ヨウ化物のエフラックスは全く刺激されなかった。第二の対照は、処理しないが250μMのMPB−91で刺激した細胞に相当する。この場合、CFTRは活性化され、ヨウ化物エフラックスを測定した。第三の対照は、MPB−91で37℃で2時間処理し、その後、250μMのMPB−91で刺激した細胞に相当する。この実験条件下でのCFTR活性は、2つの他の実験状況と比べて有意差がなかった。最後に、Calu−3細胞を、500μMのNB−DNJで37℃で2時間処理し、250μMのMPB−91で刺激した場合、CFTR活性のレベルは影響を受けなかった。これらの結果により、NB−DNJは、野生型CFTRアドレッシング経路または他のクロライドチャネルには影響を及ぼさず、また、ヒト非CF肺上皮細胞におけるCFTR活性も変化させないことが実証された。
【0039】
R4.アドレッシング経路の種々の阻害剤の細胞毒性
NB−DNJの細胞毒性を試験する目的で、CHO−WT細胞を、種々の濃度の阻害剤と共に2時間インキュベートし、その後、MTTを用いた細胞生存度試験に付した。図5には、結果の要約を示した。結果は、細胞が、NB−DNJの全ての濃度において生存可能であることを示した。それ故、この分子は、細胞毒性を全く示さない。
【0040】
R5.CF15細胞におけるdelF508のアドレッシングに対するNB−DNJ類似体の効果
本発明者らは、N−ブチル−デオキシノジリマイシンファミリー(NB−DNJまたはnB−DNJ)の種々の化合物の効果を比較した。製品を、図6に示した。各実験において、カクテル(フォルスコリン10μM、ゲニステイン30μM)の添加により、CFTRが膜上にある場合にはCFTRを活性化することができた。図7に示した結果により、CF15細胞を100μMのDNJ、nB−DNJまたはDMJで37℃で2時間処理すると、delF508タンパク質のアドレッシングが回復し、delF508タンパク質はイオン輸送体として機能することができるようになった(図7)。これに対し、DGJ、nB−DGJ、DFJ、およびnB−DFJの化合物は、delF508のアドレッシングに対して有意な効果を及ぼさなかった(図7)。各化合物(DNJ、DMJおよびnB−DMJ)に関して、EC50(最大効果の50%をもたらす分子の濃度)を、>250μM、134μM、および113μMでそれぞれ決定した。
【0041】
III)結論
エフラックス試験により、小胞体におけるdelF508の蓄積を引き起こすNB−DNJが、このタンパク質の膜中の再配置を可能とし、その結果、ヒト肺上皮細胞におけるdelF508の再アドレッシングのための重要な薬理学的手段を具現化することが明らかになった。NB−DNJは、このタンパク質のイオン輸送活性に影響を及ぼすことなく、膜のdelF508の特異的なアドレッシングを可能とし、他のクロライドチャネルに対しても、または細胞生存度に対しても影響を及ぼさなかった。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】delF508のアドレッシングに対するNB−DNJの効果。 CF15細胞を、NB−DNJ(500μM)で2時間前処理した。MPB−91(250μM)の効果が、この試験における100%を表すとみなした。CFTR活性を、fsk10μM+Gst30μMによる刺激後のヨウ化物エフラックス(各条件に関しn=8)で測定した。Ns:有意差なし。***:有意差p<0.001。
【図2】delF508のアドレッシングに対するNB−DNJの効果を示すグラフ。 CF15細胞を、種々の濃度のNB−DNJで2時間前処理した。CFTR活性を、fsk10μM+Gst30μMによる刺激後のヨウ化物エフラックス(各濃度に関しn=4)で測定した。
【図3】Calu−3細胞のアニオン輸送に対するNB−DNJの効果。 CFTR活性を、フォルスコリン(fsk)5μM、MPB−91 250μM、NB−DNJ 500μMによる刺激後のヨウ化物エフラックス(各条件に関しn=8)で測定した。fskおよび化合物MPB−91は、この細胞におけるヨウ化物エフラックスを活性化するが、NB−DNJは全く効果がないことが特筆される。Ns:有意差なし。***:有意差p<0.001。
【図4】Calu−3細胞をNB−DNJで処理した効果。 Calu−3細胞を、500μMのNB−DNJ、MPB−91 250μMと共に37℃で2時間前もってインキュベートした。処理しなかった細胞:処理せず。ベースは、細胞を処理もせず刺激もしなかったことを示す。CFTR活性は、MPB−91 250μMによる刺激後のヨウ化物エフラックス(各条件に関しn=8)で測定した。エフラックス刺激レベルは3つの条件で同じであるので、NB−DNJでの処理は全く効果がないことが特筆される。Ns:有意差なし。
【図5】CHO細胞の細胞毒性に対するNB−DNJの効果。 5および50μMにおいては細胞毒性は測定できるほどではないことが特筆される。低毒性が500μMで出現している。細胞を2時間処理。Ns:有意差なし。***:有意差p<0.001。
【図6】N−ブチル−デオキシノジリマイシン(NB−DNJまたはnB−DNJ)の構造およびNB−DNJファミリーの種々の化合物。
【図7】CF15細胞におけるdelF508のアドレッシングに対するNB−DNJおよびNB−DNJの類似体の効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症の処置用医薬の調製のためのグルコシダーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
嚢胞性線維症の処置用医薬の調製のための、以下の一般式(I):
【化1】


(式中、
は、CHまたはCHOH基を示し、
は、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示すか、
あるいは、RおよびRは、上記式(I)の(a)の位置の炭素および窒素と一緒になって、式:
【化2】


で示される基を形成している)
で示される化合物から選択される、請求項1に記載のグルコシダーゼ阻害剤の使用。
【請求項3】
以下の一般式(II):
【化3】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択される、請求項1または2に記載のグルコシダーゼ阻害剤の使用。
【請求項4】
以下の一般式(IIa):
【化4】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグルコシダーゼ阻害剤の使用。
【請求項5】
以下の一般式(II.1)または(II.2):
【化5】


(式中、Rは、Hまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示す)
で示される化合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のグルコシダーゼ阻害剤の使用。
【請求項6】
以下の式:
【化6】


で示される、式(II.1)または(II.2)(式中、Rが、HまたはN−ブチル基を示している)の化合物の、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
化合物NB−DNJまたはNB−DMJの、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
化合物NB−DNJの、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
経口(シロップ剤、懸濁剤、ゼラチンカプセル剤、錠剤、散剤、または顆粒剤)、直腸(坐剤)もしくは鼻腔経路(吸入によるエアゾール剤、または滴剤)により、特に、成人については1日当り約1mg〜2gの有効成分の割合で、または小児および乳児については1日当り1mg〜1gの割合で、1回以上の用量で投与できる医薬の調製のための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
CFTRチャネル活性化化合物と組み合わせた、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
以下の式:
【化7】


で示されるゲニステインまたは以下の式(II):
【化8】


(式中、
およびRは、水素原子を示すか、またはCおよびCとの組合せで6個の炭素原子を有する芳香族環を形成し、
は、水素原子、または、1〜10個の炭素原子を有する直鎖もしくは置換アルキル基、特にブチル基、あるいは式COOR’(R’は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖または置換アルキル基、特にエチル基を示す)で示されるエステルを示し、
Yは、−OH、−SH、−NH、または−NHCOCH基を示し、
、R、R、およびR10は水素原子を示すか、あるいは、R、R、R、またはR10の少なくとも1つは、ハロゲン原子、特に、塩素、臭素、もしくはフッ素原子を示し、
Xは、アニオン形態のハロゲン原子、特に臭素Brもしくは塩素Cl原子、またはアニオン形態の原子基を示す)
で示されるベンゾ[c]キノリジニウムの誘導体と組み合わせた請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
以下の化合物:
【化9】








から選択される式(II)のベンゾ[c]キノリジニウムの誘導体と組み合わせた請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
嚢胞性線維症の治療において、同時にもしくは別々に使用するかまたは時間をかけて使用するための組合せ製品としての、請求項1〜8のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の少なくとも1種類と請求項10〜12のいずれか一項に記載のCFTRチャネル活性化化合物の少なくとも1種類とを含む製品。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−510699(P2007−510699A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538890(P2006−538890)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002858
【国際公開番号】WO2005/046672
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(506155266)ユニヴェルシテ・ドゥ・ポワティエ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
【Fターム(参考)】