説明

膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法

【課題】膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株と、マクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法に関し、さらに詳しくは、ヒト末梢血単核球上にまたはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcを検定することにより膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物をスクリーニングする方法に関する。また、本発明は、膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物に関し、さらに詳しくは、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器組織障害は、外傷;高血圧;血行動態の循環不全;虚血再潅流障害;代謝障害;ウイルス、癌もしくは細菌感染症による炎症;拒絶反応;紫外線などの外来ストレスなどさまざまな原因により引き起こされる。原因に対する根治的な治療としては、臓器への血行再建術による虚血障害の回避などが挙げられる。
一般的には、循環器または代謝性疾患では降圧剤や糖代謝改善剤により細胞障害を回避する治療がなされ、自己免疫疾患や臓器移植の拒絶反応に対しては免疫抑制療法により組織の温存を図る治療と対症療法がなされている。また、ステロイド剤は多様な作用を有し難治性疾患へは有効であるが、有効な高用量を長期にわたり使用することは副作用の発現から困難となり、進行性の臓器組織障害を進展阻止するには至っていない。
損傷した組織細胞に選択的に蛋白合成を促し修復や再生へと導くためには、修復再生の作用を有する細胞が選択的に病変の組織細胞に接着・融合する分子を持つと同時に、蛋白合成を促す分子も発現していることが合目的的である。
【0003】
Fusion-regulatory protein(FRP)−1、CD98、4F2hc(4F2 heavy chain)は同じ分子のことであり、FRP−1/CD98/4F2hc分子とも表示される。この分子は免疫刺激やウイルス感染時にT細胞やマクロファージに発現し、ウイルス感染時には融合を促し多核細胞を形成することが知られており(非特許文献1)、β1インテグリンと関連をもった機能、造血作用、アポトーシス、リンパ球増殖、BおよびTリンパ球の機能、細胞融合から破骨細胞新生(osteoclastogenesis)、変異原性、ウイルス感染後の細胞癒合など多彩な細胞機能に関わっている。そして、前記分子(FRP−1/CD98/4F2hc分子)は、アミノ酸トランスポーターのヘテロメリックアミノ酸トランスポーター(heteromeric amino acid transporter、HATと略す)の重鎖(H鎖)を構成する(非特許文献2、3)。ヒトマクロファージ上にもこのヘテロメリックアミノ酸トランスポーターが発現することは知られている(非特許文献4)。このヘテロメリックアミノ酸トランスポーターは、アミノ酸輸送について選択性は少なく、非特異的に蛋白合成を促すものである。
【0004】
しかしながら、FRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を調節することにより、試験管内にて膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物を同定するためのスクリーニング方法は知られていない。
【0005】
【非特許文献1】Critical Review in Immunology (2000); 20: 167-196
【非特許文献2】Current Drug Metabolism (2001); 2: 339-354
【非特許文献3】Physiology (2005); 20: 112-124
【非特許文献4】Am J Physiol Cell Physiol (2001); C1964-C1970954-961
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法を提供するものである。さらに、本発明は、前記スクリーニング方法で得られた化合物とインターフェロンを含んでなる医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、選択的に膵臓の膵島病変を軽減し修復する作用を有する化合物で治療された動物は対照動物と比べて、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのひとつであるLAT−2(L-type amino acid transporter 2)分子を発現する単核球細胞が膵臓の膵島病変部位に優位に局在し、それら動物の膵臓の膵島病変が有意に軽減されている知見を得た。
【0008】
さらに本発明者は、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類(LPS)で刺激培養する際、あるいはヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株(以下、単にヒト培養細胞株ということもある。)をインターフェロンで刺激培養する際、同時に膵臓の膵島病変を選択的に抑え修復する化合物を添加して培養したところ、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を選択的に調整する作用をもつ知見を得た。
【0009】
すなわち、単核球細胞あるいは前記ヒト培養細胞樹立株がヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのひとつであるLAT−2を発現することは、H鎖分子であるFRP−1/CD98/4F2hc分子が活性化されたことにより膵臓の膵島病変時の障害細胞に親和性をもって接着融合し、LAT−2が障害を受けた器官組織細胞が必要とするアミノ酸を広く供給でき細胞障害修復のために蛋白合成を促すことを意味する。
【0010】
そして、膵臓の膵島病変を選択的に抑え修復する化合物が、LAT−2を発現する単核球細胞を膵臓の膵島病変部位に選択的に誘導すること、さらに、この化合物が、ヒト末梢血単核球あるいは前記ヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類(LPS)またはインターフェロンなどのマクロファージ活性化物質で刺激培養開始と同時に添加して培養すると、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を選択的に調整する作用をもつことから、該当する化合物を容易に探索、同定するスクリーニング方法を提供することができる知見を得た。また、本発明者は、前記スクリーニング方法により得られた化合物とインターフェロンを併用することにより、膵臓の膵島病変を飛躍的に予防、緩和または治療する医薬組成物を提供することができる知見も得た。
【0011】
本発明者は、上記の知見に基づいてさらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株と、マクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法、
(2)被検化合物が示す調節作用の検定を、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をマクロファージ活性化物質および被検化合物の存在下に培養し、該単核球または該ヒト単球もしくは該ヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、被検化合物の非存在下に培養したときに発現する4F2hcの量と比較することにより行なう前記(1)記載のスクリーニング方法、
(3)ヒト末梢血単核球の培養をヒトAB型血清の存在下に、またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株の培養をウシ胎児血清の存在下に行なう前記(2)記載のスクリーニング方法、
(4)単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、FACScan解析により算出することを特徴とする前記(2)記載のスクリーニング方法、
(5)マクロファージ活性化物質がインターフェロンまたはリポ多糖類である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(6)ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株がヒト白血病培養細胞株THP−1である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(7)(a)ヒトAB型血清中、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類および被検化合物の存在下に培養し、(b)得られる培養液からヒト末梢血単核球を回収し、(c)回収したヒト末梢血単核球に4F2hcの抗体を反応させ、(d)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(e)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法、
(8)(a)ウシ胎児血清中、ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類もしくはインターフェロンおよび被検化合物の存在下に培養し、(b)得られる培養液からヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株を回収し、(c)回収した該ヒト培養細胞樹立株に4F2hcの抗体を反応させ、(d)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(e)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法、
(9)ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物、
(10)化合物が前記(1)〜(8)のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択される化合物である前記(9)記載の医薬組成物、
(11) 化合物が、式[I]:
【化1】

(式中、Rは、水素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表し、Xはハロゲン、シアノ基、置換されていてもよいメルカプト基、置換されていてもよいスルホ基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいホスホリル基を表し、Xは、O、SまたはNRを表し、またRは、水素、酸素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表す。また、nは1〜5の整数を表す。)
で示される化合物、式[II]:
【化2】

(式中、Rは置換されていてもよいナフチル基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1〜6の鎖状炭化水素基を表す。)
で示される化合物、式[III]:
【化3】

(式中、Rは、水素または置換されていてもよいアリール基を表す。)
で示される化合物および式[IV]:
【化4】

(式中、Rは、炭素数3〜6のアルキル基またはベンジル基を表す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる化合物である前記(9)または(10)に記載の医薬組成物、
(12) 化合物が、2−クロロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル、(S)−(+)−α−メチル−2−ナフタリン−メチル 2−(4−フロロフェノキシ)−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸エステル、1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸、1−ヒドロキシ−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸、2−オキソグルタル酸ブチルエステルおよび2−オキソグルタル酸ベンジルエステルからなる群から選ばれる化合物である前記(9)記載の医薬組成物、
(13)膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、配合剤であることを特徴とする前記(9)〜(12)のいずれかに記載の医薬組成物、
(14)膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物を含有してなる薬剤と、インターフェロンとを含有してなる薬剤とからなるキットであることを特徴とする前記(9)に記載の医薬組成物、および
(15)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物と、インターフェロンとを膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療を必要とする患者に投与することを特徴とする腎臓の膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスクリーニング方法によれば、膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療できる化合物を容易に探索、同定することができる。また、本発明によれば、膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする。
【0015】
被検化合物が示す調節作用の検定は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とを被検化合物の存在下に培養し、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、被検化合物の非存在下に培養したときに発現する4F2hcの量と比較することにより行なう。
【0016】
本スクリーニング法に用いるヒト末梢単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMCと略称される。)は、ヒトの末梢血から自体公知の方法により得ることができる。例えば、ヒトの末梢血から単核球細胞を分離する方法としては、5.7%w/vのフィコール400と、9.0%w/vのジアトリゾネイト ナトリウム(Sodium diatrizoate)の水溶液であって比重が1.077g/mLに調整されたフィコール・パック(Ficoll-Paque、登録商標、ファルマシア・ファイン・ケミカルズ(Pharmacia Fine Chemicals)社製)とを用いた遠心分離方法を挙げることができる。より具体的には、上記の方法は、(a)予め決められた量のフィコール・パックを試験管の底に設置する工程、(b)そのまま或いは希釈した血液試料を注意深くフィコール・パック上にピペットで移す工程、(c)フィコール・パックの比重よりも大きい比重を有する血液成分が、フィコール・パック中に進むか、あるいはフィコール・パックを通過するように、(b)で作製したフィコール・パック血液調整物を約400〜500×gで約30〜40分間遠心分離する工程、および(d)ピペットでフィコール・パックの上方に分離された単核球細胞層を採取する工程からなる。
【0017】
本発明で用いるヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とは、ヒトの正常な単球もしくはマクロファージと同様のマクロファージ活性化物質による刺激応答を示すものをいう。このようなヒト培養細胞樹立株としては、例えば、ヒト白血病培養細胞株などが挙げられ、具体的にはヒト白血病培養細胞株THP-1が挙げられる。ヒト白血病培養細胞株THP-1は、(財)ヒューマンサイエンス振興財団、研究資源バンク(Health Science Research Resources Bank)、(泉南市、大阪)から購入し使用することができる。該THP-1は、ヒト急性単球性白血病患者の末梢血由来から樹立されたマクロファージ様の細胞活性を合わせもつ培養細胞株である。
【0018】
一方、本発明のスクリーング方法で用いるマクロファージ活性化物質は、ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;以下、PBMCと略称することもある)または前記ヒト培養細胞株にヘテロメリックアミノ酸トランスポーターであるAsc−1分子、LAT−1(L-type amino acid transporter 1)、LAT−2(L-type amino acid transporter 2)(これらはH鎖にFRP−1/CD98/4F2hc分子をもつ)などを発現させる物質であれば特に限定されないが、好ましくはリポ多糖類(LPS)またはインターフェロンである。インターフェロンとしては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγなどが挙げられ、好ましくはインターフェロンγである。
【0019】
前記リポ多糖類は、自体公知の方法を用いて調製できる。例えば、微生物から抽出し、所望により毒性を除去する処理を行うという方法が挙げられる。微生物からの抽出は、例えば、熱フェノール抽出法(Westphal & Jann., Methods Carbohydr. Chem. 5, 83−89 (1965) )、または微生物をラウリル硫酸ナトリウム(SDS)存在下でプロテナーゼK処理をする方法などを挙げることができる。また、化学的に合成したものを用いてもよいし、市販のものを適宜用いることもできる。本発明においては、適当な溶媒、好ましくはRPMI1640液を用いて溶液としたときに、濃度が約60〜100μg/mL程度、好ましくは約70〜90μg/mL程度、より好ましくは約80μg/mL程度の高濃度のものを用いることが好ましい。なお、リポ多糖類は市販品(例えば、Sigma社製の大腸菌由来のLPS、カタログ番号L2654)を好適に使用することもできる。一方、インターフェロンは、遺伝子工学技術により製造されるヒトリコンビナントインターフェロンを好適に使用することができる。
【0020】
ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の培養に用いられる培地としては、RPMI培地が好ましい。このRPMI培地は、Goding,J.W.(1980)J.Immunol.Methods 39,285,JAMA 199(1957)519に記載されている。また、市販品(Sigma社製)を用いてもよい。
【0021】
ヒト末梢血単核球の培養はヒトAB血清の存在下に、またはヒト培養細胞樹立株の培養はウシ胎児血清の存在下に、約37℃で好適に実施できる。“被検化合物”、“リポ多糖類またはインターフェロン”、“ヒトAB血清またはウシ胎児血清”および“ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株”は、任意の組み合わせの2種または全部を予め混合してから前記培地に加えてもよく、それぞれを単独で前記培地に加えてもよい。ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の培養時間は、通常2〜14日、好ましくは6〜10日である。また、培養温度は約37℃が好ましい。本培養は約5%COの条件下で実施するのが好ましい。
【0022】
培養後、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を回収し、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子を該分子に対する抗体と反応させ、抗体が結合したヒト末梢血単核球細胞またはヒト培養細胞樹立株を例えばFACScanにて解析することにより、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子の量を算出することができる。
【0023】
FRP−1/CD98/4F2hc分子に対する抗体は、モノクローナル抗体でもよく、ポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体は、例えばJ Virology (1992); 66: 5999-6007に記載の方法に従って、次のようにして調製することができる。すなわち、ヒト上皮培養細胞株FLでBALB/cマウスを免疫し、マウスの脾臓を採取しSP2/0−AG−14ミエローマ細胞と細胞融合を行う。ハイブリドーマ細胞を検出するためのスクリーニングには、ニューカッスル病ウイルスに感染したFLまたはHela細胞を用いる融合促進アッセイ(fusion-enhancing assay)が用いられる。これにより、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3を産生するハイブリドーマ細胞を検出できる。ハイブリドーマ細胞は、5%ウシ胎児血清を加えたMEM(Minimum essential medium)培養液にて静置培養する。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用することができる。また、ヒト膀胱癌培養株T24を免疫原として得られたHBJ―127ハイブリドーマ細胞(Jpn J Cancer Res.(Gann) (1985); 76: 336参照)を、同様に、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養する。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用できる。なお、上記モノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ―127の性質は、Critical Reviews in Immunology, volume20/issue 3,2000,167-196に記載されている。FRP−1/CD98/4F2hc分子に対するポリクローナル抗体は、ヒト4F2hcの164−175のアミノ酸残基(HKNQKDDVAQTD(配列番号1))に相当するペプチドを合成し、そのC末端にシステイン残基を導入し、KLH(keyhole−limpet hemocyanin)をカップリングさせて、ウサギに免疫し、同じペプチド(ヒト4F2hcの164−175)を結合したアフィニテイーカラムにて精製して得ることができる。
【0024】
FACScanは、回収したヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に上記モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を作用させ、ついで二次抗体である蛍光抗体(例えば、FITC−ヤギIgG)を作用させ、蛍光抗体で染色されたヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子の量を測定することによって実施される。また、FACScanは、細胞膜に穴を開けて細胞質内のタンパク質も合わせて測定することができる。細胞質内のタンパク質も合わせて測定する場合を以下に説明する。まず、細胞を固定化する。すなわち、前記の如く回収したヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に約4%ホルムアルデヒド溶液を添加し、約37℃において約10分静置して固定化する(Cytometry Part A(2003);55A:61-70)。細胞固定には、例えば市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)のBD Cytofix/CytopermTM液を用いることができる。次に、抗体が細胞膜を通過できるよう膜透過処理を行う。すなわち、固定化処理後のヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に約0.1%サポニン溶液を添加し、約4℃において約30分静置する。膜透過処理には、例えば市販の前記、0.1%サポニンを含有する細胞固定/細胞膜浸透化キットのBD Perm/WashTM染色バッファーを用いることができる。ついで、免疫染色を行う。すなわち、膜透過処理後のヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の細胞に、一次抗体であるウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体を反応させる。ついで、二次抗体として蛍光標識抗体(例えば、ヤギFITC−抗ウサギ免疫グロブリン)を反応させる。前記蛍光標識抗体で染色されたヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に発現した4F2hc分子の量を測定する。
【0025】
上記で測定されたFRP−1/CD98/4F2hc分子量を、被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較することにより、FRP−1/CD98/4F2hc分子量の増大または減少を検出することにより、FRP−1/CD98/4F2hc分子の発現に対する被検化合物の調節作用を検定することができる。ここで、膵臓の膵島病変により低下している4F2hc量を増大させ、また膵臓の膵島病変により高まっているFRP−1/CD98/4F2hc分子量を減少させる化合物を同定・選択することにより、膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療できる化合物をスクリーニングすることができる。
【0026】
また本発明の別の態様は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物(以下、有効成分化合物ともいう。)と、インターフェロンとを組み合わせてなる膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物である。前記有効成分化合物と、インターフェロンとを併用することにより、膵臓の膵島病変を予防、緩和、または治療する効果を前記化合物単独使用に比べて増強させることができる。
【0027】
前記有効成分化合物としては、前記スクリーニング方法により選択された膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物が挙げられる。このような化合物としては、国際公開第01/72730号パンフレットに記載されるような化合物、例えば、下記式[I]:
【化5】

(式中、Rは、水素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表し、Xはハロゲン、シアノ基、置換されていてもよいメルカプト基、置換されていてもよいスルホ基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいホスホリル基を表し、Xは、O、SまたはNRを表し、またRは、水素、酸素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表す。また、nは1〜5の整数を表す。)
で示される化合物、式[II]:
【化6】

(式中、Rは置換されていてもよいナフチル基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1〜6の鎖状炭化水素基を表す。)
で示される化合物、式[III]:
【化7】

(式中、Rは、水素または置換されていてもよいアリール基を表す。)
で示される化合物または式[IV]:
【化8】

(式中、Rは、炭素数3〜6のアルキル基またはベンジル基を表す。)
で示される化合物等が挙げられる。具体的には、2−クロロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル(下記化合物(6−1))、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル(下記化合物(6−2))、(S)−(+)−α−メチル−2−ナフタリン−メチル 2−(4−フロロフェノキシ)−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸エステル(下記化合物(3−2))、1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸(下記化合物(7−6))、1−ヒドロキシ−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸(下記化合物(a))、2−オキソグルタル酸ブチルエステル(下記化合物(b))、2−オキソグルタル酸ベンジルエステル(下記化合物(c))等が挙げられる。
【化9】

【0028】
本発明の医薬組成物は、前記有効成分化合物とインターフェロンとを合剤としてもよく、各成分をそれぞれ含む薬剤からなるキットであってもよい。キットである場合、有効成分化合物を含む薬剤とインターフェロンを含む薬剤とを別々に投与してもよく、あるいは同時に投与してもよい。前記有効成分化合物とインターフェロンのモル比率は、通常1:0.001〜1:0.5、好ましくは1:0.02〜1:0.1である。
【実施例】
【0029】
以下、実験例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実験例により制限されるものではない。なお、本実験例では前記化合物(6−2)を使用した。
【0030】
[実験例1]
(実験方法)
(1)動物実験モデル
化合物が膵臓の膵島病変における予防、緩和または治療に効果を発揮するかどうかを評価するために、2型糖尿病発症モデル動物であるSDT(Spontaneously Diabetic Torii)ラットを用いた(Int. J. Exp. Diabetes Res., 1(2000) pp.89-100およびBiochemical and Biophysical Research Communication, 314(2004), pp.870-877参照)。雄SDTラットは、20週齢から肥満を呈することなく高血糖を生じ、40週齢には100%に糖尿病を発症する。SDTラットは市販されており、クレアジャパンから購入できる。
SDTラット(雄、10週齢)に対して、治療群として公知化合物(6−2)を10mg/kg/日の投与量で、日曜日を除く毎日、皮下注射により投与した。また、対照群としては、vehicleとして5%アラビアゴム生理食塩水溶液を、治療群と同様、日曜日を除く毎日、皮下注射により投与した。投与観察期間は、糖尿病を発症したあとも同様に連日同じ投与量の皮下注射を継続し、44週齢までとした。
【0031】
(2)観察項目と方法
1)非空腹時血糖:2週間毎に、非空腹時血糖をグルコース酸化法(glucose oxidation method)により簡易血糖測定器アンチセンスII(第一三共株式会社製)にて測定した。
2)体重:化合物の投与時に体重を測定した。
3)血漿中インシュリン濃度:40週齢時に、非空腹時血糖と同時に血漿中インシュリン濃度を、市販キット、レビス インスリン−ラット(Uタイプ、株式会社シバヤギ製)を用いて測定した。
4)膵臓組織の採取:化合物の投与を終了した44週齢時にエーテル麻酔にてラットを死亡させ、膵臓と十二指腸を摘出し、十二指腸を切離除去した後に膵臓重量を測定した。組織は10%中性ホルマリンにて固定したのちパラフィン包埋し、4ミクロンの厚さに薄切し、形態的な評価と、免疫病理学的検討に供した。
5)インスリン陽性細胞と融合したLAT−2陽性細胞数の免疫病理学的検討:ペンタナ左派性自動免疫染色装置を含めペンタナHXシステムベンチマーク(ペンタナジャパン、東京)のプロトコールを基本にして二重免疫染色を行った。組織切片は、脱パラフィン後に100℃1時間熱処理を行わずに使用した。ブロッキングとして10%ヤギ血清(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社製)を用いた。一次抗体として、インスリンに対する抗体(polyclonal guinea-pig anti-swine insulin antibody(Code A0564, DakoCytomation社製))を用い、室温にて1時間反応させた。二次抗体として、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(ヤギ)(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社製)を用い、室温にて30分反応させたのち、シンプルステインDAB溶液(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社製)を用いて発色させた。ついで、アフィニティー精製した抗ラットLAT−2ポリクローナル抗体(ウサギ)を至適濃度50倍希釈にて、室温1時間反応させた。同様に、二次抗体として、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(ヤギ)(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社製)を用い、室温にて30分反応させたのち、BlueMap TM KIT(ペントナ社製)を用い、室温32分反応させて発色させた。カウンター染色として、Nuclear Fast Redを用いた。また、アフィニティー精製抗ラットLAT−2ポリクローナル抗体(ウサギ)は次のようにして作成した。すなわち、抗LAT−2ペプタイドポリクローナル抗体(ウサギ)の作成のため、LAT−2の521−531のアミノ酸残基に対応するオリゴペプチド(PVKDPDSEEQP(配列番号2))に相当するペプチドを合成し、そのC末端にシステイン残基を導入し、該C末端のシステイン残基にアジュバンドとしてキーホールリンペッドヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanine)を結合させ、ウサギに免疫した。免疫後7日目と14日目に血清を採取した。LAT−2の521−531のアミノ酸残基に対応するオリゴペプチドを結合したアフィニティーカラムにて結成を吸着解離操作により濃縮し、タンパク量0.5mg/mlのアフィニティー精製抗体を得た。
【0032】
(結果)
結果は下記表1〜3の通りである。
【表1】

上記表1から、化合物(6−2)投与群では対照群に比べて、40週齢時において、体重が重く、非空腹時血糖値が低く、インスリン基礎分泌量が高い傾向であった。
【0033】
【表2】

*1:分葉間に位置する膵島組織の残存率の程度は、正常大1個を5点、中程度減少1個を3点、高度減少1個を1点とし、それぞれの膵島組織の数を掛けて算出した点数の合計で評価した。
【0034】
上記表2から、対照群に比べて化合物(6−2)投与群では、44週齢で摘出した膵臓の膵島組織の残存の程度が有意に大きく、かつ分葉内に出現するインスリン陽性細胞集団が有意に多いことがわかる。
【0035】
【表3】

【0036】
上記表3から、対照群に比べて化合物(6−2)投与群では、分葉内に位置する膵島組織に存在するインスリン−LAT−2陽性融合細胞数がより多く温存され、また分葉間に位置する膵島組織に存在するインスリン−LAT−2陽性融合細胞数もより多く温存されていることがわかる。
(考察)
以上の結果から、化合物(6−2)は、膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療する作用を有していることがわかる。
【0037】
[実験例2]
(実験方法)
1)ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell, PBMCと略す)の分離:
正常ヒト末梢血よりヘパリンを少量シリンジに満たし約30mlを採血し、直ちに等量の0.9%生理食塩水(1mM EDTA添加)と混和した。50mlチューブに12mlヒストパック(Sigam-Aldrich社、HISTOPAQUE-1119, Cat No.1119-1)と10mlフィコールパック(Amersham Bioscience社、Ficoll-Paque Plus)を重層した上に静かに血液を重層した。400g20分室温にて遠心し、血漿成分を約8ml集め、0.2μmのミリポアフィルターを通した。リンパ球を含む単核球分画を集め、冷却したPBS(Ca++)を十分量加えて混和し、250g10分、4℃にて遠心洗浄した。上清を捨て、2回同様の操作を行なった。ペレットに先の採取した血漿を約8ml加えて混和し37℃10分静置した。250g10分、4℃にて遠心洗浄し、ペレットに血清未添加RPMI1640(2mMLグルタミン、5μg/mlゲンタマイシン、以下、培養液RPMIと略す)を加えて同様に遠心洗浄を行なった。PBMCの最終細胞数を2×10/mlに調整した。
【0038】
2)リポ多糖類(LPS)の調整:
大腸菌由来のLPS(Sigma社、カタログ番号L2654)1mgを5mlの培養液RPMIで希釈し、0.2μlのミリポアフィルターを通したものを、LPSとして使用した。
【0039】
3)被検化合物の希釈:
滅菌されたDMSO(ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide))原液に被検化合物を溶解した後、培養液RPMIで希釈を進め、最終10−5(v/v)のDMSO濃度になるように被検化合物を希釈調整し、100nM以下の被検化合物濃度で活性を検討した。
【0040】
4)培養:
マイクロプレート(Falcon3046)の各ウェルに、1000μlのPBMC溶液、同量のLPS、250μlの被検化合物溶液、250μlのヒトAB血清を加えて、6日間37℃にて5%CO−95%airに培養した。
【0041】
5)培養PBMCの回収:
培養終了後に、ラバーにて付着細胞を含めてPBMCを回収した。培養液は血清未添加ハンクス溶液(5μl/mlゲンタマイシン加)にて1回洗浄し、同液で細胞数の濃度を4×10/mlに調整した。
【0042】
6)FRP−1/CD98/4F2hcに対するモノクローナル抗体(マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127)の作成:
マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1および6−1−3の作成は、J Virology (1992); 66: 5999-6007に記載されている方法に準拠して行なった。すなわち、ヒト上皮培養細胞株FLでBALB/cマウスを免疫し、マウスの脾臓を採取しSP2/0−AG−14骨髄腫細胞と細胞融合を行なった。ハイブリドーマ細胞を検出するためのスクリーニングには、ニューキャッスル病ウイルス(Newcasle disease virus)に感染したFL細胞またはHela細胞を用いた融合促進アッセイ(fusion-enhancing assay)を用いた。これにより、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1,6−1−3を産生するハイブリドーマ細胞を検出した。
ハイブリドーマ細胞は、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養した。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用した。
ヒト膀胱癌培養株T24を免疫原として得られたHBJ−127ハイブリドーマ細胞(Jpn J Cancer Res.(Gann) (1985); 76: 336参照)を、同様に、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養した。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用した。
なお、上記で得られたマウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127の性質は、Critical Reviews in Immunology (2000); 20: 167-196に記載されている。
【0043】
7)FACScanによる解析:
FACScan用のチューブに3種類の抗体(すなわち、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127)を100μl入れ、被検細胞を同量加えた。対照としてPBS(Ca++)をおいた。37℃にて10分、そして4℃にて20分静置し、1500rpm5分遠心し、上清を捨て、PBS(Ca++)を4ml加えて1500rpm5分遠心し上清を捨てた。チューブに二次抗体、FITC−ヤギIgG(anti-mouse whole IgG, Cappel社 Cat No. 55493)を50μl加え、4℃30分静置した。再度、PBS(Ca++)を4ml加えて1500rpm5分遠心し上清を除き、撹拌し、1%ホルマリン−PBS溶液を300μl〜500μl加えて浮遊した。約1万個の細胞を測定し、単球マクロファージ分画の移動率を対照と比較し、10%以上の差があれば有意と判定した。
【0044】
(結果)
結果は、下記表4の通りである。
【表4】

【0045】
(考察)
上記表4から、化合物(6−2)は、LPSにて刺激され培養されたヒトPBMCのマクロファージ分画に発現されるアミノ酸トランスポーターのFRP−1/CD98/4F2hcに対する分子を活性化し、発現を増加させた。
なお、表には示していないが、異なる正常ヒトPBMCを使った場合には、逆に、90%以上に分子の発現増強した例においては、化合物(6−2)は選択的に5%以下に発現を低下させる作用を示した。
【0046】
[実験例3]
(実験方法)
上記実験例2の1)〜5)と同様にして、ヒト末梢血単核球に、被検化合物(6−2)(終濃度10nM)をLPS(終濃度80μg/ml)添加と同時に添加して6日間培養した。さらに、一次抗体として、ウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体(Biol Pharm Bull 30:415-422,2007参照)を用いて、同様にしてヒトPBMC中の、単球マクロファージより大きな分画(large-macropharge)に発現されるHATのピーク値を市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)を用いるFACScanにより測定した。
なお、被検化合物の無添加のものを対照とし、ウサギ抗ヒトrBAT(related to b0,+−type amino acid transporter)ポリクローナル抗体は、ヒトrBATのアミノ基末端(MAEDKSKRDSIEMSMKGC(配列番号3))とマウスb0,+AT(BAT1)のカルボキシル基末端(CHLQMLEVVPEKDPE(配列番号4))からなる合成ペプチドを担体であるKLH(keyhole−limpet hemocyanin)にカップリングさせてウサギに免疫して得たものを使用した。
【0047】
(結果)
結果は、下記表5の通りである。
【表5】

【0048】
(考察)
上記表5から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainのうち4F2hc量をrBAT量に影響することなく選択的に減少させた。従って、被検化合物(6−2)が膵臓の膵島病変を軽減する効果があることから、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより膵臓の膵島病変を軽減させる化合物をスクリーニングできることが確認された。
【0049】
[実験例4]
(実験方法)
上記実験例3において、ヒト末梢血単核球の代わりにヒト白血病培養細胞株THP−1を用い、被検化合物(6−2)の添加濃度を終濃度100nMとし、ヒトAB血清の代わりにウシ胎児血清を用いる以外は同様とし、ヒト白血病培養細胞株THP−1中の、LPSの刺激を受けていないものと比べて、より大きな分画(Large-cell)に発現されるHATのピーク値を求めた。なお、被検化合物の無添加のものを対照(コントロール)とし、HATのピーク値の測定は市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)を用いるFACScanにより行なった。
【0050】
(結果)
結果は、下記表6の通りである。
【表6】

【0051】
(考察)
上記表6から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainである4F2hc量を著しく変化させた。従って、被検化合物(6−2)が膵臓の膵島病変を軽減する効果があることから、ヒト白血病培養細胞株THP-1を用いて、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより膵臓の膵島病変を軽減させる化合物を容易にスクリーニングできることが確認された。
【0052】
[実験例5]
(実験方法)
上記実験例3において、ヒト末梢血単核球の代わりにヒト白血病培養細胞株THP−1を用い、被検化合物(6−2)の添加濃度を終濃度100nM、ヒトAB血清の代わりにウシ胎児血清を用い、LPSの代わりにヒトリコンビナント インターフェロンγ(human recombinant Interferon-gamma,(Serotec PHP050社)(終濃度100ng/ml)とする以外は同様にした。また、一次抗体として、ウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体(Biol Pharm Bull 30:415-422,2007参照)を用いて、同様にしてヒト白血病培養細胞株THP−1中の、LPSの刺激を受けていないものと比べて、より大きな分画(Large-cell)に発現されるHATのピーク値を求めた。なお、被検化合物の無添加のもの(DMSOのみ)を対照(コントロール)とし、ウサギ抗ヒトrBATポリクローナル抗体は、実験例2と同様にして得た。
【0053】
(結果)
結果は、下記表7の通りである。
【表7】

【0054】
(考察)
上記表7から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainのうち4F2hc量をrBAT量に影響することなく選択的に減少させた。従って、被検化合物(6−2)が膵臓の膵島病変を軽減する効果があることから、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより膵臓の膵島病変を軽減させる化合物を容易にスクリーニングできることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明方法によれば、簡便な方法で膵臓の膵島病変治療薬をスクリーニングできるため、医薬品産業において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株と、マクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法。
【請求項2】
被検化合物が示す調節作用の検定を、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をマクロファージ活性化物質および被検化合物の存在下に培養し、該単核球または該ヒト単球もしくは該ヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、被検化合物の非存在下に培養したときに発現する4F2hcの量と比較することにより行なう請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
ヒト末梢血単核球の培養をヒトAB型血清の存在下に、またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株の培養をウシ胎児血清の存在下に行なう請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、FACScan解析により算出することを特徴とする請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
マクロファージ活性化物質がインターフェロンまたはリポ多糖類である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株がヒト白血病培養細胞株THP−1である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
(1)ヒトAB型血清中、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類および被検化合物の存在下に培養し、(2)得られる培養液からヒト末梢血単核球を回収し、(3)回収したヒト末梢血単核球に4F2hcの抗体を反応させ、(4)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(5)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法。
【請求項8】
(1)ウシ胎児血清中、ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類もしくはインターフェロンおよび被検化合物の存在下に培養し、(2)得られる培養液からヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株を回収し、(3)回収した該ヒト培養細胞樹立株に4F2hcの抗体を反応させ、(4)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(5)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法。
【請求項9】
ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物。
【請求項10】
化合物が請求の範囲第1項に記載のスクリーニング方法により選択される化合物である請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
化合物が、式[I]:
【化1】

(式中、Rは、水素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表し、Xはハロゲン、シアノ基、置換されていてもよいメルカプト基、置換されていてもよいスルホ基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいホスホリル基を表し、Xは、O、SまたはNRを表し、またRは、水素、酸素、置換されていてもよく若しくは介在基で中断されていてもよい鎖状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基または置換されていてもよい縮合ヘテロ複素環基を表す。また、nは1〜5の整数を表す。)
で示される化合物、式[II]:
【化2】

(式中、Rは置換されていてもよいナフチル基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1〜6の鎖状炭化水素基を表す。)
で示される化合物、式[III]:
【化3】

(式中、Rは、水素または置換されていてもよいアリール基を表す。)
で示される化合物および式[IV]:
【化4】

(式中、Rは、炭素数3〜6のアルキル基またはベンジル基を表す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる化合物である請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
化合物が、2−クロロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル、(S)−(+)−α−メチル−2−ナフタリン−メチル 2−(4−フロロフェノキシ)−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸エステル、1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸、1−ヒドロキシ−3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベゾフラン−1−カルボン酸、2−オキソグルタル酸ブチルエステルおよび2−オキソグルタル酸ベンジルエステルからなる群から選ばれる化合物である請求項9記載の医薬組成物。
【請求項13】
膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、配合剤であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物を含有してなる薬剤と、インターフェロンとを含有してなる薬剤とからなるキットであることを特徴とする請求項9記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1記載のスクリーニング方法により選択された膵臓の膵島病変を予防、緩和または治療する化合物と、インターフェロンとを膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療を必要とする患者に投与することを特徴とする膵臓の膵島病変の予防、緩和または治療方法。

【公開番号】特開2009−178052(P2009−178052A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17418(P2008−17418)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(500138054)
【Fターム(参考)】