説明

自動変速機における筒状部材の支持構造

【課題】入力軸に設けた筒状部材で、入力軸の回転をオイルポンプのインナギヤに伝達して、オイルポンプを駆動させるようにした自動変速機において、筒状部材の振動を抑えて異音を発生させないようにする。
【解決手段】自動変速機の入力軸10の回転をオイルポンプOPのインナギヤ60に伝達してオイルポンプOPを駆動させるオイルポンプ駆動シャフト70の支持構造であって、オイルポンプ駆動シャフト70は、軸方向において、オイルポンプハウジング50のブッシュ62と、モータMの回転軸部24の延出部28の2カ所で支持されており、オイルポンプ駆動シャフト70において、インナギヤ60の回転に伴う回転振動がオイルポンプ駆動シャフト70の連結部71に入力された際に振幅が最大となる位置であってオイルポンプ駆動シャフト70の外側に配置された回転軸部24の延出部27と対向する位置YにOリング64を設けた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機における筒状部材の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アシストモータを組み入れた自動変速機において、入力軸に設けた筒状部材で、回転をオイルポンプのインナギヤに伝達して、オイルポンプを駆動させるようにしたものがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−76229公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この従来例にかかる装置では、筒状部材とオイルポンプのインナギヤとの接続部に、インナギヤの回転に伴う回転振動が直接伝わるため、筒状部材が振動して異音の発生源となるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、入力軸に設けた筒状部材でオイルポンプを駆動させるようにした自動変速機において、筒状部材の振動を抑えて異音を発生させないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、自動変速機の入力軸の回転をオイルポンプのインナギヤに伝達してオイルポンプを駆動させる筒状部材の支持構造であって、筒状部材は、軸方向の少なくとも2カ所で支持されており、筒状部材には、インナギヤから作用する振動により軸方向で振幅が最大となる位置であって筒状部材の外側に配置された部材と対向する位置に、弾性部材が設けられている構成とした。
【発明の効果】
【0006】
弾性部材により振動が吸収されるので筒状部材の振動が抑えられると共に、筒状部材の外側に配置された部材への振動伝達が防止されるので、異音の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る自動変速機における筒状部材の支持構造を、入力軸の回転をオイルポンプのインナギヤに伝達する円筒形状のオイルポンプ駆動シャフトに適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、実施形態に係る支持構造を採用した自動変速機の部分拡大図である。図2は、オイルポンプ駆動シャフトに作用する応力を説明する図である。
【0008】
自動変速機1では、自動変速機1の入力軸10の軸方向に沿って、図中左側(図示しないエンジン側)から順に、モータMと、オイルポンプOPとが隣接して設けられており、オイルポンプ駆動シャフト70は、入力軸10に外挿されている。
【0009】
モータMは、変速機ケースの図示しない内周面に設けられたステータ21と、ステータ21と対面配置されたロータ22とから構成され、ロータ22は、ロータ支持部23と後記する伝達シャフト12とを介して、入力軸10と一体回転可能に連結されている。
ロータ支持部23は、オイルポンプ駆動シャフト70に外挿された回転軸部24と、回転軸部24のオイルポンプOP側の端部から径方向外側に延びる延出部25と、ロータ22が固定された支持部26とから構成される。
【0010】
回転軸部24は、オイルポンプOP側に延びる延出部27と、延出部27とは反対側の端部から径方向内側に延びる延出部28とを備え、延出部28は、その内周面でオイルポンプ駆動シャフト70の外周面とインロー嵌合している。
【0011】
延出部27の外周面27aは、ラジアルベアリング35を介して、仕切壁30の内径側の支持部31で回転可能に支持されている。内周面27bは、オイルポンプ駆動シャフト70の外周面との間に微細な隙間をあけて配置されている。
【0012】
仕切壁30のオイルポンプOP側の面には、入力軸10の軸心Oを中心とするリング形状の突出部32が設けられており、突出部32の先端側は、後記するオイルポンプOPのオイルポンプハウジング50の外周面51と全周に亘ってインロー嵌合している。
【0013】
仕切壁30において、支持部31から、突出部32のオイルポンプハウジング50の外周面51とインロー嵌合する先端部まで範囲は、薄肉かつ均一な厚みで形成されており、弾性変形可能とされている。
特に、仕切壁30の支持部31から突出部32までの薄肉部33は、支持部31から入力軸10の径方向に延出すると共に、途中位置の屈曲部33aでモータMから離れる方向に折り曲げられており、この屈曲部33aを挟む薄肉部33全体の距離を長くすることで、より容易に弾性変形するようになっている。
【0014】
オイルポンプOPは、モータM側のオイルポンプハウジング50とオイルポンプカバー40との間に形成されたギヤポンプであり、インナギヤ60とアウタギヤ61とが偏心した状態で噛み合うことで油圧を発生するようになっている。
【0015】
オイルポンプカバー40は、軸方向から見て円盤形状を有しており、外周面に設けた嵌合部41を、変速機ケース11に内嵌させて設けられている。
オイルポンプカバー40の中央部には、自動変速機1の入力軸10を挿通させる開口42が設けられており、オイルポンプカバー40のモータM側の面には、入力軸10の軸心Oを中心とするリング形状の周壁部43が設けられている。
【0016】
周壁部43の内径は、オイルポンプハウジング50の外径と整合する大きさとされており、オイルポンプハウジング50は、外周面51を周壁部43に内嵌させて、オイルポンプカバー40に組み付けられている。
【0017】
オイルポンプハウジング50の中央部には、オイルポンプ駆動シャフト70を挿通する開口54が設けられており、この開口54よりもモータM側の拡径部55内には、オイルシール63が挿入されている。
【0018】
図2に示すように、オイルポンプ駆動シャフト70は、入力軸10に外挿されて、モータMの回転軸部24と重なる位置からインナギヤ60と噛み合う位置までの範囲に設けられている。
オイルポンプ駆動シャフト70の一端側の連結部71は、外周面71aをインナギヤ60の内周面60aと二面幅嵌合させており、オイルポンプ駆動シャフト70は、インナギヤ60と一体に入力軸10の軸心O(図1参照)周りに回転可能とされている。
【0019】
オイルポンプ駆動シャフト70の他端側の縮径部72は、その端部側の内周面72aで、入力軸10の外周面とスプライン嵌合しており、オイルポンプ駆動シャフト70は入力軸10と一体に、入力軸10の軸心O(図1参照)周りに回転可能とされている。
【0020】
オイルポンプ駆動シャフト70の軸方向の中央部73の外周面には、周方向の全周に亘って凹溝74が形成されている。凹溝74内には、Oリング64が一部を中央部73の表面に露出させた状態で配置されており、中央部73のOリング64近傍領域と、回転軸部24の延出部27との間には、微細な隙間が設けられている。
【0021】
オイルポンプ駆動シャフト70は、軸心ぶれを防止するために、連結部71から縮径部72までの間に設けた少なくとも2カ所の支持点で支持されている。
具体的には、オイルポンプ駆動シャフト70は、連結部71に隣接する被支持部75が、ブッシュ62を介してオイルポンプハウジング50で支持されていると共に、縮径部72の端部側の外周面72bが、回転軸部24の延出部28とインロー嵌合して支持されている。
【0022】
ここで、インナギヤ60の回転に伴う回転振動は連結部71に入力されるので、インナギヤ60と連結部71との連結部分をオイルポンプOP側から入力される振動の作用点Cとすると、オイルポンプ駆動シャフト70の二つの支持点S1、S2(延出部28にインロー嵌合で支持された部分S1と、ブッシュ62で支持された部分S2)が節となる。
この場合、作用点Cに径方向(矢印Xで示す)に向かう振動が作用すると、二つの支持点S1、S2の間の部分Y(中央部73)にたわみが生じ、この部分Yに径方向に向かう振動が生じる。その結果、中央部73が、オイルポンプ駆動シャフト70の外側に配置された回転軸部24の延出部27と接触して、異音を発生するようになる。
【0023】
本実施形態では、オイルポンプ駆動シャフト70の軸方向で、二つの支持点S1、S2の間の振幅が最大となる位置であって、外側に配置された回転軸部24の延出部27に対向する位置Yに、Oリング64(弾性部材)を設けて振動を緩衝させることで、振動の回転軸部24側への伝達と、異音の発生を防止するようにしている。
【0024】
図1に示すように、入力軸10は、エンジンまたはモータMから入力される回転を、図示しない変速機構部側に伝達するために、オイルポンプカバー40の開口42と、オイルポンプハウジング50の開口54とを貫通して設けられており、エンジン側の突出部10aは、オイルポンプ駆動シャフト70よりも、エンジン側に突出している。
この入力軸10の突出部10aには、エンジン側から入力される回転を入力軸10に伝達する伝達シャフト12の内周面がスプライン嵌合されている。
【0025】
回転軸部24のエンジン側の周縁は、エンジン側に延出させて、周壁部29とされており、入力軸10と周壁部29の間に挿入されたフランジ部12bは、周壁部29との接続部で溶接により接合されている。
伝達シャフト12の外周面12aは、ラジアルベアリング36を介して変速機ケースの固定部材13で回転可能に支持されている。
【0026】
ここで、実施形態におけるオイルポンプ駆動シャフト70が発明における筒状部材に相当し、Oリング64が弾性部材に相当する。
【0027】
以上の通り、本実施形態では、自動変速機の入力軸10の回転をオイルポンプOPのインナギヤ60に伝達してオイルポンプOPを駆動させるオイルポンプ駆動シャフト70の支持構造であって、オイルポンプ駆動シャフト70は、軸方向において、オイルポンプハウジング50のブッシュ62と、モータMの回転軸部24の延出部28の2カ所で支持されており、オイルポンプ駆動シャフト70には、インナギヤ60から連結部71に作用する振動により振幅が最大となる位置であって外側に配置された回転軸部24の延出部27と対向する位置YにOリング64が設けられており、オイルポンプ駆動シャフト70は回転軸部24の延出部27との間にOリング64を介在させた状態で配置されている構成とした。
インナギヤ60の回転に伴う回転振動がオイルポンプ駆動シャフト70の一端側の連結部71に入力された際に、オイルポンプ駆動シャフト70の軸方向において、入力された振動により振幅が最大となる位置YにOリング64が設けられているので、オイルポンプ駆動シャフト70の振動がOリング64により吸収される。よって、オイルポンプ駆動シャフト70の外側に配置された回転軸部24側への振動伝達を抑えて、異音の発生を防止することができる。これにより、異音対策用の防振ゴムを別途設けること成しに防振対策が行えるようになる。また、Oリング64が回転軸部24の延出部27側に付勢されて、Oリング64がオイルシールとしての役割を担うことができる。
【0028】
前記実施形態では、入力軸の軸方向に沿ってモータとオイルポンプとが設けられた自動変速機の場合を例に挙げて説明をしたが、本発明に係る支持構造は、オイルポンプのインナギヤに回転を伝達するための筒状部材が設けられた自動変速機であれば、実施形態に記載された構成の自動変速機のみに限定されず、種々の自動変速機に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態の支持構造を採用した自動変速機の要部断面図である。
【図2】オイルポンプ側から入力される振動により振動振幅が最大となる位置を説明する図である。
【符号の説明】
【0030】
1 自動変速機
10 入力軸
11 変速機ケース
12 伝達シャフト
13 固定部材
24 回転軸部
31 支持部
32 突出部
35 ラジアルベアリング
36 ラジアルベアリング
40 オイルポンプカバー
50 オイルポンプハウジング
60 インナギヤ
61 アウタギヤ
62 ブッシュ
64 Oリング(弾性部材)
70 オイルポンプ駆動シャフト(筒状部材)
71 連結部
72 縮径部
73 中央部
74 凹溝(溝部)
75 被支持部
M モータ
OP オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の入力軸の回転をオイルポンプのインナギヤに伝達してオイルポンプを駆動させる筒状部材の支持構造であって、
前記筒状部材は、軸方向の少なくとも2カ所で支持されており、
前記筒状部材には、前記インナギヤから作用する振動により前記軸方向で振幅が最大となる位置であって前記筒状部材の外側に配置された部材と対向する位置に、弾性部材が設けられていることを特徴とする自動変速機における筒状部材の支持構造。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記筒状部材の外周面に周方向に沿って設けたOリングであることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機における筒状部材の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−60073(P2010−60073A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227559(P2008−227559)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】