説明

自動変速機

【課題】本発明は、常時入力軸から回転駆動力が伝達されるクラッチ装置の出力側部材が、車両走行中等にブレーキ装置で回転停止されるように構成した自動変速機において、出力側部材が回転停止したとしても、各プレート間のクリアランスを広げることなく、潤滑油の排出を十分に行うことにより、ドラッグトルク低減効果を高めることができる自動変速機を提供することを目的とする。
【解決手段】湿式多板クラッチ20は、クラッチドラム10の内周側に、スプライン嵌合によって噛合する押圧摩擦プレート22と、2枚の両面摩擦プレート23,23と、摩擦リテーニングプレート24とを備え、クラッチハブ21の外周側に、スプライン嵌合によって噛合する3枚のディスクプレート25…とを備えて構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動変速機に関し、特に、常時入力軸から回転駆動力が伝達されるクラッチ装置の出力側部材が、所定段位で車両走行中等にブレーキ装置により停止されるように構成した自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の遊星歯車機構とクラッチ装置、それにブレーキ装置等を組み合わせて自動変速機を構成することが知られている。例えば、下記特許文献1の自動変速機が知られている。
【0003】
この自動変速機では、トルクコンバータから入力される回転駆動力を、クラッチ装置とブレーキ装置の断接等により、遊星歯車群からなる動力伝達経路を切換えて変速を行うように構成しているが、このうち、入力軸後端部に設置される第三クラッチ(文献中C3)においては、所定段位でこのクラッチの出力側部材が第1ブレーキ(B1)で回転停止(固定)されるように構成している。
【0004】
一方、自動変速機のクラッチ装置では、一般に、湿式多板クラッチを採用しているが、この湿式多板クラッチでは、下記特許文献2に開示されているように、回転する摩擦プレートの摩擦材表面の溝形状等を工夫することで、潤滑油の排出性を高めてドラッグトルクの低減を図ることが行われる。
【特許文献1】特開平9−79328号公報
【特許文献2】特開平4−194422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動変速機では、各種要求を満たすため様々なギア配列が採用されているが、前述の特許文献1の自動変速機のように、入力側が常時回転するクラッチ装置において、所定段位で出力側部材がブレーキ装置によって回転停止されるように構成したギア配列を採用する場合もある。
【0006】
ここで、一般に、クラッチ装置は、入力側であるクラッチドラム側にピストンで押圧されるディスクプレートを設定して、出力側であるクラッチハブ側に摩擦材を備えた摩擦プレートを設定することで、多板クラッチを構成している。
【0007】
このため、前述の特許文献1のようなギア配列を採用した場合には、出力側のクラッチハブがブレーキ装置で回転停止すると、クラッチハブ側に設けた摩擦プレートの回転が停止してしまうことになる。
【0008】
しかし、クラッチハブの摩擦プレートの回転が停止すると、摩擦プレートの摩擦材に設けた溝の潤滑油の排出機能が失われ、特許文献2のように、摩擦材の溝形状を工夫したとしても、十分な潤滑油の吸出し効果を得ることができない。
【0009】
よって、多板クラッチ間の潤滑油の排出が十分に行われず、潤滑油の粘性によりドラッグトルクが増加してしまい、結果的に、エンジン等の動力損失を招き燃費が悪化するという問題が生じる。
【0010】
この問題に対しては、多板クラッチの各プレート間のクリアランスを広げて潤滑油の排出を促進する方法が考えられる。しかし、クリアランスを確保するためにスペースが必要となり、また、迅速なクラッチ制御も行えないため、適切な方法とはいえない。
【0011】
そこで、本発明は、常時入力軸から回転駆動力が伝達されるクラッチ装置の出力側部材が、車両走行中等にブレーキ装置で回転停止されるように構成した自動変速機において、出力側部材が回転停止したとしても、各プレート間のクリアランスを広げることなく、潤滑油の排出を十分に行うことにより、ドラッグトルク低減効果を高めることができる自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の自動変速機は、入力軸側に連絡される第一回転部材と、変速機ケースにブレーキ装置によって係止可能な第二回転部材と、前記第一回転部材及び第二回転部材を断接するクラッチ装置とを備え、該クラッチ装置が、前記第一回転部材に備えられ、外周側に設置されるドラム部と、前記第二回転部材に備えられ、内周側に設置されるハブ部と、該ドラム部及びハブ部の間に設けられる多板クラッチと、該ドラム部に設けられ該多板クラッチを押圧するピストンと、該ピストンを作動する油圧サーボとを備え、前記多板クラッチが溝を有する摩擦材を固着した摩擦プレートを含み、前記ハブ部の内周側から摩擦材へ潤滑油を供給する自動変速機であって、前記入力軸から回転駆動力を受ける前記ドラム部の内周側に、前記ピストンに隣接して軸方向中央側片面に前記摩擦材を固着した第一摩擦プレート及び該第一摩擦プレートに隣接して両面に前記摩擦材を固着した複数の第二摩擦プレートを列設するともに、前記ブレーキ装置によって回転停止される前記ハブ部の外周側に、前記第一摩擦プレートあるいは前記第二摩擦プレートと交互に、摩擦材のないディスクプレートを列設したものである。
【0013】
上記構成によれば、入力軸から常時回転駆動力を受けるドラム部の内周側に、摩擦材を固着した第一摩擦プレートと第二摩擦プレートを列設し、ブレーキ装置によって回転停止されるハブ部の外周側に、摩擦材のないディスクプレートを列設したことにより、車両走行中等にブレーキ装置によってハブ部が回転停止されたとしても、常時回転する第一摩擦プレートと第二摩擦プレートに、溝を有する摩擦材が固着されているため、ハブ部の内周側から供給される潤滑油は、第一摩擦プレートと第二摩擦プレートの回転による吸出し効果により、クラッチ装置の外周側に排出されることになる。
このため、ブレーキ装置によってクラッチ装置の出力側の回転が停止しても、常時回転するドラム部に列設された第一摩擦プレートと第二摩擦プレートの摩擦材の溝から、潤滑油が外周側に排出されるため、ドラッグトルクの低減を図ることができる。
【0014】
なお、摩擦材の溝は、潤滑油が外周側に排出できれば、どのような形状であってもよく、例えば、放射状又はクロス状に複数広がる形状とすることが考えられる。
また、第一摩擦プレートと第二摩擦プレートとディスクプレートは、どのような板厚設定にしてもよい。例えば、生産性の要請等により、第一摩擦プレートとディスクプレートを厚く、第二摩擦プレートを薄く設定してもよい。
さらに、第一摩擦プレートとピストンとの間には、両者が当接する際の衝撃を緩和するために、クッショニングプレートを介装するように構成してもよい。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記ドラム部の内周側の前記ピストンの反対側位置に、前記ディスクプレートに隣接して軸方向中央側片面に前記摩擦材を固着したリテーニングプレートを設置したものである。
上記構成によれば、ピストンの反対側位置に設置されるリテーニングプレートに、摩擦材を固着することにより、多板クラッチのストッパーとして機能するリテーニングプレートに、摩擦プレートとしての機能を持たせることができる。
よって、リテーニングプレートを、摩擦プレートとしても兼用することができ、部品点数を増加させることなく、クラッチ装置に必要な摩擦面(トルク伝達面)を確保することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記入力軸の回転を出力部に減速出力する常時減速プラネタリギアセットを備え、該常時減速プラネタリギアセットを介して、前記第一回転部材を前記入力軸に連絡したものである。
上記構成によれば、第一回転部材が常時減速プラネタリギアセットを介して入力軸に連絡されていることから、入力軸の回転速度が減速されて、クラッチ装置に伝達されることになる。
このため、常時回転する入力側のドラム部の回転速度が低下することになるため、ブレーキ装置で出力側のハブ部が回転停止しても、入力側と出力側との間の回転速度差が小さくなり、この回転速度差に比例して増加するドラッグトルクの増大を防ぐことができる。
よって、常時回転するドラム部側に摩擦プレートを配置することに加え、入力軸からの回転を減速することにより、さらに潤滑油によるドラックトルクの発生を抑え、ドラッグトルクの低減効果を高めることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記クラッチ装置を、入力軸上に設置したプラネタリギアセットの外周側に配置したものである。
上記構成によれば、クラッチ装置をプラネタリギアセットの外周側に配置した場合には、必然的にクラッチ装置の径が大きくなり、回転駆動力を受けた際には周速度が高まる。このクラッチ装置で出力側のハブ部をブレーキ装置で回転停止すると、入力側との間で周速度の差が大きくなり、速度差に比例してドラッグトルクが増大する。
これを、常時回転するドラム部側に摩擦プレートを配置することにより、潤滑油の排出を行えるように構成しているため、必然的に大きくならざるを得ないドラッグトルクの発生を抑えることができる。
よって、プラネタリギアセットの外周側にクラッチ装置を配置した、クラッチ装置の径が大きくなったとしても、ドラッグトルクの増大を防いで、ドラッグトルクの低減効果を高めることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、自動変速機が複数の変速段位を有し、前記ブレーキ装置を最高段位で作動させて、ハブ部を回転停止するように設定したものである。
上記構成によれば、ブレーキ装置が最高段位で作動して、ハブ部が最高段位で回転停止することになる。
このため、車両の燃費性能が最も要求される最高段位でハブ部が停止することで、自動変速機でドラッグトルクが発生しやすくなるが、常時回転するドラム部側に第一摩擦プレートと第二摩擦プレートを設置しているため、最高段位でのドラッグトルクの発生を可及的に抑えることができる。
よって、自動変速機のドラッグトルクによる燃費の悪化をより確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ブレーキ装置によってクラッチ装置の出力側の回転が停止しても、常時回転するドラム部に列設された第一摩擦プレートと第二摩擦プレートの摩擦材の溝から、潤滑油が外周側に排出されるため、ドラッグトルクの低減を図ることができる。
よって、常時入力軸から回転駆動力が伝達されるクラッチ装置の出力側部材が、車両走行中等にブレーキ装置で回転停止されるように構成した自動変速機において、出力側部材が回転停止したとしても、各プレート間のクリアランスを広げることなく、潤滑油の排出を十分に行うことで、ドラッグトルク低減効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
【0021】
まず、図1により、本発明の第一実施形態の自動変速機のギア配列について説明する。(a)は自動変速機のスケルトン図、(b)はクラッチやブレーキの締結作動表である。
【0022】
本実施形態の自動変速機ATは、例えば、車両に横置きに搭載されるFF車用のパワートレインに適用される自動変速機ATであり、図1(a)のINは、図示しないエンジン等の回転駆動力をトルクコンバータTを介して自動変速機AT内に入力する入力軸であり、OUTは、ファイナルギア等を介して回転駆動力を駆動輪側に出力する出力ギアである。この入力軸INと出力ギアOUTは、変速機AT内で同軸上に配置している。
【0023】
同図において、符号GS1〜GS4は、何れも、サンギア、キャリア及びリングギアを回転要素とする第一〜第四の4組のプラネタリギアセットであり、第一及び第二プラネタリギアセットGS1,GS2は、それぞれ第三及び第四プラネタリギアセットGS3,GS4よりも小型のものとされ、その第三及び第四プラネタリギアセットGS3,GS4を中央に挟むようにして入力軸の軸方向の両側端位置に配置している。
【0024】
前述の第一プラネタリギアセットGS1は、第一サンギアS1と、第一リングギアR1と、その両ギアS1,R1に噛み合う第一ピニオンP1を支持する第一キャリアPC1と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギアセットで構成している。また、前述の第二プラネタリギアセットGSは、第二サンギアS2と、第二リングギアR2と、その両ギアS2,R2に噛み合う第二ピニオンP2を支持する第二キャリアPC2と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギアセットで構成している。
【0025】
そして、このうち第一サンギアS1と第二サンギアS2が、それぞれ軸方向に隣接する変速機ケース端部の壁部、又は入力軸INを支持する側部のボス部にスプライン嵌合等によって固定(常時固定)されている。一方、第一リングギアR1と第二リングギアR2は、それぞれ第一連結メンバーM1と第二連結メンバーM2によって入力軸INに連結(常時連結)されている。これにより、入力軸INの回転は、第一プラネタリギアセットGS1と第二プラネタリギアセットGS2とでそれぞれ常時減速されて、第一キャリアPC1と第二キャリアPC2から出力されることになる。
【0026】
このように、小型の常時減速用プラネタリギアセットGS1,GS2を、入力軸INの軸方向の両側端位置にそれぞれ配置して、さらに、それらを囲むように湿式多板クラッチからなる第一〜第三のクラッチC1〜C3と第一ブレーキB1とを配置しているので、自動変速機ATのコンパクト化を図ることができる。
【0027】
また、こうして変速機ケースの軸方向端部に配置した二つのプラネタリギアセットGS1,GS2のサンギアS1,S2を軸方向に隣接する壁部やボス部を利用して固定しているので、構造が簡素化できるとともに、組付け作業性も向上することができる。
【0028】
さらに、第一及び第二プラネタリギアセットGS,GSにおける入力回転の減速比(それぞれのリングギアとピニオンの歯数の比)は、互いに異なる値に設定している。こうすることで、後述のように前進1〜6速の各変速段における変速比の設定自由度を高くできる。
【0029】
すなわち、後述するように第一プラネタリギアセットGS1による入力回転の減速比は1〜4速の各変速段位に関与して、第二プラネタリギアセットGS2による入力回転の減速比は3、5速の各段位に関与しているので、例えば、2、4速の変速比は固定したまま、3速の変速比を変更することが可能になる(この際、5速の変速比も変化する)のである。
【0030】
前述の第三プラネタリギアセットGS3は、第三サンギアS3と、第三リングギアR3と、その両ギアS3,R3に噛み合う第三ピニオンP3を支持する第三キャリアPC3と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギアセットで構成している。また、前述の第四プラネタリギアセットGSは、第四サンギアS4と、第四リングギアR4と、その両ギアS4,R4に噛み合う第四ピニオンP4を支持する第四キャリアPC4と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギアセットで構成している。
【0031】
そして、このうち、第三リングギアR3と第四キャリアPC4とが互いに一体回転するように、第三連結メンバーM3により連結(常時連結)するとともに、その第四キャリアPC4に、出力ギアOUTが一体回転するように連結している。また、第三キャリアPC3と第四リングギアR4とが互いに一体的に回転するように、第四連結メンバーM4により連結(常時連結)している。
【0032】
つまり、第三及び第四プラネタリギアセットGS3,GS4は、合わせて4つの回転要素(第三サンギアS3、第三キャリアPC3=第四リングギア、第三リングギアS3=第四キャリアPC4、第四サンギアS4)を有するように互いに連結されて、シンプソン型の遊星歯車列を構成している。
【0033】
そして、第一〜第三の3つのクラッチC1〜C3と、第一ブレーキB1と第二ブレーキB2の二つのブレーキとを選択的に作動させて、入力軸INから出力ギアOUTまでの動力伝達経路を切り替えることで、前進6速と後退速とが得られるようにしている。
【0034】
具体的には、まず、第一クラッチC1は、第一キャリアPC1と第三サンギアS3とを選択的に断接するクラッチであり、図1(b)に示す締結作動表に示すように3速、5速及び後退速にて締結されることから、3/5/Rクラッチ(3/5/RC)とも呼ばれる。
【0035】
また、第二クラッチC2は、第三キャリアPC3と第二リングギアR2を選択的に断接するクラッチであり、高速側の4〜6速にて締結されることからハイ・クラッチ(High/C)とも呼ばれる。
【0036】
さらに、第三クラッチC3は、第四サンギアS4と第二キャリアPC2とを断接するものであり、低速側の1〜4速にて締結されることからロー・クラッチ(low/C)とも呼ばれる。
【0037】
一方、第一ブレーキB1は、第三サンギアS3を選択的に変速機ケースに断接して、これを選択的に停止させるブレーキであり、2速及び6速にて締結されることから2/6ブレーキ(2/6 Br.)とも呼ばれる。第一ブレーキB2は、第三キャリアPC3及び第四リングギアR4を連結する第四連結メンバーM4を、選択的に変速機ケースに断接して、これを選択的に停止させるブレーキであり、1速及び後退速にて締結されることから、ロー・リバース・ブレーキ(L/R Br.)とも呼ばれる。
【0038】
なお、この第二ブレーキB2の側方には、並行にワンウェイクラッチOWCを配置している。このため、本実施形態では、第二ブレーキB2をマニュアルモードやホールドモード等、エンジンブレーキが必要な場合だけ締結するように構成している。
【0039】
前述のクラッチC1〜C3やブレーキB1,B2の作動状態と変速段との関係は、図1(a)の締結作動表のようになる。図において(●印)はクラッチ等が締結される場合、(無印)はクラッチ等が開放される場合を示している。第二ブレーキB2の前進一速では、前述のようにエンジンブレーキが必要な場合のみに、締結されるように設定している。
【0040】
なお、具体的には図示しないが、第一〜第三クラッチC1〜C3、第一、第二ブレーキB1,B2には、変速油圧制御装置が接続されており、この変速油圧制御装置が、図1(a)の締結作動表に示すように、各変速段にて締結圧(●印)や開放圧(無印)を作り出すようになっている。この変速油圧制御装置としては、例えば、油圧制御タイプ、電子制御タイプ、油圧+電子制御タイプが考えられる。
【0041】
次に、本実施形態の自動変速機ATの各変速段における作動について説明する。
前進1速では、図1(b)に示すように、第三クラッチC3と第二ブレーキB2の締結により得られる。このとき、まず第三クラッチC3の締結により第二キャリアPC2と第四サンギアS4とが連結されるので、入力軸INから第二プラネタリギアセットGS2の第二リングギアR2に入力した回転が、減速されて第二キャリアPC2から出力され、第四プラネタリギアセットGS4においては、第二ブレーキB2の締結により、第四リングギアR4が停止されるので、第四サンギアS4に入力した回転は、減速されて、第四キャリアPC4から出力される。
こうして、前進1速では、第二プラネタリギアセットGSにおいて常時減速された回転駆動力が、さらに第四プラネタリギアセットGSの第四リングギアR4と第四ピニオンP4との歯数比に応じて減速されて、出力ギアOUTに出力されるようになる。
【0042】
前進2速では、図1(b)に示すように、前進1速時の第二ブレーキB2を解放し、第一ブレーキB1を締結する。つまり、前進2速は、第三クラッチC3と第一ブレーキB1の締結により第三プラネタリギアセットGS3において第三サンギアS3が停止されるとともに、前進1速時と同様に、第三クラッチC3の締結によって第二プラネタリギアセットGS2からの減速回転が第四プラネタリギアセットGS4の第四サンギアS4に入力される。
こうして第四サンギアS4が回転すると、前進1速時と同等に第四キャリアPC4が減速回転することになるが、そうすると、その第四キャリアPC4と一体に第三プラネタリギアセットGS3の第三リングギアR3が回転することになり、この第三プラネタリギアセットGS3においては第三サンギアS3が停止されているため、第三キャリアPC3も同じ方向に回転することになる。
そうすると、前記第三キャリアPC3に常時連結されている第四プラネタリギアセットGS4の第四リングギアR4が回転して、その分、前記した第四サンギアS4から第四キャリアPC4への減速回転が増速されることになるので、この前進2速では、入力軸INからの入力回転が、前進1速よりも高速の減速回転として出力ギアOUTに出力されるようになる。
【0043】
前進3速では、図1(b)に示すように、前進2速時の第一ブレーキB1を解放し、第一クラッチC1を締結する。つまり、前進3速は、第一クラッチC1と第三クラッチC3とを締結することで得られる。このときには、まず、前進1速時、2速時と同様に、第三クラッチC3の締結により第二プラネタリギアセットGS2からの減速回転が第四プラネタリギアセットGS4の第四サンギアS4に入力される。
一方、第一クラッチC1の締結により第一キャリアPC1と第三サンギアS3とが連結されるので、入力軸INから第一リングギアR1に入力した回転が減速されて第一キャリアPC1から第三プラネタリギアセットGS3の第三サンギアS3に入力される。そして、シンプソン型遊星歯車列を構成する第三及び第四プラネタリギアセットGS3,GS4において、第三サンギアS3及び第四サンギアS4にそれぞれ入力された減速回転が合成されて、第四キャリアPC4から出力ギアOUTに出力される。
すなわち、前進3速では、前進2速で停止していた第三サンギアS3が第三キャリアPC3と同じ方向に回転することになり、その分、第三キャリアPC3の回転が増速されるので、これと一体に回転する第四リングギアR4の回転が前進2速時に比べて増速されることになる。よって、この前進3速では、入力軸INからの入力回転が、前進2速よりも高速の減速回転として出力ギアOUTに出力されるようになる。
【0044】
前進4速では、図1(b)に示すように、前進3速時の第一クラッチC1を解放し、第二クラッチC2を締結する。つまり、前進4速は、第二クラッチC2と第三クラッチC3とを締結することで得られる。このときにも、前進1〜3速時と同様に第三クラッチC3の締結によって、第二プラネタリギアセットGS2からの減速回転が第四プラネタリギアセットGS4の第四サンギアS4に入力される。
同時に、第二クラッチC2の締結により、第二リングギアR2の回転、すなわち、入力軸INからの入力回転がそのまま第三キャリアPC3(これと一体に回転する第四リングギアR4)に伝達されるようになり、こうして第四リングギアR4、第四サンギアS4に、それぞれ入力された回転が第四プラネタリギアセットGS4において合成されて、第四キャリアPC4から出力ギアOUTへ出力される。この前進4速では、入力軸INの回転がやや減速されて、出力ギアOUTに出力されるようになる。
【0045】
前進5速では、図1(b)に示すように、前進4速時の第三クラッチC3を解放し、第一クラッチC1を締結する。つまり、前進5速は、第一クラッチC1と第二クラッチC2とを締結することで得られる。このときには、まず、前進4速時と同様に第二クラッチC2の締結によって、第二リングギアR2の回転、すなわち、入力軸INからの入力回転がそのまま第三キャリアPC3に伝達される。
また、前進3速時と同様に、第一クラッチC1の締結によって第一プラネタリギアセットGS1からの減速回転が、第三プラネタリギアセットGS3の第三サンギアS3に入力され、こうして第三サンギアS3及び第三キャリアPC3にそれぞれ入力された回転が第三プラネタリギアセットGS3において合成されて、第三リングギアR3(これと一体に回転する第四キャリアPC4)から出力ギアOUTへ出力される。この前進5速では、入力軸INからの入力回転がやや増速されて出力されるようになる。
【0046】
前進6速では、図1(b)に示すように、前進5速時の第一クラッチC1を解放し、第一ブレーキB1を締結する。つまり、前進6速は、第二クラッチC2と第一ブレーキB1とを締結することで得られる。このときには、第一ブレーキB1の締結により、第三プラネタリギアセットGS3において第三サンギアS3が停止するから、前進4速時、前進5速時と同様に入力軸INの回転がそのまま第三キャリアPC3に伝達されると、この回転が増速されて第三リングギアR3(第四キャリアPC4)から出力ギアOUTに出力されるようになる。つまり前進6速では、入力軸INからの入力回転が実質的に第三プラネタリギアセットGS3のみを通って、増速されて出力されるようになる。
【0047】
後退速は、図1(b)に示すように、第一クラッチC1と第二ブレーキB2とを締結することで得られる。このときには、前進3速、5速と同様に、第一プラネタリギアセットGS1によって常時減速された入力回転が、第一クラッチC1を介して第三プラネタリギアセットGS3の第三サンギアS3に伝達される。そして、前進1速時と同様に第二ブレーキB2の締結により第三キャリアPC3が停止されるので、前記のように第三サンギアS3に伝達された減速回転が逆転して、第三リングギアR3(第四キャリアPC4)から出力軸OUTに出力されるようになる。
【0048】
以上のようなギア配列の自動変速機ATにおいて、本実施形態の第一クラッチC1を見てみると、入力側は第一プラネタリギアセットGS1を介して入力軸INに連係されて、常時回転駆動されるようになっており、一方、出力側では第三プラネタリギアセットGS3の第三サンギアS3に連係された出力側部材COが第一ブレーキB2で係止固定されるギア配列となっている。このため、前進2速時と前進6速時には、第一ブレーキB2が締結されることで、出力側部材COが回転停止するように設定されている。
【0049】
こうしたことから、特に、使用頻度の多い前進6速の最高段位において、出力側部材COが完全に回転停止することになり、後述するように、第一クラッチC1で潤滑油が排出されないことによるドラッグトルクが発生しやすくなり、動力損失による燃費悪化の懸念が大きくなる。
【0050】
図2に、この第一クラッチC1近傍の自動変速機ATの詳細断面図を示す。なお、図1(a)に対応する構成要素については、同一の符号を付して説明する。
この自動変速機ATには、外枠を構成する変速機ケース1内に、トルクコンバータ側から反トルクコンバータ側に貫通配置した入力軸INと、その入力軸IN上で軸方向に並設した第一プラネタリギアセットGS1及び第三プラネタリギアセットGS3を備え、その第一プラネタリギアセットGS1の外周側には、第一クラッチC1と第一ブレーキB1を重ねて配置し、また、第三プラネタリギアセットGS3の外周側には、ワンウェイクラッチOWCと第二ブレーキB2を軸方向に並設して設置している。
【0051】
このうち、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1について、さらに詳細に説明する。
まず、第一クラッチC1は、反トルクコンバータ側端部で変速機ケース1後端(エンドカバー1A)に隣接して設置されるクラッチドラム10と、クラッチドラム10内に設置されてクラッチドラム10との間で受圧室11を区画するクラッチピストン12と、クラッチピストン12のトルクコンバータ側に設置されクラッチピストン12との間で遠心バランス室13を区画するシールプレート14とを備え、シールプレート14とクラッチピストン12との間に軸方向に反発力を発生するリターンスプリング15を介装している。これらの構成要素によって第一クラッチC1に作動を生じさせる油圧サーボCOSを構成している。なお、16はOリングであり、17はリップシールで、18もリップシールである。これらシール類によって、受圧室11と遠心バランス室13のシール性を確保している。
【0052】
一方、クラッチピストン12のトルクコンバータ側のクラッチドラム10の内周側には、湿式多板クラッチ20を設置している。この湿式多板クラッチ20は、入力側部材であるクラッチドラム10と出力側部材COであるクラッチハブ21との間で、軸方向にスライド可能な複数のドーナツ型円盤のプレート部材22、23、24、25(図3参照)を交互に積層して構成している。各プレート部材22、23、24、25の詳細構造については、後述する。
【0053】
また、この出力側部材COであるクラッチハブ21は、トルクコンバータ側端部に径内方側に延びる内方壁26と径外方側に延びる外方壁27とを有しており、内方壁26を第三プラネタリギアセットGS3の第三サンギアS3と一体回転するように連結して、外方壁27を第一ブレーキB1のブレーキハブ31と一体回転するように連結している。
【0054】
さらに、クラッチドラム10の内周部に設けたトルクコンバータ側フランジ10aには、外側面にスプライン嵌合部19を形成して、第一ピニオンP1を支持する第一キャリアPC1に嵌合固定している。これにより、クラッチドラム10が第一プラネタリギアセットGS1の第一キャリアPC1と一体回転するように、している。
【0055】
このように構成された第一クラッチC1は、前述のように前進3速、前進5速、後退速時に、受圧室11への油圧の供給に応じて、クラッチピストン12がリターンスプリング15の付勢力に抗してトルクコンバータ側へ移動することにより、湿式多板クラッチ20を押圧して、軸方向に隣接する各プレート部材同士22、23、24、25(図3参照)を係合させるように作動する。
【0056】
次に、第一ブレーキB1は、変速機ケース1後端(エンドカバー1A)に隣接して設置されるブレーキピストン32と、その内周側に設置される変速機ケース1に固定されたスナップリング33と、このスナップリング33とブレーキピストン32との間に軸方向に反発力を発生するリターンスプリング34を介装し、ブレーキピストン32と変速機ケース1後端(エンドカバー1A)と間で第一受圧室35と第二受圧室36を区画している。こられの構成要素によって、第一ブレーキB1に作動を生じさせる油圧サーボBOSを構成している。なお、37はOリングであり、38はリップシールで、39もリップシールである。これらシール類によって、第一受圧室35と第二受圧室36のシール性を確保している。
【0057】
一方、ブレーキピストン32のトルクコンバータ側のブレーキハブ31の外周側には、複数のブレーキプレート41、42を設置している。このブレーキプレート41,42も湿式多板クラッチ20と同様、回転側部材であるブレーキハブ31と固定側部材である変速機ケース1との間で、軸方向にスライド可能な複数のドーナツ型円盤のブレーキプレート41,42を交互に積層して構成している。変速機ケース1側に摩擦材を設けていないディスクプレート41を設定し、ブレーキハブ31側に摩擦材を両面に設けた摩擦プレート42を設定してブレーキプレート41,42を構成している。
【0058】
このように構成された第一ブレーキB1は、前述のように前進2速、前進6速時に、第一受圧室35と第二受圧室36への油圧の供給に応じて、ブレーキピストン32がリターンスプリング34の付勢力に抗してトルクコンバータ側へ移動することにより、ブレーキプレート41、42を押圧して、軸方向に隣接する各プレート41、42同士を係合させるように作動する。
【0059】
次に、図3の要部詳細断面図及び図4のプレート分解図を利用して、第一クラッチC1の湿式多板クラッチ20の構造を説明する。
湿式多板クラッチ20は、図3に示すように、クラッチドラム10の内周側に、スプライン嵌合によって噛合する押圧摩擦プレート22と、2枚の両面摩擦プレート23,23と、摩擦リテーニングプレート24とを備え、クラッチハブ21の外周側に、スプライン嵌合によって噛合する3枚のディスクプレート25…とを備えて構成している。
【0060】
このうち、図4に示すように、押圧摩擦プレート22のトルクコンバータ側面(軸方向クラッチ中央側面)と、両面摩擦プレート23のトルクコンバータ側面及び反トルクコンバータ側面と、摩擦リテーニングプレート24の反トルクコンバータ側面(軸方向クラッチ中央側面)とに、それぞれ摩擦材Fを固着している。
【0061】
この摩擦材Fには、詳細に図示しないが、その表面(摩擦面)に放射状又はクロス状に延びる複数の溝を形成しており、湿式多板クラッチ20の内周側から供給される潤滑油を外周側へ排出するようにしている。
【0062】
なお、図3では、各プレート22,23,24,25の構成を分かり易いように各プレート22,23,24,25間を離間して描いているが、実際の設置状態では、各プレート22,23,24,25の間隔をクラッチ解放状態で約0.2mmに設定している。
【0063】
また、図3に示すように、クラッチハブ21のスプライン部21aには、径方向に貫通するオイル供給口51を周方向に複数穿設して、遠心力により第一プラネタリギアセットGS1側から外周側に供給される潤滑油(矢印イ参照)を湿式多板クラッチ20側に導くようにしている。
【0064】
さらに、クラッチドラム10のスプライン部10bにも、径方向に貫通するオイル排出口52を周方向に複数穿設して、湿式多板クラッチ20内を冷却潤滑した潤滑油(矢印ロ参照)をクラッチドラム10の外周側に排出するようにしている。
【0065】
このようにして、第一クラッチC1の湿式多板クラッチ20を構成しているが、前述したように、第一ブレーキB1が前進2速時と前進6速時に作動した場合には、第一クラッチC1のクラッチハブ21が回転停止するため、クラッチハブ21側のディスクプレート25も同時に回転を停止する。
【0066】
このとき、例えば、仮に、クラッチハブ21側のディスクプレート25に摩擦材を固着していた場合には、ディスクプレート25が回転しないため、回転によって生じる摩擦材の溝による、潤滑油の吸出し効果を得ることができないおそれがある。
【0067】
この問題に対して、本実施形態では、常時回転するクラッチドラム10側の、押圧摩擦プレート22、両面摩擦プレート23、及び摩擦リテーニングプレート24に、それぞれ摩擦材Fを固着しているため、クラッチハブ21側、すなわち出力側部材COの回転が停止した場合でも、常時摩擦材Fが回転することになり、安定して潤滑油を排出することができる。
【0068】
このため、前進2速と前進6速時に、クラッチハブ21が回転停止しても、湿式多板クラッチ20内から、潤滑油を確実に外周側へ排出することができ、潤滑油によるドラッグトルクの発生を抑制できる。
【0069】
また、本実施形態では、特に、リテーニングプレート(24)という軸方向にスライド移動しない固定プレートも利用して、摩擦材Fを固着しているため、リテーニングプレート(24)を摩擦プレートとして兼用することができ、湿式多板クラッチ20の軸方向スペースをコンパクトに構成することができる。
【0070】
さらに、板厚の厚いディスクプレート25を、湿式多板クラッチ20の内周側に位置するクラッチハブ21にスプライン嵌合して、板厚の薄い両面摩擦プレート23を、湿式多板クラッチ20の外周側に位置するクラッチドラム10にスプライン嵌合しているため、回転駆動トルクが大きい内周側の方で、係合面積を広く確保することができ、第一クラッチC1の伝達トルク容量を大きくすることができる。
【0071】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動変速機ATでは、湿式多板クラッチ20を、入力軸INから回転駆動力を受けるクラッチドラム10の内周側に、溝を有する摩擦材Fをトルクコンバータ側の片面に固着した押圧摩擦プレート22と、溝を有する摩擦材Fを両面に固着した複数の両面摩擦プレート23を列設して、第一ブレーキB1によって回転停止されるクラッチハブ21の外周側に、摩擦材のないディスクプレート25を列設して構成している。
【0072】
これにより、車両走行中の前進2速や前進6速時に第一ブレーキB1によってクラッチハブ21が回転停止されたとしても、常時回転する押圧摩擦プレート22と両面摩擦プレート23に溝を有する摩擦材Fが固着されているため、クラッチハブ21の内周側から供給される潤滑油が、押圧摩擦プレート22と両面摩擦プレート23の回転による吸出し効果により、湿式多板クラッチ20の外周側に排出されることになる。
このため、第一ブレーキB1によって第一クラッチC1の出力側部材CO(クラッチハブ21)の回転が停止しても、常時回転するクラッチドラム10に列設された押圧摩擦プレート22と両面摩擦プレート23の摩擦材Fの溝から、潤滑油が外周側に排出されるため、ドラッグトルクの低減を図ることができる。
よって、常時入力軸INから回転駆動力が伝達される第一クラッチC1の出力側部材CO(クラッチハブ21)が、車両走行中等に第一ブレーキB1で回転停止されるように構成した自動変速機ATにおいて、出力側部材COが回転停止したとしても、湿式多板クラッチ20の各プレート22,23,24,25間のクリアランスを広げることなく、潤滑油の排出を十分に行うことができ、ドラッグトルク低減効果を高めることができる。
【0073】
なお、この実施形態では、図示していないが、押圧摩擦プレート22とクラッチピストン12との間に、両者が当接する際の衝撃を緩和するために、クッショニングプレートを介装してもよい。
【0074】
また、この実施形態では、クラッチドラム10の内周側のクラッチピストン12の反対側位置(トルクコンバータ側位置)に、反トルクコンバータ側の片面に摩擦材Fを固着した摩擦リテーニングプレート24を設置している。
これにより、湿式多板クラッチ20のストッパーとして機能する摩擦リテーニングプレート24に、摩擦プレートとしての機能を持たせることができる。
よって、摩擦リテーニングプレート24を、摩擦プレートとしても兼用することができ、部品点数を増加させることなく、第一クラッチC1に必要な摩擦面の面積(トルク伝達面積)を確保することができる。
【0075】
また、この実施形態では、入力軸INの回転を第一キャリアPC1に減速出力する常時減速の第一プラネタリギアセットGS1を備え、この第一プラネタリギアセットGS1を介して、クラッチドラム10を入力軸INに連絡している。
これにより、入力軸INの回転速度が常時減速されて、第一クラッチC1に伝達されることになる。
このため、常時回転するクラッチドラム10の回転速度が低下することになるため、第一ブレーキB1で出力側のクラッチハブ21を回転停止しても、入力側と出力側との間の回転速度差が小さくなり、この回転速度差に比例して増加するドラッグトルクの増大を防ぐことができる。
よって、常時回転するクラッチドラム10側に両面摩擦プレート23等の摩擦プレートを配置することに加え、入力軸INからの回転を減速することにより、さらに潤滑油によるドラックトルクの発生を抑え、ドラッグトルクの低減効果を高めることができる。
【0076】
また、この実施形態では、第一クラッチC1を、入力軸IN上に設置した第一プラネタリギアセットGS1の外周側に配置している。
これにより、必然的にクラッチ径が大きくなり、周速度が高まることで、出力側を回転停止した際にドラッグトルクが増加しやすい第一クラッチC1において、常時回転するクラッチドラム10側に摩擦プレート(22,23,24)を配置することで、確実にドラッグトルクの発生を抑えることができる。
よって、第一プラネタリギアセットGS1の外周側に第一クラッチC1を配置することで、第一クラッチC1の径が大きくなったとしても、ドラッグトルクの増大を防いで、ドラッグトルクの低減効果を高めることができる。
【0077】
また、この実施形態では、第一ブレーキB1を最高段位の前進6速で作動させて、クラッチハブ21を回転停止するように設定している。
これにより、車両の燃費性能が最も要求される前進6速でクラッチハブ21が停止することで、第一クラッチC1にドラッグトルクが発生しやすくなるが、常時回転するクラッチドラム10側に押圧摩擦プレート22と両面摩擦プレート23を設置しているため、前進6速でのドラッグトルクの発生を可及的に抑えることができる。
よって、自動変速機ATのドラッグトルクによる燃費の悪化をより確実に抑えることができる。
【0078】
次に、その他の実施形態について、図5のプレート分解図を利用して説明する。
(a)はリテーニングプレート124に摩擦材Fを設けず、別途押圧摩擦プレート122を追加した第二実施形態、(b)はリテーニングプレート124に摩擦材Fを設けず、もう一枚両面摩擦プレート123を追加した第三実施形態である。その他の構成要素は、第一実施形態と同様である。
【0079】
まず、(a)の第二実施形態では、リテーニングプレート124の反トルクコンバータ側に、別途、押圧摩擦プレート122を追加して設置している。
このように、押圧摩擦プレート122を追加することで、リテーニングプレート124に摩擦材Fを固着することなく、摩擦面Fの面積(合計6面)を確保することができる。
よって、リテーニングプレート124を従来のものと共通化することができる。また、ピストン側の押圧摩擦プレート22と追加した押圧摩擦プレート122とを共通化することができ、第一実施形態のものより、コスト削減を図ることができる。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0080】
次に、(b)の第三実施形態では、リテーニングプレート124の反トルクコンバータ側に、別途、両面摩擦プレート123を一枚追加して設定している。
このように、両面摩擦プレート123を追加することで、リテーニングプレート124に摩擦材Fを固着することなく、摩擦面の面積を第一実施形態よりも多く(合計7面)設定できる。
よって、リテーニングプレート124を従来のものと共通化することができつつも、摩擦面を多く設定できるため、一面当りの負担を軽減でき、クラッチの耐久性をより高めることができる。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0081】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明の第一回転部材は、実施形態の第一キャリアPC1及びクラッチドラム10に対応し、
以下、同様に、
第二回転部材は、クラッチハブ21及び出力側部材COに対応し、
ブレーキ装置は、第一ブレーキB1に対応し、
クラッチ装置は、第一クラッチC1に対応し、
ドラム部は、クラッチドラム10に対応し、
ハブ部は、クラッチハブ21に対応し、
多板クラッチは、湿式多板クラッチ20に対応し、
ピストンは、クラッチピストン12に対応し、
第一摩擦プレートは、押圧摩擦プレート22に対応し、
第二摩擦プレートは、両面摩擦プレート23に対応し、
摩擦材を固着したリテーニングプレートは、摩擦リテーニングプレート24に対応し、
常時減速プラネタリギアセットは、第一プラネタリギアセットGS1に対応し、
プラネタリギアセットは、第一プラネタリギアセットGS1に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動変速機に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】(a)第一実施形態の自動変速機のスケルトン図、(b)クラッチ・ブレーキの締結作動表。
【図2】第一クラッチ近傍の自動変速機の詳細断面図。
【図3】要部詳細断面図。
【図4】プレート分解図。
【図5】(a)第二実施形態のプレート分解図、(b)第三実施形態のプレート分解図。
【符号の説明】
【0083】
AT…自動変速機
C1…第一クラッチ
B1…第一ブレーキ
10…クラッチドラム
20…湿式多板クラッチ
21…クラッチハブ
22…押圧摩擦プレート
23…両面摩擦プレート
24…摩擦リテーニングプレート
25…ディスクプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸側に連絡される第一回転部材と、変速機ケースにブレーキ装置によって係止可能な第二回転部材と、前記第一回転部材及び第二回転部材を断接するクラッチ装置とを備え、
該クラッチ装置が、前記第一回転部材に備えられ外周側に設置されるドラム部と、前記第二回転部材に備えられ内周側に設置されるハブ部と、該ドラム部及びハブ部の間に設けられる多板クラッチと、該ドラム部に設けられ該多板クラッチを押圧するピストンと、該ピストンを作動する油圧サーボとを備え、
前記多板クラッチが溝を有する摩擦材を固着した摩擦プレートを含み、前記ハブ部の内周側から摩擦材へ潤滑油を供給する自動変速機であって、
前記入力軸から回転駆動力を受ける前記ドラム部の内周側に、前記ピストンに隣接して軸方向中央側片面に前記摩擦材を固着した第一摩擦プレート及び該第一摩擦プレートに隣接して両面に前記摩擦材を固着した複数の第二摩擦プレートを列設するともに、
前記ブレーキ装置によって回転停止される前記ハブ部の外周側に、前記第一摩擦プレートあるいは前記第二摩擦プレートと交互に、摩擦材のないディスクプレートを列設した
自動変速機。
【請求項2】
前記ドラム部の内周側の前記ピストンの反対側位置に、前記ディスクプレートに隣接して軸方向中央側片面に前記摩擦材を固着したリテーニングプレートを設置した
請求項1記載の自動変速機。
【請求項3】
前記入力軸の回転を出力部に減速出力する常時減速プラネタリギアセットを備え、
該常時減速プラネタリギアセットを介して、前記第一回転部材を前記入力軸に連絡した
請求項1又は2記載の自動変速機。
【請求項4】
前記クラッチ装置を、入力軸上に設置したプラネタリギアセットの外周側に配置した
請求項1又は2記載の自動変速機。
【請求項5】
自動変速機が複数の変速段位を有し、
前記ブレーキ装置を最高段位で作動させて、ハブ部を回転停止するように設定した
請求項1〜4いずれか記載の自動変速機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−14368(P2008−14368A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184403(P2006−184403)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】