説明

自動変速機

【課題】入力軸に電動機が連結された自動変速機で、変速をスムーズにし、エネルギー効率を向上させる。
【解決手段】自動変速機は、サンギヤとキャリアとリングギヤの3つの要素を夫々有する4つの遊星歯車機構PGS1〜4と、遊星歯車機構PGS1〜4の何れか2つの要素同士を連結し、又は何れか1つの要素を変速機ケース1に固定する6つの係合機構C1〜C3,B1〜B3とを備え、複数の係合機構のうちの少なくとも3つを係合させて各変速段を確立し、EV走行する場合には3速段で走行し、3速段で係合する各係合機構C2,C3,B2は、噛合機構、ノーマルクローズ型の摩擦係合機構、又はワンウェイクラッチが並設されたノーマルオープン型の摩擦係合機構の何れかで構成され、4速段及び5速段は、第2ブレーキB2を開放し、第3ブレーキB3又は第1クラッチC1を係合させることにより確立されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の駆動源の動力を遊星歯車機構を用いて複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速比順位で奇数番目のギア列の駆動ギアが固定された第1入力軸と、変速比順位で偶数番目のギア列の駆動ギアが固定された第2入力軸と、各ギア列の従動ギアを軸支する出力軸と、奇数番目のギア列の従動ギアのうち何れか1つを選択的に出力軸に連結する第1噛合機構と、偶数番目のギア列の従動ギアのうち何れか1つを選択的に出力軸に連結する第2噛合機構と、駆動源としての内燃機関の駆動力を第1入力軸に伝達自在な第1クラッチと、内燃機関の駆動力を第2入力軸に伝達自在な第2クラッチとを備える所謂デュアル・クラッチ・トランスミッション(以下、DCTという)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、第1入力軸に減速機を介して電動機の駆動力を伝達できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−237393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したDCTでは、電動機の駆動力のみを用いて車両が走行するEV走行中には、変速比順位で奇数番目の何れかのギア列を用いて走行することとなる。ここで、例えば、1速段でEV走行中であると仮定すると、車両の走行速度の上昇に伴い1速段から3速段に変速する必要がある場合には、DCTでは、第1クラッチを開放し、第2クラッチを係合させて、2速段を確立した後、第1噛合機構で3速段のプレシフトを行い、その後、第2クラッチを開放し、第1クラッチを係合させて3速段を確立する。しかしながら、これでは1速段から3速段に移行するまでの工程が多く、変速がスムーズにできない。
【0006】
そこで、上述したDCTではなく、複数の遊星歯車機構を備えた自動変速機の入力軸に電動機の駆動力を伝達させることが考えられる。ここで、電動機の駆動力で走行できるHEV車両においては、電動機の低速トルクを生かしたレスポンスの良好な走行ができるという利点がある。しかしながら、遊星歯車機構を用いた自動変速機においては、係合機構として、一般的に噛合機構ではなく、油圧作動型ものが用いられているため、電動機の駆動力のみで車両を発進させる場合、電動機のレスポンスの良さを維持できるように車両を発進させる場合には、EV走行で発進する変速段を確立させるために係合させる必要がある係合機構を予め係合させておく必要がある。このため、常に油圧を供給し続ける必要があり、エネルギー効率が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、入力軸に電動機の駆動力が伝達される自動変速機において、変速をスムーズに行うことができ、且つエネルギー効率を向上させることができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、駆動源の駆動力を入力軸に伝達自在な発進クラッチを備え、前記入力軸の回転を複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機において、前記入力軸には、電動機の駆動力が直接又は減速機を介して伝達自在とされ、サンギア、キャリア、リングギアの3つの要素を夫々有する複数の遊星歯車機構と、該複数の遊星歯車機構の複数の要素のうち何れか2つの要素同士を連結し、又は何れか1つの要素を変速機ケースに固定することができる複数の係合機構とを備え、前記複数の係合機構のうちの少なくとも3つを係合させて各変速段を確立し、前記電動機の駆動力のみを用いて車両が走行する場合には、複数の変速段のうち、1速段及び最高速段及び最高速段よりも1段低速側の変速段である準最高速段を除く、何れか1つの変速段である所定の変速段で走行し、前記所定の変速段で係合する各係合機構は、噛合機構、ノーマルクローズ型の摩擦係合機構、又はワンウェイクラッチが並設されたノーマルオープン型の摩擦係合機構の何れかで構成され、前記所定の変速段よりも1つ上の変速段及び2つ上の変速段は、前記所定の変速段で係合する複数の係合機構のうちの何れか1つを開放し、他の1つの係合機構を係合させることにより確立されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電動機の駆動力のみを用いて車両を所定の変速段で発進させることができると共に、電動機で駆動源を始動させると共に、スムーズに所定の変速段からのアップシフトを行うことができる。
【0010】
又、所定の変速段を確立すべく係合される各係合機構は、噛合機構、ノーマルクローズ型の摩擦係合機構、又はワンウェイクラッチが並設されたノーマルオープン型の摩擦係合機構の何れかで構成されるため、電動機の駆動力のみを用いて車両を発進させるときに備えて常に油圧等のエネルギーを常に供給し続ける必要がなく、エネルギー効率を高めることができる。
【0011】
[2]本発明の具体的態様としては、複数の遊星歯車機構を、第1から第4の4つの遊星歯車機構で構成し、第1遊星歯車機構の3つの要素を、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、第2遊星歯車機構の3つの要素を、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、第3遊星歯車機構及び第4遊星歯車機構は、第3遊星歯車機構の3つの要素のうち何れか2つを、第4遊星歯車機構の3つの要素のうち何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成し、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素として、第1要素が入力軸に連結され、第2回転要素が出力部材に連結され、第4要素と第4回転要素とが連結されて第1連結体が構成され、第3要素と第6要素とが連結されて第2連結体が構成され、係合機構として、第1要素と第3回転要素とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、第2要素と第1連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、第2要素と第1回転要素とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第3クラッチと、第3回転要素を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第1ブレーキと、第5要素を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第2ブレーキと、第2連結体を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第3ブレーキとを備え、所定の変速段で連結状態又は固定状態となって係合される係合機構は、第2クラッチ、第3クラッチ及び第2ブレーキとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の自動変速機の第1実施形態を示すスケルトン図。
【図2】第1実施形態の遊星歯車機構の各要素の相対回転速度の比を示す共線図。
【図3】第1実施形態の自動変速機の各変速段における各係合機構の状態を示す説明図。
【図4】本発明の自動変速機の第2実施形態を示すスケルトン図。
【図5】第2実施形態の遊星歯車機構の各要素の相対回転速度の比を示す共線図。
【図6】第2実施形態の自動変速機の各変速段における各係合機構の状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
図1から図3を参照して、本発明の自動変速機の第1実施形態を説明する。この第1実施形態の自動変速機は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外の内燃機関(エンジン)等の駆動源ENGが出力する駆動力がねじりダンパDA及び乾式摩擦係合型の発進クラッチC0を介して伝達される入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力ギアからなる出力部材3とを備えている。出力部材3の回転は、図外のデファレンシャルギアを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。尚、デファレンシャルギアに代えてプロペラシャフトを設けてもよい。
【0014】
又、変速機ケース1内には、第1〜第4の4つの遊星歯車機構PGS1〜4が入力軸2と同心に配置されている。
【0015】
第1遊星歯車機構PGS1は、サンギアSaと、リングギアRaと、サンギアSaとリングギアRaとに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構(キャリアを固定した場合、サンギアとリングギアが互いに異なる方向に回転するため、マイナス遊星歯車機構又はネガティブ遊星歯車機構ともいう。因みに、リングギアを固定した場合には、サンギアとキャリアとが同一方向に回転する。)で構成されている。
【0016】
図2の上段に示す第1遊星歯車機構PGS1の共線図(サンギア、キャリア、リングギアの3つの要素の相対回転速度の比を直線(速度線)で表すことができる図)を参照して、第1遊星歯車機構PGS1の3つの要素Sa,Ca,Raを、共線図におけるギア比(リングギアの歯数/サンギアの歯数)に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3転要素とすると、第1要素はリングギアRa、第2要素はキャリアCa、第3要素はサンギアSaになる。
【0017】
ここで、サンギアSaとキャリアCa間の間隔とキャリアCaとリングギアRa間の間隔との比は、第1遊星歯車機構PG1のギア比をhとして、h:1に設定される。尚、共線図において、下の横線と上の横線は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸2と同じ回転速度)であることを示している。
【0018】
第2遊星歯車機構PGS2は、サンギアSbと、リングギアRbと、サンギアSbとリングギアRbとに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている。
【0019】
又、図2の中段に示す第2遊星歯車機構PGS2の共線図を参照して、第2遊星歯車機構PGS2の3つの要素Sb,Cb,Rbを、共線図におけるギア比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はリングギアRb、第5要素はキャリアCb、第6要素はサンギアSbになる。サンギアSbとキャリアCb間の間隔とキャリアCbとリングギアRb間の間隔との比は、第2遊星歯車機構PGS2のギア比をiとして、i:1に設定される。
【0020】
第3遊星歯車機構PGS3も、サンギアScと、リングギアRcと、サンギアSc及びリングギアRcに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0021】
又、第4遊星歯車機構PGS4も、サンギアSdと、リングギアRdと、サンギアSd及びリングギアRdに噛合するピニオンPdを自転及び公転自在に軸支するキャリアCdとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0022】
第3遊星歯車機構PGS3及び第4遊星歯車機構PGS4は、第3遊星歯車機構PGS3のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つを、第4遊星歯車機構PGS4のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成する。図2の下段に示す第3遊星歯車機構PGS3及び第4遊星歯車機構PGS4の共線図を参照して、各回転要素を左から順に、第1回転要素Y1、第2回転要素Y2、第3回転要素Y3、第4回転要素Y4とすると、第1回転要素Y1は第3遊星歯車機構PGS3のサンギアSc、第2回転要素Y2は第4遊星歯車機構PGS4のリングギアRd、第3回転要素Y3は第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCcと第4遊星歯機構PGS4のキャリアCdとを連結したもの、第4回転要素Y4は第3遊星歯車機構PGS3のリングギアRcと第4遊星歯車機構PGS4のサンギアSdとを連結したものとなる。
【0023】
第3遊星歯車機構PGS3のギア比をj、第4遊星歯車機構PGS4のギア比をkとすると、第1〜第4の各回転要素Y1〜Y4間の間隔は、jk−1:1:kの割り合いとなっている。
【0024】
第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)は、入力軸2に連結されている。又、第4遊星歯車機構PGS4のリングギアRdからなる第2回転要素Y2は、出力ギアたる出力部材3に連結されている。又、第2遊星歯車機構PGS2のリングギアRb(第4要素)と第4回転要素Y4とを連結して、第1連結体Rb−Y4が構成されている。又、第1遊星歯車機構PGS1のサンギアSa(第3要素)と第2遊星歯車機構PGS2のサンギアSb(第6要素)とを連結して、第2連結体Sa−Sbが構成されている。又、入力軸2には、電動機MGが連結されている。電動機MGは、変速機ケース1に固定されるステータMGaと、ステータMGaの径方向内方に配置されるロータMGbとで構成される。尚、電動機MGは、減速機を介して入力軸2と連結させてもよい。
【0025】
又、第1実施形態の自動変速機は、係合機構として、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3と、第1から第3の3つのブレーキB1〜B3とを備える。
【0026】
第1クラッチC1は、ノーマルオープン型の摩擦係合クラッチであり、入力軸2に連結された第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)と第3回転要素Y3とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0027】
第2クラッチC2は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1連結体Rc−Y4とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。尚、第2クラッチC2は、後述するノーマルクローズ型のクラッチで構成することもできる。
【0028】
第3クラッチC3は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0029】
第1ブレーキB1は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第3回転要素Y3を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0030】
第2ブレーキB2は、ノーマルクローズ型の摩擦係合クラッチであり、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0031】
第3ブレーキB3は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第2連結体Sa−Sbを変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0032】
各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B3は、図外のトランスミッション・コントロール・ユニットにより、車両の走行速度等の車両情報に基づいて、状態が切り換えられる。
【0033】
ここで、ノーマルクローズ型の摩擦係合クラッチについて説明する。通常のノーマルオープン型の摩擦係合クラッチでは、油圧が供給されていない場合には、ピストンによりクラッチディスク及びクラッチプレートが押し付けられておらず、開放状態となっており、油圧を供給してピストンでクラッチプレート及びクラッチディスクを押し付けることにより、連結状態となる。
【0034】
これに対して、ノーマルクローズ型の摩擦係合クラッチでは、板バネやコイルスプリング等の弾性部材によりピストンが付勢されてクラッチプレート及びクラッチディスクが押し付けられた状態、即ち、連結状態となる。そして、油圧が供給されることによりピストンが弾性部材による付勢力の影響を受けなくなり、又は、弾性部材の付勢力に抗してピストンが後退し、クラッチプレート及びクラッチディスクの摩擦係合を解除することができる。この場合、クラッチプレート及びクラッチディスクの摩擦係合が完全に断たれた状態が開放状態となり、摩擦係合が完全に断たれていない場合には未だ連結状態にある。
【0035】
入力軸2上には、駆動源ENG及び発進クラッチC0側から、第1クラッチC1、第3遊星歯車機構PGS3、出力部材3、第2クラッチC2、第1遊星歯車機構PGS1、第2遊星歯車機構PGS2の順番で配置されている。
【0036】
第4遊星歯車機構PGS4は、第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置されている。そして、第4遊星歯車機構PGS4のサンギアSdと第3遊星歯車機構PGS3のリングギアRcとを一体に連結して第4回転要素Y4を構成している。このように、第4遊星歯車機構PGS4を第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置することにより、第3遊星歯車機構PGS3と第4遊星歯車機構PGS4とが径方向で重なり合うため、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
【0037】
尚、第3遊星歯車機構PGS3と第4遊星歯車機構PGS4とは、径方向で少なくとも一部が重なり合っていればよく、これによって軸長の短縮化を図ることができるが、両者が完全に径方向で重なり合っていれば、最も軸長を短くすることができ、車両(特にFF式車両)への搭載性を向上させることができる。
【0038】
又、第1ブレーキB1は第1クラッチC1の径方向外方に配置され、第2ブレーキB2は第1遊星歯車機構PGS1の径方向外方に配置され、第3ブレーキB3は第2遊星歯車機構PGS2の径方向外方に配置されている。これにより、自動変速機の軸長を更に短くすることができる。
【0039】
変速機ケース1には、出力部材3と第2クラッチC2との間に位置されて、径方向内方に伸びる側壁1aが設けられている。この側壁1aには、出力部材3に向かって延び、ベアリングを介して出力部材3を軸支する筒状部1bが設けられている。このように構成することにより、変速機ケース1に連なる機械的強度の高い筒状部1bで出力部材3をしっかりと軸支させることができる。
【0040】
第3クラッチC3は、筒状部1bの径方向内方に配置されている。このように構成することにより、筒状部1bの径方向内方のスペースを有効活用して出力部材3と第3クラッチC3とが径方向で重なり合うため、更なる軸長の短縮化を図ることができる。
【0041】
次に、図2及び図3を参照して、車両が駆動源ENGで走行するときにおいて、第1実施形態の自動変速機で各変速段を確立させる場合を説明する。尚、車両が駆動源ENGの駆動力を用いて走行するときには、発進クラッチC0は連結状態とされている。
【0042】
1速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を固定状態とする。第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第3回転要素Y3の回転速度が「0」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1とが同一速度で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「1st」になり、1速段が確立される。
【0043】
2速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とする。第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2連結体Sa−Sbの回転速度が「0」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。
【0044】
これにより、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)及びサンギヤSb(第6要素)の回転速度が同一速度の「0」となるため、第2遊星歯車機構PGS2の3つの要素Sb,Cb,Rbが相対回転不能なロック状態となり、第2遊星歯車機構PGS2のリングギアRb(第4要素)、即ち、第1連結体Rb−Y4の回転速度も「0」となる。又、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1とが同一速度で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「2nd」になり、2速段が確立される。
【0045】
3速段を確立させる場合には、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とする。第2ブレーキB2を固定状態とすることで第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、第2クラッチC2と第3クラッチC3とを連結状態とすることで、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。これにより、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4が相対回転不能なロック状態となり、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「3rd」となり、3速段が確立される。
【0046】
4速段を確立させる場合には、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とする。第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2連結体Sa−Sbの回転速度が「0」になる。又、第2クラッチC2と第3クラッチC3とを連結状態とすることで、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。これにより、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4が相対回転不能なロック状態となり、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「4th」となり、4速段が確立される。
【0047】
5速段を確立させる場合には、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3の全てを連結状態とする。第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3回転要素Y3が第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)と同一速度の「1」で回転する。又、第2クラッチC2と第3クラッチC3とを連結状態とすることで、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1回転要素Y1と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。これにより、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4が相対回転不能なロック状態となり、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が「1」である「5th」となり、5速段が確立される。
【0048】
6速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とする。第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2連結体Sa−Sbの回転速度が「0」になる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3回転要素Y3が第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)と同一速度の「1」で回転する。又、第2クラッチC2を連結状態とすることで第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「6th」になり、6速段が確立される。
【0049】
7速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とする。第2ブレーキB2を固定状態とすることで第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3回転要素Y3が第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)と同一速度の「1」で回転する。又、第2クラッチC2を連結状態とすることで第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「7th」になり、7速段が確立される。
【0050】
8速段を確立させる場合には、第1クラッチC1を連結状態とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とする。第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2連結体Sa−Sbの回転速度が「0」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。
【0051】
これにより、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)及びサンギヤSb(第6要素)の回転速度が同一速度の「0」となるため、第2遊星歯車機構PGS2の3つの要素Sb,Cb,Rbが相対回転不能なロック状態となり、第2遊星歯車機構PGS2のリングギアRb(第4要素)、即ち、第1連結体Rb−Y4の回転速度も「0」となる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3回転要素Y3が第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRa(第1要素)と同一速度の「1」で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す「8th」になり、8速段が確立される。
【0052】
後進段を確立させる場合には、第2クラッチC2を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を固定状態とする。第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第3回転要素Y3の回転速度が「0」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、第2クラッチC2を連結状態とすることで第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第1連結体Rb−Y4とが同一速度で回転する。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図2に示す逆転(車両が後進する方向の回転)の「Rvs」になり、後進段が確立される。
【0053】
図3は、上述した各変速段におけるクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B3の状態を纏めて表示した図であり、クラッチC1〜C3及びブレーキB1〜B3の列の「○」は連結状態又は固定状態を示し、空欄は開放状態を示している。
【0054】
又、図3には、第1遊星歯車機構PGS1のギア比hを2.960、第2遊星歯車機構PGS2のギア比iを1.717、第3遊星歯車機構PGS3のギア比jを2.625、第4遊星歯車機構PGS4のギア比kを1.698とした場合における各変速段の変速比(入力軸2の回転速度/出力部材3の回転速度)を示している。
【0055】
第1実施形態の自動変速機では、電動機MGの駆動力のみを用いて走行するEV走行を3速段で行うように設定されている。3速段では、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が連結状態となり、第2ブレーキB2が固定状態となるが、第2と第3の両クラッチC2,C3は、噛合機構であるため、連結状態を維持させるためにエネルギーを必要としないものである。又、第2ブレーキB2は、ノーマルクローズ型の摩擦係合ブレーキであるため、固定状態を維持させるためのエネルギーを必要としないものである。
【0056】
従って、第1実施形態の自動変速機によれば、3速段を確立するために係合する係合機構は何れも係合状態を維持させるためにエネルギーを消費しないため、EV発進する際においても、従来品の油圧作動式摩擦係合機構を用いたもののようにレスポンス性を担保すべくエネルギーを供給し続ける必要がなく、エネルギー効率を向上させることができる。
【0057】
又、第1実施形態の自動変速機では、3速段でのEV走行から4速段及び5速段でのENG走行への移行も第2ブレーキB2を開放して、第3ブレーキB3を固定状態とし、又は第1クラッチC1を連結状態とするだけでスムーズに行うことができ、3速段から5速段への2段変速(1段飛ばしの変速)も駆動力が途切れることなく、スムーズに行うことができる。
【0058】
第1実施形態の自動変速機によれば、前進8段の変速を行うことができる。又、各変速段において、湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキの開放数が3つ以下となり、フリクションロスを抑制して、駆動力の伝達効率を向上させることができる。
【0059】
又、全ての遊星歯車機構PGS1〜PGS4が所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されているため、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構で構成されるものに比し、駆動力の伝達経路上におけるギアの噛合回数を減少させることができ、伝達効率を向上させることができる。尚、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、サンギアと、リングギアと、互いに噛合すると共に一方がサンギアに噛合し他方がリングギアに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとで構成される。又、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、キャリアを固定した場合、サンギアとリングギアが同一方向に回転するため、プラス遊星歯車機構又はポジティブ遊星歯車機構ともいう。因みに、リングギアを固定した場合、サンギアとキャリアが互いに異なる方向に回転する。
【0060】
[第2実施形態]
次に、図4から図6を参照して、本発明の第2実施形態の自動変速機を説明する。第2実施形態の自動変速機も、第1実施形態のものと同様に、変速機ケース1内に回転自在に軸支された入力軸2と、駆動源ENGの駆動力を入力軸2に伝達自在な乾式摩擦係合型の発進クラッチC0と、入力軸2と同心に配置された出力ギアからなる出力部材3とを備えている。出力部材3の回転は、図外のデファレンシャルギアを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。尚、デファレンシャルギアに代えてプロペラシャフトを設けてもよい。
【0061】
又、変速機ケース1内には、第1〜第4の4つの所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構PGS1〜4が入力軸2と同心に配置されている。
【0062】
第3遊星歯車機構PGS3及び第4遊星歯車機構PGS4は、第3遊星歯車機構PGS3のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つを、第4遊星歯車機構PGS4のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成する。図5の下段に示す第3遊星歯車機構PGS3及び第4遊星歯車機構PGS4の共線図を参照して、各回転要素を左から順に、第1回転要素Y1、第2回転要素Y2、第3回転要素Y3、第4回転要素Y4とすると、第1回転要素Y1は第3遊星歯車機構PGS3のサンギアScと第4遊星歯車機構PGS4のサンギアSdとを連結したもの、第2回転要素Y2は第4遊星歯機構PGS4のキャリアCd、第3回転要素Y3は第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCcと第4遊星歯車機構PGS4のリングギアRdとを連結したもの、第4回転要素Y4は第3遊星歯車機構PGS3のリングギアRcとなる。
【0063】
第3遊星歯車機構PGS3のギア比をj、第4遊星歯車機構PGS4のギア比をkとすると、第1〜第4の各回転要素Y1〜Y4間の間隔は、k:1:(k+1)/jの割り合いとなっている。
【0064】
又、第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2は、第1遊星歯車機構PGS1のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つを、第2遊星歯車機構PGS2のサンギア、リングギア及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成する。図5の上段に示す第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2の共線図を参照して、各回転要素を左から順に、第5回転要素Y5、第6回転要素Y6、第7回転要素Y7、第8回転要素Y8とすると、第5回転要素Y5は第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRaと第2遊星歯車機構PGS2のサンギアSbとを連結したもの、第6回転要素Y6は第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCaと第2遊星歯機構PGS2のキャリアCbとを連結したもの、第7回転要素Y7は第2遊星歯車機構PGS2のリングギアRb、第8回転要素Y8は第1遊星歯車機構PGS1のサンギアSaとなる。
【0065】
第1遊星歯車機構PGS1のギア比をh、第2遊星歯車機構PGS2のギア比をiとすると、第5〜第8の各回転要素Y5〜Y8間の間隔は、i:1:hi−1の割り合いとなっている。
【0066】
第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCdからなる第2回転要素Y2は出力ギヤたる出力部材3に連結されている。又、第4回転要素Y4と第6回転要素Y6とを連結して、第1連結体Y4−Y6が構成されている。又、入力軸2には、電動機MGが連結されている。電動機MGは、変速機ケース1に固定されるステータMGaと、ステータMGaの径方向内方に配置されるロータMGbとで構成される。尚、電動機MGは、減速機を介して入力軸2と連結させてもよい。
【0067】
又、第2実施形態の自動変速機は、係合機構として、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3と、第1から第3の3つのブレーキB1〜B3とを備える。
【0068】
第1クラッチC1は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、入力軸2と第3回転要素Y3とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0069】
第2クラッチC2は、ノーマルオープン型の摩擦係合クラッチであり、入力軸2と第8回転要素Y8とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0070】
第3クラッチC3は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、入力軸2と第5回転要素Y5とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0071】
第1ブレーキB1は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第1回転要素Y1を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0072】
第2ブレーキB2は、ノーマルオープン型の摩擦係合ブレーキであり、第7回転要素Y7を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0073】
第3ブレーキB3は、ノーマルオープン型の摩擦係合ブレーキであり、第8回転要素Y8を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0074】
各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B3は、図外のトランスミッション・コントロール・ユニットにより、車両の走行速度等の車両情報に基づいて、状態が切り換えられる。
【0075】
入力軸2上には、駆動源ENG及び発進クラッチC0側から、第1クラッチC1、出力部材3、第1ブレーキB1、第4遊星歯車機構PGS4、第3遊星歯車機構PGS3、第3クラッチC3、第1遊星歯車機構PGS1、第3ブレーキB3、第2クラッチC2の順番で配置されている。
【0076】
第2遊星歯車機構PGS2は、第1遊星歯車機構PGS1の径方向外方に配置されている。そして、第2遊星歯車機構PGS2のサンギアSbと第1遊星歯車機構PGS1のリングギアRaとを一体に連結して第5回転要素Y5を構成している。このように、第2遊星歯車機構PGS2を第1遊星歯車機構PGS1の径方向外方に配置することにより、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2とが径方向で重なり合うため、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
【0077】
尚、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2とは、径方向で少なくとも一部が重なり合っていればよく、これによって軸長の短縮化を図ることができるが、両者が完全に径方向で重なり合っていれば、最も軸長を短くすることができ、車両(特にFF式車両)への搭載性を向上させることができる。
【0078】
又、第2ブレーキB2は第2遊星歯車機構PGS2の径方向外方に配置され、電動機MGは第1クラッチC1の径方向外方に配置されている。これにより、自動変速機の軸長の更なる短縮化を図ることができる。
【0079】
変速機ケース1には、出力部材3と第1クラッチC1との間に位置されて、径方向内方に伸びる側壁1aが設けられている。この側壁1aには、出力部材3に向かって延び、ベアリングを介して出力部材3を軸支する筒状部1bが設けられている。このように構成することにより、変速機ケース1に連なる機械的強度の高い筒状部1bで出力部材3をしっかりと軸支させることができる。
【0080】
次に、図5及び図6を参照して、車両が駆動源ENGで走行するときにおいて、第2実施形態の自動変速機で各変速段を確立させる場合を説明する。尚、車両が駆動源ENGの駆動力を用いて走行するときには、発進クラッチC0は連結状態とされている。
【0081】
1速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を固定状態とする。第3クラッチC3を連結状態とすることにより、第5回転要素Y5の回転速度が「1」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることにより、第7回転要素Y7の回転速度が「0」になる。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることにより、第1回転要素Y1の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「1st」になり、1速段が確立される。
【0082】
2速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第3ブレーキB3を固定状態とする。第3クラッチC3を連結状態とすることにより、第5回転要素Y5の回転速度が「1」になる。又、第3ブレーキB3を固定状態とすることにより、第8回転要素Y8の回転速度が「0」になる。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることにより、第1回転要素Y1の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「2nd」になり、2速段が確立される。
【0083】
3速段を確立させる場合には、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1を固定状態とする。第2クラッチC2と第3クラッチC3とを連結状態とすることで、第5回転要素Y5と第8回転要素Y8とが同一速度の「1」で回転する。これにより、第5から第8の4つの回転要素Y5〜Y8が相対回転不能なロック状態となり、4つの回転要素Y5〜Y8の回転速度が「1」になって、第1連結体Y4−Y6の回転速度が「1」となる。
【0084】
又、第1ブレーキB1を固定状態とすることにより、第1回転要素Y1の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「3rd」になり、3速段が確立される。
【0085】
4速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1を固定状態とする。第1クラッチC1を連結状態とすることにより、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることにより、第1回転要素Y1の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「4th」になり、4速段が確立される。
【0086】
尚、4速段を確立させるためには、必ずしも第3クラッチC3を係合させる必要はないが、3速段及び後述する5速段を確立させる場合には、第3クラッチC3が連結状態とされるため、4速段においても第3クラッチC3を連結状態とすれば、スムーズに変速を行うことができる。
【0087】
5速段を確立させる場合には、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3の全てを連結状態とする。第2クラッチC2と第3クラッチC3とを連結状態とすることで、第8回転要素Y8と第5回転要素Y5とが同一速度の「1」で回転する。これにより、第5から第8の4つの回転要素Y5〜Y8が相対回転不能なロック状態となり、第1連結体Y4−Y6の回転速度も「1」となる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。これにより、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4も相対回転不能なロック状態となり、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が「1」である「5th」となり、5速段が確立される。
【0088】
6速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とする。第3クラッチC3を連結状態とすることにより、第5回転要素Y5の回転速度が「1」になる。又、第3ブレーキB3を固定状態とすることにより、第8回転要素Y8の回転速度が「0」になる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることにより、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「6th」になり、6速段が確立される。
【0089】
7速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とする。第3クラッチC3を連結状態とすることにより、第5回転要素Y5の回転速度が「1」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることにより、第7回転要素Y7の回転速度が「0」になる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることにより、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「7th」になり、7速段が確立される。
【0090】
8速段を確立させる場合には、第1クラッチC1を連結状態とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とする。第2ブレーキB2と第3ブレーキB3とを固定状態とすることにより、第7回転要素Y7及び第8回転要素Y8の回転速度が「0」となる。これにより、第5から第8の4つの回転要素Y5〜Y8が、相対回転不能なロック状態となり、4つの回転要素Y5〜Y8の回転速度が「0」となって、第1連結体Y4−Y6の回転速度も「0」になる。
【0091】
又、第1クラッチC1を連結状態とすることにより、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「8th」になり、8速段が確立される。
【0092】
9速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とする。第2クラッチC2を連結状態とすることにより、第8回転要素Y8の回転速度が「1」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることにより、第7回転要素Y7の回転速度が「0」になる。又、第1クラッチC1を連結状態とすることにより、第3回転要素Y3の回転速度が「1」となる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す「9th」になり、9速段が確立される。
【0093】
後進段を確立させる場合には、第2クラッチC2を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を固定状態とする。第2クラッチC2を連結状態とすることにより、第8回転要素Y8の回転速度が「1」になる。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることにより、第7回転要素Y7の回転速度が「0」になる。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることにより、第1回転要素Y1の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第2回転要素Y2の回転速度が図5に示す逆転(車両が後進する方向の回転)の「Rvs」になり、後進段が確立される。
【0094】
図6は、第2実施形態の各変速段におけるクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B3の状態を纏めて表示した図であり、クラッチC1〜C3及びブレーキB1〜B3の列の「○」は連結状態又は固定状態を示し、空欄は開放状態を示している。
【0095】
又、図6には、第1遊星歯車機構PGS1のギア比hを1.800、第2遊星歯車機構PGS2のギア比iを1.500、第3遊星歯車機構PGS3のギア比jを2.800、第4遊星歯車機構PGS4のギア比kを2.800とした場合における各変速段の変速比(入力軸2の回転速度/出力部材3の回転速度)を示している。
【0096】
第2実施形態の自動変速機では、電動機MGの駆動力のみを用いて走行するEV走行を4速段で行うように設定されている。4速段では、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が連結状態となり、第1ブレーキB1が固定状態となるが、第1と第3の両クラッチC1,C3及び第1ブレーキB1は何れも噛合機構であるため、連結状態又は固定状態を維持させるためにエネルギーを必要としないものである。
【0097】
従って、第2実施形態の自動変速機によっても、4速段を確立するために係合する係合機構は何れも係合状態を維持させるためにエネルギーを消費しないため、EV発進する際においても、従来品の油圧作動式摩擦係合機構を用いたもののようにレスポンス性を担保すべくエネルギーを供給し続ける必要がなく、エネルギー効率を向上させることができる。
【0098】
又、第2実施形態の自動変速機では、4速段でのEV走行から5速段及び6速段でのENG走行への移行も第1ブレーキB1を開放して、第2クラッチC2を連結状態とし、又は第3ブレーキB3を固定状態とするだけでスムーズに行うことができ、4速段から6速段への2段変速(1段飛ばしの変速)も駆動力が途切れることなく、スムーズに行うことができる。
【0099】
第2実施形態の自動変速機によれば、前進9段の変速を行うことができる。又、各変速段において、湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキの開放数が3つ以下となり、フリクションロスを抑制して、駆動力の伝達効率を向上させることができる。
【0100】
又、全ての遊星歯車機構PGS1〜PGS4が所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されているため、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構で構成されるものに比し、駆動力の伝達経路上におけるギアの噛合回数を減少させることができ、伝達効率を向上させることができる。尚、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、サンギアと、リングギアと、互いに噛合すると共に一方がサンギアに噛合し他方がリングギアに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとで構成される。又、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、キャリアを固定した場合、サンギアとリングギアが同一方向に回転するため、プラス遊星歯車機構又はポジティブ遊星歯車機構ともいう。因みに、リングギアを固定した場合、サンギアとキャリアが互いに異なる方向に回転する。
【符号の説明】
【0101】
1…変速機ケース、2…入力軸、3…出力部材、ENG…駆動源、PGS1…第1遊星歯車機構、Sa…サンギア、Ca…キャリア、Ra…リングギア、Pa…ピニオン、PGS2…第2遊星歯車機構、Sb…サンギア、Cb…キャリア、Rb…リングギア、Pb…ピニオン、PGS3…第3遊星歯車機構、Sc…サンギア、Cc…キャリア、Rc…リングギア、Pc…ピニオン、PGS4…第4遊星歯車機構、Sd…サンギア、Cd…キャリア、Rd…リングギア、Pd…ピニオン、Y1〜Y8…第1〜第8回転要素、C1〜C3…第1〜第3クラッチ、B1〜B3…第1〜第3ブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力を入力軸に伝達自在な発進クラッチを備え、
前記入力軸の回転を複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機において、
前記入力軸には、電動機の駆動力が直接又は減速機を介して伝達自在とされ、
サンギア、キャリア、リングギアの3つの要素を夫々有する複数の遊星歯車機構と、
該複数の遊星歯車機構の複数の要素のうち何れか2つの要素同士を連結し、又は何れか1つの要素を変速機ケースに固定することができる複数の係合機構とを備え、
前記複数の係合機構のうちの少なくとも3つを係合させて各変速段を確立し、
前記電動機の駆動力のみを用いて車両が走行する場合には、複数の変速段のうち、1速段及び最高速段及び最高速段よりも1段低速側の変速段である準最高速段を除く、何れか1つの変速段である所定の変速段で走行し、
前記所定の変速段で係合する各係合機構は、噛合機構、ノーマルクローズ型の摩擦係合機構、又はワンウェイクラッチが並設されたノーマルオープン型の摩擦係合機構の何れかで構成され、
前記所定の変速段よりも1つ上の変速段及び2つ上の変速段は、前記所定の変速段で係合する複数の係合機構のうちの何れか1つを開放し、他の1つの係合機構を係合させることにより確立されることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機において、
前記複数の遊星歯車機構は、第1から第4の4つの遊星歯車機構で構成され、
該第1遊星歯車機構の3つの要素を、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、前記第2遊星歯車機構の3つの要素を、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、前記第3遊星歯車機構及び前記第4遊星歯車機構は、前記第3遊星歯車機構の3つの要素のうち何れか2つを、前記第4遊星歯車機構の3つの要素のうち何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成し、共線図を参照してギア比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素として、
前記第1要素が前記入力軸に連結され、前記第2回転要素が前記出力部材に連結され、前記第4要素と前記第4回転要素とが連結されて第1連結体が構成され、前記第3要素と前記第6要素とが連結されて第2連結体が構成され、
係合機構として、
前記第1要素と前記第3回転要素とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、
前記第2要素と前記第1連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、
前記第2要素と前記第1回転要素とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第3クラッチと、
前記第3回転要素を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第1ブレーキと、
前記第5要素を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第2ブレーキと、
前記第2連結体を変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第3ブレーキとを備え、
前記所定の変速段で連結状態又は固定状態となって係合される係合機構は、前記第2クラッチ、前記第3クラッチ及び前記第2ブレーキであることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122569(P2012−122569A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275043(P2010−275043)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】