説明

自動血液透析装置

【課題】大半の工程を自動化できる血液透析装置の提供。
【解決手段】血液透析器D、動脈側/静脈側血液回路L1,L2、透析液供給/廃液ラインL4,L5、動脈側血液回路L1に設けた血液ポンプ、透析液供給ラインL4に設けた第1送液手段、透析液排液ラインに設けた第2送液手段、第1と第2の送液手段のいずれか一方又は双方の上流側と下流側を連絡するバイパスラインL6に設けた第3送液手段を備えてプライミング工程等を行う装置において、静脈側血液回路L2にオーバーフローラインOFLを連結したチャンバーCを、チャンバーCと血液透析器Dの間にピンチバルブを、血液ポンプと第3送液手段の回転等を制御する制御手段を備え、制御手段による血液ポンプと第3送液手段の流速等の調整によって動脈側/静脈側血液回路L1,L2と透析液供給/廃液ラインL4,L5の間で液を移行させて上記各工程および機構ならびにこれらの移行を自動的に行う装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、今まで人手で行ってきた血液透析やそれに関わる準備・回収等の一連の操作をできるだけ自動化し、省力化した血液透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析装置は腎不全患者や薬物中毒患者の血液を浄化するための医療用機器である。血液透析療法の機構は、通常、血液透析器(ダイアライザー)、血液が循環する血液回路および透析液供給系の3つの部分から構成される。血管内と2カ所で直接接続した血液回路により体外循環を維持しつつ、血液を血液回路の中途に連結した血液透析器の中空糸内腔側のコンパートメントに流入させる。
【0003】
一方、血液透析器の中空糸外側のコンパートメントには、血液の流れと反対方向に透析液と称される電解質液を流入させる。血液透析器の両コンパートメントは透析膜と呼ばれる分離膜で隔てられ、血液と透析液が反対方向に流れる間に、分離膜の両側の濃度勾配に応じた粒子の拡散移動が発生し、尿毒素や中毒物質の除去や不足物質の補充が行われる。一般に、上述の血液透析装置は体外循環の維持、透析液の安定供給、ならびに血液からの余剰な水分の除去を制御する装置等によって構成されている。
【0004】
従来の血液透析監視装置(例えば、特許文献1〜2参照)は、透析治療中の機器情報や患者情報の監視と安全管理という点では優れているが、治療前のプライミング(血液回路や血液透析器の流路を洗浄し清浄化しておく準備工程)、穿刺後の脱血(血液を体内から血液回路に引き出すことにより体外循環を開始する操作)、治療中の補液、終了時の返血(血液回路内の血液を体内に戻す体外循環の終了操作)、各工程間のスムースな移行等、血液透析に関わる全体的な作業における省力化の点では、まだ不十分である。
【0005】
特に、特定の工程や工程間の移行において自動化が遅れており、もっぱら労働集約的かつ医療従事者の熟練を必要とするのが実状であった。同時に来院する多人数の患者のプライミングや脱血、返血を短時間のうちに終了させるために、一時的に多大の人員投入を必要とする。一方で、このような人員配置は血液透析(血液循環)中は過剰であるため、労働内容の時間的不均一性と経済的非効率性の原因となっていた。なお、特許文献1に記載の発明は、在宅で使用するのに適した血液透析装置を志向したものであるところ、特許文献1には各工程の自動化に関する示唆こそ見受けられるが、工程の順序を示すシーケンスが記載されているのみで、これを実現するための具体的構成や制御方法に関してはほとんど開示されていない。また、前記シーケンスは単に工程の順序を示すものであって、工程間の自動移行を示すものではなかった。例えば、透析移行に関しては、使用者は血液循環を確認するように促され、脱血から透析に自動的に移行できるものではなかった。同様に返血工程についても自動的に移行できるものではなかった。また、特許文献2についても、プライミング操作の一部自動化が示唆されているに留まる程度である。すなわち、工程間の移行に使用者の確認を要求する血液透析装置によっては、各工程間のスムースな移行等、ならびに血液透析に関わる全体的な作業を省力化することが非常に困難であった。
【0006】
また、従来の血液透析ではプライミング工程における血液回路ならびに血液透析器(ダイアライザー)の洗浄・充填に静脈投与製剤である生理食塩水を1L程度使用していた(例えば、特許文献2参照)。1L程度の洗浄では流路が十分に洗浄されないことが指摘されており、また洗浄・充填に生理食塩水を多量に使用すると、コストが増大する。
【0007】
さらに血液透析治療中の血圧低下の際には、別に生理食塩水を必要とし、業務の煩雑化とコスト増の一因となっていた。近年、透析液の浄化技術は著しく進歩し、超純度に浄化した透析液を逆濾過補液に応用しようとするシステムも確立されている。このようなシステムでは生理食塩水の代わりに清浄化透析液を逆濾過してリンス液ないし補液として使用することができるが、透析液の滞留によって起こる2次汚染を起こさずに、プライミングおよび治療中の補液目的の逆濾過透析液を簡易に確実に供給できる補液回路系はこれまでに開示されていない。
【特許文献1】特開平09−000618号公報
【特許文献2】実願昭62−148597号(実開平01−054557号)のマイクロフィルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来、労働集約性が高く、熟練を要し、合理化が難しいとされてきた血液透析治療業務の合理化(自動化・単純化・省力化・迅速化・低コスト化)を可能とし、かつ治療の安全性を高めるためのものである。即ち、本発明の目的は、従来の装置のように各工程の一部を自動化するものとは異なり、前述の血液透析医療において、治療の準備から治療終了までの大半の工程を自動化する血液透析装置を提供することにある。それによって、透析準備から治療終了までの一連の工程が安全、確実かつ迅速に遂行されるとともに、人件費および消耗品コストを大幅に削減することを目論む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、血液透析器Dと、前記血液透析器Dに患者から導出した血液を流入させる動脈側血液回路L1と、前記血液透析器Dから流出した血液を患者に戻す静脈側血液回路L2と、前記血液透析器Dに透析液を供給する透析液供給ラインL4と、前記血液透析器Dから透析液を排液する透析液排液ラインL5と、前記動脈側血液回路L1に設けた正逆回転可能な血液ポンプP1と、前記透析液供給ラインL4に設けた第1送液手段P2と、前記透析液排液ラインL5に設けた第2送液手段P3と、前記第1送液手段P2と第2送液手段P3のいずれか一方または双方の上流側と下流側を連絡するバイパスラインに設けた正逆回転可能な第3送液手段P4を備えて、血液透析開始前のプライミング工程、血液透析開始時の患者から血液循環系への脱血工程、血液透析中に透析血液回路へ補液する補液機構、および血液透析終了時に血液循環系から患者へ返血する返血工程を行う自動血液透析装置において、前記静脈側血液回路L2にオーバーフローラインL3を連結したチャンバーCを、前記チャンバーCと血液透析器Dの間に第1のピンチバルブPV1を、前記オーバーフローラインL3に第2のピンチバルブPV2を、さらに、前記血液ポンプP1と第3送液手段P4の回転、並びにピンチバルブPV1とピンチバルブPV2の開閉を制御する制御手段Gを備え、前記制御手段Gによる血液ポンプP1と第3送液手段P4の流速または流量の調整によって、動脈側血液回路L1、静脈側血液回路L2と、透析液供給ラインL4、透析液排液ラインL5との間で液を移行させて、プライミング工程、脱血工程、補液機構、および返血工程の各工程および機構ならびにこれらの移行を自動的に行うことを特徴とする自動血液透析装置によって、上記課題を解決した。本願明細書で、血液回路の上流側或いは下流側とは、血液透析中における血液の流れる方向によって区別するものとする。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係わる血液透析監視装置および専用の血液回路によると、プライミング工程が自動化されること、脱血工程において操作が簡易になり、プライミング液の患者体内への流入が防止でき、さらに脱血−血液透析開始−回収−終了までの一連の治療工程がプログラムにより自動化される。そのため、医療従事者がベッドサイドに拘束される時間が大幅に短縮され、血液透析治療に係わる医療業務の顕著な効率化と省力化に寄与する。
【0011】
終了時に動・静脈穿刺針の抜去操作も容易になり、血液汚染の頻度も減少させることができる。一連の作業が極めて単純化されることから、従来のように透析業務従事者の熟練も必要としない。また、プライミングでは十分量の逆濾過透析液を洗浄に使用することから、通常の生理食塩水1Lを使用した洗浄よりも十分な洗浄が行われ、体外循環回路の清浄度が高まる。さらに、治療中の血圧低下発生の際にも、補液を迅速かつ簡便に実施できる。プライミングや補液に生理食塩水を使用しないことも経済的メリットとなる。以上のように、本発明は血液透析治療の効率化、省力化、安全性向上、コスト削減に多大の効果をもたらすものと期待される。
【0012】
本発明に係わる一実施態様の血液透析装置では、除水と透析液の逆濾過補液に係わるポンプを兼用としたため、プライミング・脱血・血液透析治療・血液回収のいずれにおいても除水/補液ポンプ(P4)は正逆いずれかの方向に稼働しているため、除水/補液用バイパスラインの流路に実質的に停滞がなく、従って回路内に細菌が増殖する危険がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係わる血液透析装置では、(1)透析液を透析器を介した逆濾過により血液回路に注入して血液回路の自動洗浄(プライミング)を十分に行う、(2)血液ポンプと第3送液手段を同期させることにより、動脈側および静脈側の穿刺針と、動脈側および静脈側血液回路とを同時に接続した後、除水により血液回路内および透析器内の生理食塩水を血液で置換する、(3)血液透析中、第3送液手段を作動させることにより、任意の速度で任意の量の透析液を(前述の逆濾過によって)急速補液する、(4)治療終了後、第3送液手段と血液ポンプを連動制御することにより、血液回路を脱離せずに動脈側および静脈側血液回路内の血液を(前述の逆濾過によって)患者体内に返血するものであることを目的としている。
【0014】
また、本発明は前記血液ポンプおよび第3送液手段、ならびに前記開閉手段とを連動させることによって、血液透析開始前におけるプライミング工程、血液透析開始時における患者から血液循環系への脱血工程、脱血工程から血液透析(血液循環)工程へ移行させる開始機構、血液透析工程中に透析血液回路への補液を行う補液機構、血液透析終了時に血液循環系から患者への返血を行う返血工程の各工程および各機構を自動的に行う前記血液透析装置である。
【0015】
特に、血液循環系に設けた血液ポンプおよびオーバーフローラインを連結したチャンバー、そのチャンバーの上流側および下流側に設けた流路の開閉手段と、透析液送液系の前記バイパスラインに設けた除水/補液のための第3送液手段を連動させ、その連動制御を各工程或いは機構にのみ限定せず、上述のプライミング工程、脱血工程、(血液透析)開始機構、補液機構、返血工程等の一連の作業フロー全体に適用したことによって、各工程間の移行が容易にスムースになり、移行に伴う人的作業が軽減され、且つ操作ミスも減少できる。
【0016】
そのため、前記血液ポンプ、第3送液手段、前記2つ以上の開閉手段については、これらを連動制御する制御手段を有する血液透析装置が望ましい。
【0017】
上記の血液透析装置のうち、透析液供給ラインに設けられた第1送液手段の上流側と下流側とをバイパスする第1バイパスライン、或いは透析液排液ラインに設けられた第2送液手段の上流側と下流側とをバイパスする第2バイパスラインのいずれか1つに、正逆両方向に送液可能な第3送液手段を設けることにより、1つの送液手段で、血液循環系への除水および補液の両方の目的に利用できる。
【0018】
即ち、透析液供給側に設けた第1バイパスラインに水流ポンプを設置し、第1送液手段(透析液送液ポンプ)と同方向に送液すると、透析器に流入する透析液は、透析器から流出する液量よりも多くなり、その結果、血液循環系への補液が行われる。上記とは逆方向に送液すると、反対に透析器への流入液量は流出液量より少なくなり、その結果、血液循環系からの除水が行われる。
【0019】
上記の機構は、透析液排液側に設けた第2バイパスラインに水流ポンプを設置して、送液方向を切換えることによっても、同様に行うことができる。この場合は、第2送液手段(透析液排液ポンプ)と同方向に送液すると、透析器から流出する排液量は、透析器に流入する液量よりも多くなり、その結果、血液循環系からの除水が行われる。逆方向に送液すると、反対に透析器への流出液量は流入液量より少なくなり、その結果、血液循環系への補液が行われる。第2バイパスラインにポンプを設置して、補液或いは除水を行う実施態様は、透析液流量に制限のある個人用透析装置に適用するのが好ましい。個人用透析装置に適用する場合、第2バイパスラインのみにポンプを設置しても良いが、第1バイパスラインにもポンプを設置することによって、補液または除水の送液能力を増加させることができる。
【0020】
本実施態様では、除水/補液のための特に複雑な構造は必要でない。透析液送液回路ならびにバイパスラインが単純であり、また両バイパスラインのいずれか1つに上記の第3送液手段を設けることによって、透析液の滞留が生じ難いという利点がある。つまり、血液透析の全工程で透析液送液系に設けた第3送液手段が、ほとんど絶え間無く作動するために上記バイパスラインに実質的な滞留が生じない。常時回路に流れが維持されることにより透析液の2次的な細菌増殖を抑え、エンドトキシン汚染を回避できる。
【0021】
さらに、第1バイパスラインに前記第3送液手段を設けることにより、バイパスライン内に透析液排液が流通せず、その結果バイパスラインの汚染、排液中の老廃物によるラインの目詰まり等の心配が無い。
【0022】
前記動脈側血液回路或いは静脈側血液回路のいずれか、または両方の血液回路に気泡検知手段を装着することによって、血液回路内に混入した気泡を迅速に検知し、施術者に報知して何らかの対処を促すことができる。
【0023】
前記動脈側血液回路に血液ポンプを設け、静脈側血液回路に、液を血液回路外にオーバーフローするためのオーバーフローラインを連結したチャンバーと、該チャンバーの上流側およびオーバーフローラインにピンチバルブ等の開閉手段を設けることによって、プライミング工程では、血液回路の洗浄と気泡除去が効率的に行うことができる。また上記構成によって、返血工程ではエアーの混入や誤穿刺や血液汚染等が防止でき、医療従事者の負担軽減になると共に、迅速に且つ安全に返血することができる。
【0024】
前記動脈側血液回路に可撓性のソフトセグメント、ヘパリン注入セグメントを有し、前記静脈側血液回路に圧監視ラインを設けることによって、脱血不良、血液凝固、血液回路の狭窄や閉塞等による異常を早期発見できる利点がある。
【0025】
前記第3送液手段は、定量型の水流ポンプが望ましく、送液能力は血液循環系に設けた血液ポンプの送液量に関連して規定すべきであり、0〜500ml/minの送液流量(送液能力)を有するものが好ましい。
【0026】
本発明においては、超純度の透析液の安定供給が治療の前提となっている。図1のごとく、透析液製造装置から供給された透析液は、本発明に係わる自動血液透析装置(H)の入口部に設置された限外濾過フィルター(F)を透過させることにより、溶存するエンドトキシンや細菌などの不純物を除去する。一般に透析液製造装置から供給される透析液はあらかじめ定められた水質基準(九州HDF検討会誌 1:33−42、1995)に則って浄化しておくことが望ましい。
【0027】
血液透析監視装置→透析液流量調節装置(M)は、透析液送液機構として密閉系を有する一般的な性能を具備した上で、透析液送液ライン側の第1送液手段である透析液送液ポンプ(P2)の上流側6と下流側7との間に両者を連結する第1バイパスラインのバイパス回路(L6)を新設し、このバイパス回路に第3送液手段[以下、除水/補液ポンプ(P4)ともいう]を装着する。除水/補液ポンプ(P4)は正逆両方向に駆出方向の切り替えが可能で流量を0〜500ml/min(好ましくは0〜200ml/min)程度に制御できる水流ポンプである。
【0028】
ここで、透析液排液ラインに第3送液手段を設けても、血液透析器の逆濾過による血液循環系への除水/補液が可能である。即ち、透析液排液ライン側の第2送液手段である透析液排液ポンプ(P3)の上流側と下流側との間に両者を連結する第2バイパスラインを設け、このバイパスに除水/補液ポンプ(P4)を装着しても良い。しかし、既述したように透析液送液ライン側にバイパスを設けた方が衛生的でポンプへの蛋白付着や目詰まり等が防止できるので、好ましい。また、上記理由のため、透析液流量を増やさなくて良い等利点を有する。なお、体外循環を維持するための血液ポンプ(P1)も正・逆両回転の制御を可能なものとする。
【0029】
自動血液透析装置(H)の血液回路は図2のごとく、動脈側血液回路(L1)と静脈側血液回路(L2)の2パートから構成され、動脈側血液回路(L1)は、動脈側穿刺針との接続部(1)、ソフトセグメント(S1)、ヘパリン注入セグメント(S2)、ポンプセグメント(S3)および血液透析器Dとの接続部(2)を有する。静脈側血液回路(L2)は、血液透析器との接続部(3)、静脈チャンバー(C)、オーバーフローライン(L3)、静脈圧(血圧)監視ライン(S4)、静脈側穿刺針との接続部(4)から成る。
【0030】
本回路は、治療終了時の回収工程の際に、動脈側血液回路(L1)内の血液が、通常と逆方向に流れて体内に返血される点を考慮し、回路内で血栓が形成されにくい構造となっている。すなわち、(1)ヘパリン注入セグメント(S2)は、動脈側穿刺針との接続部(1)に可及的近い位置に合流させる、(2)動脈側血液回路(L1)に従来標準装備されている動脈チャンバーを有さない、(3)血流確保の確認用に標準装備されているピロー(回路内に挿入した枕状の構造物)の代わりにソフトセグメント(S1)を段差なく挿入している点が特徴である。ソフトセグメント(S1)は他の部位よりも軟らかい材質を用いることにより、従来のピローと同様に血流不良時に発生する極端な陰圧化で虚脱し、血流不良を肉眼でスクリーニングできるようにしている。
【0031】
血液透析装置(H)は、2つの気泡検知器(AD1、AD2)を有する。気泡検知器1(AD1)は動脈側血液回路(L1)の接続点1近傍に取り付け、返血時に空気が検知された場合には血液ポンプ(P1)を直ちに緊急停止させ、体内へ空気が誤注入されるのを防止する。気泡検知器1(AD1)により、血液透析治療中の動脈側穿刺針の抜針事故も検知することができる。気泡検知器2(AD2)は静脈側血液回路(L2)の接続点4の近傍に取り付け、治療中および返血時に空気が検出された場合に血液ポンプ(P1)を直ちに緊急停止させるとともにピンチバルブ(PV1)を閉じることにより、体内へ空気が誤注入されるのを防止する。
【0032】
血液透析監視装置(H)は、自動プライミング工程に係わる2つのピンチバルブ(PV1およびPV2)を有し、ピンチバルブ1(PV1)は静脈側血液回路(L2)の接続点3と静脈チャンバー(C)の間の部位に設け、また、ピンチバルブ2(PV2)はオーバーフローライン(L3)に設ける。
【0033】
本血液透析装置(H)では、特に血液ポンプ(P1)、除水/補液ポンプ(P4)、静脈側血液回路の開閉手段であるピンチバルブ1(PV1)、ピンチバルブ2(PV2)を連動制御させることが重要であるため、これらの構成要素を相互に連動させ、且つ他の構成要素の変化に合わせて、構成要素を制御できる制御手段Gおよび各構成要素を連絡する伝達系gを設けるのが望ましい。制御手段Gは、血液透析装置一般の各種モニター類や安全装置を内蔵した血液透析コンソールに設けるのが望ましい。
【実施例】
【0034】
(1)自動プライミング工程
血液透析器(D)と血液回路(L1、L2)を接続して本血液透析装置(H)をセットしておき、血液回路(L1、L2)の先端1および4を短絡しておく。透析液製造装置から送液された透析液で、本血液透析装置(H)内の充填水と透析液の液置換をおこなった後、透析液回路を8および9点で定型的に血液透析器(D)と連結する。以上の準備ができた時点で自動プライミングスイッチを入れてプログラムを起動させる。自動プライミングスイッチを入れると同時に本装置(H)の血液透析器(D)に連なる透析液回路(L4よびL5)が密閉系を保つものとする。自動プライミングは以下の5段階の工程から成る。
【0035】
ピンチバルブ1(PV1)閉、ピンチバルブ2(PV2)開の状態で除水/補液ポンプ(P4)を任意の速度で補液方向に作動させ、透析液送液ライン(L4)の上流側6から下流側の7に透析液を注入し、血液透析器を介して逆濾過で透析液を血液回路内へ移行させるのと同期させ、かつ同じ流速で血液ポンプ(P1)を逆回転で作動させることにより、血液透析器(D)の動脈側部分、動脈側血液回路(L1)全体、および静脈側血液回路(L2)の末端4から静脈チャンバー(C)までを任意の時間設定で洗浄する。洗浄液はオーバーフローライン(L3)より排液される。
【0036】
血液ポンプ(P1)を任意の速度で正回転させ、ピンチバルブ1(PV1)開、ピンチバルブ2(PV2)閉の状態にし、血液透析器(D)、血液回路(L1、L2)の逆濾過透析液を任意の時間循環させる。ピンチバルブ1(PV1)およびピンチバルブ2(PV2)共に開の状態で、除水/補液ポンプ(P4)を補液方向に任意の流速で、そして血液ポンプ(P1)を正回転方向に任意の流速で作動させ、血液透析器(D)を介して透析液を逆濾過注入し、血液透析器(D)および血液回路(L1、L2)内を循環させながら、逆濾過量、例えば50ml/minと同量の循環液をオーバーフローライン(L3)から排液させる。ここでは、除水/補液ポンプ(P4)の流量<血液ポンプ(P1)の流量と設定する。
【0037】
ピンチバルブ1(PV1)開、ピンチバルブ2(PV2)閉の状態で、血液透析器(D)および血液回路(L1、L2)内のプライミング液を、血液ポンプ(P1)を正回転で循環させながら、次の脱血工程まで待機させる。このとき、除水/補液ポンプ(P4)は一時的に停止している。但し、このプライミング工程は、上記のように再循環のみで待機しても良いし、補液ポンプ(P4)と連動して、L3から液をオーバーフローさせながら循環して待機しても良い。
【0038】
(2)自動脱血/透析プログラム(工程)
穿刺後、動・静脈穿刺針と血液回路(L1、L2)を同時に接続した後、自動的に脱血から透析治療に移行するプログラムである。
【0039】
まず、マニュアル操作により、当該治療の目標除水量(除水速度)、治療時間、および治療中の血液流量、ヘパリンの初回及び持続注入量の設定値を血液透析監視装置(コンソール、図示せず)に入力する。動・静脈側の穿刺を行う。プライミング工程で連結していた動・静脈側血液回路(L1、L2)をそれぞれクランプした上で離脱する。動・静脈穿刺針と動・静脈血液回路(L1、L2)を同時に接続し、それぞれのクランプを解除する。液面調整が必要な場合は、予め静脈チャンバーを調整しておく。自動で脱血から血液透析に移行させることを指令するスイッチ(自動脱血/透析スイッチ)を入れることにより当該プログラムが起動する。
【0040】
当該プログラムは以下の工程で構成される。初めに、自動脱血/透析スイッチが作動すると同時に除水/補液ポンプ(P4)を除水方向に、そして血液ポンプ(P1)を同期させて正回転方向に作動させる。ピンチバルブ1(PV1)を閉にすることにより、血液透析器(D)および動脈側血液回路(L1)の充填プライミング液を血液透析器(D)から排出する。除水/補液ポンプ(P4)による除水速度と血液ポンプ(P1)による脱血速度は同一になるように設定し、脱血時間はこの工程による除水量が血液透析器(D)および動脈側血液回路(L1)の充填プライミング液量と同一になるように予めプログラム登録しておく。さらに、脱血開始により任意の時間(例えば2秒)後に、ヘパリンの初回注入が実施されるようにする。標準的な脱血速度は100ml/min、脱血時間は1分30秒である。
【0041】
次に、所定の脱血時間が満了後、ピンチバルブ1(PV1)を開にし、事前に入力した除水量(除水速度)、治療時間、および血液流量に自動的に切り替わり透析治療に移行する。透析治療への移行と同期して気泡検知器1、2(AD1、AD2)およびシリンジポンプのスイッチが自動的に作動する。
【0042】
(3)迅速補液操作
血液透析中に血圧の低下があった場合におこなうプログラム。作動させると一連の逆濾過透析液による補液操作が進行する。
【0043】
マニュアルで自動補液を行うことを指令する補液スイッチを入れる。あるいは自動血圧モニターと連動させて任意の血圧レベルで補液スイッチを作動させるようプログラムすることもできる。補液スイッチの作動とともに、除水/補液ポンプ(P4)が除水方向から補液方向に反転し、予めプログラムされた任意の速度で任意の時間(すなわち任意の量)で透析液送液ラインの上流側6より下流側7に透析液を注入し、血液透析器(D)を介して逆濾過で透析液を血液回路内側に補液する。除水/補液ポンプ(P4)は任意の所定時間(すなわち所定量)に達すると停止する。
【0044】
通常、1回の操作で100ないし200mlの補液が行われるように設定する。この間、逆濾過補液により静脈圧上昇を回避するため、血液ポンプ(P1)は停止させる。また、静脈圧計・透析液圧計警報の監視範囲を解除する。追加補液が必要であれば、マニュアルで補液スイッチを入れる操作を繰り返す。補液中に再度補液スイッチを入れると補液操作は停止する。補液操作終了後、任意の時間(例えば4分間)観察期を設け、血液ポンプ(P1)の流量を低速(例えば50ml/min)に保持して血圧の再低下を防止する。観察期終了後、事前の血流量に自動的に復帰する。除水速度も事前の値に自動的に復帰させるかどうかは、プログラム登録の際の任意選択とする。
【0045】
(4)自動回収(返血)プログラム(工程)
治療終了(治療時間および目標除水量の両者の到達)時点で自動的に体外循環の返血工程に移行するプログラムである。任意の時点でマニュアル指令で自動回収を起動させることもできる。
【0046】
治療終了もしくはマニュアルで自動返血スイッチを入れることにより当該プログラムが起動する。プログラムの起動とともに、血液透析監視装置(M)の透析液供給系(P2、P3など)およびシリンジポンプは自動停止する。また、静脈圧計/透析液圧計警報は解除される。除水/補液ポンプ(P4)が補液方向に予め設定した任意の速度で作動し、血液透析器(D)から透析液を逆濾過させる。この際、血液ポンプ(P1)を同期させ、予め設定した任意の速度で逆回転させる。
【0047】
逆濾過透析液は除水/補液ポンプ(P4)の補液速度と血液ポンプの逆回転速度で規定される割合で、動脈側血液回路(L1)および静脈側血液回路(L2)に分配され、血液透析器(D)内およびそれぞれの回路内の血液を順次、動・静脈針を経由して体内に返血する。返血時間は任意に設定する。例えば、除水/補液ポンプ(P4)の速度を250ml/min、血液ポンプ(P1)の逆回転速度を150ml/min、返血時間1分とすると、動脈側血液回路(L1)および静脈側血液回路(L2)を通るリンス液の容量はそれぞれ150mlおよび100mlとなる。所定の返血時間到達後、血液ポンプ(P1)および除水/補液ポンプ(P4)を停止し、ピンチバルブ1(PV1)を閉の状態とし、回収工程の終了を告知灯もしくは告知音で知らせる。マニュアル操作で定型的に穿刺針を抜去、止血し治療を終了する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の全自動血液透析装置の一実施例の概略図である。
【図2】本発明の血液透析装置における血液回路図の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
H 自動血液透析装置
G 制御手段
g 伝達系
AD1 気泡検知器1
AD2 気泡検知器2
C 静脈チャンバー
D 血液透析器(ダイアライザー)
F 限外濾過フィルター(エンドトキシン除去フィルター)
L1 動脈側血液回路
L2 静脈側血液回路
L3 オーバーフローライン
L4 透析液送液ライン
L5 透析液排液ライン
L6 除水/補液用バイパスライン(第1バイパスライン)
M 透析液流量調節装置
P1 血液ポンプ
P2 透析液送液ポンプ(第1送液手段)
P3 透析液排液ポンプ(第2送液手段)
P4 除水/補液ポンプ(第3送液手段)
PV1 ピンチバルブ1(開閉手段)
PV2 ピンチバルブ2(開閉手段)
S1 ソフトセグメント
S2 ヘパリン注入セグメント
S3 ポンプセグメント
S4 静脈圧監視ライン
1 動脈側穿刺針と動脈側血液回路(L1)の接続点
2 動脈側血液回路(L1)と血液透析器の接続点
3 血液透析器と静脈側血液回路(L2)の接続点
4 静脈側血液回路(L2)と静脈側穿刺針の接続点
5 透析液監視装置への透析液供給部
6 第1バイパスラインの上流側
7 第1バイパスラインの下流側
8 透析液送液ライン(L4)と血液透析器の接続点
9 血液透析器と透析液排液ライン(L5)の接続点
a ヘパリン注入セグメント(S2)とヘパリンシリンジの接続点
b 静脈圧監視ライン(S4)と静脈圧モニターの接続点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析器Dと、
前記血液透析器Dに患者から導出した血液を流入させる動脈側血液回路L1と、
前記血液透析器Dから流出した血液を患者に戻す静脈側血液回路L2と、
前記血液透析器Dに透析液を供給する透析液供給ラインL4と、
前記血液透析器Dから透析液を排液する透析液排液ラインL5と、
前記動脈側血液回路L1に設けた正逆回転可能な血液ポンプP1と、
前記透析液供給ラインL4に設けた第1送液手段P2と、
前記透析液排液ラインL5に設けた第2送液手段P3と、
前記第1送液手段P2と第2送液手段P3のいずれか一方または双方の上流側と下流側を連絡するバイパスラインに設けた正逆回転可能な第3送液手段P4を備えて、血液透析開始前のプライミング工程、血液透析開始時の患者から血液循環系への脱血工程、血液透析中に透析血液回路へ補液する補液機構、および血液透析終了時に血液循環系から患者へ返血する返血工程を行う自動血液透析装置において、
前記静脈側血液回路L2にオーバーフローラインL3を連結したチャンバーCを、
前記チャンバーCと血液透析器Dの間に第1のピンチバルブPV1を、
前記オーバーフローラインL3に第2のピンチバルブPV2を、
さらに、前記血液ポンプP1と第3送液手段P4の回転、並びにピンチバルブPV1とピンチバルブPV2の開閉を制御する制御手段Gを備え、
前記制御手段Gによる血液ポンプP1と第3送液手段P4の流速または流量の調整によって、動脈側血液回路L1、静脈側血液回路L2と、透析液供給ラインL4、透析液排液ラインL5との間で液を移行させて、プライミング工程、脱血工程、補液機構、および返血工程の各工程および機構ならびにこれらの移行を自動的に行うことを特徴とする自動血液透析装置。

【請求項2】
プライミング工程において、
(A)ピンチバルブPV1を閉、ピンチバルブPV2を開の状態で第3送液手段P4を任意の速度で補液方向に作動させ、透析液供給ラインL4の上流側から下流側に透析液を注入し、血液透析器Dを介して逆濾過で透析液を血液回路内へ移行させるのと同期させ、かつ同じ流速で血液ポンプP1を逆回転で作動させることにより、血液透析器Dの動脈側部分、動脈側血液回路全体、および静脈側血液回路L2の末端からチャンバーCまでを任意の時間設定で洗浄し、洗浄液をオーバーフローラインL3より排液する工程、
(B)血液ポンプP1を任意の速度で正回転させ、ピンチバルブPV1を開、ピンチバルブPV2を閉の状態にし、血液透析器D、血液回路の逆濾過透析液を任意の時間循環させる工程、
(C)ピンチバルブPV1およびピンチバルブPV2を共に開の状態とし、第3送液手段P4を補液方向に任意の流速で、そして血液ポンプP1を正回転方向に任意の流速で作動させ、血液透析器Dを介して透析液を逆瀘過注入し、血液透析器Dおよび血液回路内を循環させながら、逆瀘過量と同量の循環液をオーバーフローラインL3から排液させる工程、
(D)ピンチバルブPV1を開、ピンチバルブPV2を閉の状態で、血液透析器Dおよび血液回路内のプライミング液を、血液ポンプP1を正回転で循環させながら、次の脱血工程まで待機させる工程、
を行い、自動プライミングを実施することを特徴とする請求項1に記載の自動血液透析装置。

【請求項3】
脱血工程において、第3送液手段P4については除水方向に、血液ポンプP1については正回転方向に作動させるとともに、ピンチバルブPV1を閉じることにより、血液透析器Dおよび動脈側血液回路L1の充填プライミング液を血液透析器Dから排出させ、所定の脱血時間の満了後にピンチバルブPV1を開いて、脱血工程から血液透析への移行を自動的に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の自動血液透析装置。

【請求項4】
脱血工程から血液透析へ移行させる際に、血液ポンプP1による脱血速度が、第3送液手段P4による除水速度と同一になるように作動させて、脱血工程から血液透析への移行を自動的に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動血液透析装置。

【請求項5】
補液機構において、第3送液手段P4を補液方向に作動させ、予めプログラムされた任意の速度で任意の時間で、血液透析器Dを介して逆濾過で透析液を血液回路に補液することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動血液透析装置。

【請求項6】
補液機構において、第3送液手段P4による逆濾過補液中は、血液ポンプP1を停止することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動血液透析装置。

【請求項7】
補液機構において、補液操作終了後、任意の時間だけ血液ポンプP1の流速を低速に保持することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動血液透析装置。

【請求項8】
返血工程において、第3送液手段P4を予め設定した速度V1で補液方向に作動させて血液透析器Dから透析液を逆濾過させるとともに、血液ポンプP1を予め設定した速度V2で逆回転させることにより、逆濾過した透析液を、第3送液手段P4の速度V1と血液ポンプP1の逆回転速度V2で規定される割合で、動脈側血液回路L1および静脈側血液回路L2に分配して、それぞれの回路内の血液を体内に返血した後、血液ポンプP1と第3送液手段P4を停止するとともにピンチバルブPV1を閉止することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の自動血液透析装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−7435(P2007−7435A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230525(P2006−230525)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【分割の表示】特願平11−138327の分割
【原出願日】平成11年5月19日(1999.5.19)
【出願人】(303019042)有限会社 北九州生命情報科学院 (1)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】