説明

自動複数デカント遠心分離器

【課題】いくつかの遠心分離工程を必要とする化学処理を自動化することによって、医師が必要とする時間を短縮化し、間違いが発生する可能性を緩和する。
【解決手段】遠心分離器は、遠心分離中かまたは遠心分離後、標本容器を選択された方向に保持することによって、容器の2つ以上のチャンバの間に上澄み液を排出することが可能である。排出は、重力排出または遠心排出であり得る。これによって、標本に第1の物理的または化学的処理を施して第1の上澄み液を生成するための自動化プロセスが可能となる。第1の上澄み液には、第2の物理的または化学的処理がほどこされ、第2の上澄み液は所望の成分から分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動遠心分離技術に関する。より詳細には、本発明は、遠心分離を用いる自動複数デカントを使用する装置および方法に関する。好適な実施態様においては、自動化された方法によって、血液からフィブリノーゲンを分離する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離による成分の分離は公知である。例えば、医療分野において、血液の標本を遠心分離にかけて細胞物質の沈殿および血漿の上澄み液を生成することは一般的である。次に血漿はデカントされ、これらの成分の分離が完了する。
【0003】
Wellsによる米国特許第5,178,602号(特許文献1)および米国特許第5,047,004号(特
許文献2)は、自動化遠心分離器を示している。この自動化遠心分離器は、遠心分離後、遠心分離管を、上澄み液が該管から他の容器に重力によって排出されることが可能となるような位置に保持するような構造を有している。これらの特許に示される保持構造は、遠心分離器の回転軸に対する軸方向運動のために取り付けられるロック機構を有する。制御が容易な電磁石によって、軸方向運動が行われる。
【0004】
遠心分離排出プロセスによって上澄み液をデカントすることもまた公知である。このプロセスによると、遠心分離器が遠心分離管を回転させる間、該管は、上澄み液が遠心分離力によって該管から排出されるような位置に保持される。
【0005】
傷を治療するためのフィブリン密封剤は公知であり、典型的にはフィブリノーゲン/第XIII因子成分をウシトロンビンと混合することによって生成される。これらが混合されると、フィブリン組織接着剤が生成されて傷に塗布される。組織接着剤用に使用される組成物についての説明は、Bassらによる米国特許第5,292,362号(特許文献3)および第5,209,776号(特許文献4)に与えられている。フィブリノーゲンは貯蔵または自己由来の(pooled or autologous)血漿から得られ、寒冷沈降反応は、血漿からフィブリノーゲンを分離するための公知の技術の1つである。寒冷沈降反応技術の1つが米国特許第5,318,524号(特許文献5)に記載されている。この技術では、解凍(thawing)血漿を遠心分離することによってフィブリノーゲン/第XIII因子を含む沈殿を生成する。フィブリノーゲン/第XIII因子を生成するためのその他の技術では、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコール(PEG)のような薬剤を血漿に添加することによって成分の沈殿を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,178,602号明細書
【特許文献2】米国特許第5,047,004号明細書
【特許文献3】米国特許第5,292,362号明細書
【特許文献4】米国特許第5,209,776号明細書
【特許文献5】米国特許第5,318,524号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
所望の成果に応じて遠心分離器の動作のための多くのさまざまなプログラムが開発され得るが、好ましい動作は自己由来のフィブリノーゲン生成のためのものである。フィブリノーゲンを生成するための従来の技術はいくつかの別個の工程を必要とし、これらの工程はそれぞれ注意を要し間違いの起こる場合がある。これらの工程には、細胞成分から血漿を分離する工程、血漿を沈殿剤で処理する工程、およびフィブリノーゲン沈殿「顆粒(pellet)」を血漿から分離する工程が含まれる。血液からの血漿分離および血漿からのフィブ
リノーゲンの顆粒分離には、典型的には、まず血液を遠心分離し、次に血漿を遠心分離することが必要である。これらの工程と工程との間に、少なくとも1つの沈殿剤を添加しなければならない。従って、従来技術によるフィブリノーゲンの生成は、複雑で間違いが発生しやすかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1)遠心分離される物質を受容するための複数のチャンバと、該チャンバを回転して該物質を遠心分離にかけるための手段と、該チャンバを第1の設定の位置にロックして、該チャンバの内の第1のチャンバ内の上澄み液が、該チャンバの内の第2のチャンバに排出されることを許容する手段と、を備える遠心分離器。
(項目2)前記ロック手段が、前記第2のチャンバ内の上澄み液を前記チャンバの内の他方へと排出するように前記チャンバを第2の設定の位置にロックすることが可能である、項目1に記載の装置。
(項目3)前記第1および第2のチャンバが、前記回転手段から取り外し可能な容器の一部である、項目2に記載の装置。
(項目4)前記ロック手段は、前記チャンバの内の1つの中に存在する上澄み液が、重力排出によって該チャンバの内の他方へと流入するように該チャンバをロックすることが可能である、項目2に記載の装置。
(項目5)前記ロック手段は、前記チャンバの内の1つの中に存在する上澄み液が、遠心排出によって該チャンバの内の他方へと流入するように該チャンバをロックすることが可能である、項目2に記載の装置。
(項目6)前記ロック手段は、前記第1のチャンバ内の上澄み液が重力排出によって前記第2のチャンバ内に流入するように該第1のチャンバをロックし、該第2のチャンバ内の上澄み液が遠心排出によって該第1のチャンバ内に流入するように該第2のチャンバをロックする、項目2に記載の装置。
(項目7)前記ロック手段が、移動可能なプレートと、該プレートの位置を制御するための手段とを備える、項目2に記載の装置。
(項目8)前記制御手段が電気によるものである、項目7に記載の装置。
(項目9)前記制御手段が磁力によるものである、項目8に記載の装置。
(項目10)前記回転手段を設定の時間起動し、前記ロック手段を起動して前記第1のチャンバ内の上澄み液を前記第2のチャンバ内に流入することを可能とし、該回転手段を再び起動し、および該ロック手段を再び起動して該第2のチャンバ内の上澄み液が該第1のチャンバ内に流入することを可能とすることによって、自動化複数デカントを行うために、該ロック手段および該回転手段を制御する手段をさらに備える、項目2に記載の装置。(項目11)前記ロック手段は、前記第1のチャンバ内の上澄み液が前記第2のチャンバ内に重力排出によって流入するように該第1のチャンバをロックし、該第2のチャンバ内の上澄み液が該第1のチャンバ内に遠心排出によって流入するように該第2のチャンバをロックする、項目10に記載の装置。
(項目12)前記第1および第2のチャンバは、前記回転手段から取り外し可能な容器の一部である、項目11に記載の遠心分離器。
(項目13)前記第2のチャンバの前記内容の温度を制御するための手段をさらに備える、項目1に記載の遠心分離器。
(項目14)前記温度を制御する手段は、寒冷沈降反応のために前記内容を冷凍することが可能である、項目13に記載の遠心分離器
(項目15)第1および第2のチャンバを遠心分離器内に配置する工程と、該第1のチャンバを遠心分離にかける工程と、該第1のチャンバ内の上澄み液が該第2のチャンバに流入するように該チャンバを第1の位置にロックする工程と、該第2のチャンバを遠心分離にかける工程と、を包含する、成分自動分離方法。
(項目16)前記第2のチャンバ内の上澄み液が前記チャンバの他方へと流入するように
該チャンバをロックする工程をさらに包含する、項目15に記載の方法。
(項目17)前記チャンバの他方が前記第1のチャンバであり、該第1のチャンバ内の前記上澄み液が重力排出によって前記第2のチャンバ内に流入し、該第2のチャンバ内の該上澄み液が遠心排出によって該第1のチャンバ内に流入する、項目16に記載の方法。
(項目18)前記第2のチャンバを遠心分離にかける前記工程の前に、該第2のチャンバ内の前記上澄み液を冷凍する工程をさらに包含する、項目15に記載の方法。
(項目19)前記上澄み液を解凍する工程をさらに包含する方法であって、前記第2のチャンバを遠心分離にかける工程は、該上澄み液が解凍するに伴って行われる、項目18に記載の方法。
(項目20)前記第2のチャンバから前記第1のチャンバへと第2の上澄み液を排出する工程をさらに包含する、項目19に記載の方法。
(項目21)互いに流体が連通する少なくとも2つの分離したチャンバを有する容器の第1のチャンバに第1の物質を配置する工程と、
該容器を回転して該第1の物質を遠心分離し、該第1の物質を第1の成分と第2の成分とに分離する工程と、
該第1の成分が、該容器の第2のチャンバ内に流入できるような位置に該容器をロックする手段と、
該容器を再び回転して該第1の成分を遠心分離し、第3の成分と第4の成分とを生成する工程と、を包含する、物質の成分を分離する方法。
(項目22)前記第1の成分が、重力によって前記第2のチャンバ内に流入する、項目20に記載の方法。
(項目23)前記第3の成分が前記第1のチャンバ内に流入することが可能となるような位置に前記容器をロックする工程をさらに包含する、項目20に記載の方法。
(項目24)前記容器を回転することによって、前記第3の成分を遠心分離によって排出しながら、該第3の成分が該第1のチャンバに流入することが可能となるような位置に該容器をロックする工程をさらに包含する、項目23に記載の方法。
(項目25)前記第1の物質が血液を含み、前記第1の成分が血漿を含み、および前記第4の成分がフィブリノーゲンを含む、項目24に記載の方法。
(項目26)前記容器を回転させて前記第1の物質を遠心分離する工程の前に、前記第2のチャンバに沈殿剤が供給される、項目25に記載の方法。
(項目27)前記沈殿剤がポリエチレングリコールである、項目26に記載の方法。
(項目28)液体から沈殿物を分離するための、第1および第2の隣接するチャンバを備える装置であって、該第1および第2のチャンバが第1の方向に保持されるとき、該第1のチャンバ内の上澄み液が重力によって該第2のチャンバ内に流入し、該第1および第2のチャンバが第2の方向に保持されて遠心分離にかけられるとき、該第2のチャンバ内の第2の上澄み液が該第2のチャンバから該第1のチャンバに遠心排出によって流入するように、該第1のチャンバが該第2のチャンバに対して位置する装置。
(項目29)前記第1および第2のチャンバが、該第1および第2のチャンバ間の流体流通路を形成する壁によって接続されている、項目28に記載の装置。
(項目30)前記第1のチャンバを2つの部分に分割するための分割手段であって、前記第1および第2の成分の間の界面の所望の位置近傍に位置する該分割手段をさらに包含する、項目29に記載の装置。
(項目31)前記第1および第2のチャンバの内容があふれ出すのを防止すると同時に、注射器が該チャンバに流体を注入するかまたは該チャンバから流体を除去することを可能とする、該第1および第2のチャンバのカバーをさらに包含する、項目28に記載の装置。
(項目32)前記液体を遠心分離にかけるための遠心分離器と組み合わされた装置であって、前記第1の上澄み液が前記第2のチャンバ内に流入することが可能となるように前記チャンバを前記第1の方向にロックし、および該チャンバを回転させて前記遠心排出を行いながら該チャンバを前記第2の方向にロックする、項目28に記載の装置。
【0009】
いくつかの公知の化学処理では、2つ以上の成分の物理的分離が繰り返される。成分間の濃度の違いに基づいた分離は、しばしば遠心分離によって行われ、その結果得られる上澄み液がデカントされて分離が完了する。それぞれの工程において間違いの起こる可能性があるが、これはプロセスを自動化することによって緩和される。
【0010】
本発明による装置は、複数のチャンバ容器と遠心分離器を備える。遠心分離器は、容器を受容し、容器の内容を重力とともに所定の遠心分離にかけ、そして上澄み液の遠心分離デカントにかけるよう設計される。
【0011】
本発明による好適な容器は、第1のチャンバおよび第2のチャンバを備える。第1のチャンバおよび第2のチャンバは、中間壁によって分離されている。第1のチャンバは、人間の血液のような第1の液体を受容するように設計される。第2のチャンバは、第1のチャンバに隣接して位置し、チャンバ間の壁は、容器が適切な方向に保持される場合、重力によって第1のチャンバ内の上澄み液が壁の最上部をこえて流れ第2のチャンバ内に流入するように設計されている。そして第2のチャンバ内の上澄み液は、第2の遠心分離にかけられる。容器はまた、第2の位置に保持され得て、これにより第2の上澄み液は、第2の遠心分離によって発生する遠心力により、壁をこえて第1のチャンバ内に流入する。
【0012】
本発明による遠心分離装置は、複数チャンバ容器を受容するための揺動する(swinging)フレームを有する回転可能な支持体と、チャンバから上澄み液流体を排出するための少なくとも2つの位置のどちらかに容器をロックする手段とを備える。好ましくは、該ロック手段は、回転可能な支持体の回転軸に対して軸方向に運動するために取り付けられた、電磁石によって操作されるディスクである。遠心分離器は、好ましくは電気回路の制御下で操作される。電気回路の例としては、プログラムされたアレイ論理(PAL)(programmed array logic)またはその他の回路などがある。このような回路は、回転体を所定のプログラムに従って動作させ、ロック手段が回転体の動作と一致して容器を所定の方向にロックするようにロック手段を制御する。
【0013】
本発明の実施態様によると、患者の血液は容器の第1のチャンバ内に配置され、沈殿剤が第2のチャンバに配置される。次に、容器は遠心分離器の揺動フレームに配置され、制御回路が起動されて遠心分離器の動作が開始される。遠心分離器はまず、細胞成分を上澄み血漿から分離するのに適切なように定められた時間、容器を回転させる。この時間中、揺動フレームは、容器にかかる遠心力のために実質的に外側に向かって回転する。フレームが外側に向かって回転する位置にある間、ロック手段はフレームをその位置にロックするように起動する。次に、支持体の回転が終了する。支持体の回転速度が低下するに従って、上澄み液流体はそれ以上遠心力を受けなくなり、重力によって第1のチャンバから流出して第2のチャンバに流入する。細胞成分はより粘度が高いため、血漿よりも遅い速度で第2のチャンバに向かって流動する。しかしながら、好ましくはディスク状の分離器がチャンバ内に配置されて細胞成分の流動を制限する。ディスクは血漿が所定量となるような深さに位置し、通常は上澄み液と細胞成分との間の望ましい境界近傍に存在する。適切な量の血漿が第2のチャンバ内に流入できる所定の時間が経った後、ロック手段は停止して容器を解放する。これにより、容器は垂直位置となり、細胞成分が第1のチャンバ内に残り、血漿が第2のチャンバ内に残る。次に、回転可能な支持体が短時間、加速と停止を交互に行って、第2のチャンバ内で血漿を沈殿剤と混合させる。沈殿剤と血漿との間の相互作用によって血漿からフィブリノーゲンと第XIII因子の沈殿が始まる。次に、支持体が再び回転されてフィブリノーゲン/第XIII因子の沈殿を加速し、第2のチャンバ底部に顆粒を生成する。最終工程として、ロック手段が再び起動して、フィブリノーゲンの沈殿から生じる上澄み液が遠心排出によって第1のチャンバ内にデカントされるような位置に容器をロックする。この工程において、容器は実質的に垂直に保持され、支持体は
回転されて遠心力を上澄み液に与える。これにより、上澄み液はチャンバ間の壁を越えて第1のチャンバ内に流入する。次に、ロック手段が停止されて、容器が遠心分離器から取り外され、フィブリノーゲン/第XIII因子がさらに加工されるために第2のチャンバから除去される。好適な実施態様においては、その後フィブリノーゲン/第XIII因子が再構成され、トロンビンと混合されて患者に塗布され傷を治療する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、いくつかの遠心分離工程を必要とする化学処理が自動化されることで、医師が必要とする時間が短縮化され、間違いが発生する可能性が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による容器および遠心分離器の斜視図である。
【図2】本発明の好適な実施態様による容器の縦断面図である。
【図3】図3aおよび図3bは、図1に示される遠心分離器の部分縦断面図である。
【図4】図4a〜図4fは、本発明の遠心分離器を操作する好適な方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2を参照すると、本発明に従って遠心分離器2は容器4を受容するように設計されている。遠心分離器2は、容器4を下により詳細に説明する一連の工程にかけることが可能である。容器4は、少なくとも2つのチャンバ6および8を有する。チャンバ6は、血液などの処理されるべき第1の流体を受容するように設計される。チャンバ8は、チャンバ6からデカントされた流体、例えば、チャンバ6における血液の遠心分離によって発生する上澄み血漿などを受容するように設計される。
【0017】
容器の好適な形状を、図2に詳細に示す。図示されるように、容器4は3つの主要部分を備える。ベース部分は好ましくは金型によって成形されており、チャンバ6および8と、この2つのチャンバを接続するブリッジ7とを備える。蓋11もやはり好ましくは金型によって成形されており、チャンバ6および8の最上部にはめ合わさってそれらを閉鎖している。蓋11はカップ状の延長部12および14を有している。延長部12および14はそれぞれ、チャンバ6および8のそれぞれの中心に位置合わせされている。延長部12は中心に位置する開口部13を有し、延長部14は中心に位置する開口部15を有する。開口部13および15は注射器針を受容して、流体がチャンバ6および8内に注入されるかまたはチャンバ6および8から排出されることを可能とする。膜16および17は開口部13および15を保護して無菌状態を維持する。膜16および17は好ましくはその製造中、膜を受容するためのキャビティを設けることによって、延長部12および14に加熱封止される。膜が挿入された後、キャビティの上端部が折り返されて例えば超音波によって溶接され、膜を保持する。
【0018】
蓋11はまた、ブリッジ7’を有する。ブリッジ7’はベースのブリッジ7と組み合わさって、チャンバ6および8を接続する流体チャネル18を形成する。図示されるように、ブリッジ7はチャンバ6および8の最上部の上に延びて、「はね(splashing)」による
チャンバ6および8間の連通(communication)を防止する。2つのチャンバ6および8間
の意図的な流体連通は、以下により詳細に説明する。
【0019】
分離ディスク20は、好ましくはチャンバ6内に配置される。該分離ディスク20は、血液標本の第1の遠心分離後、上澄み血漿と細胞成分間の境界の、所望の垂直位置近傍、ただし常に上に配置される。ヘマトクリットは個人によって異なることが知られており、血液標本から生じる正確な血漿量を、標本を予め試験することなく正確に特定することは不可能である。従って、ディスク20は、所定量の血液が遠心分離された後、ディスク20上の血漿が所定量となるように位置される。ディスク20の上部表面は、端部に向かってテーパー状となっており、この端部は少なくとも1つの溝22を有する。溝22によって、ディスク20の上下にあるチャンバ6の部分間の流体の連通が可能となる。
【0020】
好適な実施態様においては、円筒形支持部24はディスク20の下部表面に接着されて、アセンブリ中ディスク20の位置を設定する。
【0021】
中空の管26は、ディスク20下のチャンバ6の部分に血液標本が容易に導入されるように設けられる。管26は開口部13直下からディスク20に延びる。従って、開口部13を通じて挿入される注射器針は膜16を貫通して管26と連通し、これにより血液標本がチャンバ6の底部に挿入される。溝22によって、遠心分離中、血漿および細胞成分の垂直運動が可能となるが、デカント中、細胞成分の運動は遅くなる。また、チャンバ8には、流体の導入および排出が容易に行われるように通気孔27が設けられている。
【0022】
図1に示されるように、容器4は使用時に、遠心分離器の回転体にあるホルダに配置される。回転体のバランスをとるため、好ましくはこのような容器が2つ、遠心分離器に正反対の位置に配置される。当然のことながら、容器は1つだけでも使用され得、回転体のバランスをとるためにおもりまたは「疑似(dummy)容器が使用され得る。
【0023】
図3aおよび図3bは、遠心分離器の好適な実施態様における部分断面図であり、2つの異なる位置にロックされた容器を示している。回転軸28は、該軸28を回転させるモータ(図示せず)に接続されている。回転体30は回転のための軸28に取り付けられおり、ピボット接続34において回転可能に回転体30に取り付けられているフレーム32を有する。フレーム32の最上表面(図示せず)にはチャンバ6および8を受容するための2つの円形開口部が設けられており、これにより容器4は、回転体が回転するときに容器4の内容が遠心力を受けるように、フレーム32に配置され得る。バイアスばね35によって、遠心分離が終了したときフレーム32は回動して確実に垂直な位置となる。フレーム32はまた、当該分野において公知のように、空気抵抗を緩和するような形状にもされ得る。
【0024】
ロックプレート36は、フレーム32を係合するための軸28と同軸状に取り付けられて、容器4を所望の方向にロックする。プレートおよびプレートの位置を制御するための機構は実質的には、以前本発明者が米国特許第5,178,602号にて示したものと同じである
。例えば、電磁石38は、ロックプレート36に接着された永久磁石40に対する作用によってロックプレート36の位置を制御するように設けられ得る。
【0025】
好ましくは、電磁石38および磁石40は、ロックプレート36が2つの位置のどちらかに配置され得るように位置する。第1の位置においては、点線で示されるように、プレート36はフレーム32に係合せず、フレーム32はピボット34について自由に回転する。第2の位置においては、36’の実線で示されるように、ロックプレート36はフレーム32の2つの部分の内の1つに係合して、それを2つの内から選択された1つの方向に保持する。図3aに示される位置において、プレート36の縁はフレーム32の突起42に係合して、図3aに示される方向の容器4をロックする。図3bに示される位置において、プレート36はフレーム32の上端部に係合し、図3bに示される傾いた位置に容器4をロックする。ロックプレート36は、好ましくは回転体30と共に回転することによって、容器4の内容が遠心分離される間、フレーム32と係合するように運動し得る。
【0026】
本発明の好適な実施態様における遠心分離器の動作を、図4a〜図4fを参照しながら説明する。第1の工程において、血液は開口部13を通って容器のチャンバ6に導入される。血液は好ましくは患者から採取されたものであるが、貯蔵されるかまたは他の人物から採取されたものでもあり得る。次に、ポリエチレングリコール(PEG)などの沈殿剤43が、好ましくは開口部15を介して注入されることによって、チャンバ8内に配置される。血液および沈殿剤を有する容器は次に、自動化動作のための遠心分離器に配置される。
【0027】
自動化動作の第1工程において、血液が遠心分離にかけられるに伴って容器は自由に揺動することができる。図4aに示されるように、血液の細胞成分44はこの工程において
、血漿成分46から分離される。所定の時間、例えば5分後、ロックプレート36は参照符号36’に示される位置に移動し、これにより容器4は図3bおよび4bに示される位置に保持され、回転体の回転が停止する。この位置において、血漿成分46は重力によってチャネル18を通って流出する。チャンバは図4bに示される位置に、好ましくは約3秒間保持される。約3秒間という時間は、血漿が重力によってチャンバ8内に流入するには適当であるが、より粘度の高い細胞成分44がチャンバ8内に流入するほどは長くない。血漿46およびあらかじめチャンバ8内に配置されている沈殿剤43は、ここで両方ともチャンバ8内に入る。これらの流体を完全に混合するために、ロックプレートが低下され、図4cに示されるように、回転体が10〜20秒間加速と減速とを交互に行う。沈殿剤によって、フィブリノーゲン/第XIII因子が血漿から分離する。この分離は、容器4の内容を再び遠心分離することによって手助けされる。この二度目の遠心分離は、約5分間行われ得る。そして、図4dに示されるように、チャンバ8の底部にフィブリノーゲン顆粒48が形成される。この段階において、血漿上澄み液46がチャンバ8に残る。
【0028】
遠心分離器回転体の回転を停止し、容器4が回動して図3aおよび図4eに示される垂直位置となるようにすることによって、血漿46はフィブリノーゲン顆粒48から分離される。次に、ロックプレート36が起動して突起42と係合することによって容器をその方向にロックし、そして容器4は再び回転体によって約3〜8秒間、回転する。この回転によって、図4eに示されるように、遠心排出によって上澄み血漿46がチャネル18を逆流し、チャンバ6内に流入する。このようにして、フィブリノーゲン顆粒と血漿とが分離される。最終工程として、容器4は約5秒間、図4fに示される次の遠心分離にかけられて、フィブリノーゲン顆粒48がチャンバ8の底部に残される。
【0029】
この時点で、フィブリノーゲン生成のための自動化プロセスが完了し、フィブリノーゲン顆粒は好ましくは注射器によってチャンバ8から抽出されてさらに加工される。例えば、フィブリノーゲンは再構成されトロンビンと混合されて封止剤または接着剤を生成し得る。
【0030】
本発明の装置は他の自動化プロセスにも使用し得る。例えば、血液からフィブリノーゲンを分離するための本発明の構成による他の技術では、寒冷沈降反応を使用する。この技術によると、血漿は約−20℃に冷却され、解凍され、そして遠心分離にかけられて血漿からフィブリノーゲンが分離される。本発明による複数デカント装置は、遠心分離器と熱接触する温度制御装置50を備えることによって、自動化寒冷沈降反応に使用し得る。温度制御装置はいかなる公知の構造でもあり得、その例としては、液体窒素または液体酸素を用いる装置および冷却装置などがある。
【0031】
自動化寒冷沈降反応を行うために、血液標本を第1のチャンバ8内に配置し、そして容器4を遠心分離器に配置して第1の遠心分離にかける。次に、血漿が、例えば、重力排出によって第2のチャンバ8に排出される。次に、温度制御装置が起動してまず血漿を冷凍し、次に血漿を解凍する。解凍された血漿は第2の遠心分離にかけられて、フィブリノーゲンが血漿の残存分から分離される。そして、フィブリノーゲンを、例えば遠心排出によって第1のチャンバに逆流することによって、上澄み血漿がフィブリノーゲンから分離され、これにより、フィブリノーゲンのみが第2のチャンバに残る。次に、容器が遠心分離器から取り外され、フィブリノーゲンが容器から除去されて上述のように使用される。当然のことながら、冷凍解凍遠心分離プロセスは、上澄み液が第1のチャンバ内に逆流される前に何回実施されてもよい。
【0032】
本発明を添付のクレームの範囲内で改変することは、当業者にとって自明である。
【符号の説明】
【0033】
2 遠心分離器
4 容器
6 チャンバ
7 ブリッジ
8 チャンバ
12 延長部
14 延長部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離される物質を受容するための複数のチャンバと、該チャンバを回転して該物質を遠心分離にかけるための手段と、該チャンバを第1の設定の位置にロックして、該チャンバの内の第1のチャンバ内の上澄み液が、該チャンバの内の第2のチャンバに排出されることを許容する手段と、を備える遠心分離器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−45883(P2011−45883A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234089(P2010−234089)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願平8−112804の分割
【原出願日】平成8年5月7日(1996.5.7)
【出願人】(591144534)
【氏名又は名称原語表記】JOHN R.WELLS
【Fターム(参考)】