説明

自動車のインストルメントパネル取付装置

【課題】 インストルメントパネルに固定された取付部材を車体のカウルトップに連結して、そのインストルメントパネルをカウルトップに取り付ける自動車のインストルメントパネル取付装置において、事故発生時にウインドシールドに人体が当ったとき、インストルメントパネルを大きく変形させ、効率よくエネルギーを吸収できるようにする。
【解決手段】 インストルメントパネル2に固定された取付部材12は、カウルトップ3のフランジ部7を挟み付けて、その取付部材12をカウルトップ3に離脱可能に連結する二股部13を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルに固定された取付部材を車体のカウルトップに連結して該インストルメントパネルをカウルトップに取り付ける自動車のインストルメントパネル取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の自動車には、その車室前部に、ダッシュボードとも称せられているインストルメントパネルが配置されており(例えば、特許文献1参照)、かかるインストルメントパネルを取付装置によって車体に取り付けることも従来より公知である。図7は従来の取付装置によって車体に取り付けられたインストルメントパネルを示す断面図である。図7において、符号1Aは、車室の前部を区画するウインドシールドであり、2Aは運転席と助手席の前方に配置されたインストルメントパネルである。また符号3Aは、車体4Aのほぼ幅方向に延びるカウルトップであり、このカウルトップ3Aは、アウタパネル5Aとインナパネル6Aにより構成され、そのフランジ部7Aが重ね合わされてスポット溶接されている。矢印Frは自動車の前進方向を示している。
【0003】
インストルメントパネル2Aは、円筒状に形成された突出部11Aを有し、この突出部11Aにタッピングねじ16Aによって取付部材12Aの基端部14Aが固定されている。一方、カウルトップ3Aのインナパネル6Aには、カップ状の係止部材22Aが固定され、この係止部材22Aに取付部材12Aの先端部23Aが挿入され、その先端部23Aの係合部24Aが係止部材22Aの内周面に形成された相手係合部材25Aに係合している。
【0004】
上述のように、従来のインストルメントパネル取付装置は、インストルメントパネル2Aに固定された取付部材12Aを、係止部材22Aを介して車体4Aのカウルトップ3Aに連結して、インストルメントパネル2Aをカウルトップ3Aに取り付けるように構成されている。かかるインストルメントパネル取付装置によって、インストルメントパネル2Aを安定した状態で車体4Aに組み付けることができる。
【0005】
ここで、事故が発生したとき、人体が図7に矢印Xで示すように、ウインドシールド1Aの車外側面に当り、その衝撃でウインドシールド1Aが撓み、これによってインストルメントパネル2Aに外力が加えられるとする。このとき、取付部材12Aが係止部材22Aから抜け出て、インストルメントパネル2Aが大きく変形すれば、エネルギーを効率よく吸収でき、人体に与える衝撃を小さく留めることができる。ところが、図7に示したインストルメントパネル取付装置によると、ウインドシールド1Aに人体が当ったとき、そのウインドシールド1Aに加えられた外力の方向によっては、取付部材12Aが係止部材22Aから抜け出ずに、インストルメントパネル2Aが図7に仮想線で示すようにわずかに変形するに留まり、エネルギーを効率よく吸収できなくなるおそれがある。
【0006】
【特許文献1】実開平6−20149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ウインドシールドに人体が当ったとき、インストルメントパネルが大きく変形することのできる自動車のインストルメントパネル取付装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、冒頭に記載した形式の自動車のインストルメントパネル取付装置において、前記取付部材は、前記カウルトップのフランジ部を挟み付けて、該取付部材をカウルトップに離脱可能に連結する二股部を有していることを特徴とする自動車のインストルメントパネル取付装置を提案する(請求項1)。
【0009】
また、上記請求項1に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置において、前記カウルトップは金属板により構成され、前記二股部は樹脂により構成されていると共に、前記カウルトップのフランジ部に嵌着される樹脂製のクリップを有し、前記取付部材の二股部は、前記フランジ部に嵌着されたクリップを介して該フランジ部を挟み付けると有利である(請求項2)。
【0010】
さらに、上記請求項2に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置において、前記クリップは、インストルメントパネルを車体に取り付ける際に該インストルメントパネルを案内するガイド部を有していると有利である(請求項3)。
【0011】
また、上記請求項2又は3に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置において、前記クリップは、カウルトップに隣接して配置されたダッシュサイレンサを押える押え部を有していると有利である(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウインドシールドに人体が当ったとき、取付部材がカウルトップから外れやすくなり、歩行者の保護をより一層確実なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態例を図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1は自動車の車室前部を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線拡大断面図である。これらの図における符号Frは自動車の前進方向を示し、図1における符号Wは車体の幅方向を示している。
【0015】
図1及び図2に示すように、車室Rの前部は、例えばガラスより成るウインドシールド1によって区画され、車室内に配置された図示していない運転席と助手席の前方には、インストルメントパネル2が配置されている。また、図2における符号3は、車体4の一構成要素であるカウルトップを示し、このカウルトップ3は、アウタパネル5とインナパネル6より成り、これらのパネル5,6は金属板により構成されている。また、これらのパネル5,6のフランジ部7は互いに重ね合わされた状態で、スポット溶接によって固着されている。カウルトップ3は、車体4のほぼ幅方向W(図1)に延びている。
【0016】
図に一例として示したインストルメントパネル2は、図2に示すように、硬質の樹脂より成る基材8と、その基材8上に積層された発泡体層9と、その発泡体層9を覆う表皮10とから構成されている。かかるインストルメントパネル2は、インストルメントパネル取付装置によって次のように車体4に組み付けられる。
【0017】
図2において、インストルメントパネル2の基材8には、図3にも示すように、円筒状の突出部11が一体に突設されている。一方、インストルメントパネル取付装置の取付部材12は、第1の脚部26と第2の脚部27を有する二股部13と、その二股部13に一体の基端部14とを有し、かかる取付部材12と上述した突出部11は共に樹脂により構成されている。取付部材12の基端部14に形成された取付孔15と、突出部11の中心孔にはタッピングねじ16が螺着され、これによって取付部材12がインストルメントパネル2の突出部11に固定されている。
【0018】
また、カウルトップ3のフランジ部7は、自動車の前進方向Frと逆の後方に向けて突出しており、かかるフランジ部7には、樹脂製のクリップ17が嵌着され、取付部材12の二股部13は、このクリップ17を介して、カウルトップ3のフランジ部7を挟み付けている。このとき、二股部13は、その弾性によってクリップ17に圧接しているが、取付部材12を図2における右方に引けば、二股部13をクリップ17から離脱させることができる。またクリップ17を省略し、取付部材12の二股部13をカウルトップ3のフランジ部7に直に嵌着させることもできる。
【0019】
上述のように、本例のインストルメントパネル取付装置も、インストルメントパネル2に固定された取付部材12を、車体4のカウルトップ3に連結して、そのインストルメントパネル2をカウルトップ3に取り付けるように構成されているが、従来の取付装置と異なり、取付部材12が、カウルトップ3のフランジ部7を挟み付けて、その取付部材12をカウルトップ3に離脱可能に連結する二股部13を有している。図2には、1つの取付部材12と、1つのクリップ17を示してあるが、通常、例えば3乃至5個の複数の取付部材12とクリップ17とによって、インストルメントパネル2が車体4に取り付けられる。
【0020】
ここで、事故が発生し、人体が、図2に矢印Xで示したように、ウインドシールド1の車外側面に当り、その衝撃でウインドシールド1が撓み、インストルメントパネル2に大きな外力が加えられたとする。このとき、取付部材12は、その二股部13が、クリップ17を介して、カウルトップ3のフランジ部7を挟み付けるように、フランジ部7に連結されているので、インストルメントパネル2に加えられた外力によって、その二股部13が容易にフランジ部7から外れ、インストルメントパネル2が図2に仮想線で示すように大きく変形する。これにより、効率よくエネルギーを吸収でき、人体に与える衝撃を小さく留めることができる。特に、図示した例のように、カウルトップ3のフランジ部7がほぼ後方に向けて突出していると、ウインドシールド1に対して人体が矢印X方向に当ったとき、取付部材12はより確実にフランジ部7から離脱することができる。
【0021】
ウインドシールド1の車外側面に作用する外力の向きが矢印X方向以外であるときも、二股部13を容易にフランジ部7から外し、インストルメントパネル2を大きく変形させ、エネルギーの吸収効率を高めることができる。
【0022】
ところで、前述のように、クリップ17を省き、取付部材12の二股部13を直にカウルトップ3のフランジ部7に嵌着することもできるが、クリップ17を用いると、次に説明する利点が得られる。
【0023】
自動車の製造時に、インストルメントパネル2は、通常、図示していない搭載装置によって車体4に搭載される。この作業時に、インストルメントパネル2は、図4に示すようにほぼ水平な姿勢に保たれながら、矢印A方向に移動させられ、そのインストルメントパネル2に固定された取付部材12の二股部13が、カウルトップ3のフランジ部7に嵌着される。このとき、カウルトップ3は金属板により構成され、取付部材12の二股部13は樹脂により構成されているので、クリップ17を用いずに、二股部13を直にカウルトップ3のフランジ部7に嵌合させたとすると、両者の間に大きな摩擦力が発生し、二股部13をスムーズにフランジ部7に嵌着させることができない。
【0024】
そこで、図4に示すように、樹脂製のクリップ17を、例えば手操作によって、予めフランジ部7に嵌着しておき、取付部材12の二股部13を、樹脂製のクリップ17に嵌着させると、樹脂製のクリップ17と、同じく樹脂製の二股部13が嵌合し合うので、その嵌合時に生じる摩擦力が小さくなり、両者をスムーズに嵌め合わせることができる。このように、カウルトップ3が金属板により構成され、二股部13が樹脂により構成されている場合には、カウルトップ3のフランジ部7に嵌着される樹脂製のクリップ17を用い、取付部材12の二股部13が、フランジ部7に嵌着されたクリップ17を介して、フランジ部7を挟み付けるように構成することが好ましい。これにより、インストルメントパネル2を確実に車体4に組み付けることができる。
【0025】
ところで、図4に示したように、インストルメントパネル2を矢印A方向に移動させてそのインストルメントパネル2を車体4に搭載する際、インストルメントパネル2の前部が、自重によって、図4に二点鎖線で示すように下方に倒れてしまうことがある。このようになると、インストルメントパネル2を矢印A方向に移動させても、取付部材12の二股部13をカウルトップ3のフランジ部7に嵌着させることができなくなる。
【0026】
そこで、図5及び図6に示すように、クリップ17に、互いに離間して配置された滑り台状の一対のガイド部18を設けることが好ましい。かかるガイド部18を設けることにより、インストルメントパネル2を車体4に取り付ける際、そのインストルメントパネル2の前部が自重によって図6に示すように下方に倒れたときも、インストルメントパネル2の先端部がガイド部18に当るので、インストルメントパネル2が矢印A方向に移動するに従って、インストルメントパネル2の先端部がガイド部18上を滑りながら、矢印B方向に移動する。このため、インストルメントパネル2の下方への倒れが修正され、最終的に、取付部材12の二股部13は支障なくクリップ17に嵌着することができる。その際、二股部13の下側の第2の脚部27は、図5に矢印Cで示すように、両ガイド部18の間に進入するので、取付部材12の移動がガイド部18によって邪魔されることはない。
【0027】
上述のように、図5及び図6に示したクリップ17は、インストルメントパネル2を車体4に取り付ける際に、そのインストルメントパネル2を案内するガイド部18を有しているので、インストルメントパネル2をより一層確実に車体4に組み付けることができる。
【0028】
また、図6に示すように、カウルトップ3に隣接してダッシュサイレンサ20が配置されているが、図5及び図6に示したクリップ17は、このダッシュサイレンサ20を押える押え部21を有している。この構成によりダッシュサイレンサ20を押える独立した部材を省き、ないしはその部材の数を減らすことでき、自動車のコストを低減できる。図5及び図6に示したインストルメントパネル取付装置の他の構成は、図1乃至図4に示したところと変りはない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】自動車の車室前部を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】インストルメントパネルと、取付部材と、クリップの分解斜視図である。
【図4】インストルメントパネルを車体に取り付けるときの様子を示す断面図である。
【図5】クリップの他の例を示す図であって、当該クリップを図3と反対の側から見たときの斜視図である。
【図6】インストルメントパネルをガイド部によって案内しているときの様子を示す断面図である。
【図7】従来のインストルメントパネル取付装置を示す、図2と同様な断面図である。
【符号の説明】
【0030】
2 インストルメントパネル
3 カウルトップ
4 車体
7 フランジ部
12 取付部材
13 二股部
17 クリップ
18 ガイド部
20 ダッシュサイレンサ
21 押え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネルに固定された取付部材を車体のカウルトップに連結して該インストルメントパネルをカウルトップに取り付ける自動車のインストルメントパネル取付装置において、
前記取付部材は、前記カウルトップのフランジ部を挟み付けて、該取付部材をカウルトップに離脱可能に連結する二股部を有していることを特徴とする自動車のインストルメントパネル取付装置。
【請求項2】
前記カウルトップは金属板により構成され、前記二股部は樹脂により構成されていると共に、前記カウルトップのフランジ部に嵌着される樹脂製のクリップを有し、前記取付部材の二股部は、前記フランジ部に嵌着されたクリップを介して該フランジ部を挟み付ける請求項1に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置。
【請求項3】
前記クリップは、インストルメントパネルを車体に取り付ける際に該インストルメントパネルを案内するガイド部を有している請求項2に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置。
【請求項4】
前記クリップは、カウルトップに隣接して配置されたダッシュサイレンサを押える押え部を有している請求項2又は3に記載の自動車のインストルメントパネル取付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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