説明

自動車のカウル構造

【課題】部品点数及び重量を増すことなく、歩行者の保護性能及びカウル全体の剛性を向上させながら、ワイパーユニットを構造簡単に支持できる自動車のカウル構造を提供する。
【解決手段】底面部11と前面部12と後面部13と上面部14とにより、前側を開放した開放断面を形成するようにカウル10を構成し、上面部14でフロントウィンドウ5の下端部を支持し、後面部13の上下方向の中間部に、上方から作用する衝撃荷重により変形可能な屈曲部15を形成し、後面部13における屈曲部15の下方の部分13aに、前方又は車両後方に膨出するようにプレス加工された上下向きのビード16を複数形成し、複数のビードの一部にワイパーユニット20を支持するワイパー支持部材21を取り付けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウィンドウの下端部を支持する自動車のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウルは、歩行者保護の観点から、走行中の車両が歩行者に衝突し、歩行者がボンネットの後部に乗り上げた際に、下方へ変形して衝撃を吸収するように剛性を低下させて構成されている。しかし、カウルの剛性を低下させ過ぎると、フロントウィンドウの振動等を受けてカウルの車両前側部分が上下に振動し、NV性能(振動及び振動音を抑制する性能)が低下する。このため、例えば、特許文献1のように、補強部材をカウルの後面部の下部分に対して底面部とで三角形状の閉断面が形成されるように配設し、歩行者の衝撃荷重の効率的な吸収を図りつつ、カウルの剛性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−100533号公報
【特許文献2】特開2004−142647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、別部材の補強パネルをカウルに配置すると、その分、部品点数が増加する。カウルの後面部の剛性を高めるために、その部分の板厚を厚くすると、カウル全体の重量が増加することになる。
【0005】
また、ワイパーユニットを支持するワイパー支持部材をカウル内に取り付ける場合には、特許文献2のように、支持剛性を得るためにワイパー支持部材を大型化してカウル内の複数箇所でワイパーユニットを支持する必要があった。
【0006】
本発明では、部品点数及び重量を増すことなく、歩行者の保護性能及びカウル全体の剛性を向上させながら、ワイパーユニットを構造簡単に支持できる自動車のカウル構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動車のカウル構造の特徴構成は、フロントウィンドウの下端部を支持するカウルを備えた自動車のカウル構造であって、底面部と、前記底面部の前縁から上方へ延出される前面部と、前記底面部の後縁から上方へ延出される後面部と、前記後面部の上縁から前方へ張り出す上面部とにより、前側を開放した開放断面を形成するように前記カウルを構成し、前記上面部で前記フロントウィンドウの下端部を支持し、前記後面部の上下方向の中間部に、上方から作用する衝撃荷重により変形可能な屈曲部を形成し、前記後面部における前記屈曲部の下方の部分に、車両前方又は車両後方に膨出するようにプレス加工された上下向きのビードを複数形成し、前記複数のビードの一部にワイパーユニットを支持するワイパー支持部材を取り付けてある点にある。
【0008】
[作用]
本発明では、後面部の上下方向の中間部に、上方から作用する衝撃荷重により変形可能な屈曲部を形成し、後面部における屈曲部の下方の部分に、車両前方又は車両後方に膨出するようにプレス加工された上下向きのビードを複数形成したので、カウルの後面部にお
ける屈曲部の下方の部分の剛性を高めることができた。したがって、歩行者との衝突により歩行者の衝撃荷重が上方から作用した際は、この後面部における屈曲部の下方の部分が変形せずに、屈曲部を折れ起点として後面部の屈曲部から上方の部分と上面部とが座屈して、歩行者の衝撃荷重を吸収する。また、後面部における屈曲部の下方の部分の剛性が高まることで、結果としてカウル全体の剛性も向上し、カウルの振動が抑制される。
【0009】
また、後面部における屈曲部の下方の部分に形成された複数のビードの一部にワイパーユニットを支持するワイパー支持部材を取り付けてあるので、ビードが形成された剛性の高い部位にワイパー支持部材を固定することができ、ワイパーユニットの支持剛性を高めることができる。これにより、ワイパー支持部材を簡単な構造の小型のものにしながら、ワイパーユニットを十分な強度で支持できるようになる。
【0010】
[効果]
こうして、カウルの部品点数や重量を増すことなく、歩行者の保護機能及びカウル全体の剛性を向上させることができ、NV性能を向上させることができた。また、カウルの後面部の下方の部分におけるワイパーユニットの支持剛性が向上し、当該部分に取り付けるワイパー支持部材を小型化できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】自動車の前部車体構造を示す縦断側面図
【図2】自動車のカウルの部分を示す縦断側面図であって、(a)は通常の状態、(b)は衝撃荷重が作用した状態をそれぞれ示す。
【図3】自動車のカウルの内部を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、自動車の前部には、エンジンフード1により開閉可能なエンジンルーム2が設けられており、エンジンルーム2の車両後方にはダッシュパネル3を挟んで車室4が設けられている。このように、自動車の前部車体には、エンジンルーム2と車室4とを区画するダッシュパネル3が設けられており、ダッシュパネル3の上方にフロントウィンドウ5の下端部を支持するカウル10が配設されている。カウル10の車両後方には、インストルメントパネル6が配設されている。
【0014】
図2(a)に示すように、カウル10は、底面部11、前面部12、後面部13、及び上面部14を備えている。前面部12は底面部11の前縁から前方上方へ延出されており、後面部13は底面部11の後縁から上方へ延出されている。また、上面部14は後面部13の上縁から前方下方へ張り出しており、後面部13及び底面部11の上方を覆っている。フロントウィンドウ5は、支持部材を介して上面部11の上面側に支持されている。こうして、カウル10は、車両前側が開放する開放断面を形成するよう構成されている。
【0015】
カウル10は、金属板をプレス加工して製作される。カウル10は、底面部11、前面部12、及び後面部13が1枚の金属板からプレス成形されており、後面部13の上縁部と上面部14の後縁部とがスポット溶接等により接合されている。
【0016】
後面部13には、上下方向の中間部に側面視で前側にくの字状に突出した屈曲部15が形成されており、屈曲部15は上方から作用する衝撃荷重により変形可能に構成されており、後面部13の折れ起点となる。後面部13の屈曲部15の下方の部分13aには、下部前面13Aから車両前方に膨出する上下向きの複数のビード16がプレス加工により左右方向に等ピッチで形成されている。複数のビード16は、後面部13の下方の部分13aの下部及び上部の傾斜部13B,13Cに亘って、後述するワイパー支持部材21用の取付面16Aを有する形態で形成されており、その正面視での形状は上端及び下端に円弧状部分を備えた上下向きの長円形状に形成されている。後面部13における屈曲部15の下方の部分13aの剛性がビード16によって高められる。
【0017】
図2(b)に示すように、歩行者との衝突により歩行者の衝撃荷重が上方から作用した際は、後面部13における屈曲部15の下方の部分13aは変形し難く、屈曲部15を折れ起点として後面部13の屈曲部15より上方の部分13bと上面部14とが座屈して、歩行者の衝撃荷重を吸収する。また、後面部13における屈曲部15の下方の部分13aの剛性が高まることで、結果としてカウル10全体の剛性も向上してカウルの振動が抑制され、NV性能が向上する。
【0018】
カウル10の後面部13における屈曲部14の下方の部分13aの複数のビード16の一部に、ワイパーユニット20を支持するワイパー支持部材21を取り付ける。このようにビード16が形成されて剛性の高い部位にワイパー支持部材21を固定することにより、ワイパーユニット20の支持剛性を高めることができる。ワイパー支持部材21を固定する部位におけるワイパーユニット20の支持剛性が高いと、ワイパー支持部材21を簡単な構造の小型のものに構成してもワイパーユニット20を十分な強度で支持できるようになる。
【0019】
[別実施形態]
(1)後面部13の下方の部分13aは、ビード16が形成されている部分だけでなく、ビード16が形成されていない部分も、結果的にビード16によって剛性は高められている。したがって、ワイパー支持部材21を、下方の部分13aの複数のビード16の間の下部前面13Aに取り付けてもよい。
【0020】
(2)上下向きのビード16は、下部後面から車両後方に膨出するように形成されたものであってもよい。この場合、ビード16が形成されている部分にワイパー支持部材21を取り付けてもよく、ビード16が形成されていない下部前面13Aにワイパー支持部材21を取り付けてもよい。
【0021】
(3)上記の実施形態では、複数のビード16の正面視の形状を長円形状に形成した例を示したが、複数のビード16の正面視での形状を縦長の長方形状や台形状等に形成してもよい。
【0022】
(4)上記の実施形態では、カウル10は、底面部11、前面部12及び後面部13を1つの板状物で構成し、後面部13と上面部14とを接合して構成したが、カウル10の構成は上記の実施形態に限定されるものでなく、種々に設計変更自在である。したがって、カウル10は、例えば、底面部11及び前面部12と、後面部13及び上面部14とをそれぞれ1つの板状物で成形した後に接合する構成でもよいし、底面部11、前面部12、後面部13、及び上面部14を全て個別に成形した後に接合する構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る自動車のカウル構造は、歩行者の保護機能及び、NV性能の向上を必要とする各種車両に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 エンジンフード
2 エンジンルーム
3 ダッシュパネル
4 車室
5 フロントウィンドウ
10 カウル
11 底面部
12 前面部
13 後面部
13a 下方の部分
13b 上方の部分
14 上面部
15 屈曲部
16 ビード
20 ワイパーユニット
21 ワイパー支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウィンドウの下端部を支持するカウルを備えた自動車のカウル構造であって、
底面部と、前記底面部の前縁から上方へ延出される前面部と、前記底面部の後縁から上方へ延出される後面部と、前記後面部の上縁から前方へ張り出す上面部とにより、前側を開放した開放断面を形成するように前記カウルを構成し、
前記上面部で前記フロントウィンドウの下端部を支持し、
前記後面部の上下方向の中間部に、上方から作用する衝撃荷重により変形可能な屈曲部を形成し、
前記後面部における前記屈曲部の下方の部分に、車両前方又は車両後方に膨出するようにプレス加工された上下向きのビードを複数形成し、
前記複数のビードの一部にワイパーユニットを支持するワイパー支持部材を取り付けてある自動車のカウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178271(P2011−178271A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44223(P2010−44223)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】