説明

自動車のガードパイプ

【課題】防振および衝撃音の低減が可能であるとともに組付け性が良好であり、かつコスト低減が図れる自動車のガードパイプを提供する。
【解決手段】自動車のガードパイプは、車体の底板から下方に突設された構造物を車体の外部の物体との接触から保護するため、構造物に隣接して配設される自動車のガードパイプ1であって、中空状の横断面を有しガードパイプ1の長手方向に延在する形状に形成され、弾性変形することによりガードパイプ1の内周面に弾性力によって押圧され接触してガードパイプ1内に挿入され、ガードパイプ1が外部の物体と接触した際に生ずる振動および衝撃音の減衰作用を有する振動減衰材4を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車体の底板より下方に突設された燃料タンクなどの構造物が、路面から突出した物体に接触して破損することを防止するための自動車のガードパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、自動車は、その車体100の底板101より下方に突出して燃料タンク102が設けられる場合がある。ところが、自動車が走行する際には、凹凸の大きなデコボコ道や、石等が転がっている道を走行する場合がある。そのため、このデコボコ道の凸部や石に、下方に突出した燃料タンク102がぶつかることを防ぐことを目的に、保護用パイプ103が燃料タンク102を防護する態様で隣接して配設されている。この保護用パイプ103は、素材である鋼管を下方に突出する形状の略コ字状に曲げ加工するとともに両端部を潰して平坦部を作り、該平坦部を底板101の一部にボルト締めして固定されている。なお、図5は、自動車の底板101より下方に突設された燃料タンク102廻りを示す斜視図である。
【0003】
図6(a)は、保護用パイプ103の縦断面を表す図5のA−A線断面図であり、図6(b)は、保護用パイプ103の横断面を表す図5のB−B線断面図である。ところで、自動車が走行中、保護用パイプ103に子砂利、水はね等が当たった場合、保護用パイプ103の肉厚が薄いこと等に起因して大きな衝突音が発生する。そこで、この衝突音を低減するため、図6(a)、(b)に示すように、保護用パイプ103内に緩衝材として円筒形状の市販のゴムチューブ104を内装している。
【0004】
ここで、この保護用パイプ103の製造は、次のように行われる。まず、所定の口径、肉厚を有する鋼管を、所定長さに切断し、続いて、図6(a)に示すように、切断したパイプの一方端を潰し、内部にゴムチューブ104を治具等を用いて挿入する。続いて、ゴムチューブ104を入れたパイプの他方端部を潰し、ゴムチューブ104を入れたパイプの両端部を曲げて所定形状に形成した後、錆止め等を目的に塗装を施し、保護用パイプ103を製造している。
なお、本願に関わる文献公知発明としては、下記の特許文献1がある。
【特許文献1】特開2005−119434号公報(段落番号0008、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記の保護用パイプ103に内装するゴムチューブ104は、保護用パイプ103内に挿入することができるように、図6(b)に示すように、保護用パイプ103の内径より小さい外径を有するものを用いている。
そのため、ゴムチューブが保護用パイプ103内での位置が定まり難く、動いてしまうことから、組み付け性に難点がある。そこで、ゴムチューブが保護用パイプ103内で移動することなく位置が決まるように、図6(a)に示すように、ゴムチューブ104の全長を保護用パイプ103の両端部の曲げ部103m、103mに亘る長さ、すなわち、パイプ長に近い長さとして、該曲げ部103m、103mの内周面とこの曲げ部103m、103mに接触するゴムチューブ104外面との摩擦力をもって、ゴムチューブ104の位置保持をしている。
【0006】
従って、ゴムチューブ104の長さが、保護用パイプ103の長さに依存して長くなり、その重量が大きくなり、また、ゴムチューブ104の材料費が嵩み、原価が高いという不都合がある。加えて、ゴムチューブ104の外径が、保護用パイプ103の内径より小さいことから、ゴムチューブ104と保護用パイプ103との密着性が悪く、実際には、ゴムチューブ104は、保護用パイプ103内周面に、その両端縁部、両曲げ部103m、103m、および中央部の5カ所でのみ接触していると考えられる。そのため、保護用パイプ103に子砂利、水はね等が当たった場合、保護用パイプ103の振動および衝撃音を効果的にゴムチューブ104で減衰し得ず、振動および衝撃音の低減効果に限界がある。
【0007】
本発明は前記実状に鑑み、防振および衝撃音の低減が可能であるとともに組付け性が良好であり、かつコスト低減が図れる自動車のガードパイプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に関わる自動車のガードパイプは、車体の底板から下方に突設された構造物を車体の外部の物体との接触から保護するため、構造物に隣接して配設される自動車のガードパイプであって、中空状の横断面を有しガードパイプの長手方向に延在する形状に形成され、弾性変形することによりガードパイプの内周面に弾性力によって押圧され接触してガードパイプ内に挿入され、ガードパイプが外部の物体と接触した際に生ずる振動および衝撃音の減衰作用を有する振動減衰材を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に関わる自動車のガードパイプによれば、ガードパイプ内に弾性変形してその内周面に押圧され接触して挿入され、振動および衝撃音の減衰作用を有する振動減衰材を備えるので、振動減衰材がパイプ素材内周面との摩擦力によって保持されパイプ内での位置保持性が向上し、組み付けが容易になる。また、振動減衰材の位置保持性が向上するので、その長さが短くでき原価低減が果たせ、コスト削減が可能である。
【0010】
本発明の請求項2に関わる自動車のガードパイプによれば、振動減衰材はガードパイプ内径より小さい外径をもつ管状の振動減衰部が複数連接した形状であるので、パイプ素材に加わる振動が管状の複数の振動減衰部に伝達され効果的に減衰される。そのため、パイプ素材内の振動減衰材の横断面積が小さく済み、振動減衰材の材料の少量化が図れ、原価低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
本発明を適用した自動車の保護用パイプ(ガードパイプ)1は、その使用状態を表す斜視図の図1に示すように、自動車の車体Bの底板2より下方に突設された燃料タンク(構造物)Tを保護するために、該タンクTの前方に隣接して配設されている。すなわち、保護用パイプ1は、燃料タンクTの前方に隣接するとともに車体B幅方向に延設されるクロスメンバ3の下面に、その両端部の取付部1c、1cがそれぞれボルトbで固定されている。
この保護用パイプ1は、所定の口径、肉厚の鋼管を用いて曲げ加工等行って製造され、真ぐな棒状の主部1aと主部1aの両端部の曲げ部1m、1mから曲折された側部1b、1bとを有する略コ字状に形成されるとともに、両側部1b、1bの先端縁部側にボルトbで固定するための取付部1c、1cが、円筒状パイプを潰して平坦状に形成されている。
【0012】
図2(a)は、図1に示す保護用パイプ1の一部を破断して示すC方向矢視図であり、図2(b)は、図1に示す保護用パイプ1の横断面を表すD−D線断面図である。
図2(a)、(b)に示すように、保護用パイプ1内には、主部1aのほぼ全長に亘って、5つの小径チューブ(振動減衰部)4tが連続して形成された、所謂5連チューブと称される防振材(振動減衰材)4が、弾性変形してその弾性力によって保護用パイプ1内周面に押圧され密着されて配設されている。
【0013】
図3(a)は、保護用パイプ1内への取り付け前の防振材4を表した正面図であり、図3(b)は、(a)図のE−E線断面図である。
防振材4は、弾性材であるとともに振動に対する減衰作用を有する、例えばゴムを用いて製造され、図3(b)に示すように、小径の円筒状の小径チューブ4tが複数、すなわち5つ連続して形成されており、図3(a)に示すように、取り付け前の状態においては平板状に広がる形状に形成されている。
防振材4は、弾性材であるため、保護用パイプ1内に取り付けられた場合、図2(b)に示すように、保護用パイプ1の内周面に沿って円筒状に弾性変形し、その弾性力によってパイプ1内周面に押圧されて密着して配設される。ここで、各小径チューブ4tの外形状が曲率を有するので、パイプ1内周面に滑かに密着する。なお、防振材4は、弾性材であって減衰作用を有するものであれば、発泡樹脂等のゴム以外の材料も適宜、適用可能である。
【0014】
次に、保護用パイプ1の製造行程について説明する。
まず、図2(c)に示すように、所定の口径、肉厚を有する真直ぐな鋼管を所定の長さに切断して、真直ぐな形状の所定の長さの保護用パイプ素材1sを形成する。なお、図2(c)は、曲げ加工前の保護用パイプ素材1sに防振材4を挿入した状態を表すパイプ素材1sを一部破断して示した図である。
【0015】
続いて、図3に示す平板状に広がった防振材4を、保護用パイプ素材1sの内径に沿うように変形させ丸め(図2(b)参照)、治具を用いて、図2(c)に示すように、保護用パイプ素材1s内の所定位置に挿入する。ここで、防振材4は、弾性材であるため保護用パイプ素材1sの内径に沿うように容易に弾性変形され、その弾性力によって保護用パイプ素材1s内周面に押圧されて密着し、該内周面との静止摩擦力によって所定位置からズレることなく位置保持される。
【0016】
続いて、保護用パイプ素材1sの両端部内周面にシーラーを塗布し、両端部をプレス機にて潰して平坦状の取付部1c、1cを形成し、その中央部にボルトb挿通して締結するための取付穴を穿設する。なお、シーラーを塗布することにより、取付穴を穿設した取付部1c、1cの隙間からの浸水が防止されている。
【0017】
続いて、図2(c)に示す防振材4が挿入された保護用パイプ素材1sを、図1、図2(a)に示すように、主部1aと主部1aから曲折した側部1b、1b、および取付部1c、1cを有する形状にベンダーを用いて曲げ加工し、これにカチオン塗装を施した後に焼き付けブース内で加熱して、保護用パイプ1が完成品する。
【0018】
前記構成によれば、防振材4は、弾性材であり、保護用パイプ素材1sの内径に沿うように弾性変形させられるとともにその弾性力によって保護用パイプ素材1s内周面に押圧されて密着する。そのため、防振材4は、該内周面との静止摩擦力によって保護用パイプ素材1s内の所定位置から位置ズレすることなく保持され、位置保持性が向上する。このように、防振材4の保護用パイプ素材1s内での位置保持性が向上し、また、防振材4は弾性材であるので容易に変形することから保護用パイプ素材1s内への組み付けが容易であり、組み付け性が向上する。
【0019】
また、防振材4の位置保持性が向上することから、防振材4を保護用パイプ素材1sの長手方向に沿って長くして位置保持する必要がなく、その長さを短くでき、防振材4の重量が軽いとともに防振材4の材料が少なく済み、原価低減が可能である。そのため、組み付け性の向上に相俟ってコスト低減が図れる。
また、防振材4は、保護用パイプ素材1s内周面に押圧されて密着するとともに、図2(b)に示すように、保護用パイプ1内において、その横断面が保護用パイプ素材1sの内周面から離間する形状の中空状の小径チューブ4tが設けられるため、保護用パイプ1に加わる衝撃による振動および衝撃音が、パイプ素材1sの内周面から離間する複数の小径チューブ4tの箇所に伝達され、複数の小径チューブ4tによって効果的に減衰される。そのため、保護用パイプ1に加わる衝撃による振動および衝撃音の低減効果が向上する。また、減衰作用を効果的に付与できるため、保護用パイプ素材1s内の防振材4の横断面積が小さく済み、防振材4の材料の少量化が図れ、原価低減が図れる。なお、前記実施形態においては、5つの小径チューブ4tが連続して形成された5連チューブの防振材4を例示して説明したが、小径チューブ4tの数は、適宜、任意に選択可能である。
【0020】
次に、防振材4の第1〜第4変形形態について説明する。図4(a)は、保護用パイプ素材1s内への取り付け前の第1〜第4変形形態の防振材(振動減衰材)14、24、34、44を示す正面図、図4(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ防振材14、24、34、44のF−F線断面図である。
第1変形形態の防振材14は、図4(a)、図4(b)に示すように、楕円状の横断面を有するチューブ状部材(振動減衰部)14tが複数連続して形成されたものである。また、第2変形形態の防振材24は、図4(a)、図4(c)に示すように、六角形状の横断面を有するチューブ状部材(振動減衰部)24tが複数連続して形成されたものである。また、第3変形形態の防振材34は、図4(a)、図4(d)に示すように、円状形状を一部切り欠いた横断面を有するチューブ状部材(振動減衰部)34tが複数連続して形成されたものである。また、第4変形形態の防振材44は、図4(a)、図4(e)に示すように、楕円形状を一部切り欠いた横断面を有するチューブ状部材(振動減衰部)44tが複数連続して形成されたものである。これらの変形形態の防振材14、24、34、44は、何れも弾性材であるとともに減衰作用を有する材料を母材として製造される。
【0021】
これら変形形態においても、前記実施形態と同様な作用効果を奏する。なお、図4(c)に示す第2変形形態の防振材24は、六角形状の横断面を有するチューブ状部材24tが複数連続して形成されるので、保護用パイプ素材1s内周面にチューブ状部材24tの側部が接触してその接触面積が大きく、保護用パイプ素材1sの振動がチューブ状部材24tに良好に伝達され、振動および衝撃音の低減効果がより大きい。
なお、前記実施形態においては、保護用パイプ素材1s内に単数の防振材を挿入する場合を例示して説明したが、保護用パイプ素材1sの長手方向に防振材を分割して複数、設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に関わる第1実施形態の保護用パイプの使用状態を表す斜視図。
【図2】(a)、(b)、および(c)は、図1の保護用パイプの一部を破断して示すC方向矢視図、図1のD−D線断面図、および曲げ加工前の保護用パイプ素材に防振材を挿入した状態を、保護用パイプ素材の一部を破断して示した図。
【図3】(a)および(b)は、保護用パイプ内に取り付け前の防振材を示す正面図、および(a)図のE−E線断面図。
【図4】(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)は、変形形態の取り付け前の防振材を表した正面図、(a)図の第1変形形態のF−F線断面図、第2変形形態のF−F線断面図、(a)図の第3変形形態のF−F線断面図、および第4変形形態のF−F線断面図。
【図5】従来の自動車の底板より下方に突出して配設された燃料タンク廻りを示す斜視図。
【図6】(a)および(b)は、従来における保護用パイプの縦断面を表す図5のA−A線断面図、および保護用パイプの横断面を表す図5のB−B線断面図。
【符号の説明】
【0023】
1 保護用パイプ(ガードパイプ)
2 底板
4、14、24、34、44 防振材(振動減衰材)
4t 小径チューブ(振動減衰部)
14t、24t、34t、44t チューブ状部材(振動減衰部)
B 車体
T 燃料タンク(構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の底板から下方に突設された構造物を車体の外部の物体との接触から保護するため、前記構造物に隣接して配設される自動車のガードパイプであって、
中空状の横断面を有し前記ガードパイプの長手方向に延在する形状に形成され、弾性変形することにより前記ガードパイプの内周面に弾性力によって押圧され接触して前記ガードパイプ内に挿入され、前記ガードパイプが前記外部の物体と接触した際に生ずる振動および衝撃音の減衰作用を有する振動減衰材を備える
ことを特徴とする自動車のガードパイプ。
【請求項2】
前記振動減衰材は、前記ガードパイプ内径より小さい外径をもつ管状の振動減衰部が複数連接した形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の自動車のガードパイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−247208(P2008−247208A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91219(P2007−91219)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】