説明

自動車のドライブトレインを制御するための方法および制御装置

【課題】 自動車のドライブトレインを制御するための方法および制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、自動車のドライブトレインを制御するための方法であって、ドライブトレイン(10)が、ターボ過給機(46)によって過給されることができる内燃機関(12)と、自動的にシフトできるトランスミッションとを備え、決定される同期時間Tsyn内にトランスミッションのシフト過程が実施される方法を提案する。本方法は、内燃機関(12)の現在提供されているトルクにせいぜい少なくともほぼ等しいが、内燃機関(12)の現在の回転速度nMotにおいてターボ過給機(46)からの支援なしに得ることができる吸気によるフルスロットルでのトルクに最小でも少なくともほぼ等しいと規定される最大トルクMmaxに応じて、同期時間Tsynが決定されることを特徴とする。独立請求項は、本方法を実施するように設定される制御装置を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドライブトレインを制御するための方法であって、ドライブトレインが、ターボ過給機によって過給されることができる内燃機関と、自動的にシフトできるトランスミッションとを有し、決定される同期時間Tsyn内にトランスミッションのシフト過程が実施される方法に関する。本発明はまた、その方法を実施するように設定される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記種類の方法および前記種類の制御装置は、各々の場合に、大量生産される(シリーズで生産される)自動車により公知である。
【0003】
自動的にシフトできるトランスミッションは、少なくとも実質的に牽引力の遮断なしにシフト過程(ギヤチェンジ)を可能にすべきである。ここで、可能な限り迅速かつ快適にシフト過程を実施できなければならない。特に、短いギヤチェンジ時間でもジャークなしにギヤチェンジを実施できることが望ましい。このことは、ターボ過給機によって内燃機関を過給できる場合に特に難しい。なぜなら、シフト過程の実施後における内燃機関の動作点がターボ過給機の動作状態にも関係するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−174717号公報
【特許文献2】独国特許DE10156940A1号明細書
【特許文献3】独国特許DE102005006556A1号明細書
【特許文献4】独国特許DE10218186A1号明細書
【特許文献5】独国特許DE102004007160A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを出発点として、本発明が基礎とする目的は、特に迅速で快適なシフト過程を可能にする自動車のドライブトレインを制御するための方法および制御装置を規定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、請求項1の特徴を有する方法によって、および請求項7の特徴を有する制御装置によって達成される。
【0007】
ここで、同期時間Tsynは、最大トルクMmaxに応じて決定され、この最大トルクは、ターボ過給機が完全に有効であるときに作用する定常状態の最大トルクよりも低い。最大トルクは、内燃機関の現在提供されているトルクにせいぜい少なくともほぼ等しいと決定される。しかし、最大トルクMmaxは、内燃機関の現在の回転速度nMotにおいてターボ過給機からの支援なしに得ることができる吸気によるフルスロットルでのトルクに最小でも少なくともほぼ等しい。したがって、内燃機関の現在提供されているトルクが吸気によるフルスロットルでのトルクよりも高い場合、最大トルクMmaxは現在提供されているトルクに等しく設定される。内燃機関の現在提供されているトルクが吸気によるフルスロットルでのトルクよりも低い場合、あるいは内燃機関の現在提供されているトルクが吸気によるフルスロットルでのトルクと等しい場合、最大トルクは吸気によるフルスロットルでのトルクに等しく設定される。このようにして、現在にまたは少なくとも短時間に引き出すことができる最大トルクの値が、同期時間Tsynを決定するために利用される。一般に、すなわち、ターボ過給機が完全に有効な状態で、内燃機関がその定常状態の最大トルクの範囲で運転されない場合、前記種類の値は定常状態の最大トルクよりも低い。
【0008】
内燃機関の定常状態の最大トルクは、ターボ過給機の作動時間後に引き出すことができる。しかし、前記作動時間は、好ましくは最大約250ms、特に最大約200msである典型的な同期時間よりも長い。対照的に、吸気によるフルスロットルでのトルクは、吸気によるフルスロットルでのトルク未満の内燃機関の運転中に前記吸気によるフルスロットルでのトルクを同期時間の計算の基礎として考慮できるように、内燃機関の現在の回転速度ではるかに迅速に引き出すことができる。
【0009】
本発明による方法により、内燃機関の回転速度の変動およびトランスミッションのシフト遅延を防止することが可能である。規定されるべき最大トルクが、現在提供されているトルクに正確に等しいことは本発明の範囲内にあるが、ここでは、吸気によるフルスロットルでのトルクに少なくとも正確に等しい。しかし、特に、とりわけ快適なシフト過程を実施すべき場合、規定されるべき最大トルクが前記正確な値から逸脱する可能性がある。正確な値からの典型的な偏差は、例えば、20%、好ましくは10%、特に5%の偏差である。前記偏差は、特に、正確な値からより低い値の方向の偏差である。
【0010】
シフト過程がトランスミッションの比較的高いギヤから比較的低いギヤに実施される場合、本発明による方法は特に有利である。このようなギヤチェンジの間、内燃機関の回転速度は、利用可能な同期時間内に増大されなければならない。これは、吸気によるフルスロットルでのトルク未満の運転中に短時間に行われることができるトルクの上昇によって行われる。対照的に、吸気によるフルスロットルでのトルクを越える動作点から進んで、ターボ過給機が完全に有効な状態で、定常状態の最大トルクへのトルクの上昇は、時間遅延する形でのみ実施することができる。
【0011】
吸気によるフルスロットルでのトルクが内燃機関の回転速度nMotに割り当てられる割当機能(例えば係数)が有利に利用される。さらに、吸気によるフルスロットルでのトルクはまた、自動車の近傍の圧力に応じて決定することができる。
【0012】
自動的にシフトできるトランスミッションは、デュアルクラッチトランスミッションであることが有利である。
【0013】
本発明による方法により、内燃機関の回転速度の変動およびトランスミッションのシフト遅延を防止することが可能である。
【0014】
上述の利点は、本発明による制御装置に関し対応して得られる。
【0015】
上述し、さらに以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ指定された組み合せにおいてのみでなく、他の組み合せにおいても、あるいは個別に利用できることが自明である。
【0016】
本発明の例示的な実施形態が図面に示され、以下の説明においてより詳細に説明する。図面では、常に概略形態で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ターボ過給機によって過給されることができる内燃機関と、自動的にシフトできるトランスミッションとを有する自動車のドライブトレインの例示的な実施形態の図面である。
【図2】最大トルクMmaxを決定するための割当関数の例示的な実施形態を示し、この最大トルクMmaxに基づきトランスミッションのシフト過程を実施するための同期時間Tsynを決定できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、自動車のドライブトレイン10によって全体が示された例示的な実施形態を示している。ドライブトレイン10は、内燃機関12と、デュアルクラッチトランスミッション14の形態の自動的にシフトできるトランスミッションと、自動車の内燃機関12と駆動輪16、18との間の動力を伝達するための別のギヤおよび/またはシャフトとを有する。
【0019】
ドライブトレイン10は、デュアルクラッチトランスミッション14と差動(differential)ギヤ22との間で動力を伝達するためのシャフト20を有する。ドライブトレイン10はまた、差動ギヤ22と駆動輪16、18との間で動力を伝達するためのドライブシャフト24、26を有する。
【0020】
デュアルクラッチトランスミッション14は、第1の部分トランスミッションTG1と、第2の部分トランスミッションTG2とを有する。第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第1の制御可能なクラッチ装置K1を介して行われる。第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第2の制御可能なクラッチ装置K2を介して行われる。一実施形態において、第1の部分トランスミッションTG1は、第1のギヤ、第3のギヤ等のような奇数の変速段(ギヤ)を提供し、一方、第2の部分トランスミッションTG2は、第2のギヤ、第4のギヤ等のような偶数の変速段(ギヤ)を提供する。
【0021】
第1の部分トランスミッションTG1のメインのシャフト34および第2の部分トランスミッションTG2のメインのシャフト36の両方は、シャフト20に回転しないように結合される。したがって、シャフト34と36は、駆動輪16、18におけるスリップなしに自動車が直線走行している場合に、駆動輪16、18の回転速度に線形的に、したがって車両の走行速度vに線形的に関係する同一の回転速度で回転する。図1の概略図では、シャフト34と36のトルクが接合部38に加えられて、シャフト20で作用するトルクを形成する。
【0022】
図1の実施形態では、制御装置40は、ドライブトレイン10全体、すなわち、内燃機関12およびデュアルクラッチトランスミッション14を制御する。
【0023】
ドライブトレイン10を制御するために、制御装置40は、多数のセンサからのドライブトレイン10の動作パラメータを表す信号を処理する。ここで、以下の動作パラメータ、すなわち、運転者要求変換器42の形態の運転者要求トルクを規定するための装置によって提供されかつ運転者によるトルク要求を表すスロットルペダル角度Wped、回転速度センサ43によって測定される内燃機関12のクランクシャフト30の回転速度nMot、および走行速度変換器44によって測定される走行速度vが特に重要である。一実施形態において、走行速度変換器44は、デュアルクラッチトランスミッション14の出力における回転速度、すなわちシャフト34、36または20の内の1つの回転速度を測定する回転速度センサとして実現される。代わりにまたは追加して、回転速度信号は、例えばアンチロックブレーキシステムのセンサ装置によって、車輪16、18の1つ以上で測定される。
【0024】
部分トランスミッションTG1とTG2の各々に設定された変速比を知ることにより、第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28の回転速度nK1、および第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32の回転速度nK2の各々は、走行速度vの直線的な関数として与えられる。
【0025】
ドライブトレイン10の前記動作パラメータに応じて、適切ならば別の動作パラメータに応じて、特に内燃機関12の動作パラメータに応じて、制御装置40は、作動信号S_Mot、S_K1、S_K2、S_TG1とS_TG2を形成する。ここで、作動信号S_Motは、内燃機関12のトルクを設定するために使用される。作動信号S_TG1は、第1の部分トランスミッションTG1のギヤに関与し、したがってその変速比を設定するように働く。同様に、作動信号S_TG2は、第2の部分トランスミッションTG2の変速比を設定するために使用される。第1のクラッチ装置K1を介したトルクの流れは、作動信号S_K1で制御される。同様に、第2のクラッチ装置K2を介したトルクの流れは、作動信号S_K2で制御される。
【0026】
内燃機関12は、概略的に示したターボ過給機46によって過給されることができる。ターボ過給機46は、給気圧力が時間遅延して提供されるように、内燃機関12の排気ガスによって駆動される。
【0027】
デュアルクラッチトランスミッション14のギヤチェンジが実施される同期時間Tsynは、最大トルクMmaxに基づき制御装置40によって決定される。前記最大トルクが高くなればなるほど、デュアルクラッチトランスミッション14に対し制御装置40によって予め設定されることができる同期時間Tsynは、それだけ短くなる。
【0028】
図2では、定常状態の最大トルク48が、内燃機関12の回転速度nMotに対しプロットされる。定常状態の最大トルク48は、ターボ過給機46が完全に有効であるときに作用する。
【0029】
吸気によるフルスロットルでのトルク50のプロファイルもまた、図2の内燃機関12の回転速度nMotに対しプロットされる。吸気によるフルスロットルでのトルク50は定常状態の最大トルク48よりも低い。吸気によるフルスロットルでのトルク50は、内燃機関12の現在の回転速度nMotで短時間に引き出すことができる。例えば、吸気によるフルスロットルでの50未満の動作点52で内燃機関12がこのように運転される場合、前記回転速度の最大トルクMmaxは、吸気によるフルスロットルでのトルク50に等しく設定されかつ値Mmax,52を有すると決定される。
【0030】
対照的に、吸気によるフルスロットルでのトルク50を越える動作点では、最大トルクMmaxは、現在提供されている内燃機関12のトルクに等しく設定される。このことは、図2に動作点54に基づき一例として示されている。このようにして決定された最大トルクはMmax,54である。
【0031】
さもなければ、制御装置40は、本発明による方法、またはその実施形態の1つを実施するために、設定され、特にプログラミングされる。ここで、実施するとは、ここに記載した方法の過程を制御することを意味するものと理解される。
【符号の説明】
【0032】
10:ドライブトレイン、 12:内燃機関、
14:デュアルクラッチトランスミッション、 46:ターボ過給機、
50:吸気によるフルスロットルでのトルク、 K1、K2:クラッチ装置、
TG1、TG2:部分トランスミッション、 Tsyn:同期時間、
nMot:回転速度、 Mmax:最大トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドライブトレインを制御するための方法であって、ドライブトレイン(10)が、ターボ過給機(46)によって過給されることができる内燃機関(12)と、自動的にシフトできるトランスミッションとを備え、決定される同期時間Tsyn内に前記トランスミッションのシフト過程が実施される方法であって、前記内燃機関(12)の現在提供されているトルクにせいぜい少なくともほぼ等しいが、前記内燃機関(12)の現在の回転速度nMotにおいて前記ターボ過給機(46)からの支援なしに得ることができる吸気によるフルスロットルでのトルク(50)に最小でも少なくともほぼ等しいと規定される最大トルクMmaxに応じて、前記同期時間Tsynが決定される方法。
【請求項2】
前記同期時間Tsynが最大約250ms、特に最大約200msである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内燃機関(12)の回転速度nMotに前記吸気によるフルスロットルでのトルク(50)を割り当てるための割当機能を特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
吸気によるフルスロットルでのトルク(50)が、自動車の近傍の圧力に応じてさらに決定される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
自動的にシフトできる前記トランスミッションがデュアルクラッチトランスミッション(14)である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
自動車のドライブトレインを制御するための制御装置であって、ドライブトレイン(10)が、ターボ過給機(46)によって過給されることができる内燃機関(12)と、自動的にシフトできるトランスミッションとを備え、決定される同期時間Tsyn内に前記トランスミッションのシフト過程を実施することが可能であり、前記内燃機関(12)の現在提供されているトルクにせいぜい少なくともほぼ等しいが、前記内燃機関(12)の現在の回転速度nMotにおいて前記ターボ過給機(46)からの支援なしに得ることができる吸気によるフルスロットルでのトルク(50)に最小でも少なくともほぼ等しいと規定される最大トルクMmaxに応じて、前記同期時間Tsynが決定される制御装置。
【請求項7】
前記制御装置が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法を実施するように設定される、請求項6に記載の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−65846(P2010−65846A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205542(P2009−205542)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】