説明

自動車のフード

【課題】アウタパネル及びインナパネルを有するフードパネルと、そのフードパネルのインナパネルにねじ止めされて、フードパネルの前縁に沿って延びるフードモールとを有する自動車のモールにおいて、フードモールの前部がアウタパネルの最前部外側面から離れる口開きが発生することを阻止する。
【解決手段】フードモール4がフードパネル2のインナパネル6にねじ止めされたねじ止め部よりも前方であって、アウタパネル5の最前部外側面7を覆うフードモール前部11よりも後方のフードモール部分に係止突起25が一体に形成され、その係止突起25の爪部27がインナパネル6に形成された係止孔28に係合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に回動開閉可能に支持されたフードパネルと、そのフードパネルの前縁に沿って延びるフードモールとを有する自動車のフードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
装飾用のフードモールを有する自動車のフードは従来より周知である(例えば、特許文献1参照)。図6は、この種の自動車のフードの前部を示す断面図であり、同図における矢印Frは自動車の前進方向を示している。ここに示したフード1Aは、フードパネル2Aと、このフードパネル2Aの前縁3Aに沿って延びるフードモール4Aとを有している。フードパネル2Aは、前部エンジンルーム又は前部トランクルームより成る前部空間RAを覆った閉位置と、前部空間RAを開放した開位置との間を、図示していない車体に回動開閉可能に支持されている。図6は、フードパネル2Aが閉位置を閉めた状態を示している。また、このフードパネル2Aは、車外側に位置するアウタパネル5Aと、そのアウタパネル5Aに固定されていて、当該アウタパネル5Aよりも前部空間RAの側に位置するインナパネル6Aとを有している。一方、フードモール4Aは、アウタパネル5Aの最前部外側面7Aと、インナパネル6Aの前部内側面8Aを覆った状態で、そのフードモール4Aの後部が、スクリュー9Aとグロメット10Aとによってインナパネル6Aにねじ止めされている。
【0003】
上述のように、従来のフード1Aのフードモール4Aは、その後部がスクリュー9Aとグロメット10Aを介してインナパネル6Aに固定されているが、そのフードモール4Aの前部11Aはインナパネル6Aにねじ止めされていない。このため、前部11Aの剛性が不足し、これに基因して、フードモール4Aの前部11Aが図6に二点鎖線で示したように、アウタパネル5Aの最前部外側面7Aから離間してしまうおそれがある。この現象は、フードモール4Aの口開きと称せられているが、かかる口開きが発生すれば、フードモール4Aの見栄えが低下する欠点を免れない。
【0004】
そこで、従来は、フードモール4Aの前部11Aと、アウタパネル5Aの最前部外側面7Aとを、両面接着テープ12Aによって接着することにより、上述した口開きの発生を阻止していた。ところが、かかる両面接着テープ12Aを用いれば、その分、フード1Aの部品点数が増大し、そのコストが上昇する欠点を免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−76834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、部品点数の増大とコストの上昇を抑えつつ、フードモールの口開きを阻止できる自動車のフードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前部エンジンルーム又は前部トランクルームより成る前部空間を覆った閉位置と、前部空間を開放した開位置との間を回動開閉可能に車体に支持されたフードパネルと、該フードパネルの前縁に沿って延びるフードモールとを有し、前記フードパネルは、アウタパネルと、該アウタパネルに固定されていて、当該アウタパネルよりも前部空間の側に位置するインナパネルとを有し、前記フードモールは、前記アウタパネルの最前部外側面と前記インナパネルの前部内側面を覆い、かつ該フードモールの後部が前記インナパネルにねじ止めされている自動車のフードにおいて、前記フードモールのねじ止め部よりも前方であって、前記アウタパネルの最前部外側面を覆っているフードモールの前部よりも後方のフードモール部分に、爪部を有する係止突起が一体に形成され、該爪部が前記インナパネルに形成された係止孔に係合していることを特徴とする自動車のフードを提案する。
【0008】
その際、前記アウタパネルとインナパネルの最前部は、重ね合された状態でスポット溶接されていると共に、該インナパネルの最前部の一部がアウタパネルの最前部よりも後方に退避した状態に窪んでいて、該窪み部とこれに対向するアウタパネル面とによって区画された取付空間に前記係止突起が位置し、該係止突起には、その係止突起を前記取付空間に位置決めするリブが一体に形成されていると有利である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数の増大を阻止し、かつコストの上昇を抑えながら、フードモールの口開きを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】自動車の前部の斜視図である。
【図2】図1に示したフードのII−II線拡大断面図である。
【図3】図1に示したフードパネルの前部を示す拡大斜視図である。
【図4】図1に示したフードモールを示す拡大斜視図である。
【図5】図2のV−V線拡大断面図である。
【図6】従来のフードを示す、図2と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態例を図面に従って詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかるフード1を備えた自動車の前部を示す斜視図であり、図2は図1に示したフード1のII−II線拡大断面図である。これらの図と、図3乃至図5における矢印Frは、自動車の前進方向を示し、矢印Wは前進方向Frに対して直交する車幅方向を示している。本明細書及び特許請求の範囲における「前」又は「後」なる文言は、自動車の前進方向Frを基準とした前後を意味する。
【0013】
図1における符号13は、車体14の一部を構成するフロントフェンダであり、符号15は車体14の前部に取り付けられたフロントグリル、符号16はフロントガラス、符号17はヘッドランプをそれぞれ示している。
【0014】
図1及び図2に示した自動車のフード1は、従来のフードと同様にフードパネル2と、そのフードパネル2の前縁3に沿って延びるフードモール4とを有している。フードパネル2は、図2に示したエンジンルームより成る前部空間Rを覆った閉位置と、その前部空間Rを開放した開位置との間を、矢印A,Bで示した方向に回動開閉可能に車体14に支持されている。リヤエンジンタイプの自動車の場合には、前部トランクルームが前部空間となる。
【0015】
図1及び図2は、フードパネル2が閉位置を占めた状態を示しており、本明細書及び特許請求の範囲においてフードの各部分を特定するための記載は、全て、フード1ないしはフードパネル2が閉位置を占めた状態での記載である。例えば、前述のフードパネル2の前縁3とは、フードパネル2が閉位置を占めた状態での当該フードパネル2の前縁を意味している。
【0016】
本例のフードパネル2は、従来のフードと同様に、車外側に位置するアウタパネル5と、そのアウタパネル5に固定されていて、該アウタパネル5よりも前部空間Rの側に位置するインナパネル6とを有していて、アウタパネル5とインナパネル6は、例えば鋼板などの高剛性材料により構成されている。図3はフード1のうちのフードパネル2だけを示す斜視図であるが、この図に×印を付して示すように、アウタパネル5とインナパネル6の最前部は、複数の個所においてスポット溶接によって一体化されている。図3における×印は、スポット溶接の打痕を示すものである(図5においても同じ)。
【0017】
一方、フードパネル2の前縁3に沿って延びる装飾用のフードモール4は、図2に示すように、アウタパネル5の最前部外側面7と、インナパネル6の前部内側面8を覆っていて、上述のスポット溶接の打痕(図3)を覆い隠している。フードモール4は例えば樹脂により構成されている。
【0018】
図2及び図3に示すように、フードパネル2のインナパネル6には、車幅方向Wに間隔をあけて配置された複数のグロメット取付孔18が形成され、同じく図2と図4に示すように、フードモール4の後部にも、車幅方向Wに間隔をあけて配置されたスクリュー取付孔19が形成されている。図2から判るように、各グロメット取付孔18と各スクリュー取付孔19は互いに整合していて、各グロメット取付孔18には、内部に貫通孔20が形成された樹脂製のグロメット10が嵌着されている。一方、フードモール4に形成された各スクリュー取付孔19には、タッピングスクリューより成るスクリュー9が挿通されると共に、その各スクリュー9が各グロメット10の貫通孔20にねじ込まれている。これにより、各グロメット10が図2に矢印Cで示した方向に開拡し、フードモール4の後部が、スクリュー9とグロメット10を介して、フードパネル2のインナパネル6に固定される。タッピングスクリュー以外のねじによって、フードモール4の後部をインナパネル6に固定することもできる。いずれの場合も、フードモール4の後部がインナパネル6にねじ止めされるのである。
【0019】
以上説明したフード1の構成は、図6に示した従来のフードと変わりはない。先に述べたように、かかる従来のフードにおいては、そのフードモールの口開きを防止するために両面接着テープが必要となり、そのコストが上昇する欠点を免れなかった。かかる欠点を除去するため、本例のフード1は次のように構成されている。
【0020】
図2と、その図2のV−V線拡大断面図である図5と、図3に示すように、アウタパネル5とインナパネル6の最前部22,23は互いに重ね合されていて、その重ね合せ部21は、複数の個所において、前述の如くスポット溶接によって固着されている。アウタパネル5とインナパネル6の最前部22,23が重ね合された状態でスポット溶接されているのである。これに対し、図2、図3及び図5に示すように、インナパネル6の最前部23の一部が、アウタパネル5の最前部22よりも後方に退避した状態に窪んでいて、その窪み部24とこれに対向するアウタパネル面によって、後述する係止突起25が配置される取付空間MRが区画されている。図3に示すように、かかる取付空間MRが車幅方向Wに複数配列されている。
【0021】
一方、図2を参照して先に説明したように、フードモール4の後部はスクリュー9によってインナパネル6にねじ止めされているが、図2、図4及び図5に示すように、そのねじ止め部よりも前方であって、アウタパネル5の最前部外側面7を覆っているフードモールの前部11よりも後方のフードモール部分には、爪部27を有する係止突起25が一体に形成されている。フードモール4の成形時に、係止突起25がフードモール4と共に一体に成形され、フードモール4と係止突起25が一部品として構成されるのである。図4に示すように、このような係止突起25が車幅方向に複数個配列されていて、その各係止突起25は、図2及び図5に示すように、前述の各取付空間MRに位置し、しかもその各係止突起25の爪部27が、インナパネル6の各窪み部24を区画する壁面にそれぞれ形成された係止孔28に係合している。
【0022】
上述のように、フードモール4に一体に形成された係止突起25の爪部27が、インナパネル6に形成された係止孔28に嵌合しているので、図6に示した従来のフードに必要とされた両面接着テープ12Aを用いずとも、フードモール4の口開きが発生することを阻止できる。しかも、係止突起25は、フードモール4と一体に形成され、これらが一部品として構成されているので、フード1の部品点数は、従来のフードに比べて減少し、フード1の製造コストを従来よりも低く抑えることができる。
【0023】
フードモール4をフードパネル2に取り付けるには、先ず図2に示したグロメット10をインナパネル6に形成されたグロメット取付孔18に嵌着する。次いで作業者は片手でフードモール4を持ち、そのフードモール4をインナパネル6の下方から上方に持ち上げ、該フードモール4と一体の係止突起25を取付空間MRの下方から、その取付空間MR内に挿入し、その係止突起25の爪部27をインナパネル6に形成された係止孔28に係合する。これによりフードモール4をフードパネル2に対して仮止めすることができるので、作業者はフードモール4から手を離しても、フードモール4が落下することはない。次に作業者は片方の手でフードモール4のスクリュー取付孔19にスクリュー9を挿入し、さらに片手で図示していないエアガンを持ち、そのエアガンを片手で操作して、スクリュー9をグロメット10の貫通孔20にねじ込む。これによりフードモール4をフードパネル2に固定することができる。このように、作業者は、片手でフードモール4をフードパネル2を取り付けることができ、その作業性が向上する。
【0024】
これに対し、図6に示した従来のフード1Aのフードモール4Aをフードパネル2Aに取り付けるには、グロメット10Aをインナパネル6Aに形成されたグロメット取付孔18Aに嵌着した後、作業者は片手でフードモール4Aをもって、これを図6に示した位置に押さえ付け、その状態のまま、他方の手でエアガンを操作してスクリュー9をグロメット10にねじ込む必要がある。このように作業者は両手を使って取付作業を行わなければならず、その作業性が低下する。
【0025】
また、図2、図4及び図5に示したように、各係止突起25には、リブ29が一体に形成されている。このリブ29も、フードモール4の成形時に、係止突起25と共に成形され、リブ29、係止突起25及びフードモール4の全体が一部品として構成される。
【0026】
前述のように、フードモール4をフードパネル2に取り付ける際には、各係止突起25を取付空間MRに挿入するが、このとき上述のリブ29が係止突起25を案内する働きをなす。しかも、係止突起25を取付空間MRに挿入した後に、リブ29が係止突起25を取付空間MR内の所定の位置に位置決めする用をなす。このように、本例の係止突起25には、その係止突起25を取付空間MRに位置決めするためのリブ29が一体に形成されているのである。
【0027】
また、フードパネル2の製造時に、そのアウタパネル5とインナパネル6が組み付けられた後、これらが電着塗装によって下塗りされるが、その際、インナパネル6に係止孔28が形成されているので、電着塗装時に効率よく電着塗装液がフードパネル2の内部にまで流入し、下塗り不良の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 フード
2 フードパネル
3 前縁
4 フードモール
5 アウタパネル
6 インナパネル
7 アウタパネルの最前部外側面
8 インナパネルの前部内側面
11 フードモールの前部
14 車体
22 アウタパネルの最前部
23 インナパネルの最前部
24 窪み部
25 係止突起
27 爪部
28 係止孔
29 リブ
R 前部空間
MR 取付空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部エンジンルーム又は前部トランクルームより成る前部空間を覆った閉位置と、前部空間を開放した開位置との間を回動開閉可能に車体に支持されたフードパネルと、該フードパネルの前縁に沿って延びるフードモールとを有し、前記フードパネルは、アウタパネルと、該アウタパネルに固定されていて、当該アウタパネルよりも前部空間の側に位置するインナパネルとを有し、前記フードモールは、前記アウタパネルの最前部外側面と前記インナパネルの前部内側面を覆い、かつ該フードモールの後部が前記インナパネルにねじ止めされている自動車のフードにおいて、
前記フードモールのねじ止め部よりも前方であって、前記アウタパネルの最前部外側面を覆っているフードモールの前部よりも後方のフードモール部分に、爪部を有する係止突起が一体に形成され、該爪部が前記インナパネルに形成された係止孔に係合していることを特徴とする自動車のフード。
【請求項2】
前記アウタパネルとインナパネルの最前部は、重ね合された状態でスポット溶接されていると共に、該インナパネルの最前部の一部がアウタパネルの最前部よりも後方に退避した状態に窪んでいて、該窪み部とこれに対向するアウタパネル面とによって区画された取付空間に前記係止突起が位置し、該係止突起には、その係止突起を前記取付空間に位置決めするリブが一体に形成されている請求項1に記載の自動車のフード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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