説明

自動車の前部車体構造

【課題】 本発明は、歩行者保護性能を確保した状態で、カウルパネルの振動を抑制することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る自動車の前部車体構造は、ダッシュパネル20上にカウルパネル23の下端後縁23dが固定されており、そのカウルパネル23の上端前縁23uにフロントウインド3を支持するカウルアッパパネル24が固定されている自動車の前部車体構造であって、カウルパネル23には、衝突荷重Fを受けたときに折れ曲がるように構成された折り曲げ部23wが車幅方向に延びるように形成されており、ダッシュパネル20にはカウルパネル23の下方で、前方に張り出すダッシュフロントパネル部25が設けられており、カウルパネル23の折り曲げ部23w近傍が車幅方向における少なくとも一ヶ所で、ダッシュフロントパネル部25と連結材45によって連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の内側と外側とを区分するダッシュパネル上に車幅方向に延びるカウルパネルの下端後縁が固定されて、そのカウルパネルの上端前縁に同じく車幅方向に延びる構成で、フロントウインドの下端部を内側から支持するカウルアッパパネルが固定されている自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部車体構造に関しては、いわゆる歩行者保護対策の観点から衝撃吸収の構造について様々な提案がなされている。
特許文献1に記載の自動車の前部車体構造は、図6に示すように、車室の内側と外側とを区分するダッシュパネル101の上に車幅方向に延びるカウル103が固定されており、そのカウル103によってフロントウインドWの下端部が内側から支持されている。カウル103は、カウルアッパパネル103uとカウルロアパネル103dとにより中空閉断面状に形成されており、そのカウルロアパネル103dの下端後縁がダッシュパネル101の上端縁に固定されている。そして、カウルアッパパネル103uの上端前縁でフロントウインドWが支持されている。
このように、カウル103は、カウルロアパネル103dの下端後縁のみがダッシュパネル101によって支持される構成のため、歩行者と車両との衝突による荷重(衝突荷重)がフロントウインドWを介してカウルアッパパネル103uに加わると、カウル103が下方に変形し易くなる。このため、前記衝突荷重がカウル103の変形によってある程度吸収され、歩行者の保護が図られる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−104179号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した自動車の前部車体構造では、歩行者保護性能(衝撃吸収性能)の向上のためカウル103のみを変形し易い構成にしたことにより、カウル103がラジエターの電動ファンによって励起される振動を受けて振動し、その振動が増幅されて室内まで伝わり易くなる。これにより、運転時の快適さが損なわれる。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、歩行者保護性能を確保した状態で、カウルパネルの振動を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、車室の内側と外側とを区分するダッシュパネル上に車幅方向に延びるカウルパネルの下端後縁が固定されて、そのカウルパネルの上端前縁に同じく車幅方向に延びる構成で、フロントウインドの下端部を内側から支持するカウルアッパパネルが固定されている自動車の前部車体構造であって、前記カウルパネルには、そのカウルパネルが前記カウルアッパパネルを介して衝突荷重を受けたときに折れ曲がるように構成された折り曲げ部が車幅方向に延びるように形成されており、前記ダッシュパネルには前記カウルパネルの下方で、前方に張り出すダッシュフロントパネル部が設けられており、前記カウルパネルの折り曲げ部近傍が車幅方向における少なくとも一ヶ所で前記ダッシュフロントパネル部と連結材によって連結されていることを特徴とする。
【0006】
本発明によると、カウルパネルの折り曲げ部近傍が車幅方向において少なくとも一ヶ所でダッシュフロントパネル部と連結材によって連結されている。即ち、カウルパネルは下端後縁がダッシュパネルに支持されるとともに、折り曲げ部近傍が連結材を介してダッシュフロントパネル部に支持されている。このため、カウルパネルがその下端後縁を中心にして回転方向に変位し難くなり、そのカウルパネルの振動が抑制される。この結果、例えば、ラジエターの電動ファンノイズ等がカウルパネルを介して室内に伝わり難くなる。
ここで、前記連結材は、車幅方向において少なくとも一ヶ所だけ設けられており、カウルパネルの折り曲げ部近傍に連結されている。このため、前記連結材がカウルパネルの変形性能に悪影響を与えることはほとんどない。さらに、衝突荷重は、フロントウインドを介してカウルアッパパネルに加わるため、カウルパネルの折り曲げ部近傍を支持する連結材に前記衝突荷重が直接的に加わることがない。
即ち、歩行者保護性能を確保した状態で、カウルパネルの振動を抑制することが可能になる。
【0007】
請求項2の発明によると、カウルパネルには、折り曲げ部から外れた位置に前記カウルパネルの面剛性を高めるための凹凸が形成されていることを特徴とする。
このため、カウルパネルが撓み難くなり、そのカウルパネル自身の振動が抑制される。また、カウルパネルの凹凸は折り曲げ部から外れた位置に形成されているため、衝突荷重が加わったときのカウルパネルの変形性能に前記凹凸が悪影響を及ぼすことはほとんどない。
請求項3の発明によると、カウルパネルには、車幅方向に長い複数の凹みが、車体の中心を挟んでほぼ対称に形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明によると、カウルパネルの車幅方向のほぼ中央が連結材によってダッシュフロントパネル部と連結されていることを特徴とする。このため、1つの連結材で効率的にカウルパネルの振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、歩行者保護性能を確保した状態で、カウルパネルの振動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施形態1]
以下、図1から図5に基づいて本発明の実施形態1に係る自動車の前部車体構造について説明する。ここで、図1、図2は本実施形態に係る自動車の前部車体構造を表す縦断面図、図3は自動車の前部車体構造に使用されるカウルパネルの斜視図、図4は連結材の斜視図である。また、図5は本実施形態に係る前部車体構造を備える自動車の正面図等である。
なお、図中の前後左右及び上下は、自動車の前後左右及び上下に対応している。
【0010】
<自動車の前部車体構造の概要>
先ず、図1、図2に基づいて自動車の前部車体構造の概要を説明する。ここで、図1は、図5(A)のI−I矢視縦断面図であり、図2は図5(A)のII−II矢視縦断面図である。
自動車の前部には、車室HとエンジンルームEとの間を区分するダッシュパネル20が車幅方向に形成されており、そのダッシュパネル20の上端前縁20wにカウルパネル23の下端後縁23dとダッシュフロントパネル部25の後端縁25bとが溶接等により固定されている。カウルパネル23は、ダッシュパネル20上で車幅方向に延びるように構成されており、そのカウルパネル23の上端前縁23uに同じく車幅方向に延びるカウルアッパパネル24の後端縁24bが固定されている。そして、カウルアッパパネル24の後端縁24bとカウルパネル23の上端前縁23uとがインストルメントパネル5の係合凹部5kに嵌め込まれている。また、カウルアッパパネル24によって車室Hのフロントウインド3の下端部が支持されている。
【0011】
ダッシュフロントパネル部25は、ダッシュパネル20の上端前縁20wから前方に張り出すパネル部であり、カウルパネル23の下方で車幅方向に延びるように構成されている。そして、そのダッシュフロントパネル部25の上端前縁25sに棚状のカウルフロントパネル26の後端縁26bが固定されている。カウルフロントパネル26はエンジンルームEの天井部分を構成するとともに、その先端部26fでカウルルーバ30を下方から支持できるように構成されている。
カウルルーバ30は、フロントウインド3の下端縁を車幅方向全体に亘って覆うとともに、エンジンフード40の後端縁43を下方から支えるパネルである。カウルルーバ30の前端縁には、断面略台形状の台座であるシール取付け部35が車幅方向に延びるように形成されており、シール取付け部35の上面35uにゴム製のシール部材36(ウエザーストリップ36)がシール取付け部35に沿って取付けられている。
シール部材36は、カウルルーバ30の前端縁と、そのカウルルーバ30の前端縁に被せられるエンジンフード40との間をシールする部材であり、外部からエンジンルームE内に水や異物等が入り込むのを防止している。
【0012】
<カウルパネルについて>
次に、図1〜図3に基づいて、カウルパネル23について説明する。ここで、図3はカウルパネル23を車室内側から見た斜視図である。カウルパネル23は、縦断面形状が略「く」字形をしてエンジンルームE側に突出するように構成された板材であり、上下方向において略中央位置に折り曲げ部23w(図1、図2参照)が車幅方向に延びるように形成されている。そして、歩行者が自動車に衝突したときの衝突荷重Fがフロントウインド3、カウルアッパパネル24を介してカウルパネル23に加わると、そのカウルパネル23は折り曲げ部23wの位置でさらに折れ曲がるように構成されている。これによって、前記衝突荷重Fがカウルパネル23の折れ曲がり等によってある程度吸収され、歩行者の保護が図られる。
また、カウルパネル23には、折り曲げ部23wと下端後縁23dとの間のパネル面の面剛性を高めるために、図3に示すように、車幅方向に長い略角形の凹み23kが車体の中心を挟んでほぼ対称に複数形成されている。
【0013】
さらに、カウルパネル23の車幅方向ほぼ中央位置には、図1に示すように、カウルパネル23のエンジンルームE側で折り曲げ部23wの近傍位置に連結材45の上端面45uが溶接されている。そして、その連結材45の下端面45dがダッシュフロントパネル部25の前端縁25sに溶接されている。即ち、カウルパネル23は、車幅方向ほぼ中央位置が連結材45によって前下方から支持されている。
連結材45は、図4に示すように、断面「コ」字形の溝形鉄板を略「く」字形に折り曲げた形状をしており、薄い鉄板であっても変形し難いように構成されている。また、強度にさほど影響を与えない部位に開口45hを形成することで、連結材45の軽量化が図られている。
なお、連結材45は、車幅方向ほぼ中央位置に一個だけ設けられており、他の部位には、図2に示すように、連結材45は設けられていない。
【0014】
<本実施形態に係る自動車の前部車体構造の長所>
本実施形態に係る自動車の前部車体構造によると、カウルパネル23には、折り曲げ部23wから外れた位置にそのカウルパネル23の面剛性を高めるための複数の凹み23kが形成されている。このため、カウルパネル23が撓み難くなり、そのカウルパネル23自身の振動が抑制される。
また、カウルパネル23の折り曲げ部23w近傍が車幅方向において少なくとも一ヶ所でダッシュフロントパネル部25と連結材45によって連結されている。即ち、カウルパネル23は下端後縁23dがダッシュパネル20に支持されるとともに、折り曲げ部23w近傍が連結材45を介してダッシュフロントパネル部25に支持されている。このため、カウルパネル23がその下端後縁23dを中心にして回転方向に変位し難くなり、そのカウルパネル23の振動が抑制される。
【0015】
ここで、図5(B)は、カウルパネル23を加振点として振動させた場合の各周波数毎の加振点における応答振動レベル(dB)をシュミレーションで求めた結果である。図5(B)における特性Iは、カウルパネル23に凹み23kを設けず、さらに前記カウルパネル23を連結材45で支持しなかった場合の振動特性(振動周波数(Hz)に対するカウルパネル23の応答振動レベル(dB)の変化)を表している。特性IIは、カウルパネル23に凹み23kを設けただけで、連結材45により支持しなかった場合の振動特性を表している。特性IIIは、カウルパネル23に凹み23kを設け、さらに連結材45により支持した場合の振動特性を表している。
このように、カウルパネル23に凹み23kを設け、さらに連結材45で支持することにより、そのカウルパネル23の振動を大幅に減少させることができる。
このため、例えば、ラジエターの電動ファンノイズ(周波数 約190Hz)等がカウルパネル23を介して車室内に伝わり難くなる。
【0016】
ここで、カウルパネル23の凹み23kは折り曲げ部23wを除く位置に形成されているため、衝突荷重Fが加わったときのカウルパネル23の変形性能に前記凹み23kが悪影響を与えることはほとんどない。
また、連結材45は、車幅方向において少なくとも一ヶ所だけ設けられており、カウルパネル23の折り曲げ部23w近傍に接続されている。このため、前記連結材45がカウルパネル23の変形性能に悪影響を与えることはほとんどない。さらに、衝突荷重Fは、フロントウインドを介してカウルアッパパネルに加わるため、カウルパネルの折り曲げ部23w近傍を支持する連結材45に前記衝突荷重Fが直接的に加わることがない。
即ち、歩行者保護性能を確保した状態で、カウルパネル23の振動を抑制することが可能になる。
【0017】
<自動車の前部車体構造の変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、カウルパネル23の折り曲げ部23wと下端後縁23dとの間に複数の凹み23kを形成する例を示したが、これに加えて上端前縁23uと折り曲げ部23wとの間に複数の凹み23kを形成することも可能である。
また、凹み23kの代わりに突起を形成することも可能である。さらに、凹凸の断面形状、及び平面形状は適宜変更可能である。
また、カウルパネル23の車幅方向における中央部を連結材45で支持する例を示したが、カウルパネル23の車幅方向における複数個所をそれぞれ連結材45で支持することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る自動車の前部車体構造を表す縦断面図(図5(A)のI−I矢視縦断面図)である。
【図2】本発明の実施形態1に係る自動車の前部車体構造を表す縦断面図(図5(A)のII−II矢視縦断面図)である。
【図3】自動車の前部車体構造に使用されるカウルパネルの斜視図である。
【図4】自動車の前部車体構造に使用される連結材の斜視図である。
【図5】実施形態1に係る前部車体構造を備える自動車の正面図(A図)、及び振動特性を表すグラフである(B図)。
【図6】従来の自動車の前部車体構造を表す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
3 フロントウインド
20 ダッシュパネル
23 カウルパネル
23k 凹み(凹凸)
23w 折り曲げ部
23u 上端前縁
23d 下端後縁
24 カウルアッパパネル
25 ダッシュフロントパネル部
30 カウルルーバ
40 エンジンフード
45 連結材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の内側と外側とを区分するダッシュパネル上に車幅方向に延びるカウルパネルの下端後縁が固定されて、そのカウルパネルの上端前縁に同じく車幅方向に延びる構成で、フロントウインドの下端部を内側から支持するカウルアッパパネルが固定されている自動車の前部車体構造であって、
前記カウルパネルには、そのカウルパネルが前記カウルアッパパネルを介して衝突荷重を受けたときに折れ曲がるように構成された折り曲げ部が車幅方向に延びるように形成されており、
前記ダッシュパネルには前記カウルパネルの下方で、前方に張り出すダッシュフロントパネル部が設けられており、
前記カウルパネルの折り曲げ部近傍が車幅方向における少なくとも一ヶ所で、前記ダッシュフロントパネル部と連結材によって連結されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載された自動車の前部車体構造であって、
前記カウルパネルには、前記折り曲げ部から外れた位置に前記カウルパネルの面剛性を高めるための凹凸が形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2に記載された自動車の前部車体構造であって、
カウルパネルには、車幅方向に長い複数の凹みが、車体の中心を挟んでほぼ対称に形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された自動車の前部車体構造であって、
カウルパネルの車幅方向のほぼ中央が連結材によってダッシュフロントパネル部と連結されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−182113(P2007−182113A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−441(P2006−441)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】