説明

自動車の前部車体構造

【課題】本発明は、フロントサイドフレーム後端を車室フロア下部の後側フレーム前端に連結する自動車の前部車体構造において、ダッシュパネルの前端位置よりも車両後方側に、フロントサイドフレームと後側フレームの連結部位を設定しつつ、フロントサイドフレームに横折れ変形を生じさせても、フロアパネルに横折れ変形の影響が生じないようにできる自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】湾曲部25の内側壁面25aには、上下方向に延びる横折れビード43を形成している。この横折れビード43は、内凹状に形成された脆弱ビードであって、フロントサイドフレーム2が前後方向荷重を受けた際には、この横折れビード43に応力集中が生じて、この横折れビード43をきっかけにして、フロントサイドフレーム2に横折れ変形が生じるように設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の前部車体構造に関し、特に、フロントサイドフレームの後端を車室フロア下部の後側フレーム前端に連結する自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の前部車体構造においては、ダッシュパネル前方で車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、ダッシュパネル後方のフロアパネル下部で車両前後方向に延びる後側フレームとを備え、フロントサイドフレーム後端を、斜め下方側に湾曲させて、後側フレーム前端に連結する車体構造が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
そして、こうしてフロントサイドフレームと後側フレームとを連結する構造においては、例えば、前面衝突荷重をできるだけ後側フレームに伝達するために、ダッシュパネルの下部後方位置まで、フロントサイドフレームの後端を潜り込ませて、フロントサイドフレームと後側フレームとの連結部を、ダッシュパネルの前端位置よりも後方に位置するように設定することが行われる。
【0004】
一方、フロントサイドフレームの前面衝突時の変形挙動は、軸圧縮で座屈変形させることが望ましいが、例えば、下記特許文献2に開示された従来構造のように、フレーム形状等により車幅方向に折れ曲り変形(以下、横折れ変形)する場合もある。
【0005】
【特許文献1】特開2006−232147号公報
【特許文献2】特開2002−316666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フロントサイドフレームの変形挙動は、フレーム形状や衝突荷重の入力方向等により決定されるが、例えば、フロントサイドフレームを、積極的に横折れ変形させることで、フロントサイドフレーム後端の後退量を低減することも考えられる。
【0007】
しかし、この場合には、フロントサイドフレーム後端に、横折れ変形の反力によって車幅方向に変位しようとする挙動が生じて、後側フレームとの連結部が車幅方向に変形するおそれが生じる。
【0008】
こうして、フロントサイドフレームと後側フレームとの連結部が車幅方向に変形すると、前述のように、この連結部が、ダッシュパネルの前端位置より後方側に位置するように設定されている場合には、フロアパネルの前端部に、その影響が生じて、乗員の足元付近の空間が変形するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、フロントサイドフレーム後端を車室フロア下部の後側フレーム前端に連結する自動車の前部車体構造において、ダッシュパネルの前端位置よりも車両後方側に、フロントサイドフレームと後側フレームの連結部位を設定した場合に、フロントサイドフレームに横折れ変形を生じさせても、フロアパネルに横折れ変形の影響が生じないようにできる自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車の前部車体構造は、車両前部から後方のダッシュパネルに向って延びるとともに、ダッシュパネル前方で下方に湾曲してダッシュパネル下方に延びるフロントサイドフレームと、ダッシュパネル前端より後方位置で前記フロントサイドフレーム後端と連結される後側フレームとを備え、車両前後方向で前記ダッシュパネル前端と略一致するフロントサイドフレームの側壁部に、上下方向に延びる脆弱ビートからなる折れ部を形成したものである。
【0011】
上記構成によれば、フロントサイドフレームは、ダッシュパネル前端と車両前後方向で略一致するフロントサイドフレームの側壁部に、脆弱ビートからなる折れ部を形成したことで、前面衝突荷重が作用すると、この折れ部で横折れ変形が生じることになる。
このため、フロントサイドフレームの後端には、横折れ変形の反力による車幅方向への変位挙動が生じにくくなり、車幅方向の変形のおそれが少なくなり、フロアパネルに横折れ変形の影響が生じないようにできる。
【0012】
なお、この脆弱ビードからなる折れ部は、フロントサイドフレームの側壁部であれば、車幅方向内方側、車幅方向外方側いずれに形成してもよい。
【0013】
また、折れ曲り方向も、車幅方向外方側、車幅方向内方側、いずれの方向に折れ曲るように設定してもよい。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記フロントサイドフレームは、左右に分割され上下フランジがフランジ重合により接合される閉断面形状のフレームであり、前記後側フレームは、断面逆ハット形状のフレームであり、該後側フレーム前端が前記フロントサイドフレーム内に差込まれることで該フロントサイドフレームに連結されるものである。
上記構成によれば、後側フレーム前端がフロントサイドフレーム内に差込まれることで、フロントサイドフレーム後端に連結されるため、フロントサイドフレームに設けた上下フランジが邪魔になることがなく、フロントサイドフレームの後端位置までフランジ重合部を設定することができる。
よって、フロントサイドフレーム後端の結合部分での横方向剛性が極端に悪化することを抑制でき、フロントサイドフレームがこの結合部分で変形することを防止できる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記フロントサイドフレームの後端側上部には、フランジ重合しない開放部を形成して、該開放部をダッシュパネルの下部傾斜面に接合するとともに、前記フランジ重合した部分の後端に、ダッシュパネル前端の縦壁に接合する膨出部を形成したものである。
上記構成によれば、前面衝突荷重が作用すると、膨出部によりフロントサイドフレームがダッシュパネル前端の縦壁から突っ張り力を受けるため、衝突荷重が脆弱な折れ部に応力集中しやすくなり、折れ部での横折れ変形を促進することができる。
よって、折れ部での横折れ変形をより促進させて、フロントサイドフレームと後側フレームとの連結部分での変形をより一層抑制することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、ダッシュパネル前方のフロントサイドフレームの内側壁部と車幅方向内方側のダッシュパネルとを略筋交い状に連結する補強部材を設けたものである。
上記構成によれば、補強部材が、車幅方向内方側でフロントサイドフレームとダッシュパネルとを略筋交い状に連結するため、前面衝突荷重が作用すると、フロントサイドフレームが車幅方向外方側に横折れ変形することになる。
このため、フロントサイドフレームが、折れ部で車幅方向内方側に横折れ変形するおそれがなくなり、ダッシュパネルとフロアパネルに、フロントサイドフレームの横折れ変形による影響が生じるおそれを防止できる。
よって、乗員の足元付近の空間が変形するのを確実に防止することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記フロントサイドフレームの湾曲部に、取付けブラケットを介してサブフレームを取付ける構造であって、前記取付けブラケットの後端が、前記ダッシュパネルの直前に位置するように設定したものである。
上記構成によれば、前面衝突荷重が作用すると、サブフレームを取付ける取付けブラケットの部分では、フロントサイドフレームの変形が生じず、ダッシュパネル前端位置の脆弱な折れ部に、応力集中させることができる。
よって、サブフレームを取付ける取付けブラケットを利用して、より確実に、フロントサイドフレームに、折れ部での横折れ変形を生じさせることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、折れ部で横折れ変形が生じることから、フロントサイドフレームの後端には、横折れ変形の反力による車幅方向への変位挙動が生じにくくなり、車幅方向の変形のおそれが少なくなり、フロアパネルに横折れ変形の影響が生じないようにできる。
【0019】
よって、本発明は、フロントサイドフレーム後端を車室フロア下部の後側フレーム前端に連結する自動車の前部車体構造において、ダッシュパネルの前端位置よりも後方側に、フロントサイドフレームと後側フレームの連結部位を設定した場合に、フロントサイドフレームに横折れ変形を生じさせても、フロアパネルに横折れ変形の影響が生じないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造の要部斜視図、図2は前部車体構造のエンジンルーム内方側からの側面図、図3は前部車体構造の平面図、図4は前部車体構造の底面図である。なお、各図においては、車体右側だけを示しているが、車体左側も対称構造となっており、車体左側の車体構造については図示しない。
【0022】
この実施形態の自動車の前部車体構造は、図2に示すように、エンジンルームEと車室Cを上下方向及び車幅方向に延びて仕切るダッシュパネル1と、このダッシュパネル1の前方位置で車両前後方向に延びるフロントサイドフレーム2と、ダッシュパネル1の下方位置で車両後方側に延びるフロアメインフレーム3と、ダッシュパネル1の上部前方に設置されるカウルボックス4と、フロントサイドフレーム2の側方位置でタワー形状に立設されるサスタワー部5と、このサスタワー部5と前述のダッシュパネル1とを上下方向及び車両前後方向に延びて連結するエプロン部6と、を備えている。
【0023】
ダッシュパネル1の下部には、図4に示すように、車室フロアを構成する、車両前後方向及び車幅方向に広がるフロアパネル7を接合固定している。このフロアパネル7の車幅方向中央位置には、車室側(上方側)に隆起した車両前後方向に延びるトンネル部8を形成している。
【0024】
ダッシュパネル1の下部前面には、図2に示すように、車幅方向に延びる閉断面を構成するダッシュロアクロス9を接合固定している。このダッシュロアクロス9を設けることで、ダッシュパネル1下部の剛性を高めている。
【0025】
このうち、前述のフロントサイドフレーム2は、上部と下部それぞれに接合フランジ21,22を設けた略長方形断面のメンバー部材で構成している。
このフロントサイドフレーム2の車幅方向内方側壁面(以下、内側壁面)には、凹形状に窪み水平方向に延びる第一凹状溝23を形成している。また、フロントサイドフレーム2の車幅方向外方側壁面(以下、外側壁面)にも、同様に、凹形状に窪み水平方向に延びる第二凹状溝24を形成している(図3参照)。
【0026】
これらの凹状溝23,24は、フレーム前部位置では、フレーム断面の稜線を増やすことで、座屈変形のエネルギー吸収量を増加させる衝撃吸収部として機能する。
【0027】
また、クレーム中央部位置では、第一凹状溝23の後端23aを、第二凹状溝24の後端24aよりも車両後方側まで延びるように形成することで、フロントサイドフレーム2の横折れ変形を促進する変形コントロール部として機能する。なお、フロントサイドフレーム2の詳細な変形挙動については後述する。
【0028】
また、図3に示すように、フロントサイドフレーム2の前端には、衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックス10を設置している。なお、Tはフロントタイヤである。
【0029】
図2に示すように、フロントサイドフレーム2は、その後部をダッシュパネル1の下部に潜り込ませてフロアメインフレーム3に連結するために、斜め下方に湾曲(湾曲部25)するように形成している。そして、このフロントサイドフレーム2の後端26は、ダッシュパネル1の前端たるダッシュロアクロス9の縦壁(1a)よりも車両後方側位置において、フロアメインフレーム3の前端31と連結部40で連結固定している。
【0030】
この連結部40を、ダッシュパネル1の前端1aより車両後方側位置に設定しているのは、まず、後述のように、フロントサイドフレーム2を横折れ変形させる場合に、ダッシュパネル1の前端1aより車両前方側に連結部40を設定すると、この部分を起点として、フロントサイドフレーム2が上方に折れ曲るおそれがあり、所望の横折れ変形挙動を得られないためである。また、フロントサイドフレーム2からの前面衝突荷重を、できるだけフロアメインフレーム3に伝達することで、いわゆる「アンダーロードパス機能」を高めるためである。
【0031】
図1に示すように、フロントサイドフレーム2の湾曲部25の下側面には、サスペンションサブフレーム(図示せず)をフロントサイドフレーム2に固定するサブフレーム取付けブラケット41を接合固定している。このサブフレーム取付けブラケット41は、フレーム取付け部41aを膨出形成した異形のブラケット部材で構成している。このサブフレーム取付けブラケット41を接合固定することで、フロントサイドフレーム2のこの接合部分の剛性を高めている。
【0032】
この湾曲部25の内側壁面25aには、車幅方向内方側に傾斜して車両前後方向に延びて、ダッシュロアクロス9の車幅方向内側と、フロントサイドフレーム2の湾曲部25とを、連結する連結補強メンバー42を設けている。
【0033】
この連結補強メンバー42は、図1に示すように、略ハット断面のメンバー部材で構成しており、前端フランジ42aを湾曲部25の内側壁面25aに接合して、後端フランジ42bをダッシュロアクロス9の前面(1a)に接合することで、フロントサイドフレーム2とダッシュパネル1の間を、略筋交状に繋ぐように構成している(図3、図4参照)。
【0034】
なお、この連結補強メンバー42がフロントサイドフレーム2から受ける前面衝突荷重は、図4に示すように、ダッシュロアクロス9から、トンネル部8のコーナーを車両前後方向に延びるトンネルフレームメンバー81に伝達されるように設定している。
【0035】
また、図1に示すように、湾曲部25の内側壁面25aには、上下方向に延びる横折れビード43を形成している。この横折れビード43は、内凹状に形成された脆弱ビードであって、フロントサイドフレーム2が前後方向荷重を受けた際には、この横折れビード43で応力集中が生じて、この横折れビード43をきっかけにして、フロントサイドフレーム2に横折れ変形が生じるように設定している。
【0036】
この横折れビード43は、図1及び図2に示すように、ダッシュパネル1の前端1aの位置と車両前後方向で略一致する位置に設けており、湾曲部25の内側壁面25aの上下方向ほぼ全域にわたって、延びるように形成している。また、この横折れビード43の直前には、前述のサブフレーム取付けブラケット41の後端41bが位置するように設定している。
【0037】
この横折れビード43を設けることで、後述するように、フロントサイドフレーム2とフロアメインフレーム3との連結部40には、車幅方向の変形(変位)が生じないようにしている。
【0038】
次に、図5、図6の断面図を利用して、各構成要素の接合関係について説明する。図5は図4のA−A線矢視断面図、図6は図5のB−B線、C−C線、D−D線の各矢視断面図である。
【0039】
図5に示すように、ダッシュパネル1下部に接合されるダッシュロアクロス9には、車両前方側から延びるフロントサイドフレーム2の上部フランジ21が接合される。この接合位置では、一点鎖線で示す通常ラインLよりも上方に隆起した膨出部27を設けており、この膨出部27でダッシュロアクロス9に接合している。
【0040】
フロントサイドフレーム2は、図6(a)に示すように、左右に二分割されるフレーム部材で構成しており、外側部材2Aが薄いハット形断面で形成されて、内側部材2Bが厚いハット形断面で形成されている。そして、両者の上部フランジ21A、21Bと下部フランジ22A、22Bとを重合接合することによって、略長方形形状の閉断面Qを構成するようにしている。
【0041】
図5に示すように、フロントサイドフレーム2の湾曲部25の下側面25cには、前述したようにサブフレーム取付けブラケット41を接合している。
【0042】
フロントサイドフレーム2の後端26には、フロアメインフレーム3の前端31を差込むようにして、フロアメインフレーム3を連結する連結部40を設けている。
【0043】
この連結部40は、図6(b)に示すように、ダッシュパネル1の傾斜部1b下面に上部フランジ21C,21Cを接合したフロントサイドフレーム2に、断面略コ字状のフロアメインフレーム3の前端31を差込んで、両者を接合することで構成している。
【0044】
このように構成することで、フロントサイドフレーム2の下部フランジ22の重合した接合部分22Cを、フロントサイドフレーム2の後端26位置まで設定できる。これにより、連結部40でのフロントサイドフレーム2の横剛性を高めることができる。
【0045】
また、この連結部40では、フロントサイドフレーム2の上部に、ダッシュパネル1の傾斜部1b下面に、上部フランジ21C,21Cを接合するための、開放部28を設定している。
【0046】
そして、図5に示すように、ダッシュパネル1の傾斜部1b下部には、車室フロアを構成するフロアパネル7を接合している。このフロアパネル7の上方には、図示しない乗員の足等が位置して、乗員の足元空間Sを構成している。
【0047】
また、このフロアパネル7の下面には、図6(c)に示すように、両側フランジ32,32を接合することで、断面ハット状のフロアメインフレーム3を接合している。このように、フロアパネル7下面にフロアメインフレーム3を接合することで、フロアパネル7下部に車両前後方向に延びる閉断面Rを構成して、フロントサイドフレーム2からの前面衝突荷重を、車体後方側に伝達するようにしている。
【0048】
このように構成された自動車の前部車体構造の、前面衝突時の変形挙動について、図7を利用して説明する。図7は、前部車体構造の前面衝突荷重を受けた際の変形挙動を説明する模式図である。
【0049】
(a)が衝突前の車体構造を示す模式図で、(b)が衝突後の車体構造を示す模式図である。Fはフロントサイドフレームとクラッシュボックスとからなるフロントフレーム体、Dはダッシュパネル、Mは連結補強メンバー、Iはダッシュロアクロスとトンネルフレームメンバーとからなる内側荷重伝達体、R(ハッチング領域)はサブフレーム取付けブラケット、Xは横折れビード、Tはフロントタイヤを示している。なお、Uは前述の図面では具体的には図示していないが衝突荷重をフロントピラー(図示せず)に伝達する上側荷重伝達体である。
【0050】
(a)の衝突前の車体構造に示すように、フロントフレーム体Fは、車両前後方向に略直線状に延びるように設置しており、その後方には、ダッシュパネルDと、連結補強メンバーMと、内側荷重伝達体Iと、上側荷重伝達体Uとを設置して、車両前方からの前面衝突荷重Zを、車体後方側の各方向に分散して、荷重を伝達するように構成している。
【0051】
また、この図において、フロントフレーム体Fには、変形後の位置関係が容易に分かるように、便宜上、車両前後方向に略直線状に延びる複数のポイントを設定している。第一ポイントP1はクラッシュボックスの前端位置、第二ポイントP2はフロントサイドフレームの前端位置、第三ポイントP3は薄板(前側)と厚板(後側)との突合せ溶接の位置、第四ポイントP4はエンジンマウントの取り付け位置、第五ポイントP5はサブフレーム取付けブラケットの前端位置、第六ポイントP6はダッシュパネルの前端位置、第七ポイントP7はフロントサイドフレームの後端位置である。
【0052】
前面衝突荷重Zが作用すると、フロントフレーム体Fは、座屈変形と横折れ変形をして衝突エネルギーを吸収するとともに、後端の後方移動を抑制して、ダッシュパネル1の後退を防ぐ。
【0053】
具体的には、(b)に示すように、衝突体Wがフロントフレーム体Fに衝突すると、フロントフレーム体Fの第一ポイントP1と第二ポイントP2との間、さらには、第三ポイントP3の途中までの間で、座屈変形が生じる。
【0054】
しかし、第三ポイントP3から第四ポイントP4の間では、エンジンマウント等が存在することから座屈変形させることができない。
【0055】
そこで、フレーム形状が途中から細くなっていること、及び板厚が変化していることを利用して、積極的に、第二ポイントP2と第三ポイントP3との間で車幅方向内方側に横折れ変形させるようにしている。
【0056】
さらに、第四ポイントP4では、第二凹状溝が車両後方側まで延びるように形成していることで、第五ポイントP5までの間を車幅方向外方側に横折れ変形させるようにしている。
【0057】
また、第五ポイントP5では、サブフレーム取付けブラケットRでサブフレームを取り付け固定していることから、このポイントP5では、再度、車幅方向内方側に横折れ変形が生じるようにしている。
【0058】
さらに、第六ポイントP6では、横折れビードXを設けていることで、車幅方向外方側(車両後方側)へ折れ曲がる横折れ変形が生じるようにしている。
【0059】
このため、第七ポイントP7では、衝突前と同様の車幅方向位置を維持することができる。
【0060】
なお、この第六ポイントP6での車両外方側への横折れ変形は、補強連結メンバーMを設けていることで、確実に車幅方向外方側に折れ曲がる。これは、補強連結メンバーMを圧縮変形させて車幅方向内方側に変形するよりも、補強連結メンバーMとフロントフレーム体Fとの間で「剥離」を生じさせて、車幅方向外方側に変形させる方が、容易に横折れ変形するからである。
【0061】
また、この補強連結メンバーMの後方位置に位置する内側荷重伝達体Iも、荷重伝達によって変形する。
【0062】
このように、第六ポイントP6において、横折れ変形が生じることによって、後端の第七ポイントP7には、フロントフレーム体Fの横折れ変形の反力がほとんど作用しなく。
【0063】
よって、第七ポイントP7で、フロアパネル7(図4、図5参照)等に対して、横折れ変形の影響が及ぶのを回避できる。
【0064】
次に、このように構成された本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態の自動車の前部車体構造は、車両前後方向でダッシュパネル1前端と略一致するフロントサイドフレーム2の内側壁面25aに、上下方向に延びる横折れビード43を形成している。
【0065】
これにより、フロントサイドフレーム2は、前面衝突荷重が作用すると、この横折れビード43で横折れ変形が生じることになる。
このため、フロントサイドフレーム2の後端26には、横折れ変形の反力による車幅方向への変位挙動が生じにくくなり、車幅方向の変形のおそれが少なくなり、フロアパネル7等に横折れ変形の影響が生じないようにできる。
【0066】
よって、フロントサイドフレーム2後端をフロアメインフレーム3前端に連結する自動車の前部車体構造において、ダッシュパネル1の前端1a位置よりも後方側に、フロントサイドフレーム2とフロアメインフレーム3の連結部40を設定した場合に、フロントサイドフレーム2に横折れ変形を生じさせても、フロアパネル7等に横折れ変形の影響が生じないようにできる。
【0067】
また、この実施形態では、フロントサイドフレーム2が左右に分割され上部フランジ21と下部フランジ22とがフランジ重合により接合される閉断面形状のフレームであり、フロアメインフレーム3が断面逆ハット形状のフレームであり、このフロアメインフレーム3の前端31がフロントサイドフレーム2内に差込まれることでフロントサイドフレーム2に連結されるようにしている。
これにより、フロントサイドフレーム2の下部フランジ22が邪魔になることがなく、フロントサイドフレーム2の後端26位置まで、下部フランジ22の重合した接合部分22Cを設定することができる(図5、図6参照)。
よって、フロントサイドフレーム2後端の結合部40での横方向剛性が極端に悪化することを抑制でき、フロントサイドフレーム2がこの結合部40で変形することを防止できる。
【0068】
また、この実施形態では、フロントサイドフレーム2の後端側上部に、フランジ重合しない開放部28を設定して(図6参照)、この開放部28でダッシュパネル1の傾斜部1bに接合するとともに、上部フランジ21の重合した部分の後端に、ダッシュパネル1の前端1aに接合する膨出部27を形成している(図5参照)。
これにより、フロントサイドフレーム2に前面衝突荷重が作用すると、膨出部27によりフロントサイドフレーム2がダッシュロアクロス9から突っ張り力を受けるため、衝突荷重が横折れビード43に応力集中しやすくなり、横折れビード43での横折れ変形を促進することができる。
よって、横折れビード43での横折れ変形をより促進させて、フロントサイドフレーム2とフロアメインフレーム3との連結部40での変形をより一層抑制することができる。
【0069】
また、この実施形態では、ダッシュパネル1前方のフロントサイドフレーム2の内側壁面25aと車幅方向内方側のダッシュパネル1の前端1aとを、筋交い状に連結する連結補強メンバー42を設けている。
これにより、前面衝突荷重が作用すると、フロントサイドフレーム2の車幅方向内方側に、連結補強メンバー42が存在することにより、フロントサイドフレーム2が、車幅方向外方側に横折れ変形しやすくなる。
このため、フロントサイドフレーム2が、横折れビード43で車幅方向内方側に横折れ変形するおそれが少なくなり、車幅方向内方側のダッシュパネル1とフロアパネル7に、フロントサイドフレーム2の横折れ変形による影響が生じるおそれを防止できる。
よって、乗員の足元付近の足元空間Sが、変形するのを確実に防止することができる。
【0070】
また、この実施形態では、サブフレーム取付けブラケット41の後端41bが(図1、図2参照)、ダッシュパネル1の直前、すなわち、横折れビード43の直前に位置するように設定している。
これにより、前面衝突荷重が作用すると、サブフレーム取付けブラケット41を設けた部分では、フロントサイドフレーム2の変形が生じず、脆弱な横折れビード43に、応力集中させることができる。
よって、サブフレーム取付けブラケット41を利用して、より確実に、フロントサイドフレーム2に、横折れビード43での横折れ変形を生じさせることができる。
【0071】
以上、この発明の構成と前述の実施形態との対応において、
この発明の後側フレームは、実施形態のフロアメインフレーム3に対応し、
以下、同様に、
折れ部は、横折れビード43に対応し、
補強部材は、連結補強メンバー42に対応し、
取付けブラケットは、サブフレーム取付けブラケット41に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の前部車体構造に適用する実施形態を含むものである。
【0072】
前述の実施形態では、横折れビード43を、フロントサイドフレーム2の内側壁面25aに形成しているが、例えば、外側壁面に横折れビードを形成してもよい。また、内側壁面と外側壁面の両面に横折れビードを形成するようにしてもよい。
【0073】
さらに、横折れビード43による折れ曲り方向も、車幅方向外方側だけではなく、車幅方向内方側に折れ曲がるように設定してもよい。
【0074】
また、フロントサイドフレーム2に、横折れ変形を積極的に生じさせる構造も、前述の第一凹状溝23と第二凹状溝24に限定されるものではなく、例えば、上下方向に延びるビードを設定したり、パネル体の板厚を変化させたりする構造を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造の要部斜視図。
【図2】前部車体構造のエンジンルーム内方側からの側面図。
【図3】前部車体構造の平面図。
【図4】前部車体構造の底面図。
【図5】図4のA−A線矢視断面図。
【図6】図5のB−B線、C−C線、D−D線の各矢視断面図。
【図7】前部車体構造の前面衝突荷重を受けた際の変形挙動を説明する模式図。
【符号の説明】
【0076】
1…ダッシュパネル
2…フロントサイドフレーム
3…フロアメインフレーム
9(1a)…ダッシュロアクロス(ダッシュパネル前端)
25…湾曲部
40…連結部
41…サブフレーム取付けブラケット
42…連結補強メンバー
43…横折れビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部から後方のダッシュパネルに向って延びるとともに、ダッシュパネル前方で下方に湾曲してダッシュパネル下方に延びるフロントサイドフレームと、
ダッシュパネル前端より後方位置で前記フロントサイドフレーム後端と連結される後側フレームとを備え、
車両前後方向で前記ダッシュパネル前端と略一致するフロントサイドフレームの側壁部に、上下方向に延びる脆弱ビートからなる折れ部を形成した
自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームは、左右に分割され上下フランジがフランジ重合により接合される閉断面形状のフレームであり、
前記後側フレームは、断面逆ハット形状のフレームであり、
該後側フレーム前端が前記フロントサイドフレーム内に差込まれることで該フロントサイドフレームに連結される
請求項1記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレームの後端側上部には、フランジ重合しない開放部を形成して、
該開放部を、ダッシュパネルの下部傾斜面に接合するとともに、前記フランジ重合した部分の後端に、ダッシュパネル前端の縦壁に接合する膨出部を形成した
請求項2記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
ダッシュパネル前方のフロントサイドフレームの内側壁部と車幅方向中心側のダッシュパネルとを略筋交い状に連結する補強部材を設けた
請求項1〜3いずれか記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
前記フロントサイドフレームの湾曲部に、取付けブラケットを介してサブフレームを取付ける構造であって、
前記取付けブラケットの後端が、前記ダッシュパネルの直前に位置するように設定した
請求項1〜4いずれか記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−137522(P2009−137522A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318256(P2007−318256)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】