説明

自動車の後部車体構造

【課題】バックドア開口部及びショックアブソーバからの入力に対する剛性を確保しつつ、車体の軽量化,コンパクト化を可能とする自動車の後部車体構造を提供する。
【解決手段】リヤピラー2内には、ショックアブソーバ5の軸線a方向に延びてホイールハウス6とリヤヘッダ3とを連結し、かつピラーインナパネル10に閉断面Dをなすように接続されたピラーリインホース20が配設され、ホイールハウス6には、ショックアブソーバ5からの入力をピラーリインホース20とサイドメンバ8とに伝達する入力伝達部25が該サイドメンバ8とピラーリインホース20とを繋ぐように設けられ、ロアバック4の閉断面部Bには、左,右のサイドメンバ8の後端部8bが接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドア開口を形成するリヤピラー,リヤヘッダ及びロアバックと、ショックアブソーバを支持するホイールハウスとを備えた自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の後部車体構造として、例えば、特許文献1には、バックドア開口部の剛性を高めるとともに、ショックアブソーバからの突き上げ荷重が加わるホイールハウスの剛性を高める観点から、前記バックドア開口部にリインホースを配置するとともに、前記ホイールハウスにリインホースを配置し、この各リインホースの上端部をリヤヘッダ部で結合した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の後部車体構造では、バックドア開口部の剛性を確保するためのリインホースと、ショックアブソーバからの入力に対する剛性を確保するためのリインホースとをそれぞれ車体の左,右に設ける構造であることから、車体重量が増えるとともに、ドア開口部周辺が大型化するという問題が生じる。このため、車体の軽量化,コンパクト化の要請が強い小型車においては採用し難い構造となっており、この点での改善が要請されている。
【0005】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、バックドア開口部及びショックアブソーバからの入力に対する剛性を確保しつつ、車体の軽量化,コンパクト化を可能にできる自動車の後部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとを有し、バックドア開口の左,右側辺部を形成する左,右のリヤピラーと、前記バックドア開口の上辺部を形成する閉断面構造のリヤヘッダと、前記バックドア開口の下辺部を形成する閉断面構造のロアバックと、前記左,右のリヤピラーの下端部に接続されるとともに、ショックアブソーバの上端部を支持するホイールハウスと、左,右縁部が前記左,右のホイールハウスに接続され、後端部が前記ロアバックに接続されたリヤフロアと、該リヤフロアの前記ホイールハウスとの接続部の下面に配設され、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバとを備えた自動車の後部車体構造であって、前記リヤピラー内には、前記ショックアブソーバの軸線方向に延びて前記ホイールハウスとリヤヘッダとを連結し、かつ前記ピラーインナパネルに閉断面をなすように接続されたピラーリインホースが配設され、前記ホイールハウスには、前記ショックアブソーバからの入力を前記ピラーリインホースと前記サイドメンバとに伝達する入力伝達部が該サイドメンバとピラーリインホースとを繋ぐように設けられ、前記ロアバックの閉断面部には、前記左,右のサイドメンバの後端部が接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の後部車体構造によれば、ショックアブソーバの軸方向に延びてホイールハウスとリヤヘッダとを連結し、かつピラーインナパネルとで閉断面を形成するピラーリインホースを配設し、ホイールハウスにショックアブソーバからの入力をピラーリインホースとサイドメンバとに伝達する入力伝達部を設け、さらにロアバックの閉断面部に左,右のサイドメンバの後端部を接続する構成とした。
【0008】
このようにピラーリインホースによりホイールハウスとリヤヘッダとを連結したので、ショックアブソーバからの突き上げ荷重に対するホイールハウスの剛性を向上することができる。
【0009】
またショックアブソーバからの突き上げ荷重は、車体骨格部材であるホイールハウスの入力伝達部を介してピラーリインホースとサイドメンバとに効率よく分散されつつ伝達されることとなり、前記ホイールハウスの荷重負担を軽減できる。
【0010】
本発明では、左,右のピラーリインホースの上部をリヤヘッダに連結し、該左,右のピラーリインホースの下部をホイールハウスから入力伝達部を介してサイドメンバに連結し、該左,右のサイドメンバの後端部をロアバックに連結したので、剛性の高い車体骨格部材により囲まれた環状構造のバックドア開口を構成することができ、バックドア開口部の剛性を確保することができる。その結果、従来のバックドア開口部に配置していたリインホースを不要にでき、それだけ車体の軽量化及びコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車の後部車体の側面図である。
【図2】室内から見た前記後部車体のホイールハウスの斜視図である。
【図3】前記ホイールハウスの断面図(図2のIII-III線断面図)である。
【図4】前記後部車体のリヤヘッダ周りの斜視図である。
【図5】前記リヤヘッダの断面図(図4のV-V線断面図)である。
【図6】前記後部車体のロアバックの断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図6は、本発明の実施例1による自動車の後部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、特記なき限り、自動車に搭載されたシートに着座した状態で車両進行方向に向かって見た場合の前後,左右を意味する。
【0014】
図において、1は自動車の後部車体を示しており、該後部車体1の左,右側面にはリヤドア開口1aが、後端面にはバックドア開口1bが形成されている。
【0015】
前記後部車体1は、前記リヤドア開口1aの後辺部及びバックドア開口1bの左,右側辺部を形成する左,右のリヤピラー2,2と、前記バックドア開口1bの上辺部を形成する閉断面構造のリヤヘッダ3と、前記バックドア開口1bの下辺部を形成する閉断面構造のロアバック4とを備えている。
【0016】
また前記後部車体1は、前記左,右のリヤピラー2の下端部に接続され、ショックアブソーバ5の上端部を支持するホイールハウス6と、該左,右のホイールハウス6にその左,右側縁部7a,7aが接続され、後端部7bが前記ロアバック4に接続されたリヤフロア7と、該リヤフロア7と前記ホイールハウス6との接続部の下面に接続され、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ8,8とを備えている。
【0017】
前記左,右のリヤピラー2は、ホイールアーチ9aが形成されたピラーアウタパネル9とピラーインナパネル10とを中空状をなすように結合した構造を有する。
【0018】
前記リヤヘッダ3は、左,右のリヤピラー2の上端部間に接続され、ルーフアウタ部材3aとルーフインナ部材3bとを結合した構造を有する。これによりリヤヘッダ3には車幅方向に延びる上辺閉断面Aが形成されている。また前記リヤヘッダ3には、バックドア開口1bを開閉するバックドア12が支持されている。
【0019】
前記ロアバック4は、左,右のリヤピラー2の下端部間に接続され、ロアアウタパネル4aとロアインナパネル4bとをロアバックリインホース14を介在させて一体に結合した構造を有する。これによりロアバック4には車幅方向に延びる下辺閉断面Bが形成されている。このロアバック4の後側にはリヤバンパ13が配設されている。
【0020】
前記左,右のサイドメンバ8は、上方に開口する大略断面ハット形状を有し、これの左,右縁部に形成された左,右フランジ部8a,8aが前記リヤフロア7の下面に結合されている。これによりリヤフロア7と左,右のサイドメンバ8とで前後方向に延びるフロア閉断面C,Cが形成されている。
【0021】
前記左,右のサイドメンバ8の後端縁には、これの外縁部に沿うように後フランジ部8bが形成されており、該後フランジ部8bは前記ロアバック4のロアインナパネル4bに結合されている。これにより左,右のフロア閉断面Cは、前記ロアインナパネル4bとロアバックリインホース14とで形成された下辺閉断面Bに連なるように接続されている。
【0022】
前記左,右のホイールハウス6は、ホイールアウタパネル16とホイールインナパネル17とを有する。
【0023】
前記ホイールアウタパネル16は、前記ピラーアウタパネル9のホイールアーチ部9aにヘミング加工により結合された外縁部16aと、該外縁部16aに続いて車幅方向内側に円弧状をなすよう延びるアウタハウス部16bと、該アウタハウス部16bに続いて上方に延びる起立部16cとを有する。この起立部16cの上縁部16dに前記ピラーインナパネル10の下縁部10aが結合されている。
【0024】
前記ホイールインナパネル17は、ホイール本体19とショックアブソーバ支持部材18とを有する。
【0025】
前記支持部材18は、下方に開口する大略箱状をなすよう形成され、これの上縁部18aが前記起立部16cに結合され、下縁部18bが前記ホイール本体19の上縁部19aに結合されている。
【0026】
前記ホイール本体19は、前記支持部材18の下方を覆うように形成されている。該ホイール本体19の上縁部19aは、前記支持部材18の下縁部18b及びピラーインナパネル10に結合されている。また下縁部19bは、前記リヤフロア7の側縁部7aとサイドメンバ8の外側のフランジ部8aとの間に3枚重ねた状態で一体に結合されている。
【0027】
前記支持部材18には、取付け座18cが段落ち状に凹設されている。この取付け座18cには、前記ショックアブソーバ5の上端部5aが取り付けられており、該ショックアブソーバ5の下端部5bには不図示の後輪が連結されている。このショックアブソーバ5は、軸線aを略鉛直方向に向けて配置されている。
【0028】
前記左,右のリヤピラー2内には、前記ホイールハウス6とリヤヘッダ3とを連結するピラーリインホース20が前記ショックアブソーバ5の軸線aに沿うように上下方向に向けて配設されている。
【0029】
車両側方から見ると、前記ピラーリインホース20は、ショックアブソーバ5の軸線aの延長線上に位置するように配置されている。
【0030】
このピラーリインホース20は、前,後フランジ部20a,20aが形成された断面ハット形状を有し、かつ下端部20bが上端部20cより幅広に形成されている。
【0031】
前記ピラーリインホース20の前,後フランジ部20a,20aの上下方向中央部分は前記ピラーインナパネル10に結合されている。これによりピラーリインホース20とピラーインナパネル10とで上下方向に延びるピラー閉断面Dが形成されている。
【0032】
またピラーリインホース20の上端部20cはピラーインナパネル10の上縁部10bにリヤヘッダ3に重なるように結合され、下端部20bは前記ホイールアウタパネル16のアウタハウス部16bに結合されている。前記ピラーリインホース20の上端部20cには、前後方向に延びるルーフレール22の後端部が結合されている。
【0033】
前記左,右のリヤピラー2内の上コーナー部2aには連結部材23が配設されている。この左,右の連結部材23は、前記ピラーインナパネル10の上コーナー部10cと、ピラーリインホース20の上端部20cと、リヤヘッダ3のルーフインナ部材3bと、ルーフレール22の後端部とにこれらを一体に繋ぐように結合されている。
【0034】
そして前記ホイールハウス6には、前記ショックアブソーバ5からの突き上げ荷重を前記ピラーリインホース20とサイドメンバ8に分散させて伝達する入力伝達部25が設けられている。
【0035】
この入力伝達部25は、ショックアブソーバ支持部材18に形成されたビード部18eと、前記ホイール本体19に形成された複数のビード部19eとで構成されている。
【0036】
前記ビード部18eは、支持部材18の取付け座18cを囲むように起立形成された外周壁により形成されており、該ビード部18eの上壁面は車内側に斜め下方に傾斜している。
【0037】
前記各ビード部19eは、ホイール本体19に上下方向に延びるように車内側に膨出形成されている。この各ビード部18e,19eにより前記ピラーリインホース20とサイドメンバ8とは上下方向に繋がれている。
【0038】
前記ショックアブソーバ5は、車両前後方向に見たとき、車外側がピラーリインホース20により、下側がサイドメンバ8により、上側が支持部材18のビード部18eにより、車内側がホイール本体19のビード部19eにより概ね囲まれている。
【0039】
本実施例によれば、左,右リヤピラー2内に、ショックアブソーバ5の軸線a方向に延びてホイールハウス6とリヤヘッダ3とを連結し、かつピラーインナパネル10とでピラー閉断面Dを形成するピラーリインホース20を配置し、前記ホイールハウス6にショックアブソーバ5からの入力を前記ピラーリインホース20とサイドメンバ8とに分散させて伝達するビード部18e,19eからなる入力伝達部25を形成し、さらにロアバック4の下辺閉断面Bに左,右のサイドメンバ8の後フランジ部8bを接続する構成とした。
【0040】
このようにピラー閉断面Dを有するピラーリインホース20によりホイールハウス6とリヤヘッダ3とを上下方向に連結したので、ショックアブソーバ5からの突き上げ荷重に対するホイールハウス6の剛性を向上することができる。
【0041】
また前記ショックアブソーバ5からの突き上げ荷重は、ホイールハウス6に形成された入力伝達部25を介してピラーリインホース20とサイドメンバ8とに効率よく分散されつつ伝達されることとなり、前記ホイールハウス6への荷重負担を軽減できる。
【0042】
さらに前記ピラーリインホース20に伝達された突き上げ荷重は、連結部材23を介してリヤヘッダ3に伝達されることとなり、荷重負担をより一層低減できる。
【0043】
本実施例では、前記左,右のピラーリインホース20の上端部20cをリヤヘッダ3に連結し、該左,右のピラーリインホース20の下端部20bをホイールハウス6の入力伝達部25を介してサイドメンバ8に連結し、該左,右のサイドメンバ8の後フランジ部8bをロアバック4に連結したので、剛性の高い各部材により囲まれた環状構造のバックドア開口1bを構成することができ、外力に対するバックドア開口部の剛性を確保することができる。その結果、従来のバックドア開口部に配置していたリインホースを不要にでき、それだけ車体の軽量化及びコンパクト化を図ることができる。
【0044】
なお、前記実施例では、入力伝達部をホイールハウスにビード部を形成することにより構成したが、本発明の入力伝達部は、別部材からなる入力伝達部材をホイールハウスに接続することにより構成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 後部車体
1b バックドア開口
2 リヤピラー
3 リヤヘッダ
4 ロアバック
5 ショックアブソーバ
6 ホイールハウス
7 リヤフロア
8 サイドメンバ
9 ピラーアウタパネル
10 ピラーインナパネル
18e ビード部(入力伝達部)
19e ビード部(入力伝達部)
20ピラーリインホース
25 入力伝達部
a ショックアブソーバの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとを有し、バックドア開口の左,右側辺部を形成する左,右のリヤピラーと、
前記バックドア開口の上辺部を形成する閉断面構造のリヤヘッダと、
前記バックドア開口の下辺部を形成する閉断面構造のロアバックと、
前記左,右のリヤピラーの下端部に接続されるとともに、ショックアブソーバの上端部を支持するホイールハウスと、
左,右縁部が前記左,右のホイールハウスに接続され、後端部が前記ロアバックに接続されたリヤフロアと、
該リヤフロアの前記ホイールハウスとの接続部の下面に配設され、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバと
を備えた自動車の後部車体構造であって、
前記リヤピラー内には、前記ショックアブソーバの軸線方向に延びて前記ホイールハウスとリヤヘッダとを連結し、かつ前記ピラーインナパネルに閉断面をなすように接続されたピラーリインホースが配設され、
前記ホイールハウスには、前記ショックアブソーバからの入力を前記ピラーリインホースと前記サイドメンバとに伝達する入力伝達部が該サイドメンバとピラーリインホースとを繋ぐように設けられ、
前記ロアバックの閉断面部には、前記左,右のサイドメンバの後端部が接続されている
ことを特徴とする自動車の後部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−207421(P2011−207421A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78939(P2010−78939)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】