説明

自動車の後部車体構造

【課題】軽量化,低コスト化を図りながら、路面からの突き上げ荷重に対してバックドア開口の上辺コーナー部に必要な剛性を確保できる自動車の後部車体構造を提供する。
【解決手段】バックドア開口1aの上辺コーナー部1cのアール部分は、少なくともその大部分がリヤヘッダパネル3により形成され、該リヤヘッダパネル3の上辺コーナー部の端部20bに、ピラーインナパネル12のバックドア開口側辺部13aの上縁部が接続され、ピラーインナパネル12に、バックドア開口側辺部13aに沿って延びる張出部13fが車室側に張り出すように形成され、該張出部13fの稜線a1と、リヤヘッダパネル3の少なくとも上辺コーナー部1cに形成された縦壁部3aと底壁部3bとでなす稜線a2とを連続させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後部車体に形成されたバックドア開口の上辺コーナー部をピラーインナパネルとリヤヘッダパネルとで形成するようにした自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、後輪を介して伝わる路面からの突き上げ荷重に対するバックドア開口の上辺コーナー部の剛性を高めるようにしている。例えば、特許文献1には、リヤヘッダパネルに接続されるアール状の延長部と、ルーフレールに接続されるアール状の延長部とを有する三叉形状の補強部材をリヤピラー内に配設した構造のものが開示されている。また、特許文献2には、リヤピラーの上辺コーナー部に縦壁を形成し、この縦壁をリヤルーフレールの縦壁に連続するように結合した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3316787号
【特許文献2】特開2008−308071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1,2では、バックドア開口の上辺コーナー部を、リヤピラーの上端部をアール状に延長させることにより形成している。このためプレス成形時の歩留りが悪化するとともに、深絞りのプレス成形となることから成形性が低いという問題がある。
【0005】
また特許文献1では、リヤピラー内に補強部材を設ける構造であり、車体重量及びコストが増えることから、軽量化,低コスト化が強く望まれる小型車には採用し難い構造である。そこで、補強部材を設けずに、ピラーインナパネル自体の剛性を高めることが考えられるが、前述の突き上げ荷重に対する剛性を確保するには、ピラーインナパネル全体の板厚を大きくしたり、材質を高強度のものに変更したりする必要があり、結果的に車体重量及びコストが増えるという懸念がある。
【0006】
さらに特許文献2のように、リヤピラーにリヤヘッダパネルの縦壁に連続する縦壁を形成する構造では、リヤピラーによりリヤドア開口を形成する場合の成立が困難となり、また縦壁により室内への張り出しが大きくなる分だけ重量も増えるという懸念があり、この点においても軽量化,低コスト化が望まれる小型車には採用し難い構造となっている。そこで、軽量化,低コスト化が強く望まれる小型車において、バックドア開口の上辺コーナー部における最適な構造の検討が要請されている。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、軽量化,低コスト化を図りつつ、突き上げ荷重に対してバックドア開口の上辺コーナー部に必要な剛性を確保できる自動車の後部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、後部車体に形成されたバックドア開口のアール状をなす上辺コーナー部を、車両上下方向に延びるリヤピラーのピラーインナパネルの上端部と、車幅方向に延びるリヤヘッダパネルの側端部とで形成するようにした自動車の後部車体構造であって、前記上辺コーナー部のアール部分は、少なくともその大部分が前記リヤヘッダパネルにより形成され、該リヤヘッダパネルの上辺コーナー部の端部に、前記ピラーインナパネルのバックドア開口側辺部の上縁部が接続され、前記ピラーインナパネルに、バックドア開口側辺部に沿って延びる張出部が車室側に張り出すように形成され、該張出部の稜線と、前記リヤヘッダパネルの少なくとも上辺コーナー部に形成された縦壁部と底壁部とでなす稜線とを連続させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る後部車体構造によれば、バックドア開口の上辺コーナー部の少なくとも大部分をリヤヘッダパネルにより形成し、ピラーインナパネルにバックドア開口側辺部に沿って延びる張出部を形成し、該張出部の稜線とリヤヘッダパネルの縦壁部と底壁部とでなす稜線とを連続させたので、バックドア開口の上辺コーナー部に断点のない稜線を連続させて通すことができ、路面からの突き上げ荷重に対して上辺コーナー部に必要な剛性を確保することができる。
【0010】
本発明では、ピラーインナパネルに形成した張出部の稜線をリヤヘッダパネルの稜線に連続させるだけの構造ですむので、従来のように補強部材を設けたり、ピラーインナパネルの板厚を大きくしたりすることなく、必要な剛性を確保することができる。これにより、車体重量及びコストを抑制することができ、軽量化,低コスト化の要請が強い小型車への採用が可能となる。
【0011】
またピラーインナパネルに張出部を形成するだけの構造であり、従来のリヤピラーに縦壁を形成する場合に比べて室内への張り出し量を小さくでき、この点からも軽量化を可能にできる。
【0012】
本発明では、前述のように上辺コーナー部の大部分をリヤヘッダパネルにより形成したので、ピラーインナパネルをプレス成形する際の歩留り及び成形性を向上できる。即ち、ピラーインナパネルにより上辺コーナー部を形成し、該上辺コーナー部に張出部を形成する場合には、深絞りのプレス成形を行なうこととなる。しかしながら、深絞りの成形では、張出部にだれが生じたり,丸みが生じたりして稜線を明確に形成することができず、バックドア開口の変形を抑制する効果が得られないおそれがある。本発明では、ピラーインナパネルに上辺コーナー部を設けなくても済むことから、歩留りの向上とともに、深絞り成形による形状不良を防止でき、ひいては軽量化,低コスト化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1による自動車の後部車体の側面図である。
【図2】前記後部車体の背面図である。
【図3】前記後部車体の上辺コーナー部の斜視図である。
【図4】前記上辺コーナー部の斜視図である。
【図5】前記上辺コーナー部の断面図(図1のV-V線断面図)である。
【図6】前記上辺コーナー部の断面図(図2のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記上辺コーナー部の断面図(図2のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記上辺コーナー部の断面図(図2のVIII-VIII線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1ないし図8は、本発明の実施例1による自動車の後部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両進行方向に見たときの前後,左右を意味する。
【0016】
図において、1は自動車の後部車体を示している。この後部車体1は、車両上下方向に延びる左,右のリヤピラー2,2と、該左,右のリヤピラー2の上端間に配設された車幅方向に延びるリヤヘッダパネル3と、下端間に配設された車幅方向に延びるロアバックパネル4とでバックドア開口1aを形成した構造を有する。該バックドア開口1aには、上下方向に開閉するバックドア5が配設されている。
【0017】
前記左,右のリヤピラー2の下端部には、後輪(不図示)の上方を覆うホイールハウス10が接続されており、上端部には、車両前後方向に延びるルーフレールパネル6の後端部が接続されている。また前記ホイールハウス10の下端部には、車両前後方向に延びるロッカパネル7の後端部が接続されており、前記リヤピラー2,ルーフレールパネル6,ロッカパネル7,ホイールハウス10及び不図示のセンターピラーによりリヤドア開口1bが形成されている。該リヤドア開口1bには、車幅方向又は車両前後方向に開閉するリヤドア8が配設されている。
【0018】
前記左,右のリヤピラー2は、外装部材としてのピラーアウタパネル11と、ピラーインナパネル12とを中空状をなすよう外周縁部同士を結合した構造を有する。
【0019】
前記ピラーインナパネル12は、アッパパネル13と、該アッパパネル13の下端部と前記ホイールハウス10の上フランジ部10aとの間に架け渡して結合された第1,第2ロアパネル14,15とに分割されている。このアッパパネル13,第1,第2ロアパネル14,15は、それぞれプレス成形により製造されたものである。
【0020】
前記第1,第2ロアパネル14,15は、前後に所定の間隔をあけて配置されている。これにより前記ホイールハウス10,アッパパネル13及び第1,第2ロアパネル14,15により大略三角形状をなす空所16が形成されている。
【0021】
前記アッパパネル13は、車両側方から見ると、概ね台形状をなしており、バックドア開口1aに沿って延びるバックドア開口側辺部13aと、該側辺部13aの前縁に続いて車外側に屈曲して延びる屈曲部13bと、該屈曲部13bの外縁に続いて車両前方に屈曲して延びるリヤドア開口側辺部13cとを有する。
【0022】
前記アッパパネル13のリヤドア開口側辺部13cの上端部には、車両前方に突出するルーフ接合部13dが形成され、該ルーフ接合部13dに前記ルーフレールパネル6が接続されている。
【0023】
また前記アッパパネル13のバックドア開口側辺部13a及び屈曲部13bの上端部には、前記リヤヘッダパネル3の端末形状に沿う略L字形状のフランジ部13eが形成されている。
【0024】
前記リヤヘッダパネル3は、後斜め下方に傾斜する縦壁部3aと、該縦壁部3aの下縁から後方に大略水平に延びる底壁部3bと、該底壁部3bに続いて後斜め上方に屈曲して延びるフランジ部3cとを有する断面大略L字形状をなしている。
【0025】
前記リヤヘッダパネル3のフランジ部3cには、ルーフパネル18の後フランジ部18aが結合されており、該フランジ部3c,18aによりバックドア開口1aの上辺部分が形成されている。またバックドア開口1aの周縁部にはバックドア5との間をシールするシール部材17が装着されている。
【0026】
前記リヤヘッダパネル3は、車幅方向中央部分を形成するヘッダ本体19と、左,右端部を形成する左,右のヘッダリインホース20,20とに分割されている。このヘッダ本体19と左,右のヘッダリインホース20とは溶接により一体に結合されている。前記左,右のヘッダリインホース20は、これの板厚がヘッダ本体19の板厚より大きく設定されている。
【0027】
前記左,右のヘッダリインホース20には、ヒンジ取付け座20aが形成されている。この左,右のヒンジ取付け座20aには、ヘッダ本体19及びルーフパネル18が重ね合わされており、このヒンジ取付け座20aの3枚重ね部分に前記バックドア5を回動自在に支持するヒンジ部材21が取り付けられている(図8参照)。
【0028】
前記バックドア開口1aのアール状をなす左,右の上辺コーナー部1c,1cは、前記リヤヘッダパネル3のヘッダリインホース20と、前記ピラーインナパネル12のアッパパネル13とにより形成されている。
【0029】
前記左,右の上辺コーナー部1cは、その大部分1c′がヘッダリインホース20により形成されており、残りの部分1c′′がアッパパネル13により形成されている(図3,図4参照)。ここで、上辺コーナー部1cの全部をヘッダリインホース20により形成してもよい。
【0030】
前記ヘッダリインホース20は、上辺コーナー部1cに沿うように湾曲形成され、該ヘッダリインホース20の外端部20bは、前記アッパパネル13のフランジ部13eに重ね合わせて溶接により結合されている。
【0031】
前記アッパパネル13の、バックドア開口側辺部13aと屈曲部13bとの間には該側辺部13aに沿って上下方向に延びる張出部13fが車室側に突出するよう形成されている(図5参照)。この張出部13fは、バックドア開口側辺部13aと屈曲部13bとのコーナー部に断面円弧状のビードを形成した構造となっている。
【0032】
前記アッパパネル13には、リヤヘッダパネル3との接続部から前斜め下方に延びる傾斜ビード13gと、該傾斜ビード13gの下側部分を前後方向に延びる横ビード13hと、該横ビード13h及び傾斜ビード13gの後側を上下方向に延び縦ビード13iとが形成されている。
【0033】
この傾斜ビード13g,横ビード13h及び縦ビード13iは、三角形状をなすように配置され、該各ビード13g〜13iにより前記張出部13fが囲まれている。これによりピラーインナパネル12全体の突き上げ荷重に対する強度を高めている。
【0034】
前記リヤヘッダパネル3の縦壁部3aと底壁部3bとの間には、車幅方向全長に渡って延びる断面円弧状のビード3dが室内側に突出するよう形成されている。
【0035】
そして前記張出部13fの中心を通る稜線a1と、前記リヤヘッダパネル3の縦壁部3aと底壁部3bとでなすビード3dの中心を通る稜線a2とは、上辺コーナー部1cに沿って連続するよう延びている。
【0036】
本実施例によれば、バックドア開口1aの上辺コーナー部1cの大部分をリヤヘッダパネル3のヘッダリインホース20により形成し、ピラーインナパネル12のアッパパネル13にバックドア開口側辺部13aに沿って延びる張出部13fを形成し、該張出部13fの稜線部a1とリヤヘッダパネル3の縦壁部3aと底壁部3bとでなす稜線a2とを連続させたので、バックドア開口1aの上辺コーナー部1cに断点のない稜線a1,a2を連続させて通すことができ、上辺コーナー部1cの剛性を高めることができる。即ち、後輪を介して伝わる路面からの繰り返しの突き上げ荷重により、バックドア開口1aが対角線方向に伸縮変形する(図2の二点鎖線参照)。この突き上げ荷重に対する上辺コーナー部1cの必要な剛性を確保することができる。
【0037】
本実施例では、ピラーインナパネル12に形成した張出部13fの稜線a1とリヤヘッダパネル3の稜線a2とを連続させるだけの構造であるから、従来の補強部材を設けたり、ピラーインナパネルの板厚を大きくしたりすることなく、必要な剛性を確保することができる。これにより、車体重量及びコストを抑制することができ、軽量化,低コスト化の要請が強い小型車への採用が可能となる。
【0038】
また前記ピラーインナパネル12に張出部13fを形成するだけの構造であり、従来のリヤピラーに縦壁を形成する場合に比べて室内への張り出し量を小さくでき、この点からも軽量化を可能にできる。
【0039】
本実施例では、上辺コーナー部1cの大部分をリヤヘッダパネル3により形成したので、ピラーインナパネル12をプレス成形する際の歩留り及び成形性を向上できる。即ち、ピラーインナパネルに上辺コーナー部を形成し、該上辺コーナー部に張出部を形成する場合には、深絞りのプレス成形を行なうこととなる。しかしながら、深絞り成形を行なうと、張出部にだれが生じたり,丸みが生じたりして稜線を明確に形成することができず、バックドア開口の変形を抑制する効果が得られないおそれがある。
【0040】
本実施例では、上辺コーナー部をヘッダリインホースにより形成したので、ピラーインナパネルに上辺コーナー部を設けなくても済み、歩留りの向上とともに、深絞り成形による形状不良を防止でき、ひいては軽量化,低コスト化に貢献できる。
【0041】
本実施例では、リヤヘッダパネル3を、中央部分のヘッダ本体19と、該ヘッダ本体19より板厚の大きい左,右のヘッダリインホース20とで構成したので、剛性が必要な上辺コーナー部1cを形成するヘッダリインホース20の板厚を大きくするだけで済み、リヤヘッダパネル全体の重量アップを必要最小限に抑えることができる。
【0042】
また前記ヘッダリインホース20にヒンジ取付け座20aを形成したので、剛性の高いヘッダリインホース20を有効利用してヒンジ部材21を取り付けることができ、新たな補強部材の追加を不要にできる。
【0043】
本実施例では、前記リヤヘッダパネル3に稜線a2に沿って延びるビード3dを形成したので、リヤヘッダパネル3の稜線部分の剛性をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 後部車体
1a バックドア開口
1c 上辺コーナー部
2 リヤピラー
3 リヤヘッダパネル
3a 縦壁部
3b 底壁部
12 ピラーインナパネル
13a バックドア開口側辺部
13f 張出部
a1,a2 稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部車体に形成されたバックドア開口のアール状をなす上辺コーナー部を、車両上下方向に延びるリヤピラーのピラーインナパネルの上端部と、車幅方向に延びるリヤヘッダパネルの側端部とで形成するようにした自動車の後部車体構造であって、
前記上辺コーナー部のアール部分は、少なくともその大部分が前記リヤヘッダパネルにより形成され、
該リヤヘッダパネルの上辺コーナー部の端部に、前記ピラーインナパネルのバックドア開口側辺部の上縁部が接続され、
前記ピラーインナパネルに、バックドア開口側辺部に沿って延びる張出部が車室側に張り出すように形成され、
該張出部の稜線と、前記リヤヘッダパネルの少なくとも上辺コーナー部に形成された縦壁部と底壁部とでなす稜線とを連続させた
ことを特徴とする自動車の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−91638(P2012−91638A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239699(P2010−239699)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】