説明

自動車の車体前部構造

【課題】 自動車の前面衝突により後退するサブフレームの荷重をフロントサイドフレームに効果的に伝達して衝撃吸収効果を高める。
【解決手段】 自動車の車体前部に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレーム15の後部に前上方から後下方に傾斜する傾斜部15bを形成し、フロントサイドフレーム15の下方に支持されるサブフレーム22に前記傾斜部15bの前面に当接可能に対向する荷重伝達部材30を設けたので、車両の前面衝突による荷重でサブフレーム22が後退したときに、そのサブフレーム22に設けた荷重伝達部材30がフロントサイドフレーム15の傾斜部15bに当接することで、衝突荷重をサブフレーム22からフロントサイドフレーム15に伝達して効果的に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体前部に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレームの下方にサブフレームを支持する自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよびトランスミッションよりなるパワーユニットの後方に、サスペンションアームを支持するフロントサスペンションメンバ(サブフレーム)を配置したものにおいて、フロントサイドメンバ(フロントサイドフレーム)の車幅方向内側に一体に突設したブラケットに、フロントサスペンションメンバの車幅方向外端部をボルトで固定したものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開平8−198140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来のものは、車体前後方向に見たとき、フロントサイドメンバのブラケットにフロントサスペンションメンバを固定するボルトの位置が、フロントサイドメンバの中心に対して車幅方向内側、かつ下側にずれているため、車両の前面衝突時に衝突荷重によって後退するパワーユニットに押されてフロントサスペンションメンバが後退するとき、その衝突荷重はフロントサスペンションメンバからフロントサイドメンバに伝達され難くなり、充分な衝撃吸収効果が得られない可能性があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自動車の前面衝突により後退するサブフレームの荷重をフロントサイドフレームに効果的に伝達して衝撃吸収効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自動車の車体前部に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレームの下方にサブフレームを支持する自動車の車体前部構造において、前記左右一対のフロントサイドフレームの後部に前上方から後下方に傾斜する傾斜部を形成し、前記サブフレームに前記傾斜部の前面に当接可能に対向する荷重伝達部材を設けたことを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記荷重伝達部材は、前記サブフレームの車幅方向外側面に固定される第1辺と、前記傾斜部の前面に当接可能に対向する第2辺と、前記第1辺および前記第2辺を接続する第3辺とを有して平面視で直角三角形状に形成されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成によれば、自動車の車体前部に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレームの後部に前上方から後下方に傾斜する傾斜部を形成し、フロントサイドフレームの下方に支持されるサブフレームに前記傾斜部の前面に当接可能に対向する荷重伝達部材を設けたので、車両の前面衝突による荷重でサブフレームが後退したときに、そのサブフレームに設けた荷重伝達部材がフロントサイドフレームの傾斜部に当接することで、衝突荷重をサブフレームからフロントサイドフレームに伝達して効果的に吸収することができる。
【0008】
また請求項2の構成によれば、荷重伝達部材は平面視で直角三角形状の部材であり、サブフレームの車幅方向外側面に固定される第1辺と、フロントサイドフレームの傾斜部の前面に当接可能に対向する第2辺と、第1辺および第2辺を接続する第3辺とを有しているので、車両の前面衝突時にサブフレームが後退して荷重伝達部材の第2辺がフロントサイドフレームの傾斜部に当接したとき、第1辺においてサブフレームに強固に固定された荷重伝達部材が変形に対して高い剛性を示し、衝突荷重をサブフレームからフロントサイドフレームに効果的に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図3は本発明の実施の形態を示すもので、図1は自動車の車体前部の側面図、図2は図1の2方向矢視図、図3は図1に対応する衝突時の作用説明図である。
【0011】
図1および図2に示すように、自動車の車体前部には、エンジン11およびトランスミッション12を一体化したパワーユニット13が配置されるエンジンルーム14が設けられており、そのエンジンルーム14の左右両側部に車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム15,15が配置される。フロントサイドフレーム15,15の前端間が車幅方向に延びるバンパービーム16によって接続され、その後端はフロアパネル17の下面に車体前後方向に配置された左右一対のフロアフレーム18,18の前端に接続される。フロアパネル17の左右両側部には、車体前後方向に延びる左右一対のサイドシル19,19が配置される。
【0012】
フロントサイドフレーム15,15は、前側に位置して略水平に配置されたフレーム本体部15a,15aと、フレーム本体部15a,15aの後端から後下方に傾斜して延びる傾斜部15b,15bと、傾斜部15b,15bの後端から後方に延びて前記フロアフレーム18,18の前端に接続される連結部15c,15cとを備える。フロアパネル17の前端に接続されたダッシュボードロアパネル20は、フロントサイドフレーム15,15の連結部15c,15cの上面、傾斜部15b,15bの後面およびフレーム本体部15a,15aの後端面に沿って上方に立ち上がる。
【0013】
パワーユニット13や左右のサスペンション装置21,21を支持してフロントサイドフレーム15,15の下方に配置されるサブフレーム22は、平面視でS字状に湾曲する左右一対の縦メンバ23,23と、縦メンバ23,23の前端間を車幅方向に接続する前部横メンバ24と、縦メンバ23,23の前後方向中間部間を車幅方向に接続する後部横メンバ25とを備えて枠状に形成される。そしてサブフレーム22は、左右前部がそれぞれ弾性支持部材26,26を介して、フロントサイドフレーム15,15のフレーム本体部15a,15aの下面に固定したブラケット27,27に着脱自在に支持されるとともに、左右後部がそれぞれ弾性支持部材28,28を介して、フロントサイドフレーム15,15の連結部15c,15cの車幅方向内面に固定したブラケット29,29に着脱自在に支持される。
【0014】
サブフレーム22の左右の縦メンバ23,23の後部の車幅方向外側面に、平面視で 直角三角形状の荷重伝達部材30,30が溶接により固定される。荷重伝達部材30は、直角を挟む第1辺30aおよび第2辺30bと、第1、第2辺30a,30bを斜めに接続する第3辺30cとを備えており、第1辺30aは縦メンバ23の後部の車幅方向外側面に固定されるとともに、第2辺30bはフロントサイドフレーム15の傾斜部15bの前面に所定の隙間を介して当接可能に対向する。
【0015】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0016】
車両が前面衝突すると、図3に示すように、バンパービーム16に入力された衝突荷重によって左右のフロントサイドフレーム15,15が座屈して衝突荷重を吸収する。またサブフレーム22がその前端に入力された衝突荷重によって後退すると、縦メンバ23,23に設けた荷重伝達部材30,30の第2辺30b,30bがフロントサイドフレーム15,15の傾斜部15b,15bの前面に当接するため、サブフレーム22自体も前後に圧縮されて圧壊することで衝突荷重を吸収するとともに、その衝突荷重をサブフレーム22からフロントサイドフレーム15,15の傾斜部15b,15bおよび連結部15c,15cを介してフロアフレーム18,18に伝達することで衝突荷重を吸収することができる。
【0017】
このように、サブフレーム22の荷重伝達部材30,30により、フロントサイドフレーム15,15およびサブフレーム22の両方を効率的に圧壊することが可能になり、衝撃吸収効果が高められる。
【0018】
またサブフレーム22の荷重伝達部材30,30がフロントサイドフレーム15,15の傾斜部15b,15bとの衝突により圧壊あるいは脱落してしまうと、サブフレーム22からフロントサイドフレーム15,15への衝突荷重の伝達が困難になるが、本実施の形態では、荷重伝達部材30,30を平面視で直角三角形状とし、第1辺30a,30aをサブフレーム22に固定して第2辺30b,30bをフロントサイドフレーム15,15の傾斜部15b,15bに当接可能に対向させたので、荷重伝達部材30,30自体の剛性が高まるだけでなく、前記傾斜部15b,15bから受ける反力荷重に抵抗する荷重伝達部材30,30のサブフレーム22への取付剛性も高められ、衝突荷重をサブフレーム22からフロントサイドフレーム15,15に確実に伝達することができる。
【0019】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0020】
例えば、サブフレーム22の形状やフロントサイドフレーム15,15に対する取付構造は適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】自動車の車体前部の側面図
【図2】図1の2方向矢視図
【図3】図1に対応する衝突時の作用説明図
【符号の説明】
【0022】
15 フロントサイドフレーム
15b 傾斜部
22 サブフレーム
30 荷重伝達部材
30a 第1辺
30b 第2辺
30c 第3辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体前部に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレーム(15)の下方にサブフレーム(22)を支持する自動車の車体前部構造において、
前記左右一対のフロントサイドフレーム(15)の後部に前上方から後下方に傾斜する傾斜部(15b)を形成し、前記サブフレーム(22)に前記傾斜部(15b)の前面に当接可能に対向する荷重伝達部材(30)を設けたことを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部材(30)は、前記サブフレーム(22)の車幅方向外側面に固定される第1辺(30a)と、前記傾斜部(15b)の前面に当接可能に対向する第2辺(30b)と、前記第1辺(30a)および前記第2辺(30b)を接続する第3辺(30c)とを有して平面視で直角三角形状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−158974(P2010−158974A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2176(P2009−2176)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】