説明

自動車ガラスの油膜取り剤

【課題】自動式洗車機にて行われる撥水洗車などのアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする強固な油膜を効果的に容易に洗浄除去でき、かつ洗車後の油膜取り作業に好適に用いることのできる自動車ガラスの油膜取り剤を提供すること。
【解決手段】酢酸と、酢酸酸性水溶液で安定なコロイダルシリカと界面活性剤とを水中に配合してなることを特徴とする自動車ガラスの油膜取り剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロントガラスなどの窓ガラスに付着している油膜を除去するための油膜取り剤に関する。特に自動式洗車機で行われる撥水洗車後にフロントガラスなどの窓ガラスに発生する油膜を容易に洗浄除去可能な自動車ガラスの油膜取り剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の窓ガラスには、自動車の車体の塗装に施したワックス成分が雨水により窓ガラス面に流れ出したり、排気ガスなどの油分が付着していわゆる油膜が形成される。また、近年自動式洗車機を用いるいわゆる撥水洗車或いはコーティング洗車が広く行われている。これらに使用される液剤は、アミノ変性シリコーンオイルを主成分とした水性エマルションであり、これを水にて数十から数百倍に希釈してスプレー塗布することが行われている。
【0003】
上記アミノ変性シリコーンオイルは、車体の塗装面にも吸着するが、ガラス面にはより強固に吸着する。また、アミノ変性シリコーンオイルは吸着された後、ガラス表面にて空気中の炭酸ガスおよび湿気により架橋され、より強固な油膜を形成する。
【0004】
現在、ガソリンスタンドで洗車後に使用される油膜取り剤またはガラス洗浄剤としては、界面活性剤、低級アルコール、揮発性のアミンなどを配合したものが一般的である。例えば、特許文献1〜2に開示されている。また、コロイダルシリカを配合した中性またはアルカリ性のガラスの洗浄剤は公知であり、例えば、特許文献3〜6に開示されている。
【0005】
また、陰イオン系界面活性剤とリン酸とエタノールアミンとを主成分とした酸性のガラス洗浄用組成物が、特許文献7に開示されている。また、研磨剤(粒径5〜90μmのガラス質火山噴出物)と界面活性剤と有機酸とを含んだガラス板用洗浄剤が、特許文献8に開示されている。
【0006】
また、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムの希釈溶液に、酢酸および/または食酢を添加した洗浄液を使用する洗浄方法が、特許文献9に開示されている。また、酢酸と香料(マスキング剤)と界面活性剤とを含有することを特徴とする洗浄剤組成物が、特許文献10に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−257994号公報
【特許文献2】特開平11−269486号公報
【特許文献3】特開昭54−96503号公報
【特許文献4】特開昭55−7840号公報
【特許文献5】特開昭60−96697号公報
【特許文献6】特開平8−302394号公報
【特許文献7】特開平2−28300号公報
【特許文献8】特開平10−8089号公報
【特許文献9】特開昭54−105108号公報
【特許文献10】特開2002−3886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
中性またはアルカリ性の開示例の洗浄剤では、いわゆる撥水洗車後のフロントガラスの油膜、或いは硬化した油膜を除去するのは困難である。また、コロイダルシリカを配合した中性またはアルカリ性の開示例の組成では、前記のコロイダルシリカを含まない中性またはアルカリ性の洗浄剤に比べ洗浄力は向上するが、撥水洗車後の油膜を十分に除去することはできない。
【0009】
酸性の洗浄剤は、中性またはアルカリ性の洗浄剤に比べ、油膜に対する洗浄力が向上する場合があるが、同様に撥水洗車後の油膜を十分に除去することはできない。酸性洗浄剤に研磨剤(粒径5〜90μmのガラス質火山噴出物)を配合した開示例の場合、油膜に対する洗浄力は高いが、洗浄作業時にフロントガラス周りの塗装面に傷をつける可能性があること、撥水洗車後の作業の際、油膜取り後の研磨剤の拭き残り(白残)が多く、水洗などの作業が必要となることなど、ガソリンスタンドの洗車後の油膜取り作業に用いる洗浄剤としては、適当ではない。
【0010】
従って本発明の目的は、自動式洗車機にて行われる撥水洗車などのアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする強固な油膜を効果的に容易に洗浄除去でき、かつ洗車後の油膜取り作業に好適に用いることのできる自動車ガラスの油膜取り剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、酢酸と、酢酸酸性水溶液で安定なコロイダルシリカと界面活性剤とを水中に配合してなることを特徴とする自動車ガラスの油膜取り剤を提供する。該油膜取り剤においては、酢酸の配合量が、0.2〜3.0質量%の濃度になる量であり、コロイダルシリカの配合量が無水珪酸(SiO2)換算で1.0〜4.0質量%の濃度になる量であり、界面活性剤の配合量が、0.01〜0.1質量%の濃度になる量であること;およびコロイダルシリカの粒径が、10〜50nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明によれば、自動式洗車機による撥水洗車後のアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする強固な油膜はもとより、自動式洗車機によるワックス洗車後のワックス成分、または手作業で処理したワックスの流出物による油膜を容易に除去することができる。従って、本発明の油膜取り剤を使用することによって、自動式洗車機を使用するガソリンスタンドでの油膜取り作業を大幅に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の油膜取り剤に配合される酢酸は本発明の必須成分である。油膜取り剤に酸性を付与する物質としては、フッ酸、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、シュウ酸、酪酸、プロピオン酸、コハク酸、マレイン酸、スルファミン酸、蟻酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの有機酸が考えられる。
【0014】
本発明の油膜取り剤に酸性を付与する物質の条件としては、人体に対して安全性が高いこと、環境に対して負荷を与えないこと、ガラス、塗装、シーリング剤などの材質に悪影響を与えにくいこと、揮発性があり、洗浄後のガラス面、シーリング剤などに残留しないこと、油膜に対して洗浄力が高いこと、安価であることが挙げられ、これらの理由から本発明では酸として酢酸を選択した。
【0015】
アミノ変性シリコーンオイルの油膜に対して、酢酸は他の有機酸に比べ高い洗浄力を示す。その要因としては、撥水洗車に使用されるアミノ変性シリコーンオイルは、そのアミノ基を中和してエマルション化されており、その中和剤として酢酸が好適に用いられている。上記エマルションが塗装面やガラス面に吸着後、エマルション中の中和剤である酢酸は揮発してもとのアミノ変性シリコーンオイルに戻ると推定され、このアミノ変性シリコーンオイルを油膜取り剤中の酢酸が再乳化或いは分散する作用によると考えられる。本発明の油膜取り剤において酢酸の配合量は、特に限定されないが、使用濃度の油膜取り剤中に0.2〜3.0質量%(以下質量%を%と記す)、好ましくは0.4〜1.0%の濃度になるように配合されていればよい。配合量が0.2%未満では、得られる油膜取り剤の洗浄力が弱く、一方、酢酸の配合量が3.0%超えても、得られる油膜取り剤には大きな洗浄力の変化はなく、油膜取り剤の使用時において酢酸臭が強くなるため好ましくない。
【0016】
本発明で使用するコロイダルシリカは、酢酸酸性水溶液で安定なものが使用され、市販品を用いることができる。好適例としては、日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスOL、スノーテックスC(いずれも商品名)などが挙げられる。コロイダルシリカの油膜除去における主な作用は、油膜に対する研磨性と、油膜に対して油膜取り剤の濡れ性を改善する作用である。コロイダルシリカの粒径としては、特に制限されないが、拭き取り後の白残を少なくするために、好ましくは10〜50nm、より好ましくは10〜20nmである。なお、ここに記載の粒子径は、BET法による平均粒子径である。コロイダルシリカの配合量は、特に制限されないが、使用濃度の油膜取り剤中に無水珪酸(SiO2)換算で1.0〜4.0%、より好ましくは1.5〜2.5%の濃度になるように配合されていればよい。無水珪酸の配合量が1.0%未満では、得られる油膜取り剤の洗浄力が弱く、一方、無水珪酸の配合量が4.0%超えても、得られる油膜取り剤の洗浄力に大差なく、また、使用後の油膜取り剤の拭き取りに際し拭き残しが多くなり、作業性が悪くなる。
【0017】
本発明で使用される界面活性剤は、アミノ変性シリコーンオイルなどが付着したガラス面に油膜取り剤を十分に濡れさせるため、また、油膜取り剤の使用時に適度の泡を発生させるために配合される。界面活性剤の種類は特に限定されないが、コロイダルシリカの安定性に影響するものは使用できない。また、洗浄後に微量残留する界面活性剤が、ガラス上に白残として仕上がりを悪くするものも使用できない。使用する界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が好ましい。異なる種類の界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
界面活性剤の配合量は、特に制限されないが、使用濃度の油膜取り剤中に0.01〜0.1%の濃度になるように配合されていればよい。界面活性剤の配合量が0.01%より少ないと、得られる油膜取り剤の界面活性効果が不十分であり、また、界面活性剤の配合量が0.1%を越えても界面活性効果に大差なく、かえって油膜取り剤の拭き取り作業性が悪くなるので好ましくない。
【0019】
本発明の油膜取り剤においては上記成分のほかには、水が残分となるが、水は、イオン交換水などの精製水が好ましい。水道水や地下水などでは、含まれる硬度成分が油膜除去の仕上がりに悪影響を及ぼす恐れがある。
【0020】
本発明の油膜取り剤の特筆すべき油膜に対する洗浄力は、酢酸とコロイダルシリカと界面活性剤の三者の相乗作用によるものと考えられる。それぞれ単独の組成、或いはどれかの成分が抜けても油膜に対する本発明の油膜取り剤の洗浄力には及ばない。
【0021】
水以外の成分として、本発明の効果を妨げない限りにおいて、必要に応じて油膜取り剤の凍結温度を下げるため、或いは作業時の油膜取り剤の乾燥速度を調節し、油膜取り剤の拭き取り作業を容易にするためにアルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤を配合することができる。なお、これらの溶剤の配合は、本発明の油膜取り剤の洗浄効果に対して影響は少なく、洗浄力の向上効果は期待できない。その他、本発明の効果を妨げない限りにおいて必要に応じてさらに着色剤、防腐剤、防錆剤などを本発明の油膜取り剤に配合することができる。
【0022】
本発明の自動車ガラスの油膜取り剤の使用方法としては、自動式洗車機による撥水洗車、コーティング洗車、またはワックス洗車などの処理後に、本発明の油膜取り剤をハンドスプレーにより直接フロントガラスなどの窓ガラスに噴霧するか、或いは清浄な窓拭き用タオルに噴霧後、ガラス面をまんべんなく拭き取ることにより目的が達成される。
【実施例】
【0023】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0024】
[実施例1]
イオン交換水796.8gに、界面活性剤E(KF−618、シリコーン系界面活性剤、信越化学工業(株)製)0.2gを入れて溶解後、酢酸(90%)3.0gを配合後攪拌する。次に、コロイダルシリカA(スノーテックスO、日産化学工業(株)製)200gを投入し攪拌均一化し、実施例1の油膜取り剤とした。この時の油膜取り剤のpHは3.3であった。
【0025】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
実施例1と同様の操作により、実施例2、3および比較例1〜5の油膜取り剤を得た。各例の組成を表1に、各例で用いた成分の詳細を表2に記載した。
【0026】
(試験)
上記実施例および比較例の油膜取り剤を用いて、下記の如く油膜の付着した自動車のフロントガラス面にハンドスプレーで3回噴霧(約6ml/各試験面)し、水に濡らして固く絞った清浄な窓拭き用タオルでまんべんなく拭き取り後、乾いた清浄な窓拭き用タオルで拭き上げた。下記の試験を行い、その結果を表1に記載した。
【0027】
[フロントガラスの油膜処理]
自動車のフロントガラスを市販の油膜取り剤(研磨剤入り)を用いて、十分に洗浄後よく水洗し、ガラス面が完全に水濡れすることを確認する。この状態の自動車を2台用意し、各々門型洗車機にて、ワックス洗車或いは撥水洗車を行う。この洗車によりフロントガラスにワックス成分或いはアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする油膜が各々形成される。各自動車のフロントガラス面をメンディングテープにより上下均等に10分割する(上段5分割、下段5分割)。この状態で日の当る屋外に1日間放置後、試験に供した。
【0028】
[拭き取り性]
10分割されたフロントガラス面において、右端上下2段は、油膜のブランク(未洗浄)とする。各分割された面に、実施例および比較例の油膜取り剤をハンドスプレーにて噴霧する。噴霧後直ちに油膜取り剤の拭き取り作業を行う。この洗浄作業を各々の油膜取り剤について順番に行っていくが、供試油膜取り剤が、他の分割面にかからないように、試験面以外のガラス面はマスキングフィルムによりマスキングしておく。仕上げに乾いた清浄な窓拭き用タオルで拭き上げた後、油膜取り剤の拭き残り、白残の有無を目視にて下記の評価を行う。
(評価基準)目視判定
○:拭き残り、白残なし。
△:拭き残り、白残が僅かにあり。
×:拭き残り、白残あり。
【0029】
[油膜除去性]
拭き取り性評価後のフロントガラス面に、上段より、まんべんなく水道水を散水ノズルを通して均一にかける。十分に水を掛けて、ガラス面に残留している界面活性剤を洗い流す。その後、各洗浄試験を行った分割されたガラス面の水濡れ性を目視にて下記の評価を行う。
(評価基準)目視判定
○:完全に水濡れしている。
△:やや水濡れしている。
×:ブランク(未洗浄)と変わらず、撥水している。
【0030】

【0031】

【0032】
拭き取り性評価では、実施例2の油膜取り剤の試験区にやや白残が認められた。これはコロイダルシリカの粒径が大きい方が、油膜取り剤の拭き残しが微量あった場合でも目立ちやすいことによると考えられる。しかし、このレベルであれば、仕上げの拭き上げをより丁寧に行なえば、実用上は問題ないと判断される。
比較例3の油膜取り剤は、一般的な研磨剤の例として珪酸アルミニウム(焼成カオリン)を配合したものであるが、油膜除去性はその研磨力により高いが、通常のタオルの拭き上げでは研磨剤を拭き取りきれず、処理後のガラス面に白残が明らかに残ってしまう。この後に水洗作業が必要となるため、本発明の目的にはそぐわない。
【0033】
油膜除去性の評価では、ワックス洗車の油膜は比較例の油膜取り剤でも、ほぼ除去されているが、撥水洗車の強固な油膜に対しては、実施例1〜3および比較例3の油膜取り剤を除き、未洗浄のガラス面と大差なく、油膜は十分に除去できていない。
【0034】
ここで特筆すべきは、コロイダルシリカ/界面活性剤の組み合わせである比較例1の油膜取り剤、酢酸/界面活性剤の組み合わせである比較例2の油膜取り剤、コロイダルシリカ/界面活性剤/エタノールアミンのアルカリ性油膜取り剤の比較例5の油膜取り剤は、本発明の酢酸/コロイダルシリカ/界面活性剤の組み合わせによる油膜取り剤に比較して、撥水洗車の油膜除去性能が格段に劣ることである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の油膜取り剤を使用すれば、従来の油膜除去剤或いはガラスクリーナーでは困難であった強固な油膜を容易に除去でき、かつ除去後の作業性もよく、自動式洗車機の撥水洗車後の油膜除去処理に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸と、酢酸酸性水溶液で安定なコロイダルシリカと界面活性剤とを水中に配合してなることを特徴とする自動車ガラスの油膜取り剤。
【請求項2】
酢酸の配合量が、0.2〜3.0質量%の濃度になる量であり、コロイダルシリカの配合量が無水珪酸(SiO2)換算で1.0〜4.0質量%の濃度になる量であり、界面活性剤の配合量が、0.01〜0.1質量%の濃度になる量である請求項1に記載の油膜取り剤。
【請求項3】
コロイダルシリカの粒径が、10〜50nmである請求項1に記載の油膜取り剤。

【公開番号】特開2007−154023(P2007−154023A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350625(P2005−350625)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(391013106)株式会社パーカーコーポレーション (27)
【Fターム(参考)】