説明

自動車用サイドドア

【課題】剛性確保及び軽量化の両立を容易に図ることのできる自動車用サイドドアを提供する。
【解決手段】サイドドア11は、車体14に設けられた乗降用の側部開口を開閉するためのものであって自身の一部に窓部34を有するドア本体部30と、その窓部34を開閉すべくドア本体部30に回動可能に支持されたウインドウガラス40とを備える。ドア本体部30は、その外面31A,32A及び内面がいずれも車体14の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成されている。ウインドウガラス40は、その外面(40A)及び内面がともに車体14の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう透明な合成樹脂により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部に設けられた乗降用の側部開口を開閉する自動車用サイドドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費向上を図るうえで自動車の軽量化は有効な手段である。自動車を軽量化すれば、自動車を作動させるために必要なエネルギーを少なくできるからである。自動車を軽量化する手法としては、材料の軽量化、各部品の小型・軽量化、機能向上による部品点数の削減等があるが、なかでも樹脂化は有効である。
【0003】
そこで、自動車用サイドドアについても、その構成部品の少なくとも一部を樹脂化することが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−44530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、自動車用サイドドアにおける金属製の構成部品を単に樹脂製の構成部品に置き換えたり、無機ガラス製のウインドウガラスを合成樹脂製のウインドウガラスに置き換えたりするだけでは、金属製の構成部品や無機ガラス製のウインドウガラスと同等の剛性が得られない。同等の剛性を確保しようとすると、樹脂製の構成部品を大型なものにしたり、厚みを増したりしなければならず、軽量化を阻害する。また、金属製の構成部品を繊維強化樹脂等の強化樹脂からなる構成部品に置き換えれば、剛性を確保しつつ軽量化を図ることも可能であるが、その構成部品自体、ひいては自動車用サイドドアが非常に高価なものとなってしまう。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、剛性確保及び軽量化の両立を容易に図ることのできる自動車用サイドドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、自動車の車体側部に設けられた乗降用の側部開口を開閉するためのものであり、自身の一部に窓部を有するドア本体部と、前記窓部を開閉すべく前記ドア本体部に設けられたウインドウガラスとを備える自動車用サイドドアにおいて、前記ドア本体部は、その外面及び内面がともに前記車体の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成されており、前記ウインドウガラスは、その外面及び内面がともに前記車体の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成されており、前記ウインドウガラスは、前記ドア本体部に回動可能に支持されており、その回動により前記窓部を開閉するものであることを要旨とする。
【0008】
上記の構成によれば、自動車用サイドドアを構成するドア本体部についても、可動式のウインドウガラスについても、合成樹脂によって形成されている。そのため、ドア本体部が金属によって形成され、ウインドウガラスが無機ガラスによって形成された場合よりも、自動車用サイドドアが軽量となる。ただし、これらのドア本体部及びウインドウガラスを単に合成樹脂によって形成したというだけでは、金属や無機ガラスによって形成した場合と同程度の剛性を確保することは難しい。ドア本体部及びウインドウガラスを大型化したり、厚みを増したり、補強部材を追加したりすることも考えられるが、この場合には重量が増えて軽量化が損なわれる。
【0009】
しかし、請求項1に記載の発明では、各内面及び各外面がいずれも自動車の外側方へ膨らむ球面の一部をなすように、ドア本体部及びウインドウガラスが形成されているため、これらが平面状に形成された場合よりも自動車用サイドドアの剛性が高くなる。ドア本体部及びウインドウガラスを大型化したり、厚みを増したり、補強部材を追加したりしなくてもすみ、その分、自動車用サイドドアが軽量となる。
【0010】
また、上記のようにドア本体部及びウインドウガラスの各内面及び各外面がいずれも球面の一部をなしていることから、ウインドウガラスをドア本体部に対し回動させて同ドア本体部の窓部を開閉させることが可能となる。ドア本体部に対しウインドウガラスを昇降させることで窓部を開閉する既存の自動車用サイドドアでは、操作ハンドル又は電動モータの回動をウインドウガラスの上下直線運動に変換するための機構が必要となるが、請求項1に記載の発明では、こうした運動方向変換機構が不要となり、この点においても、自動車用サイドドアが軽くなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ドア本体部は円形の外形形状を有しており、前記ドア本体部の外縁部には、低圧流体の流入により膨張して前記車体における前記側部開口の周縁部に圧接することで、同周縁部と同ドア本体部との間をシールするインフレートシール部材が装着されていることを要旨とする。
【0012】
上記の構成によれば、ドア本体部の外形形状が円形をなしていて、曲率の大きな箇所がないため、インフレートシール部材を無理に湾曲させることなく、ドア本体部の外縁部に容易に装着することが可能である。
【0013】
サイドドアによって側部開口が閉じられた状態では、ドア本体部の外縁部に装着されているインフレートシール部材に対し低圧流体が流入される。ここでいう低圧流体とは、圧縮空気等を指す。この低圧流体によりインフレートシール部材が膨張し、車体における側部開口の周縁部に圧接する。この圧接により、側部開口の周縁部とドア本体部との間がシールされ、サイドドアよりも内側の空間であるキャビンの密閉性が高まり、車体外部の音の進入が抑制され、キャビンの静粛性が高くなる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記ドア本体部には、同ドア本体部により前記側部開口が閉じられた状態で、同ドア本体部と前記車体とに跨ることにより、同ドア本体部を前記車体に開放不能にロックするロック部材が設けられていることを要旨とする。
【0015】
上記の構成によれば、ロック部材によってドア本体部が車体に開放不能にロックされた状態では、同ドア本体部が側部開口を閉じた状態に保持される。この状態では、ロック部材がドア本体部と車体とに跨り、同ドア本体部の側方からの衝撃に対する剛性を高める。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記ロック部材は、前記ドア本体部から突出して、前記車体に設けられた係合部に係合することで同ドア本体部を開放不能にロックするロック位置と、前記係合部から前記ドア本体部側へ後退することで、同ドア本体部がロックされた状態を解除するロック解除位置との間でスライドするものであることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、ドア本体部によって側部開口が閉じられた状態で、ロック部材がロック解除位置からロック位置へスライドされると、ロック部材が車体の係合部に係合し、ドア本体部が開放不能にロックされる。これとは逆に、ロック位置からロック解除位置へのスライドにより、ロック部材が係合部からドア本体部側へ後退させられると、ロック状態が解除されて、ドア本体部が開放可能となる。このように、ドア本体部により側部開口が閉じられた状態で、ロック部材をロック位置とロック解除位置との間でスライドさせることにより、ドア本体部を、側部開口を閉じた位置にロックさせた状態にしたり、そのロック状態を解除したりすることが可能となる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記ドア本体部には、前記ウインドウガラスの少なくとも回動中心と同ドア本体部の外縁部とを結ぶ長尺状の内フレーム部が設けられており、前記ロック部材は、前記内フレーム部に対し、その長さ方向へのスライド可能に取付けられていることを要旨とする。
【0019】
上記の構成によれば、長尺状の内フレーム部に取付けられたロック部材は、その内フレーム部に沿って、同内フレーム部の長さ方向へ移動することで、ロック位置とロック解除位置との間でスライドする。
【0020】
ここで、内フレーム部は、ウインドウガラスの少なくとも回動中心とドア本体部の外縁部とを結ぶ長尺状をなしている。従って、側部開口を閉じた状態のドア本体部がロック部材によって車体にロックされた状態では、同ロック部材は、ウインドウガラスの回動中心と外縁部とを結ぶ線上に位置しながら、同ドア本体部と車体との間に跨ることとなる。そのため、ドア本体部の側方からの衝撃に対する剛性がロック部材によってバランスよく高められる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記ウインドウガラスの一部には、その内外を連通させる連通部が設けられており、前記ドア本体部の前記窓部は、前記連通部の全てが、前記ウインドウガラスの回動方向について、前記内フレーム部と重なる箇所に位置させられたときには閉塞され、前記連通部の少なくとも一部が前記内フレーム部から外れた箇所に位置させられたときには開放されるものであることを要旨とする。
【0022】
上記の構成によれば、ウインドウガラスの回動により、連通部の全てが、ウインドウガラスの回動方向について内フレーム部と重なる箇所に位置すると、同連通部が内フレーム部によって塞がれた状態となる。また、このときには、連通部がドア本体部の窓部と重ならず、同窓部が閉じられる。
【0023】
これに対し、連通部の少なくとも一部が内フレーム部から外れた箇所に位置すると、連通部が窓部に重なり、同窓部が開かれる。窓部は、連通部との重なり度合いが大きくなるに従い大きく開かれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の自動車用サイドドアによれば、剛性確保及び軽量化の両立を容易に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を具体化した一実施形態を示す図であり、サイドドアが閉じられた電気自動車を斜め前方から見た状態を示す斜視図。
【図2】電気自動車の側面図。
【図3】サイドドア及びバックドアがそれぞれ開かれた電気自動車を斜め後方から見た状態を示す斜視図。
【図4】図1のX−X線に沿った断面構造を示す断面図。
【図5】サイドドアにおけるロック部材の作用を説明するための図であり、(A)はロック部材がロック位置へスライドされた状態を、一部を省略して示す断面図、(B)はロック部材がロック解除位置へスライドされた状態を、一部を省略して示す断面図。
【図6】(A)はウインドウガラスの側面図、(B)は窓部が閉塞された状態のサイドドアの側面図、(C)は窓部が開放された状態のサイドドアの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1〜図3は、本実施形態の自動車用サイドドア(以下単に「サイドドア」という)が適用された電気自動車10を示している。電気自動車10は、電動モータ(図示略)により車輪12を回転させて走行する自動車である。電動モータは、例えば車輪12のホイールに内蔵される。この電気自動車10では、電動モータが動力源となるため、キャビン(客室)13の前方にエンジン及びエンジンルームが不要となる。そこで、本実施形態では、エンジンが車体前部に配置された一般的な自動車よりもキャビン13が前方へ拡大されている。
【0027】
上記電気自動車10における車体14の車幅方向両側部には、ルーフRを支える支柱として、前方から後方へ向けて順に一対のAピラー(フロントピラー)15、一対のBピラー(センターピラー)16及び一対のCピラー(リヤピラー)17が設けられている。各Aピラー15は前部座席18の斜め前方に位置し、各Bピラー16は前部座席18及び後部座席19間の側方に位置し、各Cピラー17は後部座席19の斜め後方に位置している。両Aピラー15の前方には、PC(ポリカーボネート)等の透明な合成樹脂からなるフロントガラス21が設けられている。各Aピラー15及び各Bピラー16間には、乗員の乗降用の側部開口22がそれぞれ設けられている。本実施形態では、一般的な自動車とは異なり、各側部開口22は、これを電気自動車10の外側方から見た場合に円形となるように形成されている。また、車体14後部の両Cピラー17間には、荷物の出し入れ用の後部開口20が設けられている。
【0028】
車体14には、上記各側部開口22を開閉するための一対のサイドドア11と、上記後部開口20を開閉するためのバックドア29とがそれぞれ設けられている。次に、図4〜図6を参照して、このサイドドア11について説明する。
【0029】
各サイドドア11は、ドア本体部30及びウインドウガラス40を備えて構成されている。ドア本体部30は、それぞれ合成樹脂によって形成された外フレーム部31及び内フレーム部32を備えて構成されている。ここでの合成樹脂は、自動車用部品の材料として一般的に用いられる合成樹脂、特に射出成形等により成形可能な樹脂、例えばPP、ABS、PC等が用いられる。外フレーム部31の外面31A及び内面31Bは、ともに車体14の外側方へ膨らむ球面の一部をなしている。また、外フレーム部31は、上記側部開口22に対応して円形の外形形状を有している。外フレーム部31の前端部は、ドアヒンジ23の軸24(図5(A),(B)参照)により、Aピラー15に回動可能に支持されている。この軸24を支点としたドア本体部30の回動により、同ドア本体部30が側部開口22に接近及び離間して、同側部開口22が開閉される。
【0030】
外フレーム部31の外縁部である外周面31Cには、その全周にわたって環状の装着溝31Dが形成されており、ゴム製、又はゴム弾性を有する合成樹脂製のシール部材がこの装着溝31Dに装着されている。ここでは、シール部材として、低圧流体の流入により膨張して車体14における側部開口22の周縁部22Aに圧接することで、同周縁部22Aとドア本体部30との間をシールするインフレートシール部材33が用いられている。
【0031】
このインフレートシール部材33は、一般的なサイドドアには適用が困難である。これは、次の理由による。シール部材がインフレートシール部材である場合には、低圧流体の漏出の原因となり得る傷を付けることなく、同インフレートシール部材をサイドドアに装着する必要がある。しかし、一般的なサイドドアの外縁部においてシールの必要な部分は、角部等、曲率の大きな箇所を含んでいるため、インフレートシール部材をこの箇所に沿わせて大きく屈曲させることとなる。このように大きく屈曲させると、その際にインフレートシール部材を傷付けるおそれがあるからである。これに対し、本実施形態では、ドア本体部30の外周面31Cが円筒状をなしていて、曲率の大きな箇所がないため、インフレートシール部材33を無理に湾曲させることなく、この外周面31Cに設けた装着溝31Dに容易に装着することが可能である。
【0032】
また、外フレーム部31の内周面31Eには、その全周にわたって係合溝31Fが形成されている。
内フレーム部32は、少なくとも後述するウインドウガラス40の回動中心である軸41と外フレーム部31の外縁部(外周面31C)とを結ぶものである。ここでは、内フレーム部32は、前側ほど低くなるように傾斜した状態で略前後方向へ延び、かつ後側ほど拡幅する長尺状をなしており、外フレーム部31について略前後方向に相対向する部位に架け渡されている。内フレーム部32の外面32A及び内面32Bは、上記外フレーム部31と同様、ともに車体14の外側方へ膨らむ球面の一部をなしている。
【0033】
外フレーム部31の上部と内フレーム部32とによって挟まれた箇所は、窓部34を構成している。また、外フレーム部31の下部と内フレーム部32とによって挟まれた箇所は、補助窓部35を構成している。前者の窓部34がウインドウガラス40によって開閉されるのに対し、後者の補助窓部35はウインドウガラス40によって常に閉塞されている。
【0034】
ウインドウガラス40は、上記ドア本体部30の窓部34を開閉するためのものであり、上記フロントガラス21と同様、PC等の透明な合成樹脂によって形成されている。ウインドウガラス40は、無機材料によって形成されたものよりも軽量である。ウインドウガラス40の外面40A及び内面40Bは、ともに車体14の外側方へ膨らむ球面の一部をなしている。また、ウインドウガラス40は、円形の外形形状を有している。ウインドウガラス40の外周部は上記外フレーム部31の係合溝31F内に係合されている。ウインドウガラス40の内面40Bの中心部には後方へ向けて軸41が設けられている(図4参照)。この軸41は、軸受42を介して内フレーム部32に回動可能に支持されている。軸41は、ギヤ43を介して電動モータ44に駆動連結されている。
【0035】
ウインドウガラス40の一部には、その内外を連通させる連通部40Cが設けられている。この連通部40Cは、次の条件を満たす形状及び大きさに形成されている。その条件の前提として、連通部40Cについて、軸41を中心とするウインドウガラス40の回動方向についての長さを、「連通部40Cの幅W1」とする(図6(A)参照)。また、内フレーム部32について、軸41を中心とするウインドウガラス40の回動方向についての長さを、「内フレーム部32の幅W2」とする(図6(C)参照)。そして、前記条件は、「連通部40Cの幅W1が内フレーム部32の幅W2よりも狭いこと」である。この条件は、連通部40Cの全体を内フレーム部32と重なり合わせるために必要である。
【0036】
なお、ドア本体部30内には、ウインドウガラス40が所定の角度範囲内でのみ回動するのを許容し、その角度範囲から外れて回動するのを規制するストッパ(図示略)が設けられている。このストッパにより、連通部40Cが内フレーム部32よりも下側へ回動して、補助窓部35と重なり合うことが規制される。そのため、補助窓部35は、ウインドウガラス40の回動角度に拘らず常に閉塞された状態となる。
【0037】
さらに、ドア本体部30、より詳しくは内フレーム部32の軸41よりも後側部分と外フレーム部31の後部とには、側部開口22を閉じたドア本体部30と車体14(Bピラー16)とに跨ることにより、同ドア本体部30を車体14に開放不能にロックするロック部材50が設けられている。ロック部材50は、内フレーム部32に対し、その長さ方向(略前後方向)へのスライド可能に取付けられている。ここで、ロック部材50が、可動範囲の後方の端までスライドされたときのそのロック部材50の位置を「ロック位置」という(図5(A)参照)。また、ロック部材50が、可動範囲の前方の端までスライドされたときのそのロック部材50の位置を「ロック解除位置」という(図5(B)参照)。
【0038】
ロック位置では、ロック部材50はドア本体部30から車体14(Bピラー16)側へ突出して、Bピラー16に設けられた係合部25に係合することで同ドア本体部30を開放不能にロックする。この係合部25は、Bピラー16の前面において開口して後方へ延びる凹部によって構成されている。Bピラー16における係合部25の車外側部分はガイド突部26となっている。これに対し、ロック部材50の後部には、互いに車幅方向に離間した位置から後方へ突出する内突部51及び外突部52が設けられている。
【0039】
一方、内フレーム部32の前後方向についての中間部分には、後面において開口して、前方へ向けて延びる凹部からなる係合部36が設けられている。内フレーム部32における係合部36の車外側部分はガイド突部37となっている。また、ロック部材50の前部には、互いに車幅方向に離間した位置から前方へ突出する内突部53及び外突部54が設けられており、内突部53が係合部36内に係合し、外突部54がガイド突部37の車外側に位置している。
【0040】
そして、ロック位置では、図5(A)に示すように、ロック部材50の後側の内突部51が上記Bピラー16の係合部25内に係合し、同内突部51及び外突部52の多くの部分がガイド突部26と重なり合う。また、ロック位置では、前側の内突部53及び外突部54が、その前部においてのみ内フレーム部32のガイド突部37と重なる。
【0041】
これに対し、ロック解除位置では、図5(B)に示すように、ロック部材50の後側の内突部51がBピラー16の係合部25から前方へ抜け出し(ドア本体部30側へ後退し)、同内突部51及び外突部52の全体がBピラー16のガイド突部26と重なり合わなくなり、ドア本体部30のロックされた状態が解除される。また、前側の内突部53の大部分が、内フレーム部32の係合部36に係合し、同内突部53及び外突部54の多くの部分がガイド突部37と重なり合う。
【0042】
なお、図示はしないが、ロック位置へスライドされたロック部材50をその位置に保持する機構と、ロック解除位置へスライドされたロック部材50をその位置に保持する機構とが別途設けられている。
【0043】
ロック部材50の外面には、同ロック部材50をスライド操作するための外操作ハンドル55が設けられている。また、図示はしないが、キャビン13側からロック部材50をスライド操作するため内操作ハンドルが設けられている。内操作ハンドルは、ロック部材50に固定され、かつ内フレーム部32を貫通してキャビン13側に突出している。さらに、電動モータ44により、ウインドウガラス40を回動させて窓部34を開閉する際に操作する操作スイッチ(図示略)が内フレーム部32に設けられている。
【0044】
なお、図1〜図3の少なくとも1つに示すように、Bピラー16とCピラー17との間には、上述したような側部開口22及びサイドドア11は設けられておらず、それらに代えて窓部27が設けられている。この窓部27には、上述したサイドドア11とは異なりウインドウガラス28が固定されている。ウインドウガラス28は、ウインドウガラス40と同様、透明な合成樹脂によって形成されている。
【0045】
上記のようにして本実施形態のサイドドア11が構成されている。このサイドドア11では、その構成部品であるドア本体部30についても、可動式のウインドウガラス40についても、合成樹脂によって形成されている。そのため、ドア本体部30が金属によって形成され、ウインドウガラス40が無機ガラスによって形成された場合よりもサイドドア11は軽量となる。ただし、これらのドア本体部30及びウインドウガラス40を単に合成樹脂によって形成したというだけでは、金属や無機ガラスによって形成したサイドドアと同程度の剛性を確保することが難しい。これに対しては、樹脂製のドア本体部30及び樹脂製のウインドウガラス40を大型化したり、厚みを増したり、補強部材を追加したりすることも考えられるが、この場合には重量が増えて、樹脂化による軽量化効果が損なわれる。
【0046】
しかし、本実施形態では、合成樹脂製のドア本体部30における外面31A,32A及び内面31B,32Bについても、ウインドウガラス40の外面40A及び内面40Bについても電気自動車10の外側方へ膨らむ球面の一部をなしているため、これらが平面状をなす場合よりもサイドドア11の剛性が高くなる。合成樹脂製のドア本体部30及び合成樹脂製のウインドウガラス40を大型化したり、厚みを増したり、補強部材を追加したりしなくてもすみ、その分、サイドドア11が軽量となる。
【0047】
また、上記のように外面31A,32A,40A及び内面31B,32B,40Bがいずれも球面の一部をなしていることから、軸41を回動中心としてウインドウガラス40をドア本体部30(内フレーム部32)に対し回動させ、同ドア本体部30の窓部34を開閉させることが可能となる。ドア本体部に対しウインドウガラスを昇降させることで窓部を開閉する既存のサイドドアでは、操作ハンドル又は電動モータの回動をウインドウガラス40の上下直線運動に変換するための機構が必要となるが、本実施形態では、こうした運動方向変換機構が不要であり、この点においても、サイドドア11が軽くなる。
【0048】
サイドドア11によって側部開口22が閉じられた状態(図4参照)では、ドア本体部30の外縁部(外周面31C)に装着されたインフレートシール部材33に対し低圧流体が流入される。この低圧流体によりインフレートシール部材33が膨張し、車体14における側部開口22の周縁部22Aに圧接する。この圧接により、側部開口22の周縁部22Aとドア本体部30の外周面31Cとの間がシールされる。このシールにより、サイドドア11よりも内側の空間であるキャビン13の密閉性が高まる。
【0049】
また、ドア本体部30によって側部開口22が閉じられた状態で、ロック部材50がロック解除位置からロック位置へスライドされると、ロック部材50が車体14の係合部25に係合し(後側の内突部51及び外突部52がガイド突部26と重なり合い)、ドア本体部30が開放不能にロックされる(図5(A)参照)。これとは逆に、ロック部材50がロック位置からロック解除位置へスライドされると、後側の内突部51及び外突部52がガイド突部26と重なり合わなくなってロック状態が解除され、ドア本体部30が開放可能となる(図5(B)参照)。
【0050】
また、ドア本体部30がロック部材50によって車体14に対し開放不能にロックされて、ドア本体部30が側部開口22を閉じた状態に保持された状態では、そのロック部材50がドア本体部30と車体14(Bピラー16)とに跨り、同ドア本体部30の側方からの衝撃に対する剛性が高められる。
【0051】
特に、本実施形態では、内フレーム部32が、少なくともウインドウガラス40の回動中心(軸41)と同ドア本体部30の外縁部(外周面31C)とを結ぶ長尺状をなしている(図6(B)等参照)。従って、側部開口22を閉じた状態のドア本体部30がロック部材50によって車体14にロックされた状態では、同ロック部材50は、ウインドウガラス40の回動中心(軸41)とドア本体部30の外縁部(外周面31C)とを結ぶ線上に位置しながら、同ドア本体部30と車体14との間に跨ることとなる。そのため、ドア本体部30の外側方からの衝撃に対する剛性がロック部材50によって上下方向にバランスよく高められる。
【0052】
さらに、軸41を支点としたウインドウガラス40の回動により、連通部40Cの全てが、ウインドウガラス40の回動方向について内フレーム部32と重なる箇所に位置すると、図6(B)に示すように、同連通部40Cが内フレーム部32によって塞がれた状態となる。このときには、連通部40Cがドア本体部30の窓部34と重ならず、同窓部34が閉じられる。
【0053】
これに対し、上記のように窓部34が閉じられた状態から、操作スイッチが操作されると、電動モータ44によりウインドウガラス40が図6(B)において矢印Dで方向へ回動させられる。この回動により、図6(C)に示すように、連通部40Cの少なくとも一部が内フレーム部32から外れた箇所に位置すると、連通部40Cが窓部34に重なり、同窓部34が開かれる。窓部34は、連通部40Cとの重なり度合いが大きくなるに従い大きく開かれる。因みに、図6(C)は、連通部40Cの全部が窓部34と重なり合った状態を示している。ただし、ウインドウガラス40の回動に拘らず、連通部40Cが補助窓部35と重なり合うことはなく、同補助窓部35は常にウインドウガラス40の連通部40C以外の箇所によって閉塞される。
【0054】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)ドア本体部30(外フレーム部31、内フレーム部32)及びウインドウガラス40を、それらの及び外面31A,32A,40A及び内面31B,32B,40Bがいずれも電気自動車10の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成している(図4、図5(A)参照)。そして、ウインドウガラス40を、軸41によりドア本体部30に回動可能に支持し、その回動により窓部34を開閉するようにしている。このため、サイドドア11の剛性を確保しつつ軽量化を図ることが容易にできる。
【0055】
(2)ドア本体部30における外フレーム部31の外形形状を円形としている(図2、図6(B),(C)参照)。そのため、一般的な自動車用サイドドアとは異なり、インフレートシール部材33に傷を付けることなく、同外フレーム部31の外縁部(外周面31C)に同インフレートシール部材33を装着することができる(図4、図5(A)参照)。
【0056】
そして、本実施形態では、サイドドア11によって側部開口22が閉じられた状態で、インフレートシール部材33に対し低圧流体を供給するようにしている。そのため、インフレートシール部材33を膨張させて、車体14における側部開口22の周縁部22Aに圧接させることで、同周縁部22Aとドア本体部30との間を隙間の非常に少ない状態でシールすることができる。サイドドア11よりも内側の空間であるキャビン13の密閉性を高め、車体14の外部の音の進入を抑制し、キャビン13の高い静粛性を実現することができる。
【0057】
(3)側部開口22を閉じた状態のドア本体部30と車体14とに跨ることにより、同ドア本体部30を車体14に開放不能にロックするロック部材50を設けている(図2、図6(B),(C)参照)。そのため、このロック部材50によって、ドア本体部30の側方からの衝撃に対する剛性を高めることができる。
【0058】
(4)上記(3)に関連して、ドア本体部30には、少なくともウインドウガラス40の回動中心(軸41)とドア本体部30の外縁部(外周面31C)とを結ぶ長尺状の内フレーム部32を設けている。そして、ロック部材50を、内フレーム部32に対し、その長さ方向へのスライド可能に取付けている。そのため、ドア本体部30の側方からの衝撃に対する剛性をロック部材50によってバランスよく高めることができる。
【0059】
(5)上記(3),(4)に共通して、次の効果が得られる。一般的な、サイドドアではインパクトビームを設けることで上記と同様の効果(剛性向上)を狙っているが、本実施形態ではロック部材50がこのインパクトビームの機能も兼ねる。そのため、インパクトビームを別途設けなくてもすみ、この点においてサイドドア11のさらなる軽量化を図ることができる。
【0060】
(6)ロック部材50を、ロック位置(図5(A))とロック解除位置(図5(B))との間でスライドさせるようにしている。そのため、ドア本体部30によって側部開口22を閉じた状態で、ロック部材50をロック位置とロック解除位置との間でスライドさせることにより、ドア本体部30を、側部開口22を閉じた位置にロックさせた状態にしたり、そのロック状態を解除したりすることができる。
【0061】
(7)ウインドウガラス40の一部に、その内外を連通させ、かつ幅W1が内フレーム部32の幅W2よりも小さな連通部40Cを設けている(図6(A),(C))。そのため、連通部40Cの全てを、ウインドウガラス40の回動方向について、内フレーム部32と重なる箇所に位置させることにより、ドア本体部30の窓部34を閉塞することができる。また、連通部40Cの少なくとも一部を内フレーム部32から外れた箇所に位置させることにより、同窓部34を開放することができる。
【0062】
(8)側部開口22の形状、ドア本体部30の外形形状をともに円形とした(図3、図6(B),(C))ため、斬新なデザインの側部開口22及びサイドドア11を提供することができる。
【0063】
(9)内フレーム部32の上側の窓部34に加え、同内フレーム部32の下側に補助窓部35を設け、ウインドウガラス40の下部を露出させている(図2)。そのため、ウインドウガラス40が補助窓部35で露出する分、サイドドア11におけるガラスエリアを拡大し、サイドドア11の斜め下外側方の視界を改善することができる。
【0064】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・ウインドウガラス40を手動によって回動させて窓部34を開閉させる構成に変更してもよい。
【0065】
・ドア本体部30が円形の外形形状を有するという特徴を最大限発揮できるシール部材としては、上述したインフレートシール部材33であるが、低圧流体により膨張させられない一般的なウエザストリップを、シール部材としてドア本体部30の外縁部(外周面31C)に装着してもよい。
【0066】
・補助窓部35を省略し、サイドドア11の下部ではウインドウガラス40を露出させない構造に変更してもよい。
・内フレーム部32は、ウインドウガラス40の少なくとも回動中心(軸41)とドア本体部30の外縁部(外周面31C)とを結ぶものであればよく、必ずしもウインドウガラス40の回動中心(軸41)を挟んで外フレーム部31の相対向する箇所に架設されなくてもよい。
【0067】
・ドア本体部はドアヒンジ23の軸24を支点とした回動とは異なる態様で側部開口22を開閉するものであってもよい。
・ウインドウガラス40の外形形状は必ずしも円形でなくてもよく、例えば半円形であってもよい。
【0068】
・補助窓部35についても、窓部34と同様、ウインドウガラス40によって開閉される構造に変更してもよい。
・本発明は、電気自動車10に限らず、エンジンを動力源とした一般的な自動車にも適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…電気自動車(自動車)、11…サイドドア、14…車体、22…側部開口、22A…周縁部、25…係合部、30…ドア本体部、31A,32A,40A…外面、31B,32B,40B…内面、31C…外周面(外縁部)、32…内フレーム部、33…インフレートシール部材、34…窓部、40…ウインドウガラス、40C…連通部、50…ロック部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体側部に設けられた乗降用の側部開口を開閉するためのものであり、自身の一部に窓部を有するドア本体部と、
前記窓部を開閉すべく前記ドア本体部に設けられたウインドウガラスと
を備える自動車用サイドドアにおいて、
前記ドア本体部は、その外面及び内面がともに前記車体の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成されており、
前記ウインドウガラスは、その外面及び内面がともに前記車体の外側方へ膨らむ球面の一部をなすよう合成樹脂により形成されており、
前記ウインドウガラスは、前記ドア本体部に回動可能に支持されており、その回動により前記窓部を開閉するものであることを特徴とする自動車用サイドドア。
【請求項2】
前記ドア本体部は円形の外形形状を有しており、前記ドア本体部の外縁部には、低圧流体の流入により膨張して前記車体における前記側部開口の周縁部に圧接することで、同周縁部と同ドア本体部との間をシールするインフレートシール部材が装着されている請求項1に記載の自動車用サイドドア。
【請求項3】
前記ドア本体部には、同ドア本体部により前記側部開口が閉じられた状態で、同ドア本体部と前記車体とに跨ることにより、同ドア本体部を前記車体に開放不能にロックするロック部材が設けられている請求項1又は2に記載の自動車用サイドドア。
【請求項4】
前記ロック部材は、
前記ドア本体部から突出して、前記車体に設けられた係合部に係合することで同ドア本体部を開放不能にロックするロック位置と、
前記係合部から前記ドア本体部側へ後退することで、同ドア本体部がロックされた状態を解除するロック解除位置との間でスライドするものである請求項3に記載の自動車用サイドドア。
【請求項5】
前記ドア本体部には、前記ウインドウガラスの少なくとも回動中心と同ドア本体部の外縁部とを結ぶ長尺状の内フレーム部が設けられており、
前記ロック部材は、前記内フレーム部に対し、その長さ方向へのスライド可能に取付けられている請求項4に記載の自動車用サイドドア。
【請求項6】
前記ウインドウガラスの一部には、その内外を連通させる連通部が設けられており、
前記ドア本体部の前記窓部は、前記連通部の全てが、前記ウインドウガラスの回動方向について、前記内フレーム部と重なる箇所に位置させられたときには閉塞され、前記連通部の少なくとも一部が前記内フレーム部から外れた箇所に位置させられたときには開放されるものである請求項5に記載の自動車用サイドドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−228518(P2010−228518A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76677(P2009−76677)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】