説明

自動車車体の複層塗膜

【課題】 優れた耐チッピング性を有し、特に自動車外板に好適な複層塗膜を提供することを目的とする。
【解決手段】 鋼板上に、電着塗膜、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順で形成された複層塗膜であって、−20℃において、前記中塗り塗膜のヤング率が35000kg/cm2以上、かつ破断伸び率が2%以下であり、前記クリヤー塗膜のヤング率が35000kg/cm2以下、かつ破断伸び率が5%以上であることを特徴とする自動車等車体外板上の複層塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性を改良した自動車等車体外板上の複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体外板に塗装される塗膜には、自動車走行の際、小石等がしばしば衝突し、これが原因で塗膜に亀裂や剥離が起きるチッピングと呼ばれる現象が生ずることが知られている。チッピングが生じた塗膜は、この部分から水等が侵入し車体外板の表地面において錆が発生する。その結果、塗膜外観の低下および外板被塗物の強度低下をもたらすことがある。
特に、寒冷地域においては、冬期に融雪および滑り止めを目的として多量の岩塩や砂を道路上に散布するため、自動車外板の塗膜に小石等が衝突する頻度が高い。したがって耐チッピング性に優れた塗膜を適用することが必須である。
【0003】
自動車に塗装される塗膜は、通常、電着塗膜など下塗り塗膜、中塗り塗膜、及びベース塗膜、最外層クリヤー塗膜など上塗り塗膜という多層塗膜になっており、下地隠蔽性のために施されている中塗り塗膜に、耐チッピング性という機能を持たせることが一般的であった。
例えば、特許文献1には、中塗り硬化塗膜の破断伸び率が20℃において5%以上、−20℃において1.3%以上であり、かつ、ヤング率が20℃において25000kg/cm2以下、−20℃において50000kg/cm2以下である柔軟性のある中塗り塗膜が用いられ、その上のベース塗膜が硬いものである複層塗膜が記載されている。
しかしながら、中塗り塗膜を柔軟性のある塗膜とすると、その下層、上層である電着塗膜やベース塗膜との密着性が不十分となり、特に、中塗り塗膜/電着塗膜の間で剥離する場合が多く、車体外板の腐食などにつながるという問題があった。
更に、電着塗膜はグレー色や黒色のため、上塗り塗膜の塗色によっては、剥離面が色まだらに見える場合もあり、外観上も好ましくないものであった。
また、中塗り硬化塗膜のヤング率が低いと、中塗り塗膜の強度が低下するため、中塗りの塗膜自体が破壊するいわゆる層内剥離が起こリ易くなり、この場合も色まだらが発生する問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−50063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた耐チッピング性を有し、特に、自動車車体外板に好適な複層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複層塗膜は、被塗物である自動車等車体外板上に、電着塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜がこの順で形成された複層塗膜であって、前記上塗り塗膜はベース塗膜およびクリヤー塗膜からなり、中塗り塗膜は耐チッピング性のために軟質としていた従来のものとは違って硬質であって、かつクリヤー塗膜は、トップコート性能を維持しつつ耐チッピング性能を担わせるよう比較的軟質とした複層塗膜であることを特徴とする。
すなわち本発明は、鋼板上に、電着塗膜、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順で形成された複層塗膜であって、−20℃において、前記中塗り塗膜のヤング率が35000kg/cm2以上、かつ破断伸び率が2%以下であり、前記クリヤー塗膜のヤング率が35000kg/cm2以下、かつ破断伸び率が5%以上である自動車等車体外板上の複層塗膜を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複層塗膜は、最外層のクリヤー塗膜をトップコート性能を維持しつつ比較的軟質とすることで、複層塗膜全体の耐チッピング性を向上させ、また、中塗り塗膜を硬質とすることで、電着塗膜等との密着性が良好となりそれら塗膜との層間剥離や中塗り硬化塗膜の層内剥離を防止することができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<中塗り塗料>
本発明で使用する中塗り塗料は、塗膜を形成したときに硬化塗膜のヤング率が35000kg/cm2以上、かつ破断伸び率が2%以下となるように調製したものである。ヤング率、破断伸び率が上記範囲外であると、該中塗り塗膜と、下の電着塗膜、上のベース塗膜、特に電着塗膜との密着性が低下し、層間剥離あるいは中塗り塗膜内での層内剥離が起こりやすくなる。
すなわち中塗り硬化塗膜のヤング率が高いということは、中塗り硬化塗膜内の凝集破壊も生じにくくなるため層内剥離が起こり難く、また、中塗り塗膜の硬化反応性も一般的に高める必要があるため、電着塗膜との間で化学的あるいは物理的な密着力が働いて層間剥離も起こり難くなるものと推察される。
【0009】
上記物性の条件を満たす塗料としては特に制限はなく、従来公知の中塗り塗料の範疇で、かかる条件を満たすものを適宜、調製もしくは選定することができる。
中塗り塗料は、樹脂及び硬化剤からなるバインダー成分、顔料成分、及び表面調整剤などの添加剤を含むもので、溶剤型あるいは水性型の形態の塗料である。これら成分の種類、量の選択により、上記物性を満足させる。通常、硬質の硬化塗膜を得るためには、樹脂や硬化剤の種類、樹脂/硬化剤の比率、及び顔料成分の含有量の選択などが重要である。
【0010】
溶剤型中塗り塗料のバインダー成分に含まれる樹脂としては、例えば、カルボン酸基、水酸基等の硬化性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0011】
また、上記バインダー成分に含まれる硬化剤としては、上記樹脂の有する硬化性官能基と硬化可能な官能基を有するものを挙げることができ、例えば、メチル化メラミン樹脂やブチル化メラミン樹脂等のアミノ系樹脂やポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物はイソシアネート基を公知のアルコール化合物、オキシム化合物、ピラゾール化合物や活性メチレン化合物等によってブロック化されていてもよい。
特に、アミノ系樹脂は、硬化反応性が比較的高く、硬質の中塗り塗膜を形成することが出来るため、硬化剤として好適に用いることができる。例えば、サイメル254やサイメル323(以上、日本サイテック社製)、ユーバン226(三井化学社製)等イミノ基の多いメラミン樹脂は、高反応性のため、前記特定物性を付与しやすい。 また、樹脂とアミノ系樹脂の比率も、塗膜物性を調整するのに有効であり、アミノ樹脂を増やすことにより、硬質の中塗り塗膜を形成することができる。
【0012】
上記顔料成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料及び光輝材を挙げることができる。
上記着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、ベンガラ等の無機系顔料、キナクリドン系、アゾ系、ペリレン系、フタロシアニン系、アントラセン系等の有機系顔料を挙げることができる。また、上記体質顔料としては、例えば、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
本発明においては、複層塗膜全体の耐チッピング性を向上させるために、中塗り塗料の顔料成分中にタルクを含有させることが好ましい。タルクの充填効果により中塗り塗膜の硬度が上がり、一方で石の衝突に対し、当該衝突部分に存在するタルクが破壊されることによって衝突エネルギーを吸収することができるものと推察される。中塗り塗膜中のタルク含有量は1〜10重量部が好ましく、1〜6重量部であることがより好ましい。
また、上記光輝材としては特に限定されず、例えば、アルミニウム粉、ステンレス粉、マイカ、ガラスフレーク、板状酸化鉄等を挙げることができる。
【0013】
水性型中塗り塗料は、上記溶剤型中塗り塗料として挙げたものに含有される樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものや、乳化重合によって得られるエマルション樹脂を含有するものを挙げることができる。
なお、上記中塗り塗料は溶剤型であっても水性型であってもよいが、環境に与える影響の観点から、水性型であることが好ましい。
【0014】
<クリヤー塗料>
本発明で使用するクリヤー塗料は、塗膜を形成したときに硬化塗膜のヤング率が35000kg/cm2以下、かつ破断伸び率が5%以上となるように調製したものである。前記中塗り硬化塗膜との組み合わせにおいて、該クリヤー塗膜のヤング率、破断伸び率が上記範囲外であると、本発明の目的である複層塗膜全体の耐チッピング性を向上させることができない。
上記物性の条件を満たす塗料としては特に制限はなく、従来公知のクリヤー塗料の範疇で、かかる条件を満たすものを適宜、調製もしくは選定することができる。
【0015】
クリヤー塗料は、通常、水酸基 及び/又は カルボン酸基等の硬化性官能基を有する主剤樹脂、メラミン樹脂や(ブロック)ポリイソシアネートなど硬化剤、必要に応じ各種添加剤から構成され、溶剤型、水性型、場合により粉末型の形態の塗料である。 塗装時に、主剤と硬化剤を混合する2液型塗料であってもよい。
これら成分の種類、量比の選択により、上記物性を満足させる。通常、軟質の硬化塗膜を得るためには、樹脂の種類、分子量、水酸基価、硬化剤の種類、両者の比率等の選択が重要である。
なお、必要により添加される各種添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、粘性制御剤、硬化触媒、表面調整剤等を挙げることができる。
【0016】
溶剤型クリヤー塗料としては、硬化性あるいは塗膜性能等の点から、バインダー成分として水酸基を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、アミノ樹脂及び/又は(ブロック)ポリイソシアネートの硬化剤との組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等を挙げることができる。
また、水性型クリヤー塗料としては、上記溶剤型クリヤー塗料の例として挙げたものに含有されるバインダー成分を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前又は後に、ジメチルエタノールアミン及びトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0017】
クリヤー塗料として、特に、ポリイソシアネート化合物またはブロックポリイソシアネート化合物を硬化剤とするウレタンクリヤー塗料が好ましい。 硬化剤と主剤との割合は、使用目的により種々選択できるが、(ブロック)ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基(NCO)と、前記水酸基含有樹脂に含まれる水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.8〜1.5の範囲となるようにすることが好ましい。当量比が下限未満では塗膜硬化性が不十分となり、上限を超えると硬化塗膜が堅くなりすぎてヤング率、破断伸び率が本発明所定の範囲外となり、複層塗膜全体の耐チッピング性が不十分なものとなる。特に好ましい当量比の範囲は0.9〜1.3である。
【0018】
<複層塗膜の形成方法>
次に、本発明の複層塗膜の形成方法を、自動車車体の塗装仕上げ方法を例にして説明する、自動車車体の塗装仕上げ方法においては、電着塗料を塗装し焼き付けて電着塗膜を形成する工程、この電着塗膜上に中塗り塗料を塗装し焼き付けて中塗り塗膜を形成する工程、中塗り塗膜上にベース塗料を塗装する工程、および、このベース塗膜上にクリヤー塗膜用塗料を塗装し、焼き付けて硬化させて複層塗膜を形成する工程を含む方法が一般的である。
また 焼き付けした電着塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、焼き付け工程なしで、ベース塗料およびクリヤー塗料を塗装し、3層同時に焼き付け硬化して複層塗膜を形成する方法も含まれる。
【0019】
上記被塗物は、鋼板等の導電性素材で構成されていて、ここへ電着塗料による電着塗装を施し、焼き付けて電着塗膜を形成する。電着塗料としては公知のカチオン電着塗料を用い、乾燥膜厚10〜40μmに形成することが好ましい。なお、電着塗装に先立って、被塗物に脱脂処理、化成処理等の前処理を行っておくのが一般的である。
【0020】
次に、電着塗膜上に上記特定物性の硬質中塗り塗膜を形成する。そのような中塗り塗料としては、前記したように、メラミン硬化系またはイソシアネート硬化系の中塗り塗料であり、前記特定物性を満足するように、調製または市販品より選択される。本発明に使用可能な特定物性を有する市販品としては、オルガP−30(日本ペイント社製メラミン硬化型中塗り塗料)等の溶剤型中塗り塗料を挙げることができる。
中塗り塗料を塗装した後、焼き付けて中塗り塗膜を形成する方法もしくは 中塗りの焼き付けなしで、ベース塗料とクリヤー塗料を順次塗装して同時に焼き付けて、中塗り塗膜を形成する方法があるが、得られた中塗り硬化塗膜が、前記特定物性を満足すれば前記いずれの方法も使用することができる。
【0021】
上記中塗り塗膜上にベース塗膜を形成する。使用するベース塗料については特に限定されずウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂等を塗膜形成性樹脂とした各種の塗料を使用することができる。ベース塗膜は必要に応じてカラーベースと光輝材含有ベース(マイカベース)の2層とすることもできる。上記塗膜形成性樹脂の形態としては特に限定されず、例えば、エマルション型、分散型、または、溶解型等を挙げることができるが、なかでも、水性ベース塗料の場合は塗装作業性、耐候性、耐水性等の塗膜性能面からアクリルエマルションおよび/または水溶性アクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0022】
また、ベース塗料にはメラミン樹脂、エポキシ樹脂等の硬化剤を含有することが好ましく、なかでも、得られる塗膜の諸性能、コストの点からメラミン樹脂が好ましい。また、低温での硬化性向上の観点から、ブロックイソシアネート樹脂、カルボジイミド化合物、または、オキサゾリン化合物を併用して添加することも好ましい。
なお、ベース塗料には、クリヤー塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために既述の粘性制御剤、その他の添加剤を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲であれば特に限定されない。
【0023】
上記中塗り塗料やベース塗料として水性塗料を使用する場合、希釈媒体として水を用い、その粘度は後述の静電塗装機の霧化方式、または、温度、湿度等の塗装環境等の要因を踏まえた経験的に求められた塗装粘度に調整される。一般に、温度が15〜35℃、湿度が50〜90%の範囲での塗装粘度は、15〜70秒(/20℃・No.4フォードカップ)であることが好ましい。塗装粘度が上記範囲外であるとタレ、ワキ等の外観上の不具合が発生し易い。さらに好ましくは20〜60秒(/20℃・No.4フォードカップ)である。
【0024】
さらに中塗り塗膜とベース塗膜とが積層された上に、既述のクリヤー塗料を使用してクリヤー塗膜を形成して焼き付け硬化させる。かくして本発明の複層塗膜が完成する。
【0025】
本発明の複層塗膜の形成方法で使用する被塗物の素材は、導電性であれば特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属および鋳造物等が挙げられる。また、用途としては、自動車金属部材としてドアー、ボンネット、ルーフ、フード、フェンダー、トランク等が挙げられる。また、乗用車のみならず、オートバイ、バス、自転車等の上述した部材からなるものも挙げることができる。
【0026】
上記中塗り塗料、ベース塗料およびクリヤー塗料の塗装には静電塗装機を用いることが好ましい。例としては、作業性および外観を高めるために「リアクトガン」と呼ばれるエアー静電スプレー塗装機や、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」あるいは「メタベル」と呼ばれる回転霧化式の静電塗装機を挙げることができる。これらによる多ステージ塗装、好ましくは2〜3ステージ塗装が挙げられ、エアー静電スプレー塗装と、回転霧化式の静電塗装機等とを組み合わせた塗装方法等により複層塗膜を形成することもできる。
上記塗装した塗膜を硬化させる硬化温度は、被塗物温度が90〜160℃に到達することが好ましい。この温度が上限を超えると、塗膜が固く脆くなり下限未満では硬化が充分でない。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜150℃で、15〜40分が好ましい。
【0027】
本発明の複層塗膜においては、上記中塗り塗膜の乾燥膜厚は15〜40μm、上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚が20〜50μmとし、また、ベース塗膜の乾燥膜厚は、通常、10〜20μm程度に設計する。
【実施例】
【0028】
以下本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」は特に断りのない限り「質量%」、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
製造例1 水性ポリエステル樹脂の製造
窒素導入管、撹拌機、温度調節器、冷却管及びデカンターを備えた反応容器に無水フタル酸176部、イソフタル酸197部、アジピン酸87部、トリメチロールプロパン102部、ネオペンチルグリコール272部、ジブチルチンオキサイド0.8部及びキシレン17部を仕込み、キシレンの還流が始まってから約2時間かけて温度を200℃まで昇温した。その間、反応により生成する水をキシレンと共沸させて除去した。カルボン酸の酸価が8になったところで150℃まで冷却し、無水トリメリット酸49部を加えた後、更に温度が60℃になるまで冷却し、ジメチルエタノールアミン46部を加え混合したものにイオン交換水1137部を加え、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー測定による数平均分子量2000、固形分40%、固形分酸価40、水酸基価100の水性ポリエステル樹脂を得た。
【0029】
製造例2 中塗り塗料用顔料ペーストの調製
製造例1で得られた水性ポリエステル樹脂を50部、CR−97(石原産業社製二酸化チタン)24.5部、B−34(堺化学社製沈降性硫酸バリウム)12部、MA−100(三菱化学社製カーボンブラック)0.5部、LMR−100(富士タルク社製タルク)3部及びイオン交換水10部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加えて室温で1時間混合分散し、粒度5μm以下の中塗り塗料用顔料ペーストを得た。
【0030】
製造例3 水性中塗り塗料の調製
製造例1で得られた水性ポリエステル樹脂を66部、製造例2で得られた中塗り塗料用顔料ペーストを100部、サイメル327(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂)18部及びサーフィノール104E(エアプロダクツジャパン社製表面調整剤)0.5部を、混合して10分間ディスパーにて撹拌混合し、水性中塗り塗料を得た。
【0031】
製造例4 水性中塗り塗料の調製
製造例1で得られた水性ポリエステル樹脂を63部、製造例2で得られた中塗り塗料用顔料ペーストを100部、スミジュールBL3175(住化バイエルウレタン社製ブロックイソシアネート)33部及びサーフィノール104E(エアプロダクツジャパン社製表面調整剤)0.5部を、混合して10分間ディスパーにて攪拌混合し、水性中塗り塗料を得た。
【0032】
製造例5 水酸基含有樹脂の製造
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、滴下ロートおよび冷却管を備えた1Lの反応容器にキシレン80部及び酢酸ブチル20部を仕込んで、温度を120℃とした。スチレン5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート34.8部、エチルアクリレート44.4部、エチルメタクリレート14.3部、メタクリル酸1.5部およびt−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエート2部を混合することによりモノマー溶液を別途調製した。このモノマー溶液を反応容器に撹拌下、3時間かけて添加した後、1時間撹拌を継続した。数平均分子量21000、水酸基価150および酸価10mgKOH/gのアクリル樹脂を得た。
【0033】
製造例6 クリヤー塗料の調製
1Lの金属製容器に製造例5にて得られた水酸基含有樹脂を245.3部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」5.6部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」5.6部、アクリル系表面調整剤5.6部、トルエン37.0部及びキシレン37.0部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌しクリヤー塗料A液を得た。
別の金属製容器に、住友バイエルウレタン社製「ディスモジュールN−3300」(NCO有効成分22%)100.0部及び酢酸n−アミル35部を順次添加し、十分撹拌し、クリヤー塗料B液を得た。
このようにして得られたクリヤー塗料A液80部とクリヤー塗料B液20部を混合することで、クリヤー塗料を得た。
【0034】
比較製造例1
製造例1で得られた水性ポリエステル樹脂を84部、製造例2で得られた中塗塗料用顔料ペーストを100部、サイメル303(日本サイテック社製メラミン樹脂)10部及びサーフィノール104E(エアプロダクツジャパン社製表面調整剤)0.5部を、混合して10分間ディスパーにて攪拌混合し、水性中塗り塗料を得た。
【0035】
比較製造例2
製造例5で得られた水酸基含有樹脂を220部、ユーバン128(日本サイテック社製メラミン樹脂)74部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」5.6部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」5.6部、アクリル系表面調整剤5.6部、トルエン65.0部およびキシレン65.0部を順次添加し、ディスパーにて充分攪拌し、クリヤー塗料を得た。
【0036】
実施例1
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(パワートップU−50、日本ペイント社製)を、乾操膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、30秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、予め水希釈された製造例3で得られた水性中塗り塗料を、乾燥膜厚25μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、150℃で30分間加熱した。
冷却後、中塗り塗膜上に水性ベース塗料としてAR-2000シルバー(日本ペイント社製水性ベース塗料)を、室温25℃、湿度75%の条件下で、乾燥膜厚13μmとなるように水系塗料塗装用塗装機(μμベルCOPES−IV型、ABBインダストリー社製)で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分間のインターバルセッティング行った。2回目の塗布後、2分間のインターバルをとってセッティングを行った。その後、80℃で3分間のプレヒートを行った。
プレヒート後、塗板を室温まで放冷し、クリヤーコート塗料として製造例6にて得られたクリヤー塗料を、乾燥膜厚40μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした後、140℃で30分間加熱し複層塗膜を作成した。
本実施例で使用した中塗り塗料、クリヤー塗料の単独硬化塗膜のヤング率及び破断伸び率、得られた複層塗膜形成塗板の耐チッピング性を下記方法により評価し、その結果を表1に示した。
【0037】
実施例2および比較例1〜3
中塗り塗料およびクリヤー塗料に表1に示した配合を用いた以外は実施例1と同様にして複層塗膜を作成した。それらの塗膜性能について実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0038】
評価試験
<ヤング率及び破断伸び率>
実施例1〜3及び比較例1〜2の各水性中塗り塗料、及び、クリヤー塗料をそれぞれ、100×300×2mmのポリプロピレン板に乾燥膜厚各々25μmと40μmとなるようにスプレー塗装した後、加熱して中塗り単独硬化塗膜及びクリヤー単独硬化塗膜を得た。上記加熱条件は自動車塗装ラインを想定して、中塗り塗料は塗装後、80℃で5分間のプレヒートを行った後、150℃で25分、クリヤー塗料は140℃で25分間とした。
得られたフリーフィルムの測定試料を幅10mm×70mm×40μmとし、オートグラフAGS−G型及びアナログメーター(いずれも島津製作所社製引張強度試験器)によって、−20℃において測定長さ50mm、引張速度10mm/分の測定条件下で試験を行った。なお、得られたチャートの傾きから各塗膜のヤング率を得た。
<耐チッピング性>
得られた塗板の耐チッピング性の評価を、グラベロ試験機(スガ試験機社製)を用いて、7号砕石100gを30cmの距離から3.0kg/cm2の空気圧で、−20℃に冷却した塗膜に90度の角度で衝突させ、ハガレの程度を目視により観察し、下記の判断基準により評価した。なお、4以上を合格とする。
5 全く剥離なし
4 剥離面積が小さく、頻度も少ない
3 剥離面積は小さいが、頻度がやや多い
2 剥離面積は大きいが、頻度は少ない
1 剥離面積が大きく、頻度も多い
【0039】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板上に、電着塗膜、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順で形成された複層塗膜であって、−20℃において、前記中塗り塗膜のヤング率が35000kg/cm2以上、かつ破断伸び率が2%以下であり、前記クリヤー塗膜のヤング率が35000kg/cm2以下、かつ破断伸び率が5%以上であることを特徴とする自動車等車体外板上の複層塗膜。
【請求項2】
前記中塗り塗膜の乾燥膜厚が15〜40μmであり、前記クリヤー塗膜の乾燥膜厚が20〜50μmである請求項1記載の複層塗膜。
【請求項3】
前記中塗り塗膜は、タルク顔料を1〜10重量部含む請求項1記載の複層塗膜。
【請求項4】
前記クリヤー塗膜は、ポリイソシアネート化合物またはブロックイソシアネート化合物を硬化剤とする請求項1記載の複層塗膜。



【公開番号】特開2006−239535(P2006−239535A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57271(P2005−57271)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】