説明

自己倍力型のディスクブレーキ

本発明は、例えば自己倍力装置として楔機構(15)を備えた、特に自己倍力型のディスクブレーキ(1)に関する。本発明によれば、操作装置(6)が、楔機構(15)の楔機構(15)の力又はモーメントによって負荷されない固有のホルダ(18)に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した特徴を有する、自己倍力型のディスクブレーキに関する。ディスクブレーキは、特に車両の車輪ブレーキとして設けられている。
【0002】
このような形式のディスクブレーキは、ドイツ連邦共和国特許公開第10302516号明細書により公知である。この公知のディスクブレーキはブレーキキャリパを有しており、該ブレーキキャリパ内の、ブレーキディスク側に摩擦ブレーキパッドが配置されていて、該摩擦ブレーキパッドは、操作装置によってブレーキ操作を行うためにブレーキディスクに向かって押し付け可能である。
【0003】
公知のディスクブレーキは、自己倍力装置として、ブレーキディスクに対して楔角度を成して斜めに延在するキー面を備えた楔機構を有しており、この楔機構に摩擦ブレーキパッドが支えられていて、この楔機構に沿って摩擦ブレーキパッドは移動可能である。回転するブレーキディスクが、ブレーキ操作時にブレーキディスクに押し付けられる摩擦ブレーキパッドに摩擦力を加えると、楔角度を成して楔機構のキー面に当接する、摩擦ブレーキパッドの支持部が、前記キー面に対して垂直方向の支持力を摩擦ブレーキパッドに作用させる。この支持力の分力が、摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクに対して垂直に負荷する。この機構の支持力の分力は、摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクに倒し付ける押し付け力である。楔機構によって生ぜしめられた押し付け力は、操作装置によって生ぜしめられた操作力に加えて追加的に摩擦ブレーキパッドを負荷し、この操作力と押し付け力とによって、摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける締付力が形成される。このような形式で、楔機構は、ディスクブレーキの操作時に回転するブレーキディスクによってこのブレーキディスクに押し付けられる摩擦ブレーキパッドに作用する摩擦力を、摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける押し付け力に変える。操作力に加えて摩擦ブレーキパッドに作用する押し付け力によって、ディスクブレーキのブレーキ力は高められ、楔機構はディスクブレーキの自己倍力を生ぜしめる。
【0004】
公知のディスクブレーキは、操作装置として、電動モータと、場合によっては減速歯車装置とスピンドル駆動装置(はす歯歯車)とを備えた電気機械式の操作装置、又は選択的に液圧ピストンを備えた液圧式の操作装置が設けられている。操作装置は、ブレーキキャリパの、摩擦ブレーキパッド及び自己倍力装置を形成する楔機構と同じ側に固定されている。
【0005】
公知のディスクブレーキの楔機構は、ブレーキキャリパを広げるように負荷する。ブレーキキャリパは実際には完全に剛性なものではないので、楔機構は、ブレーキキャリパを弾性的に拡開させるように作用し、ひいては操作装置の操作行程が延長されることになる。ブレーキ操作のために必要な操作エネルギーは相応に増大する。
【0006】
発明の開示
請求項1の特徴部を有する本発明によるディスクブレーキは、操作装置のための固有のホルダを有しており、このホルダは、自己倍力装置による力又はモーメントで負荷されることがない。従って、ブレーキキャリパが弾性的に拡開されても、自己倍力装置によってもたらされる力又はモーメントに基づいて、操作装置が、摩擦パッドをブレーキディスクに押し付けるために、かつ操作力を形成するために実行する操作経路が増大されることはない。同様に、ブレーキ操作のために操作装置が供給する必要のある操作エネルギーは、ブレーキキャリパを弾性的に拡開することによって、僅かに増大されるだけである。本発明の別の利点は、操作装置のホルダが、操作装置によってもたらされる操作力に耐えればよいだけであって、ディスクブレーキの完全な緊締力に耐える必要はないので、剛性がブレーキキャリパと同じであることを前提とすれば、操作装置のホルダの変形はわずかである、という点にある。また、操作経路が短く、わずかな操作エネルギーで済む、という利点もある。ブレーキキャリパ自体は軟質であってよく、従って軽量に構成することができる。ブレーキキャリパが軟質であることによって、騒音及び振動が僅かである。ホルダの剛性は、ブレーキキャリパの剛性とは関係なしに選択することができるので、本発明によれば、騒音発生及び振動特性に、操作装置が自己倍力装置と同じ側に取り付けられているブレーキキャリパでは得られないような所望の影響を及ぼすための付加的な可能性が得られる。
【0007】
従属請求項には、請求項1に記載したディスクブレーキの有利な実施態様及び変化例が記載されている。
【0008】
本発明によるディスクブレーキの操作装置のホルダは、例えばブレーキホルダの一体的な構成部分である、ブレーキキャリパとは別個の部分であるか、又は軸ジャーナル等にねじ固定されている。請求項2によれば、ホルダが、前記ブレーキキャリパにねじ結合によって結合されているか、又はブレーキキャリパと一体的に構成されている。従来技術のものとは異なり、ホルダは、ブレーキディスクの、操作装置によって負荷されるブレーキパッドが配置されている側とは反対側でブレーキキャリパに結合されている。従来技術によれば、自己倍力装置も、ブレーキディスクの、操作装置によって負荷されるブレーキパッドが配置されている側に配置されている。
【0009】
楔機構の代わりに、本発明によるディスクブレーキは、別の機械式の自己倍力装置として、例えばブレーキディスクに対して斜めに配置された、摩擦ブレーキパッドを支持する単数又は複数の支持レバーを備えたレバー機構を有していてもよい。非機械式、例えば液圧式の自己倍力装置も可能である。液圧式の自己倍力装置は、公知であるので、ここでは詳しく説明されていない。楔機構の代わりに、本発明によるディスクブレーキは傾斜面機構を有していてもよい。楔面がその全長に亘ってブレーキディスクに対して同じ楔角度を有する楔機構とは異なり、傾斜面機構の傾斜面はその傾斜勾配を変えることができる。これによって、自己倍力装置の高さを変えることができる。強いブレーキ力において、大きい自己倍力が得られる。
【0010】
本発明は、電気機械式の操作装置だけに限定されるものではなく、その他の操作装置例えば空気圧式又は液圧式の操作装置を有していてもよい。電気機械式の操作装置は、伝動装置を備えた電動モータに限定されるものではなく、ブレーキ操作のために、リニアモータ、電磁石又は圧電素子も可能である。
【0011】
以下に本発明を図面に示した実施例を用いて具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による自己倍力型のディスクブレーキを、ブレーキディスクの半径方向外側から見た図である。
【図2】図1とは逆の方向から見た、ディスクブレーキを示す図である。
【図3】ブレーキディスクに対する半径方向平面における図1のIII−III線に沿った、ディスクブレーキの断面図である。
【0013】
図面に示した本発明によるディスクブレーキ1はブレーキキャリパ2を有しており、該ブレーキキャリパ2内の両側に2つの摩擦ブレーキパッド4,5が配置されている。これら2つの摩擦ブレーキパッド4,5のうちの一方は、ブレーキキャリパ2内に不動に配置されていて、以下では定置の摩擦パッド4と称呼されている。別の摩擦パッド5は、以下に説明されているが、ブレーキキャリパ2内に可動に配置されており、以下では可動の摩擦ブレーキパッド5と称呼されている。
【0014】
ディスクブレーキ1は、電気機械式の操作装置6を有しており、該操作装置6は、ブレーキディスク3の、可動の摩擦ブレーキパッド5と同じ側に配置されている。操作装置6は、必ずしも電気機械式でなくてもよい。操作装置6は、例えば液圧式、空気圧式又は機械式であってよい。機械式とは操作が例えばケーブル及び/又はレバーを介して行われることである。操作装置6は電動モータ7及びスピンドル駆動装置を有しており、該スピンドル駆動装置は、可動の摩擦ブレーキライニング5をブレーキディスク3に押し付けるために、電動モータ7の回転運動を並進運動(平行移動運動)に変えるようになっている。電動モータとスピンドル駆動装置その間に、減速ギヤ装置例えば遊星歯車伝動装置が介在されている。遊星歯車伝動装置は図示されていない。スピンドル駆動装置のスピンドル8の一端部に、摩擦を減少させるためのローラ9が回転可能に支承されており、このローラ9によって、スピンドル駆動装置が前記可動の摩擦ブレーキパッド5を負荷する。
【0015】
ブレーキ操作のために、電動モータ7に給電することによって、可動の摩擦パッド5がブレーキディスク3に押し付けられる。ブレーキキャリパ2はフローティングキャリパとして構成されている。つまりブレーキキャリパ2はブレーキディスク3に対して直交する横方向にスライド可能にガイドされている。可動の摩擦ブレーキパッド5を、ブレーキディスク3の一方側に押し付けることによって、ブレーキキャリパ2は、ブレーキディスク3に対して直交する横方向にスライドせしめられ、定置の摩擦ブレーキパッド4をブレーキディスク3の他の側に押し付ける。ディスクブレーキ1は締め付けられ、ブレーキディスク3を制動する。ブレーキキャリパ2をブレーキディスク3に対して直交する横方向にスライド可能にガイドするガイド10は、図1及び図2に概略的に示されている。
【0016】
ブレーキディスク3とは反対側の裏側に、可動の摩擦ブレーキパッド5は、ブレーキディスク3に対して楔角度αを成して斜めに延在するキー面12を備えた楔体11を有している。これらのキー面12によって、楔体11はブレーキキャリパ2の対応するキー面13に支えられる。ブレーキキャリパ2のキー面13は同様に、ブレーキディスク3に対して楔角度αを成して斜めに延在しており、楔体11及び、この楔体11と共に可動の摩擦ブレーキパッド5は、ブレーキキャリパ2内でキー面13に沿ってシフト可能である。摩擦を選らすために、ローラ14は転動体として構成されていて、楔体11のキー面12とブレーキキャリパ2のキー面13との間に配置されている。
【0017】
ブレーキ操作のために、回転するブレーキディスク3において、可動の摩擦ブレーキパッド5が操作装置6によってブレーキディスク3に押し付けられると、ブレーキディスク3は、可動の摩擦ブレーキパッド5に摩擦力を加える。この摩擦力は楔体11に作用し、この楔体11は、可動の摩擦ブレーキパッド5の裏側に取り付けられている。回転するブレーキディスク3によって、このブレーキディスク3に押し付けられた可動の摩擦ブレーキパッド5に加えられた摩擦力が、楔体11を、ブレーキキャリパ2のキー面13とブレーキディスク3との間の、次第に狭くなる楔状ギャップ内に押し込む。楔原理に従って、ブレーキキャリパ2のキー面13(このキー面13に可動の摩擦ブレーキパッド5がその楔体11を介して支えられている)が、キー面13に対して直交する横方向に向けられた支持力を作用させる。
【0018】
ブレーキ操作のために、電動モータ7に給電することによって可動の摩擦ブレーキパッド5がブレーキディスク3に向かって押し付けられる。ブレーキキャリパ2はフローティングキャリパとして構成されている。つまりブレーキキャリパ2はブレーキディスク3に対して直交する横方向にシフト可能にガイドされている。可動の摩擦ブレーキパッド5を、ブレーキディスク3の一方の側に押し付けることによって、ブレーキキャリパ2はブレーキディスク3に対して直交する横方向にシフトせしめられ、定置の摩擦ブレーキパッド4を、ブレーキディスク3の他方の側に押し付ける。ディスクブレーキ1は締め付けられ、ブレーキディスク3を制動する。ブレーキキャリパ2をブレーキディスク3に対して直交する横方向にガイドするガイド10は、図1及び図2に概略的に示されている。
【0019】
ブレーキディスク3とは反対側の裏側で、可動の摩擦ブレーキパッド5は、ブレーキディスク3に対して楔角度αを成して斜めに延びるキー面12を備えた楔体11を有している。キー面12によって、楔体11は、ブレーキパッド2の対応するキー面13に支えられている。ブレーキパッド2のキー面13は、同様にブレーキディスク3に対して楔角度αを成して斜めに延びていて、楔体11及びこの楔体11と共に可動の摩擦ブレーキパッド5が、ブレーキキャリパ2内のキー面13に沿ってシフト可能である。摩擦を低減するために、転動体として構成されたローラ14が、楔体11のキー面12,13とブレーキキャリパ2との間に配置されている。
【0020】
ブレーキ操作のためにブレーキディスク3が回転させられて、操作装置6を有する可動の摩擦ブレーキパッド5がブレーキディスク3に押し付けられると、ブレーキディスク3は、可動の摩擦ブレーキパッド5に摩擦力を作用させる。摩擦力は、可動の摩擦ブレーキパッド5の裏側に設けられた楔体11に作用する。回転するブレーキディスク3によって、このブレーキディスク3に押し付けられた可動の摩擦ブレーキパッド5に作用する摩擦力が、楔体11を、ブレーキキャリパ2のキー面13とブレーキディスク3との間の、次第に狭くなる楔状ギャップ内に押し込む。楔原理に従って、可動の摩擦ブレーキパッド5がその楔体11を介して支えられている、ブレーキキャリパ2のキー面13が、キー面13に対して垂直に向けられた支持力を作用させる。この支持力は、ブレーキディスク3に対して垂直な分力(押し付け力)を有している。この押し付け力は、操作装置6によってもたらされた操作力に加えて、ブレーキパッド5をブレーキディスク3に対して押し付ける。キー面12を有する楔体11と、ブレーキキャリパ2の対応するキー面13とは、楔機構15を形成しており、この楔機構15は前記形式で、操作装置6によって加えられた操作力及びひいてはディスクブレーキ1のブレーキ力を増力する。この楔機構15によって、ディスクブレーキ1の機械的な自己倍力装置が形成されている。ブレーキディスク3の回転方向を逆転させるために、楔機構15は、逆向きの傾斜を有するキー面16,17を有している。楔角度αは、ブレーキディスク3の両回転方向で同じでるか又は異なっていてよい。
【0021】
操作装置6はホルダ18に固定されており、該ホルダ18は定置の摩擦ブレーキパッド4側でブレーキキャリパ2と一体的に構成されている。つまりホルダ18は、ブレーキディスク3の、可動の摩擦ブレーキパッド5及び楔機構15とは反対側でブレーキキャリパ2に結合されている。ホルダ18は、ブレーキディスク3の外周面を越えて、ブレーキディスク3の、楔機構15及び可動の摩擦ブレーキパッド5が配置されている側に突き出している。ブレーキディスク3のこの側に、ホルダ18に取り付けられた操作装置6も配置されている。ホルダ18として、例えば2つの抗張ロッドを備えたフレーム構造も考えられる。2つの抗張ロッドは、ブレーキディスク3の周方向で可動の摩擦ブレーキパッド5の隣に配置され、摩擦ブレーキパッド5の高さ位置でブレーキディスク3と重なり合っている(図示せず)。これによって、ホルダの曲げ応力が減少される。ホルダ18は、楔機構15の力又はモーメントによって負荷されない。特に、ブレーキ操作時にブレーキキャリパ2の広がりが、ホルダ18及び、所定の制動力を得るために操作装置6が行う操作経路に影響を及ぼすことはない。負荷を受けてわずかに変形する堅いホルダ18によって、操作装置6の操作経路は、比較的柔軟なブレーキキャリパ2においても短く維持される。ホルダ18は、操作装置6の操作力だけによって負荷され、楔機構15が作用する圧着力によっては負荷されないので、ホルダ18の弾性的な変形はわずかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己倍力型のディスクブレーキであって、内部に摩擦ブレーキパッド(5)が配置されているブレーキキャリパ(2)と、前記摩擦ブレーキパッド(5)をブレーキディスク(3)に向かって押し付ける操作装置(6)と、自己倍力装置(15)とを有しており、該自己倍力装置(15)によって、ディスクブレーキ(1)の操作時に、回転するブレーキディスク(3)からこのブレーキディスク(3)に向かって押し付けられる摩擦ブレーキパッド(5)に加えられる摩擦力が、前記摩擦ブレーキパッド(5)を前記ブレーキディスク(3)に押し付ける押し付け力に変えられるようになっている形式のものにおいて、
ディスクブレーキ(1)が、前記自己倍力装置(15)によって力又はモーメントで負荷されない、前記操作装置(6)のための固有のホルダ(18)を有していることを特徴とする、自己倍力型のディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ホルダ(18)が、前記ブレーキディスク(3)の、前記ブレーキパッド(5)とは反対側の箇所で、前記ブレーキキャリパ(2)に結合されている、請求項1記載の自己倍力型のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ホルダ(18)が、前記ブレーキキャリパ(15)よりも高い弾性モジュールを有している、請求項1記載の自己倍力型のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記ディスクブレーキ(1)が機械式の自己倍力装置(15)を有している、請求項1記載の自己倍力型のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記自己倍力装置(15)が、ブレーキディスク(3)に対して所定の角度を成して延在する傾斜面を備えた傾斜面機構を有しており、摩擦ブレーキパッド(5)が、前記傾斜面に支えられ、かつ該傾斜面に沿って可動である、請求項4記載の自己倍力型のディスクブレーキ。
【請求項6】
ディスクブレーキ(1)が電気機械式の操作装置(6)を有している、請求項1記載の自己倍力型のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−501084(P2011−501084A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531494(P2010−531494)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064388
【国際公開番号】WO2009/056485
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】