自己免疫疾患および炎症性疾患の処置ための化合物および方法
本発明は、自己反応性T細胞によって媒介される多発性硬化症などの自己免疫疾患の処置および予防のための方法および組成物を提供する。NOD−1作動薬の投与は抗炎症性の免疫応答を媒介するということが示される。本発明の方法および組成物における使用に適したNOD−1作動薬としては、Tri−DAPおよびM−TriDAPなどのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物が挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルパーT17型(Th17)および/またはヘルパーT1型(Th1)Tリンパ球(T細胞)によって媒介される病状の処置および予防のための組成物および方法に関する。特に、本発明は、自己反応性のTh17およびTh1 Tリンパ球によって媒介される病状の処置のための、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物の使用に関する。本発明の化合物および方法は、さらに、IL−27、IL−10およびIL−35の発現を増強しつつ、サイトカイン インターロイキン17(IL−17)、インターフェロンガンマ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の産生を抑制することにより免疫応答を調節するための方法において、有用性を有する。
【背景技術】
【0002】
特定の疾患に対する防御免疫は、自然免疫系の抗原提示細胞(APC)(樹状細胞(DC)およびマクロファージなど)による、特異的な炎症促進性T細胞(Tリンパ球)集団の特異誘導に依存する。広い範囲の病原体に対する細胞性免疫を媒介することに関与する2つのこのようなT細胞集団は、Th1およびTh17細胞である。Th1、およびより最近のTh17の両方のT細胞集団は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患のメディエーターとして関与しているとされており、従って免疫抑制薬のための関連する細胞標的として働く。さらには、それゆえT細胞反応のイニシエーターとしてのDCは、炎症性疾患と闘うために設計される治療のための第2の細胞標的である。
【0003】
多発性硬化症は、中枢神経系(CNS)内のT細胞、B細胞、マクロファージの炎症性浸潤および限局性脱髄斑を特徴とする、CNSの炎症性自己免疫疾患である。Th1細胞媒介性反応およびTh17細胞媒介性反応はともに、炎症性脱髄の発生で一定の役割を果たすことが示されている。MS患者由来のミエリン反応性T細胞は、Th1媒介性の反応と整合してサイトカインを産生し、一方で、患者由来のMS病変のマイクロアレイ研究は、ILの発現の増加を実証する。
【0004】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症(MS)と臨床的および神経病理学的な変化を共有する炎症性脱髄性疾患の動物モデルである。従って、EAEは、自己免疫性炎症反応、特にMSの機序を細かく調べるための関連する有用なモデルである。EAEがだいたいはCD4+ Th1媒介性の疾患であるということは長年受け容れられてきたが、EAEの誘導におけるCD8+ T細胞についての病因的役割も実証されてきた。しかしながら、より最近になって、IL−17を産生するT細胞サブセットがEAEの病変形成において非常に重要な役割を果たすということが実証された。文献においていまだいくらかの議論はあるものの、Th1細胞およびTh17細胞は協働して器官特異的な自己免疫の発生を誘導する可能性が高い。
【0005】
未熟な樹状細胞は末梢組織の中で抗原(Ag)を取り込み(sample)、抗原捕捉後に、成熟し、そして局所リンパ節(LN)へと移動し、そこで樹状細胞はナイーブなCD4+ T細胞に対して抗原を提示する。次いでナイーブなT細胞は分化し、特異的なCD4+ エフェクターT細胞集団へと増殖する。ナイーブなCD4+ T細胞の運命は、サイトカイン産生から生じるサイトカイン環境によって、およびAg−MHC複合体によるT細胞受容体(TCR)結合の部位に存在する成熟した樹状細胞からのアウトプットによって、一部は決定される。従って、DCは、病原体に反応して誘導されるT細胞反応の種類に対する制御を呈することができる。
【0006】
樹状細胞などの自然免疫系の細胞は、微生物分子構造を認識して、このような構造の認識後に、炎症促進性のシグナル伝達経路を活性化する病原体認識受容体(PRR)を発現し、次にこの炎症促進性のシグナル伝達経路が様々な免疫応答遺伝子の発現を制御する。PRRは、Toll様受容体(TLR)などのように膜結合型であってもよいし、またはヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)タンパク質などのように細胞膜に存在してもよい。
【0007】
NODタンパク質NOD1およびNOD2は、ペプチドグリカン由来の微生物成分の細胞内センサーとして、自然免疫において重要な役割を有する。NOD1はペプチドγ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸(iE−DAP)を認識し、主にグラム陰性菌についてのセンサーとして働き、一方で、NOD−2はほとんどの細菌の中で見出されるムラミルジペプチド(MDP)を検出する。iE−DAPは、NOD1によって認識される最小モチーフである。L−Ala−γ−D−Glu−mDAP(Tri−DAP)はこのiE−DAPジペプチドおよびL−Ala残基を含む。iE−DAPと同様に、Tri−DAPはNOD1によって特異的に認識される。
【0008】
PRRとしての役割と整合して、NODリガンド結合は、転写因子、核性因子κB(NF−κB)および分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ファミリーのメンバーの活性化を通して炎症促進性反応の開始を生じる。Tri−DAPが呈するNF−κBを活性化する能力は、iE−DAPが呈する能力よりも3倍高いということがこれまでに示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明につながる研究の中で、本発明者らは、NOD1作動薬Tri−DAPは免疫抑制活性を有し、そしてTh1およびTh17(IL−17産生T細胞)T細胞媒介性の炎症性自己免疫疾患を選択的に抑制するように働くという驚くべき発見をした。これまでにTriDAPのインビトロ投与によって炎症性サイトカインの産生が増強されるということが示されていたため、この観察は、まったく予想外のものである。本発明者らは、本発明で、驚くべきことに、TriDAPのインビボ投与が抗炎症性効果を媒介するということを特定した。特に、サイトカインIL−27の発現が観察される。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、IL−27は樹状細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞によって発現されると推測する。抗原提示細胞によるIL−27の発現は、得られるT細胞反応を、ある場合には、自己免疫性炎症状態および慢性炎症状態を媒介する自己反応性T細胞となることができるTh1およびTh17表現型を有するT細胞の増加から逸らせる。
【0010】
さらには、本発明者らは、Tri−DAPは、生産の容易さのため、治療薬として興味深いということを特定した。さらに、その低分子量のため、本発明者らは、TriDAPは、ヒトに投与されたとき著しく免疫原性となる可能性は低いということを特定した。多発性硬化症などの自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置のための現在の治療法は、ステロイドおよび他のNSAIDの使用に主に焦点が当てられているが、このステロイドおよび他のNSAIDは、非特異的であり重篤な副作用を有する。特に、あるそのような処置は、主としてTNF−アルファの発現または機能活性を抑制するように作用する。例えば、モノクローナル抗体インフリキシマブ(レミケード)はTNF−アルファの機能を標的にする。ある患者においては有効であるが、このような抗TNF−アルファ処置は、ある患者、またはある自己免疫状態を処置する場合には有効でない可能性があり、またはさらに、望ましくない副作用の発生を生じる可能性もあると考えられる。それゆえ本発明者らは、Th1および/またはTh17媒介性の疾患および状態、特に、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞の出現に起因して異常なTh1および/またはTh17反応が起こる場合に起こる自己免疫状態または免疫媒介性の状態の処置における本発明の有用性を特定した。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって引き起こされる自己免疫疾患を処置または予防する方法であって、
− ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を含む組成物の治療上有効量を準備する工程と、
− このような処置を必要とする対象に、ヘルパーT17型リンパ球(Th17 T細胞)および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1 T細胞)の活性化を抑制するのに十分な量で当該組成物を投与する工程と、
を含む方法が提供される。
【0012】
ある実施形態では、この組成物は、ヘルパーT17型リンパ球(Th17)媒介性免疫応答およびヘルパーT1型リンパ球(Th1)媒介性免疫応答の両方を抑制する。
【0013】
ある実施形態では、この自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫疾患は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患である。「自己反応性T細胞」は、特に自己抗原に特異的である細胞系譜Th1(CD4+ Th1 ヘルパーT細胞)、またはTh17(CD4+ ヘルパーT細胞)のT細胞(Tリンパ球)を意味し、「自己抗原」は宿主によって発現される抗原であり、その宿主のT細胞集団は、通常の恒常性の状態の下では、通常はその抗原に対して耐容性がある(すなわち、免疫応答を導かない)はずである。
【0014】
ある実施形態では、この自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎を含む)、1型糖尿病および乾癬からなる群から選択されうるが、これらに限定されない。
【0015】
ある実施形態では、当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物はTri−DAPである。Tri−DAPは、TriDAP、TriDAP、L−Ala−γ−D−Glu−mDAPまたはL−Ala−D−Glu−mesoDAP)とも表されてもよい。またTriDAPは、L−アラニル−γ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸と呼ばれてもよい。TriDAPは、iE−DAPジペプチド(γ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸)およびL−Ala(アラニン)残基を含むトリペプチドである。Tri−DAPは化学式C16H26N4O8を有する。Tri−DAPはおよそ390.39kDaの分子量を有する。本願明細書で定義される「mesoDAP」はメソ−ジアミノピメレートに関する。用語「ジアミノピメリル」は、ペプチド鎖へのmesoDAPの組み込みを指す。
【0016】
Tri−DAPは、下記の式1aに示される分子構造を有する。
【化1】
【0017】
Tri−DAPは、下記の式1bに示される化学構造を有する。
【化2】
【0018】
あるさらなる実施形態では、当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物は、M−TriDAP(MurNAc−L−Ala−γ−D−Glu−mDAP)であることができ、この化合物はDAP含有ムラミルトリペプチド(ムラトリペプチド(muratripeptide))とも呼ばれ、これは、グラム陰性菌の中で見出すことができる、ペプチドグリカン(PGN)分解生成物である。
【0019】
M−TriDAPは下記の式IIに示される分子構造を有する。
【化3】
【0020】
当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物がムロペプチドを含むあるさらなる実施形態では、このムロペプチドは、ムロテトラペプチド(murotetrapeptide)、例えばGM−TRIDAP(GlcNAc−MurNAcトリペプチドムロペプチド)であってもよい。
【0021】
あるさらなる実施形態では、このムロテトラペプチドは、式IIIのM−TetraDAPであってもよい。
【化4】
【0022】
ある実施形態では、本発明のジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物に基づいて合成類似体が与えられてもよい。さらには、ある実施形態では、本願明細書中で以降に記載されるように、本発明で使用するためのこの化合物のペプチド模倣薬が、適切な場合には、調製されてもよい。
【0023】
ある実施形態では、本発明のこの態様の方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を当該対象に投与する工程をさらに含むことができる。このToll様受容体(TLR)作動薬は、本発明のこの態様の組成物の投与の前に、投与とともに(同時に)、または投与後に(連続的に)投与されてもよい。
【0024】
ある実施形態では、このTLR作動薬は、薬学的に許容できるTLR作動薬である。このTLR作動薬は、いずれかの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9のうちの少なくとも1つについてのリガンドである。ある実施形態では、このTLR作動薬は、樹状細胞によるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0025】
本発明のさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患の処置および/または予防における使用のための医薬組成物であって、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を、意図された投与経路に応じて選択することができる少なくとも1つの薬学的賦形剤、希釈剤または担体とともに含む組成物を提供する。
【0026】
本発明の種々のさらなる態様では、本発明の組成物および方法は、インターロイキン17(IL−17)、インターフェロンガンマ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)を含む群から選択されるサイトカインのうちの少なくとも1つの産生を抑制または阻害するために使用することができる。ある実施形態では、本発明の組成物および方法は、IL−27、IL−10およびIL−35から選択される少なくとも1つのサイトカインの産生をさらに増強する可能性がある。
【0027】
インターロイキン17、インターフェロンガンマまたは腫瘍壊死因子などのサイトカインは、いくつかの病状および特に自己免疫状態の発生において明確な役割を有する。従って、種々のさらなる態様では、本発明は、上記病状を処置、予防または改善するために、TriDAPまたは関連する化合物を、対象に、治療上有効量で投与することに及ぶ。
【0028】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置または予防における使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを提供する。
【0029】
ある実施形態では、このジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである。ある実施形態では、上記自己免疫疾患は多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、上記慢性炎症性疾患は炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される。
【0030】
ある実施形態では、この使用は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を当該対象に投与することをさらに含む。この少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬であることができる。このToll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODM)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択することができる。
【0031】
当該組成物は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含んでもよく、このERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126であってもよい。
【0032】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製におけるジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドの使用を提供する。
【0033】
ある実施形態では、この医薬は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬(TLR作動薬)をさらに含んでもよいし、または少なくとも1つのToll様受容体作動薬(TLR作動薬)とともに投与されてもよい。このTLR作動薬は、いずれの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9についての特異性を有する。ある実施形態では、このTLR作動薬は、DCによるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、本願明細書に記載される実験法に基づいて、TriDAPの投与によって樹状細胞からのIL−27産生を引き起こすことができるということを観察した。しかしながら、IL−27および少なくとも1つのTLR作動薬の両方の同時投与は、相乗的に作用して、樹状細胞などの抗原提示細胞によるIL−17の産生を実質的に増強するということが観察される。
【0034】
ある実施形態では、この医薬は、少なくとも1つのERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)阻害剤をさらに含んでもよいし、または少なくとも1つのERK阻害剤とともに投与されてもよい。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、本願明細書中上記の本発明の組成物の一部として、またはその組成物と同時に少なくとも1つのERK阻害剤をさらに投与することで、IL−27サイトカイン産生を上方制御することができるということを推測する。ERK阻害剤の投与は、樹状細胞によるIL−23およびIL−1サイトカインの産生を抑制することにより、EAEを軽減することができるということがさらに観察された。少なくとも1つのERK阻害剤の投与は、本発明の組成物が本願明細書中上記のTLR作動薬とともに投与されるかどうかにかかわらず、IL−27の上方制御をもたらした。ある実施形態では、このERK阻害剤は、ERKタンパク質キナーゼの阻害剤であり、PD98059またはU0126を含む群から選択されうるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のなおさらなる態様は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置または予防することにおける使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物を提供する。
【0036】
ある実施形態では、この組成物は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含んでもよい。このTLR作動薬は、いずれかの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬はTLR2、TLR4またはTLR9についての特異性を有する。ある実施形態では、このTLR作動薬は、DCによるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0037】
本発明の種々のさらなる態様では、本発明の化合物を、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはサイトカイン阻害剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とともに含む組み合わせ医薬(combined medicament)が提供される。このような組み合わせ医薬は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための本発明の方法で使用されてもよい。
【0038】
本発明のなおさらなる態様では、自己免疫疾患を処置する方法であって、NOD−1発現性または応答性の細胞および/または組織(例えば、抗原提示細胞、特に樹状細胞)において機能を調節する(例えば、NOD−1の1以上の生物活性を調節する)ことを含む方法が提供される。この方法は、Th1および/またはTh17媒介性免疫応答が抑制されるように、つまりTh1もしくはTh17表現型を有するT細胞の活性化またはTh1もしくはTh17 T細胞へのナイーブなCD4+ T細胞の分化が低下または阻害されるように、NOD−1応答性細胞または組織の機能(または、その細胞もしくは組織におけるNOD−1の生物活性)を調節するのに十分な量のNOD−1調節因子、例えばNOD−1結合剤(例えばジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物)に、このNOD−1応答性細胞および/またはNOD−1応答性組織を接触させることを含む。1つの実施形態では、この接触させる工程は、インビトロで、例えば細胞ライゼートの中または再構成された系の中で行うことができる。あるいは、当該方法は、培養中の細胞に対して、例えば、インビトロまたはエキソビボで行うことができる。例えば、細胞(例えば、精製された細胞または組み換え細胞)はインビトロで培養することができ、上記接触させる工程は、当該NOD−1調節因子をその培地に加えることによって行うことができる。典型的には、このNOD−1応答性細胞は哺乳類の細胞、例えばヒトの細胞である。いくつかの実施形態では、このNOD−1応答性細胞は、樹状細胞などの抗原提示細胞、またはそれに関連する細胞集団(前駆体細胞など)である。他の実施形態では、当該方法は、例えばインビボプロトコルの一部として、対象の中に存在する細胞に対して、すなわち動物対象(例えば、ヒト対象、またはインビボ動物モデルを含む)の中で実施することができる。このインビボプロトコルは、治療的であってもよいしまたは予防的であってもよく、この炎症モデルは、例えばEAEモデル、または遺伝子組み換えモデル(例えば、過剰発現されたNOD−1、またはNOD−1の変異もしくは欠失を有する動物モデル)であることができる。インビボ方法について、当該NOD−1調節因子は、単独でまたは別の薬剤と組み合わせて、多発性硬化症、関節リウマチ、または乾癬などの自己免疫疾患に罹患している対象に、当該対象において1以上のNOD−1によって媒介される活性または機能、典型的には炎症促進性の免疫応答、もっと具体的に言えば、慢性炎症性疾患または多発性硬化症などの自己免疫疾患の発症および進行を生じる可能性があるTh1細胞(Th1 Tリンパ球としても知られる)および/またはTh17 Tリンパ球によって媒介される炎症促進性の(pre−inflammatory)免疫応答を調節するのに十分な量で、投与することができる。いくつかの実施形態では、投与されるNOD−1調節因子の量または投薬量は、NOD−1活性(例えば、本願明細書に記載される1以上のNOD−1生物活性)のうちの1以上を変える、例えば減少または阻害するのに必要とされるNOD−1調節因子の量をインビトロまたはエキソビボで試験することにより、投与に先立って決定することができる。任意に、インビボ方法は、自己免疫障害または自己免疫の状態に関連する1以上の症候を有するか、または有するリスクにある対象を同定する(例えば、評価する、診断する、スクリーニングする、および/または選択する)工程を含むことができる。
【0039】
本発明のあるさらなる態様では、NOD−1調節因子、特に、Th1 Tリンパ球細胞および/またはTh17 Tリンパ球細胞によって媒介される炎症促進性の免疫応答を抑制するNOD−1作動薬化合物の、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製における使用が提供される。
【0040】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置することにおける使用のための、Th1 Tリンパ球細胞および/またはTh17 Tリンパ球細胞によって媒介される炎症促進性の免疫応答を抑制するNOD−1調節因子化合物を提供する。
【0041】
ある実施形態では、このNOD−1調節因子は、ペプチドγ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸(iE−DAP)、またはTri−DAP、またはM−TriDAPまたはその類似体、誘導体もしくはペプチド模倣薬を含む。
【0042】
本発明のなおさらなる態様は、IL−23およびIL−17サイトカインのレベルおよび/または産生を阻害することによる自己免疫疾患の処置のための医薬の調製における、IL−27産生を増強するためのNOD−1調節因子の使用を提供する。特に、樹状細胞などの抗原提示細胞、またはT細胞によるIL−23および/またはIL−17の産生が抑制される。
【0043】
本発明のなおさらなる態様は、Th1およびTh17に関連するサイトカインIFN−γ、TNF−α、およびIL−17のうちの少なくとも1つの産生を阻害または下方制御するために、表現型Th1またはTh17の自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫疾患を有する対象に投与することにおける使用のための、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物を提供する。
【0044】
種々のさらなる態様では、本発明は、本発明の治療方法を実施するためのキットを提供する。このようなキットは、1以上の容器の中に、薬学的に許容できる形態の治療上または予防上有効量の本発明の組成物を含んでもよい。このようなキットは、本発明の組成物の使用についてまたは本発明の方法の実施についての説明書をさらに含んでもよいし、または慢性炎症性疾患または自己免疫疾患を処置することにとって適切な情報を医師に提供するためのさらなる情報を提供してもよい。
【0045】
本発明のなおさらなる態様は、自己免疫疾患または慢性炎症状態の処置のためにIL−17の産生を低下させるための、TriDAPもしくはその類似体を含むかまたはTriDAPもしくはその類似体からなる組成物の使用を提供する。ある実施形態では、この組成物は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む。この組成物は、IL−27サイトカインのレベルをさらに増強する可能性があり、またTNF−アルファおよびIFN−ガンマのレベルのうちの少なくとも1つを低下させる可能性があり、IL−10レベルをさらに増強する可能性がある。サイトカインレベルの調節は、試料(細胞上清など)の中のサイトカインの存在および量を定量するためのELISA検定など、当業者にとっては周知である技術を使用して、当業者が測定することができる。
【0046】
種々のさらなる態様では、本発明は、患者がヒトである上記の態様または実施形態のいずれかに係る、方法、組み合わせ、薬剤、使用、パーツのキットのシステムに及ぶ。
【0047】
なおさらなる態様では、本発明は、本願明細書に記載される、患者における、自己反応性のTh1および/もしくはTh17細胞によって引き起こされるか、またはIL−17によって媒介される免疫反応から引き起こされる自己免疫状態または慢性炎症性疾患を処置するいずれの新規な方法にも及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】NOD1作動薬Tri−DAPのインビボ投与が、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減するということを示す。
【図2】NOD1作動薬Tri−DAPが実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減するということを示す。
【図3】NOD1作動薬Tri−DAPが、MOGおよびCFAを用いた免疫化によって誘導されるEAEの間、MOG特異的炎症性サイトカインを抑制するということを示す。
【図4】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFN−γを発現するCD3+ T細胞を抑制するということを示す。
【図5】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFNγを発現するCD3+ CD4+ T細胞を抑制するということを示す。
【図6】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFN−γを発現するCD3+ CD4+ T細胞を抑制するということを示す。
【図7】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAE誘導の72時間後に、マウスの鼠径リンパ節におけるEBI3 mRNA発現を増強するということを示す。
【図8a】NOD−1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、DCにおける、LPSによって誘導されるEBI3の遺伝子発現を増強するということを示す。
【図8b】NOD−1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、DCにおける、LPSによって誘導されるIL−27p28の遺伝子発現を増強するということを示す。
【図9a】ERKの阻害が、DCにおけるEBI3の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強するということを示す。
【図9b】ERKの阻害が、DCにおけるIL−27p28の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強するということを示す。
【図10a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図10b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図11a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導されるDCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図11b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図12a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図12b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図13a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図13b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図14】Nod−1作動薬Tri−DAPによって処置されたSJLマウスの臨床スコアを示す。
【図15】図15Aは、脾臓細胞におけるIFN−ガンマおよびIL−17発現を示す。図15Bは、リンパ節におけるIL−17の産生を示す。
【図16】図16AはTriDAPを用いて処置されたマウスおよびTriDAPを用いずに処置されたマウス由来の腹腔滲出細胞の上清におけるIL−10発現を示し、一方、図16BはTGF−ベータの発現を示す。
【図17】PBSまたはTriDAPによって処置されたマウス由来の、TLR作動薬によって活性化された脾臓細胞の上清におけるサイトカインIL−10、IL−27およびTGF−βの発現レベルおよびケモカインMIP−1αの発現レベルを表す4つのグラフを示す。IL−10およびIL−27の発現レベルは、TLR作動薬を用いたインビトロ刺激後に、TriDAPで処置されたマウス由来の脾臓細胞で増強されることがわかる。
【図18】T細胞によるインターフェロンガンマの産生は、TriDAP処置されたマウスから得られた抗原提示細胞を用いて刺激されたときは、対照マウスから得られ抗原提示細胞と比べて低いということを示す。
【図19】TriDAPとともにおよびTriDAPを伴わずに抗原およびLPSをパルスされた樹状細胞によって刺激された抗原特異的T細胞によるIL−17発現レベルを示すグラフを示す。
【図20】図20Aは、LPSとともにおよびLPSを伴わずにTriDAPを用いて刺激されたヒト由来の樹状細胞におけるIL−27発現レベルを示し、一方、図20Bは同じ細胞集団におけるIL−10発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明者らは、驚くべきことに、NOD1作動薬、Tri−DAPの投与後の、誘導された自己免疫疾患EAEの重症度の低下、およびEAEの発症の遅れを特定した。EAEの重症度の低下は、Th1およびTh17細胞媒介性反応の低下と相関していた。EAEはCNSの自己免疫疾患であり、MSの動物モデルである。従って、EAE動物モデルにおける実験から得られる結果は、ヒト対象における多発性硬化症の処置の推定へとつなげることができる。Tri−DAP含有化合物は、T細胞のサブセット自体、またはこのようなT細胞の分化および活性化を引き起こすサイトカインによって推進される免疫応答のいずれかによって引き起こされる病理に起因して、異常なTh1およびTh17 T細胞反応によって媒介される自己免疫疾患および慢性炎症性疾患(多発性硬化症など)などの状態の寛解において有用性を有するということを、本発明者らは特定した。
【0050】
理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、自己免疫疾患発症の時および/または自己免疫疾患発症後のTri−DAPの投与ののちに生じる、マウスにおけるEAEおよびヒトにおけるEAEなどの自己免疫状態の原因となるTh1およびTh17媒介性炎症促進性の免疫応答の下方制御は、T細胞媒介性免疫応答を誘導する上での抗原提示細胞、特に樹状細胞(DC)の活性の調節によって媒介されると推測する。特に、TriDAPの投与は、抗原提示細胞の機能が、抗原提示細胞の表面上でのMHCクラスII発現の低下、およびそれゆえT細胞への抗原の提示の低下が原因で改変されるということを引き起こす。さらには、サイトカインIL−27の発現が増大する。TriDAPとともに少なくとも1つのToll様受容体作動薬を同時投与すること(つまり、TriDAPの投与に連続して、またはTriDAPの投与の後で)により、樹状細胞によるIL−27の発現は相乗的にさらに増強される。それゆえTriDAPへの曝露後の抗原提示細胞の挙動の調節によって、抗原提示細胞がメモリーT細胞を活性化する能力、またはナイーブなCD4+ T細胞の、Th1またはTh17表現型を有するT細胞への分化を引き起こす能力の低下を生じる。
【0051】
本発明者らは、驚くべきことに、Tri−DAPまたは関連するジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物などのNOD−1作動薬がNOD−1に結合した後にNOD−1によって媒介されるシグナル伝達は、抗炎症性の免疫応答を媒介するサイトカインプロファイルの産生を生じるということを特定した。本発明者らによるこの観察は、まったく予想されていなかった。というのも、NOD−1作動薬によるNOD−1の刺激は、炎症促進性の免疫応答を媒介するであろう、NOD−1発現細胞によるサイトカインプロファイルの発現をもたらすであろうというのが、当該分野で受け容れられた定説であるからである。
【0052】
さらに、本発明者らは、少なくとも1つのTLR作動薬の存在下でのTri−DAPと抗原提示細胞(樹状細胞など)との相互作用は、抑制性(つまり、抗炎症性)のサイトカインIL−10およびIL−27の産生を増強するということを特定した。本発明者らはさらに、TriDAP投与後の樹状細胞によるIL−10および/またはIL−27の産生の増強は、Th1およびTh17媒介性T細胞反応の抑制、ならびに処置後のCNSへのTh1およびTh17の細胞浸潤の低下を生じると推測する。それゆえ疾患の進行および病理は低減する。
【0053】
APCに対するTri−DAPのこの観察された活性を、本発明者らは、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患(クローン病および/または潰瘍性大腸炎を含む)ならびに1型糖尿病などの(これらに限定されない)自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防における有用性を有すると特定した。IL−10およびIL−27の両方の発現は、1型糖尿病の発症と関連しているということが公知である(BettiniおよびVignali.Current Opinion in Immunology. 2009.21.612−618)。関節リウマチは、TNF−a、IL−6およびIL−1などの炎症促進性サイトカインが支配的な病理学的役割を果たす慢性の自己免疫疾患である。さらに最近では、IL−17は、RAの誘導および維持において重要なさらなる役割を果たすということが示唆されている。IL−17はヘルパーT細胞(Th17細胞)によって主に産生される。TNF−αは、T細胞をTh17表現型に向けて分化させる能力をDCに授けることにより、IL−17の産生を推進するということがインビトロで示されている。驚くべきことに、本発明者らは、TriDAPは抗原をT細胞に提示するという樹状細胞の能力を低下させるということを示した。さらには、TriDAPは、Th17表現型に向かうナイーブT細胞の分化を防止するIL−27の産生を誘導する。従って、IL−10およびIL−27などのサイトカインの産生を刺激する上で、TriDAPは、T細胞によるIL−17およびIFN−γの産生の重要な負の制御因子であるということが示されており、それゆえ本発明者らは、これは、Th17およびTh1の反応の強度および/または継続期間を限定する負のフィードバックループの一部を形成し、それゆえ関節リウマチの処置のための新規な治療アプローチを提供するということを提案する。
【0054】
L−ala−γ−D−Glu−mDAP(Tri−DAP)は、NOD1(NOD−1)によって特異的に認識されるグラム陰性菌のペプチドグリカンの中に存在するジアミノピメリン酸含有トリペプチドである。これまでに触れたように、NOD1は、DCなどのAPCの細胞質に位置するPRRであり、これは、リガンド結合の際に、微生物の病原体関連分子構造(PAMP)に対する免疫応答を開始する上で主に機能を果たす。PRRリガンド結合に反応してAPCによって開始される免疫応答の種類は、動員されるAg特異的T細胞集団のその後の種類を決定する上で、鍵となる役割を果たす。NOD1リガンド結合は、通常、MAPKファミリーおよび転写因子NF−κBのメンバーの活性化と関連している。
【0055】
本発明者らは、Tri−DAPを含む組成物の投与は、自己免疫疾患、特に、マウスにおけるEAE疾患モデルによって例示されるとおりの、自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫状態の疾患の重症度および進行の低下をもたらすという驚くべき観察を行った。従って、ある実施形態では、本発明は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防を必要とする対象における、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防のための、Tri−DAP、またはその合成もしくは非合成の類似体を含有する組成物の治療上有効量の投与に及ぶ。さらなる実施形態では、Th1およびTh17媒介性免疫応答の阻害または下方制御から生じた、臨床疾患スコア(clinical disease score)および疾患の重症度の低下が、EAE疾患モデルを提示するマウスで見られる。
【0056】
IL−27は、インビボでEAEのエフェクター相を強力に抑制することができるp28およびEBI3から構成される抑制性サイトカインであり、従って、MSなどの自己免疫疾患に関する治療上の潜在性を有するとして同定されてきた(Fitzgeraldら、2007)。IL−27は、抗原提示細胞によって産生され、そして単球/マクロファージ、樹状細胞、TおよびB細胞、ナチュラルキラー細胞、マスト細胞、および内皮細胞によって発現されるその受容体、IL−27Rを介してシグナル伝達する。IL−27R欠損マウスにおけるより重篤な疾患によって実証されるように、IL−27は、EAEにおいて抑制的な役割を果たすということが示されている。外因性のIL−27は、脳炎惹起性のリンパ節脾臓細胞がEAEを移植する能力を強力に抑制した。IL−27は、IL−23によって推進されるミエリン反応性T細胞によるIL−17産生を著しく阻害し、これにより養子移植EAEにおけるこのT細胞の脳炎惹起性を抑制した。さらには、皮下の浸透圧ポンプによって送達されるとき、インビボでの活性なEAEに対するIL−27の強い抑制効果が実証された。IL−27で処置されたマウスは、CNSの炎症性浸潤および、注目すべきことに、より低い割合のTh17細胞を減少させた。
【0057】
本発明において、本発明者らは、驚くべきことに、インビトロでのTLR作動薬、またはインビボでの適切なアジュバントと併用したTri−DAPを含有する化合物の投与が、BMDCによるIL−17の産生の増強をもたらすということを観察した。従って、本発明のある実施形態では、Tri−DAPを含有する組成物は、薬学的に許容できるTLR作動薬と併用して投与されてもよい。
【0058】
ある実施形態では、このToll様受容体(TLR)作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9に特異的である。TLR2受容体は、Toll様受容体1またはToll様受容体6と結合して見出されるヘテロ二量体である。細菌性リポペプチドは、TLR2含有受容体についての主要な作動薬である。TLR2作動薬の例としては、マイコプラズママクロファージ活性化リポタンパク質2、高純度の可溶性ペプチドグリカン、リポテイコ酸、Borrelia burgdorferi(ボレリア・ブルグドルフェリ)由来の外膜プロテインA、トリパルミトイル−システイニル−セリル−(リジル)3−リジン(Pam3CSK4、P3CSK4)、ジパルミトイル−CSK4(Pam2CSK4、P2−CSK4)、およびモノパルミトイル−CSK4(PCSK4)ならびにリポ多糖および不活化細菌が挙げられるが、これらに限定されない。TLR4についての古典的な作動薬は、細菌性リポ多糖(LPS)であり、これはリピドAなどを含有する物質のファミリーを指す。LPSの例示的な形態は、E.coli B:O111(Sigma Chemicals)である。より毒性が低いTLR4作動薬は、モノホスホリルリピドA(MPL)化合物である。合成のアジュバントASO2(GlaxoSmithKline、英国)はMPLを構成要素として含有する。
【0059】
CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)などの免疫促進性オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、TLR9についての典型的な作動薬である。より一般的に言えば、それらはオリゴデオキシヌクレオチドの免疫促進性配列(ISS−ODN)と呼ばれる。なぜなら、多くの免疫促進性オリゴヌクレオチド(ODN)はCpGモチーフを含有しないからである。典型的には、このODNは、合成のチオホスホリレート(thiophosphorylate)に連鎖した化合物である。しかしながら、細菌のDNA、リポソーム性の脊椎動物のDNA、昆虫のDNA、クラミジアポリヌクレオチドなどを含めた多くの種類のDNAおよびRNAは、TLR9を活性化することができる。
【0060】
典型的には、このTLR作動薬は、樹状細胞によるIL−27産生を誘導することができるTLR2、TLR4またはTLR9の作動薬である。ある実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0061】
あるさらなる実施形態では、Tri−DAP含有化合物の投与は、少なくとも1つのERK阻害剤の投与を伴ってもよい。このERK阻害剤は、Tri−DAP含有化合物の投与と同時にまたはその投与に連続して与えられてもよい。本願明細書中上記の少なくとも1つのTLR作動薬は、Tri−DAP含有化合物およびERK阻害剤とともに投与されてもよい。
【0062】
Th1細胞は、マクロファージの殺菌活性を活性化し、CD8+細胞傷害性T細胞の増殖を推進することによって細胞内感染に対する防御をもたらすが、炎症反応および自己免疫障害とも関連する。炎症促進性のメディエーターとして、過剰なTh1細胞反応はその宿主にとって有害である可能性がある。Th1分極因子としてはIL−12、IL−18、I型インターフェロンおよび細胞表面に発現された細胞接着分子1(ICAM1)が挙げられる。Th1細胞はサイトカイン、特にIFN−γを産生する。Th17細胞は、早期の組織特異的炎症反応に関与して、好中球の動員および活性化をもたらすと考えられる。加えて、Th17細胞は、自己免疫の特定の強力な誘導因子として最近同定された。これまで関係があるとされたTh17分極因子としては、IL−23、IL−6、IL−1、IL−21およびTGF−βが挙げられる。Th17細胞は、サイトカイン、特にIL−17だけでなくIL−22およびTNF−αも産生する。
【0063】
本発明の本発明者らは、驚くべきことに、Tri−DAPを含有する化合物を自己免疫疾患に罹患している動物に投与することで、Th1およびTh17に関連するサイトカイン、それぞれIFN−γおよびTNF−α、ならびにIL−17の産生の阻害または下方制御がもたらされるということを観察した。従って、ある実施形態では、本発明におけるTri−DAP処置後のTh1およびTh17媒介性免疫応答の抑制は、IFNγ、TNFαおよびIL−17を含む群からの少なくとも1つのサイトカインの阻害または下方制御をもたらす。あるさらなる実施形態では、本発明におけるTri−DAP処置後のTh1およびTh17媒介性免疫応答の抑制は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の間にCNSに浸潤する、IFNγおよびIL−17を産生するT細胞の数の減少をもたらす。
【0064】
(ペプチド模倣薬および合成の類似体)
ペプチド模倣薬またはペプチド模倣体などのペプチド類似体は、鋳型ペプチドを表す特性を有する非ペプチド化合物である。このようなペプチド類似体は、典型的にはコンピューターによる分子モデリングを使用して開発される。NOD1への親和性および結合特異性を有するペプチド(TriDAPなど)に構造的に類似するペプチド模倣薬が、このようなTh1およびTh17阻害機能を有すると判定されるポリペプチドおよびタンパク質に類似の予防的および治療的効果を媒介するために使用されてもよい。
【0065】
ペプチド模倣薬は、典型的には、鋳型ペプチドに構造的に類似しているが、1以上のペプチド結合が当該技術分野で周知の方法によって別の結合に置き換えられている。例えば、NOD1エピトープ(TriDAPなど)への結合特異性を有するペプチドは、それがアミド結合の置換、非ペプチド部分の組み込み、または骨格環化を含むように改変されてもよい。適切には、システインが存在する場合には、この残基のチオールは、遊離の硫酸基の損傷を防止するためにキャップ(保護)されてもよい。ペプチドは、さらに、プロテアーゼの攻撃から当該ペプチドを保護するように、天然の配列から改変されてもよい。
【0066】
従って、本発明でNOD1作動薬として使用されるペプチド化合物は、C末端および/もしくはN末端のキャッピング、ならびに/またはシステイン残基のキャッピングのうちの少なくとも1つを使用してさらに改変されてもよい。さらには、本発明で使用するためのペプチドは、N末端残基で、アセチル基を用いてキャッピングされてもよい。適切には、本発明のおよび本発明で使用するためのペプチドは、C末端で、アミド基を用いてキャッピングされてもよい。適切には、システインのチオール基は、アセトアミドメチル基を用いてキャッピングされる。
【0067】
(Tri−DAPの類似体、誘導体、模倣体、およびバリアント)
本発明は、本発明で使用するためのTri−DAP含有組成物の類似体、誘導体、断片、およびバリアントに及ぶ。本願明細書で定義される場合のTri−DAPの誘導体、断片またはバリアントは、Tri−DAPの観察される免疫抑制性を呈する、部分Tri−DAPからなるいずれの化合物、分子または高分子をも意味すると理解される。このような誘導体、断片またはバリアントは、当業者に公知のいくつかの技術のうちのいずれか1つを使用して、当業者が調製してよい。このような断片、バリアント、類似体または誘導体は、自然免疫系の細胞に対して作用するときに、Tri−DAP含有組成物と同一または実質的に類似の生物学的機能を媒介する。従って、本発明はさらに、Tri−DAPおよびM−TriDAP含有組成物の使用に加えて、このような化合物の相同体および類似体の使用を包含することが意図される。これに関して、相同体は、上記の化合物に対する実質的な構造上の類似性を有する分子であり、類似体は、構造上の類似性にかかわらず実質的な生物学的類似性を有する分子である。
【0068】
あるさらなる実施形態では、本発明の化合物は、特定のアミノ酸残基の交換または置換によって調節されてもよい。よく理解されているとおり、アミノ酸レベルの相同性は、一般に、アミノ酸の類似性または同一性の観点による。類似性は、1つの疎水性残基を別の疎水性残基で置換すること、または1つの極性残基を別の極性残基で置換することなどの「保存的変異(conservative variation)」を許容する。
【0069】
非ペプチド模倣体は、本発明の範囲内で提供される。ある実施形態では、本発明の化合物は、アラニン(ala、A)残基をセリン(ser、S)残基またはバリン(val、V)残基で置き換えることによって改変することができる。あるさらなる実施形態では、グルタミン酸(glu、E)残基は、アスパラギン酸(Asp、D)残基で置き換えられてもよい。
【0070】
(組み合わせ医薬)
本願明細書中で上に記載したとおり、ある態様では、本発明は、本発明の組成物または方法が、抗原提示細胞、特に樹状細胞の活性を調節するさらなる化合物の投与に及ぶ併用療法に及び、このさらなる化合物は、少なくとも1つのTLR作動薬および/または少なくとも1つのERK MAPKの阻害剤と組み合わせて投与される。
【0071】
典型的には、一次治療用および二次治療用組成物は、同時に与えられる。ある実施形態では、一次治療用組成物(すなわち、APCの機能活性を調節する化合物)および二次治療用組成物(これは、例えばTLR作動薬であってよいであろう)は同時に投与される。あるさらなる実施形態では、それらは連続的に投与される。
【0072】
ある実施形態では、この併用療法は、Tri−DAP、またはその合成もしくは非合成の類似体またはペプチド模倣薬を含有する組成物を含んでもよく、これは、下記のもののうちの少なくとも1つとともに、対象に同時投与される:TLR作動薬(TLR2、TLR4もしくはTLR9に特異的な作動薬など)、サイトカイン阻害剤(例えば、IL−1、TNF−α、IL−17、IFN−γ、IL−23、IL−6、TGF−βおよびIL−12の阻害剤であるが、これらに限定されない)、ERK阻害剤(PD98059またはU0126など)、成長因子阻害剤、免疫抑制薬(抗体など)、抗炎症薬、酵素阻害剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症薬、代謝阻害剤、細胞傷害性薬物または細胞分裂抑制剤。
【0073】
併用療法の投与は、関連する治療上有効な効果を成し遂げるために、対象に、より少ない治療用量を投与することを可能にするという点で、対象への併用療法の投与は有利である可能性があるということを、当業者は認識しているはずである。より少ない併用用量の投与は、その対象が、投与された化合物に由来するより低い毒性レベルにしか曝露されないということをもたらす。さらには、本発明によって提供される併用療法の一部として投与される二次治療用化合物は異なる経路を標的とするため、その治療の全体的な有効性が相乗的に改善される可能性が高い。有効性の改善は、より低い用量しか投与される必要がないということをもたらし、従って関連する毒性の低下をもたらすであろう。
【0074】
(医薬組成物)
本発明は、APC活性の調節を通して自己免疫疾患または慢性炎症性疾患におけるTh1およびTh17細胞媒介性反応を阻害または下方制御する化合物を含む医薬組成物に及ぶ。本発明に係る、および本発明に係る使用のための医薬組成物は、活性成分(すなわち、Th1およびTh17細胞の阻害剤)に加えて、当業者にとっては周知である薬学的に許容できる賦形剤、担体、緩衝液 安定剤または他の物質を含んでもよい。適切な医薬担体の例としては、水、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。
【0075】
本発明の組成物は、いずれの適切な経路を介して、処置を必要とする患者に投与されてもよい。本願明細書に詳述するとおり、当該組成物が非経口投与されることが好ましい。非経口投与用の好ましい経路の例は、静脈内、心臓内、動脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、経粘膜、吸入または経皮が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
投与経路としては、局所的および経腸的、例えば、経粘膜(肺を含む)、経口、鼻内、経直腸をさらに挙げてもよい。製剤は、液体、例えば、pH 6.8〜7.6の非リン酸緩衝液を含有する生理食塩水、または凍結乾燥された粉末もしくはフリーズドライの粉末であってもよい。
【0077】
ある実施形態では、この組成物は、注射用組成物として送達可能である。静脈内注射については、当該活性成分は、発熱物質を含まずかつ適切なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容できる水溶液の形態にあることになろう。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液または、乳酸加リンゲル液などの等張性媒体を使用して適切な溶液を調製することが十分にできる。防腐剤、安定剤、緩衝液、抗酸化剤および/または他の添加剤を、必要に応じて含めてよい。
【0078】
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末または液体の形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含んでもよい。液体の医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水溶液、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグルコールを含めてもよい。
【0079】
上で触れた技術およびプロトコルならびに本発明に従って使用されてもよい他の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、Gennaro,A.R.、Lippincott Williams & Wilkins;第20版 ISBN 0−912734−04−3およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems;Ansel,H.C.ら、第7版 ISBN 0−683305−72−7に見出すことができ、これらの文献の開示全体は、参照により本願明細書に援用したものとする。
【0080】
当該組成物は、特定の組織(血液を含む)に置かれたミクロスフェア、リポソーム、他の微粒子送達システムまたは徐放性製剤を介して投与されてもよい。
【0081】
投薬治療方式としては、本発明の組成物の単回投与、または当該組成物の複数回投与用量を挙げることができる。この組成物は、処置するために本発明の組成物が投与される状態の処置のために使用される他の治療薬および医薬と連続的にまたはそれらとは別個に、さらに投与することができる。
【0082】
投与される現実の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、処置しようとするものの性質および重症度によることになろう。処置の処方、例えば投薬量の決定などは、最終的には、一般開業医および他の医師の職責の範囲内であって一般開業医および他の医師の判断によるが、典型的には、処置されるべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および医師にとって公知の他の要因が考慮される。
【0083】
(定義)
特に定義されない限り、本願明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の分野の当業者が通常理解する意味を有する。
【0084】
本願明細書全体を通して、文脈上、明らかに別様の解釈が必要になる場合を除き、用語「含む(comprise)」もしくは「含む(include)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む、含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」もしくは「含む、含んでいる(including)」などの派生語は、明記された整数または整数群を包含することを意味するが、いずれの他の整数または整数群の排除も意味しないということを理解されたい。
【0085】
本願明細書で使用する場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その、当該、前記(the)」などの用語は、文脈から明らかにそうではないとわかる場合を除き、単数および複数の指示対象を包含する。つまり、例えば「1つの活性薬剤」または「1つの薬理学的に活性薬剤」との表現は、単独の活性薬剤および組み合わせられた2以上の異なる活性薬剤を包含し、他方、「1つの担体」との表現は2以上の担体の混合物および1つの単独の担体を包含する、などである。
【0086】
本願明細書で使用する場合の用語「抗原」は、免疫応答を刺激することができるいずれかの有機または無機の分子である。本願明細書で使用する場合の用語「抗原」は、免疫応答を刺激することができるいずれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸分子、炭水化物分子、有機または無機の分子に及ぶ。
【0087】
本願明細書で使用する場合、用語「治療上有効量」は、Th1および/またはTh17媒介性の炎症状態または自己免疫疾患を抑制するために必要とされる、本発明の薬剤、結合化合物、小分子、融合タンパク質またはペプチド模倣薬の量を意味する。
【0088】
本願明細書で使用する場合、用語「予防上有効量」は、Th1および/またはTh17媒介性炎症状態、例えば自己免疫疾患(多発性硬化症など)の最初の発症、進行または再発を防止するために必要とされる組成物の量に関する。
【0089】
本願明細書で定義される場合の「Th1および/またはTh17媒介性炎症状態」は、自己抗原に特異的である自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって全体としてまたは一部が媒介される、慢性炎症状態または自己免疫疾患を意味する。Th1および/またはTh17媒介性炎症状態の例は、本願明細書上記で提示されており、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、1型糖尿病および乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本願明細書で使用する場合、用語「処置」ならびに「処置する」および「処置すること」などの関連する用語は、Th1および/またはTh17媒介性自己免疫疾患もしくは慢性炎症状態またはそれらの少なくとも1つの症候の進行、重症度および/または継続期間の低下(減少)を意味し、ここでは、この低下(減少)または寛解は、抑制性サイトカイン、IL−27、の産生、特に抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)またはマクロファージによる産生を誘導する化合物の投与から生じるものである。このIL−27産生は、ナイーブT細胞の、Th1またはTh17表現型への成熟を防止してもよいし、またはTh1またはTh17 T細胞の活性化を防止してもよい。
【0091】
それゆえ用語「処置」は、対象に恩恵をもたらすことができるいずれのレジメン(療法)も指す。この処置は、既存の状態に関するものでもよいし、または予防的(防止のための処置)であってもよい。処置には、治癒的効果、緩和効果または予防的効果を含めてよい。本願明細書での「治療的」および「予防的」処置という表現は、最も広義に考慮されるべきである。用語「治療用、治療的」は、対象が完全回復まで処置されるということを必ずしも意味しない。同様に、「予防的」は、対象は最後まで病状に罹ることはないであろういうことを必ずしも意味しない。
【0092】
本願明細書で使用する場合、用語「免疫細胞」は、造血系由来でかつ免疫応答において役割を果たす細胞を包含する。免疫細胞としては、リンパ球(B細胞およびT細胞など);ナチュラルキラー細胞;骨髄系細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および顆粒球など)が挙げられる。
【0093】
本願明細書で使用する場合、用語「T細胞」は、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、γδ(ガンマデルタ)T細胞およびNK(ナチュラルキラー)T細胞に及ぶ。用語「T細胞」は、ヘルパーT1型T細胞およびヘルパーT2型T細胞の両方ならびにTh−IL17細胞も包含する。
【0094】
本願明細書で使用する場合、用語「抗原提示細胞」またはその略語「APC」は、抗原のエンドサイトーシス吸着、プロセシングおよび提示ができる細胞を指す。この用語は、プロフェッショナル抗原提示細胞、例えば;Bリンパ球、単球、樹状細胞(DC)およびランゲルハンス細胞、ならびに角化細胞、内皮細胞、グリア細胞、線維芽細胞およびオリゴデンドロサイトなどの他の抗原提示細胞を包含する。用語「抗原提示」は、抗原を、MHC分子に結合したペプチド断片として、細胞表面上にディスプレイすることを意味する。例えば、マクロファージ、B細胞、濾胞樹状細胞および樹状細胞などの多くの異なる種類の細胞は、APCとして機能しうる。
【0095】
本願明細書で使用する場合、用語「免疫応答」は、T細胞の同時刺激の調節によって影響を受けるT細胞媒介性および/またはB細胞媒介性免疫応答を包含する。用語「免疫応答」は、T細胞活性化(抗体産生など)(体液反応)およびマクロファージなどのサイトカイン応答性細胞の活性化によって間接的にもたらされる免疫応答をさらに包含する。
【0096】
本願明細書で使用する場合、用語「樹状細胞」または「樹状細胞」(DC)は最も広義の樹状細胞を指し、そして抗原提示することができるいずれのDCをも包含する。この用語は、免疫応答を開始し、かつ/または抗原をTリンパ球に提示し、かつ/または免疫応答の刺激のために必要とされるいずれかの他の活性化シグナルをT細胞に与えるすべてのDCを包含する。本願明細書中での「DC」という表現は、樹状細胞の形態、表現型または機能活性を提示する細胞、およびその変異体またはバリアントという表現を包含するとして読まれるべきである。樹状細胞の形態学的な特徴としては、長い細胞質の突起、または複数の微細な樹状突起を有する大きい細胞が挙げられうるが、これらに限定されない。表現型の特徴としては、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子、CD11c、B220、CD8−アルファ,CD1、CD4のうちの1以上の発現を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0097】
本願明細書で定義される場合、語句「サイトカイン産生を上方制御する」またはその派生的表現は、サイトカインの産生のレベルが、これまでに公知の値と比べて増加しているということを意味する。さらに、本願明細書で定義される場合、語句「サイトカイン産生を下方制御する」は、ある薬剤が、これまでに公知の値と比べてサイトカインの産生の低下を引き起こすということを意味する。
【0098】
本発明に関する「対象」は、哺乳動物(ヒト、霊長類および家畜(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)など);実験室試験動物(マウス、ウサギ、ラットおよびモルモットなど);およびコンパニオンアニマル(イヌおよびネコなど)を含み、かつこれらを包含する。この哺乳動物がヒトであることが、本発明の目的にとって好ましい。用語「対象」は、本願明細書で使用する場合の用語「患者」と置き換えることができる。
【実施例】
【0099】
本発明は、これより、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、例証の目的で提供されており、本発明に対して限定を加えるものであると解釈されることは意図されていない。
【0100】
(実施例1 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減する)
この実験は、Tri−DAP処置が、マウスにおいてEAEの誘導後に疾患の重症度の臨床スコアを低下させることができるかどうかを特定するために設計した。
【0101】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、皮下(s.c)注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、腹腔内に(i.p)百日咳毒素(PT)を注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、そして再度1日目、2日目に、およびそのあとは2日に1回与えた。臨床スコアを毎日評価し、体重を記録した。疾患の重症度は、以下のとおり等級付けした:等級0:正常(健康)、等級1:だらりとした尾部、等級2:ふらふらした歩き方;等級3:後肢の脱力;等級4:後肢麻痺;等級5:四肢麻痺/死。†は、EAE疾患の重症度に起因して対照マウスが犠牲になったことを示す。
【0102】
結果:
処置しなかったマウスは、5〜6日後にEAEの臨床徴候を発症し、疾患の重症度は、12日目までに3.5〜4の臨床スコアへと急速にピークに達した(図1および図2)。対照的に、Tri−DAP処置したマウスは、誘導後11日目まで疾患の臨床徴候をまったく示さず(図1)、疾患の重症度は、処置しなかった対照マウスで観察したものよりも低かった(図1および図2)。対照マウスにおけるEAEの憎悪は、Tri−DAP処置したマウスと比べた、対照マウスの大きな体重減少によっても明らかであった(図1および図2)。
【0103】
これらの結果は、EAE誘導時およびEAE誘導後のTri−DAP処置がEAE疾患の発症を軽減するということを実証する。
【0104】
(実施例2 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のMOG特異的炎症性サイトカインを抑制する)
この実験は、EAE誘導後のTh1およびTh17特異的炎症性サイトカインの産生に対するTri−DAP処置の効果を判定するために設計した。
【0105】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、s.c注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、i.pでPTを注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には免疫化の6時間前に100μgのTri−DAPを与え、第3の群には、0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、再び1日目、2日目および4日目に与えた。5日目にマウスを犠牲にし、リンパ節細胞を、MOGペプチド(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)(20〜100μg/ml)、または陰性対照および陽性対照として、それぞれ培地のみまたはPMAおよび抗CD3を用いて刺激した。72時間後、上清を取り除き、IL−17、TNF−α(TNF−アルファ)およびIFN−γ(インターフェロンガンマ)についてELISAによって分析した。
【0106】
結果:
頑強なMOG特異的IL−17、IFN−γおよびTNF−α反応を、EAE誘導の5日後に対照EAEマウスの鼠径リンパ節で検出した(図3)。対照的に、EAE誘導の6時間前にTri−DAPで処置したマウスは、対照EAEマウスと比べて、有意に低下した抗原特異的T細胞反応を有していた。0日目、1日目、2日目および4日目のTri−DAP処置は、検出可能なMOG特異的T細胞反応を有しなかった(図3)。
【0107】
これらの結果は、Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のマウスのリンパ節における炎症促進性サイトカインIL−17、IFN−γおよびTNF−αの産生を抑制するということを実証する。
【0108】
(実施例3 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAEを有するマウスの脳における、IL−17を発現するおよびIFNγを発現するT細胞を抑制する)
この実験は、EAE誘導後のマウスの脳における種々のIFN−γおよびIL−17を産生するT細胞集団に対するTri−DAP処置の効果を判定するために設計した。
【0109】
物質および方法:
EAE誘導の12日後に、単核細胞を、対照EAEまたはTri−DAP処置したEAEマウスの脳から単離した。細胞を、PMA/イオノマイシンで一晩、再度刺激し、ブレフェルジンAとともにインキュベーションした。細胞を抗CD3(図4)、または抗CD3および抗CD4(図5および図6)で染色した。次いで細胞を固定し、透過処理し、抗IFN−γおよび抗IL−17を用いて細胞内部で染色し、フローサイトメトリによって分析した。
【0110】
結果:
検討したすべてのT細胞集団(図4におけるCD3+細胞、図5におけるCD3+ CD4+細胞、および図6におけるCD3+ CD4−細胞)において、Tri−DAP処置はIFN−γおよびIL−17の産生を抑制した(図4〜図6)。
【0111】
これらの結果は、Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のマウスのCNSにおいてIFN−γおよびIL−17を産生するT細胞集団の浸潤を抑制するということを実証する。
【0112】
(実施例4 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導の72時間後に、マウスの鼠径リンパ節におけるEBI3 mRNA発現を増強する)
この実験は、EAE誘導後のマウスの鼠径リンパ節におけるEBI3遺伝子発現に対する、Tri−DAP処置の効果を評価するために設計した。
【0113】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、皮下注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、i.pにPTを注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、そして再度1日目、2日目に与えた。EAE誘導の72時間後に、各群からの3匹のマウスを犠牲にした。鼠径リンパ節を取り出し、トリゾールの中に採取した。EBI3 mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。ナイーブなC57BL/6鼠径リンパ節に対する誘導倍率としてデータを示す(図7)。
【0114】
結果:
対照およびTri−DAP処置したマウスの鼠径リンパ節においてEBI3遺伝子発現を検討すると、対照マウスと比べて、Tri−DAP処置したマウスのリンパ節におけるEBI3遺伝子発現のかなりの倍率の増加があった(図7)。
【0115】
これらの結果は、Tri−DAPがEAEを軽減することができる能力は、抑制性サイトカインIL−27の産生に依存する可能性があるということの証拠を与える。
【0116】
(実施例5 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、樹状細胞における、LPSによって誘導されるEBI3およびIL−27p28の発現を増強する)
この実験は、Toll様受容体(TLR)作動薬で刺激されたBMDCにおけるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現に対するTri−DAP処置の効果を評価するために設計した。
【0117】
物質および方法:
骨髄由来のDC(1×106細胞/ml)をTri−DAP(100μg/ml)で24時間前処置し、その後、TLR作動薬LPS(10ng/ml)およびCpG(5μg/ml)、およびMOG35−55ペプチド(20μg/ml)または培地のみ(対照)で6時間刺激した。EBI3(図8(a))およびIL−27p28(図8(b))mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。培地のみの中で培養したDCに対する誘導倍率としてデータを示す。
【0118】
結果:
LPSによって誘導されるEBI3(図8(a))およびIL−27p28(図8(b))遺伝子発現の増強を、Tri−DAP処置後のBMDCにおいて観察した。これらの結果は、DCのTri−DAP処置が炎症促進性の抑制性サイトカインIL−27の産生を誘導するということのさらなる証拠を与える。
【0119】
(実施例6 − ERKの阻害は、DCにおけるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現の誘導について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強する)
この実験は、BMDCにおけるLPSによって誘導されるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現の、Tri−DAPによる増強におけるERK活性化の役割を評価するために設計した。
【0120】
物質および方法:
BMDC(1×106)を、MAPK阻害剤、SB203580(5mM)、またはMEK1/2阻害剤、U0126(5mM)のいずれかで30分間前処置し、その後、TriDAP(100mg/ml)または培地のみで刺激した。24時間後、この細胞をLPS(リポ多糖)(100ng/ml)、CpG(5mg/ml)または培地のみで刺激した。EBI3およびIL−27p28 mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。培地のみの中で培養したDCに対する誘導倍率としてデータを示す(図9(a)および図9(b))。
【0121】
結果:
ERKの阻害は、DCにおけるEBI3およびIL−27p28の両方の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を大きく増強する(図9(a)および図9(b))。さらには、これらのデータは、ERK阻害剤の添加は、Tri−DAPによって誘導されるか、またはTri−DAPおよびTLR作動薬によって誘導される樹状細胞(DC)によるIL−27の産生を有意に増強するということを示した。
【0122】
(実施例7 − BMDCにおけるTLR作動薬によって誘導されるサイトカイン産生の、Tri−DAPによる増強はp38に依存し、かつ部分的にERKに依存する)
この実験は、LPSによって誘導される、BMDCによるIL−12p40、IL−12p70、IL−23およびIL−10の産生の、Tri−DAPによって媒介される増強におけるMAPK p38およびERKの役割を評価するために設計した。
【0123】
物質および方法:
BMDC(1×106)をp38阻害剤、SB203580(5μM − 図10〜図11)、またはERK阻害剤U0126(5μM − 図12〜図13)で30分間前処置し、その後、Tri−DAP(100μg/ml)または培地のみで刺激した。2時間後、これらの細胞をLPS(100ng/ml − 図10および図12)で、TLR作動薬CpGで(5μg/ml − 図11および図13)または培地のみで刺激した。24時間後に上清を集め、IL−12p40、IL−23、IL−12p70およびIL−10濃度をELISAによって定量した。
【0124】
結果:
Tri−DAPによるBMDCの前処置は、IL−12ファミリーのメンバー、IL−12p40、IL−12p70およびIL−23のLPSおよびCpG産生の両方を増強する(図10〜図13)。Tri−DAPとLPSまたはCpGのいずれかとについて観察された相乗効果は、部分的にp38に依存する(図10〜図11)。Tri−DAPによる、LPSによって誘導されるIL−23産生の増強は、ERK阻害剤、U0126の添加によって抑制される(図12(b))。対照的に、LPSによって誘導されるIL−12p70の増強は、ERK阻害剤の存在下でほんのわずかしか影響を受けない(図12(a))。LPSによって誘導される、およびCpGによって誘導される、DCによるIL−10産生はともに、Tri−DAPによって増強され、この増強は、p38が阻害されると完全になくなった(図10〜図11)。ERKについての同様の役割は、DCをTri−DAPおよびLPSまたはCpGで同時刺激したときの、IL−10産生について観察された相乗効果で明らかである。LPSまたはCpGを伴うTri−DAPによるIL−10産生は、ERK阻害剤の存在下で抑制される(図12〜13)。
【0125】
これらの結果は、Tri−DAPが、TLR作動薬によって誘導される炎症促進性サイトカインをMAPK依存的に増強することができるということを実証するが、ERK MAPKは、Tri−DAPによって誘導されるIL−27産生に対して負の影響を有しうるということを実証する。
【0126】
(実施例8 − TriDAPを用いた処置は、SJLマウスの再発寛解型EAEモデルにおいてEAEを軽減する)
この実験は、Nod−1作動薬TriDAPを用いた処置がSJLマウスの再発寛解型EAEモデルにおいてEAEを軽減するかどうかを考察した。
【0127】
物質および方法:
EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を、SJLマウスにおいて、完全フロイントアジュバント(CFA)中のプロテオリピドタンパク質(PLP)、次いで百日咳菌毒素(PT)を用いた免疫化によって誘導した。SJLマウスは、Swiss Websterマウスの3つの異なる源から、The Jackson LaboratoryのJames Lambertによって1955年に開発された。この系統は、多発性硬化症研究のための実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に対するその感受性を特徴とし、それゆえ、化合物の治療上の潜在性を評価するための(MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)モデルに勝って)改善されたモデルを提供する。マウスを、12日目から2日に1回、PBS(対照)またはTriDAP(100μg/マウス)で処置した。臨床スコアを毎日評価し、体重を記録した。疾患の重症度は、以下のとおり等級付けした:等級0:正常(健康)、等級1:だらりとした尾部、等級2:ふらふらした歩き方;等級3:後肢の脱力;等級4:後肢麻痺;等級5:四肢麻痺/死。†は、EAE疾患の重症度に起因して対照マウスが犠牲になったことを示す。
【0128】
結果を図14に示す。この結果は、1群あたり5〜6匹のマウスについての平均臨床スコアである。この結果は、TriDAP処置した動物についての臨床スコアの低下を示す。
【0129】
(実施例9 − 再発寛解型EAEモデルにおけるPLP特異的IL−17およびIFN−γに対するTriDAP処置の効果)
この実験は、再発寛解型EAEモデルにおけるPLP特異的IL−17およびIFN−γの発現に対するNod−1作動薬、TriDAPを用いた処置の効果を考察する。
【0130】
物質および方法
EAEを、SJLマウスにおいて、完全フロイントアジュバント(CFA)中のプロテオリピドタンパク質(PLP)、次いで百日咳菌毒素(PT)を用いた免疫化によって誘導した。マウスを、12日目から2日に1回、PBS(対照)またはTriDAP(100μg/マウス)で処置した。26日目にマウスを犠牲にし、リンパ節または脾臓細胞を、インビトロで、PLP(1〜25μg/ml)を用いて再刺激した。3日後、上清の中でのIL−17およびIFNγ産生をELISAによって定量した。
【0131】
結果を図15に示す。図15Aは、脾臓細胞の中でのIFN−ガンマおよびIL−17発現を示す。図15Bは、リンパ節の中でのIL−17産生を示す。
【0132】
これらの結果は、Tri−DAP処置後に、IFN−ガンマおよびIL−17レベルの継続的な低下があるということを示す。
【0133】
(実施例10 − TriDAPによって処置したマウスにおけるTLR作動薬によって誘導されるIL−27、IL−10およびTGF−ベータの発現)
この実験は、TLR−作動薬によって誘導されるIL−27、IL−10 TGF−βレベルのレベルがTriDAPによって処置されたマウス由来の腹腔滲出細胞によって増強されるということを示す。
【0134】
物質および方法
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかで5日間処置した。腹腔滲出細胞(PEC;1×106/ml)を、培地のみで(対照)、または以下の、TLR4作動薬LPS(リポ多糖)(100ng/ml)、TLR9作動薬CpG(5μg/ml)、もしくはTL2作動薬Pam3Csk(500ng/ml)から選択されるToll様受容体作動薬を用いて刺激した。24時間後に上清を集め、サイトカイン濃度をELISAによって定量した。
【0135】
結果を図16に示す。図16Aは、TriDAPを用いておよびTriDAPを用いずに処置したマウスの上清の中でのIL−10発現を示し、他方、図16BはTGF−ベータ発現を示す。これらの結果は、インビボでTriDAPを用いて処置したマウス由来のPECは、TLR作動薬を用いたインビトロでの再刺激後に、より高い濃度の免疫抑制性サイトカイン、IL−10およびTGF−ベータを分泌するということを示す。
【0136】
(実施例11 − TriDAPによって処置したマウス由来の脾臓細胞による、TLRによって誘導されるIL−10およびTGF−β)
この実験は、TriDAP処置したマウス由来の脾臓細胞によって発現されたIL−10およびTGF−βを測定した。
【0137】
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかによって5日間処置した。脾臓細胞(PEC;1×106/ml)を、培地のみで(対照)、または以下の、TLR4作動薬LPS(リポ多糖)(100ng/ml)、TLR9作動薬CpG(5μg/ml)、もしくはTL2作動薬Pam3Csk(500ng/ml)から選択されるToll様受容体作動薬を用いて刺激した。24時間後に上清を集め、サイトカイン濃度をELISAによって定量した。
【0138】
結果を図17に示す。図17は、TLR作動薬とともにPBSまたはTriDAPを用いて処置したマウスの上清におけるサイトカインIL−10、IL−27およびTGF−βならびにケモカインMIP−1αの発現レベルを表す4つのグラフを示す。IL−10およびIL−27の発現レベルは、脾臓細胞をTLR作動薬で刺激した場合に増強されるということが見て取れる。これらの結果は、インビボでTriDAPを用いて処置したマウス由来の脾臓細胞は、TLR作動薬を用いたインビトロでの再刺激後に、より高い濃度の免疫抑制性サイトカイン、IL−10、IL−27およびTGF−ベータを分泌するということを示す。
【0139】
(実施例12 − 抗原提示細胞に対するTriDAPの効果)
この実験では、抗原提示細胞(APC)が、TriDAPによって処置されたマウスにおいてメモリーT細胞を活性化することができる能力を評価する。
【0140】
物質および方法
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかを用いて5日間処置した。腹腔滲出刺激細胞(PEC)を照射し、MOG特異的T細胞についての抗原提示細胞(APC)として使用した。MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)およびCFA(1×106/ml)で免疫したマウス由来のT細胞を、PEC(1×106/ml)およびMOG(20μg/ml)とともに培養した。72時間後に上清を集め、IFN−γ濃度をELISAによって定量した。
【0141】
結果を図18に示す。図18で、抗原特異的T細胞は、TriDAP処置したマウスから入手した抗原提示細胞で刺激したとき、対照(PBS)で処置したマウスと比べて、より少ないIFN−ガンマを分泌するということがわかる。これは、TriDAP処置したマウスから単離した抗原提示細胞は、T細胞活性化を誘導する上では効果性が低いということを示す。
【0142】
(実施例13 − TriDAPは、TLR作動薬によって活性化される樹状細胞が、インビトロでTh17細胞を活性化することができる能力を抑制する)
MOGおよびLPSで免疫したマウス由来のCD4 T細胞を、KLH(20μg/ml)の存在下で、TriDAP(100μg/ml)を用いてまたは用いずに、LPS(10または100ng/ml)で刺激した樹状細胞とともにインビトロで培養した。72時間後に上清を集め、IL−17濃度をELISAによって定量した。*P<0.05、***P<0.001、TriDAP使用 対 TriDAP不使用。
【0143】
結果を図19に示す。この図19は、TriDAPを用いてまたは用いずに、抗原およびLPSを用いてパルスした樹状細胞で刺激した抗原特異的T細胞によるIL−17発現レベルを示すグラフを示す。この結果は、TriDAPを用いた樹状細胞の処置が、樹状細胞がCD4 T細胞によるIL−17産生を活性化することができる能力の、有意な低下を生じるということを示す。
【0144】
(実施例14 − TriDapはIL−10およびIL−27を誘導して、およびTLRによって誘導されるヒト樹状細胞によるIL−10およびIL−27の産生を増強する)
ヒトPBMCからIL−4およびGM−CSFとともに培養した樹状細胞を、TriDap(100μg/ml)、LPS(10もしくは100ng/ml)、LPSおよびTriDAPまたは培地のみを用いて刺激した。24時間後に上清を集め、IL−27およびIL−10濃度をELISAによって定量した。**P<0.01、***P<0.001、TriDAP使用 対 TriDAP不使用。
【0145】
結果を図20に示す。図20Aは、TriDAPで刺激したヒト由来の樹状細胞におけるIL−27発現レベルを示し、他方で、図20Bは、同じ細胞集団におけるIL−10発現レベルを示す。これらの結果は、ヒト由来の樹状細胞は、インビトロでのTriDAPを用いた刺激後にIL−27を発現することを示す。この発現は、IL−27タンパク質レベルの測定によって示される。さらには、ヒト樹状細胞によるIL−27発現が示されており、これは、これまでの実施例によって示されるマウス由来の樹状細胞によるIL−27の発現と整合している。最後に、これらの結果は、IL−27は、Toll様受容体作動薬を用いた同時刺激の必要なしにヒト樹状細胞によって発現されうるということを示す。しかしながら、IL−27の発現は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬化合物(リポ多糖など)を用いた抗原提示細胞の同時刺激によって有意に増強することができる。従って、TriDAPは、樹状細胞によるIL−27産生を独立に誘導するように働き、ただ単に、樹状細胞におけるTLR−作動薬によって推進されるIL−27産生を調節するように機能するだけではないということを示す。
【0146】
本願明細書で参照されるすべての文献は、参照により本願明細書に援用したものとする。本発明の記載された実施形態に対する種々の改変および変更は、本発明の範囲から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して記載されてきたが、請求項に係る発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるものではないということを理解されたい。実際には、当業者には自明である本発明を実施する記載された態様の種々の改変は、本発明によって包含されるということが意図されている。本願明細書中のいずれの先行技術への参照も、この先行技術がいずれかの国のありふれた一般的な知識の一部を形成するということの承認ではなく、またいずれかの形の示唆でもなく、またそのように解釈されるべきでもない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルパーT17型(Th17)および/またはヘルパーT1型(Th1)Tリンパ球(T細胞)によって媒介される病状の処置および予防のための組成物および方法に関する。特に、本発明は、自己反応性のTh17およびTh1 Tリンパ球によって媒介される病状の処置のための、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物の使用に関する。本発明の化合物および方法は、さらに、IL−27、IL−10およびIL−35の発現を増強しつつ、サイトカイン インターロイキン17(IL−17)、インターフェロンガンマ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の産生を抑制することにより免疫応答を調節するための方法において、有用性を有する。
【背景技術】
【0002】
特定の疾患に対する防御免疫は、自然免疫系の抗原提示細胞(APC)(樹状細胞(DC)およびマクロファージなど)による、特異的な炎症促進性T細胞(Tリンパ球)集団の特異誘導に依存する。広い範囲の病原体に対する細胞性免疫を媒介することに関与する2つのこのようなT細胞集団は、Th1およびTh17細胞である。Th1、およびより最近のTh17の両方のT細胞集団は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患のメディエーターとして関与しているとされており、従って免疫抑制薬のための関連する細胞標的として働く。さらには、それゆえT細胞反応のイニシエーターとしてのDCは、炎症性疾患と闘うために設計される治療のための第2の細胞標的である。
【0003】
多発性硬化症は、中枢神経系(CNS)内のT細胞、B細胞、マクロファージの炎症性浸潤および限局性脱髄斑を特徴とする、CNSの炎症性自己免疫疾患である。Th1細胞媒介性反応およびTh17細胞媒介性反応はともに、炎症性脱髄の発生で一定の役割を果たすことが示されている。MS患者由来のミエリン反応性T細胞は、Th1媒介性の反応と整合してサイトカインを産生し、一方で、患者由来のMS病変のマイクロアレイ研究は、ILの発現の増加を実証する。
【0004】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症(MS)と臨床的および神経病理学的な変化を共有する炎症性脱髄性疾患の動物モデルである。従って、EAEは、自己免疫性炎症反応、特にMSの機序を細かく調べるための関連する有用なモデルである。EAEがだいたいはCD4+ Th1媒介性の疾患であるということは長年受け容れられてきたが、EAEの誘導におけるCD8+ T細胞についての病因的役割も実証されてきた。しかしながら、より最近になって、IL−17を産生するT細胞サブセットがEAEの病変形成において非常に重要な役割を果たすということが実証された。文献においていまだいくらかの議論はあるものの、Th1細胞およびTh17細胞は協働して器官特異的な自己免疫の発生を誘導する可能性が高い。
【0005】
未熟な樹状細胞は末梢組織の中で抗原(Ag)を取り込み(sample)、抗原捕捉後に、成熟し、そして局所リンパ節(LN)へと移動し、そこで樹状細胞はナイーブなCD4+ T細胞に対して抗原を提示する。次いでナイーブなT細胞は分化し、特異的なCD4+ エフェクターT細胞集団へと増殖する。ナイーブなCD4+ T細胞の運命は、サイトカイン産生から生じるサイトカイン環境によって、およびAg−MHC複合体によるT細胞受容体(TCR)結合の部位に存在する成熟した樹状細胞からのアウトプットによって、一部は決定される。従って、DCは、病原体に反応して誘導されるT細胞反応の種類に対する制御を呈することができる。
【0006】
樹状細胞などの自然免疫系の細胞は、微生物分子構造を認識して、このような構造の認識後に、炎症促進性のシグナル伝達経路を活性化する病原体認識受容体(PRR)を発現し、次にこの炎症促進性のシグナル伝達経路が様々な免疫応答遺伝子の発現を制御する。PRRは、Toll様受容体(TLR)などのように膜結合型であってもよいし、またはヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)タンパク質などのように細胞膜に存在してもよい。
【0007】
NODタンパク質NOD1およびNOD2は、ペプチドグリカン由来の微生物成分の細胞内センサーとして、自然免疫において重要な役割を有する。NOD1はペプチドγ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸(iE−DAP)を認識し、主にグラム陰性菌についてのセンサーとして働き、一方で、NOD−2はほとんどの細菌の中で見出されるムラミルジペプチド(MDP)を検出する。iE−DAPは、NOD1によって認識される最小モチーフである。L−Ala−γ−D−Glu−mDAP(Tri−DAP)はこのiE−DAPジペプチドおよびL−Ala残基を含む。iE−DAPと同様に、Tri−DAPはNOD1によって特異的に認識される。
【0008】
PRRとしての役割と整合して、NODリガンド結合は、転写因子、核性因子κB(NF−κB)および分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ファミリーのメンバーの活性化を通して炎症促進性反応の開始を生じる。Tri−DAPが呈するNF−κBを活性化する能力は、iE−DAPが呈する能力よりも3倍高いということがこれまでに示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明につながる研究の中で、本発明者らは、NOD1作動薬Tri−DAPは免疫抑制活性を有し、そしてTh1およびTh17(IL−17産生T細胞)T細胞媒介性の炎症性自己免疫疾患を選択的に抑制するように働くという驚くべき発見をした。これまでにTriDAPのインビトロ投与によって炎症性サイトカインの産生が増強されるということが示されていたため、この観察は、まったく予想外のものである。本発明者らは、本発明で、驚くべきことに、TriDAPのインビボ投与が抗炎症性効果を媒介するということを特定した。特に、サイトカインIL−27の発現が観察される。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、IL−27は樹状細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞によって発現されると推測する。抗原提示細胞によるIL−27の発現は、得られるT細胞反応を、ある場合には、自己免疫性炎症状態および慢性炎症状態を媒介する自己反応性T細胞となることができるTh1およびTh17表現型を有するT細胞の増加から逸らせる。
【0010】
さらには、本発明者らは、Tri−DAPは、生産の容易さのため、治療薬として興味深いということを特定した。さらに、その低分子量のため、本発明者らは、TriDAPは、ヒトに投与されたとき著しく免疫原性となる可能性は低いということを特定した。多発性硬化症などの自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置のための現在の治療法は、ステロイドおよび他のNSAIDの使用に主に焦点が当てられているが、このステロイドおよび他のNSAIDは、非特異的であり重篤な副作用を有する。特に、あるそのような処置は、主としてTNF−アルファの発現または機能活性を抑制するように作用する。例えば、モノクローナル抗体インフリキシマブ(レミケード)はTNF−アルファの機能を標的にする。ある患者においては有効であるが、このような抗TNF−アルファ処置は、ある患者、またはある自己免疫状態を処置する場合には有効でない可能性があり、またはさらに、望ましくない副作用の発生を生じる可能性もあると考えられる。それゆえ本発明者らは、Th1および/またはTh17媒介性の疾患および状態、特に、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞の出現に起因して異常なTh1および/またはTh17反応が起こる場合に起こる自己免疫状態または免疫媒介性の状態の処置における本発明の有用性を特定した。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって引き起こされる自己免疫疾患を処置または予防する方法であって、
− ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を含む組成物の治療上有効量を準備する工程と、
− このような処置を必要とする対象に、ヘルパーT17型リンパ球(Th17 T細胞)および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1 T細胞)の活性化を抑制するのに十分な量で当該組成物を投与する工程と、
を含む方法が提供される。
【0012】
ある実施形態では、この組成物は、ヘルパーT17型リンパ球(Th17)媒介性免疫応答およびヘルパーT1型リンパ球(Th1)媒介性免疫応答の両方を抑制する。
【0013】
ある実施形態では、この自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫疾患は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患である。「自己反応性T細胞」は、特に自己抗原に特異的である細胞系譜Th1(CD4+ Th1 ヘルパーT細胞)、またはTh17(CD4+ ヘルパーT細胞)のT細胞(Tリンパ球)を意味し、「自己抗原」は宿主によって発現される抗原であり、その宿主のT細胞集団は、通常の恒常性の状態の下では、通常はその抗原に対して耐容性がある(すなわち、免疫応答を導かない)はずである。
【0014】
ある実施形態では、この自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎を含む)、1型糖尿病および乾癬からなる群から選択されうるが、これらに限定されない。
【0015】
ある実施形態では、当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物はTri−DAPである。Tri−DAPは、TriDAP、TriDAP、L−Ala−γ−D−Glu−mDAPまたはL−Ala−D−Glu−mesoDAP)とも表されてもよい。またTriDAPは、L−アラニル−γ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸と呼ばれてもよい。TriDAPは、iE−DAPジペプチド(γ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸)およびL−Ala(アラニン)残基を含むトリペプチドである。Tri−DAPは化学式C16H26N4O8を有する。Tri−DAPはおよそ390.39kDaの分子量を有する。本願明細書で定義される「mesoDAP」はメソ−ジアミノピメレートに関する。用語「ジアミノピメリル」は、ペプチド鎖へのmesoDAPの組み込みを指す。
【0016】
Tri−DAPは、下記の式1aに示される分子構造を有する。
【化1】
【0017】
Tri−DAPは、下記の式1bに示される化学構造を有する。
【化2】
【0018】
あるさらなる実施形態では、当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物は、M−TriDAP(MurNAc−L−Ala−γ−D−Glu−mDAP)であることができ、この化合物はDAP含有ムラミルトリペプチド(ムラトリペプチド(muratripeptide))とも呼ばれ、これは、グラム陰性菌の中で見出すことができる、ペプチドグリカン(PGN)分解生成物である。
【0019】
M−TriDAPは下記の式IIに示される分子構造を有する。
【化3】
【0020】
当該ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物がムロペプチドを含むあるさらなる実施形態では、このムロペプチドは、ムロテトラペプチド(murotetrapeptide)、例えばGM−TRIDAP(GlcNAc−MurNAcトリペプチドムロペプチド)であってもよい。
【0021】
あるさらなる実施形態では、このムロテトラペプチドは、式IIIのM−TetraDAPであってもよい。
【化4】
【0022】
ある実施形態では、本発明のジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物に基づいて合成類似体が与えられてもよい。さらには、ある実施形態では、本願明細書中で以降に記載されるように、本発明で使用するためのこの化合物のペプチド模倣薬が、適切な場合には、調製されてもよい。
【0023】
ある実施形態では、本発明のこの態様の方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を当該対象に投与する工程をさらに含むことができる。このToll様受容体(TLR)作動薬は、本発明のこの態様の組成物の投与の前に、投与とともに(同時に)、または投与後に(連続的に)投与されてもよい。
【0024】
ある実施形態では、このTLR作動薬は、薬学的に許容できるTLR作動薬である。このTLR作動薬は、いずれかの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9のうちの少なくとも1つについてのリガンドである。ある実施形態では、このTLR作動薬は、樹状細胞によるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0025】
本発明のさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患の処置および/または予防における使用のための医薬組成物であって、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を、意図された投与経路に応じて選択することができる少なくとも1つの薬学的賦形剤、希釈剤または担体とともに含む組成物を提供する。
【0026】
本発明の種々のさらなる態様では、本発明の組成物および方法は、インターロイキン17(IL−17)、インターフェロンガンマ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)を含む群から選択されるサイトカインのうちの少なくとも1つの産生を抑制または阻害するために使用することができる。ある実施形態では、本発明の組成物および方法は、IL−27、IL−10およびIL−35から選択される少なくとも1つのサイトカインの産生をさらに増強する可能性がある。
【0027】
インターロイキン17、インターフェロンガンマまたは腫瘍壊死因子などのサイトカインは、いくつかの病状および特に自己免疫状態の発生において明確な役割を有する。従って、種々のさらなる態様では、本発明は、上記病状を処置、予防または改善するために、TriDAPまたは関連する化合物を、対象に、治療上有効量で投与することに及ぶ。
【0028】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置または予防における使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを提供する。
【0029】
ある実施形態では、このジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである。ある実施形態では、上記自己免疫疾患は多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、上記慢性炎症性疾患は炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される。
【0030】
ある実施形態では、この使用は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を当該対象に投与することをさらに含む。この少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬であることができる。このToll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODM)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択することができる。
【0031】
当該組成物は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含んでもよく、このERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126であってもよい。
【0032】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製におけるジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドの使用を提供する。
【0033】
ある実施形態では、この医薬は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬(TLR作動薬)をさらに含んでもよいし、または少なくとも1つのToll様受容体作動薬(TLR作動薬)とともに投与されてもよい。このTLR作動薬は、いずれの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9についての特異性を有する。ある実施形態では、このTLR作動薬は、DCによるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、本願明細書に記載される実験法に基づいて、TriDAPの投与によって樹状細胞からのIL−27産生を引き起こすことができるということを観察した。しかしながら、IL−27および少なくとも1つのTLR作動薬の両方の同時投与は、相乗的に作用して、樹状細胞などの抗原提示細胞によるIL−17の産生を実質的に増強するということが観察される。
【0034】
ある実施形態では、この医薬は、少なくとも1つのERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)阻害剤をさらに含んでもよいし、または少なくとも1つのERK阻害剤とともに投与されてもよい。理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、本願明細書中上記の本発明の組成物の一部として、またはその組成物と同時に少なくとも1つのERK阻害剤をさらに投与することで、IL−27サイトカイン産生を上方制御することができるということを推測する。ERK阻害剤の投与は、樹状細胞によるIL−23およびIL−1サイトカインの産生を抑制することにより、EAEを軽減することができるということがさらに観察された。少なくとも1つのERK阻害剤の投与は、本発明の組成物が本願明細書中上記のTLR作動薬とともに投与されるかどうかにかかわらず、IL−27の上方制御をもたらした。ある実施形態では、このERK阻害剤は、ERKタンパク質キナーゼの阻害剤であり、PD98059またはU0126を含む群から選択されうるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のなおさらなる態様は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置または予防することにおける使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物を提供する。
【0036】
ある実施形態では、この組成物は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含んでもよい。このTLR作動薬は、いずれかの明確なヒトToll様受容体に特異的であってもよい。特定の実施形態では、このTLR作動薬はTLR2、TLR4またはTLR9についての特異性を有する。ある実施形態では、このTLR作動薬は、DCによるIL−27産生を誘導することができるものであることができる。さらなる実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0037】
本発明の種々のさらなる態様では、本発明の化合物を、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはサイトカイン阻害剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とともに含む組み合わせ医薬(combined medicament)が提供される。このような組み合わせ医薬は、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための本発明の方法で使用されてもよい。
【0038】
本発明のなおさらなる態様では、自己免疫疾患を処置する方法であって、NOD−1発現性または応答性の細胞および/または組織(例えば、抗原提示細胞、特に樹状細胞)において機能を調節する(例えば、NOD−1の1以上の生物活性を調節する)ことを含む方法が提供される。この方法は、Th1および/またはTh17媒介性免疫応答が抑制されるように、つまりTh1もしくはTh17表現型を有するT細胞の活性化またはTh1もしくはTh17 T細胞へのナイーブなCD4+ T細胞の分化が低下または阻害されるように、NOD−1応答性細胞または組織の機能(または、その細胞もしくは組織におけるNOD−1の生物活性)を調節するのに十分な量のNOD−1調節因子、例えばNOD−1結合剤(例えばジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物)に、このNOD−1応答性細胞および/またはNOD−1応答性組織を接触させることを含む。1つの実施形態では、この接触させる工程は、インビトロで、例えば細胞ライゼートの中または再構成された系の中で行うことができる。あるいは、当該方法は、培養中の細胞に対して、例えば、インビトロまたはエキソビボで行うことができる。例えば、細胞(例えば、精製された細胞または組み換え細胞)はインビトロで培養することができ、上記接触させる工程は、当該NOD−1調節因子をその培地に加えることによって行うことができる。典型的には、このNOD−1応答性細胞は哺乳類の細胞、例えばヒトの細胞である。いくつかの実施形態では、このNOD−1応答性細胞は、樹状細胞などの抗原提示細胞、またはそれに関連する細胞集団(前駆体細胞など)である。他の実施形態では、当該方法は、例えばインビボプロトコルの一部として、対象の中に存在する細胞に対して、すなわち動物対象(例えば、ヒト対象、またはインビボ動物モデルを含む)の中で実施することができる。このインビボプロトコルは、治療的であってもよいしまたは予防的であってもよく、この炎症モデルは、例えばEAEモデル、または遺伝子組み換えモデル(例えば、過剰発現されたNOD−1、またはNOD−1の変異もしくは欠失を有する動物モデル)であることができる。インビボ方法について、当該NOD−1調節因子は、単独でまたは別の薬剤と組み合わせて、多発性硬化症、関節リウマチ、または乾癬などの自己免疫疾患に罹患している対象に、当該対象において1以上のNOD−1によって媒介される活性または機能、典型的には炎症促進性の免疫応答、もっと具体的に言えば、慢性炎症性疾患または多発性硬化症などの自己免疫疾患の発症および進行を生じる可能性があるTh1細胞(Th1 Tリンパ球としても知られる)および/またはTh17 Tリンパ球によって媒介される炎症促進性の(pre−inflammatory)免疫応答を調節するのに十分な量で、投与することができる。いくつかの実施形態では、投与されるNOD−1調節因子の量または投薬量は、NOD−1活性(例えば、本願明細書に記載される1以上のNOD−1生物活性)のうちの1以上を変える、例えば減少または阻害するのに必要とされるNOD−1調節因子の量をインビトロまたはエキソビボで試験することにより、投与に先立って決定することができる。任意に、インビボ方法は、自己免疫障害または自己免疫の状態に関連する1以上の症候を有するか、または有するリスクにある対象を同定する(例えば、評価する、診断する、スクリーニングする、および/または選択する)工程を含むことができる。
【0039】
本発明のあるさらなる態様では、NOD−1調節因子、特に、Th1 Tリンパ球細胞および/またはTh17 Tリンパ球細胞によって媒介される炎症促進性の免疫応答を抑制するNOD−1作動薬化合物の、自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製における使用が提供される。
【0040】
本発明のなおさらなる態様は、自己反応性のTh1またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置することにおける使用のための、Th1 Tリンパ球細胞および/またはTh17 Tリンパ球細胞によって媒介される炎症促進性の免疫応答を抑制するNOD−1調節因子化合物を提供する。
【0041】
ある実施形態では、このNOD−1調節因子は、ペプチドγ−D−グルタミル−メソ−ジアミノピメリン酸(iE−DAP)、またはTri−DAP、またはM−TriDAPまたはその類似体、誘導体もしくはペプチド模倣薬を含む。
【0042】
本発明のなおさらなる態様は、IL−23およびIL−17サイトカインのレベルおよび/または産生を阻害することによる自己免疫疾患の処置のための医薬の調製における、IL−27産生を増強するためのNOD−1調節因子の使用を提供する。特に、樹状細胞などの抗原提示細胞、またはT細胞によるIL−23および/またはIL−17の産生が抑制される。
【0043】
本発明のなおさらなる態様は、Th1およびTh17に関連するサイトカインIFN−γ、TNF−α、およびIL−17のうちの少なくとも1つの産生を阻害または下方制御するために、表現型Th1またはTh17の自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫疾患を有する対象に投与することにおける使用のための、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドを含む組成物を提供する。
【0044】
種々のさらなる態様では、本発明は、本発明の治療方法を実施するためのキットを提供する。このようなキットは、1以上の容器の中に、薬学的に許容できる形態の治療上または予防上有効量の本発明の組成物を含んでもよい。このようなキットは、本発明の組成物の使用についてまたは本発明の方法の実施についての説明書をさらに含んでもよいし、または慢性炎症性疾患または自己免疫疾患を処置することにとって適切な情報を医師に提供するためのさらなる情報を提供してもよい。
【0045】
本発明のなおさらなる態様は、自己免疫疾患または慢性炎症状態の処置のためにIL−17の産生を低下させるための、TriDAPもしくはその類似体を含むかまたはTriDAPもしくはその類似体からなる組成物の使用を提供する。ある実施形態では、この組成物は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む。この組成物は、IL−27サイトカインのレベルをさらに増強する可能性があり、またTNF−アルファおよびIFN−ガンマのレベルのうちの少なくとも1つを低下させる可能性があり、IL−10レベルをさらに増強する可能性がある。サイトカインレベルの調節は、試料(細胞上清など)の中のサイトカインの存在および量を定量するためのELISA検定など、当業者にとっては周知である技術を使用して、当業者が測定することができる。
【0046】
種々のさらなる態様では、本発明は、患者がヒトである上記の態様または実施形態のいずれかに係る、方法、組み合わせ、薬剤、使用、パーツのキットのシステムに及ぶ。
【0047】
なおさらなる態様では、本発明は、本願明細書に記載される、患者における、自己反応性のTh1および/もしくはTh17細胞によって引き起こされるか、またはIL−17によって媒介される免疫反応から引き起こされる自己免疫状態または慢性炎症性疾患を処置するいずれの新規な方法にも及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】NOD1作動薬Tri−DAPのインビボ投与が、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減するということを示す。
【図2】NOD1作動薬Tri−DAPが実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減するということを示す。
【図3】NOD1作動薬Tri−DAPが、MOGおよびCFAを用いた免疫化によって誘導されるEAEの間、MOG特異的炎症性サイトカインを抑制するということを示す。
【図4】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFN−γを発現するCD3+ T細胞を抑制するということを示す。
【図5】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFNγを発現するCD3+ CD4+ T細胞を抑制するということを示す。
【図6】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAEを有するマウスの脳において、IL−17を発現するおよびIFN−γを発現するCD3+ CD4+ T細胞を抑制するということを示す。
【図7】NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、EAE誘導の72時間後に、マウスの鼠径リンパ節におけるEBI3 mRNA発現を増強するということを示す。
【図8a】NOD−1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、DCにおける、LPSによって誘導されるEBI3の遺伝子発現を増強するということを示す。
【図8b】NOD−1作動薬Tri−DAPを用いた処置が、DCにおける、LPSによって誘導されるIL−27p28の遺伝子発現を増強するということを示す。
【図9a】ERKの阻害が、DCにおけるEBI3の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強するということを示す。
【図9b】ERKの阻害が、DCにおけるIL−27p28の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強するということを示す。
【図10a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図10b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図11a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導されるDCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図11b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はp38活性化に依存するということを示す。
【図12a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図12b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、LPSによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図13a】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−12p40およびIL−12p70の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図13b】Tri−DAPを用いた処置後の増強された、CpGによって誘導される、DCによるIL−23およびIL−10の産生はERK活性化に部分的に依存するということを示す。
【図14】Nod−1作動薬Tri−DAPによって処置されたSJLマウスの臨床スコアを示す。
【図15】図15Aは、脾臓細胞におけるIFN−ガンマおよびIL−17発現を示す。図15Bは、リンパ節におけるIL−17の産生を示す。
【図16】図16AはTriDAPを用いて処置されたマウスおよびTriDAPを用いずに処置されたマウス由来の腹腔滲出細胞の上清におけるIL−10発現を示し、一方、図16BはTGF−ベータの発現を示す。
【図17】PBSまたはTriDAPによって処置されたマウス由来の、TLR作動薬によって活性化された脾臓細胞の上清におけるサイトカインIL−10、IL−27およびTGF−βの発現レベルおよびケモカインMIP−1αの発現レベルを表す4つのグラフを示す。IL−10およびIL−27の発現レベルは、TLR作動薬を用いたインビトロ刺激後に、TriDAPで処置されたマウス由来の脾臓細胞で増強されることがわかる。
【図18】T細胞によるインターフェロンガンマの産生は、TriDAP処置されたマウスから得られた抗原提示細胞を用いて刺激されたときは、対照マウスから得られ抗原提示細胞と比べて低いということを示す。
【図19】TriDAPとともにおよびTriDAPを伴わずに抗原およびLPSをパルスされた樹状細胞によって刺激された抗原特異的T細胞によるIL−17発現レベルを示すグラフを示す。
【図20】図20Aは、LPSとともにおよびLPSを伴わずにTriDAPを用いて刺激されたヒト由来の樹状細胞におけるIL−27発現レベルを示し、一方、図20Bは同じ細胞集団におけるIL−10発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明者らは、驚くべきことに、NOD1作動薬、Tri−DAPの投与後の、誘導された自己免疫疾患EAEの重症度の低下、およびEAEの発症の遅れを特定した。EAEの重症度の低下は、Th1およびTh17細胞媒介性反応の低下と相関していた。EAEはCNSの自己免疫疾患であり、MSの動物モデルである。従って、EAE動物モデルにおける実験から得られる結果は、ヒト対象における多発性硬化症の処置の推定へとつなげることができる。Tri−DAP含有化合物は、T細胞のサブセット自体、またはこのようなT細胞の分化および活性化を引き起こすサイトカインによって推進される免疫応答のいずれかによって引き起こされる病理に起因して、異常なTh1およびTh17 T細胞反応によって媒介される自己免疫疾患および慢性炎症性疾患(多発性硬化症など)などの状態の寛解において有用性を有するということを、本発明者らは特定した。
【0050】
理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、自己免疫疾患発症の時および/または自己免疫疾患発症後のTri−DAPの投与ののちに生じる、マウスにおけるEAEおよびヒトにおけるEAEなどの自己免疫状態の原因となるTh1およびTh17媒介性炎症促進性の免疫応答の下方制御は、T細胞媒介性免疫応答を誘導する上での抗原提示細胞、特に樹状細胞(DC)の活性の調節によって媒介されると推測する。特に、TriDAPの投与は、抗原提示細胞の機能が、抗原提示細胞の表面上でのMHCクラスII発現の低下、およびそれゆえT細胞への抗原の提示の低下が原因で改変されるということを引き起こす。さらには、サイトカインIL−27の発現が増大する。TriDAPとともに少なくとも1つのToll様受容体作動薬を同時投与すること(つまり、TriDAPの投与に連続して、またはTriDAPの投与の後で)により、樹状細胞によるIL−27の発現は相乗的にさらに増強される。それゆえTriDAPへの曝露後の抗原提示細胞の挙動の調節によって、抗原提示細胞がメモリーT細胞を活性化する能力、またはナイーブなCD4+ T細胞の、Th1またはTh17表現型を有するT細胞への分化を引き起こす能力の低下を生じる。
【0051】
本発明者らは、驚くべきことに、Tri−DAPまたは関連するジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物などのNOD−1作動薬がNOD−1に結合した後にNOD−1によって媒介されるシグナル伝達は、抗炎症性の免疫応答を媒介するサイトカインプロファイルの産生を生じるということを特定した。本発明者らによるこの観察は、まったく予想されていなかった。というのも、NOD−1作動薬によるNOD−1の刺激は、炎症促進性の免疫応答を媒介するであろう、NOD−1発現細胞によるサイトカインプロファイルの発現をもたらすであろうというのが、当該分野で受け容れられた定説であるからである。
【0052】
さらに、本発明者らは、少なくとも1つのTLR作動薬の存在下でのTri−DAPと抗原提示細胞(樹状細胞など)との相互作用は、抑制性(つまり、抗炎症性)のサイトカインIL−10およびIL−27の産生を増強するということを特定した。本発明者らはさらに、TriDAP投与後の樹状細胞によるIL−10および/またはIL−27の産生の増強は、Th1およびTh17媒介性T細胞反応の抑制、ならびに処置後のCNSへのTh1およびTh17の細胞浸潤の低下を生じると推測する。それゆえ疾患の進行および病理は低減する。
【0053】
APCに対するTri−DAPのこの観察された活性を、本発明者らは、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患(クローン病および/または潰瘍性大腸炎を含む)ならびに1型糖尿病などの(これらに限定されない)自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防における有用性を有すると特定した。IL−10およびIL−27の両方の発現は、1型糖尿病の発症と関連しているということが公知である(BettiniおよびVignali.Current Opinion in Immunology. 2009.21.612−618)。関節リウマチは、TNF−a、IL−6およびIL−1などの炎症促進性サイトカインが支配的な病理学的役割を果たす慢性の自己免疫疾患である。さらに最近では、IL−17は、RAの誘導および維持において重要なさらなる役割を果たすということが示唆されている。IL−17はヘルパーT細胞(Th17細胞)によって主に産生される。TNF−αは、T細胞をTh17表現型に向けて分化させる能力をDCに授けることにより、IL−17の産生を推進するということがインビトロで示されている。驚くべきことに、本発明者らは、TriDAPは抗原をT細胞に提示するという樹状細胞の能力を低下させるということを示した。さらには、TriDAPは、Th17表現型に向かうナイーブT細胞の分化を防止するIL−27の産生を誘導する。従って、IL−10およびIL−27などのサイトカインの産生を刺激する上で、TriDAPは、T細胞によるIL−17およびIFN−γの産生の重要な負の制御因子であるということが示されており、それゆえ本発明者らは、これは、Th17およびTh1の反応の強度および/または継続期間を限定する負のフィードバックループの一部を形成し、それゆえ関節リウマチの処置のための新規な治療アプローチを提供するということを提案する。
【0054】
L−ala−γ−D−Glu−mDAP(Tri−DAP)は、NOD1(NOD−1)によって特異的に認識されるグラム陰性菌のペプチドグリカンの中に存在するジアミノピメリン酸含有トリペプチドである。これまでに触れたように、NOD1は、DCなどのAPCの細胞質に位置するPRRであり、これは、リガンド結合の際に、微生物の病原体関連分子構造(PAMP)に対する免疫応答を開始する上で主に機能を果たす。PRRリガンド結合に反応してAPCによって開始される免疫応答の種類は、動員されるAg特異的T細胞集団のその後の種類を決定する上で、鍵となる役割を果たす。NOD1リガンド結合は、通常、MAPKファミリーおよび転写因子NF−κBのメンバーの活性化と関連している。
【0055】
本発明者らは、Tri−DAPを含む組成物の投与は、自己免疫疾患、特に、マウスにおけるEAE疾患モデルによって例示されるとおりの、自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫状態の疾患の重症度および進行の低下をもたらすという驚くべき観察を行った。従って、ある実施形態では、本発明は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防を必要とする対象における、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の処置および/または予防のための、Tri−DAP、またはその合成もしくは非合成の類似体を含有する組成物の治療上有効量の投与に及ぶ。さらなる実施形態では、Th1およびTh17媒介性免疫応答の阻害または下方制御から生じた、臨床疾患スコア(clinical disease score)および疾患の重症度の低下が、EAE疾患モデルを提示するマウスで見られる。
【0056】
IL−27は、インビボでEAEのエフェクター相を強力に抑制することができるp28およびEBI3から構成される抑制性サイトカインであり、従って、MSなどの自己免疫疾患に関する治療上の潜在性を有するとして同定されてきた(Fitzgeraldら、2007)。IL−27は、抗原提示細胞によって産生され、そして単球/マクロファージ、樹状細胞、TおよびB細胞、ナチュラルキラー細胞、マスト細胞、および内皮細胞によって発現されるその受容体、IL−27Rを介してシグナル伝達する。IL−27R欠損マウスにおけるより重篤な疾患によって実証されるように、IL−27は、EAEにおいて抑制的な役割を果たすということが示されている。外因性のIL−27は、脳炎惹起性のリンパ節脾臓細胞がEAEを移植する能力を強力に抑制した。IL−27は、IL−23によって推進されるミエリン反応性T細胞によるIL−17産生を著しく阻害し、これにより養子移植EAEにおけるこのT細胞の脳炎惹起性を抑制した。さらには、皮下の浸透圧ポンプによって送達されるとき、インビボでの活性なEAEに対するIL−27の強い抑制効果が実証された。IL−27で処置されたマウスは、CNSの炎症性浸潤および、注目すべきことに、より低い割合のTh17細胞を減少させた。
【0057】
本発明において、本発明者らは、驚くべきことに、インビトロでのTLR作動薬、またはインビボでの適切なアジュバントと併用したTri−DAPを含有する化合物の投与が、BMDCによるIL−17の産生の増強をもたらすということを観察した。従って、本発明のある実施形態では、Tri−DAPを含有する組成物は、薬学的に許容できるTLR作動薬と併用して投与されてもよい。
【0058】
ある実施形態では、このToll様受容体(TLR)作動薬は、TLR2、TLR4またはTLR9に特異的である。TLR2受容体は、Toll様受容体1またはToll様受容体6と結合して見出されるヘテロ二量体である。細菌性リポペプチドは、TLR2含有受容体についての主要な作動薬である。TLR2作動薬の例としては、マイコプラズママクロファージ活性化リポタンパク質2、高純度の可溶性ペプチドグリカン、リポテイコ酸、Borrelia burgdorferi(ボレリア・ブルグドルフェリ)由来の外膜プロテインA、トリパルミトイル−システイニル−セリル−(リジル)3−リジン(Pam3CSK4、P3CSK4)、ジパルミトイル−CSK4(Pam2CSK4、P2−CSK4)、およびモノパルミトイル−CSK4(PCSK4)ならびにリポ多糖および不活化細菌が挙げられるが、これらに限定されない。TLR4についての古典的な作動薬は、細菌性リポ多糖(LPS)であり、これはリピドAなどを含有する物質のファミリーを指す。LPSの例示的な形態は、E.coli B:O111(Sigma Chemicals)である。より毒性が低いTLR4作動薬は、モノホスホリルリピドA(MPL)化合物である。合成のアジュバントASO2(GlaxoSmithKline、英国)はMPLを構成要素として含有する。
【0059】
CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)などの免疫促進性オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、TLR9についての典型的な作動薬である。より一般的に言えば、それらはオリゴデオキシヌクレオチドの免疫促進性配列(ISS−ODN)と呼ばれる。なぜなら、多くの免疫促進性オリゴヌクレオチド(ODN)はCpGモチーフを含有しないからである。典型的には、このODNは、合成のチオホスホリレート(thiophosphorylate)に連鎖した化合物である。しかしながら、細菌のDNA、リポソーム性の脊椎動物のDNA、昆虫のDNA、クラミジアポリヌクレオチドなどを含めた多くの種類のDNAおよびRNAは、TLR9を活性化することができる。
【0060】
典型的には、このTLR作動薬は、樹状細胞によるIL−27産生を誘導することができるTLR2、TLR4またはTLR9の作動薬である。ある実施形態では、このTLR作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)を含めたCpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysのうちのいずれか1以上から選択されてもよい。
【0061】
あるさらなる実施形態では、Tri−DAP含有化合物の投与は、少なくとも1つのERK阻害剤の投与を伴ってもよい。このERK阻害剤は、Tri−DAP含有化合物の投与と同時にまたはその投与に連続して与えられてもよい。本願明細書中上記の少なくとも1つのTLR作動薬は、Tri−DAP含有化合物およびERK阻害剤とともに投与されてもよい。
【0062】
Th1細胞は、マクロファージの殺菌活性を活性化し、CD8+細胞傷害性T細胞の増殖を推進することによって細胞内感染に対する防御をもたらすが、炎症反応および自己免疫障害とも関連する。炎症促進性のメディエーターとして、過剰なTh1細胞反応はその宿主にとって有害である可能性がある。Th1分極因子としてはIL−12、IL−18、I型インターフェロンおよび細胞表面に発現された細胞接着分子1(ICAM1)が挙げられる。Th1細胞はサイトカイン、特にIFN−γを産生する。Th17細胞は、早期の組織特異的炎症反応に関与して、好中球の動員および活性化をもたらすと考えられる。加えて、Th17細胞は、自己免疫の特定の強力な誘導因子として最近同定された。これまで関係があるとされたTh17分極因子としては、IL−23、IL−6、IL−1、IL−21およびTGF−βが挙げられる。Th17細胞は、サイトカイン、特にIL−17だけでなくIL−22およびTNF−αも産生する。
【0063】
本発明の本発明者らは、驚くべきことに、Tri−DAPを含有する化合物を自己免疫疾患に罹患している動物に投与することで、Th1およびTh17に関連するサイトカイン、それぞれIFN−γおよびTNF−α、ならびにIL−17の産生の阻害または下方制御がもたらされるということを観察した。従って、ある実施形態では、本発明におけるTri−DAP処置後のTh1およびTh17媒介性免疫応答の抑制は、IFNγ、TNFαおよびIL−17を含む群からの少なくとも1つのサイトカインの阻害または下方制御をもたらす。あるさらなる実施形態では、本発明におけるTri−DAP処置後のTh1およびTh17媒介性免疫応答の抑制は、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の間にCNSに浸潤する、IFNγおよびIL−17を産生するT細胞の数の減少をもたらす。
【0064】
(ペプチド模倣薬および合成の類似体)
ペプチド模倣薬またはペプチド模倣体などのペプチド類似体は、鋳型ペプチドを表す特性を有する非ペプチド化合物である。このようなペプチド類似体は、典型的にはコンピューターによる分子モデリングを使用して開発される。NOD1への親和性および結合特異性を有するペプチド(TriDAPなど)に構造的に類似するペプチド模倣薬が、このようなTh1およびTh17阻害機能を有すると判定されるポリペプチドおよびタンパク質に類似の予防的および治療的効果を媒介するために使用されてもよい。
【0065】
ペプチド模倣薬は、典型的には、鋳型ペプチドに構造的に類似しているが、1以上のペプチド結合が当該技術分野で周知の方法によって別の結合に置き換えられている。例えば、NOD1エピトープ(TriDAPなど)への結合特異性を有するペプチドは、それがアミド結合の置換、非ペプチド部分の組み込み、または骨格環化を含むように改変されてもよい。適切には、システインが存在する場合には、この残基のチオールは、遊離の硫酸基の損傷を防止するためにキャップ(保護)されてもよい。ペプチドは、さらに、プロテアーゼの攻撃から当該ペプチドを保護するように、天然の配列から改変されてもよい。
【0066】
従って、本発明でNOD1作動薬として使用されるペプチド化合物は、C末端および/もしくはN末端のキャッピング、ならびに/またはシステイン残基のキャッピングのうちの少なくとも1つを使用してさらに改変されてもよい。さらには、本発明で使用するためのペプチドは、N末端残基で、アセチル基を用いてキャッピングされてもよい。適切には、本発明のおよび本発明で使用するためのペプチドは、C末端で、アミド基を用いてキャッピングされてもよい。適切には、システインのチオール基は、アセトアミドメチル基を用いてキャッピングされる。
【0067】
(Tri−DAPの類似体、誘導体、模倣体、およびバリアント)
本発明は、本発明で使用するためのTri−DAP含有組成物の類似体、誘導体、断片、およびバリアントに及ぶ。本願明細書で定義される場合のTri−DAPの誘導体、断片またはバリアントは、Tri−DAPの観察される免疫抑制性を呈する、部分Tri−DAPからなるいずれの化合物、分子または高分子をも意味すると理解される。このような誘導体、断片またはバリアントは、当業者に公知のいくつかの技術のうちのいずれか1つを使用して、当業者が調製してよい。このような断片、バリアント、類似体または誘導体は、自然免疫系の細胞に対して作用するときに、Tri−DAP含有組成物と同一または実質的に類似の生物学的機能を媒介する。従って、本発明はさらに、Tri−DAPおよびM−TriDAP含有組成物の使用に加えて、このような化合物の相同体および類似体の使用を包含することが意図される。これに関して、相同体は、上記の化合物に対する実質的な構造上の類似性を有する分子であり、類似体は、構造上の類似性にかかわらず実質的な生物学的類似性を有する分子である。
【0068】
あるさらなる実施形態では、本発明の化合物は、特定のアミノ酸残基の交換または置換によって調節されてもよい。よく理解されているとおり、アミノ酸レベルの相同性は、一般に、アミノ酸の類似性または同一性の観点による。類似性は、1つの疎水性残基を別の疎水性残基で置換すること、または1つの極性残基を別の極性残基で置換することなどの「保存的変異(conservative variation)」を許容する。
【0069】
非ペプチド模倣体は、本発明の範囲内で提供される。ある実施形態では、本発明の化合物は、アラニン(ala、A)残基をセリン(ser、S)残基またはバリン(val、V)残基で置き換えることによって改変することができる。あるさらなる実施形態では、グルタミン酸(glu、E)残基は、アスパラギン酸(Asp、D)残基で置き換えられてもよい。
【0070】
(組み合わせ医薬)
本願明細書中で上に記載したとおり、ある態様では、本発明は、本発明の組成物または方法が、抗原提示細胞、特に樹状細胞の活性を調節するさらなる化合物の投与に及ぶ併用療法に及び、このさらなる化合物は、少なくとも1つのTLR作動薬および/または少なくとも1つのERK MAPKの阻害剤と組み合わせて投与される。
【0071】
典型的には、一次治療用および二次治療用組成物は、同時に与えられる。ある実施形態では、一次治療用組成物(すなわち、APCの機能活性を調節する化合物)および二次治療用組成物(これは、例えばTLR作動薬であってよいであろう)は同時に投与される。あるさらなる実施形態では、それらは連続的に投与される。
【0072】
ある実施形態では、この併用療法は、Tri−DAP、またはその合成もしくは非合成の類似体またはペプチド模倣薬を含有する組成物を含んでもよく、これは、下記のもののうちの少なくとも1つとともに、対象に同時投与される:TLR作動薬(TLR2、TLR4もしくはTLR9に特異的な作動薬など)、サイトカイン阻害剤(例えば、IL−1、TNF−α、IL−17、IFN−γ、IL−23、IL−6、TGF−βおよびIL−12の阻害剤であるが、これらに限定されない)、ERK阻害剤(PD98059またはU0126など)、成長因子阻害剤、免疫抑制薬(抗体など)、抗炎症薬、酵素阻害剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症薬、代謝阻害剤、細胞傷害性薬物または細胞分裂抑制剤。
【0073】
併用療法の投与は、関連する治療上有効な効果を成し遂げるために、対象に、より少ない治療用量を投与することを可能にするという点で、対象への併用療法の投与は有利である可能性があるということを、当業者は認識しているはずである。より少ない併用用量の投与は、その対象が、投与された化合物に由来するより低い毒性レベルにしか曝露されないということをもたらす。さらには、本発明によって提供される併用療法の一部として投与される二次治療用化合物は異なる経路を標的とするため、その治療の全体的な有効性が相乗的に改善される可能性が高い。有効性の改善は、より低い用量しか投与される必要がないということをもたらし、従って関連する毒性の低下をもたらすであろう。
【0074】
(医薬組成物)
本発明は、APC活性の調節を通して自己免疫疾患または慢性炎症性疾患におけるTh1およびTh17細胞媒介性反応を阻害または下方制御する化合物を含む医薬組成物に及ぶ。本発明に係る、および本発明に係る使用のための医薬組成物は、活性成分(すなわち、Th1およびTh17細胞の阻害剤)に加えて、当業者にとっては周知である薬学的に許容できる賦形剤、担体、緩衝液 安定剤または他の物質を含んでもよい。適切な医薬担体の例としては、水、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。
【0075】
本発明の組成物は、いずれの適切な経路を介して、処置を必要とする患者に投与されてもよい。本願明細書に詳述するとおり、当該組成物が非経口投与されることが好ましい。非経口投与用の好ましい経路の例は、静脈内、心臓内、動脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、経粘膜、吸入または経皮が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
投与経路としては、局所的および経腸的、例えば、経粘膜(肺を含む)、経口、鼻内、経直腸をさらに挙げてもよい。製剤は、液体、例えば、pH 6.8〜7.6の非リン酸緩衝液を含有する生理食塩水、または凍結乾燥された粉末もしくはフリーズドライの粉末であってもよい。
【0077】
ある実施形態では、この組成物は、注射用組成物として送達可能である。静脈内注射については、当該活性成分は、発熱物質を含まずかつ適切なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容できる水溶液の形態にあることになろう。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液または、乳酸加リンゲル液などの等張性媒体を使用して適切な溶液を調製することが十分にできる。防腐剤、安定剤、緩衝液、抗酸化剤および/または他の添加剤を、必要に応じて含めてよい。
【0078】
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末または液体の形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含んでもよい。液体の医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水溶液、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグルコールを含めてもよい。
【0079】
上で触れた技術およびプロトコルならびに本発明に従って使用されてもよい他の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、Gennaro,A.R.、Lippincott Williams & Wilkins;第20版 ISBN 0−912734−04−3およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems;Ansel,H.C.ら、第7版 ISBN 0−683305−72−7に見出すことができ、これらの文献の開示全体は、参照により本願明細書に援用したものとする。
【0080】
当該組成物は、特定の組織(血液を含む)に置かれたミクロスフェア、リポソーム、他の微粒子送達システムまたは徐放性製剤を介して投与されてもよい。
【0081】
投薬治療方式としては、本発明の組成物の単回投与、または当該組成物の複数回投与用量を挙げることができる。この組成物は、処置するために本発明の組成物が投与される状態の処置のために使用される他の治療薬および医薬と連続的にまたはそれらとは別個に、さらに投与することができる。
【0082】
投与される現実の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、処置しようとするものの性質および重症度によることになろう。処置の処方、例えば投薬量の決定などは、最終的には、一般開業医および他の医師の職責の範囲内であって一般開業医および他の医師の判断によるが、典型的には、処置されるべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および医師にとって公知の他の要因が考慮される。
【0083】
(定義)
特に定義されない限り、本願明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の分野の当業者が通常理解する意味を有する。
【0084】
本願明細書全体を通して、文脈上、明らかに別様の解釈が必要になる場合を除き、用語「含む(comprise)」もしくは「含む(include)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む、含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」もしくは「含む、含んでいる(including)」などの派生語は、明記された整数または整数群を包含することを意味するが、いずれの他の整数または整数群の排除も意味しないということを理解されたい。
【0085】
本願明細書で使用する場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その、当該、前記(the)」などの用語は、文脈から明らかにそうではないとわかる場合を除き、単数および複数の指示対象を包含する。つまり、例えば「1つの活性薬剤」または「1つの薬理学的に活性薬剤」との表現は、単独の活性薬剤および組み合わせられた2以上の異なる活性薬剤を包含し、他方、「1つの担体」との表現は2以上の担体の混合物および1つの単独の担体を包含する、などである。
【0086】
本願明細書で使用する場合の用語「抗原」は、免疫応答を刺激することができるいずれかの有機または無機の分子である。本願明細書で使用する場合の用語「抗原」は、免疫応答を刺激することができるいずれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸分子、炭水化物分子、有機または無機の分子に及ぶ。
【0087】
本願明細書で使用する場合、用語「治療上有効量」は、Th1および/またはTh17媒介性の炎症状態または自己免疫疾患を抑制するために必要とされる、本発明の薬剤、結合化合物、小分子、融合タンパク質またはペプチド模倣薬の量を意味する。
【0088】
本願明細書で使用する場合、用語「予防上有効量」は、Th1および/またはTh17媒介性炎症状態、例えば自己免疫疾患(多発性硬化症など)の最初の発症、進行または再発を防止するために必要とされる組成物の量に関する。
【0089】
本願明細書で定義される場合の「Th1および/またはTh17媒介性炎症状態」は、自己抗原に特異的である自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって全体としてまたは一部が媒介される、慢性炎症状態または自己免疫疾患を意味する。Th1および/またはTh17媒介性炎症状態の例は、本願明細書上記で提示されており、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、1型糖尿病および乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本願明細書で使用する場合、用語「処置」ならびに「処置する」および「処置すること」などの関連する用語は、Th1および/またはTh17媒介性自己免疫疾患もしくは慢性炎症状態またはそれらの少なくとも1つの症候の進行、重症度および/または継続期間の低下(減少)を意味し、ここでは、この低下(減少)または寛解は、抑制性サイトカイン、IL−27、の産生、特に抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)またはマクロファージによる産生を誘導する化合物の投与から生じるものである。このIL−27産生は、ナイーブT細胞の、Th1またはTh17表現型への成熟を防止してもよいし、またはTh1またはTh17 T細胞の活性化を防止してもよい。
【0091】
それゆえ用語「処置」は、対象に恩恵をもたらすことができるいずれのレジメン(療法)も指す。この処置は、既存の状態に関するものでもよいし、または予防的(防止のための処置)であってもよい。処置には、治癒的効果、緩和効果または予防的効果を含めてよい。本願明細書での「治療的」および「予防的」処置という表現は、最も広義に考慮されるべきである。用語「治療用、治療的」は、対象が完全回復まで処置されるということを必ずしも意味しない。同様に、「予防的」は、対象は最後まで病状に罹ることはないであろういうことを必ずしも意味しない。
【0092】
本願明細書で使用する場合、用語「免疫細胞」は、造血系由来でかつ免疫応答において役割を果たす細胞を包含する。免疫細胞としては、リンパ球(B細胞およびT細胞など);ナチュラルキラー細胞;骨髄系細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および顆粒球など)が挙げられる。
【0093】
本願明細書で使用する場合、用語「T細胞」は、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、γδ(ガンマデルタ)T細胞およびNK(ナチュラルキラー)T細胞に及ぶ。用語「T細胞」は、ヘルパーT1型T細胞およびヘルパーT2型T細胞の両方ならびにTh−IL17細胞も包含する。
【0094】
本願明細書で使用する場合、用語「抗原提示細胞」またはその略語「APC」は、抗原のエンドサイトーシス吸着、プロセシングおよび提示ができる細胞を指す。この用語は、プロフェッショナル抗原提示細胞、例えば;Bリンパ球、単球、樹状細胞(DC)およびランゲルハンス細胞、ならびに角化細胞、内皮細胞、グリア細胞、線維芽細胞およびオリゴデンドロサイトなどの他の抗原提示細胞を包含する。用語「抗原提示」は、抗原を、MHC分子に結合したペプチド断片として、細胞表面上にディスプレイすることを意味する。例えば、マクロファージ、B細胞、濾胞樹状細胞および樹状細胞などの多くの異なる種類の細胞は、APCとして機能しうる。
【0095】
本願明細書で使用する場合、用語「免疫応答」は、T細胞の同時刺激の調節によって影響を受けるT細胞媒介性および/またはB細胞媒介性免疫応答を包含する。用語「免疫応答」は、T細胞活性化(抗体産生など)(体液反応)およびマクロファージなどのサイトカイン応答性細胞の活性化によって間接的にもたらされる免疫応答をさらに包含する。
【0096】
本願明細書で使用する場合、用語「樹状細胞」または「樹状細胞」(DC)は最も広義の樹状細胞を指し、そして抗原提示することができるいずれのDCをも包含する。この用語は、免疫応答を開始し、かつ/または抗原をTリンパ球に提示し、かつ/または免疫応答の刺激のために必要とされるいずれかの他の活性化シグナルをT細胞に与えるすべてのDCを包含する。本願明細書中での「DC」という表現は、樹状細胞の形態、表現型または機能活性を提示する細胞、およびその変異体またはバリアントという表現を包含するとして読まれるべきである。樹状細胞の形態学的な特徴としては、長い細胞質の突起、または複数の微細な樹状突起を有する大きい細胞が挙げられうるが、これらに限定されない。表現型の特徴としては、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子、CD11c、B220、CD8−アルファ,CD1、CD4のうちの1以上の発現を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0097】
本願明細書で定義される場合、語句「サイトカイン産生を上方制御する」またはその派生的表現は、サイトカインの産生のレベルが、これまでに公知の値と比べて増加しているということを意味する。さらに、本願明細書で定義される場合、語句「サイトカイン産生を下方制御する」は、ある薬剤が、これまでに公知の値と比べてサイトカインの産生の低下を引き起こすということを意味する。
【0098】
本発明に関する「対象」は、哺乳動物(ヒト、霊長類および家畜(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)など);実験室試験動物(マウス、ウサギ、ラットおよびモルモットなど);およびコンパニオンアニマル(イヌおよびネコなど)を含み、かつこれらを包含する。この哺乳動物がヒトであることが、本発明の目的にとって好ましい。用語「対象」は、本願明細書で使用する場合の用語「患者」と置き換えることができる。
【実施例】
【0099】
本発明は、これより、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、例証の目的で提供されており、本発明に対して限定を加えるものであると解釈されることは意図されていない。
【0100】
(実施例1 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を軽減する)
この実験は、Tri−DAP処置が、マウスにおいてEAEの誘導後に疾患の重症度の臨床スコアを低下させることができるかどうかを特定するために設計した。
【0101】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、皮下(s.c)注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、腹腔内に(i.p)百日咳毒素(PT)を注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、そして再度1日目、2日目に、およびそのあとは2日に1回与えた。臨床スコアを毎日評価し、体重を記録した。疾患の重症度は、以下のとおり等級付けした:等級0:正常(健康)、等級1:だらりとした尾部、等級2:ふらふらした歩き方;等級3:後肢の脱力;等級4:後肢麻痺;等級5:四肢麻痺/死。†は、EAE疾患の重症度に起因して対照マウスが犠牲になったことを示す。
【0102】
結果:
処置しなかったマウスは、5〜6日後にEAEの臨床徴候を発症し、疾患の重症度は、12日目までに3.5〜4の臨床スコアへと急速にピークに達した(図1および図2)。対照的に、Tri−DAP処置したマウスは、誘導後11日目まで疾患の臨床徴候をまったく示さず(図1)、疾患の重症度は、処置しなかった対照マウスで観察したものよりも低かった(図1および図2)。対照マウスにおけるEAEの憎悪は、Tri−DAP処置したマウスと比べた、対照マウスの大きな体重減少によっても明らかであった(図1および図2)。
【0103】
これらの結果は、EAE誘導時およびEAE誘導後のTri−DAP処置がEAE疾患の発症を軽減するということを実証する。
【0104】
(実施例2 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のMOG特異的炎症性サイトカインを抑制する)
この実験は、EAE誘導後のTh1およびTh17特異的炎症性サイトカインの産生に対するTri−DAP処置の効果を判定するために設計した。
【0105】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、s.c注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、i.pでPTを注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には免疫化の6時間前に100μgのTri−DAPを与え、第3の群には、0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、再び1日目、2日目および4日目に与えた。5日目にマウスを犠牲にし、リンパ節細胞を、MOGペプチド(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)(20〜100μg/ml)、または陰性対照および陽性対照として、それぞれ培地のみまたはPMAおよび抗CD3を用いて刺激した。72時間後、上清を取り除き、IL−17、TNF−α(TNF−アルファ)およびIFN−γ(インターフェロンガンマ)についてELISAによって分析した。
【0106】
結果:
頑強なMOG特異的IL−17、IFN−γおよびTNF−α反応を、EAE誘導の5日後に対照EAEマウスの鼠径リンパ節で検出した(図3)。対照的に、EAE誘導の6時間前にTri−DAPで処置したマウスは、対照EAEマウスと比べて、有意に低下した抗原特異的T細胞反応を有していた。0日目、1日目、2日目および4日目のTri−DAP処置は、検出可能なMOG特異的T細胞反応を有しなかった(図3)。
【0107】
これらの結果は、Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のマウスのリンパ節における炎症促進性サイトカインIL−17、IFN−γおよびTNF−αの産生を抑制するということを実証する。
【0108】
(実施例3 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAEを有するマウスの脳における、IL−17を発現するおよびIFNγを発現するT細胞を抑制する)
この実験は、EAE誘導後のマウスの脳における種々のIFN−γおよびIL−17を産生するT細胞集団に対するTri−DAP処置の効果を判定するために設計した。
【0109】
物質および方法:
EAE誘導の12日後に、単核細胞を、対照EAEまたはTri−DAP処置したEAEマウスの脳から単離した。細胞を、PMA/イオノマイシンで一晩、再度刺激し、ブレフェルジンAとともにインキュベーションした。細胞を抗CD3(図4)、または抗CD3および抗CD4(図5および図6)で染色した。次いで細胞を固定し、透過処理し、抗IFN−γおよび抗IL−17を用いて細胞内部で染色し、フローサイトメトリによって分析した。
【0110】
結果:
検討したすべてのT細胞集団(図4におけるCD3+細胞、図5におけるCD3+ CD4+細胞、および図6におけるCD3+ CD4−細胞)において、Tri−DAP処置はIFN−γおよびIL−17の産生を抑制した(図4〜図6)。
【0111】
これらの結果は、Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導後のマウスのCNSにおいてIFN−γおよびIL−17を産生するT細胞集団の浸潤を抑制するということを実証する。
【0112】
(実施例4 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、EAE誘導の72時間後に、マウスの鼠径リンパ節におけるEBI3 mRNA発現を増強する)
この実験は、EAE誘導後のマウスの鼠径リンパ節におけるEBI3遺伝子発現に対する、Tri−DAP処置の効果を評価するために設計した。
【0113】
物質および方法:
EAEは、0日目に、4mg/ml H37 Ra結核菌を補ったCFA中の150μgのMOG35−55を用いて、皮下注射によってC57BL/6マウスで誘導した。0日目および2日目に、すべてのマウスに、i.pにPTを注射した。1つの群のマウスは処置せず、第2の群には0日目にMOG/CFAエマルション中のTri−DAP(100μg/マウス)を与え、そして再度1日目、2日目に与えた。EAE誘導の72時間後に、各群からの3匹のマウスを犠牲にした。鼠径リンパ節を取り出し、トリゾールの中に採取した。EBI3 mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。ナイーブなC57BL/6鼠径リンパ節に対する誘導倍率としてデータを示す(図7)。
【0114】
結果:
対照およびTri−DAP処置したマウスの鼠径リンパ節においてEBI3遺伝子発現を検討すると、対照マウスと比べて、Tri−DAP処置したマウスのリンパ節におけるEBI3遺伝子発現のかなりの倍率の増加があった(図7)。
【0115】
これらの結果は、Tri−DAPがEAEを軽減することができる能力は、抑制性サイトカインIL−27の産生に依存する可能性があるということの証拠を与える。
【0116】
(実施例5 − NOD1作動薬Tri−DAPを用いた処置は、樹状細胞における、LPSによって誘導されるEBI3およびIL−27p28の発現を増強する)
この実験は、Toll様受容体(TLR)作動薬で刺激されたBMDCにおけるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現に対するTri−DAP処置の効果を評価するために設計した。
【0117】
物質および方法:
骨髄由来のDC(1×106細胞/ml)をTri−DAP(100μg/ml)で24時間前処置し、その後、TLR作動薬LPS(10ng/ml)およびCpG(5μg/ml)、およびMOG35−55ペプチド(20μg/ml)または培地のみ(対照)で6時間刺激した。EBI3(図8(a))およびIL−27p28(図8(b))mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。培地のみの中で培養したDCに対する誘導倍率としてデータを示す。
【0118】
結果:
LPSによって誘導されるEBI3(図8(a))およびIL−27p28(図8(b))遺伝子発現の増強を、Tri−DAP処置後のBMDCにおいて観察した。これらの結果は、DCのTri−DAP処置が炎症促進性の抑制性サイトカインIL−27の産生を誘導するということのさらなる証拠を与える。
【0119】
(実施例6 − ERKの阻害は、DCにおけるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現の誘導について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を増強する)
この実験は、BMDCにおけるLPSによって誘導されるEBI3およびIL−27p28遺伝子発現の、Tri−DAPによる増強におけるERK活性化の役割を評価するために設計した。
【0120】
物質および方法:
BMDC(1×106)を、MAPK阻害剤、SB203580(5mM)、またはMEK1/2阻害剤、U0126(5mM)のいずれかで30分間前処置し、その後、TriDAP(100mg/ml)または培地のみで刺激した。24時間後、この細胞をLPS(リポ多糖)(100ng/ml)、CpG(5mg/ml)または培地のみで刺激した。EBI3およびIL−27p28 mRNAを、18S rRNAに対して正規化したリアルタイムPCRによって評価した。培地のみの中で培養したDCに対する誘導倍率としてデータを示す(図9(a)および図9(b))。
【0121】
結果:
ERKの阻害は、DCにおけるEBI3およびIL−27p28の両方の遺伝子発現について、Tri−DAPとLPSとの相乗効果を大きく増強する(図9(a)および図9(b))。さらには、これらのデータは、ERK阻害剤の添加は、Tri−DAPによって誘導されるか、またはTri−DAPおよびTLR作動薬によって誘導される樹状細胞(DC)によるIL−27の産生を有意に増強するということを示した。
【0122】
(実施例7 − BMDCにおけるTLR作動薬によって誘導されるサイトカイン産生の、Tri−DAPによる増強はp38に依存し、かつ部分的にERKに依存する)
この実験は、LPSによって誘導される、BMDCによるIL−12p40、IL−12p70、IL−23およびIL−10の産生の、Tri−DAPによって媒介される増強におけるMAPK p38およびERKの役割を評価するために設計した。
【0123】
物質および方法:
BMDC(1×106)をp38阻害剤、SB203580(5μM − 図10〜図11)、またはERK阻害剤U0126(5μM − 図12〜図13)で30分間前処置し、その後、Tri−DAP(100μg/ml)または培地のみで刺激した。2時間後、これらの細胞をLPS(100ng/ml − 図10および図12)で、TLR作動薬CpGで(5μg/ml − 図11および図13)または培地のみで刺激した。24時間後に上清を集め、IL−12p40、IL−23、IL−12p70およびIL−10濃度をELISAによって定量した。
【0124】
結果:
Tri−DAPによるBMDCの前処置は、IL−12ファミリーのメンバー、IL−12p40、IL−12p70およびIL−23のLPSおよびCpG産生の両方を増強する(図10〜図13)。Tri−DAPとLPSまたはCpGのいずれかとについて観察された相乗効果は、部分的にp38に依存する(図10〜図11)。Tri−DAPによる、LPSによって誘導されるIL−23産生の増強は、ERK阻害剤、U0126の添加によって抑制される(図12(b))。対照的に、LPSによって誘導されるIL−12p70の増強は、ERK阻害剤の存在下でほんのわずかしか影響を受けない(図12(a))。LPSによって誘導される、およびCpGによって誘導される、DCによるIL−10産生はともに、Tri−DAPによって増強され、この増強は、p38が阻害されると完全になくなった(図10〜図11)。ERKについての同様の役割は、DCをTri−DAPおよびLPSまたはCpGで同時刺激したときの、IL−10産生について観察された相乗効果で明らかである。LPSまたはCpGを伴うTri−DAPによるIL−10産生は、ERK阻害剤の存在下で抑制される(図12〜13)。
【0125】
これらの結果は、Tri−DAPが、TLR作動薬によって誘導される炎症促進性サイトカインをMAPK依存的に増強することができるということを実証するが、ERK MAPKは、Tri−DAPによって誘導されるIL−27産生に対して負の影響を有しうるということを実証する。
【0126】
(実施例8 − TriDAPを用いた処置は、SJLマウスの再発寛解型EAEモデルにおいてEAEを軽減する)
この実験は、Nod−1作動薬TriDAPを用いた処置がSJLマウスの再発寛解型EAEモデルにおいてEAEを軽減するかどうかを考察した。
【0127】
物質および方法:
EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を、SJLマウスにおいて、完全フロイントアジュバント(CFA)中のプロテオリピドタンパク質(PLP)、次いで百日咳菌毒素(PT)を用いた免疫化によって誘導した。SJLマウスは、Swiss Websterマウスの3つの異なる源から、The Jackson LaboratoryのJames Lambertによって1955年に開発された。この系統は、多発性硬化症研究のための実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に対するその感受性を特徴とし、それゆえ、化合物の治療上の潜在性を評価するための(MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)モデルに勝って)改善されたモデルを提供する。マウスを、12日目から2日に1回、PBS(対照)またはTriDAP(100μg/マウス)で処置した。臨床スコアを毎日評価し、体重を記録した。疾患の重症度は、以下のとおり等級付けした:等級0:正常(健康)、等級1:だらりとした尾部、等級2:ふらふらした歩き方;等級3:後肢の脱力;等級4:後肢麻痺;等級5:四肢麻痺/死。†は、EAE疾患の重症度に起因して対照マウスが犠牲になったことを示す。
【0128】
結果を図14に示す。この結果は、1群あたり5〜6匹のマウスについての平均臨床スコアである。この結果は、TriDAP処置した動物についての臨床スコアの低下を示す。
【0129】
(実施例9 − 再発寛解型EAEモデルにおけるPLP特異的IL−17およびIFN−γに対するTriDAP処置の効果)
この実験は、再発寛解型EAEモデルにおけるPLP特異的IL−17およびIFN−γの発現に対するNod−1作動薬、TriDAPを用いた処置の効果を考察する。
【0130】
物質および方法
EAEを、SJLマウスにおいて、完全フロイントアジュバント(CFA)中のプロテオリピドタンパク質(PLP)、次いで百日咳菌毒素(PT)を用いた免疫化によって誘導した。マウスを、12日目から2日に1回、PBS(対照)またはTriDAP(100μg/マウス)で処置した。26日目にマウスを犠牲にし、リンパ節または脾臓細胞を、インビトロで、PLP(1〜25μg/ml)を用いて再刺激した。3日後、上清の中でのIL−17およびIFNγ産生をELISAによって定量した。
【0131】
結果を図15に示す。図15Aは、脾臓細胞の中でのIFN−ガンマおよびIL−17発現を示す。図15Bは、リンパ節の中でのIL−17産生を示す。
【0132】
これらの結果は、Tri−DAP処置後に、IFN−ガンマおよびIL−17レベルの継続的な低下があるということを示す。
【0133】
(実施例10 − TriDAPによって処置したマウスにおけるTLR作動薬によって誘導されるIL−27、IL−10およびTGF−ベータの発現)
この実験は、TLR−作動薬によって誘導されるIL−27、IL−10 TGF−βレベルのレベルがTriDAPによって処置されたマウス由来の腹腔滲出細胞によって増強されるということを示す。
【0134】
物質および方法
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかで5日間処置した。腹腔滲出細胞(PEC;1×106/ml)を、培地のみで(対照)、または以下の、TLR4作動薬LPS(リポ多糖)(100ng/ml)、TLR9作動薬CpG(5μg/ml)、もしくはTL2作動薬Pam3Csk(500ng/ml)から選択されるToll様受容体作動薬を用いて刺激した。24時間後に上清を集め、サイトカイン濃度をELISAによって定量した。
【0135】
結果を図16に示す。図16Aは、TriDAPを用いておよびTriDAPを用いずに処置したマウスの上清の中でのIL−10発現を示し、他方、図16BはTGF−ベータ発現を示す。これらの結果は、インビボでTriDAPを用いて処置したマウス由来のPECは、TLR作動薬を用いたインビトロでの再刺激後に、より高い濃度の免疫抑制性サイトカイン、IL−10およびTGF−ベータを分泌するということを示す。
【0136】
(実施例11 − TriDAPによって処置したマウス由来の脾臓細胞による、TLRによって誘導されるIL−10およびTGF−β)
この実験は、TriDAP処置したマウス由来の脾臓細胞によって発現されたIL−10およびTGF−βを測定した。
【0137】
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかによって5日間処置した。脾臓細胞(PEC;1×106/ml)を、培地のみで(対照)、または以下の、TLR4作動薬LPS(リポ多糖)(100ng/ml)、TLR9作動薬CpG(5μg/ml)、もしくはTL2作動薬Pam3Csk(500ng/ml)から選択されるToll様受容体作動薬を用いて刺激した。24時間後に上清を集め、サイトカイン濃度をELISAによって定量した。
【0138】
結果を図17に示す。図17は、TLR作動薬とともにPBSまたはTriDAPを用いて処置したマウスの上清におけるサイトカインIL−10、IL−27およびTGF−βならびにケモカインMIP−1αの発現レベルを表す4つのグラフを示す。IL−10およびIL−27の発現レベルは、脾臓細胞をTLR作動薬で刺激した場合に増強されるということが見て取れる。これらの結果は、インビボでTriDAPを用いて処置したマウス由来の脾臓細胞は、TLR作動薬を用いたインビトロでの再刺激後に、より高い濃度の免疫抑制性サイトカイン、IL−10、IL−27およびTGF−ベータを分泌するということを示す。
【0139】
(実施例12 − 抗原提示細胞に対するTriDAPの効果)
この実験では、抗原提示細胞(APC)が、TriDAPによって処置されたマウスにおいてメモリーT細胞を活性化することができる能力を評価する。
【0140】
物質および方法
マウスを、PBSまたはTriDAP(100μg/マウス/日 i.p.)のいずれかを用いて5日間処置した。腹腔滲出刺激細胞(PEC)を照射し、MOG特異的T細胞についての抗原提示細胞(APC)として使用した。MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)およびCFA(1×106/ml)で免疫したマウス由来のT細胞を、PEC(1×106/ml)およびMOG(20μg/ml)とともに培養した。72時間後に上清を集め、IFN−γ濃度をELISAによって定量した。
【0141】
結果を図18に示す。図18で、抗原特異的T細胞は、TriDAP処置したマウスから入手した抗原提示細胞で刺激したとき、対照(PBS)で処置したマウスと比べて、より少ないIFN−ガンマを分泌するということがわかる。これは、TriDAP処置したマウスから単離した抗原提示細胞は、T細胞活性化を誘導する上では効果性が低いということを示す。
【0142】
(実施例13 − TriDAPは、TLR作動薬によって活性化される樹状細胞が、インビトロでTh17細胞を活性化することができる能力を抑制する)
MOGおよびLPSで免疫したマウス由来のCD4 T細胞を、KLH(20μg/ml)の存在下で、TriDAP(100μg/ml)を用いてまたは用いずに、LPS(10または100ng/ml)で刺激した樹状細胞とともにインビトロで培養した。72時間後に上清を集め、IL−17濃度をELISAによって定量した。*P<0.05、***P<0.001、TriDAP使用 対 TriDAP不使用。
【0143】
結果を図19に示す。この図19は、TriDAPを用いてまたは用いずに、抗原およびLPSを用いてパルスした樹状細胞で刺激した抗原特異的T細胞によるIL−17発現レベルを示すグラフを示す。この結果は、TriDAPを用いた樹状細胞の処置が、樹状細胞がCD4 T細胞によるIL−17産生を活性化することができる能力の、有意な低下を生じるということを示す。
【0144】
(実施例14 − TriDapはIL−10およびIL−27を誘導して、およびTLRによって誘導されるヒト樹状細胞によるIL−10およびIL−27の産生を増強する)
ヒトPBMCからIL−4およびGM−CSFとともに培養した樹状細胞を、TriDap(100μg/ml)、LPS(10もしくは100ng/ml)、LPSおよびTriDAPまたは培地のみを用いて刺激した。24時間後に上清を集め、IL−27およびIL−10濃度をELISAによって定量した。**P<0.01、***P<0.001、TriDAP使用 対 TriDAP不使用。
【0145】
結果を図20に示す。図20Aは、TriDAPで刺激したヒト由来の樹状細胞におけるIL−27発現レベルを示し、他方で、図20Bは、同じ細胞集団におけるIL−10発現レベルを示す。これらの結果は、ヒト由来の樹状細胞は、インビトロでのTriDAPを用いた刺激後にIL−27を発現することを示す。この発現は、IL−27タンパク質レベルの測定によって示される。さらには、ヒト樹状細胞によるIL−27発現が示されており、これは、これまでの実施例によって示されるマウス由来の樹状細胞によるIL−27の発現と整合している。最後に、これらの結果は、IL−27は、Toll様受容体作動薬を用いた同時刺激の必要なしにヒト樹状細胞によって発現されうるということを示す。しかしながら、IL−27の発現は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬化合物(リポ多糖など)を用いた抗原提示細胞の同時刺激によって有意に増強することができる。従って、TriDAPは、樹状細胞によるIL−27産生を独立に誘導するように働き、ただ単に、樹状細胞におけるTLR−作動薬によって推進されるIL−27産生を調節するように機能するだけではないということを示す。
【0146】
本願明細書で参照されるすべての文献は、参照により本願明細書に援用したものとする。本発明の記載された実施形態に対する種々の改変および変更は、本発明の範囲から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して記載されてきたが、請求項に係る発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるものではないということを理解されたい。実際には、当業者には自明である本発明を実施する記載された態様の種々の改変は、本発明によって包含されるということが意図されている。本願明細書中のいずれの先行技術への参照も、この先行技術がいずれかの国のありふれた一般的な知識の一部を形成するということの承認ではなく、またいずれかの形の示唆でもなく、またそのように解釈されるべきでもない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置および/または予防するための方法であって、
− ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を含む組成物の治療上有効量を準備する工程と、
− このような処置を必要とする対象に、ヘルパーT17型リンパ球(Th17 T細胞)および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1 T細胞)の活性化を抑制するのに十分な量で前記組成物を投与する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患もしくは慢性炎症状態の処置および/または予防における使用のための医薬組成物であって、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を、意図された投与経路に応じて選択することができる少なくとも1つの薬学的賦形剤、希釈剤または担体とともに含む医薬組成物。
【請求項10】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項9または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項12または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記方法は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置または予防における使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド。
【請求項18】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項17または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項20】
少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む、請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項20に記載の組成物の使用。
【請求項22】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項20または請求項21に記載の組成物の使用。
【請求項23】
少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含む、請求項17から請求項22のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項24】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項23に記載の組成物の使用。
【請求項25】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製におけるジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドの使用。
【請求項26】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項25に記載の組成物の使用。
【請求項27】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項25または請求項26に記載の組成物の使用。
【請求項28】
少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む、請求項25または請求項26に記載の組成物の使用。
【請求項29】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項28に記載の組成物の使用。
【請求項30】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項28または請求項29に記載の組成物の使用。
【請求項31】
少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含む、請求項25から請求項30のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項32】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項31に記載の組成物の使用。
【請求項33】
多発性硬化症の処置のための医薬の調製における、ヘルパーT17型リンパ球(Th17)媒介性免疫応答および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1)媒介性免疫応答の両方を抑制し、サイトカインIL−27の産生を上方制御しかつサイトカインIFN−γ、TNF−α、IL−17およびIL−23の産生を下方制御するNOD−1作動薬の使用。
【請求項1】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患を処置および/または予防するための方法であって、
− ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を含む組成物の治療上有効量を準備する工程と、
− このような処置を必要とする対象に、ヘルパーT17型リンパ球(Th17 T細胞)および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1 T細胞)の活性化を抑制するのに十分な量で前記組成物を投与する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患もしくは慢性炎症状態の処置および/または予防における使用のための医薬組成物であって、ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド化合物を、意図された投与経路に応じて選択することができる少なくとも1つの薬学的賦形剤、希釈剤または担体とともに含む医薬組成物。
【請求項10】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項9または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記方法は、少なくとも1つのToll様受容体作動薬を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項12または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記方法は、少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置または予防における使用のためのジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチド。
【請求項18】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項17または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項20】
少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む、請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項20に記載の組成物の使用。
【請求項22】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項20または請求項21に記載の組成物の使用。
【請求項23】
少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含む、請求項17から請求項22のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項24】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項23に記載の組成物の使用。
【請求項25】
自己反応性のTh1および/またはTh17 T細胞によって媒介される自己免疫疾患または慢性炎症性疾患の処置のための医薬の調製におけるジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドの使用。
【請求項26】
前記ジアミノピメリン酸(DAP)含有ムロペプチドはTriDAPである、請求項25に記載の組成物の使用。
【請求項27】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)および1型糖尿病から選択され、または前記慢性炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎および乾癬から選択される、請求項25または請求項26に記載の組成物の使用。
【請求項28】
少なくとも1つのToll様受容体作動薬をさらに含む、請求項25または請求項26に記載の組成物の使用。
【請求項29】
前記少なくとも1つのToll様受容体作動薬は、Toll様受容体2、Toll様受容体4またはToll様受容体9のうちの少なくとも1つについての作動薬である、請求項28に記載の組成物の使用。
【請求項30】
前記Toll様受容体作動薬は、LPS(リポ多糖)、CpGモチーフ、CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、dsRNA、ポリ(I:C)およびPam−3Cysからなる群から選択される、請求項28または請求項29に記載の組成物の使用。
【請求項31】
少なくとも1つのERKタンパク質キナーゼ阻害剤をさらに含む、請求項25から請求項30のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項32】
前記ERKタンパク質キナーゼ阻害剤はPD98059またはU0126である、請求項31に記載の組成物の使用。
【請求項33】
多発性硬化症の処置のための医薬の調製における、ヘルパーT17型リンパ球(Th17)媒介性免疫応答および/またはヘルパーT1型リンパ球(Th1)媒介性免疫応答の両方を抑制し、サイトカインIL−27の産生を上方制御しかつサイトカインIFN−γ、TNF−α、IL−17およびIL−23の産生を下方制御するNOD−1作動薬の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2012−513448(P2012−513448A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542821(P2011−542821)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067819
【国際公開番号】WO2010/072797
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(311016190)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067819
【国際公開番号】WO2010/072797
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(311016190)
【Fターム(参考)】
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