説明

自己支持型引込用光ケーブル

【課題】蝉の産卵管の挿入等による光ファイバ断線被害を回避するため、光ファイバ心線f両側に防護テープtを縦添えした自己支持型引込用光ケーブルにおいて、該光ケーブルに光ファイバ心線取出用ノッチ部Nを設けることなく、上記光ケーブルから上記光ファイバ心線fを容易に取り出せるようにすること。
【解決手段】防護テープtで挾持した光ファイバ心線fの幅方向両端に高張力の引裂き紐Tを隣接して縦添えし、これらをケーブルシースC1で被覆して光エレメント部Eを構成し、該光エレメント部Eの上記シースC1の幅方向両端を、上記引裂き紐Tで引裂くことにより上記シースC1が表側と裏側とに分割されて光ファイバ心線fが露出し取り出されるようにした自己支持型引込用光ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、FTTH(Fiber To The Home)光通信網における自己支持型の加入引込用光ケーブルに関するものであり、蝉などの虫害及びリス、カラス等の鳥獣から光ファイバ心線を効果的に保護或は防護することができるものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自己支持型の引込用光ケーブルは、例えば図4に示すようなもので、単数又は複数の光ファイバ心線fと、その左右両側に配置された光エレメント用の抗張力体RとをケーブルシースC1で被覆した長尺の光エレメント部Eから成ると共に、首部mを介して抗張力体R,Rと平行な支持線材Sの被覆C2が一体化されたものであり、このものは、ケーブルシースC1の外面、すなわち、抗張力体R,Rを結ぶ線と平行な外面に対抗して光ファイバ心線fの両側において垂直にVノッチNが形成されている。このVノッチNは、ケーブルシースC1を中央で縦方向に2分割して光ファイバ心線fを露出させて光ファイバを容易に取り出せるようにしたものである。
【0003】
上記従来の自己支持型の加入引込用光ケーブルについては、蝉がVノッチNの部分に産卵管を突き刺し、光ファイバ心線fを損傷させ、その結果、光ファイバ心線fの伝送効率を著しく損なう事故が発生している。これは、蝉がVノッチNの底に産卵管を突き刺し易いことと、VノッチNの底と光ファイバ心線fとが接近していて、VノッチNの底に突き刺した産卵管が光ファイバ心線fに向かってて当該光ファイバ心線fに到達する可能性が高いためである。そして、FTTHの普及に伴ってこのような事故が多く発生することが報告されており、この問題への対策が求められている。
【0004】
ケーブルシースC1に設けたVノッチNを廃止すれば、ケーブルシースC1に突き刺された産卵管が光ファイバ心線fに達してこれを損傷させる可能性は小さくなる。また、光ファイバ心線が図5の例のようなテープ心線を備えた自己支持型の加入引込用光ケーブルである(特開2003−90942号公報)場合は、突き刺された産卵管が光ファイバ心線fに達してこれを損傷させる可能性は小さくない。そこで、テープ心線の表裏両面に防護テープを縦添えして光ファイバ心線fを表裏から挟持して、これで虫害等から光ファイバ心線fを保護することが発明されている(先行技術で特願2004−258042号に係る発明)。
【特許文献1】特開2003−90942号公報
【特許文献2】特願2004−258042号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術によると、蝉の産卵管による光ファイバ心線の損傷は防止されるが、上記のように防護テープが介在しているために、分岐、接続等のために光ファイバ心線fを簡単・容易に取り出すことはできない。
そこで、この発明の課題は、自己支持型引込用光ケーブルについてVノッチを廃止しても、ケーブルシースを容易に分割して光ファイバ心線fを取り出せるように、光エレメント部Eの構造を工夫したことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するための手段は、光ファイバ心線fをケーブルシースC1で被覆した長尺の光エレメント部Eから成ると共に、光ファイバ心線fと平行な支持線材Sの被覆C2がケーブルシースC1と一体化されている自己支持型引込用光ケーブルにおいて、次の(イ)〜(ハ)のようにしたことである。
(イ)光ファイバ心線の表裏両側に防護テープを縦添えして光ファイバ心線を挟持し、
(ロ)光ファイバ心線の幅方向両端に高張力の引裂き紐を隣接して縦添えし、
(ハ)光エレメント部EのケーブルシースC1の幅方向両端を、上記引裂き紐で引裂くことによりケーブルシースが表側と裏側とに分割されて光ファイバ心線fが露出されるようにしたこと。
【0007】
〔作用〕
光エレメント部Eのケーブルシースの表面にVノッチはなく(図1参照)、光ファイバ心線の表裏両側に防護テープを縦添えして光ファイバ心線を挟持しているので、蝉の産卵管が突き刺さっても、その先端が光ファイバ心線fに達することは防護テープt(図1の金属テープt参照)によって確実に阻止される。
光エレメント部EのケーブルシースC1の幅方向外端部をカッターで切除し、光ファイバ心線fに隣接して縦添えされた引裂き紐Tを外側方向に引っ張ると、ケーブルシースC1の幅方向外端が横方向に引裂かれ、当該ケーブルシースC1が表側と裏側とに分離され、防護テープt及び光ファイバ心線fが露出するので、容易に光ファイバ心線fを取り出すことができる。
引裂き紐Tが高張力線材であるから抗張力材の機能をも奏し、また、防護テープtが抗張力材としても機能するので、光エレメント部Eの抗張力性は高い。したがって、光エレメント部Eに掛かる張力のために光ファイバ心線fに大きな張力が作用して伝送効率が損なわれるようなことはない。
【0008】
〔解決手段2〕
解決手段2は、解決手段1について、ホットメルト性接着層を介してその防護テープをケーブルシースC1の内面に接着させたことである。
〔作用〕
ホットメルト接着層を介してその防護テープがケーブルシースの内面に接着されて一体化されており、また、防護テープはケーブルシースよりもその熱膨張率が小さいので、温度変化によるケーブルシースの伸縮を抑制する効果を奏する。 したがって、ケーブルシースの熱膨張収縮に伴う光ファイバテープ心線の伝送効率の低下が抑制され、温度変化に対して伝送効率が安定する。
【0009】
〔実施態様1〕
実施態様1は、解決手段1について、その防護テープが厚さ0.1mmのステンレステープであることである。
〔実施態様2〕
実施態様2は、解決手段2についてそのホットメルト性接着フィルムを上記防護テープに積層してあって、ケーブルシースを押し出し成形する時にホットメルト性接着フィルムを溶融させ、防護テープをケーブルシース内面に接着させたものであることである。
〔実施態様3〕
実施態様3は、解決手段1について、その引裂き紐がアラミド繊維製の1000デニールの抗張力線材であることである。
【発明の効果】
【0010】
解決手段1による発明は上記解決手段によるものであるから、上記のとおりの作用を奏し、上記課題を完全に解決することができるものである。すなわち、Vノッチを廃止し、防護テープで光ファイバ心線を表裏から挟む構造によって蝉による被害を確実に防止しつつ、分岐、接続等のための光ファイバ心線の取り出しを簡単・容易に行うことができる。
そしてまた、光ファイバテープ心線は表裏両側から防護テープで挟持されているので、この防護テープの介在によりリス等の齧歯類、カラス等の鳥類の攻撃からも防護されるので、光ファイバテープ心線の鳥獣類による損傷をも確実に回避することができる。
【0011】
解決手段2による発明は、解決手段1についてその防護テープをホットメルト性接着層によりケーブルシース内面に接着させたものであり、また、防護テープはケーブルシースよりも熱膨張率が小さいので、ケーブルシースの温度変化による伸縮が防護テープによって抑制される。
したがって、温度変化による光ファイバ心線の伝送効率の低下が抑制され、温度変化に関わらず伝送効率が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次いで、図1を参照しつつ実施例を説明する。
この実施例は、4本の光ファイバから成るリボン形状(テープ形状)の光ファイバ心線fの上下に厚さ0.1mmのステンレス製金属テープtを縦添えしたものであり、ステンレス製金属テープtのケーブルシースC1に接する面にホットメルト性接着剤から成るフィルムを積層し、これを用いてケーブルシースC1にステンレス金属テープtを融着させている。なお、ケーブルシースC1と支持線材Sの被覆C2とは首部mを介して連結されている。
引裂き紐Tは、アラミド繊維製の約1000デニールの抗張力線材であり、またケーブルシースC1は難燃性ポリエチレン製である。
また、金属テープtとして、鋼製或いはアルミ合金製テープを用いることもできる。防護テープを非金属材で構成する場合は、蝉、齧歯類からの攻撃に耐えられるもので、かつ抗張力性に優れた素材を用いる必要があり、FRP板などが適している。
そして、光エレメント部Eの厚さは約2.5mm、幅は約6mmであり、他方、支持線材Sは線径1.2mmの鋼線である。
【0013】
この実施例の光ケーブルの特性を調査したところ、測定波長1.55μmによる伝送における伝送損失は0.25dB/km以下であり、従来の光ファイバケーブルと同等の性能を有することが確認された。また、−30℃〜+70℃の範囲での温度変化に対して、同測定波長による伝送における伝送損失変化は0.05dB/km以下であることが確認された。
【0014】
また、図3に示す齧歯類模擬歯針(齧歯類模擬歯)の貫通試験を行って、これで光ファイバに断線などの損傷がないことを確認した。
この模擬歯針の貫通試験に用いた模擬歯針(模擬歯)nは、図2に示すもので、線径1mmの鋼線の先端を長さ2mmの範囲で斜めにして鋭利にした鋼製針である。
図3の実施例の光ケーブルの左右両サイドを、左右の押え板(間隔幅10mm)で固定しておいて、これに上記模擬歯針nを静荷重30Nで垂直な方向から突き刺し、その後、光ファイバの伝送効率の変化を測定して、光ファイバに損傷が生じないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】はこの発明の解決手段1を概略的に示す断面図である。
【図2】は模擬歯針(模擬歯)の貫通試験で用いた模擬歯の平面図及び側面図である。
【図3】模擬歯針の貫通試験の状態を示す模式図である。
【図4】は従来の自己支持型引込用光ケーブルの断面図である。
【図5】は他の従来の自己支持型引込用光ケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1・・・ケーブルシース
2・・・支持線材の被覆
E・・・光エレメント部
f・・・光ファイバ心線
N・・・Vノッチ
n・・・模擬歯針(模擬歯)
R・・・抗張力体
S・・・支持線材
T・・・引裂き紐
t・・・防護テープ(金属テープ)
m・・・首部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線fをケーブルシースC1で被覆した長尺の光エレメント部から成ると共に、上記光ファイバ心線fと平行な支持線材Sの被覆C2が上記ケーブルシースC1と一体化されている自己支持型引込用光ケーブルにおいて、
上記光ファイバ心線の表裏両側に防護テープを縦添えして光ファイバ心線を挟持し、
光ファイバ心線の幅方向両端に高張力の引裂き紐を隣接して縦添えし、
上記光エレメント部のケーブルシースC1の幅方向両端を、上記引裂き紐で引裂くことにより上記ケーブルシースC1が表側と裏側とに分割されて光ファイバ心線fが露出されるようになっている、自己支持型引込用光ケーブル。
【請求項2】
ホットメルト性接着層を介して上記防護テープを上記ケーブルシースC1の内面に接着させている請求項1の自己支持型引込用光ケーブル。
【請求項3】
上記防護テープが厚さ0.1mmのステンレステープである請求項1の自己支持型引込用光ケーブル。
【請求項4】
上記ホットメルト性接着フィルムを上記防護テープに積層し、ケーブルシースC1を押し出し成形する時に該ホットメルト性接着フィルムを溶融させ、上記防護テープを上記ケーブルシースC1の内面に接着させている請求項2の自己支持型引込用光ケーブル。
【請求項5】
上記引裂き紐がアラミド繊維製の1000デニールの抗張力線材である請求項1又は請求項2の自己支持型引込用光ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−113219(P2006−113219A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299418(P2004−299418)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】