説明

自己組織化熱電材料

多相構造の、即ち自己集合により特性長が10μm以下である第一の相の粒子が第二の相中に均一に分散している熱電材料の製造方法において、少なくとも二相熱電材料が、その少なくとも二相熱電材料の成分でない金属または該金属のカルコゲニドとともに溶融され、混合後に、冷却または反応性粉砕により結合させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己集合により多相構造をもつ熱電材料を製造する方法と、該方法で得られる熱電材料、それらを含む熱電発電機またはペルチェ装置、またこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
このような熱電発電機やペルチェ装置は、長い間知られており、p型及びn型ドープ処理された半導体は、片面を加熱し他面を冷却すると外部回路で電荷を輸送し、この回路へ負荷をかけると電気的な仕事が可能である。この方法で得られる熱エネルギーの電気エネルギーの変換効率は、熱力学的にはカルノーサイクル効率により制限を受ける。従って、熱い面が1000Kで冷たい面が400Kでは、(1000〜400):1000=60%の効率が可能であろう。しかしながら、今まで最高でも6%の効率しか得られていない。
【0003】
他方、このような構造物に直流が印加されると、熱が一方から他方の面に輸送される。このようなペルチェ構造物はヒートポンプとして作用し、このため冷却装置部品や車両または建物に好適である。また、ペルチェ原理による加熱は、供給される相当エネルギーより大きな熱が輸送されるため、従来の加熱より好適である。
【0004】
効果と材料についての良い総説が、例えば、MRS Bulletin Harvesting Energy through Thermoelectrics: Power Generation and Cooling, No. 31(3), 2006に見られる。
【0005】
現在のところ、熱電発電機は、例えば、宇宙船内での直流の発電や、配管のスクリーン防食、光ブイや電波ブイへのエネルギーの補給、ラジオやテレビの作動に用いられている。熱電発電機の長所は、その非常に高い信頼性である。例えば、これらは、雰囲気条件に無関係に、例えば大気中の水分とは無関係に作動する。問題をひき起こしやすい物質移動は無く、電荷移動のみが起こる。水素から天然ガス、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料、またナタネ油メチルエステルなどの天然燃料まで、いずれの燃料をも用いることができる。
【0006】
したがって、熱電エネルギー変換は、将来的な要求事項に、例えば水素の有効利用や再生可能なエネルギーからのエネルギーの製造などに極めて柔軟に適合する。
【0007】
特に魅力のある用途は、自動車や加熱システムや発電プラントの(廃)熱の電気エネルギーへの変換の用途である。今まで未使用の熱エネルギーを、少なくとも部分的に熱電発電機で回収可能であるが、既存の技術では効率が10%よりかなり低く、エネルギーの大部品が利用されること無く失われている。したがって、廃熱の利用においても、かなり高い効率が求められている。
【0008】
太陽エネルギーの電気エネルギーへの直接変換は非常に魅力的である。パラボリックトラフなどの集光装置が太陽エネルギーを熱電発電機中に導き、ここで電気エネルギーが生成される。
【0009】
しかしながら、ヒートポンプとしての利用にも高効率が必要である。
【0010】
熱電活性物質は、実質的にその効率により格付けされる。この熱電材料の特徴は、いわゆるZ因子(性能指数)で示される。
【0011】
【数1】

【0012】
なお、Sがゼーベック係数で、σが電気伝導度、κが熱伝導率である。非常に低熱伝導度で非常に高電気伝導度で非常に大きなゼーベック係数をもち、結果として性能指数が最大となる熱電材料が好ましい。
【0013】
積S2σは出力因子と呼ばれ、熱電材料の比較に用いられる。
【0014】
また、無単位の積Z・Tも、比較用によく報告される。現在までに知られている熱電材料のZ・Tの最大値は、最適温度で約1である。この最適温度を超えると、この数値Z・Tは、しばしば1よりかなり小さくなる。
【0015】
より精密な解析の結果、効率ηは次式で計算されることがわかった。
【0016】
【数2】

【0017】
式中、
【0018】
【数3】

【0019】
(Mat. Sci. and Eng. B29 (1995) 228も参照)。
【0020】
従って目的は、最大のZ値を持ち高温度差が実現可能な熱電活性物質を提供することである。固体物理学の視点からは、次のように克服すべき問題が多くある。
【0021】
高いσには、材料中での高い電子移動度が必要である。即ち、電子(または、p伝導材料では空孔)は原子芯に強く結合していてはいけない。高電気伝導度の材料は、通常同時に高熱伝導率(ヴィーデマン・フランツ則)であり、このためZは好ましい影響を受けない。現在使用されている材料、例えばBi2Te3は、すでにこのような妥協の産物である。例えば、合金化による電気伝導度の低下は、熱伝導度の低下より小さい。したがって、例えばUS5,448,109に記載のように、合金、例えば(Bi3Te390(Sb2Te35(Sb2Se35またはBi12Sb23Te65の使用が好ましい。
【0022】
高効率な熱電材料のためには、もう一つの限界条件が満たされることが好ましい。例えばこれらは熱的に十分安定であり、大きな効率の低下なしに数年間作動条件下で作動できることが必要である。このため、高温で熱的に安定である相が必要であり、また安定な相組成と、合金成分の隣接する接触材料への拡散がほとんど無いことが必要である。
【0023】
熱電効率は、ゼーベック係数または電気伝導度を増加させて改善することができるが、材料の構造を適正化して熱伝導率を低下させることで改善することもできる。
【0024】
バルク材料内では自己集合により多相構造の形成が可能となるが、多相構造は散乱によりフォノンの拡散を大きく阻害するため、この結果として固体の熱伝導率が大きく低下する。このような構造は、好ましくは低マイクロメータからナノメートルの範囲のサイズであり、材料の熱電特性に応じて改善できる。
【0025】
熱電材料中の多相構造上でのフォノンの散乱により熱伝導率は低下する。同時に、材料のゼーベック係数は一定であることもあれば、介在物または自己集合構造の電気ポテンシャルでは、電子の散乱の結果としてさらに増加することもある。この構造化で電気伝導度を大きく低下させないためには、マトリックス材料と自己集合構造の材料との間の電気接触抵抗を小さくすることが好ましい。したがって、自己集合構造を形成する材料は、マトリックス材料の熱電特性を低下させてはならず、もし低下させるとしてもほんの少しである必要がある。
【0026】
このような自己集合系の例はすでに知られている。ナノメートル範囲の介在物をもつ熱電性バルク材料の製造方法が、WO2006/133031に記載されている。この方法では、まずマトリックスとしての第一のカルコゲニドと介在物材料としての第二のカルコゲニドとの液状溶液を形成し、その構造を急速冷却する。適当な組成物の例が、WO2006/133031の表1に記載されている。
【0027】
Physical Review B 77, 214304 (2008), pages 214304−1 to 214304−9には、金属性ナノ粒子の熱電材料への包含について述べている。しかしながら、モデル計算が与えられているのみである。
【0028】
PbTeとSb2Te3からなる層状構造が、Chem. Mater. 2007, 19, pages 763−767に記載されている。これらは、共晶混合物に近い組成物を急速冷却して製造される。
【0029】
Acta Materialia 55 (2007), pages 1227 to 1239にも、ナノ構造をもつ擬似二相PbTe−Sb2 Te3系の製造が記載されている。自己集合系を形成するためのいろいろな冷却方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】US5,448,109
【特許文献2】WO2006/133031
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】MRS Bulletin Harvesting Energy through Thermoelectrics: Power Generation and Cooling, No. 31(3), 2006
【非特許文献2】Mat. Sci. and Eng. B29 (1995) 228
【非特許文献3】Physical Review B 77, 214304 (2008), pages 214304−1 to 214304−9
【非特許文献4】Chem. Mater. 2007, 19, pages 763−767
【非特許文献5】Acta Materialia 55 (2007), pages 1227 to 1239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明の目的は、自己集合により多相構造をもつ熱電材料を製造する方法を提供することであり、本方法により低熱伝導率の熱電材料の形成が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本目的は、本発明により、多相構造の、即ち自己集合により第一の相の粒子が第二の相中に均一に分散している熱電材料の製造方法であって、少なくとも二相熱電材料を、その少なくとも二相熱電材料の成分でない金属とまたは該金属のカルコゲニドとともに溶融し、混合後に、冷却または反応性粉砕により合金化させる製造方法により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
不均一材料や多相材料について述べる際に通常用いられる「特性長」は、球状またはほぼ球状の介在物の場合、平均粒子径としても表される。しかしながら、粒子が球形から大きく外れて、一つの空間方向に長い場合は、この特性長は、マトリックス中での粒子の平均幾何寸法の尺度である。顕微鏡によりこの長さを決定でき、また介在物あるいは粒子の測定と個数の決定もできる。
【0035】
第一の相の粒子の特性長は、粒子が球状またはほぼ球状である場合、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下である。しかしながらアスペクト比が大きな粒子の場合は、一空間方向でのサイズが100μmまで大きくなることがある。
【0036】
本発明により、粒子相または介在物相に用いられる材料が金属または金属カルコゲニドである場合に、より好ましくは金属である場合に、熱電材料の製造中の自己集合が可能であることが明らかとなった。通常は、金属介在物は熱伝導度の増加につながると考えられるであろう。しかしながら本発明により、金属介在物が散乱によりフォノンの拡散を大きく阻害して、材料の熱伝導率を大きく低下させることが明らかとなった。この結果、より優れた熱電性能または熱電効率が達成可能となる。第一の相の幾何構造が長い(棒状)場合は、熱電特性の異方性が得られる。
【0037】
全体としては、これはマトリックス材料の熱電特性に、もしあるとしても大きな悪影響を与えない。マトリックス材料と自己集合構造の材料(介在物材料)との間には、ほんの小さな電気接触抵抗しか存在しないため、このような構造化で電気伝導度が大きく減少することはない。材料のゼーベック係数は一定であるか、さらに増加する。
【0038】
本発明によれば、多相構造が、好ましくは二相構造が形成される。第一の相は、第二の相中に均一に分散している。「均一に分散」とは、第一の相の粒子または上記特性長をもつ第一の相の粒子が、第一の相の粒子が接触せずに第二の相中で存在し、巨視的な意味で全体のマトリックス材料中で均一に分布していることを示す。従って、第一の相の局所的な集積あるいは濃度上昇がほとんど無く、巨視的に見ると全体のマトリックス中に均一に分布している。しかしながら、第一の相は第二の相中に溶解しているのではなく、多かれ少なかれ、マイクロメータまたはナノメーター範囲で粒子または相の形で規則的に存在している。個々の粒子と次の近くの粒子との距離は、好ましくは実質的に同一である。「均一な分散」の意味は、付図によりさらに理解可能である。均一な分散とはまた、材料中の二相が分離していることが肉眼では認識できないことを意味する。
【0039】
本発明のある実施様態においては、熱電材料と金属が一般式(I)をもつ。

(AIVVI1-xMex (I)

式中、
IVは、Si、Ge、Sn、Pb、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、又はこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8である。
【0040】
本発明の他の実施様態においては、熱電材料と金属が一般式(II)をもつ。

(CV2VI31-xMex (II)

式中、
Vは、P、As、Sb、Bi、あるいはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、あるいはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8である。
【0041】
本発明のある実施様態においては、熱電材料と金属カルコゲニドが一般式(III)をもつ。

(AIVVI1-x(MeBVIbx (III)

式中、
IVは、Si、Ge、Sn、Pb、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、lr、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8であり、
0<b<3である。
【0042】
本発明の他の実施様態においては、熱電材料と金属カルコゲニドが
一般式(IV)をもつ。

(CV2VI31-x(MeBVIbx (IV)

式中、
Vは、P、As、Sb、Bi、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8であり、
0<b<3である。
【0043】
第一の相の金属または金属カルコゲニドの比率は、熱電材料全体に対して好ましくは5〜60原子%であり、より好ましくは5〜30原子%である。従って、添字xは、好ましくは0.05〜0.6であり、より好ましくは0.05〜0.30である。
【0044】
本発明のある実施様態においては、熱電材料全体に銀が含まれず、従って式(I)〜(IV)中の基は銀ではない。
【0045】
一般式(I)の構造中で、AIVは、好ましくはSn、Pb、またはこれらの組合せであり、より好ましくはPbである。BVIは、好ましくはSe、Te、またはこれらの組合せであり、より好ましくはTeである。Meは、好ましくはTa、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、またはこれらの組み合わせであり、より好ましくはNi、Pd、Pt、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、またはこれらの組合せであり、特にFeである。
【0046】
一般式(II)の熱電材料において、CVは、好ましくはSb、Bi、またはこれらの組合せであり、特にBiである。BVIは、より好ましくはTeである。Meは、好ましくはFeまたはNiまたはこれらの組合せであり、より好ましくはFeである。
【0047】
本発明の材料は、好ましくは以下の出発材料から製造される。
IVx+BVIx+y+Mez
IVVIy+Mez
Vq+BVI3+r+Mes、および
V2+BVI3+r+Mes;いずれの場合も、+ドーパント;
IV:Si、Ge、Sn、Pb、またはこれらの組合せ;
VI:S、Se、Te、またはこれらの組合せ;
V:P、As、Sb、Bi、またはこれらの組合せ;
Me:Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せである。
【0048】
本発明の材料は、一般的には反応性粉砕により、または好ましくは特定の元素成分の混合物またはその合金の共溶融と反応により製造される。一般に、この反応性粉砕または好ましくは共溶融の反応時間が少なくとも1時間あることが有利であることがわかっている。
【0049】
この共溶融と反応は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、特に少なくとも10時間かけて行うことが好ましい。この溶融プロセスは、出発混合物を混合しながら行ってもよいし混合せずに行ってもよい。出発混合物を混合する場合に、混合物の均一性を確かなものにするために好適な装置は、特に回転炉あるいは傾斜炉である。
【0050】
混合しない場合に巨視的に均一な材料を得るには、通常長時間が必要となる。混合を行う場合は、混合物中の巨視的均一性が早い段階で得られる。
【0051】
出発原料を混合しない場合は、溶融時間は一般的には2〜50時間であり、特に30〜50時間である。
【0052】
共溶融は、一般的には混合物中の少なくとも一種の成分が溶融する温度で行われる。一般にこの溶融温度は、少なくとも800℃であり、好ましくは少なくとも950℃である。通常この溶融温度は、800〜1100℃の温度範囲であり、好ましくは950〜1050℃の温度範囲である。
【0053】
材料の熱処理の後で、溶融混合物を冷却することが好ましく、その温度は一般的には、得られる半導体材料の融点より少なくとも100℃低く、好ましくは少なくとも200℃低い。通常この温度は450〜750℃であり、好ましくは550〜700℃である。
【0054】
この熱処理は、少なくとも1時間行うことが好ましく、より好ましくは少なくとも2時間、特に少なくとも4時間行うことが好ましい。通常この熱処理時間は、1〜8時間であり、好ましくは6〜8時間である。本発明のある実施様態においては、この熱処理が、得られる半導体材料の溶融温度より100〜500℃低い温度で行われる。好ましい温度範囲は、得られる半導体材料の溶融温度より150〜350℃低い範囲である。
【0055】
本発明の熱電材料は、一般的には脱気された密閉石英チューブ内で製造される。回転炉及び/又は傾斜炉を使用して関係する成分の混合を確実にする。反応終了後に炉を冷却する。その後石英チューブを炉から外し、半導体材料を反応容器から取り出す。
【0056】
石英チューブに代えて、この半導体材料に不活性である他の材料製の、例えばタンタル製のチューブやアンプルを使用することもできる。
【0057】
チューブに代えて他の適当な形状の容器を用いることもできる。この半導体材料に不活性であるなら、容器材料として他の材料を、例えばグラファイトを使用することもできる。誘導炉中での、例えばグラファイトるつぼ中での溶融/共溶融でこれらの材料を合成することもできる。
【0058】
本発明のある実施様態においては、冷却後の材料を適当な温度で、湿式法、乾式法または他の適当な方法で粉砕して、本発明の半導体材料を通常の粒度である10μm未満で得ることができる。この粉砕された本発明の材料を、次いで熱間または冷間押出または好ましくは熱間または冷間圧縮して所望の形状の成型物とすることが好ましい。このようにしてプレスされた成型物の密度は、非圧縮状態の元の材料の密度より、50%を超えて、より好ましくは80%を超えて大きいことが好ましい。本発明の材料の圧縮を改善する化合物を、粉末化した本発明の材料に対して好ましくは0.1〜5体積%の量で、より好ましくは0.2〜2体積%の量で添加してもよい。本発明の材料に加えられる添加物は、半導体材料に対して不活性であることが好ましく、また適当なら不活性条件下及び/又は低圧力下で、本発明の材料を焼結温度未満の温度へ加熱する途中で本発明の材料から排除されることが好ましい。プレスの後、プレスした部品を焼結炉中に入れ、その中でその融点より20℃以下の温度で焼結することが好ましい。
【0059】
このプレス後の部品は、一般的には、得られる半導体材料の融点より少なくとも100℃、好ましくは少なくとも200℃低い温度で焼結される。IV−VI半導体の焼結温度は、通常750℃であり、好ましくは600〜700℃である。V−VI半導体では、焼結温度が通常これより低い。スパークプラズマ焼結(SPS)またはマイクロ波焼結を行うこともできる。
【0060】
焼結は、好ましくは少なくとも0.5時間行い、より好ましくは少なくとも1時間、特に少なくとも2時間行う。通常この焼結時刻は0.5〜500時間であり、好ましくは1〜50時間である。本発明のある実施様態においては、この焼成を、得られる半導体材料の溶融温度より100〜600℃低い温度で行う。好ましい温度範囲は、得られる半導体材料の融点より150〜350℃低い範囲である。焼成は、好ましくは還元雰囲気中で、例えば水素下でおこなわれるか、保護ガス雰囲気中で、例えばアルゴン中で行われる。
【0061】
従って、プレス後の部材は、好ましくは理論嵩密度の95〜100%になるまで焼成される。
【0062】
全体として、この結果、本発明の方法の好ましい実施様態として、
(1)特定の元素成分の混合物またはその合金と少なくとも四元または三元化合物との共溶融と、
(2)工程(1)で得られる材料の粉砕と、
(3)工程(2)で得られる材料の成型物へのプレスまたは押し出しと、
(4)工程(3)で得られる成型物の焼結となる方法が得られる。
【0063】
溶融合成と反応性粉砕に加えて、急速固化プロセス、例えば溶融紡糸プロセスを行うことができる。加圧下及び/又は高温での反応剤粉末(複数の元素または合金化されている成分)の機械的な合金化も可能である。
【0064】
上記製造工程のいずれの後にも、融解生成物または微粉砕融解生成物、または粉末または粉砕により得られる材料に係る一つ以上の加工工程があってもよい。他の加工工程としては、例えば、高温圧縮または常温圧縮、スパークプラズマ焼結(SPS)、焼結または熱処理、熱間または冷間押出成型またはマイクロ波焼結があげられる。このうちのいくつかは、すでに述べた。
【0065】
本発明はまた、本発明の方法で得られるか得られた半導体材料に関する。
【0066】
本発明はまた、上記の半導体材料と上記の方法で得られる半導体材料の熱電発電機またはペルチェ装置としての利用を提供する。
【0067】
本発明はさらに、上記の半導体材料及び/又は上記の方法で得られる半導体材料を含む熱電発電機またはペルチェ装置を提供する。
【0068】
本発明はさらに、熱電的に活性な脚が連続的に連結され上記の熱電材料の薄層とともに用いられる熱電発電機またはペルチェ装置の製造方法を提供する。
【0069】
当業界の熟練者には既知である方法により、例えばWO98/44562、US5,448,109、EP−A−1102334またはUS5,439,528に記載されている方法により本発明の半導体材料を組み合わせて熱電発電機またはペルチェ装置を組立てることもできる。
【0070】
本発明の熱電発電機またはペルチェ装置は、一般的には熱電発電機とペルチェ装置の既存の用途範囲を広げるものである。熱電発電機またはペルチェ装置の化学組成を変更することで、数多くの用途におけるさまざまな要件を満たすいろいろなシステムを提供することができる。したがって、本発明の熱電発電機またはペルチェ装置は、これらのシステムの利用範囲を広げる。
【0071】
本発明はまた、本発明の熱電発電機または本発明のペルチェ装置の以下のものとしての利用に関する。
−ヒートポンプとしての利用
−座家具や乗り物、建物の気候の制御
−冷蔵庫や(洗濯)乾燥機中での使用
−次のような物質分離のための、工程中での流体の同時加熱冷却
−吸収
−乾燥
−結晶化
−蒸発
−蒸留
−次のような熱源利用のための発電機
−太陽エネルギー
−地熱
−化石燃料の燃焼熱
−車両や定置型装置の廃熱源
−液体物質の蒸発のヒートシンク
−生物的熱源
−電子部品の冷却用
−例えば自動車や加熱装置、発電装置中の熱エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機としての
【0072】
本発明はさらに、少なくとも一台の本発明の熱電発電機または一台の本発明のペルチェ装置を有する、ヒートポンプ、冷却器、冷蔵庫、(洗濯)乾燥機、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機、または熱源を利用する発電機に関する。
【0073】
以下、本発明を実施例を参照しながら、詳細に説明する。
【実施例】
【0074】
以下の材料は、元素(純度>99.99%)から製造した。これらの元素を特定の化学量論的比率で秤量して、きれいに洗浄した石英アンプル(Φ10mm)中に投入した。このアンプルを脱気後、溶融させて密閉した。このアンプルを、加熱速度が40K/minで1050℃まで加熱し、炉中でこの温度で12時間維持した。炉の左右を上下に連続的に動かせてこの材料を混合した。反応時間が経過後、100K/minの速度で室温まで冷却した。アンプルから溶融生成物を取り出し、ダイヤモンドワイヤのこぎりで、厚みが1mm〜2mmの切片に切断し研削・研磨して、その特性を評価した。
【0075】
実施例1では、材料(n−PbTe)3Feを製造した。
実施例2では、材料(n−PbTe)3Coを製造した。
実施例3では、材料PbTiTeを製造した。
【0076】
この切片に約5Kの温度勾配をかけ、試料の平均温度を310Kとして試料切片の断面に平行にゼーベック係数を測定した。この温度差で測定された電圧を冷接触端と熱接触端の間の温度差で割った値が、ゼーベック係数である。
【0077】
電気伝導度は室温で4点測定で求めた。これは、ファン・デル・ポー法により試料断面に平行に測定した。この方法は当業界の熟練者には既知である。
【0078】
熱伝導率の測定は、試料断面に直角にレーザーフラッシュ法により行った。この方法は当業界の熟練者に公知である。
【0079】
室温での熱電特性を下の表にまとめた。
【0080】
【表1】

【0081】
その金属含量のため、金属の熱伝導率に近い熱伝導率が得られると考えられた。しかしながら、本発明によれば熱伝導率がかなり低かった。
【0082】
また、実施例1と2では、ゼーベック係数と電気伝導度があまり低下しなかった。これは、金属(高電気伝導度、低ゼーベック係数)のブレンドにより原理的に期待されないことであり、驚くべき結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性長が10μm以下である第一の相の粒子が第二の相中に均一に分散している多相構造の熱電材料を、自己集合により製造する方法であって、
少なくとも二相の熱電材料を、当該少なくとも二相の熱電材料の成分でない金属または当該金属のカルコゲニドとともに溶融し、混合後に、冷却または反応性粉砕により結合させる方法。
【請求項2】
上記熱電材料と上記金属が一般式(I):

(AIVVI1-xMex (I)

式中、
IVは、Si、Ge、Sn、Pb、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8である

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記熱電材料と上記金属が一般式(II):

(CV2VI31-xMex (II)

式中、
vは、P、As、Sb、Bi、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記熱電材料と上記金属カルコゲニドが一般式(III):

(AIVVI1-x(MeBVIbx (III)

式中、
IVは、Si、Ge、Sn、Pb、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8であり、
0<b<3である

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記熱電材料と上記金属カルコゲニドが一般式(IV):

(CV2VI31-x(MeBVIbx (IV)

式中、
vは、P、As、Sb、Bi、またはこれらの組合せであり、
VIは、S、Se、Te、またはこれらの組合せであり、
Meは、Ta、Nb、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、In、Ga、Al、Zn、Cd、Tl、またはこれらの組合せであり、
1ppm<x<0.8であり、
0<b<3である

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第一の相の粒子の特性長が1μm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第一の相の粒子の特性長が0.1μm以下である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第一の相の金属または金属カルコゲニドの比率が、熱電材料の全体に対して5〜60原子%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
熱電材料の全体が銀を含まない請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られる熱電材料。
【請求項11】
請求項10に記載の熱電材料を含む熱電発電機またはペルチェ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の熱電発電機またはペルチェ装置を、ヒートポンプとして、座家具、車両及び建物の気候の制御のために、冷蔵庫や(洗濯)乾燥機中で、物質分離工程中の流体の同時加熱及び冷却のために、熱源利用または電子部品の冷却用の発電機として使用する方法。
【請求項13】
少なくとも一種の請求項11に記載の熱電発電機またはペルチェ装置を含むヒートポンプ、冷却器、冷蔵庫、(洗濯)乾燥機、熱源利用発電機、熱エネルギーの電気的なエネルギーへの変換用発電機。

【公表番号】特表2012−521648(P2012−521648A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501281(P2012−501281)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053762
【国際公開番号】WO2010/108912
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】