説明

自律神経調節作用を有する組成物およびその使用方法

セサミン及び/又はエピセサミンを有効成分とする自律神経調節作用を有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、自律神経調節作用を有する組成物およびその使用に関する。
【背景技術】
生体の恒常性を維持するために、生体には自律神経系、内分泌系、免疫系が備わっている。その中で、自律神経系は、大脳の支配から比較的独立して、とくに意志に無関係に自動的に働くことからこの名が与えられ、主に内臓の機能を調節している。自律神経系には交感神経系と副交感神経系の2系統があり、自律神経系は両者のバランスによりコントロールされている。すなわち、身体が活動している時は交感神経の活動が優位となり、全身が緊張した状態となる。逆に、副交感神経の活動が優位な時は身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる。
ストレスにより自律神経活動の乱れが長期に続くと様々な身体的障害が生じてくることが知られている。自律神経活動の乱れとは、交感神経活動が優位な状態あるいは副交感神経活動が有意な状態を意味するが、特に現代社会においては、交感神経活動の優位な状態が持続することによる健康障害が問題視されている。交感神経優位な状態は、交感神経が亢進した時、交感神経活動は変化せずに副交感神経系が低下した場合あるいは交感神経が亢進し、反対に副交感神経が低下した場合に引き起こされる。
交感神経の活動が亢進し、自律神経のバランスが乱れると、その結果として副腎髄質からのホルモン分泌を促し、心拍数や血圧の上昇、細気管支の拡張、腸管の運動と分泌の抑制、グルコース代謝の上昇、瞳孔散大、立毛、皮膚と内臓血管の収縮、さらに骨格筋の血管拡張が起こる(岩波講座「現代医学の基礎」第4巻、萩原俊男、垂井清一郎編、生体の調節システム、1999年)。従って、交感神経活動が亢進した場合、高血圧、高血糖、皮膚血流低下、免疫機能低下などの健康障害が起こる。また、副交感神経が亢進した場合には、慢性的な下痢が起こる。近年では、副交感神経活動低下が冠動脈性心疾患や突然死の重要な危険因子である事が指摘されている。
交感・副交感神経バランスの乱れのほかに、両者の自律神経活動が共に低下することがある。たとえば糖尿病の患者では一般的に健常人に比し、交感神経活動および副交感神経活動が同時に低下していることが報告されている(Yamasaki Y et al.,Diabetes Res.17:73−80(1991)、Bellavere F et al.,Diabetes,41:433−40(1992))。また自律神経障害が突然死、無症候性心筋梗塞、無自覚性低血糖などの疾患の原因になる(日本臨床60巻、創刊号10、2002年)。
これらの健康障害は各症状や疾患ごとに対症的に治療が行なわれているのが実状であって、根本的な原因である自律神経活動そのものをコントロールする方法はとられていない。対症療法は一時的にその病態そのものを改善することができるが、服薬を中止すれば再発し、また、服薬を継続していれば、一つの疾患は改善したとしても、根本原因である自律神経の乱れや自律神経活動低下による他の疾患が発症する場合も多い。そこで、根本原因である自律神経活動そのものをコントロールする医薬品あるいは健康食品が求められていた。つまり、何らかの要因により亢進した交感神経活動もしくは副交感神経活動を抑制したり、低下した交感神経活動もしくは副交感神経活動を上昇させることにより、交感神経活動優位な状態、副交感神経活動優位な状態、全体的に自律神経活動が亢進した状態もしくは低下した状態を回復させる作用を有する化合物が得られれば、種々の疾患の予防的観点からも利用価値はきわめて高い。
自律神経活動の乱れを引き起こす要因としては喫煙、運動、糖尿病、心臓疾患、肥満などが上げられる。喫煙においては、副交感神経活動の低下と相対的な交感神経活動の亢進が起こり、これが虚血性心疾患や突然死の重要な危険因子である事が報告されている(Akselrod et al.,Science 213:220−22(1981),G.E.Billman et al.,Circulation 80:874−80(1989))。また自律神経の乱れはストレスによっても生じ、原因不明の体調不良を訴える人も少なくない。
自律神経の全体的な活動を低下させる要因としては、糖尿病や肥満、強度の運動、加齢などが上げられる。糖尿病の患者では、交感神経および副交感神経活動の両方の活動が低下し、特に、早期には副交感神経活動の低下が先んじて起きていること(Yamasaki Y et al.,Diabetes Res.17:73−80(1991))、また活動低下に加え、交感神経活動や副交感神経活動の反応性の低下が見られることが報告されている(新谷らほか、Jpn.J Electrocardiol.,18:40−45 1998))。また、肥満者では副交感神経活動の低下に加え、交感神経活動が低下しており、さらに自律神経活動の反応性の低下が知られている(Peterson HR et al.,N Engl J Med.318:1077−83(1988)、Matsumoto T et al.,Int J Obes Relat Metab Disord.23:793−800(1999))。また、加齢によって自律神経活動の低下がおこることも報告されている(Oida E et al.,J Gerontol Med Sci.54:219−224(1999))。
自律神経系は自分の意思では支配できない神経系で、呼吸、循環、消化、代謝、排泄、体温調整などの生命活動を維持しているだけでなく、さらに内分泌系や免疫系にも深くかかわっている。このようにさまざまな働きを持つ自律神経のバランスが乱れると心身両面でいろいろな変化が起こる。自律神経の乱れによって起こりやすい症状としては、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠などが上げられる。特に更年期においてはその75%が自律神経の失調によるものとの報告もあり、更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗などのつらい症状も自律神経活動の乱れに起因する体温調節障害によるものである。また、交感神経活動は熱産生にかかわっており、脂肪を燃焼させる方向に働くため、交感神経活動の低下は、エネルギー代謝障害の要因ともなる。
このように自律神経活動の低下や乱れは様々な身体的・精神的障害を引き起こすことから、自律神経活動を調節する医薬・食品への適応に優れた副作用の少ない化合物の開発が強く望まれている。
セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン化合物の一種で、ゴマ中には0.5−1%程度含まれている。セサミンはΔ5不飽和化酵素阻害作用(S.Shimizu et al,J.Am.Oil Chem.Soc.,66,237−241(1989)、S.Shimizu et al,Lipid,26,512(1991))、抗酸化作用(特開平05−051388および特願平11−327924)、実験的乳がん発生モデルでの過酸化脂質上昇抑制効果(N.Hirose et al.,Anticancer Research,12,1259−1266(1992))やビタミンEの保護作用(K.Yamashita et al.,J.Nutr.,122,2440(1992),K.Yamashita et al.,Lipid,30,1019(1995),A.Kamal−Eldin et al.,Lipids,30,499(1995))、DHA保護作用(K.Yamashita et al.,Biofactors,11,11−13.(2000))、また、激しい運動に伴う血中の過酸化脂質の上昇抑制効果を示す(T.Ikeda,et al.,Int.J.Sports Med.,(2003)in print)。
特開平08−268887には抗高血圧作用が開示されており、DOCA食塩負荷高血圧モデルや腎クリップ腎性高血圧モデルに対して血圧降下作用を示すことが報告されている(Y.Matsumura et al.,Biol.Pharm.Bull.,18,1016(1995),S.Kita et al.,Biol.Pharm.Bull.,18,1283(1995))。また,脳卒中易発性高血圧自然発症ラット(SHR−SP)に対する抑制作用が示されている(Y.Matsumura et al.,Biol.Pharm.Bull.,21,469(1998))。
高血圧と活性酸素(特にスーパーオキシド)との関連が指摘されており(X.Zhang et al.,Am.J.Physiol.,258,497(1990),M.Torii et al.,Ipn.Heart J.,30,589(1989))、SHRラットへのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の尾静脈投与が降圧作用を示すことが報告されている(K.Nakazono et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,88,10045(1991))。
また、セサミンの向精神作用がUS4427694に開示されており、tranquilizing effect(鎮静効果)、antidepressant effect(抗うつ作用)、anticonvulsant effect(抗けいれん作用)、アルコールやタバコ中毒からの離脱の際の中毒症状の緩和が示されている。ここで示された精神症状はいずれも中枢神経系を介したものであり(栗山欣弥、松田友宏編著、脳と神経の薬理、金芳堂、(1984年)、Katsura M et al.,J Biol Chem.277:7979−7988(2002)、青木ら 保健の科学、43:217−226(2001年))、自律神経系に対する作用ではない。
セサミンの多彩な作用が報告されているにもかかわらず、これまでにセサミンの自律神経活動への作用やその調節作用について調べられたことはなく、報告はなされていない。
【発明の開示】
本発明は、自律神経に直接作用し、低下した自律神経活動の改善や自律神経活動の調節作用を有する安全な組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、伝統的な医薬品あるいは健康食品に、自律神経活動を調節する作用があるのではないかと考えた。
自律神経活動を評価する方法として、心電計,血圧計,皮膚電気反射,瞳孔径測定などの生物理学的測定法や,血中カテコールアミン濃度測定などの生化学的測定法などが上げられる。その中でも心電計を用いた心拍変動の解析は、副交感神経活動や交感神経/副交感神経活動のバランスや自律神経活動を測定するためにもっとも良く利用されている方法である(心電図R−R間隔変動のスペクトル解析、自律神経機能検査、第2版、日本自律神経学会編、p57−64、分光堂、(1995)、Ewing DJ et al.,Br Hesrt J.65:239−244,(1991)、Heart rate variability:standards of measurement,physiological interpretation and clinical use.Circulation,93:1043−1065(1996))。
そこで心拍変動パワースペクトル解析法を用い、喫煙による自律神経活動の乱れや全体的な自律神経活動に対する作用について、様々な食品、食品成分、伝承的な医薬品に関して鋭意研究を行った結果、ゴマリグナンの一種であるセサミンおよび/またはその類縁体が、自律神経活動の乱れに対する調節作用と低下した自律神経活動の改善作用を有することを明らかにし、本発明を完成させた。
従って、本発明は、セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする自律神経調節作用剤を提供する。
例えば、本発明は、セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする低下した自律神経活動の改善作用を有する自律神経調節作用剤を提供する。
例えば、本発明は、自律神経の乱れや全体的な活動低下及びそれに起因する症状を予防、改善または緩和する自律神経調節作用を有する、セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする自律神経調節作用剤を提供する。
前記自律神経調節作用は、例えば、交感神経活動の亢進の抑制である。あるいは、前記自律神経調節作用は副交感神経活動の亢進である。あるいは、前記自律神経調節作用が副交感神経活動の低下の抑制である。あるいは、前記自律神経調節作用は低下した自律神経活動の改善である。前記の剤は、好ましくは飲食物、又は医薬品である。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、自律神経の乱れを調節したり、低下した活動を改善し、自律神経の乱れや活動低下に起因する症状を予防、改善、緩和するための前記の自律神経調節作用剤の使用方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、交感神経活動の亢進を抑制する方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、副交感神経活動を亢進させる方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、副交感神経活動の低下を抑制する方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、全体的な自律神経活動の低下を改善する方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより自律神経活動の乱れを調節する方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより低下した自律神経活動を改善する方法を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とするQT間隔の延長を抑制する抑制剤を提供する。
本発明はまた、セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することによりQT間隔の延長を抑制する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は喫煙による副交感神経活動の低下に対するセサミンの抑制効果を示す図である。
図2は喫煙によるQT間隔の延長に対するセサミンの抑制効果を示す図である。
図3は低下した自律神経活動に対するセサミンの改善効果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の詳細について示す。
心臓の拍動のリズムつまり心臓の拍動間の間隔(R−R間隔)は常に変化しており、このR−R間隔の変動を心拍変動とよぶ。心拍変動は自律神経が心臓に働きかけることによって引き起こされるため、この心拍変動を見ることにより自律神経の活動状態を評価することができる。心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルが得られる。得られたパワースペクトルの低周波数領域(Low Frequency、0.04〜0.15Hz)は交感と副交感神経活動を、高周波数領域(High Frequency、0.15〜0.4Hz)は副交感神経活動を示している。そしてそのバランスはLow Frequency/High Frequency(LF/HF)比で表わすことができ、交感神経活動が優位になるとこの値は上昇し、反対に副交感神経活動が優位になると低下する。つまり、心拍変動パワースペクトル解析法は副交感神経活動や交感神経/副交感神経のバランスを非侵襲的に定量できる方法として有用である。また、自律神経活動の伝達物質であるカテコールアミンの血中での変動が見られない微細な自律神経活動の変化をも捉えることができる。加えて、現在の所、副交感神経活動を測定できるのは心拍変動しかない。したがって、本方法は自律神経活動を評価するためには有用な方法であり、広く利用されている(Heart rate variability:standards of measurement,physiological interpretation and clinical use.Circulation,93:1043−1065(1996)西村ら、臨床検査、35:585−590、(1991))。また、副交感神経活動の抑制は心筋由来の突然死や不整脈のリスクファクターであり、臨床における診断においても不可欠な手法になっている。
QT間隔は心室筋の再分極、すなわち細胞内活動電位の持続時間を反映しており、心室筋の不応期を反映する重要な指標でもある。心筋の再分極相は心拍数、自律神経活動、血清電解質、虚血、薬物投与など、日常生活の種々の病態因子に対して鋭敏に反応する(有田 眞、伊藤 盛夫、犀川 哲介 編集、「QT間隔の基礎と臨床」、医学書院(1999))。QT間隔と自律神経活動との関連については、多くの研究がなされれており、交感神経活動と副交感神経活動はともにQT間隔の調節因子であることが知られているものの、QT間隔のデータだけから自律神経活動の動態を推測することは難しい。しかしながら、QT間隔と自律神経活動のバランスの指標であるLF/HFとが正の相関関係を持つことが示されている(Y.Murakawa et al.,Am.J.Cardiol.,69,339−343(1992))。このことから、QT間隔単独では自律神経活動の動態を推測することは難しいが、心拍変動パワースペクトル解析法と組み合わせることにより、自律神経活動のバランスを調べる手がかりとなる。
そこで、本発明者は自律神経調節作用を有する優れた化合物を見つける目的で、心拍変動パワースペクトル解析とQT間隔を指標に、喫煙による自律神経活動の乱れに対する改善効果について様々な食品、食品成分、伝承的医薬品について、鋭意研究を進めた結果、セサミンがLF/HF値の上昇抑制、副交感神経活動抑制の緩和、QT間隔延長の抑制効果を示すこと、さらに全体的に低下した自律神経活動を改善させることを明らかにした。つまり、セサミンが自律神経活動の調節作用を有することが明らかとなった。
従って本発明は、セサミンおよび/またはその類縁体を有効成分とする、自律神経調節作用を有する飲食品及びその製造法を提供しようとするものである。より詳細には、自律神経活動の乱れや活動低下に起因する、息切れ、動悸、肩・首凝り、頭痛、胃腸虚弱、便秘、冷え性、めまい、立ちくらみ、貧血、耳鳴り、耳のかゆみ、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠、不整脈、不妊症、生理不順、糖尿病や更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗などの症状、無症候性心筋梗塞、無自覚性低血糖、さらに、虚血性心疾患や突然死を予防および改善しうる飲食品及びその製造方法を提供しようとするものである。
発明の実施の形態
本発明はセサミンに限定されず、セサミンの類縁体においても適用される。本発明におけるセサミンおよびその類縁体とは、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体を意味し、具体的には、セサミン、セサミノール、エピセサミン、エピセサミノール、セサモリン、2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−6−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)−3,7−ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン、2,6−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)−3,7−ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン、および2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−6−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェノキシ)−3,7−ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタンが例示される。さらに、セサミンおよびその類縁体の配糖体であっても、さらに、セサミンおよび/またはその類縁体の代謝物であっても利用できる。また、本発明におけるセサミンおよびその類縁体は、例えば特開平4−9331号公報に記載された方法によって得られ、これらは抽出物のまま、または必要に応じて精製品として使用することができる。
本発明におけるセサミンおよび/またはその類縁体を自律神経調節剤として用いる場合、セサミンおよび/またはその類縁体を含有してなる健康飲食品のみならず、セサミンおよび/またはその類縁体を含有してなる食品添加物も含まれる。健康飲食品として用いられる場合、例えば、乾燥食品、サプリメント、清涼飲料水、ミネラルウォター、アルコール飲料等に配合することができるが、これに限定されるものではない。
本発明のセサミンおよび/またはその類縁体を治療薬として用いる場合、製剤としては固体でも液体でもよく、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、座剤、顆粒剤、内用液剤、懸濁剤、乳剤、ローション剤等を挙げることができる。また、本発明の製剤としては、製剤上許容される賦形剤を加えることができる。賦形剤としては、希釈剤、香料剤、安定化剤、懸濁剤用滑沢剤、結合剤、保存剤、錠剤用崩壊剤等単独で、または、組み合わせて使用することができる。
本発明のセサミンおよび/またはその類縁体(有効成分)が喫煙に対する一過性の自律神経活動の乱れを調節したり、活動を改善するために必要な量は成人において10mgであるが、この有効量は、自律神経の乱れや活動低下を引き起こす要因、疾患の種類、患者の特性、年齢、体重、症状の程度、投与形態によって異なることは明らかである。したがって、セサミンおよび/またはその類縁体が自律神経調節作用を有するための有効量は、例えば、一日あたり0.5〜100mg、好ましくは1〜60mgさらに好ましくは5〜60mgであるが、その上限には特別な制限は存在しない。
本発明の飲食物および医薬品の有効成分であるセサミンおよび/またはその類縁体は、喫煙に対する一過性の自律神経活動の乱れを改善する目的のおいては、喫煙前、好ましくは3時間から直前までに摂取することによって改善効果が期待されるが、慢性喫煙における自律神経活動の乱れやその他の要因で起こる自律神経の乱れや活動低下を改善するためには、特にこれにとらわれることなく、摂取の時間帯や形態は限定されない。さまざまなタイミングで摂取することにより、自律神経調節作用を発揮しうる。
【実施例】
以下、実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1喫煙による自律神経活動の乱れに対する調節作用
試験は一般男子大学生9名を対照に、ダブルブラインド、クロスオーバースタディにて実施した。つまり、10mgのセサミンを含むソフトカプセル3粒およびプラセボカプセル3粒を摂取させ、Ue,H.らの方法(Ue,H.et al.,Ann.Noninvasive Electrocardiol.,5:336−345(2000))に準じ、心拍変動パワースペクトル法により、自律神経活動に及ぼす影響を調べた。
それぞれのサンプルを摂取した後、タバコ1本を4分間で喫煙し、喫煙前後、10分、30分後に、心電図を14ビットのA/D変換を用い1024Hzでサンプリングした。心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルを得た。心拍変動スペクトルを分離・定量化するため、主として二つの周波数帯域(0.04〜0.15Hz及び0.15〜0.4Hz)のスペクトル積分値を求め、Low Frequency(0.04〜0.15Hz)帯域のスペクトル積分値を交感神経と副交感神経活動、High Frequency(0.15〜0.4Hz)帯域のスペクトル積分値を副交感神経活動の指標とする。またLow Frequency帯域のスペクトル積分値をHigh Frequency帯域のスペクトル積分値で除した値(LF/HF)を交感神経活動と副交感神経活動のバランスの指標とした(Akselrod S et al.Science 213:220−222(1981)、Moritani T et al.,J sportmed Sci.7:31−39、(1993))。さらに、心臓脱・再分極時間をQT間隔により測定した。
喫煙により副交感神経活動の顕著な低下と相対的な交感神経活動の亢進が認められ(プラセボ群のLFの変化;喫煙前852→喫煙後1202、HFの変化;喫煙前940→喫煙後236)、交感神経活動優位な状態を示すLF/HFの上昇(喫煙前1.33→喫煙後5.46)が認められた。この変化は喫煙30分後においても喫煙前の平常値に戻らなかった(LF/HF変化量;喫煙直後 +4.13、30分後 +1.42)。一方、セサミン摂取群では、喫煙直後から自律神経活動の乱れに対する緩和作用を示し、30分後ではほぼ喫煙前の状態に戻っていることが明らかとなった(LF/HF変化量;喫煙直後 +2.87、30分後 −0.239)。また、喫煙により、プラセボ摂取群では副交感神経活動が顕著に低下したが、セサミン投与時にはこの副交感神経活動の低下が有意に(p<0.05)抑制されることがわかった(図1)。また、プラセボ摂取群では、喫煙によりQT間隔の有意な延長が見られた(p<0.01)が、セサミン摂取群では有意なQT間隔の延長は認められなかった(図2)。
以上の実験結果は、セサミンが喫煙による副交感神経活動の顕著な低下を抑制し、自律神経活動の乱れを改善することを示しており、セサミンが自律神経活動の調節作用を持つことを示すものである。
実施例2自律神経活動の改善(亢進)作用
試験は更年期障害の症状を有する女性14名を対照に、二重盲検並行群間比較試験にて実施した。対象者を無作為に2群に分け、一方の群には10mgのセサミンを含むソフトカプセル3粒を、もう一つの群にはプラセボカプセル3粒を4週間継続して摂取させた。サンプル摂取前後に、仰臥位にて心電図を計測し、心拍変動パワースペクトル解析により、自律神経活動を調べた。
その結果、本試験の対象者の試験開始前の自律神経活動はLFが160程度、HFが140程度であった。自律神経活動の正常値は特に規定されていないが、山崎ら(Yamasaki Y et al.,Diabetes Res.17:73−80(1991))の研究における健常人の自律神経活動の値は、LFで466±332、HFで251±151である。また、実施例1での男子大学生の喫煙前のLFおよびHFはそれぞれ852±238、940±370である。これらの自律神経活動の値(LF及びHF)と比べると、更年期障害の症状を有する本試験の対象者は自律神経活動が低かった。プラセボ摂取群では総自律神経活動ならびに交感・副交感神経活動のいずれも変化しなかったが、セサミン摂取群では総自律神経活動、交感および副交感神経活動の上昇が認められ、特に副交感神経活動は有意に亢進した(図3)。セサミン摂取により、特に副交感神経活動の上昇を中心とした自律神経活動の改善が認められた。
以上の実験結果は、セサミンが全体的に低下した自律神経活動の改善作用を持つことを示すものである。
製剤例1バター
セサミン 1.2g
バター脂肪 100g
酢酸トコフェロール 1.2g
バター製造工程の攪拌操作(チャーニング)でバターミルクが除かれたバター脂肪100gにセサミンを1.2g、さらに酢酸トコフェロールを1.2gを加えて練圧操作(ワーキング)を行い均等な組織として本発明組成物含有自律神経調節バターを得た。
製剤例2顆粒剤
セサミン/エピセサミン混合物 0.25g
酢酸トコフェロール 0.25g
無水ケイ酸 20.5g
トウモロコシデンプン 79g
を均一に混合した。この化合物に10%ハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通りねつ和し、押し出し、乾燥して顆粒剤を得た。
製剤例3錠剤
セサミン 3.5g
酢酸トコフェロール 0.5g
無水ケイ酸 20g
微結晶セルロース 10g
ステアリン酸マグネシウム 3g
乳糖 60g
を混合し、単発式打錠機にて打錠して経7mm、重量100mgの錠剤を製造した。
製剤例4カプセル剤
ゼラチン 70.0%
グリセリン 22.9%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
計 100%
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒200mgのソフトカプセルを得た。
セサミン/エピセサミン(1:1)混合物 10.8
小麦ビーズワックス 30
α−トコフェロール 20
パーム油 10
小麦胚芽油 適宜
計 100%
製剤例5ドリンク剤
呈味:DL−酒石酸ナトリウム 0.1g
コハク酸 0.009g
甘味:液糖 800g
酸味:クエン酸 12g
ビタミン:ビタミンC 10g
セサミン 1g
ビタミンE 30g
シクロデキストリン 5g
香料 15ml
塩化カリウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
上記成分を配合し、水を加えて10リットルとした。このドリンク剤は、1回あたり約100mlを飲用する。
【産業上の利用可能性】
セサミンおよび/またはその類縁体を摂取することにより、交感神経活動の亢進を抑制し、副交感神経活動の低下を抑制させることができる。また、全体的に低下した自律神経活動を改善することができる。このような自律神経調節作用は、自律神経系の乱れや活動低下を予防・緩和する点において、極めて有用であるばかりでなく、交感神経活動優位な状態あるいは全体的な活動低下で生じる種々の疾患に対しても極めて有用である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする自律神経調節作用剤。
【請求項2】
セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする低下した自律神経活動の改善作用を有する請求項1に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項3】
自律神経の乱れや全体的な活動低下及びそれに起因する症状を予防、改善または緩和する自律神経調節作用を有する、セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とする請求項1に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項4】
前記自律神経調節作用が、交感神経活動の亢進の抑制である、請求項1〜3に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項5】
前記自律神経調節作用が副交感神経活動の亢進である、請求項1〜3に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項6】
前記自律神経調節作用が副交感神経活動の低下の抑制である、請求項1〜3に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項7】
前記自律神経調節作用が低下した自律神経活動の改善である、請求項1〜3に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項8】
飲食物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項9】
医薬品である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の自律神経調節作用剤。
【請求項10】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、自律神経の乱れを調節したり、低下した活動を改善し、自律神経の乱れや活動低下に起因する症状を予防、改善、緩和するための請求項1〜3に記載の自律神経調節作用剤の使用方法。
【請求項11】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、交感神経活動の亢進を抑制する方法。
【請求項12】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、副交感神経活動を亢進させる方法。
【請求項13】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、副交感神経活動の低下を抑制する方法。
【請求項14】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより、全体的な自律神経活動の低下を改善する方法。
【請求項15】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより自律神経活動の乱れを調節する方法。
【請求項16】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することにより低下した自律神経活動を改善する方法。
【請求項17】
セサミン及び/またはエピセサミンを有効成分とするQT間隔の延長を抑制する抑制剤。
【請求項18】
セサミン及び/またはエピセサミンを摂取することによりQT間隔の延長を抑制する方法。

【国際公開番号】WO2004/105749
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506546(P2005−506546)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007641
【国際出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】