説明

自律移動装置

【課題】障害物が存在しなくても進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することが可能な自律移動装置を提供する。
【解決手段】自律移動装置は、周囲の障害物情報を取得するレーザレンジファインダ13と、障害物が存在する障害物領域を示す環境地図211、及び、進入を禁止する進入禁止領域を示す進入禁止領域地図212を記憶する記憶部21と、レーザレンジファインダ13によって取得された障害物情報と環境地図211とを用いて自己位置を推定する自己位置推定部25と、推定された自己位置、環境地図211、及び進入禁止領域地図212に基づいて、障害物領域及び進入禁止領域を回避して目的地まで自律移動するように制御する移動制御部28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的地まで自律的に移動する自律移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、壁等の障害物の形状を示す地図情報と、距離センサによって測定した自機から障害物までの水平距離とを用いて、障害物を回避しながら目的地まで自律的に移動する自律移動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−157625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自律移動装置が進入を回避すべき領域は、障害物が存在する領域だけに限られない場合がある。例えば、病院等の環境においては、自律移動装置が進入を回避すべき領域として、自律移動装置が移動できない階段などの段差がある領域、患者の処置室など移動すると危険な領域等がある。この場合、障害物が存在しない領域であっても、自律移動装置の進入を回避するように制御する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の自律移動装置では、障害物がなければ、上記の進入を回避すべき領域を検出することができない。このため、障害物は存在しないが進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することができない。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、障害物が存在しなくても進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することが可能な自律移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自律移動装置は、周囲の障害物情報を取得する障害物センサと、障害物が存在する障害物領域を示す環境地図、及び、進入を禁止する進入禁止領域を示す進入禁止領域地図を記憶する記憶手段と、障害物センサによって取得された障害物情報と環境地図とを用いて自己位置を推定する推定手段と、推定手段によって推定された自己位置、環境地図、及び進入禁止領域地図に基づいて、自律移動を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る自律移動装置によれば、障害物領域を示す環境地図に加えて、自律移動装置の進入を禁止する進入禁止領域を示す進入禁止領域地図が記憶手段によって記憶される。そして、環境地図と取得した障害物情報とに基づいて、環境地図上の自己位置が推定手段によって推定される。これにより、障害物センサによって取得された障害物情報と環境地図とに基づいて、進入禁止領域の影響を受けることなく、環境地図上の自己位置を推定することができる。従って、自己位置推定の誤りを抑制することができる。また、推定された自己位置、環境地図、及び進入禁止領域地図に基づいて、自律移動が制御手段によって制御される。これにより、自己位置を推定しながら、障害物領域及び進入禁止領域を回避して移動することができる。すなわち、障害物が存在しなくても進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することが可能となる。
【0008】
本発明に係る自律移動装置では、進入禁止領域を設定するための操作を受け付ける受付手段を備え、記憶手段は、受付手段によって受け付けられた操作に基づいて設定された進入禁止領域地図を記憶することが好ましい。この場合、進入禁止領域をユーザが任意に設定することができる。
【0009】
本発明に係る自律移動装置では、環境地図と進入禁止領域地図とを合成した合成地図を生成する合成手段を更に備えることが好ましい。また、この合成手段は、環境地図と進入禁止領域地図との相互に対応するピクセル毎に、環境地図によって示される障害物領域と進入禁止領域地図によって示される進入禁止領域との双方が反映された合成地図を生成することが好ましい。また、合成手段によって生成された合成地図を用いて、目的地までの経路を計画する計画手段を更に備え、制御手段は、計画手段によって計画された経路に基づいて自律移動を制御することが好ましい。この場合、計画手段は、合成地図に基づいて経路を計画するので、障害物領域と進入禁止領域との双方の領域を回避するように経路を計画することができる。
【0010】
本発明に係る自律移動装置では、推定手段によって推定された自己位置と、合成手段によって生成された合成地図とを用いて、障害物領域及び進入禁止領域に基づく回避情報を算出する算出手段を更に備え、制御手段は、算出手段によって算出された回避情報と、障害物センサによって取得された障害物情報とを用いて障害物を回避する制御を行うことが好ましい。
【0011】
この場合、合成地図における障害物領域に基づく回避情報と進入禁止領域に基づく回避情報とが、自己位置を基準にして算出される。これにより、障害物センサによって障害物情報を取得できない場合であっても、障害物領域に基づく回避情報を取得することができる。これにより、障害物を回避する制御をより確実に行うことができる。また、進入禁止領域の回避情報が算出され、算出された回避情報を用いて障害物を回避する制御が行われる。これにより、障害物領域と同じように、進入禁止領域を回避すべき領域とみなして、進入禁止領域を回避する制御を行うことができる。
【0012】
本発明に係る自律移動装置では、算出手段が、障害物センサによる障害物情報の出力形式と互換性のある回避情報を算出することにより、仮想的なセンサ出力を生成することが好ましい。この場合、算出手段による回避情報を障害物センサによる障害物情報と同じアルゴリズムを用いて情報処理することができる。
【0013】
本発明に係る自律移動装置では、障害物センサによる障害物情報と算出手段による回避情報とを統合する統合手段を更に備え、制御手段は、統合手段によって統合された障害物情報及び回避情報を用いて障害物を回避する制御を行うことが好ましい。この場合、障害物センサの数が変更される場合でも、統合された障害物情報が制御手段に入力されるので、制御手段におけるソフトウエアの変更を最小限に抑えることができる。
【0014】
本発明に係る自律移動装置では、障害物センサが、レーザレンジファインダであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、障害物が存在しなくても進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る自律移動装置の構成を説明するための図である。
【図2】自律移動装置が備える電子制御装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】自律移動装置が用いる環境地図、進入禁止領域地図、及び合成地図の一例を示す図である。
【図4】自律移動装置が備える自己位置推定部によって自己位置を推定する方法について説明するための図である。
【図5】自律移動装置が備える地図センサについて説明するための図である。
【図6】自律移動装置が用いる障害物情報の例を示す表である。
【図7】自律移動装置が備えるレーザレンジファインダによる実際の障害物情報と地図センサによる仮想的な障害物情報とについて説明するための図である。
【図8】自律移動装置による障害物回避制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る自律移動装置1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る自律移動装置1の構成を説明するための図である。自律移動装置1は、人及び物等の障害物及び設定された進入禁止領域を回避して、目的地まで自律的に移動する装置である。
【0019】
この自律移動装置1は、金属で形成された中空円柱状の本体10と、本体10の下側に設けられた4つのオムニホイール11と、オムニホイール11を駆動する4つの電動モータ12を備えている。自律移動装置1は、4つのオムニホイール11それぞれの回転方向及び回転速度を各電動モータ12によって個別に調節することより、移動面における任意の方向に移動することができる。また、自律移動装置1は、レーザレンジファインダ13、ステレオカメラ14、タッチスクリーン15、及び電子制御装置20を備えている。
【0020】
レーザレンジファインダ13は、自機周囲の障害物情報を取得するセンサであり、特許請求の範囲に記載の障害物センサとして機能する。レーザレンジファインダ13は、本体10の正面に取り付けられ、扇状且つ水平方向にレーザを射出し、各射出角度について、障害物により反射した反射波の伝播時間を計測する。射出角度、及び反射波の伝播時間から算出される距離が、レーザレンジファインダ13から出力される障害物情報である。
【0021】
ステレオカメラ14は、ステレオ画像を用いた三角測量の原理に基づいて、自機から障害物までの距離及び角度を算出する。この距離及び角度が、ステレオカメラ14から出力される障害物情報である。タッチスクリーン15は、液晶ディスプレイ、及び、タッチパネルから構成される入力装置である。ユーザが、液晶ディスプレイに表示された情報に対してタッチ操作を行うと、タッチパネルがタッチ操作を検出し、ユーザの操作が受け付けられる。
【0022】
電子制御装置20は、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14から出力される障害物情報を入力し、自律移動の制御を行う。このため、電子制御装置20は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを一時的に記憶するRAM、及び、その記憶内容が保持されるバックアップRAMやハードディスク等から構成されている。
【0023】
図2を参照して、上述したハードウエアとソフトウエアの組み合わせにより実現される電子制御装置20の機能的な構成要素について説明する。図2は、電子制御装置20の機能的な構成を示すブロック図である。電子制御装置20は、記憶部21、設定部22、合成部23、経路計画部24、自己位置推定部25、地図センサ26、センサデータ統合部27、及び移動制御部28を備える。
【0024】
記憶部21は、バックアップRAM等によって構成され、環境地図211及び進入禁止領域地図212を記憶している。すなわち、記憶部21は、特許請求の範囲に記載の記憶手段として機能する。環境地図211と進入禁止領域地図212とは、異なるレイヤに記憶され、一方の変更が他方に影響を与えないように記憶されている。
【0025】
図3(A)に示すように、環境地図211は、障害物が存在する障害物領域31を示す地図である。図3(A)において、白色の領域は障害物が存在する障害物領域31を示し、灰色の領域は障害物が存在しない領域32を示している。環境地図211に示される障害物領域31は、動かない静的な障害物が存在する領域であり、例えば壁や家具等が占める領域である。この障害物領域31は、レーザレンジファインダ13及び/又はステレオカメラ14によって予め検出されたものである。なお、障害物領域31は、自律移動装置1の移動する建物のCADデータなどに壁や家具などのデータを付加することでも作成することができる。
【0026】
図3(B)に示すように、進入禁止領域地図212は、進入禁止領域33を示す地図である。図3(B)において、薄い灰色の領域が進入禁止領域33を示し、濃い灰色の領域は、進入禁止領域以外の領域34を示している。進入禁止領域33は、自律移動装置1の進入を禁止するために設定される領域である。レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14は、進入禁止領域33内の障害物を検知できても、進入禁止領域33そのものを検知することはできない。
【0027】
進入禁止領域33は、ユーザが任意に設定することができる。例えば、自律移動装置1が移動できない階段又は段差等の手前に進入禁止領域33が設定されることにより、自律移動装置1が階段や段差には進入しないようにすることができる。また、例えば病院の処置室等、自律移動装置1が移動すると危険な領域等を進入禁止領域33に設定することができる。なお、障害物が存在するが、レーザレンジファインダ13又はステレオカメラ14によって検知できない領域、検知し難い領域が、進入禁止領域33として設定されてもよい。
【0028】
この進入禁止領域33は、ユーザがタッチスクリーン15を介して任意に設定することができる。具体的には、ユーザが、タッチスクリーン15により表示された環境地図211上において、タッチ操作により進入禁止領域を指定すると、タッチスクリーン15は、ユーザのタッチ操作を受け付ける。すなわち、タッチスクリーン15は、特許請求の範囲に記載の受付手段として機能する。タッチスクリーン15は、受け付けたタッチ操作の情報を設定部22へ出力する。
【0029】
設定部22は、タッチスクリーン15から出力されたタッチ操作に基づいて、指定された進入禁止領域を進入禁止領域地図212上に設定し、設定後の進入禁止領域地図212の情報を記憶部21へ出力する。これにより、ユーザによって任意に設定された進入禁止領域が、記憶部21内の進入禁止領域地図212に反映される。
【0030】
合成部23は、環境地図211と進入禁止領域地図212とを合成して合成地図213を生成する。すなわち、合成部23は、特許請求の範囲に記載の合成手段として機能する。図3(C)に示すように、合成地図213には、環境地図211と進入禁止領域地図212との相互に対応するピクセル毎に、環境地図211によって示される障害物領域31と進入禁止領域地図212によって示される進入禁止領域33との双方が反映されている。本実施形態において、ピクセルとは、図3(A)〜図3(C)における、グリッドによって分割された矩形の各領域のことをいう。
【0031】
図3(C)における白色の領域35は、環境地図211の障害物領域31が反映されている。薄い灰色の領域36は、進入禁止領域地図212の進入禁止領域33が反映されている。濃い灰色の領域37は、障害物領域31及び進入禁止領域33以外の領域である。
【0032】
経路計画部24は、合成部23によって生成された合成地図213を用いて、目的地までの経路を計画する。すなわち、経路計画部24は、特許請求の範囲に記載の計画手段として機能する。経路計画部24は、合成地図213を用いることにより、環境地図211に含まれる障害物領域31と、進入禁止領域地図212に含まれる進入禁止領域33との双方を回避して移動するように経路を計画する。
【0033】
自己位置推定部25は、レーザレンジファインダ13から出力された障害物情報と、環境地図211とを用いて自己位置を推定する。すなわち、自己位置推定部25は、特許請求の範囲に記載の推定手段として機能する。ここで、図4を参照して、自己位置を推定する方法について説明する。なお、図4は、自己位置推定部25によって自己位置を推定する方法について説明するための図である。
【0034】
図4(A)における5本の矢印が、レーザレンジファインダ13から出力される5つの障害物情報41に相当する。障害物情報41を示す矢印は、障害物情報41に含まれる射出角度及び距離を示している。自己位置推定部25は、環境地図211上で、障害物領域31と、レーザレンジファインダ13から出力された障害物情報41との一致度が高い座標を探索し、最も一致度が高い座標を自己位置と推定する。
【0035】
図4(B)に示すように、自己位置候補(1)と自己位置候補(2)とを比較すると、障害物領域31と障害物情報41との一致度は自己位置候補(2)の方が高い。この場合、自己位置候補(2)が自己位置と推定される。また、自己位置推定部25は、環境地図211における自機の向きを推定する。自己位置推定部25は、例えば、オムニホイール11の回転量、障害物情報41に含まれる各射出角度の情報等から自機の向きを推定する。
【0036】
なお、自己位置を推定する際には、合成地図213を用いずに、環境地図211を用いる。合成地図213を用いて自己位置を推定すると、レーザレンジファインダ13で検知可能な障害物領域31とレーザレンジファインダ13で検知不可能な進入禁止領域33との識別ができないので、自己位置の推定を誤る可能性が高くなるためである。
【0037】
上述したように、自律移動装置1では、自己位置を推定する際に、環境地図211が用いられる。一方、目的地までの経路を計画する際には、環境地図211と進入禁止地図212とを合成した合成地図213が用いられる。このため、自律移動装置1では、記憶部21が、環境地図211と進入禁止領域地図212とを異なるレイヤで記憶し、合成部23が、環境地図211と進入禁止領域地図212とを合成した合成地図213を生成する。
【0038】
地図センサ26は、推定された自己位置と合成地図213とを用いて、障害物領域31及び進入禁止領域33に対応する仮想的な障害物情報を算出する。仮想的な障害物情報とは、合成地図213における障害物領域31と進入禁止領域33とに基づいて生成され、回避制御に用いられる回避情報である。すなわち、地図センサ26は、特許請求の範囲に記載の算出手段として機能する。ここで、図5を参照して地図センサ26について説明する。図5に示される矢印が、地図センサ26によって算出される仮想的な障害物情報43を示す。
【0039】
地図センサ26は、推定された自己位置50を合成地図213上に投影し、仮想的なセンサ出力を障害物情報43として算出する。仮想的なセンサ出力は、障害物領域31に相当する領域35及び進入禁止領域33に相当する領域36を仮想的に障害物が存在する領域とみなした場合に、自己位置50に位置する仮想的なセンサによって得られる出力である。すなわち、障害物情報43は、実際の障害物の存在により検出された障害物の情報ではなく、演算により生成された仮想的な障害物情報である。
【0040】
この仮想的な障害物情報43は、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14から出力される実際の障害物情報と同じデータフォーマットを有している。図6は、仮想的な障害物情報43のデータフォーマットを示す表である。図6に示されるように、仮想的な障害物情報43は、角度番号(例えば100)と自機から障害物までの距離(例えば2525mm)とを示す情報を含む。なお、角度番号が、レーザレンジファインダ13から出力される障害物情報の射出角度に相当する。
【0041】
センサデータ統合部27は、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14により取得された実際の障害物情報と、地図センサ26により算出された仮想的な障害物情報43とを統合する。すなわち、センサデータ統合部27は、特許請求の範囲に記載の統合手段として機能する。
【0042】
例えば、レーザレンジファインダ13について障害物の検出が保証された距離が5mであり、ステレオカメラ14についてはその距離が10mである場合がある。この場合、センサデータ統合部27は、入力される実際の障害物情報について、距離が5mより大きいものは削除する等して、距離5m以内の情報に統合する。
【0043】
実際の障害物情報及び仮想的な障害物情報43が統合されることにより、レーザレンジファインダ13又はステレオカメラ14によって、エラー等の要因で取得できなかった障害物情報を、地図センサ26による仮想的な障害物情報43によって補完することができる。この点について図7を参照して説明する。図7(A)は、ある時刻に、レーザレンジファインダ13によって取得された実際の障害物情報42を示す。
【0044】
破線で示す矩形の領域39は、障害物領域31内であるが、レーザレンジファインダ13によって検出できなかった領域である。これは、障害物の色や材質又はレーザの反射角度によっては、レーザレンジファインダ13が反射波を検出できない場合がある為である。このため、レーザレンジファインダ13によってある瞬間には検知され、次の瞬間には検知されないといった、いわゆるちらつきが発生することがある。
【0045】
一方、図7(B)に示されるように、地図センサ26による仮想的な障害物情報43は、予め記憶された障害物領域31に相当する領域35に基づいて算出される。このため、レーザレンジファインダ13によって検知できなかった領域39に相当する仮想的な障害物情報43が含まれている。この地図センサ26による仮想的な障害物情報43とレーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14による実際の障害物情報とを統合することにより、レーザレンジファインダ13又はステレオカメラ14によって取得できなかった障害物情報を補完することができる。これにより、いわゆるちらつきを防止して、安定して障害物情報を得ることができる。
【0046】
移動制御部28は、自己位置推定部25によって推定された自己位置に基づいて、経路計画部24によって計画された経路に沿って移動するようにモータ12の制御を行う。移動制御部28は、障害物回避部29を備える。障害物回避部29は、経路計画部24によって計画された経路に沿って目的地へ移動する途中で障害物を検知した場合に、センサデータ統合部27から出力された障害物情報を用いて、自機と障害物との干渉計算等を行い、障害物を回避する制御を行う。障害物を回避する制御には、障害物と接触しないように停止する制御、迂回する制御等が含まれる。
【0047】
次に、図8を用いて自律移動装置1による障害物回避制御の処理手順について説明する。図8は、自律移動装置1による障害物回避制御の処理手順を示すフローチャートである。この障害物回避制御は、自律移動装置1が、計画した経路に沿って目的地まで自律的に移動する際に、電子制御装置20によって実行される。
【0048】
まず、ステップS101において、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14によって取得された実際の障害物情報が読み込まれる。次に、ステップS102において、自己位置が、環境地図211とレーザレンジファインダ13による実際の障害物情報とに基づいて、自己位置推定部25によって推定される。なお、自己位置の推定方法は上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0049】
そして、ステップS103において、環境地図211と進入禁止領域地図212とが合成された合成地図213を用いて、自己位置を基準とした仮想的なセンサ出力である仮想的な障害物情報43が、地図センサ26によって算出される。すなわち、障害物領域31に相当する領域35及び進入禁止領域33に相当する領域36を仮想的に障害物が存在する領域とみなした場合に、自己位置50に位置する仮想的なセンサによって得られるセンサ出力が生成される。
【0050】
続いて、ステップS104において、ステップS101で読み込まれた実際の障害物情報と、ステップS103で算出された仮想的な障害物情報43とが、センサデータ統合部27によって統合される。すなわち、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14によって取得された障害物情報と、地図センサ26による障害物領域31及び進入禁止領域33に対応する仮想的な障害物情報43とが統合される。
【0051】
そして、ステップS105において、ステップS104で統合された障害物情報に基づいて、障害物を回避する制御が、移動制御部28によって行われる。これにより、自律移動装置1は、環境地図211上の障害物領域31と、進入禁止領域212上の進入禁止領域212と、移動中にレーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14によって検出された動的な障害物とを回避して移動することができる。以上の図8に示される処理が、自律移動装置1の制御周期毎に繰り返して実行される。
【0052】
以上説明した本実施形態に係る自律移動装置1では、障害物領域31を示す環境地図211に加えて、進入禁止領域33を示す進入禁止領域地図212が記憶部21によって記憶される。そして、実際の障害物情報と障害物領域31とに基づいて、自己位置が推定される。従って、自己位置推定の誤りを抑制することができる。一方、推定された自己位置と、環境地図211及び進入禁止領域地図212が合成された合成地図213とに基づいて、自律移動が制御される。これにより、障害物領域31及び進入禁止領域33を回避して移動することができる。すなわち、障害物が存在しなくても進入を回避すべき領域を自律的に回避して移動することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態によれば、進入禁止領域33を設定するための操作がタッチスクリーン15によって受け付けられ、設定された進入禁止領域33が、進入禁止領域地図212に反映される。このため、進入禁止領域33をユーザが状況に合わせて任意に設定することができる。
【0054】
本実施形態によれば、合成地図213に基づいて目的地までの経路が計画されるので、障害物領域31と進入禁止領域33との双方の領域を回避するように経路を計画することができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、合成地図213における障害物領域31に対応する仮想的な障害物情報43と進入禁止領域33に対応する仮想的な障害物情報43とが、自己位置を基準にして算出される。これにより、レーザレンジファインダ13によって実際の障害物情報を取得できない場合であっても、障害物領域31の仮想的な障害物情報43を取得することができる。従って、いわゆるちらつきを防止することができる。また、進入禁止領域33を障害物領域31と同じように回避すべき領域とみなして、進入禁止領域33の仮想的な障害物情報43を取得することができる。これにより、障害物を回避する制御をより確実に行うことができると共に、進入禁止領域33を回避する制御を行うことができる。
【0056】
更に、本実施形態によれば、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14による実際の障害物情報と同じデータフォーマットの仮想的な障害物情報43が、地図センサ26によって算出されることにより、仮想的なセンサ出力が生成される。これにより、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14による実際の障害物情報と地図センサ26による仮想的な障害物情報とを統合する処理を容易に行うことができる。また、レーザレンジファインダ13及びステレオカメラ14を備える自律移動装置に地図センサ26を後から増設した場合、地図センサ26から出力される仮想的な障害物情報43を統合するためのソフトウエアの変更を最小限に抑えることができる。
【0057】
本実施形態によれば、統合された障害物情報を用いて、障害物を回避する制御が移動制御部28によって行われる。これにより、障害物を検知するセンサの数が変更される場合でも、統合された障害物情報が移動制御部28に入力されるので、移動制御部28におけるソフトウエアの変更を最小限に抑えることができる。よって、仕様変更に柔軟に対応することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、周囲の障害物情報を取得する手段としてレーザレンジファインダ13とステレオカメラ14を用いたが、これに限られない。レーザレンジファインダ13とステレオカメラ14のいずれか一方でもよいし、超音波センサなどを組み合わせてもよい。また、上記実施形態では、レーザレンジファインダ13による障害物情報を自己位置推定に用いたが、他のステレオカメラや超音波センサによる障害物情報を用いて自己位置を推定してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、地図センサ26が、レーザレンジファインダ13による実際の障害物情報のデータフォーマットと同じフォーマットの仮想的な障害物情報43を算出することとしたが、これに限られない。地図センサ26は、レーザレンジファインダ13による実際の障害物情報と互換性のあるデータフォーマットを有する仮想的な障害物情報を算出してもよい。この場合、例えば、センサデータ統合部27において、データフォーマットを統一する処理を行う。
【符号の説明】
【0060】
1 自律移動装置
13 レーザレンジファインダ
14 ステレオカメラ
15 タッチスクリーン
20 電子制御装置
21 記憶部
211 環境地図
212 進入禁止領域地図
213 合成地図
22 設定部
23 合成部
24 経路計画部
25 自己位置推定部
26 地図センサ
27 センサデータ統合部
28 移動制御部
29 障害物回避部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の障害物情報を取得する障害物センサと、
障害物が存在する障害物領域を示す環境地図、及び、進入を禁止する進入禁止領域を示す進入禁止領域地図を記憶する記憶手段と、
前記障害物センサによって取得された障害物情報と前記環境地図とを用いて自己位置を推定する推定手段と、
前記推定手段によって推定された自己位置、前記環境地図、及び前記進入禁止領域地図に基づいて、自律移動を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする自律移動装置。
【請求項2】
前記進入禁止領域を設定するための操作を受け付ける受付手段を備え、
前記記憶手段は、前記受付手段によって受け付けられた操作に基づいて設定された前記進入禁止領域地図を記憶することを特徴とする請求項1に記載の自律移動装置。
【請求項3】
前記環境地図と前記進入禁止領域地図とを合成した合成地図を生成する合成手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の自律移動装置。
【請求項4】
前記合成手段は、前記環境地図と前記進入禁止領域地図との相互に対応するピクセル毎に、前記環境地図によって示される障害物領域と前記進入禁止領域地図によって示される進入禁止領域との双方が反映された前記合成地図を生成することを特徴とする請求項3に記載の自律移動装置。
【請求項5】
前記合成手段によって生成された合成地図を用いて、目的地までの経路を計画する計画手段を更に備え、
前記制御手段は、前記計画手段によって計画された経路に基づいて自律移動を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の自律移動装置。
【請求項6】
前記推定手段によって推定された自己位置と、前記合成手段によって生成された合成地図とを用いて、前記障害物領域及び前記進入禁止領域に基づく回避情報を算出する算出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記算出手段によって算出された回避情報と、前記障害物センサによって取得された障害物情報とを用いて障害物を回避する制御を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の自律移動装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記障害物センサによる障害物情報の出力形式と互換性のある前記回避情報を算出することにより、仮想的なセンサ出力を生成することを特徴とする請求項6に記載の自律移動装置。
【請求項8】
前記障害物センサによる障害物情報と前記算出手段による回避情報とを統合する統合手段を更に備え、
前記制御手段は、前記統合手段によって統合された前記障害物情報及び前記回避情報を用いて障害物を回避する制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の自律移動装置。
【請求項9】
前記障害物センサは、レーザレンジファインダであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の自律移動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−128899(P2011−128899A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286846(P2009−286846)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、ロボット搬送システム(サービスロボット分野)、全方向移動自律搬送ロボット開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】