説明

自走型防除機

【課題】本発明の課題は、異なる圃場条件においても、個々に適正なスリップ率の算出を可能とし、散布設定量と実質散布量の誤差を小さくし、散布精度の高い自走型防除機を具現せんとするものである。
【解決手段】 本発明は、車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、路上走行を基準とした走行用油圧式無段変速装置(16)のトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(A)を予め記憶させておく記憶装置(R)を備え、記憶された路上走行での関係特性(A)と圃場での水田走行によって得られるトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)とに基づき車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段(S)と、算出されたスリップ率をコントローラ表示パネル(21)に表示する表示手段(39)を備えてあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車速に連動して散布量を変更する自走型防除機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、薬液を散布する防除装置には、1反あたり100リットルの薬液を散布する際に使用する慣行散布用ノズルと、1反当り25リットルの薬液を散布する際に使用する小量散布用ノズルが設けられ、ホース等の連結手段を介して択一的に連結することで、薬液の多量散布と少量散布を使い分けできるようにしたものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−108609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術とは異なり、車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機においては、散布する圃場のスリップ率如何によって、散布設定量と実質散布量が大きく異なる問題が発生している。また、マイコン演算式のスリップ率は、ある任意の定められた数字を使用しているため、圃場条件や走行作業速でスリップ率が前記数字と差が発生した場合、設定した散布量より誤差が大きくなる欠点がある。
【0004】
本発明の課題は、異なる圃場条件においても、個々に適正なスリップ率の算出を可能とし、散布設定量と実質散布量の誤差を小さくし、散布精度の高い自走型防除機を具現せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、路上走行を基準とした走行用油圧式無段変速装置(16)のトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(A)を予め記憶させておく記憶装置(R)を備え、記憶された路上走行での関係特性(A)と圃場走行によって得られるトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)とに基づき車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段(S)と、算出されたスリップ率をコントローラ表示パネル(21)に表示する表示手段(39)を備えてあることを特徴とする。
【0006】
舗装路面を基準とする路上走行でのトラニオン作動角と車速パルス数との関係特性(A)を予めマイコンの記憶装置(R)に記憶させておく。圃場での水田走行によって得られるトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)をマイコンに入力する。そして、これら両者の関係特性に基づき、車輪のスリップ率が(B−A/A)の演算式で算出され、その算出結果はコントローラ表示パネル(21)に表示される。表示されたスリップ率を基にして、その圃場条件に適合した散布量に修正し、スリップ率に応じた散布量をもって散布することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、予め数項目にわたって設定されている車輪のスリップ率の中から圃場条件に適合したスリップ率を選択設定可能に設けてあることを特徴とする。
【0008】
薬液散布量は車速に応じて変化し単位面積当たりの散布量を一定に維持するが、圃場の状態によって車輪のスリップ率を複数の設定項目の中から選択設定することができるため、より近いスリップ率の選択設定によって圃場条件や走行条件に適合した適正な散布量に補正して、一定の散布量を維持させることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上要するに、請求項1の本発明によれば、路上走行、圃場走行でのトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性を基にして車輪のスリップ率を算出するので、異なる圃場条件においても、個々に適正なスリップ率の算出が可能となり、散布設定量と実質散布量との誤差が小さくなり、散布精度をより高めることができる。
【0010】
請求項2の本発明によれば、圃場の状態によって車輪のスリップ率を複数の設定項目の中から選択設定することができるため、より近いスリップ率の選択設定によって圃場条件や走行条件に適合した適正な散布量に補正することができ、一定の散布量を維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、乗用型防除機を示すものであり、この車体1の前部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力が変速レバー12の操作で前後進の切り替えが可能な油圧式無段変速装置(HST)16に伝達され、その変速出力がミッションケ−ス2内の変速装置に入力され、更に、この変速装置で減速された後、前輪3と後輪4とに伝えられるようになっている。なお、HST16は、変速レバー12の前後方向の操作でロッドやリンク等からなる操作連動機構12a、トラニオンアーム17を介してトラニオン軸18を回動して変速制御する構成としている。
【0012】
機体後部には薬液を収容しているタンク5が設置され、該薬液タンク5の上部に運転席6が、その前方にはステアリングハンドル7が装備されている。薬液タンク5内の薬液は、ポンプ8により後述する散布ブ−ム9に設けられた散布ホ−ス10のノズル11から噴出されるようになっている。
【0013】
機体の左右両側には散布ブ−ムを収納支持するためのブーム収納支持枠13,13が立設され、受け具14によって係止保持されるようになっている。
次に、散布ブ−ム9の構成について説明すると、中央の散布ブ−ム(センタブーム)9aは機体の横幅に略一致し、その左右両側に連結される左右散布ブ−ム(サイドブーム)9b,9bは中央のそれよりも長さが長く構成されている。サイドブ−ム9bは、中央のセンターブ−ム9aに対し回動自在に連結され、サイドブ−ム上下シリンダ15により上方へ回動させて収納状態に保持させたり、或いは地面と略平行となる散布作業姿勢状態に回動させて支持させたりすることができる。
【0014】
図5において、防除コントローラ20を備えた表示パネル21には、中央上部のディスプレイ22の左側に上位から散布設定23、圧力24、流量25、流量累計26、定数27等の表示部が表示されていて、ディスプレイ22の左端部に点灯される三角マークによって、このディスプレイに表示されるデータ内容が指示される。ディスプレイ22右側には表示切替手段である表示切替ボタン28が設けられる。また、これらの下方には、自動押しボタン(スイッチ)29が設けられ、このONをパイロットランプ30で表示するようになっている。更に、散布設定ボタンスイッチ31、増減ボタンスイッチ32,33「スリップ率選択ボタン兼用」、累計リセットスイッチ34等が配置される。また、表示切替ボタン28の上側にスリップ率表示ボタン35が設けられ、この左側にはスリップ率表示部36が設けられている。
【0015】
図3に示すように、舗装路面を基準とする路上走行でのトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(A)と、水田走行でのトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)とに基づき、車輪のスリップ率を(B−A/A)の演算式で算出するように構成している。基準となる路上走行での関係特性(A)は、予め防除コントローラ20の記憶装置(R)に記憶させておき、水田走行によって得られるトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)をコントローラ20に入力し、スリップ率算出手段(S)によって、即ち(B−A/A)の演算式でスリップ率を算出するようになっている。そして、そのスリップ率算出結果は、表示手段である表示器39を介してコントローラ表示パネル21のスリップ率表示部36に表示されるようになっている。
【0016】
また、防除作業時、防除コントローラ20によってリアルタイムに測定しているスリップ率が記憶決定ボタン(自動ボタン29)を押すことで、その時の数値が記憶装置(R)に記憶されるようになっており、実車速にて散布圧力が精密に演算されることになる。
つまり、実質の車速(m/s)V=0.0098(係数)×n×(1−α)の演算式で算出されることになる。
【0017】
n;500msec間のパルス数
α;スリップ率(B−A/A)
従って、散布設定量と実質散布量との誤差が小さくなり、散布精度が向上することになる。
なお、マイコン防除基本演算式P(圧力)=0.00324・Vイ・Qイ/Z1イの演算式で算出される。
【0018】
Q;散布量
Z1;ノズル定数
車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、防除コントローラ20によってリアルタイムに測定しているスリップ率をそのまま自動モードの演算式に反映させて車速Vを上記演算式でもって算出し、そして、その車速に連動して散布圧力(マイコン防除基本演算式P=「0.00324・Vイ・Qイ/Z1イ」で算出)を増減制御して規定量を散布するように構成することもできる。
【0019】
図4に示すように、コントローラ20の入力側には、トラニオン角センサ(ポテンショメータ)37、車速センサ38が設けられ、また、コントローラ20の出力側には表示器39が設けられている。なお、前記車速センサ38はパルス発生器38aにより車速パルス数が検知されるようになっている。また、トラニオンアーム17の作動角が同じ位置にある場合で車速パルス数が異なる場合には車輪のスリップ量は大きくなるが、特に湿田の場合は更に大きく、上記関係特性の変化が如実に表れることになる。
【0020】
図6に示す実施例では、トラニオンアーム17の作動角をトラニオン角センサ37によって検出するようにしているが、トラニオンアーム17と変速レバー12間の操作連動機構の作動角を検出するようにしてもよく、また、図7に示すように、変速レバー12の操作角をトラニオン角センサ37によって検出する構成であってもよい。
【0021】
図5に示すように、コントローラにはスリップ率の選択項目、例えば、スリップ率「1・0、95」−「2・0、90」−「3・0、85」−「4・0、80」等の選択項目を記憶設定してあり、スリップ率表示ボタン35を押すと、これらのスリップ率選択項目がスリップ率表示部36に表示されるようになっている。そして、選択ボタン32,33を押すことによって圃場条件に応じたスリップ率を選択項目の中から選択設定することができる構成としている。これによれば、圃場の状態によって車輪のスリップ率を複数の設定項目の中から選択設定することができるため、その圃場に応じたスリップ率の選択設定によって圃場条件や走行条件に適合した適正な散布量に補正することができる。例えば、湿田のようなスリップの多い場所での作業では、この適切なスリップ率(例えば、「0.95」を選択設定することによって対応することができる。
【0022】
図8に示す実施例は、機体の移動速度を検出するGPS受信器と車速センサ38を備えてある自走型防除機において、GPS受信器40のアンテナ41を防除機の最も電波受信の障害とならない薬液タンク5の上面に設置したものである。車速情報がマイコン内に安定して流れるので、車体にスリップが発生しても目標の散布設定どおりの散布が行われることになる。
【0023】
また、GPS受信器40からの情報を車速センサ38からの情報より優先させることで、圃場でのスリップに影響されず、正確な機体の移動速度情報をマイコンに送れるので目標設定の散布量どおりに散布することができる。
【0024】
機体の移動速度を検出するGPS受信器のみでは、山影となる圃場の作業においては、衛星からの電波受信が弱く受信性能が低下し、車速情報をマイコンに正確に送れない欠点があるが、作業環境によりGPS受信器と車速センサを自動的に使い分けできるように構成しておけば、上記作業条件下においても、車速センサの情報を自動的に利用させることで、上記欠点を解消でき、高性能の防除機を提供することができる。
【0025】
なお、図9において、防除コントローラ20の入力側にはGPS40及び車速センサ38が接続して設けられ、コントローラの出力側には流量制御アクチュエータ42が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】自走型防除機の側面図
【図2】同上要部の正面図
【図3】トラニオン作動角と車速パルス数との関係特性を示す線図
【図4】制御ブロック回路図
【図5】防除コントローラ及び表示パネルの平面図
【図6】HSTの平面図
【図7】防除機の操作部要部の側面図
【図8】防除機の要部の平面図
【図9】制御ブロック図
【符号の説明】
【0027】
(A) 水田走行でのトラニオンアーム角と車速パルス数との関係特性
(B) 水田走行でのトラニオンアーム角と車速パルス数との関係特性
(R) 記憶装置
(S) スリップ率算出手段
16 油圧式無段変速装置(HST)
17 トラニオンアーム
20 防除コントローラ
21 表示パネル
36 スリップ率表示部
37 トラニオン角センサ
38 車速センサ
39 表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、路上走行を基準とした走行用油圧式無段変速装置(16)のトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(A)を予め記憶させておく記憶装置(R)を備え、記憶された路上走行での関係特性(A)と圃場走行によって得られるトラニオンアーム作動角と車速パルス数との関係特性(B)とに基づき車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段(S)と、算出されたスリップ率をコントローラ表示パネル(21)に表示する表示手段(39)を備えてあることを特徴とする自走型防除機。
【請求項2】
車速に連動して散布量を自動的に変更する車速連動型散布装置を備えた自走型防除機において、予め数項目にわたって設定されている車輪のスリップ率の中から圃場条件に適合したスリップ率を選択設定可能に設けてあることを特徴とする請求項1に記載の防除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−271838(P2008−271838A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118562(P2007−118562)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】