説明

自走式建設機械

【課題】重負荷の場合の自走式建設機械の動作を改善する。
【解決手段】本発明は、車輪又は無限軌道ユニット1A、1Bを有するシャシー1を有する自走式建設機械に関する。本発明の建設機械は、少なくとも1つの内燃機関5Aを備える駆動ユニット5から、少なくとも1つの作業アッセンブリ4Aを備える作業ユニット4に駆動力を伝達するためのギア機構システム6が、作業ユニットを作動させるための従来のクラッチに代えて、駆動軸10A及び出力軸10Bを有する流体力学的ギア機構10を有する点で特徴付けられる。建設機械は、制御装置16を備える。制御装置16は、駆動ユニット5から第1の動力伝達ラインIを介して車輪又は無限軌道ユニット1A、1Bに伝達される駆動力が、第2の動力伝達ラインIIの流体力学的伝達装置の駆動軸及び出力軸間の回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に対応するように制御されるよう、具現化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪又は無限軌道ユニットを有するシャシーを備えた自走式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
道路建設において、様々な設計の自走式建設機械が用いられている。これらの機械には、公知の道路切削機械、道路再生機或いは道路スタビライザが含まれる。公知の道路切削機械は、道路の上部構造から道路の既存の層を取り除き、公知の再生機で既存の路面を修復するのに用いることができる。公知のスタビライザは、道路建設のために下部構造を下処理する。さらに、いわゆる表面切削機(surface miner)は、例えば石炭や石を取り除くための自走式建設機械として知られている。
【0003】
上述の自走式建設機械は、回転破砕ローラ又は切削ローラを有し、それで物質を取り除く。
【0004】
破砕ローラ又は切削ローラの駆動には、比較的高い原動力を必要とする。破砕ローラ又は切削ローラが特に硬い物質にぶつかると、ローラを駆動するために必要な動力は非常に大きくなって、駆動モータが過負荷状態になる。駆動モータの過負荷に加えて、破砕ローラ又は切削ローラが特に硬い物質にぶつかると、建設機械の駆動要素及び構造体が衝撃荷重によって過負荷状態になるという問題が起きる。この問題は、特に表面切削機で生じる。
【0005】
公知の自走式建設機械の駆動モータは、内燃機関、特にディーゼルエンジンであり、そのエンジン特性は、特有のトルク/回転速度特性曲線によって特徴付けられる。内燃機関は、特定の回転速度で動作されるが、過負荷の場合は、内燃機関がストールするおそれがある。
【0006】
第1の動力伝達ラインが、内燃機関から車輪又は無限軌道ユニットに駆動力を伝達するために用いられ、第2の動力伝達ラインが内燃機関から破砕ローラ又は切削ローラに駆動力を伝達するために用いられる。二つの動力伝達ラインはそれぞれギア機構システムを有している。
【0007】
車輪に駆動力を伝達するための動力伝達ラインのギア機構システムが調整可能な静油圧ギア機構(hydrostatic gear mechanism)を有する自走式建設機械が知られている。内燃機関の過負荷を防止するために、調整可能な静油圧ギア機構に対し限界負荷を制御するための制御装置が設けられている。
【0008】
EP0497293A1には、建設機械のために静油圧駆動部の限界負荷を制御する方法が記載されている。静油圧駆動部は、油圧ポンプを備えている。この油圧ポンプは、内燃機関によって駆動され、調整可能な送出量を有し、かつ接続された油圧回路を介して油圧モータを駆動する。内燃機関が過負荷となるおそれがある時は、油圧ポンプの送出量が減少される。この制御は、内燃機関の出力軸上の回転速度センサで測定される内燃機関の実際の回転速度の関数として行われる。
【0009】
建設機械の静油圧駆動部のための制御装置は、例えばEP0736708B1及びEP0558958B1によっても知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0497293号明細書
【特許文献2】欧州特許第0736708号明細書
【特許文献3】欧州特許第0558958号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、重負荷の場合の自走式建設機械の動作を改善するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、かかる目的は、装置の独立請求項の特徴及び方法の独立請求項の特徴によって達成されるものである。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題を構成する。
【0013】
本発明に係る自走式建設機械は、少なくとも1つの内燃機関を備える駆動ユニットから、少なくとも1つの作業アッセンブリを備える作業ユニットに駆動力を伝達するためのギア機構システムが、作業ユニットを作動させることが可能な従来のクラッチを有さず、代わりに、駆動軸及び出力軸を有する流体力学的ギア機構(hydrodynamic gear mechanism)を有するということによって特徴付けられる。流体力学的ギア機構は、ほとんど摩耗なしに動作し、衝撃を減衰するという利点を有する。
【0014】
自動車及び機関車における流体力学的ギア機構は当業者に一般に知られている。これらの流体力学的ギア機構は、動力の伝達が高流速かつ低圧で行われる点で、静油圧ギア機構と異なる。
【0015】
流体力学的な力の伝達の原理に従って動作するターボクラッチは、駆動軸と出力軸との間に回転速度差(すべり)があるということによって特徴付けられる。このすべりは、トルクが一定であると仮定して、軸の回転速度が増大するにつれて減少する。また、このすべりは、回転速度が一定であると仮定して、トルクが増大するにつれて増加する。
【0016】
本発明に係る建設機械において、制御装置は、第1の動力伝達ラインを介して駆動ユニットから車輪又は無限軌道ユニットに伝達される駆動力が、第2の動力伝達ラインの流体力学的ギア機構の駆動軸及び出力軸間の回転速度差が予め設定された値に一致するように制御されるよう具現化される。これにより、一方では、駆動ユニットの内燃機関が限界負荷領域内で過負荷状態にならないことが保障され、他方では、自走式建設機械が、衝撃荷重の結果としての過負荷を建設機械の駆動要素又は構造体に受けないことが保障される。
【0017】
自走式建設機械の破砕ローラ又は切削ローラが特に硬い物質に衝突すると、建設機械の駆動力又は前進速度は減少し、その結果、内燃機関が過負荷状態とならない。この状況において、流体力学的ギア機構は一定のすべりを有して動作される。
【0018】
本発明に係る建設機械に関し、車輪又は無限軌道ユニットに伝達される駆動力の制御がいかにして行われるかは重要でない。好適な一実施形態においては、第1の動力伝達ラインが、調整可能な静油圧ギア機構を備えたギア機構システムを有し、この調整可能な静油圧ギア機構が、流体力学的ギア機構の駆動軸及び出力軸間の回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に一致するように調整される。例えば発電機及び電気モータを備えた駆動部の場合は、例えば周波数変換器によって駆動力を制御することができる。
【0019】
本発明の好適な一実施形態では、種々の動作状態、特に第1及び第2の動作状態を予め設定することができる装置が提供される。この事前設定は、入力ユニットを用いて手動で、又は制御ユニットにより自動的に行うことができる。二つの動作状態を予め設定するための装置は、前記制御装置が第1の動作状態で停止され、第2の動作状態で作動されるように具現化される。その結果、本発明に係る制御では、個々に停止され、作動されることができる。そのため、駆動ユニットが過負荷になるおそれがある時にのみ、作業ユニットを駆動するための動力伝達ラインの流体力学的ギア機構における特定のすべりを有して機械を動作させることが可能である。
【0020】
制御装置が停止される第1の動作状態では、従来の限界負荷制御を行うことができる。建設機械の前進速度が比較的硬い石のせいで特定の絶対値だけ減少されると、制御装置が作動される第2の動作状態に切り替えることが可能である。この切り替えは、前進速度を予め設定された制限値と比較すれば自動的に行うことができる。制限値を下回る時に、システムは、第1の動作状態から第2の動作状態に切り替えられる。その結果、限界負荷制御から部分負荷制御への切り替えが行われる。
【0021】
本発明に係る制御に関し、流体力学的ギア機構がどのような設計を有するかは重要ではない。ただ一つの決定的なファクターは、ギア機構が回転速度又はトルクに依存するすべりを有することである。したがって、当業者に知られている全ての流体力学的ギア機構を用いることが可能である。本発明の特に好適な一実施形態において、流体力学的ギア機構はターボクラッチである。
【0022】
駆動ユニットの駆動力を車輪又は無限軌道ユニットに伝達するための動力伝達ラインのギア機構システムは、好ましくは、送出量が調整可能な少なくとも一つの油圧ポンプを有し、この油圧ポンプを、車輪又は無限軌道ユニットを駆動するための少なくとも一つの油圧モータに油圧ラインを介して接続する。この実施形態において、油圧ポンプの送出量は、制御装置によって、駆動ユニットから作業ユニットに駆動力を伝達するための流体力学的ギア機構の駆動軸及び出力軸間の回転速度差が予め設定された値に一致するように調整される。
【0023】
本発明に関し、どのようにして車輪又は無限軌道ユニットを駆動するための駆動系の調整可能な静油圧ギア機構を設計するかは決定的なことではない。決定的なことは、ギア機構が調整可能であり、その結果、建設機械の駆動力を変化させることができるということである。流体力学的ギア機構に加えて、駆動ユニットから作業ユニットに駆動力を伝達するための動力伝達ラインのギア機構システムは、追加的なギア機構も有することができる。この動力伝達ラインは、好ましくは、駆動要素が流体力学的ギア機構の出力軸に接続され、かつ出力要素が作業ユニットの作業アッセンブリに接続された摩擦駆動装置をも有する。
【0024】
駆動ユニットから車輪又は無限軌道ユニットに駆動力を伝達するための動力伝達ラインのギア機構システムも、追加的なギア機構、特に建設機械の追加的なアッセンブリ、例えば垂直調整のための揚重支柱、操縦のための部分駆動装置又はウォーターポンプを駆動できるようにするためのポンプ分配ギア機構を有することができる。
【0025】
以下の文中において、本発明の典型的な実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】自走式建設機械の一例としての大型破砕機の側面図である。
【図2】自走式建設機械の車輪又は無限軌道ユニット及び作業ユニットを駆動するための二つの動力伝達ラインの簡略化された概略図である。
【図3】流体力学的ギア機構の駆動軸及び出力軸間の回転速度差の関数として流体力学的ギア機構によって伝達されるトルクを示す。
【図4】内燃機関の回転速度の関数としてのトルクを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、自走式建設機械の一例として、アスファルト、コンクリート等で作られた路面を破砕するためのいわゆる大型破砕機を示す。大型破砕機は、シャシー1によって支持された機械フレーム2及び運転室2Aを備える。破砕機のシャシー1は、例えば四つの無限軌道ユニット1A、1Bを備えており、これらの無限軌道ユニットは、車両フレームの両側の、前側及び後側に配置されている。無限軌道ユニットに代えて、車輪を設けてもよい。無限軌道ユニット1A、1Bは、機械フレーム2に設けられた垂直調整可能な揚重支柱3に取り付けられている。
【0028】
道路破砕機械は、作業アッセンブリ4Aを有する作業ユニット4を備えている。作業アッセンブリは、破砕カッターを装備する破砕ローラ4Aである。破砕ローラ4Aは、前後の無限軌道ユニット1A、1Bの間で機械フレーム2上に配置されている。
【0029】
破砕ローラ4Aを駆動するために、破砕機械は、内燃機関5Aを有する駆動ユニット5を備えている。内燃機関5Aは、破砕ローラ4Aのみならず、無限軌道ユニット1A、1Bと、破砕機械の追加的な複数のアッセンブリを駆動する。
【0030】
図2は、駆動ユニット5の駆動力を車輪又は無限軌道ユニット1A、1Bと破砕ローラ4Aとに伝達するための二つの動力伝達ラインを示す。図2において、車輪又は無限軌道ユニットは輪郭のみで示してある。
【0031】
内燃機関5Aの回転速度は、車両運転者がアクセルペダル17を用いて公知のやり方で予め設定することができる。建設機械の運転中は、車両運転者がアクセルペダル17を用い、内燃機関が経済的な観点から最もよく動作する回転速度を予め設定する。ただし、アクセルペダル17に代えてアクチュエーターレバーを設けるようにすることもできる。
【0032】
第1の動力伝達ラインIは、駆動ユニット5から無限軌道ユニット1A、1Bに駆動力を伝達するのに用いられ、第2の動力伝達ラインIIは、駆動ユニット5から破砕ローラ4に駆動力を伝達するのに用いられる。二つの動力伝達ラインI及びIIは、それぞれ以下に詳細に説明するギア機構システム6、7を備えている。
【0033】
内燃機関5Aの出力軸8は、流体力学的ギア機構10、特にタービン動作様式の駆動軸10Aにポンプ分配ギア機構9を介して接続される。タービン動作様式10の出力軸10Bは、摩擦駆動装置11の駆動要素11Aに接続され、摩擦駆動装置の出力要素11Bは破砕ローラ4Aの駆動軸4ABに接続されている。その結果、破砕ローラ4Aは、内燃機関5Aにより流体力学的ギア機構10及び摩擦駆動装置11を介して機械的に駆動される。摩擦駆動装置11と破砕ローラ4Aとの間に遊星ギア機構21を設けることもできる。
【0034】
破砕機械における移動用の伝動は、油圧伝動である。ポンプ分配ギア機構9は、油圧ポンプの体積流量を制御信号の関数として調整することが可能な油圧ポンプ13に軸12を介して接続されている。油圧ポンプ13は、無限軌道ユニット1A、1Bを駆動する油圧モータ15に油圧ライン14を介して順に接続される。一つの油圧ポンプ及び油圧モータに代えて、無限軌道ユニットに各別に割り当てられる複数の油圧ポンプ及び/又は油圧モータを設けることも可能である。そのような駆動システムは当業者に周知である。
【0035】
油圧ポンプ13の送出量を設定するための調整機構は詳細には図示していない。油圧ポンプ13の送出量の設定は、制御装置16の制御信号の関数として行われる。制御装置16は、アクセスペダル17の位置を検出するセンサ17Aにライン16Aを介して接続されている。さらに、制御装置16は、流体力学的ギア機構10の駆動軸10A上に配置された回転速度センサ18にライン16Bを介して接続されている。制御装置16は、流体力学的ギア機構10の出力軸10B上に配置された回転速度センサ19にライン16Cを介して接続されている。回転速度センサ18は、駆動軸10Aの回転速度nを測定し、回転速度センサ19は、流体力学的ギア機構10の出力軸10Bの回転速度nを測定する。制御装置16は、回転速度n及びnから流体力学的ギア機構10のすべりに対応する回転速度差Δ=n−nを計算する。
【0036】
制御装置16は、二つの動作状態を予め設定するための装置20にライン16Dを介して接続される。例えば車両運転者が第1の動作状態を予め設定すると、以下に詳細に説明する本発明に係る制御がアクティブとならず、一方でその制御が第2の動作状態でアクティブとなる。車両運転者は、内燃機関を過負荷にするリスクがある時はいつでも本発明に係る制御を作動させる。
【0037】
基本的に、特に破砕ローラが非常に硬い物質にぶつかり、かつ道路破砕機械の車輪又は無限軌道ユニットがフルパワーで駆動されている時には、内燃機関が過負荷状態となり或いはストールするおそれがある。
【0038】
前記制御がアクティブであれば、油圧ポンプ13の体積流量は、制御装置16により回転速度差(すべり)Δ=n−nが予め設定された値と等しくなるように設定される。この値は、車両運転者によって予め設定することができる。例えば、その値は入力ユニット(図示せず)上で予め設定することができる。例えば、そのすべりの値はキーパッド等上で入力されることができる。入力ユニットは、車両運転者が一つの値を選択することが可能なすべりのための種々の値の選択を予め設定することもできる。最も単純な場合は、入力ユニットを複数の切り替え位置を備えたスイッチとし、車両運転者に特定のすべりを選択させるためにこのスイッチを作動させるようにしてもよい。ただし、制御装置によってすべりの固定値を予め設定し、車両運転者にはこの値を変更することができないようにすることも可能である。
【0039】
図3は、内燃機関の三つの異なる回転速度(2100[1/分]、1800[1/分]及び1500[1/分])に関し、流体力学的ギア機構10によって伝達されるトルクのすべりΔ=n−nに対する依存性を示す。すべり[%]をX軸に表し、トルク[Nm]をY軸に示す。特定の回転速度において、特定のすべりを予め設定することにより、特定のトルクが流体力学的ギア機構によって伝達されるようになることが明らかである。内燃機関が例えば2100/分で稼働していると、予め設定されたすべりがほぼ1.6%である時には、3000Nmのトルクが伝達される。内燃機関の相対的に低い回転速度、例えば1800/分又は1500/分が選択されれば、すべりが上記と同じほぼ1.6%として、ほぼ2200Nm又は1300Nmの相対的に小さいトルクが伝達される。
【0040】
従来の限界負荷制御と異なり、本発明に係る制御では、車両運転者が選択可能な特定の回転速度における特定のすべりを設定することにより、内燃機関が過負荷状態とならずに動作される特定のトルクを予め設定することができる。車両運転者は、すべりと回転速度とを相互に独立して予め設定することができ、建設機械を最適な方法で運転することができる。これについては以下に詳細に説明する。
【0041】
車両運転者は、最初に、アクセルペダル17又はアクチュエーターレバーを作動させることによって、内燃機関5Aの特定の回転速度を予め設定する。建設機械の通常の運転中、内燃機関5Aのエンジン制御装置5Bは、エンジンのパワーが許す限り、車両運転者によって予め設定された回転速度を一定に保つ。
【0042】
内燃機関の特定の回転速度を予め設定することにより、車両運転者は、内燃機関によって駆動される破砕ローラの破砕カッターが回転する切削速度も予め設定することになる。車両運転者は、破砕される物質の関数として内燃機関の回転速度を予め設定することができる。例えば、車両運転者は、相対的に柔らかい石に対して相対的に高い回転速度を、また相対的に硬い石に対して相対的に低い回転速度を予め設定することができ、その結果、相対的に硬い石の場合は、破砕ローラが相対的に柔らかい石の場合よりもゆっくりと回転することになる。
【0043】
破砕ローラの破砕カッターが突然特に固い石にぶつかると、従来の限界負荷制御では実際上建設機械に問題が発生する。車両運転者が特定の石の硬さに対して内燃機関の特定の回転速度を予め設定して、破砕カッターの特定の切削速度を予め設定すると仮定する。そして、破砕ローラの破砕カッターが突然、車両運転者が特定の回転速度を予め設定した石よりも硬い石にぶつかると、建設機械の前進速度はそれに応じて減速され、内燃機関の回転速度を一定に保つことができるようにする。
【0044】
図4は、内燃機関に特有のトルク及び回転速度の依存性を示す。回転速度[1/分]をX軸に示し、トルク[Nm]をY軸に表す。従来の限界負荷制御において、内燃機関の動作点は、トルク/回転速度特性曲線(屋根形曲線)により限界負荷範囲内に予め設定される。この限界負荷制御は、内燃機関の動作点が屋根形曲線200上の限界負荷範囲内に位置するように行われる。車両運転者は様々な回転速度を予め設定できるが、特定の回転速度を予め設定することにより、車両運転者は屋根形曲線から得られる特定のトルクをも予め設定する。
【0045】
内燃機関の回転速度及びその結果の破砕カッターの切削速度が限界負荷範囲内で一定に保たれると、破砕カッターは過度に高い切削速度で切削し、その結果、破砕カッターが破損するリスクがある。
【0046】
従来の限界負荷制御においては、限界負荷範囲内での内燃機関を、相対的に低い回転速度、すなわち相対的に低い破砕カッターの切削速度で動作させることが基本的に車両運転者にとって可能である。車両運転者が内燃機関に対して相対的に低い回転速度を設定すると、内燃機関のトルクは、内燃機関に特有のトルク及び回転速度間の関係によって増大する。しかしながら、実際上、トルクが過度に高いと、建設機械の駆動要素及び構造体は衝撃荷重によって過負荷状態となり得る。これは、トルクが増大するために、建設機械がなお自重によって高トルクに対応する十分な支圧接触力を加えることができる必要があるからである。
【0047】
従来の限界負荷制御とは異なり、本発明による制御装置16は、調整可能な静油圧ギア機構10を制御、すなわち、すべりΔ=n−nが予め設定された値をとるように建設機械の前進速度を設定する。したがって、車両運転者は、すべりに対する特定の値を予め設定することができる。この状況において、車両運転者は内燃機関の回転速度を変更することもできる。
【0048】
特定のすべりを予め設定し、回転速度を変化させることにより、車両運転者は、屋根形曲線(図4)よりも下にある様々な動作点で建設機械の内燃機関を動作させることができる。したがって、限界負荷範囲内の動作点が屋根形曲線上に位置する従来の限界負荷制御は行われない。したがって、回転速度の減少はトルクの増大と関連しない(図4)。
【0049】
実際上、車両運転者は、相対的に硬い石の場合に相対的に低い回転速度を、相対的に柔らかい石の場合に相対的に高い回転速度を選択する。車両運転者は、特定のすべりを予め設定することにより、屋根形曲線よりも下にある最適な動作点を選択することができ、この特定のすべりは、車両運転者が予め設定された回転速度とは独立して設定することができる。
【0050】
1800[1/分]の回転速度が予め設定されたと仮定する。そして、車両運転者は、内燃機関の特定のすべりを設定することにより、図4に示す線100上に位置する動作点を選択することができる。回転速度が予め設定されたことで生じるトルク及び予め設定されたすべりは、ここで図3から明らかである。
【0051】
車両運転者が相対的に高い又は相対的に低い回転速度を設定すれば、車両運転者は、図4の線100の左側又は右側に位置する動作点でエンジンを動作させることができる。回転速度、トルク及びすべりの関係は、ここでまた図3及び図4から明らかである。その結果、車両運転者は、特定の回転速度範囲内で屋根形曲線よりも下に位置するすべての動作点をセットすることができる。
【0052】
本発明に係る制御の一例としては、破砕ローラの破砕カッターが比較的硬い石にぶつかると仮定する。そして、本発明に係る制御は、すべりΔ=n−nが予め設定された値をとるように、すなわちすべりが一定のままであるように、駆動力を制御する。これにより、回転速度が一定であると、トルクが減少することになる(図3)。その結果、破砕カッターは、同一の切削速度で動作されるが、相対的に低いトルクで動作される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪又は無限軌道ユニット(1A、1B)を有するシャシー(1)と、
少なくとも1つの作業アッセンブリ(4A)を有する作業ユニット(4)と、
少なくとも1つの内燃機関(5A)を有する駆動ユニット(5)と、
前記駆動ユニット(5)から前記車輪又は無限軌道ユニット(1A、1B)に駆動力を伝達し、前記伝達される駆動力を制御できるように設計された第1の動力伝達ライン(I)と、
ギア機構システム(10)を有し、前記駆動ユニット(5)から前記作業ユニット(4)に駆動力を伝達する第2の動力伝達ライン(II)と、
前記第1の動力伝達ライン(I)を介して伝達される前記駆動力を制御するための制御装置(16)とを備え、
前記第2の動力伝達ライン(II)の前記ギア機構システム(7)は、駆動軸(10A)及び出力軸(10B)を備えた流体力学的ギア機構(10)を有し、前記駆動軸の回転速度n及び前記出力軸の回転速度n間の差を測定するための装置(18、19)が設けられ、
前記制御装置(16)は、前記第1の動力伝達ライン(I)を介して伝達される前記駆動力が、前記流体力学的ギア機構の前記駆動軸及び前記出力軸間の前記回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に一致するように制御されるよう具現化されている、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項2】
請求項1記載の自走式建設機械であって、
前記第1の動力伝達ライン(I)は、調整可能な静油圧ギア機構(13、14、15)を有するギア機構システム(6)を備え、前記調整可能な静油圧ギア機構(13、14、15)は、前記流体力学的ギア機構の前記駆動軸及び前記出力軸間の前記回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に対応するように調整される、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自走式建設機械であって、
第1の動作状態及び第2の動作状態を予め設定するための装置(20)が設けられ、前記装置(20)は、前記制御装置(16)が前記第1の動作状態において停止され、前記第2の動作状態で作動されるように具現化される、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自走式建設機械であって、
前記流体力学的ギア機構(10)は、ターボクラッチである、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の自走式建設機械であって、
前記第1の動力伝達ライン(I)の前記ギア機構システム(6)は、送出量が調整可能な少なくとも1つの油圧ポンプ(13)を有し、前記油圧ポンプ(13)は、前記車輪又は無限軌道ユニット(1A、1B)を駆動するための少なくとも1つの油圧モータ(15)に油圧ライン(14)を介して接続される、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の自走式建設機械であって、
前記第2の動力伝達ライン(II)の前記ギア機構システム(7)は、摩擦駆動装置(11)を有し、前記摩擦駆動装置の駆動要素(11A)は、前記流体力学的ギア機構(10)の前記出力軸(10B)に接続され、前記摩擦駆動装置の出力要素(11B)は、前記作業アッセンブリ(4A)に接続される、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の自走式建設機械であって、
前記作業ユニット(4)の前記作業アッセンブリ(4A)は、破砕ローラである、
ことを特徴とする自走式建設機械。
【請求項8】
自走式建設機械、特に道路破砕機、道路スタビライザ又は道路再生機を制御するための方法であって、前記建設機械は、
車輪又は無限軌道ユニット(1A、1B)を有するシャシー(1)と、
少なくとも1つの作業アッセンブリ(4A)を有する作業ユニット(4)と、
少なくとも1つの内燃機関(5A)を有する駆動ユニット(5)と、
前記駆動ユニット(5)の駆動力を前記車輪又は無限軌道ユニット(1A、1B)に伝達し、前記伝達される駆動力を制御できるように具現化される第1の動力伝達ライン(I)と、
駆動軸(10A)及び出力軸(10B)を有する流体力学的ギア機構(10)を備えたギア機構システム(7)を有し、前記駆動ユニット(5)の駆動力を前記作業ユニット(4)に伝達する第2の動力伝達ライン(II)とを備え、
前記第1の動力伝達ライン(I)によって伝達される前記駆動力が、前記流体力学的ギア機構(10)の前記駆動軸(10A)及び前記出力軸(10B)間の回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に一致するように制御される、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、
前記第1の動力伝達ライン(I)は、調整可能な静油圧ギア機構(13、14、15)を有するギア機構システム(6)を備え、前記調整可能な静油圧ギア機構(13、14、15)は、前記流体力学的ギア機構(10)の前記駆動軸(10A)及び前記出力軸(10B)間の前記回転速度差Δ=n−nが予め設定された値に一致するように調整される、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の方法であって、
第1の動作状態及び第2の動作状態が設けられ、前記第1の動力伝達ライン(I)によって伝達される前記駆動力の制御は、前記第1の動作状態において停止され、前記第2の動作状態において作動される、
ことを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87621(P2013−87621A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−230830(P2012−230830)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【出願人】(508118979)ヴィルトゲン ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】WIRTGEN GMBH
【Fターム(参考)】