説明

自車両についての診断処理の実行の可否を判定する車載用判定装置

【課題】既存の車載システムを流用して新たな車載システムを構築する際のコストを低減する。
【解決手段】車載システム1を構成するECUは、自車両についての各種診断処理を行うと共に、該システムを構成する判定用ECU10は、他のECUに搭載されたセンサからの信号や、車内LAN50を介して他のECUから取得した情報に基づき、自車両の車両状態を検出する。そして、判定用ECU10は、車両状態や診断処理の結果等に基づき、各診断処理の実行が可能か否かの判定(実行可否判定)を行い、判定結果を各ECUに通知する。このため、車載システム1を流用して新たな車載システムを構築する際に、ECUの改変や削除が生じても、判定用ECU10に修正を加えるだけで同様の実行可否判定を行うことができ、コストを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載装置による自車両についての診断処理の実行の可否を判定する車載用判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の診断機能を備えるECUが知られている。特許文献1には、このようなECUにおいて、センサ等の各部品の動作状態を判別するプログラムや、動作状態の判別結果に基づき各部品の異常を検出するプログラム等をオブジェクト指向により設計することが記載されており、これにより、診断機能に関するプログラムの再利用性を高め、プログラムの開発コストを低減させることができる。
【0003】
また、車両のエンジンを制御するエンジンECUにも、上述の診断機能が設けられている。具体例を挙げると、エンジンには排ガス中の一酸化炭素,炭化水素,窒素酸化物を除去する三元触媒が設けられているが、三元触媒の上流側における排ガス中の空燃比と下流側における排ガス中の酸素濃度とに基づき、この三元触媒の浄化作用について診断する診断機能が知られている。
【0004】
しかしながら、三元触媒は、エンジンにて理論空燃比での燃焼が行われ、且つ、高温でなければ有効に機能せず、三元触媒が有効に機能している状態でなければ、その浄化作用についての診断を行うことができない。このため、エンジンECUは、該診断に際して、自装置に接続されたセンサ等により三元触媒の温度を検出すると共に、車内LAN等を介して他のECUから取得した自車両の車速等に基づきエンジンの稼動状態を把握し、これらに基づき三元触媒が有効に機能しているかどうかを判別する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−97810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特定の車両に搭載された複数のECUからなる既存の車載システムを流用して新たな車載システムを構築するという場合が想定される。このような場合には、既存の車載システムを構成するECUの改変や、該車載システムからのECUの除去や、該車載システムへの新たなECUの追加等が行われる可能性がある。
【0007】
ここで、既存の車載システムに、上述したエンジンECUのように、他のECUから収集した情報に基づき診断処理が実行可能かどうかの判定(実行可否判定)を行うECUが含まれているとすると、該ECUは、他のECUの改変や除去等により、実行可否判定に必要な情報を収集できなくなるおそれがある。すなわち、他のECUの改変等に応じて、該他のECUから提供される情報により実行可否判定を行うECUを修正する必要が生じるケースがあり、このようなECUが多数存在する場合には、既存の車載システムを流用して新たな車載システムを構築する際のコストが大幅に増加してしまう。
【0008】
本願発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、当該装置を含む車載システムを流用して新たな車載システムを構築する際のコストを低減することが可能な車載用判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑みてなされた請求項1に記載の車載用判定装置は、自車両についての診断処理を実行する複数の車載装置と通信を行う通信手段と、自車両の状態を検出する検出手段と、検出手段により検出された自車両の状態に基づき、車載装置において行われる診断処理の実行が可能か否かを判定する実行可否判定手段と、を備える。また、通信手段を介して、実行可否判定手段による診断処理についての判定結果を、該診断処理を実行する車載装置に送信する送信手段を備える。
【0010】
なお、自車両の状態とは、例えば、自車両の車速,エンジン回転数,燃料噴射量,ステアリングの操作状態等といった、自車両の運転や走行等に関する状態であっても良い。そして、検出手段は、例えば、通信手段を介して他の車載装置から受信した情報や、他の車載装置に搭載されたセンサ等から入力された信号等に基づき、このような状態を検出しても良い。
【0011】
また、自車両の状態とは、例えば、他の車載装置により実行された診断処理により判明した自車両の部品の状態(故障の有無等)であっても良い。そして、検出手段は、例えば、通信手段を介して他の車載装置から受信した診断処理の実行結果や、自車両の部品の故障情報等に基づき、このような部品の状態を検出しても良い。
【0012】
このような車載用判定装置を車載システムに設けることで、該車載システムを構成する車載装置における各診断処理が実行可能かどうかの判定(実行可否判定)を、車載用判定装置で一括して行うことができる。
【0013】
このため、該車載システムを流用して新たな車載システムを構築する際に、車載装置の改変や、該車載システムからの車載装置の削除が生じたことにより、実行可否判定に必要な情報が提供されなくなった場合や、該情報の提供タイミングが変化した場合等であっても、車載用判定装置に修正を加えるだけで、以前と同様に実行可否判定を行うことができる。
【0014】
つまり、車載装置の改変等に応じた実行可否判定の修正に関しては、修正を行う対象が個々の車載装置に分散してしまうことが無く、車載用判定装置のみを修正するだけで、従前と同様の実行可否判定を行うことが可能となる。このため、車載用判定装置が設けられていない車載システムを流用して新たな車載システムを構築する場合に比べ、車載装置の改変等に伴う実行可否判定に関する修正のコストを低減させることができるのである。
【0015】
したがって、請求項1に記載の車載用判定装置を車載システムに設けることで、該車載システムを流用して新たな車載システムを構築する際のコストを低減させることができる。
【0016】
なお、請求項2に記載されているように、送信手段は、周期的なタイミングで、判定結果を、該判定結果に係る診断処理を実行する車載装置に送信しても良い。
こうすることにより、車載装置は、診断処理を実行する前に、該診断処理の実行か可能かどうかを車載用判定装置に問い合わせる必要が無くなる。このため、処理負荷を低減させることや、診断処理をより迅速に実行することが可能となる。
【0017】
また、一般的に、車載装置は、自車両の運転終了後は消費電力を抑えた状態にする必要があるため、大部分の機能を停止させると共に、RAM等への電力供給を停止させる。このため、実行可否判定手段による判定結果は、自車両の運転の終了により消失してしまうおそれがある。
【0018】
そこで、請求項3に記載の車載用判定装置では、自車両の運転終了後も記憶されたデータを保持することが可能な記憶手段をさらに備え、実行可否判定手段は、診断処理についての判定に関する情報を記憶手段に記憶させる。
【0019】
なお、記憶手段とは、例えば、EEPROM等の不揮発性のメモリであっても良いし、車載用判定装置に搭載されたバッテリや自車両のバッテリにより常時電力が供給され、運転終了後も記憶されたデータを保持するよう構成されたRAMであっても良い。
【0020】
こうすることにより、自車両の運転開始時に、自車両の状態を検出すること無く各診断処理が実行可能かどうかを把握するが可能となり、車載装置は、自車両の運転開始後に直ちに診断処理を実行することが可能となる。
【0021】
また、車外に設けられた検査装置を自車両の車載システムに接続すると共に、該検査装置から該車載システムを構成する車載装置に指示を行い、各種検査処理を実行させることで、自車両の故障を検出する方法が知られている。そして、このような方法により故障を検出する際には、検査処理として、例えば、エンジンを所定の回転数で稼動させる等といった具合に、運転中とは異なる状態で自車両を稼動させる場合があり、このような検査処理の実行中に各車載装置にて診断処理が実行されると、誤った内容の診断結果が得られる可能性がある。
【0022】
そこで、請求項4に記載の車載用判定装置は、車載装置の検査を行う検査装置に接続可能に構成されており、自装置に接続された検査装置から受け付けた検査指示に応じて、通信手段を介して、車載装置に対し、自車両についての検査を行うための検査処理の実行に関する指示を行う検査指示手段をさらに備える。そして、実行可否判定手段は、自車両の状態と検査指示の内容とに基づき、該検査指示に係る検査処理を実行する車載装置における診断処理の実行が可能か否かを判定する。
【0023】
このような構成によれば、各車載装置にて検査処理が実行されているか否かを考慮して、診断処理の実行可否判定を行うことができる。このため、検査処理の実行により適切な診断結果が得られない状態となっているにも拘らず、診断処理の実行が許可されてしまうことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】車載システム,判定用ECUの構成を示すブロック図である。
【図2】実行可否判定テーブル等を示す表である。
【図3】実行可否状態テーブルを示す表である。
【図4】実行可否状態テーブル生成処理についてのフローチャートである。
【図5】診断結果送信処理についてのフローチャートである。
【図6】診断実行処理,判定結果通知処理についてのフローチャートである。
【図7】実行可否状態テーブル更新処理1についてのフローチャートである。
【図8】実行可否状態テーブル更新処理2についてのフローチャートである。
【図9】実行可否状態テーブル更新処理3についてのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0026】
[構成の説明]
まず、本実施形態の判定用ECU10の構成について説明する。図1(a)に記載されているように、判定用ECU10は、車内LAN50を介して接続されたエンジンECU20,AECU30,BECU40等と共に車載システム1を構成しており、該車載システム1を構成する他のECUにおける診断処理の実行についての可否を判定する処理を行う。
【0027】
また、判定用ECU10は、ケーブル等を介して車外に設けられたテスタ60と接続可能に構成されている。そして、テスタ60が接続された際には、テスタ60からの指示に応じて車載システム1を構成する他のECUと通信を行い、自車両の故障を検出するための検査処理を実行させる。
【0028】
また、図1(b)には、判定用ECU10の構成を示すブロック図が記載されている。判定用ECU10は、CPU、ROM、RAM等よりなる周知のマイクロコンピュータ等からなり、ROMに記憶された制御プログラムを実行することで判定用ECU10を統括制御する制御部11を備える。また、車内LAN50を介して他のECUと通信を行う車内LAN通信部12と、バスを介してテスタ60と通信を行うテスタ通信部13と、不揮発性メモリ等から構成される記憶部14と、を備える。
【0029】
なお、記憶部14は、自車両に搭載されたバッテリや、判定用ECU10に搭載されたバッテリから常時電力が供給され、自車両の運転状態に拘らず、常時記憶されたデータを保持するよう構成されたバックアップRAMとして構成されていても良い。
【0030】
また、判定用ECU10は、車載システム1を構成する他のECUに搭載されたセンサに繋がるケーブルが接続される接続部15をさらに備え、制御部11には、接続部15を介してこれらのセンサからの信号が入力される。
【0031】
[動作の概要の説明]
次に、判定用ECU10の動作の概要について説明する。
車載システム1を構成するエンジンECU20等のECUでは、自車両或いは自装置の故障を検出するための診断処理が行われるが、これらの診断処理の中には、特定の条件が成立した場合にしか実行することができないものがある。また、センサ等の部品の故障により特定の診断処理の実行が不可能となる場合や、テスタ60からの指示により検査処理が実行されているため、診断処理を行っても適切な実行結果を得ることができない、或いは、診断処理の実行が不可能となる場合が考えられる。
【0032】
このため、判定用ECU10は、車速,エンジン回転数,燃料噴射量,ステアリングの操作状態等といった、自車両の運転や走行等に関する状態(車両状態)を検出すると共に、各ECUにおける診断処理の実行結果(診断結果とも記載)や故障情報を取得する。そして、この車両状態や、診断結果や、故障情報や、検査処理の実行の有無等に応じて、各ECUにおける診断処理の実行が可能か否かの判定(実行可否判定)を行い、判定結果を各ECUに通知する。
【0033】
ここで、図2(a)には、各診断処理についての実行可否判定に反映される車両状態に関する条件(車両状態条件)や、センサ等の部品の故障情報や、検査処理を示す実行可否判定テーブルを示す表が記載されている。なお、実行可否判定テーブルは、判定用ECU10の記憶部14に保存されていても良い。
【0034】
この実行可否判定テーブルにおいて、「診断処理」という項目は、車載システム1を構成する各ECUで行われる診断処理を示しており、図2(a)では、一例として、エンジンECU20にて行われる診断処理である触媒劣化診断とA/Fセンサ診断が記載されている。
【0035】
触媒劣化診断とは、エンジンの排ガス中の一酸化炭素,炭化水素,窒素酸化物を除去する三元触媒の浄化作用について診断する診断処理である。触媒劣化診断には、排ガスの排出経路に設けられた三元触媒の上流側で空燃比を測定するA/Fセンサと、該三元触媒の下流側で排ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサとが用いられる。そして、これらのセンサにより測定された、三元触媒を通過する前の排ガス中の空燃比と、該三元触媒を通過した排ガス中の酸素濃度との比較結果に基づき、三元触媒の浄化作用が診断される。
【0036】
一方、A/Fセンサ診断とは、エンジンに供給される空気及び燃料の量と、A/Fセンサにより測定される排ガス中の空燃比とを比較することで、A/Fセンサの異常を検出する診断処理である。具体的には、エンジンECU20は、エアフロセンサによりエンジンに吸入された空気の量(吸気量)を測定すると共に、A/Fセンサにより排ガス中の空燃比を測定する。そして、吸気量等に応じて自身が設定した燃料噴射量に対する排ガスの中の空燃比の測定値が妥当かどうかを検証することで、A/Fセンサを用いた正常な空燃比の測定ができているか否かを判定する。
【0037】
また、実行可否判定テーブルにおける「車両状態条件」は、各診断処理についての実行可否判定に反映される車両状態条件を示す項目となっており、該項目は、「IG SW(イグニッションSW)に関する条件」,「車速に関する条件1」等、車両状態条件の種別を示す小項目から構成されている。
【0038】
そして、「車両状態条件」に対応する欄に“1”が設定されている場合には、該欄に対応して小項目が示す種別に属する車両状態条件が設けられていることを示している。なお、各欄に設けられた車両状態条件が不成立の場合には、該欄に対応する診断処理の実行可否判定において、該診断処理の実行は許可されない。
【0039】
一方、「車両状態条件」に対応する欄に“0”が設定されている場合には、該欄に対応する車両状態条件が設けられていないことを示している。
なお、図2(b)に記載の表は、車両状態条件の各種別(上述の小項目が示す種別)と、触媒劣化診断について設けられた各種別の車両状態条件の具体的内容を示している。また、図2(c)に記載の表は、車両状態条件の各種別と、A/Fセンサ診断について設けられた各種別の車両状態条件の具体的内容を示している。
【0040】
また、実行可否判定テーブルにおける「故障情報」は、実行可否判定に故障の有無が反映される自車両の部品(対応する診断処理の実行に必要な部品)を示す項目となっており、該項目は、「A/Fセンサ」,「酸素センサ」等、部品を示す小項目から構成されている。
【0041】
そして、各小項目に対応する欄に“1”が設定されている場合には、該小項目が示す部品における故障の有無が、対応する診断処理の実行可否判定に反映されることを示している。具体的には、診断処理に対応する「故障情報」の欄のうち、“1”が設定されている欄に対応する小項目が示す部品のいずれか一つに故障が生じている場合には、実行可否判定において該診断処理の実行が許可されない。
【0042】
一方、各小項目に対応する欄に“0”が設定されている場合には、該小項目が示す部品における故障の有無が、該欄に対応する診断処理の実行可否判定に反映されないことを示している。
【0043】
なお、図2(a)において、「エアフロセンサ」は、エンジンの吸気量を測定するセンサであり、「吸気内圧力センサ」は、エンジンに吸入された空気の圧力を測定するセンサである。また、「ヒータ」は、A/Fセンサを例えば700℃付近まで加熱することでA/Fセンサを活性化し、空燃比の測定が可能な状態とする部品である。
【0044】
また、実行可否判定テーブルにおける「検査処理」は、実行可否判定に実行の有無が反映される検査処理を示す項目となっており、「強制駆動」,「通信停止」,「診断停止」といった個々の検査処理を示す小項目から構成されている。
【0045】
なお、「強制駆動」は、エンジンECU20が、例えば、所定の回転数を維持した状態でのエンジンの強制的な稼動や、エンジンを制御する各種アクチュエータ,コンポーネントの強制的な駆動等を行う処理である。また、「通信停止」は、車載システム1を構成する各ECUが、車内LAN50を介してのECU間の通信を停止した状態で維持する処理であり、「診断停止」は、各ECUが診断処理の実行を禁止した状態で維持する処理である。
【0046】
そして、各小項目に対応する欄に“1”が設定されている場合には、該小項目が示す検査処理を実行中(或いは実行予定)であるか否かが、該欄に対応する診断処理の実行可否判定に反映されることを示している。具体的には、診断処理に対応する「検査処理」の欄のうち、“1”が設定されている欄に対応する小項目が示す検査処理のいずれか一つが実行中等である場合には、実行可否判定において該診断処理の実行は許可されない。
【0047】
一方、各小項目に対応する欄に“0”が設定されている場合には、該小項目が示す検査処理の実行の有無が、該欄に対応する診断処理の実行可否判定に反映されないことを示している。
【0048】
次に、各診断処理が実行可能であるか否かを示す実行可否状態テーブルについて説明する。判定用ECU10は、実行可否状態テーブルに基づき、各ECUにより実行される診断処理についての実行可否判定を行う。
【0049】
図3に記載の表は、実行可否状態テーブルを示している。この実行可否状態テーブルでは、「診断処理」という項目は、車載システム1を構成する各ECUで行われる診断処理を示しており、図3では、一例として、エンジンECU20にて行われる診断処理である触媒劣化診断とA/Fセンサ診断が記載されている。
【0050】
また、実行可否状態テーブルにおける「車両状態条件」は、各診断処理に対応する車両状態条件の成立の有無を示す項目である。「車両状態条件」は、「IG SWに関する条件」,「車速に関する条件1」等、車両状態条件の種別を示す小項目から構成されている。
【0051】
そして、「車両状態条件」に対応する欄に設定された“−”(空値)は、該欄に対応して車両状態条件が設けられていないことを示し、該欄に設定された“1”または“0”は、該欄に対応して小項目が示す種別の車両状態条件が設けられていることを示している。さらに、該欄に設定された“1”は、該欄に対応して設けられている車両状態条件の成立を示し、該欄に設定された“0”は、該欄に対応して設けられている車両状態条件の不成立を示す。
【0052】
また、実行可否状態テーブルにおける「故障情報」は、各診断処理に必要な部品における故障の有無を示す項目となっており、「A/Fセンサ」,「酸素センサ」等、自車両の部品を示す小項目から構成されている。
【0053】
そして、各小項目に対応する欄に設定された“1”は、該小項目が示す部品が正常であることを示し、該欄に設定された“0”は、該部品が故障していることを示している。また、該欄に設定された“−”は、該部品の故障の有無が、該診断処理についての実行可否判定に反映されないことを示している。
【0054】
また、実行可否状態テーブルにおける「検査処理」は、各検査処理が実行中か否かを示す項目となっている。「検査処理」は、「強制駆動」等、個々の検査処理を示す小項目から構成されている。
【0055】
そして、各小項目に対応する欄に設定された“1”は、該小項目が示す検査処理の実行中(或いは実行予定)でないことを示し、該欄に設定された“0”は、該検査処理の実行中等であることを示している。また、該欄に設定された“−”は、該検査処理の実行の有無が、該診断処理についての実行可否判定に反映されないことを示している。
【0056】
また、診断処理についての実行可否判定では、実行可否状態テーブルにおける該診断処理に対応する各欄が参照され、これらの欄のいずれかに“0”が設定されている場合には、該診断処理の実行は許可されない。一方、これらの欄の全てに“1”或いは“−”が設定されている場合には、該診断処理の実行が許可される。
【0057】
なお、実行可否状態テーブルは、記憶部14に記憶されており、IG SWがONとなり、自車両の運転開始に伴い判定用ECU10が起動される際に、記憶部14から制御部11のRAMに実行可否状態テーブルが読み出される。
【0058】
そして、判定用ECU10の稼動中には、車両状態や、各ECUにおける診断処理の実行結果や、テスタ60から発せられた指示等に基づき実行可否状態テーブルが更新される。また、判定用ECU10は、実行可否状態テーブルに基づき実行可否判定を行い、車載システム1を構成する他のECUに対して実行可否判定の結果を通知する。
【0059】
その後、IG SWがOFFとなり、自車両の運転の終了に伴い判定用ECU10の動作が停止される際に、RAMに記憶されている最新の実行可否状態テーブルが記憶部14に記憶される。
【0060】
[具体例について]
次に、触媒劣化診断とA/Fセンサ診断を例に挙げて、各診断処理についての実行可否判定の具体例について説明する。
【0061】
触媒劣化診断では、エンジンに設けられた三元触媒の浄化作用について診断されるが、三元触媒は、エンジンにて理論空燃比での燃焼が行われ、且つ、高温でなければ有効に機能せず、三元触媒が有効に機能している状態でなければ、その浄化作用についての診断を行うことができない。
【0062】
このため、実行可否判定テーブルでは、触媒劣化診断についての車両状態条件として、“IG SW ON”,“車速が30(km/h)以上”,“車速が80(km/h)以下”,“冷却水温度が80℃以上”,“触媒温度が300℃以上”という5つの条件が設けられている(図2(a),(b)参照)。そして、これらの条件が全て成立した場合には、エンジンが理論空燃比で燃焼していると共に、三元触媒が十分に高温であり、三元触媒は有効に機能しているとみなされる。一方、これらのうちのいずれか一つでも成立していない場合には、三元触媒は有効に機能していないとみなされ、実行可否判定では触媒劣化診断の実行が許可されない。
【0063】
また、既に述べたように、触媒劣化診断は、A/Fセンサと酸素センサを用いて行われるため、A/Fセンサと、A/Fセンサを活性化させるヒータと、酸素センサとが正常でなければ、触媒劣化診断を行うことはできない。
【0064】
このため、実行可否判定テーブルでは、触媒劣化診断についての「故障情報」において、「A/Fセンサ」,「酸素センサ」,「ヒータ」の小項目に対応する欄に“1”が設定され、これらの部品うちのいずれかに故障が生じている場合には、実行可否判定では触媒劣化診断の実行は許可されない(図2(a)参照)。
【0065】
また、テスタ60からの指示により行われる検査処理に関して、エンジンECU20にて強制駆動が行われている場合には、エンジンにて理論空燃比での燃焼が行われるとは限らない。また、判定用ECU10は、車内LAN50を介して車速を取得するため、通信停止の実行中は、理論空燃比での燃焼が行われているか否かを判定できない。また、言うまでも無く、診断停止の実行中は診断処理を行うことができない。
【0066】
このため、実行可否判定テーブルでは、触媒劣化診断についての「検査処理」において、「強制駆動」,「通信停止」,「診断停止」の小項目に対応する欄に“1”が設定され、これらのうちのいずれかが実行中等である場合には、実行可否判定では触媒劣化診断の実行が許可されない(図2(a)参照)。
【0067】
一方、A/Fセンサ診断は、エンジンに供給される空気及び燃料の量と、A/Fセンサにより測定される排ガス中の空燃比との比較により行われため、吸気が適正に行われた状態でエンジンが稼動していなければ、診断を行うことができない。また、A/Fセンサを正常に稼動させるためには、ヒータによりA/Fセンサを例えば700℃付近の高温に保つ必要があり、さらに、A/Fセンサ診断を精度良く行うためには、エンジンに供給される空気及び燃料の量を所定範囲内に設定する必要がある。
【0068】
このため、実行可否判定テーブルでは、A/Fセンサ診断についての車両状態条件として、“IG SW ON”,“車速が40(km/h)以上”,“車速が60(km/h)以下”,“冷却水温度が85℃以上”,“A/Fセンサ温度が700℃”という5つの条件が設けられている(図2(a),(c)参照)。そして、これらのうちのいずれか一つでも成立しない場合には、実行可否判定ではA/Fセンサ診断の実行が許可されない。
【0069】
また、既に述べたように、A/Fセンサ診断には、エアフロセンサ,A/Fセンサが用いられ、A/Fセンサを正常に稼動させるためには、ヒータによりA/Fセンサを高温に保つ必要がある。また、A/Fセンサ診断では、エンジンへの吸気が正常に行われているかどうかを判定するため、吸気内圧力センサにより吸入された空気の圧力が測定される。
【0070】
このため、実行可否判定テーブルでは、A/Fセンサ診断についての「故障情報」において、「エアフロセンサ」,「吸気内圧力センサ」,「ヒータ」の項目に対応する欄に“1”が設定され、これらの部品うちのいずれかに故障が生じている場合には、実行可否判定ではA/Fセンサ診断の実行が許可されない(図2(a)参照)。
【0071】
また、検査処理に関して、エンジンECU20にて強制駆動が行われている場合には、A/Fセンサ診断が可能な状態でエンジンが稼動しているとは限らない。また、触媒劣化診断と同様の理由により、通信停止,診断停止の実行中は診断処理を行うことができない。
【0072】
このため、実行可否判定テーブルでは、A/Fセンサ診断についての「検査処理」において、「強制駆動」,「通信停止」,「診断停止」の小項目に対応する欄に“1”が設定され、これらのうちのいずれかが実行中等である場合には、実行可否判定ではA/Fセンサ診断の実行は許可されない(図2(a)参照)。
【0073】
[詳細な動作について]
次に、診断処理や実行可否判定に関連する各種処理について説明する。
(1)実行可否状態テーブル生成処理について
まず、判定用ECU10にて実行可否状態テーブルを新たに生成する実行可否状態テーブル生成処理について、図4に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、記憶部14に実行可否状態テーブルが記憶されていない状態で、自車両のIG SWのONに伴い判定用ECU10が起動された場合等に実行される。
【0074】
S105では、判定用ECU10の制御部11は、RAM上に展開された実行可否状態テーブルの各欄に“0”を設定することで実効可否状態テーブルを初期化し、S110に処理を移行する。
【0075】
S110,S115では、実行可否状態テーブルの「車両状態条件」における各小項目に対応する欄を設定する。いずれかの小項目を対象としてS110,S115が実行され、全小項目についての設定が完了するまで、S110,S115が繰り返し実行される。
【0076】
S110では、制御部11は、他のECUに搭載されたセンサからの信号や、車内LAN50を介して他のECUから取得した情報等に基づき、小項目が示す種別の車両状態条件に係る車両状態を検出する。
【0077】
続くS115では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照し、小項目における各欄に対し車両状態条件が設けられているか否かを判別する。そして、車両状態条件が設けられている欄に関しては、検出した車両状態に基づき該欄に対応する車両状態条件が成立しているか否かを判定し、成立している場合には該欄に“1”を設定すると共に、成立していない場合には該欄に“0”を設定する。また、車両状態条件が設けられていない欄に関しては、“−”を設定する。
【0078】
続くS120,S125では、実行可否状態テーブルの「故障情報」における各小項目に対応する欄を設定する。いずれかの小項目を対象としてS120,S125が実行され、全小項目についての設定が完了するまで、S120,S125が繰り返し実行される。
【0079】
S120では、制御部11は、車内LAN50を介して、他のECUにおける最新の診断結果や部品の故障情報を取得し、小項目が示す部品における故障の有無を判別する。
続くS125では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照して小項目が示す部品が各診断処理に必要か否かを判定し、該部品が用いられない診断処理に対応する欄には、“−”を設定する。そして、未設定の欄に対しては、該部品で故障が発生している場合には“0”を、故障が発生していない場合には“1”を設定する。
【0080】
続くS130,S135では、実行可否状態テーブルの「検査処理」における各小項目に対応する欄を設定する。いずれかの小項目を対象としてS130,S135が実行され、全小項目についての設定が完了するまで、S130,S135が繰り返し実行される。
【0081】
S130では、制御部11は、テスタ通信部13を介してテスタ60から受信したメッセージを解析し、解析結果に基づき、小項目が示す検査処理を実行する指示を受け取ったか否かを判定する。なお、言うまでも無く、テスタ60からメッセージを受信していない場合には、該指示を受け取っていないものとする。
【0082】
続くS135では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照して小項目が示す検査処理の実行の有無が、各診断処理についての実行可否判定に反映されるか否かを判定し、反映がなされない診断処理に対応する欄には、“−”を設定する。そして、未設定の欄に対しては、該検査処理を実行する指示を受け取った場合には“0”を、該指示を受け取っていない場合には“1”を設定する。
【0083】
「検査処理」における全ての小項目の設定が終了すると、制御部11は、本処理を終了する。
(2)診断結果送信処理について
次に、車載システム1を構成する各ECUが診断結果を判定用ECU10に通知する診断結果送信処理について、図5に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、各ECUでの診断処理の実行後や、各ECUの起動時や、各ECUが判定用ECU10から診断結果の送信を要求された場合等に実行される。
【0084】
S205,S210では、ECUにて実行される全ての診断処理の実行結果を示す送信データを生成する。いずれかの診断処理を対象としてS205,S210が実行され、全ての診断処理についての実行結果が送信バッファに設定されるまで、S205,S210が繰り返し実行される。
【0085】
S205では、診断処理を示す診断IDが送信バッファに設定される。
続くS210では、診断IDに対応付けられた状態で、診断処理の実行結果が送信バッファに設定される。
【0086】
そして、S215では、送信バッファに設定された送信データが、車内LAN50を介して判定用ECU10に送信され、本処理は終了する。
(3)診断実行処理について
次に、車載システム1を構成する各ECUが、判定用ECU10に対して診断処理の実行の可否を問い合わせ、実行が許可された場合に診断処理を行う診断実行処理について、図6(a)に記載のフローチャートを用いて説明する。
【0087】
S305では、車内LAN50を介して、診断処理を実行するECUから判定用ECU10に対し、該診断処理についての実行の可否の問い合わせが行われる。
続くS310では、診断処理を行うECUでは、判定用ECU10から上記問い合わせに対する応答を受け取り、診断処理の実行が許可されたか否かが判定される。そして、肯定判定の場合には(S310:Yes)、S315に処理が移行され、否定判定の場合には(S310:No)、本処理は終了する。
【0088】
S315では、実行可否の問い合わせを行ったECUにて、該問い合わせに係る診断処理が行われる。そして、診断処理が完了すると、車内LAN50を介して、診断結果が判定用ECU10に通知され(S320)、本処理は終了する。
【0089】
(4)判定結果通知処理について
次に、判定用ECU10が、車載システム1を構成するECUからの問い合わせに応じて診断処理の実行が許可されているか否かを通知する判定結果通知処理について、図6(b)に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、判定用ECU10が、診断処理を実行するECUから該診断処理の実行についての問い合わせを受け付けた際に実行される。
【0090】
S405では、判定用ECU10の制御部11は、RAM上に展開されている実行可否状態テーブルを参照し、上記問い合わせに係る診断処理に対応する各欄の設定値を判別する。
【0091】
そして、いずれの欄にも“0”が設定されていない場合には(S410:Yes)、診断処理の実行が許可されていると判定してS415に処理を移行し、いずれかの欄に“0”が設定されている場合には(S410:No)、診断処理の実行が許可されていないと判定してS420に処理を移行する。
【0092】
S415では、制御部11は、問い合わせを行ったECUに対し、車内LAN50を介して診断処理の実行が許可されている旨を通知し、本処理を終了する。
一方、S420では、制御部11は、問い合わせを行ったECUに対し、車内LAN50を介して診断処理の実行が許可されていない旨を通知し、本処理を終了する。
【0093】
(5)実行可否状態テーブル更新処理1について
次に、車両状態を検出すると共に、検出した車両状態に応じて実行可否状態テーブルにおける「車両状態条件」に対応する欄を設定する実行可否状態テーブル更新処理1について、図7に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、判定用ECU10にて定期的なタイミングで実行される処理である。
【0094】
S505では、判定用ECU10の制御部11は、他のECUに設けられたセンサからの信号や、車内LAN50を介して他のECUから取得した情報等に基づき、いずれかの車両状態を検出する。なお、本処理が実行される度に、実行可否状態テーブルにおける「車両状態条件」の各小項目に対応する車両状態、或いは、これら以外の他の車両状態のうちのいずれかが順次検出される。そして、S510に処理を移行する。
【0095】
S510では、制御部11は、実行可否判定テーブルにおける「車両状態条件」の小項目を参照し、検出した車両状態に関する車両状態条件が設けられているかを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S510:Yes)、S515に処理を移行し、否定判定が得られた場合には(S510:No)、本処理を終了する。
【0096】
S515〜S530では、実行可否状態テーブルにおける、検出した車両状態に関する車両状態条件に対応する各欄を設定する。既に述べたように、該欄は、対応する診断処理に設けられた車両状態条件の成立の有無を示すものであり、いずれかの診断処理を対象としてS515〜S530が実行され、全ての診断処理に対応する欄の設定が完了するまで、S515〜S530が繰り返し実行される。
【0097】
S515では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照し、診断処理に対応して、検出された車両状態に関する車両状態条件が設けられているか否かを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S515:Yes)、S520に処理を移行し、否定判定が得られた場合には(S515:No)、次の診断処理を対象とした設定に移行する。
【0098】
S520では、制御部11は、検出した車両状態に基づき、診断処理に対応して設けられている上記車両状態条件が成立しているか否かを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S520:Yes)、実行可否状態テーブルの「車両状態条件」における診断処理、及び上記車両状態条件に対応する欄に“1”を設定し(S525)、否定判定が得られた場合には(S520:No)、該欄に“0”を設定する(S530)。
【0099】
そして、全ての診断処理に対応する欄についての設定が完了すると、制御部11は、本処理を終了する。
(6)実行可否状態テーブル更新処理2について
次に、各ECUにおける診断結果に応じて、実行可否状態テーブルにおける「故障情報」に対応する欄を設定する実行可否状態テーブル更新処理2について、図8に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、判定用ECU10が他のECUから診断結果を受け取った際に実行される処理である。
【0100】
S605では、判定用ECU10の制御部11は、車内LAN50を介して他のECUから受け取った診断結果が、実行可否状態テーブルにおける「故障情報」の小項目が示す部品の故障の有無を示すものであるか否かを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S605:Yes)、S610に処理を移行し、否定判定が得られた場合には(S605:No)、本処理を終了する。
【0101】
S610〜S625では、診断結果が示す部品の故障の有無に応じて、実行可否状態テーブルにおける該部品に対応する各欄を設定する。既に述べたように、各欄はいずれかの診断処理に対応するものであり、いずれかの診断処理を対象としてS610〜S625が実行され、全ての診断処理に対応する欄の設定が完了するまで、S610〜S625が繰り返し実行される。
【0102】
S610では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照し、上記部品にて故障が生じた際に、診断処理の実行が禁止されるかどうかを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S610:Yes)、S615に処理を移行し、否定判定が得られた場合には(S610:No)、次の診断処理を対象とした設定に移行する。
【0103】
S615では、制御部11は、受け取った診断結果に基づき、上記部品における故障の有無を判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S615:Yes)、実行可否状態テーブルの「故障情報」の上記部品を示す小項目における診断処理に対応する欄に“1”を設定し(S620)、否定判定が得られた場合には(S615:No)、該欄に“0”を設定する(S625)。
【0104】
そして、全ての診断処理に対応する欄についての設定が完了すると、制御部11は、本処理を終了する。
(7)実行可否状態テーブル更新処理3について
次に、テスタ60からの指示により、車載システム1を構成する各ECUにおける検査処理の実行状態に応じて、実行可否状態テーブルにおける「検査処理」に対応する欄を設定する実行可否状態テーブル更新処理3について、図9に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、既に述べたように、テスタ60は、判定用ECU10を介して各ECUに各種指示を行うよう構成されており、本処理は、判定用ECU10がテスタ60から該指示を行うためのメッセージを受け取った際に実行される処理である。
【0105】
S705では、判定用ECU10の制御部11は、バスを介してテスタ60から受け取ったメッセージを解析し、S710に処理を移行する。
S710では、制御部11は、受け取ったメッセージが正常であるか否かを判定し、肯定判定が得られた場合には(S710:Yes)、S715に処理を移行する。一方、否定判定が得られた場合には(S710:No)、本処理を終了する。
【0106】
S715では、制御部11は、受け取ったメッセージが、いずれかのECUに対し、いずれかの検査処理の開始或いは終了を指示するものであるか否かを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S715:Yes)、車内LAN50を介して、該ECUに対し、検査処理の開始等を指示するコマンドを送信する処理を行い(特許請求の範囲における検査指示手段に相当)、S720に処理を移行する。一方、否定判定が得られた場合には(S715:No)、該メッセージに応じて車内LAN50を介して他のECUに対しコマンドを送信し、本処理を終了する。
【0107】
S720〜S735では、受け取ったメッセージに応じて、実行可否状態テーブルにおける該メッセージに係る検査処理に対応する各欄を設定する。既に述べたように、各欄はいずれかの診断処理に対応するものであり、いずれかの診断処理を対象としてS720〜S735が実行され、全ての診断処理に対応する欄の設定が完了するまで、S720〜S735が繰り返し実行される。
【0108】
S720では、制御部11は、実行可否判定テーブルを参照し、上記検査処理の実行中に診断処理の実行が禁止されるかどうかを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S720:Yes)、S725に処理を移行し、否定判定が得られた場合には(S720:No)、次の診断処理を対象とした設定に移行する。
【0109】
S725では、制御部11は、受け取ったメッセージが、上記検査処理の開始を指示するものであるか否かを判定する。そして、肯定判定が得られた場合には(S725:Yes)、実行可否判定テーブルの「検査処理」の上記検査処理を示す小項目における診断処理に対応する欄に“0”を設定する(S730)。一方、否定判定が得られた場合(換言すれば、上記検査処理の終了を指示するメッセージを受け取った場合)には(S725:No)、該欄に“1”を設定する(S735)。
【0110】
そして、全ての診断処理に対応する欄についての設定が完了すると、制御部11は、本処理を終了する。
[効果]
本実施形態の車載システム1では、各ECUにて実行される診断処理についての実行可否判定が判定用ECU10にて行われ、個々のECUが独自に実行可否判定を行うことは無い。
【0111】
このため、本実施形態の車載システム1を流用して新たな車載システムを構築する際に、ECUの改変や、車載システム1からのECUの削除がなされ、実行可否判定に必要な情報が提供されなくなった場合や、該情報の提供タイミングが変化した場合等であっても、判定用ECU10に修正を加えるだけで、以前と同様の実行可否判定を行うことができる。
【0112】
つまり、ECUの改変等に応じた実行可否判定の修正に関しては、修正を行う対象が個々のECUに分散してしまうことが無く、判定用ECU10のみを修正するだけで、従前と同様の実行可否判定を行うことが可能となる。このため、判定用ECU10が設けられていない車載システムを流用して新たな車載システムを構築する場合に比べ、ECUの改変等に伴う実行可否判定に関する修正のコストを低減させることができるのである。
【0113】
したがって、本実施形態の判定用ECU10を車載システム1に設けることで、該車載システム1を流用して新たな車載システムを構築する際のコストを低減させることができる。
【0114】
[他の実施形態]
(1)本実施形態の実行可否状態テーブル更新処理2では、判定用ECU10の制御部11は、他のECUから取得した診断結果に応じて、実行可否状態テーブルの「故障情報」に対応する各欄を更新している。しかしながら、これに限らず、制御部11は、車内LAN50を介して他のECUから実行可否状態テーブルの「故障情報」の各小項目が示す部品に関する故障情報を取得した際に、該故障情報に基づき、実行可否状態テーブルにおける該部品に対応する欄を更新しても良い。このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0115】
(2)また、本実施形態では、車両状態条件の成立の有無,診断処理に必要な各部品における故障の有無,検査処理の実行の有無の三つに基づき、診断処理についての実行可否判定を行っているが、これらのうちの一つ或いは二つに基づき、実行可否判定を行っても良い。このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0116】
(3)また、判定用ECU10の制御部11は、定期的なタイミングで(例えば5秒周期で)、RAMに保存された実行可否状態テーブルを参照して各診断処理の実行が許可されているか否かを判定し、各診断処理についての判定結果を、車内LAN50を介して、該診断処理を実行するECUに送信する処理を実行しても良い。なお、該処理は、特許請求の範囲における送信手段に相当する。
【0117】
こうすることにより、ECUは、診断処理を実行するたびに、該診断処理の実行が許可されているかどうかを判定用ECU10に問い合わせる必要が無くなる。このため、処理負荷を低減させることや、診断処理をより迅速に実行することが可能となる。
【0118】
[特許請求の範囲との対応]
上記実施形態の説明で用いた用語と、特許請求の範囲の記載に用いた用語との対応を示す。
【0119】
判定用ECU10が車載用判定装置に、エンジンECU20,AECU30,BECU30等のECUが車載装置に、テスタ60が検査装置に相当する。
また、判定用ECU10の車内LAN通信部12が通信手段に、車内LAN通信部12,接続部15が検出手段に、記憶部14が記憶手段に相当する。
【0120】
また、車両状態,診断結果が、自車両の状態に相当する。
また、実行可否状態テーブル生成処理におけるS115,S125,S135や、実行可否状態テーブル更新処理1におけるS520や、実行可否状態テーブル更新処理2におけるS615や、実行可否状態テーブル更新処理3におけるS725が、実行可否判定手段に相当する。
【0121】
また、判定結果通知処理におけるS415,S420が、送信手段に相当する。
また、テスタ60からのメッセージが、検査指示に相当する。
【符号の説明】
【0122】
1…車載システム、10…判定用ECU、11…制御部、12…車内LAN通信部、13…テスタ通信部、14…記憶部、15…接続部、20…エンジンECU、30…AECU、40…BECU、50…車内LAN、60…テスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両についての診断処理を実行する複数の車載装置と通信を行う通信手段と、
自車両の状態を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記自車両の状態に基づき、前記車載装置において行われる前記診断処理の実行が可能か否かを判定する実行可否判定手段と、
前記通信手段を介して、前記実行可否判定手段による前記診断処理についての判定結果を、該診断処理を実行する前記車載装置に送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする車載用判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用判定装置において、
前記送信手段は、周期的なタイミングで、前記判定結果を、該判定結果に係る前記診断処理を実行する前記車載装置に送信すること、
を特徴とする車載用判定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車載用判定装置において、
自車両の運転終了後も記憶されたデータを保持することが可能な記憶手段をさらに備え、
前記実行可否判定手段は、前記診断処理についての判定に関する情報を前記記憶手段に記憶させること、
を特徴とする車載用判定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の車載用判定装置において、
前記車載用判定装置は、前記車載装置の検査を行う検査装置に接続可能に構成されており、
自装置に接続された前記検査装置から受け付けた検査指示に応じて、前記通信手段を介して、前記車載装置に対し、自車両についての検査を行うための検査処理の実行に関する指示を行う検査指示手段をさらに備え、
前記実行可否判定手段は、前記自車両の状態と前記検査指示の内容とに基づき、該検査指示に係る前記検査処理を実行する前記車載装置における前記診断処理の実行が可能か否かを判定すること、
を特徴とする車載用判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−3010(P2013−3010A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135529(P2011−135529)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】