説明

臭化チオトロピウムと尿素との結晶物

本発明は、臭化チオトロピウムの新規な結晶物、その製造方法、及び、呼吸器系疾患の治療用、とりわけ慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息の治療用の医薬組成物を製造するための前記臭化チオトロピウムの新規な結晶物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な臭化チオトロピウムの結晶物、その調製方法、及び、呼吸器系疾患の治療用、とりわけ慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息の治療用の医薬組成物を製造するための前記新規な臭化チオトロピウムの結晶物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
臭化チオトロピウムは、欧州特許出願EP418716A1から公知であり、下記の化学構造を有する。
【0003】
【化1】

【0004】
臭化チオトロピウムは効力が長く持続する非常に効果的な抗コリン作用薬であり、呼吸器系の症状、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び喘息の治療に使用できる。チオトロピウムという用語は遊離アンモニウムカチオンを意味する。
臭化チオトロピウムは吸入による投与が好ましい。好適な吸入性粉末を適切なカプセルに充填したもの(インハレット)を使用することができる。あるいは、好適な吸入エアロゾルを使って投与することができる。このエアロゾルには、例えば、HFA134a、HFA227又はその混合物を噴射剤ガスとして含有する粉末状の吸入エアロゾルも含まれる。
医薬有効成分を吸入投与するのに適した前記医薬組成物を正確に製造する基礎となるのは、有効成分自体の性状に関連した様々なパラメータである。臭化チオトロピウムのように吸入粉末又は吸入可能なエアロゾル状態にして使用する医薬組成物においては、製剤を調製するのに結晶性の有効成分を粉砕(微粉砕)した状態で用いる。医薬製剤の製薬上の品質として、有効成分の結晶改質(crystalline modification)が常に同じであることが要求されるので、この観点から、結晶性有効成分の安定性及び特性は厳しい要求を受けることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、医薬的有効成分に対する前述の高い要求を満足する新規な臭化チオトロピウム化合物の結晶物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
臭化チオトロピウムの一水和物についての最初の記載はWO02/30928に見られるが、驚いたことに、この化合物を出発物質として、新規な臭化チオトロピウムの結晶改質が尿素との共結晶形態で得られることがわかった。意外にも、この共結晶は吸湿性挙動をほとんど示さないことから、水分や湿度の影響に対して比較的安定した結晶性臭化チオトロピウムとなる。
したがって、本発明は新規な臭化チオトロピウム−尿素共結晶に関する。この新規な共結晶において、臭化チオトロピウム成分と尿素成分はほぼ化学量論的比率で存在する。そのため、本発明は、臭化チオトロピウム成分と尿素成分とがおよそ1:1の比率で存在する臭化チオトロピウム−尿素共結晶に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による共結晶について得られた粉末X線回折ダイアグラムを示す。
【図2】臭化チオトロピウム-尿素共結晶のDSCダイアグラムを示す。
【図3】本発明の共結晶の1H-NMRスペクトルを示す。
【図4】本発明の吸入可能粉末を収容するカプセルを投与するための特に好ましい吸入器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
新規な共結晶は、示差走査熱量測定(DSC)による測定で約174℃に急激な吸熱事象を有することを特徴とする。
この新規な共結晶は、粉体X線ダイアグラムの特性値dがとくにd=12.48Å、6.43Å、5.04Å、4.08Å、3.99Å、3.71Å、3.53Å、3.38Åであることを特徴とする。なかでもd=5.04Å、3.99Å、3.53Åが特に著しい特性値であることを特徴とする。
また、本発明は、呼吸器系疾患の治療用、とりわけCOPD及び/又は喘息の治療用医薬組成物を調製するための本発明による新規な共結晶の使用に関する。
また、本発明は、臭化チオトロピウムの本発明による結晶形態の製造方法に関する。
本発明のもう一つの態様は、新規な臭化チオトロピウム共結晶の調製方法に関するもので、結晶性臭化チオトロピウム一水和物(WO02/30928より公知)と尿素とをモル比1:1で粉砕して非晶質混合物とし、この混合物を好ましくは加熱下、好適な溶媒でスラリーとすることを特徴とする。残存する固体の物質は濾過により回収し、周囲温度で乾燥させる。好適な溶媒は酢酸エチル、テトラリン又はヘキサンから好ましくは選択されるが、特に酢酸エチルが好適である。共結晶の作成は約50℃に加温して行うことが好ましい。
下記の実施例は本発明をさらに説明することを意図し、一例として記載する実施形態に本発明の範囲を限定するものではない。
【0009】
合成例
ボールミル(Retsch MM200)中、臭化チオトロピウム一水和物100mgと尿素(12.7mg、CH4N2O、M=60.06)とをモル比1:1で20Hzにして60分間粉砕し、完全に非晶質な両成分の混合物を得る。この混合物を室温で約4時間かけて酢酸エチルでスラリーとし、更に4時間50℃まで加熱する。この手順を更に2回繰り返し、混合物の処理は合計24時間行う。その後、残存する固体の物質を濾過により回収し、周囲条件下で一晩乾燥させる。
【0010】
分析
こうして得られた結晶を粉体X線回折(XRPD)、熱分析(DSC)及び1H-NMRで分析し、新規な結晶形、いわゆる臭化チオトロピウムと尿素との共結晶が形成されていることがわかった。
【0011】
粉体X線回折
試料の粉体X線回折パターンは、シーメンスD5000回折計により、CuKα照射(40kV、40mA)、θ-θゴニオメーター、自動発散スリット及び受光スリット、セカンダリーグラファイトモノクロメータ、シンチレーションカウンタを用いて得た。ステップサイズ0.02度2θ、ステップタイム1秒で連続走査モードにより角度範囲2〜42度でデータ収集した。
周囲条件下でテストした試料は、入手した粉末をそのまま粉砕せずに用いて平板状試験片として調製した。約25〜50mgの試料を、研磨したゼロバックグラウンド(510)シリコンウェーハ(The Gem Dugout社、1652 Princeton Drive、ペンシルバニア州、ステートカレッジ、PA16803、米国)に切り込んだ直径12mm、深さ0.5mmのキャビティー内へゆっくりと充填した。試験片すべてを静止モードで分析すると同時に、分析中に試験片面を回転させて分析した。さらに別の試験片を用いて、シリコンパウダーを内標準としたテストを行いピークのずれを修正した。
図1に代表的なダイアグラムを示す。正規化した強度を含む固有の回折ピークの一覧を下記表1に示す。
表1:臭化チオトロピウム/尿素共結晶のX線粉末反射角度(〜30°2θ)及び強度(正規化強度)
【0012】
【表1】

【0013】
熱分析 − 示差走査熱量測定(DSC)
50サンプル(50 position)のオートサンプラーを装備したTA Instruments社製Q1000で、示差走査熱量測定データを集めた。融解エンタルピー及び温度較正の基準はインジウムとした。
試料を昇温速度10℃/分で10℃から230℃まで加熱した。試料上に30cm3/分で窒素パージを続けた。
特に記載のないかぎり、試料は1〜3mg用いた。すべての試料は密閉式のアルミ製皿に入れて圧着した。
臭化チオトロピウム-尿素共結晶のDSCの記録には、およそ174℃で急激な吸熱事象が見られるが、これはこの物質の融解を示す。200℃を超えて熱分解が見られた。得られたDSCダイアグラムを図2に示す。
【0014】
NMR分析
得られた共結晶の化学量論を理解するために、1H-NMRスペクトルをBruker 400MHz分光計で記録した。試料を分析用d6-DMSOに溶解させた。対応のスペクトルを図3に示す。チオトロピウムの1H-NMR特性シグナルに加えて、尿素を示すシグナルが5.40ppmに見られる。このシグナルを積分すると該共結晶がほぼ1:1の化学量論であることがわかる(尿素0.93当量)。
【0015】
本発明の臭化チオトロピウムの形態を含む製剤
本発明による結晶性臭化チオトロピウムは、例えば吸入可能粉末等の吸入投与用医薬製剤、又は、例えば噴射剤含有エアロゾル製剤、とりわけ、吸入可能粉末及び噴射剤含有エアロゾル懸濁系の調製に非常に適している。このような医薬製剤又は組成物には、本発明の結晶性チオトロピウムに加えて、ベータ受容体刺激薬(betamimetics)、EGFR阻害剤、PDEIV-阻害剤、ステロイド類及びLTD4拮抗薬から選択される1種以上の更なる有効成分が含まれていてもよく、さらに、医薬的に許容できる賦形剤を一緒に含んでいてもよい。
【0016】
吸入可能粉末
本発明は、生理的に許容される賦形剤とともに、本発明による結晶性臭化チオトロピウムの状態でチオトロピウムを0.001〜3%含む吸入可能な粉末に関するものでもある。チオトロピウムはアンモニウムカチオンを意味する。
本発明では、チオトロピウムを0.01〜2%含有する吸入可能粉末が好ましい。特に、チオトロピウムを約0.03〜1%、好ましくは0.05〜0.6%、特に好ましくは0.06〜0.3%含有する吸入可能粉末が好ましい。最終的には、チオトロピウムを約0.08〜0.22%含有する吸入可能粉末が本発明では特に重要である。
前記に示したチオトロピウムの量は、含有するチオトロピウムカチオンの量を基準とする。
本発明の目的のために使用する賦形剤は、この分野で既知の現行方法を用いて好適な粉砕及び/又は篩分けにより調製される。本発明で使用する賦形剤は、異なる平均粒径を有する賦形剤画分を混合して得た賦形剤混合物でもよい。
本発明によるインハレット(inhalettes)に使用する吸入可能粉末の製造に用いられる医薬的に許容できる賦形剤の例としては、単糖類(例えば、グルコース、フラクトース又はアラビノース)、二糖類(例えば、ラクトース、サッカロース、マルトース、トレハロース)、オリゴ糖類及び多糖類(例えば、デキストラン、デキストリン、マルトデキストリ、デンプン、セルロース)、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、シクロデキストリン類(例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、χ−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)、アミノ酸類(例えばアルギニン塩酸塩)又は塩類(例えば、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム)あるいは、これらの混合物が挙げられる。好ましくは、単糖類又は二糖類が使用され、ラクトース又はグルコースの使用が特に好ましく、限定はされないが、その水和物の形が好ましい。本発明の目的のためには、ラクトースが特に好ましい賦形剤である。
【0017】
本発明による吸入可能粉末の範囲において、賦形剤の最大平均粒子径は250μmまで、好ましくは10〜150μm、最も好ましくは15〜80μmの範囲である。上記の賦形剤に平均粒径1〜9μmのより微細な賦形剤画分を添加することが適切と考えられる場合もあろう。このより微細な賦形剤も、本願明細書中で既に列挙した使用可能な賦形剤の群から選択される。平均粒子径はこの分野では既知の方法を用いて求めることができる(例えば、WO02/30389のパラグラフA及びC参照)。本発明の吸入可能粉末を作製するには、微粉化した結晶性無水臭化チオトロピウム、これは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmの平均粒子径を有することを好ましくは特徴とするものであるが、この微粉化した結晶性無水臭化チオトロピウムを最終的に賦形剤混合物に添加する(例えば、WO02/30389のパラグラフB参照)。有効成分の粉砕及び微粉砕の方法については、従来技術より公知である。
指定どおり調製された賦形剤混合物を賦形剤として使用しない場合は、平均粒径10〜50μmで、0.5〜6μmの10%微細分を含む賦形剤の使用が特に好ましい。
平均粒径とは、レーザー回折計を用いて乾式分散法により測定した体積分布の50%の値を本願明細書では指す。平均粒径は、当該分野で公知の方法で求めることができる(例えば、WO02/30389のパラグラフA及びC参照)。同様に、本件における10%微細分とは、レーザー回折計を用いて測定した体積分布の10%の値を指す。言い換えると、本発明の目的のための10%微細分とは、その数値未満の粒径の範囲に粒子の量の10%(体積分布基準)が存在する粒径を指す。
本発明の範囲においてパーセンテージを示す場合は、特にそれと異なる記載のない限り常に質量%である。
特に好ましい吸入可能粉末においては、賦形剤は平均粒径が12〜35μm、とりわけ好ましくは13〜30μmであることを特徴とする。
また、10%微細分が約1〜4μm、好ましくは約1.5〜3μmである吸入可能粉末が特に好ましい。
本発明の吸入可能粉末は、本発明の基礎となる問題点に応じて、単回投与量の精度という意味において均質性が高いことを特徴とする。この均質性は8%未満の範囲、好ましくは6%未満、もっとも好ましくは4%未満の範囲である。
【0018】
出発物質を秤量した後、当該分野で公知の方法を用いて賦形剤と有効成分とから吸入可能粉末を作製する。例えば、WO02/30390の開示を参照することができる。すなわち、本発明の吸入可能粉末は、たとえば以下記載の方法にしたがって得ることができる。本願明細書で後述の製造方法においては、吸入可能粉末についての前記組成に記載の質量比率で各成分が用いられる。
まず、賦形剤と有効成分とを好適な混合容器に投入する。使用する有効成分の平均粒径は0.5〜10μm、好ましくは1〜6μm、特に好ましくは2〜5μmである。好ましくは、賦形剤と有効成分は、メッシュサイズ0.1〜2mm、好ましくは0.3〜1mm、最も好ましくは0.3〜0.6mmの篩又は造粒用篩を使って加えるとよい。混合容器には最初に賦形剤から投入し、そのあと有効成分を加えることが好ましい。混合工程中、この2種の成分は小分けにして加えることが好ましい。とりわけ2種の成分が交互の層になるよう篩で投入するとよい。賦形剤と有効成分という2種の成分は、添加しながら混合を行ってもよいが、いったん2種の成分を交互の層になるよう篩で加えてから混合を行うことが好ましい。
また、本発明は、呼吸器系疾患の治療用の、特にCOPD及び/又は喘息の治療用の医薬組成物を調製するための、本発明の吸入粉末の使用に関する。
本発明の吸入粉末は、例えば、計量チャンバーによってリザーバーから1回分の投与量を計量する吸入器(例えば、US4570630A)によって、あるいは、他の手段(例えばDE3625685A)によって投与することができる。
しかしながら、好ましくは、本発明の吸入可能粉末はカプセルに充填(所謂インハレットを作製)し、例えばWO94/28958に記載されているような吸入器で使用することが好ましい。
【0019】
本発明の吸入可能粉末を収容するカプセルは、図4に示すような吸入器を使って投与することが特に好ましい。この吸入器は、2個の窓2を有するハウジング1と、空気導入口を有し、スクリーンハウジング4を介して固定されたスクリーン5を備えたデッキ3と、デッキ3に連結し、2本の尖ったピン7を備えバネ8に対向して可動する押しボタン9を有する吸入チャンバー6と、スピンドル10を介してハウジング1、デッキ3及びカバー11と連結し、跳ね上げ式で開閉可能なマウスピース12と、流動抵抗を調整するための空気穴13とによって特徴づけられる。
また、本発明は、呼吸器系疾患治療用の、特にCOPD及び/又は喘息の治療用の医薬組成物を調製するための、本発明の結晶性臭化チオトロピウムの1種又は数種、好ましくは1種を含む吸入可能粉末の使用に関するもので、前記で説明した図15に示す吸入器を使用することを特徴とする。
本発明の結晶性チオトロピウム臭化物を含有する吸入可能粉末を、粉末充填型カプセルを利用して投与するには、カプセル材料が合成プラスチック類、特に好ましくはポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートから選択される材料のカプセルを使用することが特に推奨される。とりわけ好ましい合成プラスチック材料は、ポリエチレン、ポリカーボネート又はポリエチレンテレフタレートである。カプセル材料の1つとして、本発明で特に好ましいポリエチレンを用いる場合、密度が900〜1000kg/m3、好ましくは940〜980kg/m3、さらに好ましくは約960〜970kg/m3のポリエチレン(高密度ポリエチレン)の使用が好ましい。
【0020】
本発明による合成プラスチック類は、この分野で公知の製造方法を用いて様々なやり方で加工することができる。本発明ではプラスチックの射出成形が推奨される。離型剤を使わない射出成形が特に好ましい。この製造方法は十分に定義されており、とりわけ再現可能であるという特徴を有している。
本発明のまた別の態様では、本発明による前記吸入可能粉末を収容する前記カプセルに関するものである。カプセルには吸入可能粉末を約1〜20mg、好ましくは約3〜15mg、最も好ましくは約4〜12mg収容するとよい。本発明による好適な製剤は4〜6mgの吸入可能粉末を含む。本発明によると、本発明の製剤を8〜12mg収容する吸入用カプセルが同様な重要性を有する。
さらに、本発明は、本発明の吸入可能粉末の内容物に特徴がある1個以上の上記カプセルと、図15に準ずる吸入器との組み合わせで構成される吸入キットに関する。
また、本発明は、呼吸器系疾患の治療用の、特にCOPD及び/又は喘息の治療用の医薬組成物を調製するための、本発明による吸入可能粉末の内容物に特徴がある上記カプセルの使用に関する。
本発明による吸入可能粉末を収容する充填済みカプセルは、この分野では公知の方法で空のカプセルに本発明の吸入可能粉末を充填することによって製造される。
本発明の吸入可能粉末の例
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明することを意図するものであり、下記の具体的な実施形態に本発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
有効成分
本発明の結晶性臭化チオトロピウムを用いて、本発明の吸入可能粉末を調製する。この結晶物はこの分野で公知の方法と同様にして微粉砕すればよい(例えばWO03/078429 A1参照)。本発明の範囲で本発明による結晶性臭化チオトロピウムの平均粒径に言及する場合、当該分野で公知の測定方法で求めている(例えば、WO03/078429A1、パラグラフD.2参照)。
【0022】
賦形剤
以下の実施例では、賦形剤としてラクトース一水和物を使用する。このラクトース一水和物は、例えば、Borculo Domo Ingredients社(ボルクロ/オランダ)から、「Lactochem Extra Fine Powder」という製品名で入手することができる。粒径や比表面積に関する本発明の仕様を、前記グレードのラクトースは満たしている。下記実施例では、例えば、以下の仕様を有するラクトースのバッチを用いた。
【0023】
粉末製剤の調製
装置
吸入粉末を調製するのに、例えば下記の装置類を使用することができる。
混合容器又は粉体ミキサー:Turbulamischer 2L Type 2C(Willy A. Bachofen AG社製、CH-4500、バーゼル)
手持ち型の篩:メッシュサイズ0.135mm
チオトロピウム含有吸入粉末を、空の吸入用カプセルに手動又は機械的に充填すればよい。下記の装置を使用することができる。
カプセル充填機:MG2 Type G100、MG2 S.r.l社製(1-40065 Pian di Macina di Pianoro (BO)、イタリア)
【0024】
処方例
処方例1−粉体混合物
粉体混合物を調製するために、299.39gの賦形剤と0.61gの微粉化した本発明の共結晶とを用いる。
約40〜45gの賦形剤をメッシュサイズ0.315mmの手持ち型篩に通して好適な混合容器に仕込む。約90〜110mgずつに小分けした本発明の共結晶と、約40〜45gずつに小分けした賦形剤を篩にかけ、交互の層になるようにする。賦形剤と有効成分を添加して、それぞれが7層と6層になるようにする。
篩で添加した後、成分同士を混合する(混合速度900rpm)。最終混合物を手持ち型篩にさらに2回通して、再度900rpmで混合する。
処方例1記載の方法を用いて吸入粉末を得ることができ、それを使用して好適なプラスチック製カプセルに充填すれば、例えば以下のような吸入用カプセルを形成することができる。
【0025】
処方例2:
臭化チオトロピウム−尿素共結晶 0.0113mg
ラクトース一水和物 5.4887mg
カプセル 100.0mg
合計 105.5mg
【0026】
処方例3:
臭化チオトロピウム−尿素共結晶 0.0225mg
ラクトース一水和物 5.4775mg
ポリエチレンカプセル 100.0mg
合計 105.5mg
【0027】
処方例4:
臭化チオトロピウム−尿素共結晶 0.0056mg
ラクトース一水和物 5.4944mg
ポリエチレンカプセル 100.0mg
合計 105.5mg
【0028】
噴射剤含有エアロゾル懸濁系
本発明の共結晶は、噴射剤含有吸入エアロゾルの状態で投与することもできる。これにはエアロゾル懸濁系が特に好適である。
そこで、本発明は、噴射剤ガスHFA227及び/又はHFA134a中に本発明の共結晶を含む懸濁系に関するもので、1種以上の他の噴射剤ガス、好ましくはプロパン、ブタン、ペンタン、ジメチルエーテル、CHClF2、CH2F2、CF3CH3、イソブタン、イソペンタン及びネオペンタンからなる群から選択される噴射剤ガスを混合していてもよい。
本発明によると、噴射剤ガスとしてHFA227のみを含有するもの、HFA227とHFA134aの混合物を含有するもの、又は、HFA134aのみを含有する懸濁系が好適である。
本発明の懸濁系製剤で噴射剤ガスHFA227とHFA134aの混合物を用いる場合、この2つの噴射剤ガス成分の質量比は自由に変えることができる。
本発明の懸濁系製剤において、噴射剤ガスHFA227及び/又はHFA134aに加えて、1種以上の他の噴射剤ガスをプロパン、ブタン、ペンタン、ジメチルエーテル、CHClF2、CH2F2、CF3CH3、イソブタン、イソペンタン及びネオペンタンからなる群から選択して使用する場合は、この添加する噴射剤ガス成分の量は50%未満が好ましく、40%未満がさらに好ましく、30%未満がとりわけ好ましい。
本発明の懸濁系は、チオトロピウムカチオンの量が0.001〜0.8%、好ましくは0.08〜0.5%、特に好ましくは0.2〜0.4%となるような量のチオトロピウム臭化物が含まれていることが好ましい。特に変更の記載がないかぎり、本発明の範囲において記載のパーセンテージは、常に質量パーセントを示す。
【0029】
本発明の範囲で懸濁系製剤という用語を懸濁系の代わりに使用する場合もある。この2つの用語は本発明の範囲において均等であるとみなされる。
本発明の噴射剤含有吸入用エアロゾル又は懸濁系製剤には、界面活性剤、アジュバント、酸化防止剤又は香味付与剤等の他の構成成分を含有させてもよい。
本発明の懸濁系に含有させることができる界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート80、Myvacet 9-45、Myvacet 9-08、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、Brij、オレイン酸エチル、トリオレイン酸グリセリン、モノラウリン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、モノリシノール酸グリセリン、セチルアルコール、ステアリルアルコール、塩化セチルピリジニウム、ブロック重合体、天然油、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択されることが好ましい。前記懸濁系アジュバントのなかでも、ポリソルベート20、ポリソルベート80、Myvacet 9-45、Myvacet 9-08又はミリスチン酸イソプロピルが好適に使用される。Myvacet 9-45又はミリスチン酸イソプロピルが最も好ましく使用される。
本発明による懸濁系が界面活性剤を含む場合、界面活性剤は好ましくは0.0005〜1%、特に好ましくは0.005〜0.5%の量で用いられることが好ましい。
本発明の懸濁系中に任意で含有させることができるアジュバントは、アラニン、アルブミン、アスコルビン酸、アスパルテーム、ベタイン、システイン、リン酸、硝酸、塩酸、硫酸及びクエン酸からなる群から選択されることが好ましい。アスコルビン酸、リン酸、塩酸又はクエン酸が好適に使用され、塩酸又はクエン酸が特に好ましい。
【0030】
アジュバントが本発明の懸濁系中に存在する場合、アジュバントは、0.0001〜1.0%、好ましくは0.0005〜0.1%、特に好ましくは0.001〜0.01%の量で使用され、とりわけ0.001〜0.005%の量が本発明では重要である。
本発明の懸濁系中に使用することができる酸化防止剤は、アスコルビン酸、クエン酸、エデト酸ナトリウム、エデト酸、トコフェロール類、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール及びアスコルビン酸パルミチン酸エステルからなる群から選択されることが好ましく、トコフェロール類、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール又はアスコルビン酸パルミチン酸エステルの使用が好適である。
本発明の懸濁系には香味付与剤を任意で含有させることができるが、香味付与剤はペパーミント、サッカリン、Dentomint、アスパルテーム及び精油類(例えば、シナモン油、アニス油、メントール、樟脳油等)からなる群から選択されることが好ましく、なかでもペパーミント又はDentomint(登録商標)が特に好ましい。
吸入投与を意図する場合は、有効成分を微粉状態で提供することが必須である。そのため、本発明の共結晶は、従来技術から公知である方法を用いて微粉状態にして得る。有効成分の微粉砕方法についてはこの分野では公知である。微粉化後の有効成分の平均粒径は、0.5〜10μm、好ましくは1〜6μm、特に好ましくは1.5〜5μmであると好ましい。有効成分粒子の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%が、前記粒径範囲内の径を有することが好ましい。特に好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の有効成分粒子が前記粒径範囲内の粒径であることが好ましい。
本発明の懸濁系は、この分野では公知の方法で調製することができる。調製するには処方成分を噴射剤ガス(1種又は複数の噴射剤ガス)と共に混合し(任意であるが低温で)、適当な容器に充填する。
【0031】
本発明による前記噴射剤含有懸濁系は、この分野では公知の吸入器(加圧式定量噴霧吸入器(pMDI))を使って投与することができる。したがって、もう一つの態様では、本発明は、本願明細書前記のとおりの懸濁系状態の医薬組成物と、この懸濁系を投与するのに適した吸入器1種以上との組み合わせに関する。さらに本発明は、本願明細書前記記載の噴射剤含有懸濁系を収容することを特徴とする吸入器に関する。
また、本発明は、適切なバルブを装着することで好適な吸入器中で使用することができる、前記本発明による噴射剤含有懸濁系の1種を収容する容器(カートリッジ)に関するものである。好適な容器(カートリッジ)及びこれらのカートリッジに本発明による噴射剤含有懸濁系を充填する方法については、この分野では公知である。
チオトロピウムの医薬的活性を考慮し、本発明は、吸入又は鼻からの投与用医薬組成物を製造するための本発明の懸濁系の使用に関するものでもあり、好ましくは、抗コリン作用薬が治療効果を引き出すことができる疾病の吸入治療又は鼻からの治療用の医薬組成物を製造するための本発明の懸濁系の使用に関する。
特に好ましいのは、呼吸器系疾患の、とりわけ喘息又はCOPDの吸入治療用医薬組成物を製造するための本発明の懸濁系の使用に関する。
以下の実施例は、例を挙げて本発明をさらに詳細に説明することを目的とするものであり、その内容に本発明を限定するものではない。
エアロゾル懸濁系製剤の実施例
有効成分及び噴射ガスに加えて他の成分を含む懸濁系
処方例5:
【0032】
【表2】

【0033】
処方例6:
【表3】

【0034】
処方例7:
【表4】

【0035】
処方例8:
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化チオトロピウムと尿素からなる結晶物。
【請求項2】
臭化チオトロピウムと尿素とが約1:1の量比で存在する、請求項1記載の結晶物。
【請求項3】
示差走査熱量測定(DSC)により測定したときに、約174℃で吸熱事象があることを特徴とする、請求項1記載の結晶物。
【請求項4】
粉体X線ダイアグラムにおいてとりわけd=5.04Å、3.99Å及び3.53Åに特性値を有することを特徴とする、請求項1記載の結晶物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のチオトロピウムの形態を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、請求項1〜4のいずれか1項記載のチオトロピウムの形態と共に、ベータ受容体刺激薬、EGFR阻害剤、PDEIV-阻害剤、ステロイド類及びLTD4拮抗薬から選択される1種以上の有効成分とを含み、さらに、医薬的に許容できる賦形剤を一緒に含んでいてもよい、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
呼吸器系疾患の治療用、好ましくは喘息又はCOPDの治療用の医薬組成物を製造するための、請求項1〜4のいずれか1項記載のチオトロピウムの形態の使用。
【請求項8】
請求項1の結晶性無水臭化チオトロピウムの製造方法であって、結晶性臭化チオトロピウム一水和物を尿素と共にモル比1:1で粉砕して非晶質混合物とした後、適当な溶媒でスラリーとする、製造方法。
【請求項9】
請求項1の結晶性チオトロピウムを製造するための出発物質としての、結晶性臭化チオトロピウム一水和物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−510186(P2010−510186A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536726(P2009−536726)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062283
【国際公開番号】WO2008/058968
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】