船舶の航走制御システム
【課題】定速航走制御するための目標スロットル開度と、操作レバーのレバー操作量に対応する目標スロットル開度とを簡単に自動的に切替ることのできる船舶の航走制御システムを提案する。
【解決手段】スロットル制御部400が、定速航走指令に基づいて、少なくとも船速信号と目標船速指示信号とを用いて、船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部410と、レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部320と、第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部430とを含む。
【解決手段】スロットル制御部400が、定速航走指令に基づいて、少なくとも船速信号と目標船速指示信号とを用いて、船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部410と、レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部320と、第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部430とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムに関するもので、詳しくは、船舶の定速航走制御を含む航走制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶、例えばモーターボートなどの小型船舶の航走制御システムとして、特許文献1、2が知られている。特許文献1では、船外機は、エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータと、シフト位置を制御するシフトアクチュエータと、エンジン制御モジュールとを有し、エンジン制御モジュールは、スロットルアクチュエータおよびシフトアクチュエータを制御する。また、船体の操船席内には、操船者からの操船入力に基づき操船状態を検出し、前記船外機の始動・停止、スロットル開度、シフト位置を含む制御指令値を演算する操作量演算手段が配置され、この操作量演算手段は、通信手段を介して前記制御指令値を船外機に送信し、船外機は受信した前記制御指令値に基づき、エンジンの始動・停止、スロットル開度、シフト位置の制御を行う。しかし、特許文献1には、船舶の定速航走制御は開示されていない。
【0003】
特許文献2には、船舶の定速航走制御を含む推進制御装置が開示されている。特許文献2では、定速航走モードから通常航走モードへの切換が開示され、この定速航走モードから通常航走モードへの切換時には、定速航走制御が解消され、通常航走制御に切換られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008 −87736号公報
【特許文献2】特開2004−142538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された航走制御システムは、定速航走制御を含んでいないので、船外機のエンジン回転数が一定であっても水上での走行では水流や波にて対地船速が絶えず影響を受けて変化し、また、僅かなハンドル操作による旋回でも船速は変化を受け、一定の速度を持続できない。このような状況にて、一定速度を持続し航走を行う場合は、操船者が船速メータからの情報に基づき、船外機に対応する操作レバーを操作し、船外機のエンジン回転速度を調整し、船速を調整する必要があり、操船者による操作が煩雑なものとなり、また操船者の操船熟練度も必要となる。特許文献1は、定速航走制御を含んでいないので、所定距離間を所定時間で精度よく航行する場合には、上記のように操船者の操作レバーに対して煩雑な操作が必要であり、また操作レバーのレバー操作量を一定に固定した航走では水流の影響にて所定時間どおりに到着ができないといった問題があった。また、モーターボートなどの小型船舶では、水上スキーやウェークボードを旋回やスラローム走行をしながら一定速度で曳航する場合があり、操船者の操作レバーに対する熟練した操作技量が必要となる。よって操船技量のない初心者などには操船が難しいといった問題があった。
【0006】
特許文献2に開示された定速航走制御によれば、定速航走時における操作レバーの操作を簡単化することができる。しかし、特許文献2の推進制御装置では、例えば、船舶が曳航する水上スキーまたはウェークボードのプレーヤが水中に転落するなどの緊急事態に対処するため、定速航走モードから通常航走モードへの切替えたときに、定速航走モードが解消されるため、通常航走モードから再び定速航走モードへ復帰する制御を簡単に行うことができず、また、通常航走モードにおいて、操作レバーにより、船速を増大し過ぎると、船舶が暴走する危険もある。
【0007】
この発明は、特許文献2における前述の問題をも改善することのできる船舶の航走制御システムを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係わる船舶の航走制御システムは、操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムであって、
前記船外機は、前記エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船体には、前記エンジン制御モジュールに接続された船舶制御モジュールと、前記船体の航走速度を表わす船速信号を発生する船速検出手段と、定速航走指令を発生する定速航走指令手段と、目標船速指示信号を出力する目標船速指示手段と、前記エンジンのスロットル開度を制御する操作レバーとが配置され、前記定速航走指令手段と目標船速指示手段と制御レバーは、操船者によって操作されるように、前記操船席に配置され、
前記操作レバーには、レバー操作量を検出するレバー操作量検出手段が付設され、
前記船速検出手段と、定速航走指令手段と、目標船速指示手段と、レバー操作量検出手段は、前記船舶制御モジュールに接続され、
前記船舶制御モジュールは、前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御するスロットル制御部を有し、
前記スロットル制御部は、前記定速航走指令に基づいて、少なくとも前記船速信号と目標船速指示信号とを用いて、前記船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、前記レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る船舶の航走制御システムでは、スロットル制御部は、定速航走指令に基づいて、少なくとも船速信号と目標船速指示信号とを用いて、船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含む。
したがって、例えば緊急事態に対処するため、レバー操作量を減少することにより、第1目標スロットル開度がスロットル開度として選択された状態から、第2目標スロットル開度がスロットル開度として選択される状態に自動的に切替えることができる。また、例えば緊急事態への対処が終わった後、レバー操作量を増大することにより、第2目標スロットル開度が第1目標スロットル開度より大きくなり、再び第1目標スロットル開度をスロットル開度として自動的に選択することができ、簡単に定速航走制御に復帰することができる。併せて、例えば緊急事態への対処が終わった後、第2目標スロットル開度が増大しても、第2目標スロットル開度が第1目標スロットル開度よりも大きくなったときに、第1目標スロットル開度をスロットル開度として選択することができるので、船舶が暴走する危険を防止することができる。
また既存の特許文献1に開示された航走制御システムで構成された船舶に対しては、船舶制御モジュールの変更によってこの発明の定速航走制御が可能となり、船外機の変更は必要なく、航走制御機能の向上が低コストかつ簡単に図れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態1を示す全体構成図である。
【図2】図2は、実施の形態1における船舶制御モジュールの航走制御部を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標船速設定手段を示すフローチャートである。
【図4】図4は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部のACCスイッチ判定手段を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標Ne基本量設定手段を示すフローチャートである。
【図5A】図5Aは、目標Ne基本量設定手段で使用されるNe_OPマップ(TACCNEOPN)を示すグラフである。
【図6】図6は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の船速偏差F/B量演算手段を示すフローチャートである。
【図6A】図6Aは、船速偏差F/B量演算手段で使用されるNe_Pマップ(TACCNE_P)を示すグラフである。
【図6B】図6Bは、船速偏差F/B量演算手段で使用されるNe_Iマップ(TACCNE_I)を示すグラフである。
【図7】図7は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標Ne設定手段を示すフローチャートである。
【図8】図8は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標APS(ACC)基本量設定手段を示すフローチャートである。
【図8A】図8Aは、目標APC(ACC)基本量設定手段で使用されるACC_OPマップ(TACCAPSOPN)を示すグラフである。
【図9】図9は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の実行状態判定手段を示すフローチャートである。
【図10】図10は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の実行条件判定手段を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部のNe偏差F/B量演算手段を示すフローチャートである。
【図11A】図11Aは、Ne偏差F/B量演算手段で使用されるACC_Pマップ(TACCAPS_P)を示すグラフである。
【図11B】図11Bは、Ne偏差F/B量演算手段で使用されるACC_Iマップ(TACCAPS_I)を示すグラフである。
【図12】図12は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標APS(ACC)設定手段を示すフローチャートである。
【図13】図13は、実施の形態1の航走制御部における第2演算部の目標APS算出手段を示すフローチャートである。
【図13A】図13Aは、目標APS算出手段のLPS校正動作を説明するグラフである。
【図13B】図13Bは、目標APS算出手段のLPS正規化動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態1を示す全体構成図である。
(1)実施の形態1の全体的な構成の説明
図1を参照して実施の形態1に係る船舶の航走制御システムの全体的な構成を説明する。図1において、船舶10は、船体11と、この船体11の船尾に装備された2機の船外機20P、20Sを含む。船体11は、エンジンを備えておらず、2機の船外機20P、20Sは、それぞれエンジン21を内蔵する。船体10は、2機の船外機20P、20Sに内蔵されたエンジン21により駆動され、これらの2機の船外機20P、20Sにより、推進力を与えられ、航走する。
【0013】
船舶10は、例えば小型船舶、例えばモーターボートとして構成され、船体11は、操船席12を備える。この船舶10は、例えば、水上スキーまたはウェークボードを行うのに使用され、水上において、旋回またはスラローム走行を行う。2機の船外機20P、20Sの中、左舷側、すなわち進行方向の左側の船外機20Pをポート(Port)と呼び、その右舷側、すなわち進行方向の右側の船外機20Sをスターボード(Stbd)と呼ぶ。
【0014】
ポート20Pとスターボード20Sは互いに同じに構成される。ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれエンジン21を内蔵し、このエンジン21と、プロペラシャフト22と、推進用プロペラ23などを一体化した推進機である。ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれ内蔵するエンジン21により、プロペラシャフト22を通じて、推進用プロペラ23を駆動し、船舶10に推進力を与える。
【0015】
ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれエンジン制御モジュール(ECM)24と、スロットルアクチュエータ(ETV)25と、シフトアクチュエータ(ESA)26を有する。スロットルアクチュエータ25は、対応するエンジン21のスロットル開度を制御し、対応するエンジン21に対する空気と燃料の吸入混合気量を制御する。シフトアクチュエータ26は、対応するエンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を制御する。シフト位置は、中立位置Nと、前進位置Fと、後進位置Rとを含む3つの位置で制御される。エンジン制御モジュール24は、具体的には、マイクロコンピュータを用いて構成され、対応するスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を制御する。
【0016】
船体11の操船席12には、船舶制御モジュール(BCM)13と、操作レバー14と、始動と停止の指示スイッチ16と、船速センサ17と、情報表示メータ18P、18Sと、オートグルーズ制御パネル19とが配置される。操作レバー14と指示スイッチ16とオートクルーズ制御パネル19は、操船者により操作されるので、操船席12に配置される。情報表示メータ18P、18Sは、操船者により監視されるので、操船席12に配置される。船舶制御モジュール13と船速センサ16は、必ずしも操船席12に配置する必要はなく、船体11のどこかに配置されるが、実施の形態1では、操船席12の周りに配置される。
【0017】
船舶制御モジュール13は、具体的には、マイクロコンピュータを用いて構成され、CAN(Controller Area Network)を用いた制御系通信線31を通じて、ポート20Pおよびスターボード20Sのエンジン制御モジュール24に接続される。船舶制御モジュール13は、ポート20Pのエンジン制御モジュール24に対して、制御指令値、具体的には、目標スロットル開度APS(Port)と目標シフト位置SSP(Port)と、始動・停止指令を供給する。ポート20Pのエンジン制御モジュール24は、対応するスロットルアクチュエータ25と、対応するシフトアクチュエータ26とに接続され、これらのスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を通じて、対応するエンジン21を目標スロットル開度APS(Port)と目標シフト位置SSP(Port)に制御し、また、対応するエンジン21の始動・停止を行う。
【0018】
また、ポート20Pのエンジン制御モジュール24は、エンジン21における実際のスロットル開度を表わす実スロットル開度AAPS(Port)と、そのエンジン21の実際の回転速度を表わす実エンジン回転速度Ne(port)と、そのエンジン21のギヤ機構の実際のシフト位置を表わす実シフト位置ASSP(Port)を検出し、これらの実スロットル開度AAPS(Port)と実エンジン回転速度Ne(Port)と実シフト位置ASSP(Port)を、船舶制御モジュール13へ出力する。船舶制御モジュール13は、これらの実スロットル開度AAPS(Port)と実エンジン回転速度Ne(Port)と実シフト位置ASSP(Port)に基づいて、ポート20Pのエンジン21に対する制御指令値への反映およびシステム監視を行う。
【0019】
同様に、船舶制御モジュール13は、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24に対して、制御指令値、具体的には、目標スロットル開度APS(Stbd)と目標シフト位置SSP(Stbd)と、始動・停止指令を供給する。スターボード20Sのエンジン制御モジュール24は、対応するスロットルアクチュエータ25と、対応するシフトアクチュエータ26とに接続され、これらのスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を通じて、対応するエンジン21を目標スロットル開度APS(Stbd)と目標シフト位置SSP(Stbd)に制御し、また、対応するエンジン21の始動・停止を行う。
【0020】
また、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24は、エンジン21における実際のスロットル開度を表わす実スロットル開度AAPS(Stbd)と、そのエンジン21の実際の回転速度を表わす実エンジン回転速度Ne(Stbd)と、そのエンジン21のギヤ機構の実際のシフト位置を表わす実シフト位置ASSP(Stbd)を検出し、これらの実スロットル開度AAPS(Stbd)と実エンジン回転速度Ne(Stbd)と実シフト位置ASSP(Stbd)を、船舶制御モジュール13へ出力する。船舶制御モジュール13は、これらの実スロットル開度AAPS(Stbd)と実エンジン回転速度Ne(Stbd)と実シフト位置ASSP(Stbd)に基づいて、スターボード20Sのエンジン21に対する制御指令値への反映およびシステム監視を行う。
【0021】
操作レバー14は、操船者により操作され、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度を決定し、またそれらの各エンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を決定する。操作レバー14は、一対の相対向するレバー部材14P、14Sを有し、操船者がこれらの一対のレバー部材14P、14Sを、互いに同時に、同じレバー操作量だけ操作するように構成される。レバー部材14P、14Sは、それぞれポート20P、スターボード20Sに対応する。レバー部材14P、14Sには、それぞれレバー操作量検出手段15P、15Sが付設される。レバー操作量検出手段15Pは、ポート20Pに対応したレバー部材14Pのレバー操作量LPS(Port)を検出し、このレバー操作量LPS(Port)を出力する。レバー操作量検出手段15Sは、スターボード20Sに対応したレバー部材14Sのレバー操作量LPS(Stbd)を検出し、このレバー操作量LPS(Stbd)を出力する。レバー操作量検出手段15P、15Sは、信号線32を通じて船舶制御モジュール13に接続される。
【0022】
レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度とシフト位置を決定する。操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、中央の中立位置Nと、その左端の前進位置Fとの間で、前進時のスロットル開度を決定し、また、中立位置Nと、その右端の後進位置Rとの間で、後進時のスロットル開度を決定する。レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、レバー部材14P、14Sのレバー位置に対応したスロットル開度を表わし、船舶制御モジュール13に供給される。レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を決定するのにも使用される。
【0023】
始動・停止の指示スイッチ16は、操船者により操作され、信号線33を通じて船舶制御モジュール13に接続される。船舶制御モジュール13は、始動・停止の指示スイッチ16の操作に基づいて、各船外機20P、20Sの各エンジン制御モジュール24を通じて、対応するエンジン21の始動と停止を指示する。
【0024】
速度センサ17および情報表示メータ18P、18Sは、CANを用いた情報系通信線34を通じて船舶制御モジュール13に接続される。速度センサ17は、全地球測位システム、すなわちGPSを利用して構成され、船舶10の航走速度、すなわち船速SVを表わす船速信号SVSを発生し、この船速信号SVSを船舶制御モジュール13へ供給する。情報表示メータ18P、18Sは、ポート20P、20Sの各エンジン制御モジュール24から、船舶制御モジュール13を通じて、それぞれポート20Pおよびスターボード20Sのそれぞれエンジン21の実エンジン回転速度Ne(Port)、Ne(Stbd)などの情報を表示する。
【0025】
オートクルーズ制御パネル19は、定速航走指示手段191と、目標船速指示手段192と、船速表示装置193を含み、信号線35を通じて、船舶制御モジュール13に接続される。定速航走指示手段191は、具体的にはACCスイッチで構成され、操船者により操作される。このACCスイッチ191は、ACCスイッチ信号ACCSを出力し、このACCスイッチ信号ACCSは、船舶制御モジュール13に供給される。ACCスイッチ191は、定速航走制御ACCのために、操船者により最初に押圧操作されたときに、定速航走指令ACCIを発令し、またこの定速航走指令ACCIが発令されている状態において、操船者により再び押圧操作されたときには、定速航走指令ACCIを解除する。
【0026】
目標船速指示手段192は、目標船速指示スイッチで構成され、操船者により操作される。船速指示スイッチ192は、プラススイッチS+と、マイナススイッチS−を有し、船舶制御モジュール13に目標船速指示信号SVIを供給する。プラススイッチS+は、それが押圧操作される度毎に目標船速指示信号SVIを単位増加量だけ増加するように機能し、また、マイナススイッチS−は、それが押圧操作される度毎に目標船速指示信号SVIを単位減少量だけ減少するように機能する。船速表示装置193は、船舶制御モジュール13を通じて、現在の船速SVまたは目標船速SVTを操船者に表示する。
【0027】
(2)船舶制御モジュール13の航走制御部300の全体的な構成の説明
図2は、船舶制御モジュール13の航走制御部300を示すブロック図である。この航走制御部300は、スロットル制御部400と、シフト制御部500を含む。図2の左端部には、目標船速指示手段192からの目標船速指示信号SVIと、船速センサ17からの船速信号SVSと、定速航走指示手段191からのACCスイッチ信号ACCSと、レバー操作量検出手段15Pからのレバー操作量LPS(Port)と、ポート20Pのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)と、レバー操作量検出手段15Sからのレバー操作量LPS(Stbd)と、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Stbd)が表示される。これらは、航走制御部300で使用される。
【0028】
スロットル制御部400は、図2に示すように、目標船速指示信号SVIと、船速信号SVSと、ACCスイッチ信号ACCSと、レバー操作量LPS(port)と、実エンジン回転速度Ne(Port)と、レバー操作量LPS(Stbd)と、実エンジン回転速度Ne(Stbd)とに基づいて、ポート20P向けの目標スロットル開度APS(Port)と、スターボード20S向けの目標スロットル開度APS(Stbd)を出力する。シフト制御部500は、ポート20P向けのシフト位置SSP(Port)と、スターボード20S向けのシフト位置SSP(Stbd)を出力する。
【0029】
(3)航走制御部300のスロットル制御部400の全体的な構成の説明
スロットル制御部400は、この発明による実施の形態1に係る船舶の航走制御システムにおける特徴部分である。このスロットル制御部400は、この発明の特徴として、図2に示すように、第1演算部410と、第2演算部420と、選択出力部430を有する。第1演算部410は、船舶10の定速航走制御ACCが許可された状態では、ポート20Pに対する第1目標スロットル開度APSC(Port)と、スターボード20Sに対する第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を演算し、これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を出力する。第2演算部420は、操作レバー14のレバー部材14Pのレバー操作量LPS(port)と、レバー部材14Sのレバー操作量LPS(Stbd)とに対応して、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)と、スターボード20S向けの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を演算し、これらの第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を出力する。選択出力部430は、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Port)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Port)を出力し、また、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Stbd)を出力する。
【0030】
実施の形態1では、2つの船外機20P、20Sが使用されるが、単一の船外機、例えばスターボード20Sが使用されず、ポート20Pだけが使用される場合には、第1演算部410は、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力し、第2演算部420は、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)を出力し、選択出力部430は、ポート20P向けの目標スロットル開度APS(Port)を出力する。
【0031】
スロットル制御部400は、第1演算部410、第2演算部420、および選択出力部430を有し、選択出力部430が、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)と、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)を出力する。
したがって、例えば緊急事態に対処するため、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)を減少することにより、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)がスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択された状態から、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)がスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択される状態に自動的に切替えることができる。また、例えば緊急事態への対処が終わった後、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)を増大することにより、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)より大きくなり、再び第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)をスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として自動的に選択することができ、簡単に定速航走制御ACCに復帰することができる。併せて、例えば緊急事態への対処が終わった後、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が増大しても、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が第1目標スロットル開度APSCよりも大きくなったときに、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)をスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択することができるので、船舶が暴走する危険を防止することができる。
【0032】
さて、図2の第1演算部410、第2演算部420、および選択出力部430について、順次詳細に説明する。
(4)スロットル制御部400の第1演算部410の全体的の構成の説明
まず、第1演算部410の全体的な構成について図2を参照して説明する。第1演算部410は、図2に示すように、目標船速設定手段100と、ACCスイッチ判定手段101と、目標Ne基本量設定手段102と、船速偏差F/B量演算手段103と、目標Ne設定手段104と、APS(ACC)基本量設定手段105と、実行状態判定手段110と、実行条件判定手段111と、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203と、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303と、目標APS(ACC)設定手段(Port)204と、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304とを含む。目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ポート20向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力し、また、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を出力する。
【0033】
(4A)第1演算部410の目標船速設定手段100の説明
第1演算部410の目標船速設定手段100について、図2、図3を参照して説明する。第1演算部410では、目標船速設定手段100が目標船速SVTを設定し、この目標船速SVTを出力する。目標船速設定手段100は、図2に示すように、目標船速指示スイッチ192からの目標船速指示信号SVIと、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの目標レバースロットル開度APSL(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの目標レバースロットル開度APSL(Stbd)と、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTと、船速信号SVSを受けて、目標船速SVTを設定する。なお、目標レバースロットル開度APSL(Port)と目標レバースロットル開度APSL(Stbd)については、(5)項に詳述され、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTについては、(4B)項に詳述される。
【0034】
図3は、目標船速設定手段100のフローチャートを示す。このフローチャートは、短い時間間隔、具体的には、5[msec]で繰返し実行される。目標船速設定手段100は、ステップS301〜S308を含む。ステップS301では、操作レバー14の各レバー部材14P、14Sのレバー位置が全閉位置にあるかどうかが判定される。このステップS301では、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)に基づいて、操作レバー14のレバー部材14P、14Sが、後進全閉位置Rminまたは前進全閉位置Fminにあるかどうかが判定され、その判定結果がNoになれば、ステップS302に移行し、また、その判定結果がYesになれば、ステップS304に移行する。
【0035】
ステップS302では、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTに基づいて、このACCラッチスイッチ信号ACC−LTが0レベルから1レベルへ、有効に切替ったかどうかが判定される。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、操船者が定速航走制御ACCを指示するために、ACCスイッチ191を最初に押圧操作したときに、0レベルから1レベルへ切替えられる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、1レベルに切替えられたときに、有効状態となり、定速航走指令ACCIが発令される。ステップS302では、言い換えると、ACCスイッチ信号ACCSにより、定速航走指令ACCIが発令されかどうかが判定される。ステップS302の判定結果がYesになればステップS303に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS304に移行する。
【0036】
ステップS303では、船速表示装置193において、船速信号SVSに基づいて表示される現在の船速SVが目標船速SVTに置き換えられる。ステップS304では、目標船速指示スイッチ192から出力される目標船速指示信号SVIに基づいて、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が押圧操作されたかどうかが判定される。具体的には、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+は、目標船速SVTを増加するときに操船者により押圧操作されてONとなり、この押圧操作の後、操船者が押圧操作を解消すると自動的にOFFに復帰するので、ONからOFFへの変化があったかどうかが判定される。ステップS304の判定結果がYesになれば、ステップS305に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS306に移行する。ステップS305では、目標船速SVTに単位増加量、例えば1[Km/h]が加算され、続いてステップS306に移行する。操船者が目標速度SVTを増加する場合には、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が繰り返し押圧操作されるので、ステップS305では、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が繰り返し押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位増加量だけ増加する結果となる。
【0037】
ステップS306では、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が操作されたかどうかが判定される。具体的には、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−は、目標船速SVTを減少するときに操船者により押圧操作されてONとなり、この押圧操作の後、操船者が押圧操作を解消すると自動的にOFFに復帰するので、ONからOFFへの変化があったかどうかが判定される。ステップS306の判定結果がYesになれば、ステップS307に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS308に移行する。ステップS307では、目標船速SVTに単位減少量、例えば−1[Km/h]が加算され、続いてステップS308に移行する。操船者が目標速度SVTを減少する場合には、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が繰り返し押圧操作されるので、ステップS307では、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が繰り返し押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位減少量だけ減少する結果となる。
【0038】
ステップS308では、目標船速SVTに対し、下制限値と上制限値の制限を行う。具体的には、下制限値は10[Km/h]に、また、上制限値は70[Km/h]に設定されており、目標船速SVTは、これらの下制限値と上制限値との間に制限される。このようにして、目標船速設定手段100では、目標船速SVTが設定され、この目標船速SVTは、目標船速設定手段100から出力される。
【0039】
目標船速設定手段100は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転されている状態では、常に目標船速SVTを出力する。ステップS302において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが有効状態に切替り、定速航走指令ACCIが発令されたときには、目標船速SVTの更新が行われる。この目標船速SVTの更新では、ステップS304において、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位増加量だけ増加され、また、ステップS306において、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位減少量だけ減少される。この目標船速SVTの更新がされないときには、目標船速設定手段100は、目標船速SVTの前回値を出力する。
【0040】
(4B)第1演算部410のACCスイッチ判定手段101の説明
第1演算部410のACCスイッチ判定手段101について、図2、図4を参照して説明する。ACCスイッチ判定手段101は、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを出力する。ACCスイッチ判定手段101は、図2に示すように、ACCスイッチ191からのACCスイッチ信号ACCSと、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNを受けて、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを発生する。なお、ACC制御ゾーンACC−CZNは、(4G)項に詳述される。
【0041】
図4は、ACCスイッチ判定手段101のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。ACCスイッチ判定手段101は、ステップS401〜S403を含む。ステップS401に続いてステップS402が実行され、さらにステップS402に続いてステップS403が実行される。まず、ステップS401では、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNが無効、すなわち0レベルかどうかが判定される。ステップS401の判定結果がYesになれば、ステップS402に移行し、ステップS401の判定結果がNoになれば、ENDに移行する。
【0042】
次のステップS402では、ACCスイッチ信号ACCSに基づいて、ACCスイッチ191が操船者により押圧操作されたかどうかを判定する。ACCスイッチ191は、操船者により押圧操作されることにより、OFFレベルからONレベルへ変化し、操船者の押圧操作が解消されたときに、ONレベルからOFFレベルへ自動復帰するので、ステップS402では、ACCスイッチ信号ACCSがONレベルからOFFレベルへ変化したかどうかを判定し、ACCスイッチ171が押圧操作されたかどうかを判定する。ステップS402の判定結果がYesになれば、ステップS403に移行し、ステップS402の判定結果がNoになれば、ENDに移行する。
【0043】
ステップS403では、ACCラッチスイッチを反転動作し、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを反転させる。操船者が定速航走制御ACCを指示するために、ACCスイッチ171を最初に押圧操作した場合には、ステップS403において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは0レベルから1レベルへ変化し、定速航走指令ACCIが発令される。この定速航走指令ACCIが発令されている状態において、操船者が再びACCスイッチ191を押圧操作した場合には、ステップS403において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは1レベルから0レベルへ変化し、定速航走指令ACCが解除される。
【0044】
(4C)第1演算部410の目標Ne基本量設定手段102の説明
第1演算部410では、目標Ne設定手段104が、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に向けた目標エンジン回転速度Ne_Tを設定するが、この目標エンジン回転速度Ne_Tは、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNに、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを加算して算出される。目標Ne基本量設定手段102は、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを算出し、船速偏差F/B量演算手段103は、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを演算する。
【0045】
目標Ne基本量設定手段102について、図2、図5、図5Aを参照して説明する。目標Ne基本量設定手段102は、図2に示すように、目標船速設定手段100から目標船速SVTを受けて、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを設定し、この目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを出力する。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転されている状態では、目標船速SVTが目標船速設定手段100から常に出力されるので、目標Ne基本量設定手段102も、常に、目標船速SVTに基づいて、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを出力する。
【0046】
図5は、目標Ne基本量設定手段102のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標Ne基本量設定手段102は、ステップS501を含む。このステップS501では、予め記憶されたNe_OPマップ(TACCNEOPN)を用いて、目標船速SVTから目標エンジン回転速度基本量NeT_OP
Nが算出される。図5Aは、Ne_OPマップ(TACCNEOPN)の一例を示す。このNe_OPマップ(TACCNEOPN)では、縦軸に目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNが示され、横軸に目標船速SVTが示される。縦軸に示す目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNは、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対する目標エンジン回転速度の基本量であり、具体的には、1000〜7000[r/min]の値である。横軸に示す目標船速SVTは、具体的には、0〜80[km/h]の値である。この目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNが、目標Neエン基本量設定手段102から出力される。
図5Aに示すNe_OPマップ(TACCNEOPN)は、ポート20Pおよびスターボード2
0Sのエンジン21が交換される場合には、交換された新たなエンジン21に対応したマップに置き換えられる。このように、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対応するNe_OPマップ(TACCNEOPN)を用いることにより、目標船速SVTを各エンジン21に対応した目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNに変換することができる。
【0047】
(4D)第1演算部410の船速偏差F/B量演算手段103の説明
船速偏差F/B量演算手段103について、図2、図6、図6A、図6Bを参照して説明する。船速偏差F/B量演算手段103は、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを演算し、出力する。船速偏差F/B量演算手段103は、図2に示すように、目標船速設定手段100からの目標船速SVTと、船速センサ17からの船速信号SVSと、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFとを受け、これらに基づいて、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBを演算する。なお、ACC実行フラグACCFついては、(4H)項に詳述される。
【0048】
図6は、船速偏差F/B量演算手段103のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]に時間間隔で繰返し実行される。船速偏差F/B量演算手段103は、ステップS601〜S608を含む。この船速偏差F/B量演算手段103では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pと、エンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iと、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sと、エンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBが算出される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pは、ステップS603で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iは、ステップS604で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sは、ステップS606で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBは、ステップS607で算出され、設定される。ステップS607で設定されるエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBが、船速偏差F/B量演算手段103から出力される。
【0049】
図6において、まず、ステップS601では、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち、定速航走制御ACCが実行中であるかどうかが判定される。ステップS601の判定結果がYesになれば、ステップS602へ移行し、それがNoになれば、ステップS608に移行する。ステップS608では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_P、エンジン回転速度の積分制御パラメータNe_I、エンジン回転速度の積分制御成分Ne_S、およびエンジン回転速度のフィードバック値Ne_FBがすべて0に設定される。定速航走制御ACCが実行中であるときに、ステップS602からS607が実行される。
【0050】
ステップS602では、目標船速SVTと現在の船速SVとから、次の式(1)に従って、船速偏差ΔSVが演算される。
ΔSV=SVT−SV (1)
なお、船速SVは、船速信号SVSによって表わされる現在の船速である。
【0051】
ステップS602からステップS603に移行する。このステップS603では、図6Aに示されるNe_Pマップ(TACCNE_P)を用い、船速偏差ΔSVから、それに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pを求める。図6Aの縦軸は、エンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pを示し、その横軸は、船速偏差ΔSVを示す。縦軸の比例制御成分Ne_Pは、具体的には、−50〜+50[r/min]の値であり、横軸の船速偏差ΔSVは、具体的には、−5〜+5[km/h]の値である。
【0052】
ステップS603からステップS604に移行する。このステップS604では、図6Bに示されるNe_Iマップ(TACCNE_I)を用い、船速偏差ΔSVから、それに対応するエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを求める。図6Bの縦軸は、エンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを示し、その横軸は、船速偏差ΔSVを示す。縦軸の積分制御パラメータNe_Iは、具体的には、−5〜+5[r/min]の値であり、横軸の船速偏差ΔSVは、具体的には、−5〜+5[km/h]の値である。
【0053】
ステップS604からステップS605に移行する。このステップS605では、所定の更新時間間隔t、具体的には200[msec]が経過したかどうかが判定される。船速偏差ΔSVに対応する積分制御成分Ne_Sは、更新時間間隔tが経過する度毎に、ステップS604で求めた積分制御パラメータNe_Iを前回値に順次加算する処理を行う。ステップS605では、この更新時間間隔tが経過したかどうかが判定される。ステップS605の判定結果がYesになれば、ステップS606に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS606をバイパスしてステップS607に移行する。
【0054】
ステップS606では、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを演算する。このステップS606では、次の式(2)式に従って、エンジン回転速度Neの積分制御成分の前回値Ne_S(n−1)に、ステップS604で求められたエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを加算することにより、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを更新した後、このエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを、+100[r/min]の上制限値と、−100[r/min]の下制限値の間に制限する。
Ne_S=Ne_S(n−1)+Ne_I (2)
【0055】
ステップS605またはステップ606からステップS607に移行する。ステップS607では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを設定する。このステップS607では、次の式(3)式に従って、ステップS603で求められたエンジン回転速度Neの比例制御線分Ne_Pに、ステップS606で求められたエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを加算することにより、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを求めた後、このエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを、+1000[r/min]の上制限値と、−1000[r/min]の下制限値の間に制限する。
Ne_FB=Ne_P+Ne_S (3)
【0056】
船速偏差F/B量演算手段103は、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS602〜S607を実行し、ステップS607で求めたエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS608において、エンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBは0とされる。
【0057】
(4E)第1演算部410の目標Ne設定手段104の説明
目標Ne設定手段104について、図2、図7を参照して説明する。目標Ne設定手段104は、図2に示すように、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、船速偏差F/B量演算手段103からの船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBとを受けて、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算し、これを出力する。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNは常に出力されるので、船速偏差F/B量演算手段103からの船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBが、例え0となっても、目標Ne設定手段104は、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算し、これを出力する。
【0058】
図7は、目標Ne設定手段104のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標Ne設定手段104は、ステップS701を含む。このステップS701では、次の式(4)に従って、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、エンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBとを加算することにより、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算した後、この目標エンジン回転速度Ne_Tを、2000[r/min]の下制限値と、7000[r/min]の上制限値との間に制限する。
Ne_T=NeT_OPN+Ne_FB (4)
【0059】
(4F)第1演算部410の目標APS(ACC)基本量設定手段105の説明
目標APS(ACC)基本量設定手段105について、図2、図8、図8Aを参照して説明する。目標APS(ACC)基本量設定手段105は、図2に示すように、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tを受けて、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。この目標APS(ACC)基本量APSC_OPNは、定速航走制御ACCにおけるポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度の基本量である。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tは常に出力されるので、目標APS(ACC)基本量設定手段105も、常に、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。
【0060】
図8は、目標APS(ACC)基本量設定手段105のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標APS(ACC)基本量設定手段105は、ステップS801を含む。このステップS801では、図8Aに示すACC_OPマップ(TACCAPSOPN)を用い、目標エンジン回転速度Ne_Tに対応する目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。図8Aの縦軸は、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを示し、その横軸は、目標エンジン回転速度Ne_Tを示す。縦軸の目標APS(ACC)基本量APSC_OPNは、具体的には、0〜3[V]の値であり、横軸の目標エンジン回転速度Ne_Tは、具体的には、2000〜7000[r/min]の値である。
【0061】
(4G)第1演算部410の実行状態判定手段110の説明
実行状態判定手段110について、図2、図9を参照して説明する。実行状態判定手段110は、定速航走制御ACCが実行可能な状態であるかどうかを判定する。実行状態判定手段110は、図2に示すように、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの目標レバースロットル開度APSL(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの目標レバースロットル開度APSL(Stbd)と、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)、Ne(Stbd)とを受けて、ACC制御ゾーンACC−CZNを出力する。このACC制御ゾーンACC−CZNは、定速航走制御ACCが実行可能な状態であるか否かを表わす。
【0062】
図9は、実行状態判定手段110のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。実行状態判定手段110は、ステップS901〜S904を含む。ステップS901では、目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が、目標APS(ACC)基本量APSC_OPN以上であるかどうかが判定される。ステップ901の判定結果がYesになれば、ステップS904へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS902に移行する。ステップS902では、実エンジン回転速度Ne(Port)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN以上であり、しかも実エンジン回転速度Ne(Stbd)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN以上であるかどうかが判定される。ステップS902の判定結果がYesになれば、ステップS904へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS903へ移行する。
【0063】
ステップS903では、ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルにセットされる。ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルにセットされることは、定速航走制御ACCが実行できない状態にあることを意味する。ステップS904では、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルにセットされる。ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルにセットされることは、定速航走制御ACCが実行可能な状態であることを意味する。
【0064】
ステップS901において、目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が、目標APS(ACC)基本量APSC_OPN未満であれば、ステップS902に進む。さらに、このステップS902において、実エンジン回転速度Ne(Port)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN未満であり、しかも実エンジン回転速度Ne(Stbd)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN未満であれば、ステップS903でACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルとされる。ステップS901とステップS902の判定結果がともにNoになる条件は、定速航走制御ACCを実行できないことを意味するが、言い換えれば、定速航走制御ACCを実行するのに適していないか、または定速航走制御ACCを実行する意味がないことを表わす。
【0065】
(4H)第1演算部410の実行条件判定手段111の説明
実行条件判定手段111について、図2、図10を参照して説明する。実行条件判定手段111は、定速航走制御ACCが実行可能かどうかを判定し、また、定速航走指令ACCIが発令されているかどうかを判定し、これらの判定に基づいてACC実行フラグACCFを出力する。実行条件判定手段111は、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNと、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTを受け、ACC実行フラグACCFを0レベルまたは1レベルに制御する。ACC実行フラグACCFが1レベルになることは、定速航走制御ACCが実行される条件が成立していることを意味し、定速航走制御ACCが許可され、実行される。また、ACC実行フラグACCFが0レベルになることは、定速航走制御ACCが実行される条件が成立しないことを意味し、定速航走制御ACCが解除される。
【0066】
図10は、実行条件判定手段111のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。実行条件判定手段111は、ステップS1001〜S1004を含む。ステップS1001では、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルであるかどうか、すなわち定速航走制御ACCが実行可能な状態にあるかどうかが判定される。ステップS1001の判定結果がYesになれば、ステップS1002へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1004へ移行する。ステップS1002では、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが1レベルであるかどうかが判定され、言い換えれば定速航走指令ACCIが発令されているかどうかが判定される。ステップS1002の判定結果がYesになれば、ステップS1003へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1004へ移行する。ステップS1003では、定速航走制御ACCの実行を許可するとして、ACC実行フラグACCFが1レベルとされる。ステップS1004では、定速航走制御ACCの実行を解除するとして、ACC実行フラグACCFが0レベルとされる。
【0067】
ACC実行フラグACCFは、ステップS1001とステップS1002の判定結果がともにYesになるときに1レベルとなる。すなわち、ACC実行フラグACCFは、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルであり、しかもACCラッチスイッチ信号ACC−LTが1レベルであるときに、1レベルとなる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、ACCスイッチ191の操作により、定速航走指令ACCIが発令されているときに1レベルとなり、これは再度ACCスイッチ191が操作され、定速航走指令ACCIが解除されるまで継続する。ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルであれば、ACC制御フラグACCFは0レベルとなる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが0レベルであれば、ACC制御フラグACCFは0レベルとなる。
【0068】
(4I)第1演算部410のNe偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303の説明
第1演算部410のNe偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303について、図2、図11、図11A、図11Bを参照して説明する。Ne偏差F/B量演算手段(port)203は、ポート20Pのエンジン回転速度の回転速度偏差ΔNeに対応する、定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Port)を演算する。Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303は、スターボード20Sのエンジン回転速度の回転速度偏差ΔNeに対応する、定速航走ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)を演算する。これらのACCフィードバック量ACC_FB(Port)およびACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)は、回転偏差ΔNeに対応する、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21のスロットル開度に対するフィードバック量であり、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるときに演算される。
【0069】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと、ポート20Pのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)とを受け、ポート20P向けの定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Port)を出力する。NeF/B演算手段(Stbd)303は、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Stbd)とを受け、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)を出力する。
【0070】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303は、互いに同じフローチャートに従って動作する。図11は、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。このフローチャートは、ステップS1101〜S1108を含む。このフローチャートでは、エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pと、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iと、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sと、ACCフィードバック量ACC_FBが算出される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pは、ステップS1103で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iは、ステップS1104で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sは、ステップS1106で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量ACC_FBは、ステップS1107で算出され、設定される。ステップS1107で設定されるACCフィードバック量ACC_FBは、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303から、それぞれACCフィードバック量ACC_FB(Port)およびACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)として出力される。
【0071】
図11おいて、ステップS1101では、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち、定速航走制御ACCが実行中であるかどうかが判定される。ステップS1101の判定結果がYesになれば、ステップS1102へ移行し、それがNoになれば、ステップS1108に移行する。ステップS1108では、定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量の比例制御成分ACC_P、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_I、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_S、およびACCフィードバック量ACC_FBがすべて0に設定される。
【0072】
ステップS1102では、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと実エンジン回転速度Neとから、次の式(5)に従って、エンジン回転速度偏差ΔNeが演算される。なお、実エンジン回転速度Neは、実エンジン回転速度Ne(Port)またはNe(Stbd)であり、ポート20Pまたはスターボード20Sのエンジン制御モジュール24から供給される。
ΔNe=Ne_T−Ne (5)
【0073】
ステップS1102からステップS1103に移行する。このステップS1103では、図11Aに示されるACC_Pマップ(TACCAPS_P)を用い、エンジン回転速度偏差ΔNeから、それに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pを求める。図11Aの縦軸は、ACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pを示し、その横軸は、エンジン回転速度偏差ΔNeを示す。縦軸の比例制御成分ACC_Pは、具体的には、−0.5〜+0.5[V]の値であり、横軸のエンジン回転速度偏差ΔNeは、具体的には、−100〜+100[r/min]の値である。
【0074】
ステップS1103からステップ1104に移行する。このステップS1104では、図11Bに示されるACC_Iマップ(TACCAPS_I)を用い、エンジン回転速度偏差ΔNeから、それに対応するACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iを求める。図11Bの縦軸は、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iを示し、その横軸は、エンジン回転速度偏差ΔNeを示す。縦軸の積分制御パラメータACC_Iは、具体的には、−0.0025〜+0.0025[V]の値であり、横軸のエンジン回転速度偏差ΔNeは、具体的には、−100〜+100[r/min]の値である。
【0075】
ステップS1104からステップS1105に移行する。このステップS1105では、所定の更新時間間隔t、具体的には200[msec]が経過したかどうかが判定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sは、更新時間間隔tが経過する度毎に、ステップS1104で求めた積分制御パラメータACC_Iを前回値に順次加算して演算される。ステップS1105では、この更新時間間隔tが経過したかどうかが判定される。ステップS1105の判定結果がYesになれば、ステップS1106に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1106をバイパスしてステップS1107に移行する。
【0076】
ステップS1106では、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを設定する。このステップS1106では、次の式(6)式に従って、ACCフィードバック量の積分制御成分の前回値ACC_S(n−1)に、ステップS1104で求められた積分制御パラメータACC_Iを加算することにより、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを求めた後、このスロットル開度のS値ACC_Sを、+0.025[V]の上制限値と、−0.025[V]の下制限値の間に制限する。
ACC_S=ACC_S(n−1)+ACC_I (6)
【0077】
ステップS1105またはステップ1106からステップS1107に移行する。ステップS1107では、ACCフィードバック量ACC_FBを設定する。このステップS1107では、次の式(7)式に従って、ステップS1103で求められたACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pに、ステップS1106で求められたACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを加算することにより、ACCフィードバック量ACC_FBを求めた後、このスロットルフィードバック量ACC_FBを、+0.5[V]の上制限値と、−0.5[V]の下制限値の間に制限する。
ACC_FB=ACC_P+ACC_S (7)
【0078】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203は、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを、ポート20P向けのスロットルフィードバック量ACC_FB(Port)として、出力する。Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)は、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを、スターボード20S向けのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)として、出力する。
【0079】
Ne偏差F/B量演算手段203およびNe偏差F/B量演算手段303は、ともに、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS1102〜S1107を実行し、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS1108において、ACCフィードバック量ACC_FBは0とされる。
【0080】
(4J)第1演算部410の目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304の説明
第1演算部410の目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304について、図2、図12を参照して説明する。目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ポート20P向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)を設定し、これを出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を設定し、これを出力する。これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)および第1目標スロットル開度APSC(Stbd)は、定速航走制御ACCのための、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21の目標スロットル開度であり、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるときに演算される。
【0081】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203からのACCフィードバック量ACC_FB(Port)とを受け、ポート20P向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)304からのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)とを受け、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を出力する。
【0082】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、互いに同じフローチャートに従って動作する。図12は、目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。このフローチャートは、ステップS1201〜S1203を含む。まず、ステップS1201では、ACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち定速航走制御ACCが実行中であるかどうかを判定する。ステップS1201の判定結果がYesになれば、ステップS1202に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1203に移行する。
【0083】
ステップS1202では、次の式(8)に従って、APS(ACC)基本量APSC_OPNに、ACCフィードバック量ACC_FBを加算して、第1目標スロットル開度APSCを求めた後、この第1目標スロットル開度APSCを、0[V]の下制限値と、5[V]の上制限値との間の値に制限する。このステップS1202で演算された第1目標スロットル開度APSCが、定速航走制御ACCのためのスロットル開度である。
APSC=APSC_OPN+ACC_FB (8)
なお、ACC_FBは、ACC_FB(Port)またはACC_FB(Stbd)である。
ステップS1203では、第1目標スロットル開度APSCが5[V]に設定される。このステップS1203で設定された5[V]は、第2演算部420で算出される目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)よりも常に大きい値のスロットル開度である。
【0084】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ステップS1202、1203で設定した第1目標スロット開度APSCを、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)として、出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、ステップS1202、1203で設定した第1目標スロットル開度APSCを、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)として、出力する。
【0085】
目標APS(ACC)設定手段204(Port)および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、ともに、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS1202を実行し、ステップS1202で求めた目標第1スロットル開度APSCを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS1203において、第1目標スロットル開度APSCは5[V]とされる。
【0086】
(4K)第1演算部410の全体的な動作の説明
第1演算部410において、目標船速設定手段100、目標Ne基本量設定手段102、目標Ne設定手段104、およびAPC(ACC)基本量設定手段105は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、常に動作する。
これに対し、船速偏差F/B量演算手段103、Ne偏差F/B量演算手段203、303、および目標APS(ACC)設定手段204、304は、ACC実行フラグACCFが1レベルにあるときに、それぞれ定速航走制御ACCのためのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FB、ACCフィードバック量ACC_FB、および第1目標スロットル開度APSCを出力し、ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、船速偏差F/B量演算手段103からのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FBと、Ne偏差F/B量演算手段203、303からのACCフィードバック量ACC_FBは0[V]とされ、また、目標APS(ACC)設定手段204、304からの第1目標スロットル開度APSCは5[V]とされる。
【0087】
(5)第2演算部420の説明
次に、第2演算部420について、図2、図13、図13Aおよび図13Bを参照して説明する。第2演算部420は、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302とを有する。目標APS(Lever)算出手段202は、操作レバー14のレバー部材14Pに付設されたレバー操作量検出手段15Pから出力されるポート20P向けのレバー操作量LPS(Port)を受けて、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)を演算し、この第2目標スロットル開度APSL(Port)を出力する。同様に、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、操作レバー14のレバー部材14Sに付設されたレバー操作量検出手段15Sから出力されるスターボード20S向けのレバー操作量LPS(Stbd)を受けて、スターボード20S向けの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を演算し、この第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を出力する。
【0088】
目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、互いに同じに構成される。図13は、目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、図13に示すように、LPS校正ステップS1301と、LPS正規化ステップS1302を有する。LPS校正ステップS1301を実行した後に、LPS正規化ステップS1302を実行する。
【0089】
図13Aは、LPS校正ステップS1301によるLPS校正動作の説明図である。図13Aは、縦軸にLPS値を、横軸にレバー角度を示す。縦軸のLPS値は、レバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)の値を表わし、具体的には、0.5〜4.5[V]の値である。横軸のレバー角度は、操作レバー14のレバー部材14P、14Sの操作角度を示す。図13Aに点線で示す特性1303は、LPS校正ステップ1301に対する入力値を示し、これは、レバー操作量検出手段15P、15Sから出力されるレバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)を表わす。図13Aに実線で示す特性1304は、LPSセンター特性であり、理想特性を示す。レバー操作量検出手段15P、15Sから出力されるレバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)には、その特性のばらつきと、レバー操作量検出手段15P、15Sの取付などの誤差が含まれる場合が多いので、LPS校正ステップS1301において、特性1303をLPSセンター特性1304に校正する。
【0090】
LPS校正ステップS1301では、図13Aに示すように、特性1303で示される入力値と、予め登録されたレバー位置の学習値とを補間演算して、特性1303をLPSセンター特性1304に校正する。レバー位置の学習値には、操作レバー14のレバー部材14P、14Sの後進全開位置Rmax、後進全閉位置Rmin、中立位置N、前進全閉位置Fmin、および前進全開位置Fmaxにおける学習値が使用される。後進全開位置Rmaxは、ポート20Pとスターボード20Sの各エンジン21のギヤ機構が後進位置となり、そのスロットル開度が全開となる位置に対応する。後進全閉位置Rminは、各エンジン21のギヤ機構が後進位置となり、そのスロットル開度が全閉となる位置に対応する。中立位置Nは、各エンジン21のギヤ機構が中立位置Nとなる位置に対応する。前進全閉位置Fminは、各エンジン21のギヤ機構が前進位置となり、そのスロットル開度が全閉となる位置に対応する。前進全開位置Fmaxは、各エンジン21のギヤ機構が前進位置となり、そのスロットル開度が全開となる位置に対応する。LPSセンター特性1304は、具体的には、0.5[V]から4.5[V]の間にLPS値を持つ。
【0091】
図13Bは、正規化ステップS1302による正規化動作の説明図である。図13B(a)は、図13Aで得られたLPSセンター特性1304を示し、図13B(b)は、正規化特性1305を示す。図13B(a)の縦軸はLPS校正値を示し、その横軸はレバー角度を示す。図13B(a)の縦軸に示すLPS校正値は、具体的には、0.5〜4.5[V]の値であり、その横軸に示すレバー角度は、図13Aの横軸と同じである。LPSセンター特性1304は、図13Aと同じである。図13B(b)では、縦軸にAPSL値が示され、横軸にレバー角度が示される。縦軸のAPSL値は、目標APS(Lever)
算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)の値を表わす。図13B(b)の横軸のレバー角度は、図13Aおよび図13B(a)のレバー角度と同じである。
【0092】
図13B(b)の正規化特性1305は、具体的には、後進全開位置Rmaxと後進全閉
位置Rminとの間では、3[V]から1[V]との間でレバー角度の増大に伴って減少す
る値となり、後進全閉位置Rminと前進全閉位置Fminとの間では、1[V]を保持し、また、前進全閉位置Fminと前進全開位置Fmaxとの間では、1[V]と4[V]との間でレバー角度の増大に伴って増加する値となるように、正規化される。なお、後進全開位置RmaxにおけるAPSL値は、危険防止のため、3[V]に設定される。
【0093】
目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)は、スロットル制御部400において使用されるだけでなく、シフト制御部500にも供給される。
【0094】
(6)選択出力部430の説明
次に選択出力部430について、図2を参照して説明する。選択出力部430は、最終APS設定手段205、305と、APS(Port)出力手段206と、APS(Stbd)出力手段306を有する。最終APS設定手段205は、ポート20P向けの最終スロットル開度APS(Port)をAPS(Port)出力手段206へ出力し、APS(Port)出力手段206は、最終スロットル開度APS(Port)を、ポート20Pのエンジン制御モジュール24へ出力する。最終APS設定手段305は、スターボード20S向けの最終スロットル開度APS(Stbd)をAPS(Stbd)出力手段306へ出力し、APS(Stbd)出力手段306は、最終スロットル開度APS(Stbd)を、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24へ出力する。
【0095】
最終APS設定手段205は、目標APS(ACC)設定手段(Port)204からの第1目標スロットル開度APSC(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの第2目標スロットル開度APSL(Port)とを受け、それらの中の、小さい方の値を持つものを選択し、最終スロットル開度APS(Port)として出力する。第1目標スロットル開度APSC(Port)は、定速航走制御ACCが実行されている場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが1レベルである場合には、0[V]と5[V]の間の値を持ち、定速航走制御ACCが実行されない場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが0レベルである場合には、5[V]に設定される。一方、第2目標スロットル開度APSL(Port)は、ポート20Pのエンジン21のギヤ位置が前進位置にあるとき、すなわち前進全開位置Fmaxと前進全閉位置Fminとの間にあるときには、1[V]と4[V]の間の値を持つ。最終APS設定手段205は、第1目標スロットル開度APSC(Port)と、第2目標スロットル開度APSL(Port)とを比較し、それらの中の値の小さい方を選択し、最終スロットル開度APS(Port)として出力する。
【0096】
同様に、最終APS設定手段305は、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304からの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)とを受け、それらの中の、小さい方の値を持つものを選択し、最終スロットル開度APS(Stbd)として出力する。第1目標スロットル開度APSC(Stbd)は、定速航走制御ACCが実行されている場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが1レベルである場合には、0[V]と5[V]の間の値を持ち、定速航走制御ACCが実行されない場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが0レベルである場合には、5[V]に設定される。一方、第2目標スロットル開度APSL(Stbd)は、スターボード20Sのエンジン21のギヤ位置が前進位置にあるとき、すなわち前進全開位置Fmaxと前進全閉位置Fminとの間にあるときには、1[V]と4[V]の間の値を持つ。最終APS設定手段305は、第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と、第2目標スロットル開度APSL(Stbd)とを比較し、それらの中の値の小さい方を選択し、最終スロットル開度APS(Stbd)として出力する。
【0097】
(7)スロットル制御部400の全体的な動作説明
定速航走制御ACCは、例えば、ポート20Pとスターボード20Sの各エンジン21のシフト位置を前進位置Fとした状態で実行される。この定速航走制御ACCが実行されるときには、操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、前進全開位置Fmaxに操作
され、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、4[V]に近い値とされる。このため、第1目標スロットル開度APSC(port)、APSC(Stbd)は、ともに、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)よりも小さい値を持つので、最終APS設定手段205、305は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択し、APS(Port)出力手段206およびAPS(Stbd)出力手段306は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択し、これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を最終スロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として出力する。定速航走制御ACCが実行されるときには、第1目標スロットル開度APSC(port)、APSC(Stbd)は、図12のステップS1202で演算されたスロットル開度である。
【0098】
この定速航走制御ACCが実行されているときに、例えば船舶10が曳航するプレーヤが水中に転落するなどの緊急事態が発生した場合には、操船者が操作レバー14の各レバー部材14P、14Sを同時に、スロットル開度を全閉位置に向かって操作する。この場合、ACCスイッチ191は改めて操作されないので、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは定速航走指令ACCIを発令する状態を継続し、レバー操作量検出手段15P、15Sのレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、最小値0.5[V]に向かって低下する。
このレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の低下過程において、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)よりも、値が小さくなり、最終APS設定手段205、305は、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)に代わって、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択する結果となる。このため、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力は、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の低下に従って低下し、緊急事態に対処することができる。
【0099】
この緊急事態において、操作レバー14のレバー部材14P、14Sが、スロットル開度を全閉位置に向かって操作した状態でも、第1演算部410において、目標船速設定手段100、目標Ne基本量設定手段102、目標Ne設定手段104、およびAPC(ACC)基本量設定手段105は、動作を継続する。
船速偏差F/B量演算手段103、Ne偏差F/B量演算手段203、303、および目標APS(ACC)設定手段204、304は、ACC実行フラグACCFが1レベルにあるときに、それぞれ定速航走制御ACCのためのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FB、ACCフィードバック量ACC_FB、および第1目標スロットル開度APSCを出力するが、緊急事態において、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が低下する過程において、図9のステップS901とステップS902の判定結果がともにNoになったときに、ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルとなり、これに伴い、図10のステップS1001の判定結果がNoとなるので、ACC実行フラグACCFが0レベルとなる。このACC実行フラグACCFは、最終APS設定手段205、305が、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)に代わって、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択した後に、0レベルとなる。
【0100】
このACC実行フラグACCFが0レベルになったことにより、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段203、303は、定速航走制御ACCのためのフィードバック量の演算動作を中断し、船速偏差F/B量演算手段103からのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FBと、Ne偏差F/B量演算手段203、303からのACCフィードバック量ACC_FBは0[V]とされる。また、目標APS(ACC)設定手段204、304は、図12のステップS1202における、定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度の演算を中断し、第1目標スロットル開度APSCは、ステップS1203で5[V]に設定される。この5[V]の第1目標スロットル開度APSCは、第2目標スロットル開度よりも常に大きい値を持つので、最終APS設定手段205、305は、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択する状態を継続する。
ACC実行フラグACCFが0レベルとなる結果、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が低下した状態において、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段203、303と、目標APS(ACC)設定手段204、304の不要で不安定な動作を解消することができる。
【0101】
緊急事態への対処が終わった後、操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、操船者によりレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が、最大値4.5[V]に向かって増大するように操作される。このレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大過程では、まず、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大と、ポート20Pおよびスターボード20Sの実エンジン回転速度Ne(port)、Ne(Stbd)の増大により、実行状態判定手段110のステップS901および/またはステップS902の判定結果がYesになり、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルに復帰し、実行条件判定手段111において、ACC実行フラグACCFが1レベルに復帰する。
このため、第1演算部410において、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203と、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303が、定速航走制御ACCのための演算動作を再開し、目標APS(ACC)設定手段(Port)204と、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304が、ステップS1202からの、定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を出力する。
【0102】
このACC実行フラグACCFが1レベルに復帰した後、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大により、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)よりも、値が大きくなり、最終APS設定手段205、305は、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)に代わって、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択する結果となり、定速航走制御ACCが再開される。
この中で、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力APS(Port)、APS(Stbd)は、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大に従って上昇するが、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)が選択される結果、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)で抑制される。このため、緊急事態の対処後に、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力APS(Port)、APS(Stbd)が急激に最大値まで上昇するのを抑制できる。
【0103】
(8)シフト制御部500の説明
最後に、シフト制御部500について、図2、図13Bを参照して説明する。シフト制御部500は、図2に示すように、ポート20P向けのシフト位置を出力するSSP(Port)出力手段501と、スターボード20S向けのシフト位置を出力するSSP(Stbd)出力手段502を含む。SSP(Port)出力手段501は、第2演算部420の目標APS(Lever)算出手段(Port)からの第2目標スロットル開度APSL(Port)を受ける。SSP(Stbd)出力手段502は、第2演算部420の目標APS(Lever)算出手段(Stbd)からの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を受ける。
【0104】
第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、図13B(b)に特性1305で示される。この特性1305は、レバー位置Rmax、Rmin、N、Fmin、Fmaxを含んでいる。SSP(Port)出力手段501およびSSP(Stbd)出力手段502は、特性1305に含まれるレバー位置Rmax、Rmin、N、Fmin、Fmaxに基づいて、シフト位置を出力する。レバー位置Rmax、Rminの間では、シフト位置は後進位置Rとされ、レバー位置RminのFminの間では、シフト位置は中立位置Nとされ、レバー位置FminとFmaxの間では、シフト位置は前進位置とされる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
この発明による船舶の航走制御システムは、エンジンを含む船外機を備えた船舶の航走制御システムとして利用される。
【符号の説明】
【0106】
10:船舶、11:船体、12:操船席、13:船舶制御モジュール、
14:操作レバー、15P、15S:レバー操作量検出手段、17:船速検出手段、
191:定速航走指示手段、192:目標船速指示手段、
20P、20S:船外機、21:エンジン、24:エンジン制御モジュール、
25:スロットルアクチュエータ、26:シフトアクチュエータ、
300:航走制御部、400:スロットル制御部、410:第1演算部、
420:第2演算部、430:選択出力部、500:シフト制御部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムに関するもので、詳しくは、船舶の定速航走制御を含む航走制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶、例えばモーターボートなどの小型船舶の航走制御システムとして、特許文献1、2が知られている。特許文献1では、船外機は、エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータと、シフト位置を制御するシフトアクチュエータと、エンジン制御モジュールとを有し、エンジン制御モジュールは、スロットルアクチュエータおよびシフトアクチュエータを制御する。また、船体の操船席内には、操船者からの操船入力に基づき操船状態を検出し、前記船外機の始動・停止、スロットル開度、シフト位置を含む制御指令値を演算する操作量演算手段が配置され、この操作量演算手段は、通信手段を介して前記制御指令値を船外機に送信し、船外機は受信した前記制御指令値に基づき、エンジンの始動・停止、スロットル開度、シフト位置の制御を行う。しかし、特許文献1には、船舶の定速航走制御は開示されていない。
【0003】
特許文献2には、船舶の定速航走制御を含む推進制御装置が開示されている。特許文献2では、定速航走モードから通常航走モードへの切換が開示され、この定速航走モードから通常航走モードへの切換時には、定速航走制御が解消され、通常航走制御に切換られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008 −87736号公報
【特許文献2】特開2004−142538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された航走制御システムは、定速航走制御を含んでいないので、船外機のエンジン回転数が一定であっても水上での走行では水流や波にて対地船速が絶えず影響を受けて変化し、また、僅かなハンドル操作による旋回でも船速は変化を受け、一定の速度を持続できない。このような状況にて、一定速度を持続し航走を行う場合は、操船者が船速メータからの情報に基づき、船外機に対応する操作レバーを操作し、船外機のエンジン回転速度を調整し、船速を調整する必要があり、操船者による操作が煩雑なものとなり、また操船者の操船熟練度も必要となる。特許文献1は、定速航走制御を含んでいないので、所定距離間を所定時間で精度よく航行する場合には、上記のように操船者の操作レバーに対して煩雑な操作が必要であり、また操作レバーのレバー操作量を一定に固定した航走では水流の影響にて所定時間どおりに到着ができないといった問題があった。また、モーターボートなどの小型船舶では、水上スキーやウェークボードを旋回やスラローム走行をしながら一定速度で曳航する場合があり、操船者の操作レバーに対する熟練した操作技量が必要となる。よって操船技量のない初心者などには操船が難しいといった問題があった。
【0006】
特許文献2に開示された定速航走制御によれば、定速航走時における操作レバーの操作を簡単化することができる。しかし、特許文献2の推進制御装置では、例えば、船舶が曳航する水上スキーまたはウェークボードのプレーヤが水中に転落するなどの緊急事態に対処するため、定速航走モードから通常航走モードへの切替えたときに、定速航走モードが解消されるため、通常航走モードから再び定速航走モードへ復帰する制御を簡単に行うことができず、また、通常航走モードにおいて、操作レバーにより、船速を増大し過ぎると、船舶が暴走する危険もある。
【0007】
この発明は、特許文献2における前述の問題をも改善することのできる船舶の航走制御システムを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係わる船舶の航走制御システムは、操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムであって、
前記船外機は、前記エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船体には、前記エンジン制御モジュールに接続された船舶制御モジュールと、前記船体の航走速度を表わす船速信号を発生する船速検出手段と、定速航走指令を発生する定速航走指令手段と、目標船速指示信号を出力する目標船速指示手段と、前記エンジンのスロットル開度を制御する操作レバーとが配置され、前記定速航走指令手段と目標船速指示手段と制御レバーは、操船者によって操作されるように、前記操船席に配置され、
前記操作レバーには、レバー操作量を検出するレバー操作量検出手段が付設され、
前記船速検出手段と、定速航走指令手段と、目標船速指示手段と、レバー操作量検出手段は、前記船舶制御モジュールに接続され、
前記船舶制御モジュールは、前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御するスロットル制御部を有し、
前記スロットル制御部は、前記定速航走指令に基づいて、少なくとも前記船速信号と目標船速指示信号とを用いて、前記船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、前記レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る船舶の航走制御システムでは、スロットル制御部は、定速航走指令に基づいて、少なくとも船速信号と目標船速指示信号とを用いて、船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含む。
したがって、例えば緊急事態に対処するため、レバー操作量を減少することにより、第1目標スロットル開度がスロットル開度として選択された状態から、第2目標スロットル開度がスロットル開度として選択される状態に自動的に切替えることができる。また、例えば緊急事態への対処が終わった後、レバー操作量を増大することにより、第2目標スロットル開度が第1目標スロットル開度より大きくなり、再び第1目標スロットル開度をスロットル開度として自動的に選択することができ、簡単に定速航走制御に復帰することができる。併せて、例えば緊急事態への対処が終わった後、第2目標スロットル開度が増大しても、第2目標スロットル開度が第1目標スロットル開度よりも大きくなったときに、第1目標スロットル開度をスロットル開度として選択することができるので、船舶が暴走する危険を防止することができる。
また既存の特許文献1に開示された航走制御システムで構成された船舶に対しては、船舶制御モジュールの変更によってこの発明の定速航走制御が可能となり、船外機の変更は必要なく、航走制御機能の向上が低コストかつ簡単に図れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態1を示す全体構成図である。
【図2】図2は、実施の形態1における船舶制御モジュールの航走制御部を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標船速設定手段を示すフローチャートである。
【図4】図4は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部のACCスイッチ判定手段を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標Ne基本量設定手段を示すフローチャートである。
【図5A】図5Aは、目標Ne基本量設定手段で使用されるNe_OPマップ(TACCNEOPN)を示すグラフである。
【図6】図6は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の船速偏差F/B量演算手段を示すフローチャートである。
【図6A】図6Aは、船速偏差F/B量演算手段で使用されるNe_Pマップ(TACCNE_P)を示すグラフである。
【図6B】図6Bは、船速偏差F/B量演算手段で使用されるNe_Iマップ(TACCNE_I)を示すグラフである。
【図7】図7は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標Ne設定手段を示すフローチャートである。
【図8】図8は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標APS(ACC)基本量設定手段を示すフローチャートである。
【図8A】図8Aは、目標APC(ACC)基本量設定手段で使用されるACC_OPマップ(TACCAPSOPN)を示すグラフである。
【図9】図9は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の実行状態判定手段を示すフローチャートである。
【図10】図10は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の実行条件判定手段を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部のNe偏差F/B量演算手段を示すフローチャートである。
【図11A】図11Aは、Ne偏差F/B量演算手段で使用されるACC_Pマップ(TACCAPS_P)を示すグラフである。
【図11B】図11Bは、Ne偏差F/B量演算手段で使用されるACC_Iマップ(TACCAPS_I)を示すグラフである。
【図12】図12は、実施の形態1の航走制御部における第1演算部の目標APS(ACC)設定手段を示すフローチャートである。
【図13】図13は、実施の形態1の航走制御部における第2演算部の目標APS算出手段を示すフローチャートである。
【図13A】図13Aは、目標APS算出手段のLPS校正動作を説明するグラフである。
【図13B】図13Bは、目標APS算出手段のLPS正規化動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明による船舶の航走制御システムの実施の形態1を示す全体構成図である。
(1)実施の形態1の全体的な構成の説明
図1を参照して実施の形態1に係る船舶の航走制御システムの全体的な構成を説明する。図1において、船舶10は、船体11と、この船体11の船尾に装備された2機の船外機20P、20Sを含む。船体11は、エンジンを備えておらず、2機の船外機20P、20Sは、それぞれエンジン21を内蔵する。船体10は、2機の船外機20P、20Sに内蔵されたエンジン21により駆動され、これらの2機の船外機20P、20Sにより、推進力を与えられ、航走する。
【0013】
船舶10は、例えば小型船舶、例えばモーターボートとして構成され、船体11は、操船席12を備える。この船舶10は、例えば、水上スキーまたはウェークボードを行うのに使用され、水上において、旋回またはスラローム走行を行う。2機の船外機20P、20Sの中、左舷側、すなわち進行方向の左側の船外機20Pをポート(Port)と呼び、その右舷側、すなわち進行方向の右側の船外機20Sをスターボード(Stbd)と呼ぶ。
【0014】
ポート20Pとスターボード20Sは互いに同じに構成される。ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれエンジン21を内蔵し、このエンジン21と、プロペラシャフト22と、推進用プロペラ23などを一体化した推進機である。ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれ内蔵するエンジン21により、プロペラシャフト22を通じて、推進用プロペラ23を駆動し、船舶10に推進力を与える。
【0015】
ポート20Pおよびスターボード20Sは、それぞれエンジン制御モジュール(ECM)24と、スロットルアクチュエータ(ETV)25と、シフトアクチュエータ(ESA)26を有する。スロットルアクチュエータ25は、対応するエンジン21のスロットル開度を制御し、対応するエンジン21に対する空気と燃料の吸入混合気量を制御する。シフトアクチュエータ26は、対応するエンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を制御する。シフト位置は、中立位置Nと、前進位置Fと、後進位置Rとを含む3つの位置で制御される。エンジン制御モジュール24は、具体的には、マイクロコンピュータを用いて構成され、対応するスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を制御する。
【0016】
船体11の操船席12には、船舶制御モジュール(BCM)13と、操作レバー14と、始動と停止の指示スイッチ16と、船速センサ17と、情報表示メータ18P、18Sと、オートグルーズ制御パネル19とが配置される。操作レバー14と指示スイッチ16とオートクルーズ制御パネル19は、操船者により操作されるので、操船席12に配置される。情報表示メータ18P、18Sは、操船者により監視されるので、操船席12に配置される。船舶制御モジュール13と船速センサ16は、必ずしも操船席12に配置する必要はなく、船体11のどこかに配置されるが、実施の形態1では、操船席12の周りに配置される。
【0017】
船舶制御モジュール13は、具体的には、マイクロコンピュータを用いて構成され、CAN(Controller Area Network)を用いた制御系通信線31を通じて、ポート20Pおよびスターボード20Sのエンジン制御モジュール24に接続される。船舶制御モジュール13は、ポート20Pのエンジン制御モジュール24に対して、制御指令値、具体的には、目標スロットル開度APS(Port)と目標シフト位置SSP(Port)と、始動・停止指令を供給する。ポート20Pのエンジン制御モジュール24は、対応するスロットルアクチュエータ25と、対応するシフトアクチュエータ26とに接続され、これらのスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を通じて、対応するエンジン21を目標スロットル開度APS(Port)と目標シフト位置SSP(Port)に制御し、また、対応するエンジン21の始動・停止を行う。
【0018】
また、ポート20Pのエンジン制御モジュール24は、エンジン21における実際のスロットル開度を表わす実スロットル開度AAPS(Port)と、そのエンジン21の実際の回転速度を表わす実エンジン回転速度Ne(port)と、そのエンジン21のギヤ機構の実際のシフト位置を表わす実シフト位置ASSP(Port)を検出し、これらの実スロットル開度AAPS(Port)と実エンジン回転速度Ne(Port)と実シフト位置ASSP(Port)を、船舶制御モジュール13へ出力する。船舶制御モジュール13は、これらの実スロットル開度AAPS(Port)と実エンジン回転速度Ne(Port)と実シフト位置ASSP(Port)に基づいて、ポート20Pのエンジン21に対する制御指令値への反映およびシステム監視を行う。
【0019】
同様に、船舶制御モジュール13は、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24に対して、制御指令値、具体的には、目標スロットル開度APS(Stbd)と目標シフト位置SSP(Stbd)と、始動・停止指令を供給する。スターボード20Sのエンジン制御モジュール24は、対応するスロットルアクチュエータ25と、対応するシフトアクチュエータ26とに接続され、これらのスロットルアクチュエータ25とシフトアクチュエータ26を通じて、対応するエンジン21を目標スロットル開度APS(Stbd)と目標シフト位置SSP(Stbd)に制御し、また、対応するエンジン21の始動・停止を行う。
【0020】
また、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24は、エンジン21における実際のスロットル開度を表わす実スロットル開度AAPS(Stbd)と、そのエンジン21の実際の回転速度を表わす実エンジン回転速度Ne(Stbd)と、そのエンジン21のギヤ機構の実際のシフト位置を表わす実シフト位置ASSP(Stbd)を検出し、これらの実スロットル開度AAPS(Stbd)と実エンジン回転速度Ne(Stbd)と実シフト位置ASSP(Stbd)を、船舶制御モジュール13へ出力する。船舶制御モジュール13は、これらの実スロットル開度AAPS(Stbd)と実エンジン回転速度Ne(Stbd)と実シフト位置ASSP(Stbd)に基づいて、スターボード20Sのエンジン21に対する制御指令値への反映およびシステム監視を行う。
【0021】
操作レバー14は、操船者により操作され、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度を決定し、またそれらの各エンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を決定する。操作レバー14は、一対の相対向するレバー部材14P、14Sを有し、操船者がこれらの一対のレバー部材14P、14Sを、互いに同時に、同じレバー操作量だけ操作するように構成される。レバー部材14P、14Sは、それぞれポート20P、スターボード20Sに対応する。レバー部材14P、14Sには、それぞれレバー操作量検出手段15P、15Sが付設される。レバー操作量検出手段15Pは、ポート20Pに対応したレバー部材14Pのレバー操作量LPS(Port)を検出し、このレバー操作量LPS(Port)を出力する。レバー操作量検出手段15Sは、スターボード20Sに対応したレバー部材14Sのレバー操作量LPS(Stbd)を検出し、このレバー操作量LPS(Stbd)を出力する。レバー操作量検出手段15P、15Sは、信号線32を通じて船舶制御モジュール13に接続される。
【0022】
レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度とシフト位置を決定する。操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、中央の中立位置Nと、その左端の前進位置Fとの間で、前進時のスロットル開度を決定し、また、中立位置Nと、その右端の後進位置Rとの間で、後進時のスロットル開度を決定する。レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、レバー部材14P、14Sのレバー位置に対応したスロットル開度を表わし、船舶制御モジュール13に供給される。レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に付属するギヤ機構に対するシフト位置を決定するのにも使用される。
【0023】
始動・停止の指示スイッチ16は、操船者により操作され、信号線33を通じて船舶制御モジュール13に接続される。船舶制御モジュール13は、始動・停止の指示スイッチ16の操作に基づいて、各船外機20P、20Sの各エンジン制御モジュール24を通じて、対応するエンジン21の始動と停止を指示する。
【0024】
速度センサ17および情報表示メータ18P、18Sは、CANを用いた情報系通信線34を通じて船舶制御モジュール13に接続される。速度センサ17は、全地球測位システム、すなわちGPSを利用して構成され、船舶10の航走速度、すなわち船速SVを表わす船速信号SVSを発生し、この船速信号SVSを船舶制御モジュール13へ供給する。情報表示メータ18P、18Sは、ポート20P、20Sの各エンジン制御モジュール24から、船舶制御モジュール13を通じて、それぞれポート20Pおよびスターボード20Sのそれぞれエンジン21の実エンジン回転速度Ne(Port)、Ne(Stbd)などの情報を表示する。
【0025】
オートクルーズ制御パネル19は、定速航走指示手段191と、目標船速指示手段192と、船速表示装置193を含み、信号線35を通じて、船舶制御モジュール13に接続される。定速航走指示手段191は、具体的にはACCスイッチで構成され、操船者により操作される。このACCスイッチ191は、ACCスイッチ信号ACCSを出力し、このACCスイッチ信号ACCSは、船舶制御モジュール13に供給される。ACCスイッチ191は、定速航走制御ACCのために、操船者により最初に押圧操作されたときに、定速航走指令ACCIを発令し、またこの定速航走指令ACCIが発令されている状態において、操船者により再び押圧操作されたときには、定速航走指令ACCIを解除する。
【0026】
目標船速指示手段192は、目標船速指示スイッチで構成され、操船者により操作される。船速指示スイッチ192は、プラススイッチS+と、マイナススイッチS−を有し、船舶制御モジュール13に目標船速指示信号SVIを供給する。プラススイッチS+は、それが押圧操作される度毎に目標船速指示信号SVIを単位増加量だけ増加するように機能し、また、マイナススイッチS−は、それが押圧操作される度毎に目標船速指示信号SVIを単位減少量だけ減少するように機能する。船速表示装置193は、船舶制御モジュール13を通じて、現在の船速SVまたは目標船速SVTを操船者に表示する。
【0027】
(2)船舶制御モジュール13の航走制御部300の全体的な構成の説明
図2は、船舶制御モジュール13の航走制御部300を示すブロック図である。この航走制御部300は、スロットル制御部400と、シフト制御部500を含む。図2の左端部には、目標船速指示手段192からの目標船速指示信号SVIと、船速センサ17からの船速信号SVSと、定速航走指示手段191からのACCスイッチ信号ACCSと、レバー操作量検出手段15Pからのレバー操作量LPS(Port)と、ポート20Pのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)と、レバー操作量検出手段15Sからのレバー操作量LPS(Stbd)と、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Stbd)が表示される。これらは、航走制御部300で使用される。
【0028】
スロットル制御部400は、図2に示すように、目標船速指示信号SVIと、船速信号SVSと、ACCスイッチ信号ACCSと、レバー操作量LPS(port)と、実エンジン回転速度Ne(Port)と、レバー操作量LPS(Stbd)と、実エンジン回転速度Ne(Stbd)とに基づいて、ポート20P向けの目標スロットル開度APS(Port)と、スターボード20S向けの目標スロットル開度APS(Stbd)を出力する。シフト制御部500は、ポート20P向けのシフト位置SSP(Port)と、スターボード20S向けのシフト位置SSP(Stbd)を出力する。
【0029】
(3)航走制御部300のスロットル制御部400の全体的な構成の説明
スロットル制御部400は、この発明による実施の形態1に係る船舶の航走制御システムにおける特徴部分である。このスロットル制御部400は、この発明の特徴として、図2に示すように、第1演算部410と、第2演算部420と、選択出力部430を有する。第1演算部410は、船舶10の定速航走制御ACCが許可された状態では、ポート20Pに対する第1目標スロットル開度APSC(Port)と、スターボード20Sに対する第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を演算し、これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を出力する。第2演算部420は、操作レバー14のレバー部材14Pのレバー操作量LPS(port)と、レバー部材14Sのレバー操作量LPS(Stbd)とに対応して、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)と、スターボード20S向けの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を演算し、これらの第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を出力する。選択出力部430は、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Port)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Port)を出力し、また、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Stbd)を出力する。
【0030】
実施の形態1では、2つの船外機20P、20Sが使用されるが、単一の船外機、例えばスターボード20Sが使用されず、ポート20Pだけが使用される場合には、第1演算部410は、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力し、第2演算部420は、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)を出力し、選択出力部430は、ポート20P向けの目標スロットル開度APS(Port)を出力する。
【0031】
スロットル制御部400は、第1演算部410、第2演算部420、および選択出力部430を有し、選択出力部430が、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)と、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)の中から、値の小さい方を選択して、目標スロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)を出力する。
したがって、例えば緊急事態に対処するため、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)を減少することにより、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)がスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択された状態から、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)がスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択される状態に自動的に切替えることができる。また、例えば緊急事態への対処が終わった後、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)を増大することにより、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)より大きくなり、再び第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)をスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として自動的に選択することができ、簡単に定速航走制御ACCに復帰することができる。併せて、例えば緊急事態への対処が終わった後、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が増大しても、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が第1目標スロットル開度APSCよりも大きくなったときに、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)をスロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として選択することができるので、船舶が暴走する危険を防止することができる。
【0032】
さて、図2の第1演算部410、第2演算部420、および選択出力部430について、順次詳細に説明する。
(4)スロットル制御部400の第1演算部410の全体的の構成の説明
まず、第1演算部410の全体的な構成について図2を参照して説明する。第1演算部410は、図2に示すように、目標船速設定手段100と、ACCスイッチ判定手段101と、目標Ne基本量設定手段102と、船速偏差F/B量演算手段103と、目標Ne設定手段104と、APS(ACC)基本量設定手段105と、実行状態判定手段110と、実行条件判定手段111と、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203と、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303と、目標APS(ACC)設定手段(Port)204と、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304とを含む。目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ポート20向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力し、また、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を出力する。
【0033】
(4A)第1演算部410の目標船速設定手段100の説明
第1演算部410の目標船速設定手段100について、図2、図3を参照して説明する。第1演算部410では、目標船速設定手段100が目標船速SVTを設定し、この目標船速SVTを出力する。目標船速設定手段100は、図2に示すように、目標船速指示スイッチ192からの目標船速指示信号SVIと、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの目標レバースロットル開度APSL(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの目標レバースロットル開度APSL(Stbd)と、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTと、船速信号SVSを受けて、目標船速SVTを設定する。なお、目標レバースロットル開度APSL(Port)と目標レバースロットル開度APSL(Stbd)については、(5)項に詳述され、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTについては、(4B)項に詳述される。
【0034】
図3は、目標船速設定手段100のフローチャートを示す。このフローチャートは、短い時間間隔、具体的には、5[msec]で繰返し実行される。目標船速設定手段100は、ステップS301〜S308を含む。ステップS301では、操作レバー14の各レバー部材14P、14Sのレバー位置が全閉位置にあるかどうかが判定される。このステップS301では、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)に基づいて、操作レバー14のレバー部材14P、14Sが、後進全閉位置Rminまたは前進全閉位置Fminにあるかどうかが判定され、その判定結果がNoになれば、ステップS302に移行し、また、その判定結果がYesになれば、ステップS304に移行する。
【0035】
ステップS302では、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTに基づいて、このACCラッチスイッチ信号ACC−LTが0レベルから1レベルへ、有効に切替ったかどうかが判定される。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、操船者が定速航走制御ACCを指示するために、ACCスイッチ191を最初に押圧操作したときに、0レベルから1レベルへ切替えられる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、1レベルに切替えられたときに、有効状態となり、定速航走指令ACCIが発令される。ステップS302では、言い換えると、ACCスイッチ信号ACCSにより、定速航走指令ACCIが発令されかどうかが判定される。ステップS302の判定結果がYesになればステップS303に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS304に移行する。
【0036】
ステップS303では、船速表示装置193において、船速信号SVSに基づいて表示される現在の船速SVが目標船速SVTに置き換えられる。ステップS304では、目標船速指示スイッチ192から出力される目標船速指示信号SVIに基づいて、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が押圧操作されたかどうかが判定される。具体的には、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+は、目標船速SVTを増加するときに操船者により押圧操作されてONとなり、この押圧操作の後、操船者が押圧操作を解消すると自動的にOFFに復帰するので、ONからOFFへの変化があったかどうかが判定される。ステップS304の判定結果がYesになれば、ステップS305に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS306に移行する。ステップS305では、目標船速SVTに単位増加量、例えば1[Km/h]が加算され、続いてステップS306に移行する。操船者が目標速度SVTを増加する場合には、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が繰り返し押圧操作されるので、ステップS305では、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が繰り返し押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位増加量だけ増加する結果となる。
【0037】
ステップS306では、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が操作されたかどうかが判定される。具体的には、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−は、目標船速SVTを減少するときに操船者により押圧操作されてONとなり、この押圧操作の後、操船者が押圧操作を解消すると自動的にOFFに復帰するので、ONからOFFへの変化があったかどうかが判定される。ステップS306の判定結果がYesになれば、ステップS307に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS308に移行する。ステップS307では、目標船速SVTに単位減少量、例えば−1[Km/h]が加算され、続いてステップS308に移行する。操船者が目標速度SVTを減少する場合には、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が繰り返し押圧操作されるので、ステップS307では、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が繰り返し押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位減少量だけ減少する結果となる。
【0038】
ステップS308では、目標船速SVTに対し、下制限値と上制限値の制限を行う。具体的には、下制限値は10[Km/h]に、また、上制限値は70[Km/h]に設定されており、目標船速SVTは、これらの下制限値と上制限値との間に制限される。このようにして、目標船速設定手段100では、目標船速SVTが設定され、この目標船速SVTは、目標船速設定手段100から出力される。
【0039】
目標船速設定手段100は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転されている状態では、常に目標船速SVTを出力する。ステップS302において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが有効状態に切替り、定速航走指令ACCIが発令されたときには、目標船速SVTの更新が行われる。この目標船速SVTの更新では、ステップS304において、目標船速指示スイッチ192のプラススイッチS+が押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位増加量だけ増加され、また、ステップS306において、目標船速指示スイッチ192のマイナススイッチS−が押圧操作される度毎に、目標船速SVTが単位減少量だけ減少される。この目標船速SVTの更新がされないときには、目標船速設定手段100は、目標船速SVTの前回値を出力する。
【0040】
(4B)第1演算部410のACCスイッチ判定手段101の説明
第1演算部410のACCスイッチ判定手段101について、図2、図4を参照して説明する。ACCスイッチ判定手段101は、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを出力する。ACCスイッチ判定手段101は、図2に示すように、ACCスイッチ191からのACCスイッチ信号ACCSと、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNを受けて、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを発生する。なお、ACC制御ゾーンACC−CZNは、(4G)項に詳述される。
【0041】
図4は、ACCスイッチ判定手段101のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。ACCスイッチ判定手段101は、ステップS401〜S403を含む。ステップS401に続いてステップS402が実行され、さらにステップS402に続いてステップS403が実行される。まず、ステップS401では、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNが無効、すなわち0レベルかどうかが判定される。ステップS401の判定結果がYesになれば、ステップS402に移行し、ステップS401の判定結果がNoになれば、ENDに移行する。
【0042】
次のステップS402では、ACCスイッチ信号ACCSに基づいて、ACCスイッチ191が操船者により押圧操作されたかどうかを判定する。ACCスイッチ191は、操船者により押圧操作されることにより、OFFレベルからONレベルへ変化し、操船者の押圧操作が解消されたときに、ONレベルからOFFレベルへ自動復帰するので、ステップS402では、ACCスイッチ信号ACCSがONレベルからOFFレベルへ変化したかどうかを判定し、ACCスイッチ171が押圧操作されたかどうかを判定する。ステップS402の判定結果がYesになれば、ステップS403に移行し、ステップS402の判定結果がNoになれば、ENDに移行する。
【0043】
ステップS403では、ACCラッチスイッチを反転動作し、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTを反転させる。操船者が定速航走制御ACCを指示するために、ACCスイッチ171を最初に押圧操作した場合には、ステップS403において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは0レベルから1レベルへ変化し、定速航走指令ACCIが発令される。この定速航走指令ACCIが発令されている状態において、操船者が再びACCスイッチ191を押圧操作した場合には、ステップS403において、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは1レベルから0レベルへ変化し、定速航走指令ACCが解除される。
【0044】
(4C)第1演算部410の目標Ne基本量設定手段102の説明
第1演算部410では、目標Ne設定手段104が、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に向けた目標エンジン回転速度Ne_Tを設定するが、この目標エンジン回転速度Ne_Tは、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNに、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを加算して算出される。目標Ne基本量設定手段102は、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを算出し、船速偏差F/B量演算手段103は、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを演算する。
【0045】
目標Ne基本量設定手段102について、図2、図5、図5Aを参照して説明する。目標Ne基本量設定手段102は、図2に示すように、目標船速設定手段100から目標船速SVTを受けて、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを設定し、この目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを出力する。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転されている状態では、目標船速SVTが目標船速設定手段100から常に出力されるので、目標Ne基本量設定手段102も、常に、目標船速SVTに基づいて、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNを出力する。
【0046】
図5は、目標Ne基本量設定手段102のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標Ne基本量設定手段102は、ステップS501を含む。このステップS501では、予め記憶されたNe_OPマップ(TACCNEOPN)を用いて、目標船速SVTから目標エンジン回転速度基本量NeT_OP
Nが算出される。図5Aは、Ne_OPマップ(TACCNEOPN)の一例を示す。このNe_OPマップ(TACCNEOPN)では、縦軸に目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNが示され、横軸に目標船速SVTが示される。縦軸に示す目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNは、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対する目標エンジン回転速度の基本量であり、具体的には、1000〜7000[r/min]の値である。横軸に示す目標船速SVTは、具体的には、0〜80[km/h]の値である。この目標エンジン回転速度基本量Ne_OPNが、目標Neエン基本量設定手段102から出力される。
図5Aに示すNe_OPマップ(TACCNEOPN)は、ポート20Pおよびスターボード2
0Sのエンジン21が交換される場合には、交換された新たなエンジン21に対応したマップに置き換えられる。このように、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対応するNe_OPマップ(TACCNEOPN)を用いることにより、目標船速SVTを各エンジン21に対応した目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNに変換することができる。
【0047】
(4D)第1演算部410の船速偏差F/B量演算手段103の説明
船速偏差F/B量演算手段103について、図2、図6、図6A、図6Bを参照して説明する。船速偏差F/B量演算手段103は、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度のフィードバック量Ne_FBを演算し、出力する。船速偏差F/B量演算手段103は、図2に示すように、目標船速設定手段100からの目標船速SVTと、船速センサ17からの船速信号SVSと、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFとを受け、これらに基づいて、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBを演算する。なお、ACC実行フラグACCFついては、(4H)項に詳述される。
【0048】
図6は、船速偏差F/B量演算手段103のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]に時間間隔で繰返し実行される。船速偏差F/B量演算手段103は、ステップS601〜S608を含む。この船速偏差F/B量演算手段103では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pと、エンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iと、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sと、エンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBが算出される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pは、ステップS603で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iは、ステップS604で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sは、ステップS606で算出され、設定される。船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBは、ステップS607で算出され、設定される。ステップS607で設定されるエンジン回転速度Neのフィードバック量Ne_FBが、船速偏差F/B量演算手段103から出力される。
【0049】
図6において、まず、ステップS601では、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち、定速航走制御ACCが実行中であるかどうかが判定される。ステップS601の判定結果がYesになれば、ステップS602へ移行し、それがNoになれば、ステップS608に移行する。ステップS608では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_P、エンジン回転速度の積分制御パラメータNe_I、エンジン回転速度の積分制御成分Ne_S、およびエンジン回転速度のフィードバック値Ne_FBがすべて0に設定される。定速航走制御ACCが実行中であるときに、ステップS602からS607が実行される。
【0050】
ステップS602では、目標船速SVTと現在の船速SVとから、次の式(1)に従って、船速偏差ΔSVが演算される。
ΔSV=SVT−SV (1)
なお、船速SVは、船速信号SVSによって表わされる現在の船速である。
【0051】
ステップS602からステップS603に移行する。このステップS603では、図6Aに示されるNe_Pマップ(TACCNE_P)を用い、船速偏差ΔSVから、それに対応するエンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pを求める。図6Aの縦軸は、エンジン回転速度Neの比例制御成分Ne_Pを示し、その横軸は、船速偏差ΔSVを示す。縦軸の比例制御成分Ne_Pは、具体的には、−50〜+50[r/min]の値であり、横軸の船速偏差ΔSVは、具体的には、−5〜+5[km/h]の値である。
【0052】
ステップS603からステップS604に移行する。このステップS604では、図6Bに示されるNe_Iマップ(TACCNE_I)を用い、船速偏差ΔSVから、それに対応するエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを求める。図6Bの縦軸は、エンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを示し、その横軸は、船速偏差ΔSVを示す。縦軸の積分制御パラメータNe_Iは、具体的には、−5〜+5[r/min]の値であり、横軸の船速偏差ΔSVは、具体的には、−5〜+5[km/h]の値である。
【0053】
ステップS604からステップS605に移行する。このステップS605では、所定の更新時間間隔t、具体的には200[msec]が経過したかどうかが判定される。船速偏差ΔSVに対応する積分制御成分Ne_Sは、更新時間間隔tが経過する度毎に、ステップS604で求めた積分制御パラメータNe_Iを前回値に順次加算する処理を行う。ステップS605では、この更新時間間隔tが経過したかどうかが判定される。ステップS605の判定結果がYesになれば、ステップS606に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS606をバイパスしてステップS607に移行する。
【0054】
ステップS606では、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを演算する。このステップS606では、次の式(2)式に従って、エンジン回転速度Neの積分制御成分の前回値Ne_S(n−1)に、ステップS604で求められたエンジン回転速度Neの積分制御パラメータNe_Iを加算することにより、エンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを更新した後、このエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを、+100[r/min]の上制限値と、−100[r/min]の下制限値の間に制限する。
Ne_S=Ne_S(n−1)+Ne_I (2)
【0055】
ステップS605またはステップ606からステップS607に移行する。ステップS607では、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを設定する。このステップS607では、次の式(3)式に従って、ステップS603で求められたエンジン回転速度Neの比例制御線分Ne_Pに、ステップS606で求められたエンジン回転速度Neの積分制御成分Ne_Sを加算することにより、船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを求めた後、このエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを、+1000[r/min]の上制限値と、−1000[r/min]の下制限値の間に制限する。
Ne_FB=Ne_P+Ne_S (3)
【0056】
船速偏差F/B量演算手段103は、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS602〜S607を実行し、ステップS607で求めたエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS608において、エンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBは0とされる。
【0057】
(4E)第1演算部410の目標Ne設定手段104の説明
目標Ne設定手段104について、図2、図7を参照して説明する。目標Ne設定手段104は、図2に示すように、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、船速偏差F/B量演算手段103からの船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBとを受けて、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算し、これを出力する。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNは常に出力されるので、船速偏差F/B量演算手段103からの船速偏差ΔSVに対応するエンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBが、例え0となっても、目標Ne設定手段104は、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算し、これを出力する。
【0058】
図7は、目標Ne設定手段104のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標Ne設定手段104は、ステップS701を含む。このステップS701では、次の式(4)に従って、目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、エンジン回転速度Neのフィードバック値Ne_FBとを加算することにより、目標エンジン回転速度Ne_Tを演算した後、この目標エンジン回転速度Ne_Tを、2000[r/min]の下制限値と、7000[r/min]の上制限値との間に制限する。
Ne_T=NeT_OPN+Ne_FB (4)
【0059】
(4F)第1演算部410の目標APS(ACC)基本量設定手段105の説明
目標APS(ACC)基本量設定手段105について、図2、図8、図8Aを参照して説明する。目標APS(ACC)基本量設定手段105は、図2に示すように、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tを受けて、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。この目標APS(ACC)基本量APSC_OPNは、定速航走制御ACCにおけるポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21に対するスロットル開度の基本量である。ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tは常に出力されるので、目標APS(ACC)基本量設定手段105も、常に、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。
【0060】
図8は、目標APS(ACC)基本量設定手段105のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標APS(ACC)基本量設定手段105は、ステップS801を含む。このステップS801では、図8Aに示すACC_OPマップ(TACCAPSOPN)を用い、目標エンジン回転速度Ne_Tに対応する目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを出力する。図8Aの縦軸は、目標APS(ACC)基本量APSC_OPNを示し、その横軸は、目標エンジン回転速度Ne_Tを示す。縦軸の目標APS(ACC)基本量APSC_OPNは、具体的には、0〜3[V]の値であり、横軸の目標エンジン回転速度Ne_Tは、具体的には、2000〜7000[r/min]の値である。
【0061】
(4G)第1演算部410の実行状態判定手段110の説明
実行状態判定手段110について、図2、図9を参照して説明する。実行状態判定手段110は、定速航走制御ACCが実行可能な状態であるかどうかを判定する。実行状態判定手段110は、図2に示すように、目標Ne基本量設定手段102からの目標エンジン回転速度基本量NeT_OPNと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの目標レバースロットル開度APSL(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの目標レバースロットル開度APSL(Stbd)と、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)、Ne(Stbd)とを受けて、ACC制御ゾーンACC−CZNを出力する。このACC制御ゾーンACC−CZNは、定速航走制御ACCが実行可能な状態であるか否かを表わす。
【0062】
図9は、実行状態判定手段110のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。実行状態判定手段110は、ステップS901〜S904を含む。ステップS901では、目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が、目標APS(ACC)基本量APSC_OPN以上であるかどうかが判定される。ステップ901の判定結果がYesになれば、ステップS904へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS902に移行する。ステップS902では、実エンジン回転速度Ne(Port)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN以上であり、しかも実エンジン回転速度Ne(Stbd)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN以上であるかどうかが判定される。ステップS902の判定結果がYesになれば、ステップS904へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS903へ移行する。
【0063】
ステップS903では、ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルにセットされる。ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルにセットされることは、定速航走制御ACCが実行できない状態にあることを意味する。ステップS904では、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルにセットされる。ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルにセットされることは、定速航走制御ACCが実行可能な状態であることを意味する。
【0064】
ステップS901において、目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)が、目標APS(ACC)基本量APSC_OPN未満であれば、ステップS902に進む。さらに、このステップS902において、実エンジン回転速度Ne(Port)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN未満であり、しかも実エンジン回転速度Ne(Stbd)が目標エンジン回転速度基本量NeT_OPN未満であれば、ステップS903でACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルとされる。ステップS901とステップS902の判定結果がともにNoになる条件は、定速航走制御ACCを実行できないことを意味するが、言い換えれば、定速航走制御ACCを実行するのに適していないか、または定速航走制御ACCを実行する意味がないことを表わす。
【0065】
(4H)第1演算部410の実行条件判定手段111の説明
実行条件判定手段111について、図2、図10を参照して説明する。実行条件判定手段111は、定速航走制御ACCが実行可能かどうかを判定し、また、定速航走指令ACCIが発令されているかどうかを判定し、これらの判定に基づいてACC実行フラグACCFを出力する。実行条件判定手段111は、実行状態判定手段110からのACC制御ゾーンACC−CZNと、ACCスイッチ判定手段101からのACCラッチスイッチ信号ACC−LTを受け、ACC実行フラグACCFを0レベルまたは1レベルに制御する。ACC実行フラグACCFが1レベルになることは、定速航走制御ACCが実行される条件が成立していることを意味し、定速航走制御ACCが許可され、実行される。また、ACC実行フラグACCFが0レベルになることは、定速航走制御ACCが実行される条件が成立しないことを意味し、定速航走制御ACCが解除される。
【0066】
図10は、実行条件判定手段111のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。実行条件判定手段111は、ステップS1001〜S1004を含む。ステップS1001では、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルであるかどうか、すなわち定速航走制御ACCが実行可能な状態にあるかどうかが判定される。ステップS1001の判定結果がYesになれば、ステップS1002へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1004へ移行する。ステップS1002では、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが1レベルであるかどうかが判定され、言い換えれば定速航走指令ACCIが発令されているかどうかが判定される。ステップS1002の判定結果がYesになれば、ステップS1003へ移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1004へ移行する。ステップS1003では、定速航走制御ACCの実行を許可するとして、ACC実行フラグACCFが1レベルとされる。ステップS1004では、定速航走制御ACCの実行を解除するとして、ACC実行フラグACCFが0レベルとされる。
【0067】
ACC実行フラグACCFは、ステップS1001とステップS1002の判定結果がともにYesになるときに1レベルとなる。すなわち、ACC実行フラグACCFは、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルであり、しかもACCラッチスイッチ信号ACC−LTが1レベルであるときに、1レベルとなる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは、ACCスイッチ191の操作により、定速航走指令ACCIが発令されているときに1レベルとなり、これは再度ACCスイッチ191が操作され、定速航走指令ACCIが解除されるまで継続する。ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルであれば、ACC制御フラグACCFは0レベルとなる。ACCラッチスイッチ信号ACC−LTが0レベルであれば、ACC制御フラグACCFは0レベルとなる。
【0068】
(4I)第1演算部410のNe偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303の説明
第1演算部410のNe偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303について、図2、図11、図11A、図11Bを参照して説明する。Ne偏差F/B量演算手段(port)203は、ポート20Pのエンジン回転速度の回転速度偏差ΔNeに対応する、定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Port)を演算する。Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303は、スターボード20Sのエンジン回転速度の回転速度偏差ΔNeに対応する、定速航走ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)を演算する。これらのACCフィードバック量ACC_FB(Port)およびACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)は、回転偏差ΔNeに対応する、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21のスロットル開度に対するフィードバック量であり、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるときに演算される。
【0069】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと、ポート20Pのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Port)とを受け、ポート20P向けの定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Port)を出力する。NeF/B演算手段(Stbd)303は、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24からの実エンジン回転速度Ne(Stbd)とを受け、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)を出力する。
【0070】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303は、互いに同じフローチャートに従って動作する。図11は、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。このフローチャートは、ステップS1101〜S1108を含む。このフローチャートでは、エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pと、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iと、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sと、ACCフィードバック量ACC_FBが算出される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pは、ステップS1103で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iは、ステップS1104で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sは、ステップS1106で算出され、設定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量ACC_FBは、ステップS1107で算出され、設定される。ステップS1107で設定されるACCフィードバック量ACC_FBは、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203およびNe偏差F/B量演算手段(Stbd)303から、それぞれACCフィードバック量ACC_FB(Port)およびACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)として出力される。
【0071】
図11おいて、ステップS1101では、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち、定速航走制御ACCが実行中であるかどうかが判定される。ステップS1101の判定結果がYesになれば、ステップS1102へ移行し、それがNoになれば、ステップS1108に移行する。ステップS1108では、定速航走制御ACCのためのACCフィードバック量の比例制御成分ACC_P、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_I、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_S、およびACCフィードバック量ACC_FBがすべて0に設定される。
【0072】
ステップS1102では、目標Ne設定手段104からの目標エンジン回転速度Ne_Tと実エンジン回転速度Neとから、次の式(5)に従って、エンジン回転速度偏差ΔNeが演算される。なお、実エンジン回転速度Neは、実エンジン回転速度Ne(Port)またはNe(Stbd)であり、ポート20Pまたはスターボード20Sのエンジン制御モジュール24から供給される。
ΔNe=Ne_T−Ne (5)
【0073】
ステップS1102からステップS1103に移行する。このステップS1103では、図11Aに示されるACC_Pマップ(TACCAPS_P)を用い、エンジン回転速度偏差ΔNeから、それに対応するACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pを求める。図11Aの縦軸は、ACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pを示し、その横軸は、エンジン回転速度偏差ΔNeを示す。縦軸の比例制御成分ACC_Pは、具体的には、−0.5〜+0.5[V]の値であり、横軸のエンジン回転速度偏差ΔNeは、具体的には、−100〜+100[r/min]の値である。
【0074】
ステップS1103からステップ1104に移行する。このステップS1104では、図11Bに示されるACC_Iマップ(TACCAPS_I)を用い、エンジン回転速度偏差ΔNeから、それに対応するACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iを求める。図11Bの縦軸は、ACCフィードバック量の積分制御パラメータACC_Iを示し、その横軸は、エンジン回転速度偏差ΔNeを示す。縦軸の積分制御パラメータACC_Iは、具体的には、−0.0025〜+0.0025[V]の値であり、横軸のエンジン回転速度偏差ΔNeは、具体的には、−100〜+100[r/min]の値である。
【0075】
ステップS1104からステップS1105に移行する。このステップS1105では、所定の更新時間間隔t、具体的には200[msec]が経過したかどうかが判定される。エンジン回転速度偏差ΔNeに対応するACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sは、更新時間間隔tが経過する度毎に、ステップS1104で求めた積分制御パラメータACC_Iを前回値に順次加算して演算される。ステップS1105では、この更新時間間隔tが経過したかどうかが判定される。ステップS1105の判定結果がYesになれば、ステップS1106に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1106をバイパスしてステップS1107に移行する。
【0076】
ステップS1106では、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを設定する。このステップS1106では、次の式(6)式に従って、ACCフィードバック量の積分制御成分の前回値ACC_S(n−1)に、ステップS1104で求められた積分制御パラメータACC_Iを加算することにより、ACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを求めた後、このスロットル開度のS値ACC_Sを、+0.025[V]の上制限値と、−0.025[V]の下制限値の間に制限する。
ACC_S=ACC_S(n−1)+ACC_I (6)
【0077】
ステップS1105またはステップ1106からステップS1107に移行する。ステップS1107では、ACCフィードバック量ACC_FBを設定する。このステップS1107では、次の式(7)式に従って、ステップS1103で求められたACCフィードバック量の比例制御成分ACC_Pに、ステップS1106で求められたACCフィードバック量の積分制御成分ACC_Sを加算することにより、ACCフィードバック量ACC_FBを求めた後、このスロットルフィードバック量ACC_FBを、+0.5[V]の上制限値と、−0.5[V]の下制限値の間に制限する。
ACC_FB=ACC_P+ACC_S (7)
【0078】
Ne偏差F/B量演算手段(Port)203は、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを、ポート20P向けのスロットルフィードバック量ACC_FB(Port)として、出力する。Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)は、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを、スターボード20S向けのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)として、出力する。
【0079】
Ne偏差F/B量演算手段203およびNe偏差F/B量演算手段303は、ともに、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS1102〜S1107を実行し、ステップS1107で求めたACCフィードバック量ACC_FBを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS1108において、ACCフィードバック量ACC_FBは0とされる。
【0080】
(4J)第1演算部410の目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304の説明
第1演算部410の目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304について、図2、図12を参照して説明する。目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ポート20P向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)を設定し、これを出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を設定し、これを出力する。これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)および第1目標スロットル開度APSC(Stbd)は、定速航走制御ACCのための、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21の目標スロットル開度であり、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFが1レベルであるときに演算される。
【0081】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203からのACCフィードバック量ACC_FB(Port)とを受け、ポート20P向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)を出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、図2に示すように、実行条件判定手段111からのACC実行フラグACCFと、APS(ACC)基本量設定手段105からの目標APS(ACC)基本量APSC_OPNと、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)304からのACCフィードバック量ACC_FB(Stbd)とを受け、スターボード20S向けの定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Stbd)を出力する。
【0082】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、互いに同じフローチャートに従って動作する。図12は、目標APS(ACC)設定手段(Port)204および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。このフローチャートは、ステップS1201〜S1203を含む。まず、ステップS1201では、ACC実行フラグACCFが1レベルであるかどうか、すなわち定速航走制御ACCが実行中であるかどうかを判定する。ステップS1201の判定結果がYesになれば、ステップS1202に移行し、その判定結果がNoになれば、ステップS1203に移行する。
【0083】
ステップS1202では、次の式(8)に従って、APS(ACC)基本量APSC_OPNに、ACCフィードバック量ACC_FBを加算して、第1目標スロットル開度APSCを求めた後、この第1目標スロットル開度APSCを、0[V]の下制限値と、5[V]の上制限値との間の値に制限する。このステップS1202で演算された第1目標スロットル開度APSCが、定速航走制御ACCのためのスロットル開度である。
APSC=APSC_OPN+ACC_FB (8)
なお、ACC_FBは、ACC_FB(Port)またはACC_FB(Stbd)である。
ステップS1203では、第1目標スロットル開度APSCが5[V]に設定される。このステップS1203で設定された5[V]は、第2演算部420で算出される目標レバースロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)よりも常に大きい値のスロットル開度である。
【0084】
目標APS(ACC)設定手段(Port)204は、ステップS1202、1203で設定した第1目標スロット開度APSCを、ポート20P向けの第1目標スロットル開度APSC(Port)として、出力する。目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、ステップS1202、1203で設定した第1目標スロットル開度APSCを、スターボード20S向けの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)として、出力する。
【0085】
目標APS(ACC)設定手段204(Port)および目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304は、ともに、ACC実行フラグACCFが1レベルであるとき、すなわち定速航走制御ACCが実行されるときに、ステップS1202を実行し、ステップS1202で求めた目標第1スロットル開度APSCを出力する。ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、ステップS1203において、第1目標スロットル開度APSCは5[V]とされる。
【0086】
(4K)第1演算部410の全体的な動作の説明
第1演算部410において、目標船速設定手段100、目標Ne基本量設定手段102、目標Ne設定手段104、およびAPC(ACC)基本量設定手段105は、ポート20Pおよびスターボード20Sの各エンジン21が運転される状態では、常に動作する。
これに対し、船速偏差F/B量演算手段103、Ne偏差F/B量演算手段203、303、および目標APS(ACC)設定手段204、304は、ACC実行フラグACCFが1レベルにあるときに、それぞれ定速航走制御ACCのためのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FB、ACCフィードバック量ACC_FB、および第1目標スロットル開度APSCを出力し、ACC実行フラグACCFが0レベルになれば、船速偏差F/B量演算手段103からのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FBと、Ne偏差F/B量演算手段203、303からのACCフィードバック量ACC_FBは0[V]とされ、また、目標APS(ACC)設定手段204、304からの第1目標スロットル開度APSCは5[V]とされる。
【0087】
(5)第2演算部420の説明
次に、第2演算部420について、図2、図13、図13Aおよび図13Bを参照して説明する。第2演算部420は、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302とを有する。目標APS(Lever)算出手段202は、操作レバー14のレバー部材14Pに付設されたレバー操作量検出手段15Pから出力されるポート20P向けのレバー操作量LPS(Port)を受けて、ポート20P向けの第2目標スロットル開度APSL(Port)を演算し、この第2目標スロットル開度APSL(Port)を出力する。同様に、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、操作レバー14のレバー部材14Sに付設されたレバー操作量検出手段15Sから出力されるスターボード20S向けのレバー操作量LPS(Stbd)を受けて、スターボード20S向けの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を演算し、この第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を出力する。
【0088】
目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、互いに同じに構成される。図13は、目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302のフローチャートを示す。このフローチャートも、5[msec]の時間間隔で繰返し実行される。目標APS(Lever)算出手段(Port)202および目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302は、図13に示すように、LPS校正ステップS1301と、LPS正規化ステップS1302を有する。LPS校正ステップS1301を実行した後に、LPS正規化ステップS1302を実行する。
【0089】
図13Aは、LPS校正ステップS1301によるLPS校正動作の説明図である。図13Aは、縦軸にLPS値を、横軸にレバー角度を示す。縦軸のLPS値は、レバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)の値を表わし、具体的には、0.5〜4.5[V]の値である。横軸のレバー角度は、操作レバー14のレバー部材14P、14Sの操作角度を示す。図13Aに点線で示す特性1303は、LPS校正ステップ1301に対する入力値を示し、これは、レバー操作量検出手段15P、15Sから出力されるレバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)を表わす。図13Aに実線で示す特性1304は、LPSセンター特性であり、理想特性を示す。レバー操作量検出手段15P、15Sから出力されるレバー操作量LPS(Port)とレバー操作量LPS(Stbd)には、その特性のばらつきと、レバー操作量検出手段15P、15Sの取付などの誤差が含まれる場合が多いので、LPS校正ステップS1301において、特性1303をLPSセンター特性1304に校正する。
【0090】
LPS校正ステップS1301では、図13Aに示すように、特性1303で示される入力値と、予め登録されたレバー位置の学習値とを補間演算して、特性1303をLPSセンター特性1304に校正する。レバー位置の学習値には、操作レバー14のレバー部材14P、14Sの後進全開位置Rmax、後進全閉位置Rmin、中立位置N、前進全閉位置Fmin、および前進全開位置Fmaxにおける学習値が使用される。後進全開位置Rmaxは、ポート20Pとスターボード20Sの各エンジン21のギヤ機構が後進位置となり、そのスロットル開度が全開となる位置に対応する。後進全閉位置Rminは、各エンジン21のギヤ機構が後進位置となり、そのスロットル開度が全閉となる位置に対応する。中立位置Nは、各エンジン21のギヤ機構が中立位置Nとなる位置に対応する。前進全閉位置Fminは、各エンジン21のギヤ機構が前進位置となり、そのスロットル開度が全閉となる位置に対応する。前進全開位置Fmaxは、各エンジン21のギヤ機構が前進位置となり、そのスロットル開度が全開となる位置に対応する。LPSセンター特性1304は、具体的には、0.5[V]から4.5[V]の間にLPS値を持つ。
【0091】
図13Bは、正規化ステップS1302による正規化動作の説明図である。図13B(a)は、図13Aで得られたLPSセンター特性1304を示し、図13B(b)は、正規化特性1305を示す。図13B(a)の縦軸はLPS校正値を示し、その横軸はレバー角度を示す。図13B(a)の縦軸に示すLPS校正値は、具体的には、0.5〜4.5[V]の値であり、その横軸に示すレバー角度は、図13Aの横軸と同じである。LPSセンター特性1304は、図13Aと同じである。図13B(b)では、縦軸にAPSL値が示され、横軸にレバー角度が示される。縦軸のAPSL値は、目標APS(Lever)
算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)の値を表わす。図13B(b)の横軸のレバー角度は、図13Aおよび図13B(a)のレバー角度と同じである。
【0092】
図13B(b)の正規化特性1305は、具体的には、後進全開位置Rmaxと後進全閉
位置Rminとの間では、3[V]から1[V]との間でレバー角度の増大に伴って減少す
る値となり、後進全閉位置Rminと前進全閉位置Fminとの間では、1[V]を保持し、また、前進全閉位置Fminと前進全開位置Fmaxとの間では、1[V]と4[V]との間でレバー角度の増大に伴って増加する値となるように、正規化される。なお、後進全開位置RmaxにおけるAPSL値は、危険防止のため、3[V]に設定される。
【0093】
目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)と第2目標スロットル開度APSL(Stbd)は、スロットル制御部400において使用されるだけでなく、シフト制御部500にも供給される。
【0094】
(6)選択出力部430の説明
次に選択出力部430について、図2を参照して説明する。選択出力部430は、最終APS設定手段205、305と、APS(Port)出力手段206と、APS(Stbd)出力手段306を有する。最終APS設定手段205は、ポート20P向けの最終スロットル開度APS(Port)をAPS(Port)出力手段206へ出力し、APS(Port)出力手段206は、最終スロットル開度APS(Port)を、ポート20Pのエンジン制御モジュール24へ出力する。最終APS設定手段305は、スターボード20S向けの最終スロットル開度APS(Stbd)をAPS(Stbd)出力手段306へ出力し、APS(Stbd)出力手段306は、最終スロットル開度APS(Stbd)を、スターボード20Sのエンジン制御モジュール24へ出力する。
【0095】
最終APS設定手段205は、目標APS(ACC)設定手段(Port)204からの第1目標スロットル開度APSC(Port)と、目標APS(Lever)算出手段(Port)202からの第2目標スロットル開度APSL(Port)とを受け、それらの中の、小さい方の値を持つものを選択し、最終スロットル開度APS(Port)として出力する。第1目標スロットル開度APSC(Port)は、定速航走制御ACCが実行されている場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが1レベルである場合には、0[V]と5[V]の間の値を持ち、定速航走制御ACCが実行されない場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが0レベルである場合には、5[V]に設定される。一方、第2目標スロットル開度APSL(Port)は、ポート20Pのエンジン21のギヤ位置が前進位置にあるとき、すなわち前進全開位置Fmaxと前進全閉位置Fminとの間にあるときには、1[V]と4[V]の間の値を持つ。最終APS設定手段205は、第1目標スロットル開度APSC(Port)と、第2目標スロットル開度APSL(Port)とを比較し、それらの中の値の小さい方を選択し、最終スロットル開度APS(Port)として出力する。
【0096】
同様に、最終APS設定手段305は、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304からの第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と、目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302からの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)とを受け、それらの中の、小さい方の値を持つものを選択し、最終スロットル開度APS(Stbd)として出力する。第1目標スロットル開度APSC(Stbd)は、定速航走制御ACCが実行されている場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが1レベルである場合には、0[V]と5[V]の間の値を持ち、定速航走制御ACCが実行されない場合、すなわち、ACC実行フラグACCFが0レベルである場合には、5[V]に設定される。一方、第2目標スロットル開度APSL(Stbd)は、スターボード20Sのエンジン21のギヤ位置が前進位置にあるとき、すなわち前進全開位置Fmaxと前進全閉位置Fminとの間にあるときには、1[V]と4[V]の間の値を持つ。最終APS設定手段305は、第1目標スロットル開度APSC(Stbd)と、第2目標スロットル開度APSL(Stbd)とを比較し、それらの中の値の小さい方を選択し、最終スロットル開度APS(Stbd)として出力する。
【0097】
(7)スロットル制御部400の全体的な動作説明
定速航走制御ACCは、例えば、ポート20Pとスターボード20Sの各エンジン21のシフト位置を前進位置Fとした状態で実行される。この定速航走制御ACCが実行されるときには、操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、前進全開位置Fmaxに操作
され、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、4[V]に近い値とされる。このため、第1目標スロットル開度APSC(port)、APSC(Stbd)は、ともに、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)よりも小さい値を持つので、最終APS設定手段205、305は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択し、APS(Port)出力手段206およびAPS(Stbd)出力手段306は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択し、これらの第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を最終スロットル開度APS(Port)、APS(Stbd)として出力する。定速航走制御ACCが実行されるときには、第1目標スロットル開度APSC(port)、APSC(Stbd)は、図12のステップS1202で演算されたスロットル開度である。
【0098】
この定速航走制御ACCが実行されているときに、例えば船舶10が曳航するプレーヤが水中に転落するなどの緊急事態が発生した場合には、操船者が操作レバー14の各レバー部材14P、14Sを同時に、スロットル開度を全閉位置に向かって操作する。この場合、ACCスイッチ191は改めて操作されないので、ACCラッチスイッチ信号ACC−LTは定速航走指令ACCIを発令する状態を継続し、レバー操作量検出手段15P、15Sのレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)は、最小値0.5[V]に向かって低下する。
このレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の低下過程において、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)よりも、値が小さくなり、最終APS設定手段205、305は、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)に代わって、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択する結果となる。このため、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力は、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の低下に従って低下し、緊急事態に対処することができる。
【0099】
この緊急事態において、操作レバー14のレバー部材14P、14Sが、スロットル開度を全閉位置に向かって操作した状態でも、第1演算部410において、目標船速設定手段100、目標Ne基本量設定手段102、目標Ne設定手段104、およびAPC(ACC)基本量設定手段105は、動作を継続する。
船速偏差F/B量演算手段103、Ne偏差F/B量演算手段203、303、および目標APS(ACC)設定手段204、304は、ACC実行フラグACCFが1レベルにあるときに、それぞれ定速航走制御ACCのためのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FB、ACCフィードバック量ACC_FB、および第1目標スロットル開度APSCを出力するが、緊急事態において、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が低下する過程において、図9のステップS901とステップS902の判定結果がともにNoになったときに、ACC制御ゾーンACC−CZNが0レベルとなり、これに伴い、図10のステップS1001の判定結果がNoとなるので、ACC実行フラグACCFが0レベルとなる。このACC実行フラグACCFは、最終APS設定手段205、305が、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)に代わって、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択した後に、0レベルとなる。
【0100】
このACC実行フラグACCFが0レベルになったことにより、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段203、303は、定速航走制御ACCのためのフィードバック量の演算動作を中断し、船速偏差F/B量演算手段103からのエンジン回転速度フィードバック量Ne_FBと、Ne偏差F/B量演算手段203、303からのACCフィードバック量ACC_FBは0[V]とされる。また、目標APS(ACC)設定手段204、304は、図12のステップS1202における、定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度の演算を中断し、第1目標スロットル開度APSCは、ステップS1203で5[V]に設定される。この5[V]の第1目標スロットル開度APSCは、第2目標スロットル開度よりも常に大きい値を持つので、最終APS設定手段205、305は、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)を選択する状態を継続する。
ACC実行フラグACCFが0レベルとなる結果、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が低下した状態において、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段203、303と、目標APS(ACC)設定手段204、304の不要で不安定な動作を解消することができる。
【0101】
緊急事態への対処が終わった後、操作レバー14のレバー部材14P、14Sは、操船者によりレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)が、最大値4.5[V]に向かって増大するように操作される。このレバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大過程では、まず、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大と、ポート20Pおよびスターボード20Sの実エンジン回転速度Ne(port)、Ne(Stbd)の増大により、実行状態判定手段110のステップS901および/またはステップS902の判定結果がYesになり、ACC制御ゾーンACC−CZNが1レベルに復帰し、実行条件判定手段111において、ACC実行フラグACCFが1レベルに復帰する。
このため、第1演算部410において、船速偏差F/B量演算手段103と、Ne偏差F/B量演算手段(Port)203と、Ne偏差F/B量演算手段(Stbd)303が、定速航走制御ACCのための演算動作を再開し、目標APS(ACC)設定手段(Port)204と、目標APS(ACC)設定手段(Stbd)304が、ステップS1202からの、定速航走制御ACCのための第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を出力する。
【0102】
このACC実行フラグACCFが1レベルに復帰した後、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大により、目標APS(Lever)算出手段(Port)202と目標APS(Lever)算出手段(Stbd)302から出力される第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、それぞれ第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)よりも、値が大きくなり、最終APS設定手段205、305は、第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)に代わって、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)を選択する結果となり、定速航走制御ACCが再開される。
この中で、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力APS(Port)、APS(Stbd)は、レバー操作量LPS(Port)、LPS(Stbd)の増大に従って上昇するが、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)が選択される結果、第1目標スロットル開度APSC(Port)、APSC(Stbd)で抑制される。このため、緊急事態の対処後に、APS(Port)出力手段206とAPS(Port)出力手段306の出力APS(Port)、APS(Stbd)が急激に最大値まで上昇するのを抑制できる。
【0103】
(8)シフト制御部500の説明
最後に、シフト制御部500について、図2、図13Bを参照して説明する。シフト制御部500は、図2に示すように、ポート20P向けのシフト位置を出力するSSP(Port)出力手段501と、スターボード20S向けのシフト位置を出力するSSP(Stbd)出力手段502を含む。SSP(Port)出力手段501は、第2演算部420の目標APS(Lever)算出手段(Port)からの第2目標スロットル開度APSL(Port)を受ける。SSP(Stbd)出力手段502は、第2演算部420の目標APS(Lever)算出手段(Stbd)からの第2目標スロットル開度APSL(Stbd)を受ける。
【0104】
第2目標スロットル開度APSL(Port)、APSL(Stbd)は、図13B(b)に特性1305で示される。この特性1305は、レバー位置Rmax、Rmin、N、Fmin、Fmaxを含んでいる。SSP(Port)出力手段501およびSSP(Stbd)出力手段502は、特性1305に含まれるレバー位置Rmax、Rmin、N、Fmin、Fmaxに基づいて、シフト位置を出力する。レバー位置Rmax、Rminの間では、シフト位置は後進位置Rとされ、レバー位置RminのFminの間では、シフト位置は中立位置Nとされ、レバー位置FminとFmaxの間では、シフト位置は前進位置とされる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
この発明による船舶の航走制御システムは、エンジンを含む船外機を備えた船舶の航走制御システムとして利用される。
【符号の説明】
【0106】
10:船舶、11:船体、12:操船席、13:船舶制御モジュール、
14:操作レバー、15P、15S:レバー操作量検出手段、17:船速検出手段、
191:定速航走指示手段、192:目標船速指示手段、
20P、20S:船外機、21:エンジン、24:エンジン制御モジュール、
25:スロットルアクチュエータ、26:シフトアクチュエータ、
300:航走制御部、400:スロットル制御部、410:第1演算部、
420:第2演算部、430:選択出力部、500:シフト制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムであって、
前記船外機は、前記エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船体には、前記エンジン制御モジュールに接続された船舶制御モジュールと、前記船体の航走速度を表わす船速信号を発生する船速検出手段と、定速航走指令を発生する定速航走指令手段と、目標船速指示信号を出力する目標船速指示手段と、前記エンジンのスロットル開度を制御する操作レバーとが配置され、前記定速航走指令手段と目標船速指示手段と操作レバーは、操船者によって操作されるように、前記操船席に配置され、
前記操作レバーには、レバー操作量を検出するレバー操作量検出手段が付設され、
前記船速検出手段と、定速航走指令手段と、目標船速指示手段と、レバー操作量検出手段は、前記船舶制御モジュールに接続され、
前記船舶制御モジュールは、前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御するスロットル制御部を有し、
前記スロットル制御部は、前記定速航走指令に基づいて、少なくとも前記船速信号と目標船速指示信号とを用いて、前記船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、前記レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含むことを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、前記スロットル制御部では、前記第1目標スロットル開度を選択し前記エンジンを定速航走制御する状態において、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択するように動作することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の船舶の航走制御システムであって、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択した後、前記第1演算部が、前記船舶を定速航走制御するための第1スロットル開度の演算を中断し、前記第2目標スロットル開度よりも大きい値の一定のスロットル開度を出力することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項4】
請求項2記載の船舶の航走制御システムであって、前記スロットル制御部では、前記第2目標スロットル開度を選択した状態において、前記操作レバーが増速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、再び前記第1目標スロットル開度を選択するように動作することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項5】
請求項4記載の船舶の航走制御システムであって、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択した後、前記第1演算部が、前記船舶を定速航走制御するための第1スロットル開度の演算を中断し、また、前記操作レバーが増速側へ操作されたときに、前記第1演算部が、前記船舶の定速航走制御するための第1目標スロットル開度の演算を再開した後、前記選択出力部が、再び前記第1目標スロットル開度を選択することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項6】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、前記第1演算部は、さらに、船速と前記エンジンの回転数との関係を表わす特性マップを用いて、前記第1目標スロットル開度を演算することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項7】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、それぞれエンジンを有する複数の船外機を備え、
これらの各船外機は、それぞれ、エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船舶制御モジュールのスロットル制御部は、前記各船外機のそれぞれの前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項1】
操船席を有する船体と、エンジンを含む少なくとも一つの船外機とを備えた船舶の航走制御システムであって、
前記船外機は、前記エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船体には、前記エンジン制御モジュールに接続された船舶制御モジュールと、前記船体の航走速度を表わす船速信号を発生する船速検出手段と、定速航走指令を発生する定速航走指令手段と、目標船速指示信号を出力する目標船速指示手段と、前記エンジンのスロットル開度を制御する操作レバーとが配置され、前記定速航走指令手段と目標船速指示手段と操作レバーは、操船者によって操作されるように、前記操船席に配置され、
前記操作レバーには、レバー操作量を検出するレバー操作量検出手段が付設され、
前記船速検出手段と、定速航走指令手段と、目標船速指示手段と、レバー操作量検出手段は、前記船舶制御モジュールに接続され、
前記船舶制御モジュールは、前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御するスロットル制御部を有し、
前記スロットル制御部は、前記定速航走指令に基づいて、少なくとも前記船速信号と目標船速指示信号とを用いて、前記船舶を定速航走制御するための第1目標スロットル開度を演算する第1演算部と、前記レバー操作量に対応する第2目標スロットル開度を演算する第2演算部と、前記第1目標スロットル開度と第2目標スロットル開度の中から、値の小さい方を選択し、スロットル開度として出力する選択出力部とを含むことを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、前記スロットル制御部では、前記第1目標スロットル開度を選択し前記エンジンを定速航走制御する状態において、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択するように動作することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の船舶の航走制御システムであって、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択した後、前記第1演算部が、前記船舶を定速航走制御するための第1スロットル開度の演算を中断し、前記第2目標スロットル開度よりも大きい値の一定のスロットル開度を出力することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項4】
請求項2記載の船舶の航走制御システムであって、前記スロットル制御部では、前記第2目標スロットル開度を選択した状態において、前記操作レバーが増速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、再び前記第1目標スロットル開度を選択するように動作することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項5】
請求項4記載の船舶の航走制御システムであって、前記操作レバーが減速側へ操作されたときに、前記選択出力部が、前記第2目標スロットル開度を選択した後、前記第1演算部が、前記船舶を定速航走制御するための第1スロットル開度の演算を中断し、また、前記操作レバーが増速側へ操作されたときに、前記第1演算部が、前記船舶の定速航走制御するための第1目標スロットル開度の演算を再開した後、前記選択出力部が、再び前記第1目標スロットル開度を選択することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項6】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、前記第1演算部は、さらに、船速と前記エンジンの回転数との関係を表わす特性マップを用いて、前記第1目標スロットル開度を演算することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【請求項7】
請求項1記載の船舶の航走制御システムであって、それぞれエンジンを有する複数の船外機を備え、
これらの各船外機は、それぞれ、エンジンのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータおよび前記スロットルアクチュエータを制御するエンジン制御モジュールを有し、
前記船舶制御モジュールのスロットル制御部は、前記各船外機のそれぞれの前記エンジン制御モジュールを通じて前記スロットルアクチュエータを制御することを特徴とする船舶の航走制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図8A】
【図9】
【図10】
【図11】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図8A】
【図9】
【図10】
【図11】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図13A】
【図13B】
【公開番号】特開2011−235839(P2011−235839A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111015(P2010−111015)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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