説明

船舶用エンジン潤滑

【課題】汚染重油の存在により生じられる、潤滑剤中のアスファルテン沈殿を防止又は抑制するのに有効なトランクピストン船舶用エンジン潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】トランクピストン船舶用エンジン潤滑(そのエンジンが重油により燃料供給される場合)が、多量の潤滑粘度の油及び少量の一種以上のフェノール化合物(蒸留カシューナッツシェル液体又は水添蒸留カシューナッツシェル液体を含む)を含む組成物により行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中速4ストローク圧縮点火(ディーゼル)船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑組成物及びこのようなエンジンの潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用トランクピストンエンジンは一般に海洋運転のために重油(“HFO”)を使用する。重油は石油留出物の最もヘビーな留分であり、過剰の脂肪族炭化水素(例えば、ヘプタン)に不溶性であるが、芳香族溶媒(例えば、トルエン)に可溶性である石油留出物の留分と定義される、15%までのアスファルテンを含む分子の複雑な混合物を含む。アスファルテンはシリンダー又は燃料ポンプ及びインジェクターにより汚染物としてエンジン潤滑剤に入ることができ、次いでアスファルテン沈殿が生じることができ、エンジン中で“ブラックペイント”又は“ブラックスラッジ”中で発現される。ピストン表面におけるこのような炭素質デポジットの存在はその後にピストン中に伝播するクラックの生成をもたらし得る絶縁層として作用し得る。クラックがピストン中を移動する場合、熱い燃焼ガスがクランクケースに入ることができ、おそらくクランクケース爆発をもたらす。
それ故、トランクピストンエンジン油(“TPEO”)がアスファルテン沈殿を防止又は抑制することが高度に望ましい。従来技術がこれを行なう方法を記載している。
WO 96/26995はディーゼルエンジン中の“ブラックペイント”を減少するためのヒドロカルビル置換フェノールの使用を開示している。
カシューナッツシェルは約40%のフェノール化合物を含む。それらは世界中で直ぐに入手でき、潜在的にフェノールのための低コストの、広く入手でき、かつ再生可能な原料を構成する。“カシューナッツシェル液体から抽出されたフェノール化合物によるアスファルテンの安定化”Moreira、Lucas及びGonzalez著、Journal of Applied Polymer Science, 73巻, 29-34 (1999)(本明細書中“Moreiraら”と称する)は粗油中ではないが、アスファルテンの安定化のためのカシューナッツシェル液体(本明細書中“CNSL”と称する)から抽出されたフェノール化合物の使用を記載している。詳しくは、Moreiraらは工業用CNSL(シェルを培焼して液体を抽出することにより得られる)及びカルダノール(工業用CNSLを蒸留することにより得られる)が両方ともアスファルテンをトルエン/ヘプタン混合物中で安定化する際に有効であることを示している。
【0003】
しかしながら、Moreiraらは粗油と較べて異なる性質を有する、TPEO中のアスファルテン沈殿の問題に取り組んでいない。彼らは工業用CNSL及びカルダノールが芳香族環中でメタ置換された、可変の不飽和度を有する15個の炭素原子を含む長い線状のアルキル鎖を有するフェノール化合物を含むことを述べている。更に、彼らは側鎖不飽和がアスファルトの分散液を分散するフェノール化合物の有効性を改良するのに魅力的な可能性と考えると述べている。
Mortier及びOrszulikにより編集された“潤滑剤の化学及び技術”(第二編)は船舶用潤滑剤の性質及び配合を説明し(パラグラフ10.6)、船舶用ディーゼルエンジン潤滑剤の三つの型、即ち、システムオイル、シリンダーオイル及びTPEOの典型的な性質を要約している。それは三つの型の油が全く異なる性能要件を有することに注目し、またこれらを要約している。パラグラフ10.9はHFOで運転するエンジン中のそれらの使用から生じる問題の如き更なる詳細においてTPEOを説明している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
サリチル酸塩清浄剤と組み合わせて使用される、工業用CNSLは、アスファルテンをTPEO中で安定化するのに有効ではないが、驚くことに、カルダノールが有効であり、長い線状アルキル鎖が飽和されている類似のフェノール(即ち、Moreiraらにより記載されていない)が更に有効であることが今わかった。
本発明の第一の局面は重油により燃料供給される場合のエンジンの運転の際に、その使用におけるアスファルテン取扱を改良するためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であり、その組成物は、好ましくは90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含む50質量%以上の原料油又はこれらの混合物を含む、多量の、潤滑粘度の油、及び、少量の、
(A) 蒸留カシューナッツシェル液体又は水添蒸留カシューナッツシェル液体を含む、一種以上の油溶性フェノール化合物(但し、ヒドロキシベンゾエート清浄剤の不在下で、フェノール化合物の質量%が4もしくは5又は6或いは7以上であることを条件とする)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられる。
【0005】
本発明の第二の局面は重油により燃料供給される、エンジンの運転中のアスファルテン取扱、及び組成物によるその潤滑を改良するための中速圧縮点火船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用潤滑油組成物中の、少量の、本発明の第一の局面で特定された成分 (A) の使用である。
本発明の第三の局面は中速圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及びエンジンの運転中にアスファルテンをトランクピストン船舶用潤滑油組成物中に分散させる方法であり、その方法が
(i) 本発明の第一の局面で特定された組成物を用意し、
(ii) その組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 重油を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その重油を燃焼チャンバー中で燃焼することを含む。
本発明の第四の局面は
(i) エンジンに重油を燃料供給し、そして
(ii)エンジンのクランクケースを本発明の第一の局面で特定された組成物で潤滑することを特徴とするトランクピストンエンジン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法である。
【0006】
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合に、以下の特有の意味を有する。
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤を表す。
“含む”又は同義語は記述された特徴、工程、又は整数もしくは成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらのグループの存在又は追加を排除しない。“からなる”又は“実質的にからなる”という表現或いは同義語は“含む”又はその同義語の中に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質の包含を許す。
“多量”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量”は組成物の50質量%未満を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
更にこの明細書中、
“カルシウム含量”はASTM 4951 により測定され、
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫酸塩灰分”はASTM D874 により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、
“KV100”はASTM D445により測定された動粘度(100℃における)を意味する。
また、使用される種々の成分(必須のものだけでなく、最適のもの及び通例のもの)は、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応してもよいこと、及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示される量、範囲及び比の上限及び下限は独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の特徴が今以下に更に詳しく説明されるであろう。
潤滑粘度の油
潤滑油は軽質蒸留鉱油から重質潤滑油までの粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で測定して、2mm2/秒から40 mm2/秒までの範囲である。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶媒処理され、又は酸処理された鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルとして利用できる。
合成潤滑油として、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
【0008】
アルキレンオキサイドポリマー及び共重合体並びにこれらの誘導体(この場合、末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等により変性されていた)が既知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらはエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの重合により調製されたポリオキシアルキレンポリマー、並びにポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びアリールエーテル(例えば、1000の分子量を有するメチル-ポリイソ-プロピレングリコールエーテル又は1000〜1500の分子量を有するポリ-エチレングリコールのジフェニルエーテル)、並びにこれらのモノ-及びポリカルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステル及びC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。このようなエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
【0009】
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール並びにポリオールエステル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
シリコンをベースとするオイル、例えば、ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-又はポリアリールオキシシリコーンオイル及びシリケートオイルが合成潤滑剤の別の有益なクラスを構成する。このようなオイルとして、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン及びポリ(メチルフェニル)シロキサンが挙げられる。その他の合成潤滑油として、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及びポリマーのテトラヒドロフランが挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の潤滑剤中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油、又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油は油が一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理される以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られるが、既に商用された油で始まる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物を除去するための技術を使用して付加的な加工にしばしばかけられる。
【0010】
本発明における原料油及びベースオイルに関する定義は米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に見られるものと同じである。前記刊行物は原料油を以下のとおりにカテゴリー化する。
a)グループI原料油は90%未満の飽和物及び/又は0.03%より多い硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
d)グループIV原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。
e)グループV原料油はグループI、II、III、又はIVに含まれない全てのその他の原料油を含む。
原料油に関する分析方法が以下に表示される。
【0011】

【0012】
前記のように、潤滑粘度の油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含む50質量%以上の原料油又はこれらの混合物を含むことが好ましい。それは50質量%以上のグループII原料油を含んでもよい。それは60質量%以上、例えば、70質量%、80質量%又は90質量%以上のグループII原料油を含むことが好ましい。潤滑粘度の油は実質的に全てのグループII原料油であってもよい。このような油が好ましい。何とならば、アスファルテン沈殿の上記問題が一層高い原料油飽和物レベルで一層深刻であるからである。
フェノール化合物(A)
本発明に使用されるフェノール化合物の特徴的な構造の特徴は置換基が環にその1位(C1)の炭素原子の位置で結合されている場合の芳香族環のメタヒドロカルビル置換である。この構造の特徴はフェノールとオレフィンのフリーデル-クラフツ反応の如き化学的アルキルフェノール合成により入手し得ない。後者は典型的にはオルト及びパラアルキルフェノールの混合物(ほんの約1%のメタアルキルフェノール)を与え、この場合、芳香族環へのアルキル基の結合は2位(C2)又はそれ以上の炭素原子にある。
【0013】
工業用CNSLを蒸留することにより得られる生成物である、カルダノールは、典型的には3-ペンタデシルフェノール(3%)、3-(8-ペンタデセニル)フェノール(34-36%)、3-(8,11-ペンタデカジエニル)フェノール(21-22%)、及び3-(8,11,14-ペンタデカトリエニル)フェノール(40-41%)、+少量の5-(ペンタデシル)レゾルシノール(約10%)(またカルドールと称される)を含む。工業用CNSLは主としてカルダノール+若干の重合物質を含む。それ故、カルダノールは有意な量のメタ-線状ヒドロカルビル置換フェノールを含むと表されてもよく、この場合、ヒドロカルビル基が式C15H25-31を有し、その1位の炭素原子(C1)の位置で芳香族環に結合される。
こうして、カルダノールは有意な量の長い線状不飽和側鎖を有する物質とほんの少量の長い線状飽和側鎖を有する物質を含む。本発明は、添加剤として、カルダノール又は、最も好ましくは、フェノールの過半比率、好ましくは全てが長い線状飽和側鎖を有する物質を含む物質を使用する。このような後者の物質はカルダノール(好ましい例はペンタデシル基が線状であり、その1位の炭素原子の位置で芳香族環に結合されている、3-(ペンタデシル)フェノールである)を水素化することにより得られる。それは添加剤化合物(A)の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上を構成するかもしれない。それは少量の5-(ペンタデシル)レゾルシノールを含んでもよい。本発明は工業用CNSL(これはアスファルテン分散剤として有効ではないことがわかっている)を含まない。
【0014】
その他の添加剤
過塩基化金属清浄剤(B)
金属清浄剤は所謂金属“石鹸”(これは時折表面活性剤と称される、酸性有機化合物の金属塩である)をベースとする添加剤である。それらは一般に長い疎水性尾部を有する極性頭部を含む。過塩基化金属清浄剤(これらは中和された金属清浄剤を金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として含む)は、過剰の金属塩基、例えば、酸化物又は水酸化物を二酸化炭素の如き酸性ガスと反応させることにより多量の金属塩基を含むことにより用意されてもよい。
本発明において、過塩基化金属清浄剤、例えば、過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート、好ましくはヒドロカルビル置換サリチレート清浄剤がフェノール化合物(A)と組み合わせて少量で使用されてもよい。サリチレート清浄剤がこの点で特に有益であるかもしれない。
“ヒドロカルビル”は炭素原子及び水素原子を含み、炭素原子を介して分子の残部に結合されている基を意味する。それはヘテロ原子、即ち、炭素及び水素以外の原子を含んでもよく、但し、それらがその基の実質的な炭化水素の性質及び特徴を変えないことを条件とする。ヒドロカルビルの例として、アルキル及びアルケニルが挙げられる。過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは典型的には以下に示される構造を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは線状又は分岐脂肪族ヒドロカルビル基、更に好ましくはアルキル基(直鎖アルキル基又は分岐鎖アルキル基を含む)である。そのベンゼン環に結合される一つより多いR基があってもよい。Mはアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウム)又はアルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム又はストロンチウム)である。カルシウム又はマグネシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。COOM基はヒドロキシル基に対してオルト位、メタ位又はパラ位にあってもよい。オルト位が好ましい。R基はヒドロキシル基に対してオルト位、メタ位又はパラ位にあってもよい。Mが2価である場合、それは上記式中で“半分の”原子を表す。
ヒドロキシ安息香酸は典型的にはフェノキシドのカルボキシル化、コルベ-シュミット方法により調製され、その場合、一般に未カルボキシル化フェノールと混合して得られるであろう(通常希釈剤中で)。ヒドロキシ安息香酸は硫化されなくてもよく、又は硫化されてもよく、化学的に変性されてもよく、かつ/又は付加的な置換基を含んでもよい。ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸の硫化方法は当業者に公知であり、例えば、US 2007/0027057 に記載されている。
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸中、そのヒドロカルビル基はアルキル(直鎖又は分岐鎖アルキル基を含む)であることが好ましく、そのアルキル基は有利には5〜100個、好ましくは9〜30個、特に14〜24個の炭素原子を含む。
“過塩基化”という用語は一般に金属部分の当量数対酸部分の当量数の比が1より大きい金属清浄剤を記載するのに使用される。“低塩基化”という用語は金属部分対酸部分の当量比が1より大きく、かつ約2までである金属清浄剤を記載するのに使用される。
【0017】
“表面活性剤の過塩基化カルシウム塩”は油不溶性金属塩の金属陽イオンが実質的にカルシウム陽イオンである過塩基化清浄剤を意味する。少量のその他の陽イオンが油不溶性金属塩中に存在してもよいが、油不溶性金属塩中の陽イオンの典型的には少なくとも80モル%、更に典型的には少なくとも90モル%、例えば、少なくとも95モル%が、カルシウムイオンである。カルシウム以外の陽イオンは、例えば、陽イオンがカルシウム以外の金属である表面活性剤塩の過塩基化清浄剤の製造中の使用に由来してもよい。表面活性剤の金属塩はまたカルシウムであることが好ましい。
炭酸化過塩基化金属清浄剤は典型的には無定形ナノ粒子を含む。更に、結晶性方解石形態及びファーテライト形態の炭酸塩を含むナノ粒状材料の開示がある。
清浄剤の塩基度はまた全アルカリ価(TBN)として表されてもよい。全アルカリ価は過塩基化物質の塩基度の全てを中和するのに必要とされる酸の量である。TBN はASTM規格D2896 又は均等操作を使用して測定されてもよい。清浄剤は低TBN (即ち、50未満のTBN )、中間TBN (即ち、50〜150のTBN)又は高TBN (即ち、150より大きく、例えば、150-500のTBN )を有してもよい。本発明において、塩基度インデックス及び炭酸化の程度が使用されてもよい。塩基度インデックスは過塩基化清浄剤中の全塩基石鹸のモル比である。炭酸化の程度は清浄剤中の合計の過剰塩基に対するモル%として表される過塩基化清浄剤中に存在する炭酸塩の%である。
【0018】
過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは当業界で使用される技術のいずれかにより調製し得る。一般方法は以下のとおりである。
1. 揮発性炭化水素、アルコール及び水からなる溶媒混合物中の、わずかに過塩基化された金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート錯体を生成するためのモル過剰の金属塩基によるヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸の中和、
2. コロイド分散金属炭酸塩を生成するための炭酸化続いて後反応期間、
3. コロイド分散されない残留固体の除去、及び
4. プロセス溶媒を除去するためのストリッピング。
過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは回分式方法又は連続過塩基化方法によりつくられる。
金属塩基(例えば、金属水酸化物、金属酸化物又は金属アルコキシド)、好ましくは石灰(水酸化カルシウム)は、一つ以上の段階で仕込まれてもよい。仕込みはそれらに続く二酸化炭素仕込みのように、同じであってもよく、また異なってもよい。更なる水酸化カルシウム仕込みを添加する場合、先の段階の二酸化炭素処理は完全である必要がない。炭素化が進行するにつれて、溶解水酸化物が揮発性炭化水素溶媒と不揮発性炭化水素油の混合物に分散されたコロイド炭酸塩粒子に変換される。
炭酸化はアルコール促進剤の還流温度までの温度の範囲にわたって一つ以上の段階で行なわれてもよい。添加温度は同様であってもよく、又は異なっていてもよく、又は夫々の添加段階中に変化してもよい。温度が上昇され、必要により次いで低下されてもよい期間は、更なる炭酸化工程に先行してもよい。
【0019】
その反応混合物の揮発性炭化水素溶媒は約150℃以下の沸点を有する通常液体の芳香族炭化水素であることが好ましい。芳香族炭化水素が或る種の利益、例えば、改良された濾過速度を与えることがわかり、好適な溶媒の例はトルエン、キシレン、及びエチルベンゼンである。
アルカノールはメタノールであることが好ましいが、エタノールの如きその他のアルコールが使用し得る。アルカノール対炭化水素溶媒の比、及び初期の反応混合物の含水量の正確な選択が、所望の生成物を得るのに重要である。
油が反応混合物に添加されてもよく、その場合、好適な油として、炭化水素油、特に鉱物起源のものが挙げられる。38℃で15〜30mm2/秒の粘度を有する油が非常に好適である。
二酸化炭素による最終処理後に、反応混合物が典型的には高温、例えば、130℃以上に加熱されて揮発性物質(水及びあらゆる残存アルコール及び炭化水素溶媒)を除去する。その合成が完結する場合、生の生成物は懸濁された沈降物の存在の結果として曇っている。それは、例えば、濾過又は遠心分離により清澄化される。これらの手段は溶媒除去の前、もしくは中間点、又は後に使用されてもよい。
生成物は一般に油溶液として使用される。反応混合物が揮発物の除去後に不十分な油を含んで油溶液を保持する場合、更なる油が添加されるべきである。これは溶媒除去の前、もしくは中間点、又は後に起こってもよい。
本発明において、(B) は
(B1)2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、もしくは
(B2)2以上の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、又は
(B3)2以上の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度、或いは
(B4)2未満の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度
を有してもよい。
潤滑油組成物中に含まれる、添加剤(A)、又は添加剤(A)及び(B)の処理率は、例えば、本明細書に示されたあらゆる制限に従う、1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは5〜18質量%の範囲であってもよい。
【0020】
補助添加剤
本発明の潤滑油組成物は(A) 及び(B)((B)が使用される場合) とは異なり、かつこれらに追加する、更なる添加剤を含んでもよい。このような追加の添加剤として、例えば、無灰分散剤、その他の金属清浄剤、耐磨耗剤、例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート、酸化防止剤及び解乳化剤が挙げられる。
必須ではないが、添加剤を含む一種以上の添加剤パッケージ又は濃厚物を調製することが望ましいかもしれず、それにより添加剤(A) 及び(B) ((B)が必要とされる場合)がベースオイルに同時に添加されて潤滑油組成物を生成し得る。潤滑油への一種以上の添加剤パッケージの溶解は溶媒により、また軽度の加熱を伴なわれる混合により促進されるかもしれないが、これは必須ではない。一種以上の添加剤パッケージは典型的には所望の濃度を得、かつ/又は一種以上の添加剤パッケージが前もって決められた量のベース潤滑剤と合わされる場合に最終配合物中で意図される作用を行なうのに適切な量の一種以上の添加剤を含むように配合されるであろう。こうして、添加剤(A) 及び(B) ((B)が必要とされる場合)は、本発明によれば、その他の望ましい添加剤と一緒に少量のベースオイル又はその他の相溶性溶媒と混合されて、添加剤パッケージを基準として、適当な比率の添加剤の、例えば、2.5から90質量%、好ましくは5〜75質量%、最も好ましくは8〜60質量%の量の活性成分を含む添加剤パッケージ(残部はベースオイルである)を生成し得る。
トランクピストンエンジンオイルとしての最終配合物は典型的には3又は5〜30質量%、好ましくは10〜28質量%、更に好ましくは12〜24質量%の一種以上の添加剤パッケージを含んでもよい(残部はベースオイルである)。トランクピストンエンジンオイルは20〜60、例えば、25〜55の組成TBN(ASTM D2896を使用して)を有することが好ましい。(B)が存在する場合、(A)対(B)の相対質量:質量比率は、例えば、10:1〜1:10、例えば、5:1〜1:5、例えば、3:1〜1:3の範囲であってもよい。
【実施例】
【0021】
本発明が以下の実施例により説明されるが、これらに何ら限定されない。
成分
下記の成分を使用した:
成分(A1): 3-ペンタデシルフェノール(シグマ・アルドリッチから)
成分(A2): 蒸留工業用CNSL又は“カルダノール”(パルマー・インターナショナルから)
成分(B): 350のTBN(2以上の塩基度インデックス;80%以上の炭酸化の程度)を有し、6質量%のアルキルフェノールを含むサリチル酸カルシウム清浄剤
ベースオイルII: CHEV600Rとして知られているAPIグループIIベースオイル
HFO: 重油、ISO-F-RMK380
潤滑剤
上記成分の選択をブレンドして或る範囲のトランクピストン船舶用エンジン潤滑剤を得た。潤滑剤の幾つかが本発明の実施例であり、その他が比較目的のための参考例である。夫々がHFOを含んだ場合に試験された潤滑剤の組成を“結果”見出しの下の下記の表に示す。
試験
光散乱
集中ビーム反射方法(“FBRM”)(これはアスファルテン凝集ひいては“ブラックスラッジ”生成を予測する)による光散乱を使用して試験潤滑剤をアスファルテン分散性について評価した。
【0022】
FBRM試験方法は2005年10月24日〜28日、東京、船舶工学に関する第7回国際シンポジウムで開示され、その会報中の、“種々の原料油によるTPEO適用におけるサリチレート清浄剤の利益”に公表された。更なる詳細が2007年5月21日〜24日、ウィーン、CIMAC 会議で開示され、その会報中の“中速船舶用エンジンの潤滑のための新規ベース液体の挑戦の会議−添加剤アプローチ”に公表された。後者の論文において、FBRM方法を使用することにより、90%より大きく、又はそれ以下の飽和物、及び0.03%より大きく、又はそれ以下の硫黄を含む原料油をベースとする潤滑剤系について性能を予測するアスファルテン分散性について定量的結果を得ることが可能であることが開示されている。FBRMから得られる相対的性能の予測が船舶用ディーゼルエンジンでエンジン試験により確かめられた。
FBRMプローブはレーザー光が移動してプローブ先端に達する光学繊維ケーブルを含む。その先端で、光学装置がレーザー光を小スポットに集中する。その光学装置は集中されたビームがプローブのウインドーとサンプルの間の円形通路をスキャンするように回転される。粒子がウインドーを過ぎて流れるにつれて、それらが走査通路と交差し、個々の粒子から逆散乱光を与える。
走査レーザービームは粒子より極めて早く移動する。これは粒子が有効に静止性であることを意味する。集中されたビームが粒子の一端に達するにつれて、逆散乱光の量の増加がある。その量は集中されたビームが粒子の他端に達するときに減少するであろう。
【0023】
その装置は増大された逆散乱の時間を測定する。一つの粒子からの逆散乱の時間の期間が走査速度により掛けられ、その結果が距離又は翼弦長さである。翼弦長さは粒子の端部の二つの位置の間の直線である。これは翼弦長さ寸法(ミクロン)の関数として測定された翼弦長さ(粒子)の数のグラフである、翼弦長さ分布として表される。測定が実時間で行なわれるので、分布の統計が計算され、追跡し得る。FBRMは典型的には1秒当りの翼弦の千分の10を測定し、しっかりした数x翼弦長さ分布をもたらす。その方法はアスファルテン粒子の粒子サイズ分布の絶対的測定を与える。
集中ビーム反射プローブ(FBRM)、型式ラセンテクD600Lは、メトラー・トレド(英国、レスター)により供給された。その装置を1μm〜1mmの粒子サイズ解像度を与える配置で使用した。FBRMからのデータを幾つかの方法で表示し得る。研究は1秒当りの平均カウントがアスファルテン分散性の定量的測定として使用し得ることを示唆していた。この値は平均サイズ及び凝集物のレベルの両方の関数である。この出願において、サンプル当り1秒の測定時間を使用して平均カウントレート(全サイズ範囲にわたって)を監視した。
試験潤滑剤配合物を60℃に加熱し、400rpmで撹拌した。その温度が60℃に達した時、FBRMプローブをサンプルに挿入し、測定を15分間にわたって行なった。重油(10%w/w)のアリコートを4枚羽撹拌機(400rpm)を使用する撹拌下で潤滑剤配合物に導入した。カウントレートが平衡値に達した時(典型的には一夜)、1秒当りの平均カウントについての値を計った。
結果
光散乱
FBRM試験の結果を下記の表1に要約する。表1中、フェノールA1及びA2の夫々を過塩基化サリチル酸Ca(B)と別々にブレンドした。
ベースオイルはベースオイルIIであった。
質量値はa.i.質量%である。結果は粒子カウント値である。比較のために、サリチル酸塩単独についての値をまた示す。
【0024】
表1

【0025】
*=本発明の実施例
バーの下の結果は、サリチル酸塩と組み合わせて、A1(本発明のフェノール)が性能上の利益を与えること及びA2(また本発明のフェノール)がまた性能上の利益を示すことを示す。また、バーの上の結果はサリチル酸塩と一緒ではないA1が有効であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油により燃料供給される場合のエンジンの運転の際にその使用におけるアスファルテン取扱を改良するためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であって、多量の、潤滑粘度の油、及び、少量の、
(A) 蒸留カシューナッツシェル液体又は水添蒸留カシューナッツシェル液体を含む、一種以上の油溶性フェノール化合物(但し、ヒドロキシベンゾエート清浄剤の不在下で、フェノール化合物の質量%が4以上であることを条件とする)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられることを特徴とする前記組成物。
【請求項2】
(A)が水添カルダノールである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
フェノール化合物が3-ペンタデシルフェノール及び3-ペンタデシルレゾルシノールである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
重油により燃料供給される場合のエンジンの運転の際にその使用におけるアスファルテン取扱を改良するためのトランクピストン船舶用エンジン組成物であって、その組成物が多量の、潤滑粘度の油、及び、少量の、50質量%以上、例えば、60質量%以上、例えば、70質量%以上、例えば、80質量%以上、例えば、90質量%以上の3-ペンタデシルフェノール(そのペンタデシル基は線状であり、かつその1位の炭素原子の位置で芳香族環に結合されている)を含む、添加剤としての一種以上の油溶性フェノール化合物を含み、又はこれらを混合することによりつくられることを特徴とする前記組成物。
【請求項5】
少量の
(B) 過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩清浄剤
を更に含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(B) が
(B1)2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、もしくは
(B2)2以上の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、又は
(B3)2以上の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度、或いは
(B4)2未満の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度
(炭酸化の程度は清浄剤中の合計の過剰塩基に対するモル%として表される過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩清浄剤中に存在する炭酸塩の%である)
を有する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
(B) 中の金属がカルシウムである、請求項5又は6記載の組成物。
【請求項8】
(B) 中のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩がサリチル酸塩(好ましくはC9-C30アルキル置換)である、請求項5から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
潤滑粘度の油が50質量%以上、例えば、60質量%より多い原料油(90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含む)又はこれらの混合物を含む、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含む原料油がグループII原料油である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
20〜60、例えば、25〜55のTBN を有する、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
重油により燃料供給される、エンジンの運転中のアスファルテン取扱、及び組成物によるその潤滑を改良するための中速圧縮点火船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用潤滑油組成物中の、少量の、請求項1から4のいずれかに記載の成分(A) の使用。
【請求項13】
(i) エンジンに重油を燃料供給し、そして
(ii)エンジンのクランクケースを請求項1から11のいずれかに記載の組成物で潤滑することを特徴とするトランクピストンエンジン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法。
【請求項14】
中速圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及びエンジンの運転中にアスファルテンをトランクピストン船舶用潤滑油組成物中に分散させる方法であって、その方法が
(i) 請求項1から11のいずれかに記載の組成物を用意し、
(ii) その組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 重油を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その重油を燃焼チャンバー中で燃焼することを特徴とする前記方法。

【公開番号】特開2012−92339(P2012−92339A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236719(P2011−236719)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】