説明

船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置

【課題】回転速度の時定数が異なる複数の動力源を同期させ、主軸の回転速度を制御することが可能な船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置を提供する。
【解決手段】第1出力軸15を有する第1動力源13と、第2出力軸25を有し、第1動力源13よりも回転速度の時定数が小さい第2動力源23と第1出力軸15と第2出力軸25と連係し、第1動力源13と第2動力源23の各出力を主軸の出力に変換する減速装置とを有するハイブリッド推進システム3を操縦する船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置1で、第1動力源13の回転速度の時定数に合わせて、第2動力源23の回転速度を変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる種類の動力源を組合わせたハイブリッド推進システムを搭載する船舶を操縦する操縦装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原動機と電気推進電動機とを組合わせたハイブリッド推進システムを搭載する船舶において、特許文献1に示すように、航行中の負荷が変化し、原動機の回転数が安定しない場合にも、原動機が駆動する発電機の電力周波数を安定させることが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−284018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の同種の原動機を同時に稼働し、主軸の回転速度を目標値に合わせる場合に、原動機は操縦装置からの指令信号を目標値として出力を上昇及び下降させることが行なわれている。このような方法は、出力やトルク、主軸の回転速度が変動する際の時定数が同程度の原動機を組合わせた場合には、回転速度や出力が同じように変化するため、特に問題は生じないが、ガスタービンと電動機のように、出力やトルク、回転速度の時定数(変速スピード)が大きく違う動力源を組合わせたハイブリッド推進システムでは、上記の操縦装置のように出力設定値だけを指令信号とした場合、ガスタービンと電動機の回転速度の各時定数が大きく異なるため、ガスタービンと電動機を同期させ、主軸の回転速度を制御することが非常に困難であった。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、回転速度の時定数が異なる複数の動力源を同期させ、主軸の回転速度を制御することが可能な船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明の船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置は、
第1出力軸を有する第1動力源と、
第2出力軸を有し、該第1動力源よりも回転速度の時定数が小さい第2動力源と
該第1出力軸と該第2出力軸と連係し、該第1動力源と該第2動力源の各出力を主軸の出力に変換する減速装置とを有するハイブリッド推進システムを操縦する船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置であって、
前記第1動力源の回転速度の時定数に合わせて、前記第2動力源の回転速度を変動させることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載した本発明の船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置によれば、第1動力源と第2動力源の出力設定値だけではなく、出力上昇及び下降の変速レートを操縦装置で算出及び指令信号として出力することで、回転速度の時定数が小さい第2動力源の動きを第1動力源に合わせるよう制御する。このように、出力の目標値だけではなく、目標値までどのくらいのスピードで上昇及び下降させるかを設定することによって、回転速度の時定数が異なる複数の動力源を同期させ、主軸の回転速度を制御することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置では、回転速度の時定数が異なる複数の動力源を同期させ、主軸の回転速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を示し、ハイブリッド推進システムの構成を表すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置の制御ブロック図である。
【図3】(a)運転モードAにおける主軸出力設定値に対するガスタービンと電動機の出力を示す出力特性図、(b)運転モードBにおける主軸出力設定値に対するガスタービンと電動機の出力を示す出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明の船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置1(Machinary Controll and Surveylance System。以下、操縦装置)によって運転されるハイブリッド推進システム3は、第1出力軸としてのタービン出力軸15を有し、第1動力源としてのガスタービン13と、第2出力軸としてのモータ出力軸25を有し、第2動力源としての電動機23と、タービン出力軸15とモータ出力軸25とを連係し、ガスタービン13の出力と電動機23の出力を主軸33(プロペラ軸)に変換する減速装置31とを備えている。
【0012】
ガスタービン13は、発電機(図示せず)を併設し、余剰出力で発電機を駆動して発電し、蓄電手段(図示せず)に蓄電し、蓄電した電力を用いて電動機23を稼働する。また、後述する操縦装置1から出力される出力設定値と動作レートから、ローカルコントロールパネル11が燃料流量値を算出し、この燃料流量値に従って、ガスタービン13に燃料が供給され、出力が制御される。
【0013】
電動機23は、回転速度の時定数が、ガスタービン13の回転速度の時定数よりも小さく、回転速度の速度変化に対する追従性に優れている。また、後述する操縦装置1から出力される出力設定値と動作レートから、インバータ21が電流値を算出し、この電流値に従って、電動機23に電力が供給され、出力が制御される。
【0014】
減速装置31は、タービン出力軸15の回転数を減速しつつ、モータ出力軸25の回転数を減速し、連結手段であるSSS(Synchro-Self-Shifting)クラッチ(図示せず)を介してガスタービン13の出力と電動機23の出力を合成し、1本の主軸33に出力する。
【0015】
操縦装置1は、図2に示すように、大きく3つのブロック(主軸算出部101、ガスタービン算出部111、電動機算出部121)で構成されており、主軸算出部101で、操縦者の意図する主軸出力を算出し、様々な条件を考慮しつつ、算出した主軸出力をガスタービン13と電動機23に振分けている。
【0016】
主軸算出部101は、主にNS補正ブロック103とPD設定ブロック105とで構成されている。NS補正ブロック103は、主軸33の回転速度NSとプロペラ翼角CPPとをモニターし、現状の出力を算出する。PD設定ブロック105は、操縦者の指令(出力馬力、主軸回転速度等)に基づいて、ガスタービン13と電動機23のそれぞれの出力設定値PDを算出する。
ガスタービン算出部111と電動機算出部121は、それぞれ最低回転速度補償ブロック113,123と負荷移行ブロック115,125と動作レート設定ブロック117,127とで、主に構成されている。
【0017】
最低回転速度補償ブロック113,123は、主軸33の回転速度が最低回転速度に設定された状態で、軸トルクを変更する場合に機能する。主軸33は運用時の最低回転速度が規定されており、最低回転速度で運用中に軸トルクを変更する場合には、プロペラ翼角を変更する。最低回転速度補償ブロック113,123では、負荷に対して、主軸の回転速度を変えずにプロペラ翼角の変更分に相当するガスタービン算出部111、あるいは電動機算出部121の動作レート補償値を算出する。
【0018】
負荷移行ブロック115,125は、予め設定されている複数の運転モードの1つから別の運転モードへ切換える際に機能する。運転モードを切換える際に、主軸33の回転速度や出力馬力が急激に変化すると、ハイブリッド推進システム3全体に過大な負荷が掛かってしまう。そこで、負荷移行ブロック115,125では、主軸33の回転速度や出力馬力を変えることなく、ガスタービン13と電動機23の出力を設定された出力割合に変更するため、モード移行途中の状態を段階的に算出する。このとき、負荷移行ブロック115,125は、運転モード切替中、M無負荷(推進電動機にかかる負荷がゼロかどうか)、GT無負荷(ガスタービンにかかる負荷がゼロかどうか)、MSSSクラッチかん(推進電動機の出力軸がSSSクラッチに嵌合している状態かどうか)、GTSSSクラッチかん(ガスタービンの出力軸がSSSクラッチに嵌合している状態かどうか)などを示すセンサ(図示せず)からの信号に基づいてモード移行途中の状態を算出する。
【0019】
動作レート設定ブロック117,127は、ガスタービン13と電動機23を同期させて運転している状態で、運転状態が変化する際に機能する。主軸33の回転速度が増減する場合には、回転速度が変化する途中で段階的にガスタービン13の動作レートを算出し、ガスタービン13の回転速度の変化に同期するように、電動機23の動作レートを算出する。
【0020】
上記構成の操縦装置1によって、以下の3パターンでハイブリッド推進システム3の運転状態を変えることができる。(1)運転モードは変えずに回転速度を増減して出力を変える。(2)主軸の回転速度は一定で軸トルクを変える。(3)異なる運転モードに切換える。
【0021】
(1)運転モードは変えずに回転速度を増減して出力を変える。
【0022】
本実施形態のハイブリッド推進システム3では、ガスタービン13と電動機23の回転速度の時定数が大きく異なるため、ガスタービン13と電動機23のそれぞれの出力設定値を単純に変更しただけでは、ガスタービン13と電動機23を同期させつつ出力を変えることができない。そこで、ガスタービン13と電動機23を同期させつつ、軸出力を設定された出力設定値に変えるために、操縦装置1のNS補正ブロック103とPD設定ブロック105で算出された各出力設定値に対して、動作レート設定ブロック117,127で動作レートを算出し、出力設定値と動作レートを指令信号として、ガスタービン13側のローカルコントロールパネル11と、電動機23側のインバータ21へ出力する。
【0023】
(2)主軸の回転速度は一定で軸トルクを変える。
【0024】
回転速度の時定数に大差のない複数の動力源を有する推進システムの場合、主軸の軸トルクを変える際には、動力源の出力変化に合わせて、プロペラの翼角を変化させることで可能である。しかし、本実施形態のハイブリッド推進システム3では、ガスタービン13と電動機23の回転速度の時定数が大きく異なるため、ガスタービン13の出力変化に合わせて電動機23の出力を変化させつつ、プロペラ翼角を変えなければならない。そこで、操縦装置1のNS補正ブロック103とPD設定ブロック105で算出された各出力設定値に対して、最低回転速度補償ブロック113,123で動作レート補償値を算出し、出力設定値と動作レート補償値を指令信号として、ガスタービン13側のローカルコントロールパネル11と、電動機23側のインバータ21へ出力する。
【0025】
(3)異なる運転モードに切換える。
【0026】
本実施形態のハイブリッド推進システム3では、ガスタービン13と電動機23を組合わせているため、燃料消費率を優先した低燃費モード、より高い出力を求める高出力モード、巡航中に充電を行なう充電モードというように様々な運転モードを設定することが可能である。本実施形態のハイブリッド推進システム3では、図3に示すモードAと、図4に示すモードBとが設定されている。モードAは、定格出力の50%までは電動機23のみを使用し、50%以上では50%までの分を電動機23が出力し、残りをガスタービン13を出力するように設定されている。モードBは、定格出力の10%までは電動機23のみを使用し、10%以上では電動機23とガスタービン13を所定の割合で併用するように設定されている。
【0027】
ここで、定格出力が100馬力のハイブリッド推進システム3が、モードAで定格出力の60%(60馬力)で運転中にモードBに移行する場合を説明する。まず、モードAでは電動機出力が50馬力、ガスタービン出力は10馬力、モードBでは電動機出力が20馬力、ガスタービン出力は40馬力である。モードAからモードBに移行する際には、ガスタービン13の出力を10馬力から40馬力に増大させつつ、電動機23の出力を50馬力から20馬力へ減少させなければならない。
【0028】
そこで、操縦装置1のNS補正ブロック103とPD設定ブロック105で算出された各出力設定値に対して、ガスタービン13と電動機23の運転状態をモニターしつつ、負荷移行ブロック115,125でモード移行途中の出力設定値を段階的に算出し、動作レート設定ブロック117,127で動作レートを算出し、出力設定値と動作レートを指令信号として、ガスタービン13側のローカルコントロールパネル11と、電動機23側のインバータ21へ出力する。
【0029】
以上に説明した動作が各部において行われることで、本実施形態の船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置1によれば、ガスタービン13と電動機23の出力設定値だけではなく、運転状況の変化に応じて、出力上昇及び下降の変速レートを操縦装置1で算出し、指令信号として出力することで、回転速度の時定数が小さい電動機23の動きをガスタービン13に合わせるよう制御できる。このように、出力の目標値だけではなく、目標値までどのくらいのスピードで上昇及び下降させるかを設定し、制御することによって、回転速度の時定数が異なる複数の動力源を同期させ、主軸の回転速度を制御することができる。
【0030】
なお、上述した実施形態では、ガスタービン13と電動機23を組合わせたハイブリッド推進システム3を例に取って説明したが、回転速度の時定数が異なる動力源を組合わせたハイブリッド推進システム全般に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置
3…ハイブリッド推進システム
11…ローカルコントロールパネル
13…ガスタービン(第1動力源)
15…タービン出力軸(第1出力軸)
21…インバータ
23…電動機(第2動力源)
25…モータ出力軸(第2出力軸)
31…減速装置
33…主軸
101…主軸算出部
103…NS補正ブロック
105…PD設定ブロック
111…ガスタービン算出部
113…最低回転速度補償ブロック
115…負荷移行ブロック
117…動作レート設定ブロック
121…電動機算出部
123…最低回転速度補償ブロック
125…負荷移行ブロック
127…動作レート設定ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1出力軸を有する第1動力源と、
第2出力軸を有し、該第1動力源よりも回転速度の時定数が小さい第2動力源と
該第1出力軸と該第2出力軸と連係し、該第1動力源と該第2動力源の各出力を主軸の出力に変換する減速装置とを有するハイブリッド推進システムを操縦する船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置であって、
前記第1動力源の回転速度の時定数に合わせて、前記第2動力源の回転速度を変動させることを特徴とする船舶用ハイブリッド推進システム操縦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87750(P2012−87750A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237250(P2010−237250)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】