説明

色分離合成光学系およびそれを用いた投射型画像表示装置

【課題】温度変化による投射画像のずれを低減させる。
【解決手段】色分離合成光学系2,3,4,5、9,10,11、12,13は、光源からの光を第1波長帯域の光と第2波長帯域の光に分離し、それぞれの波長帯域の光に対応した画像表示素子6,7,8に導く色分離素子と、画像表示素子6,7,8により変調された第1波長帯域の光と第2波長帯域の光を合成する色合成素子5と、画像表示素子6,7,8と色合成素子5との間に配置された偏光手段13と、偏光手段13に接するように配置された光学素子11を有し、光学素子11が適切な条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射画像を高画質化するための色分離合成光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の投射型画像表示装置は、色分離合成光学系に偏光ビームスプリッタや色合成素子を用いる。また、画像のコントラスト特性を改善するために、色合成素子の入射側に偏光板を配置することが多い。偏光板として基板ガラスに誘電体多層膜を蒸着した偏光フィルムを用いる場合、その偏光板を偏光ビームスプリッタや色合成素子に接着して用いることが多い。その際、偏光板に入射する不要な偏光光を偏光板が吸収するため熱を発生し、その熱が基板ガラスを通して偏光ビームスプリッタや色合成素子に伝達され、偏光ビームスプリッタや色合成素子に温度分布が発生する。
【0003】
特許文献1は、温度分布の影響により光弾性の色むらを改善するために、偏光板に放熱性の高いサファイア基板を接合する発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−215491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、温度の絶対値を下げるのには効果が大きいが、偏光板に接する素子に温度分布が生じてしまう。従って、その素子の材料の温度による屈折率変化dn/dtが大きいときには、素子において屈折力が発生し、投射画像の倍率が大きく変化してしまうという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は素子の温度による屈折率変化が小さいものを用いることによって、投射倍率のずれを抑えることが可能な色分離合成光学系およびそれを用いた投射型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、
光源からの光を複数の波長帯域の光に分離し、それぞれの波長帯域の光に対応した画像表示素子に導く色分離素子と、
前記画像表示素子により形成された画像光を合成する色合成素子、
前記画像表示素子と前記色合成素子との間に偏光手段と、
前記画像表示素子と前記偏光板との間に光学素子を有し、
前記光学素子の厚さをD、波長587.6nmの光に対する屈折率をn、温度変化に対する前記屈折率の変化率をdn/dt、とし、前記画像表示素子の有効部の対角方向の長さをPとするとき、
【0008】
【数1】

【0009】
を満足することを特徴とする色分離合成光学系。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、偏光板の近くに配置された素子の厚みと、温度に依存する屈折率分布を適切に設定することによって投射倍率のずれを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明第1実施例の概略構成図
【図2】本発明第1実施例の温度分布説明図
【図3】本発明第1実施例の偏光フィルム位置での照度分布図
【図4】本発明第2実施例の構成図
【図5】本発明の第3実施例の構成図
【図6】本発明の第4実施例の構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について詳細な説明を行う前に、本発明の概要を以下に述べる。
【0013】
反射型の液晶パネル(画像表示素子)を用いたプロジェクタ(投射型画像表示装置)では、一般的に、色分離合成光学系に複数の偏光ビームスプリッタを用いるため、色分離合成光学系が大型化してしまう。そのため、投射レンズ(投射光学系)のバックフォーカス、すなわち、投射レンズの最も液晶パネル側の光学面から、液晶パネルまでの空気換算した距離が長くなってしまう。投射レンズのバックフォーカスが長くなると、投射レンズが大型化し、プロジェクタ全体の大きさも増してしまう。
【0014】
また、反射型の液晶パネルを用いた色分離合成光学系においては、画像のコントラスト特性を改善するために、黒表示時の漏れ光を低減するための偏光板が、一般的には必要である。この偏光板は、複数の色光を合成する合成素子の入射側に配置されることが多いが、誘電体多層膜を有する偏光板(有機材料の偏光板)は表面の偏光フィルムが柔らかいため、面精度が良くない。そこで、投射レンズの解像性能を高めるためには、偏光板を平板状のカバーガラスで挟み込む必要がある。また、カバーガラスの厚みが厚いほど、偏光板の面精度を極力高めることができる。さらに、カバーガラスの厚みが厚くなれば、投射レンズのバックフォーカスを短くできるので、装置の大型化を抑えることも可能である。
【0015】
一方、カバーガラスを厚くすると、偏光板の発熱によってカバーガラス内に生じる温度分布がより顕著となってしまう。ガラス(硝子)は通常、温度によってその屈折率が変化する。以後、この温度変化に対する屈折率nの変化率(屈折率を温度で微分した値、言いかえれば単に温度の変化に対する屈折率の変化量)をdn/dtと記す。屈折率が変化すると、屈折力が変化するので、屈折力の変化に応じて倍率も変化してしまい、スクリーン面で色ずれが発生する。単色の画像を表示させる場合は、画像の倍率が変化してしまう。
【0016】
そこで本発明は、カバーガラスの厚みが所定量以上であって、且つ、温度に対する屈折率変化dn/dtが小さいものを用いることで、装置の大型化を抑制しつつ、熱に起因する投射画像の色ずれを低減することができる。
【0017】
また、本発明のその他の効果として、複数の色の光を用いて投射型画像表示装置の場合、色ずれが低減されるので、投射画像が高解像化される。
【0018】
本発明の偏光板のカバーガラスは、カバーガラスの厚さをD、液晶パネルの有効部の対角方向の長さをPとしたとき、以下の式(1)を満足する。
【0019】
【数2】

【0020】
偏光板のカバーガラスが式(1)の範囲の下限値を下回ると、カバーガラスの厚みが薄くなってしまうので、投射レンズのバックフォーカスが長くなり、装置が大型化してしまう。一方、式(1)の上限値を上回ると、厚みが厚くなりすぎるため、温度分布の影響が大きくなり、色ずれ抑制の効果が十分に得られない。
【0021】
さらに好ましくは、以下を満足するのが良い。
0.5>D/P>0.3・・・(1a)
さらに、偏光板のカバーガラスは、波長587.6nmにおける温度による屈折率変化をdn/dt(屈折率の温度係数)としたとき、以下の式を満足する。
【0022】
【数3】

【0023】
偏光板のカバーガラスが、式2の条件式を満足しないと、偏光板の熱に起因するカバーガラスの温度分布によって、カバーガラスに屈折率分布が発生してしまうので、投射画像の倍率が変化してしまう。このため、複数の色の光を分離、合成する光学系においては、投射画像に色ずれが発生してしまう。
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は、偏光板を有する投射型画像表示装置の概略構成図である。
【0026】
1は照明光学系、2はG光(緑の波長帯域の光、第1波長帯域の光)を透過し、R光(赤の波長帯域の光)とB光(青の波長帯域の光、第2波長帯域の光)を反射するダイクロイックミラー(色分離素子)である。3はG光路に設けられた偏光ビームスプリッタ、4はRB光路に設けられた偏光ビームスプリッタである。
【0027】
5はRGBの色光を合成する色合成素子、6はGパネル(G光が入射する液晶表示素子)、7はRパネル(R光が入射する液晶表示素子)、8はBパネル(B光が入射する液晶表示素子)である。
【0028】
9はB光に対してλ/2の位相差が付与され、R光に対しては位相差を付与しない波長選択性位相板、12はλ/2の位相差フィルム、10は位相差フィルム12のカバーガラスである。
【0029】
13はB光に対してのみ偏光板として作用する青専用の偏光フィルム(偏光フィルタ)、11は青専用偏光フィルム13のカバーガラス(光学素子)、14は投射光学系である。
【0030】
不図示の光源から発せられた光は、照明光学系1に含まれる不図示の偏光変換素子によって、S偏光に揃えられ、照明光学系1によってダイクロイックミラー2に入射する。ダイクロイックミラー2に入射した光のうち、G帯域(緑の波長帯域)の光は、ダイクロイックミラー2を透過し、RB帯域(赤と青の波長帯域)の光は、ダイクロイックミラー2で反射される。ダイクロイックミラー2を透過したG帯域の光は、偏光ビームスプリッタ3にS偏光で入射し、偏光ビームスプリッタの膜面で反射され、G光に対応するG用の液晶パネル6に入射する。G用の液晶パネルに入射した光のうち変調された画像光は、P偏光となって、再び偏光ビームスプリッタ3に入射する。偏光ビームスプリッタ3に入射したP偏光は、偏光ビームスプリッタ3の膜面を透過し、色合成素子5の入射側に接着されたλ/2位相差フィルム12のカバーガラス10に入射する。カバーガラス10に入射した光は、カバーガラスを透過した後、λ/2位相差フィルム12に入射し、P偏光からS偏光に偏光変換され、色合成素子5に入射する。
【0031】
一方、ダイクロイックミラーで反射されたRB帯域の光は、波長選択性位相板9に入射し、B帯域の光はλ/2の位相差が付与され、R帯域の光は位相差が付与されない状態で、波長選択性位相板9から出射される。したがって、B帯域の光はP偏光となり、R帯域の光はS偏光のまま、偏光ビームスプリッタ4に入射する。偏光ビームスプリッタ4に入射したB帯域の光はP偏光なので、偏光ビームスプリッタ4の膜面を透過し、青用の液晶パネル8に入射する。青用の液晶パネル8に入射したB帯域の光のうち、変調された画像光は、その偏光方向がP偏光からS偏光に変換されるので、偏光ビームスプリッタ4の膜面で反射され、色合成素子5側に導かれる。色合成素子5側に導かれたB帯域の光は、色合成素子5の入射側に設けられた青専用偏光フィルム13のカバーガラス11に入射する。カバーガラス11を透過した光は、青専用偏光フィルム13を透過し、色合成素子5に導かれる。ここで、青専用偏光フィルムとは青の波長帯域の光に対してのみ特定の偏光方向の光を吸収あるいは反射するフィルムのことである。
【0032】
偏光ビームスプリッタ4に入射した赤の波長帯域の光はS偏光なので、偏光ビームスプリッタ4の膜面で反射され、赤用の液晶パネル7に入射する。赤用の液晶パネル7に入射後、変調された光は、その偏光がS偏光からP偏光に変換され、画像光として再び偏光ビームスプリッタ4に入射する。入射したP偏光は、偏光ビームスプリッタ4の膜面を透過し、色合成素子5側に導かれ、色合成素子5側に導かれた赤の波長帯域の光は、色合成素子5の入射側に設けられた青専用偏光フィルム13のカバーガラス11に入射する。カバーガラス11を透過した光は、青専用偏光フィルム13を透過し、色合成素子5に導かれる。
【0033】
そして、色合成素子5に入射した赤、青、緑の波長帯域の光は、色合成素子5の膜面で合成され、投射レンズ14側を介して不図示のスクリーン面(投射面)に投射される。
【0034】
本明細書における色分離合成光学系とは、光源からの光を複数の色光に分解するダイクロイックミラー2、偏光ビームスプリッタ3、4、波長選択性位相板9、10、カバーガラス11。さらに、λ/2位相差フィルム12、青専用偏光フィルム13、色合成素子5を含み、液晶パネル6、7、8は除いたものを指す。
【0035】
図2は、実施形態1における、青専用偏光フィルム13で発生する熱によって生じるカバーガラス11及び色合成素子5の温度分布を説明する図である。青専用偏光フィルム13の青の波長帯域での透過率は現状80%から90%の間であり、青の波長帯域の光に対する吸収作用が大きい。一方、光のエネルギーは、短波長になるほど高いため、青専用偏光フィルム13で吸収される青の波長帯域の光が多ければ多いほど、発熱量が大きくなる。青専用偏光フィルム13で発せられる熱によって、青専用偏光フィルム13に接着されたカバーガラス11と色合成素子5に熱が伝達され、温度むらが生じる。図2の曲線は温度分布を表わすための等高線であり、青専用偏光フィルム13の中心部に近い領域で温度が高く、周辺部で温度が低くなっていることを示している。
【0036】
図3は、青専用偏光フィルム13の位置での照度分布を示している。照度分布は中心部では照度が高く、周辺部で照度が低下している。図3に示した照度むらが生じる理由は、液晶パネル面の近傍においては、ほぼ均一であった照度分布が、液晶パネルから投射光学系に入射するまでの間において変化するためである。青専用偏光フィルム13においては、この照度分布と略同一形状の温度分布が発生する。
【0037】
青専用偏光フィルム13のカバーガラス11における硝材の温度による屈折率変化dn/dtが大きいときは、温度むらによって、ガラス内で屈折率分布が発生してしまう。さらに、カバーガラスが一定以上の厚みを有する場合、温度むらによって生じる屈折率の差が大きくなってしまう。そして、ガラス内で屈折率が不均一となる場合、ガラスは実質的に屈折力を有することになるので、画像をスクリーン面に拡大投射する倍率が変化してしまう。本構成は、色合成素子のRB光路側には青専用偏光フィルム13を接着し、G光路側には青専用偏光フィルムを接着していない。つまり、発熱源がRB光路にのみ存在するため、RB光路とG光路それぞれで投射倍率が変化し、投射画像に色ずれが発生してしまう。
【0038】
本発明では、色ずれが根本的に発生しないようにするべく、青専用偏光フィルムのカバーガラスのdn/dtを小さくすることで、偏光フィルムによる温度むらの影響を低減させている。本発明の第1実施例では、青専用偏光フィルム13のカバーガラス11の硝材として、S−BSL7(OHARA社)を用いている。S−BSL7はdn/dtが小さいため、温度分布が発生しても、屈折率の変化が小さい。また、S−BSL7は安価であるため、コストダウンに対しても有利である。以下に実施例1のカバーガラス11の数値実施例1を示す。
【0039】
【数4】

【0040】
尚、カバーガラスがある一定以上の厚みを有することで、投射レンズ14のバックフォーカスを短くすることができる。
【0041】
また、青専用偏光フィルム13のカバーガラス11と同様に、青専用偏光フィルムに接して配置されている色合成素子5に関しても、図2にあるように、温度分布が発生してしまう。そのため、色合成素子5についても、硝材のdn/dtを小さくすることが望ましい。
【0042】
色合成素子5の硝材は波長587.6mmにおける温度による屈折率変化を(dn/dt)’とするとき、
|(dn/dt)’|<3.5×10−6(/℃)・・・(3)
を満足すれば、投射画像の倍率変化を低減できる、色ずれの低減が可能となる。
【0043】
本発明の第1実施例では、色合成素子5の硝材をS−BSL7としている。S−BSL7はdn/dtが小さいため、温度分布が発生しても、屈折率の変化が小さいので、また、S−BSL7は安価であるため、コストダウンが可能である。以下に実施例1の色合成素子5の数値実施例2を示す。
【0044】
【数5】

【0045】
本発明のその他の効果は、サファイア等の高価な材料を使用しないので、偏光板の材料にかかるコストを抑えることができる点にある。
【0046】
本発明のその他の効果は、放熱性の高い材料の基板(例えば、サファイアなど)を用いていないので、基板を冷却するための手段の追加による装置の大型化を抑えることができる。
【0047】
本発明のその他の効果は、青専用偏光フィルム13を液晶パネル7、8からできるだけ遠い位置に配置することで、青専用偏光フィルム13が劣化した場合も、劣化による照明の負均一性を目立たなくすることができる点にある。仮に、液晶パネルに近い位置に偏光フィルムを配置してしまった場合、パネル面と投射面は結像関係にあるので、パネル面に近い位置に配置するほど、劣化による光量変化が目立ってしまう。これに対して、色合成素子5とカバーガラス11で青専用偏光フィルム13を挟み込むことにより、偏光フィルムの劣化による照明ムラを目立ちにくくすることができる。
【0048】
また、本発明のその他の効果は、光源からできるだけ遠い位置に、熱に対する耐性の低い偏光フィルムを配置することで、偏光フィルムに対して与えられる熱を低減することができるので、偏光フィルムの劣化を抑えることができる点にある。
【0049】
尚、青専用偏光フィルム13は色合成素子5とは、必ずしも接している必要はないが、実施形態1のように接しているほうが、屈折率の変化が小さくなるので好ましい。
【0050】
(実施形態2)
図5は、偏光板を有する投射型画像表示装置の実施形態2の概略構成図である。実施形態1と異なる点は、偏光ビームスプリッタ4とカバーガラス11で青専用偏光フィルム13を挟んでいる点である。この時のカバーガラス11が実施形態1に示した条件を満足すればよい。実施形態1の方が、偏光フィルムの劣化を抑えるという観点からは好ましいが、実施形態2のように構成しても、投射レンズのバックフォーカスを短くしつつ、熱による屈折率変化の影響を低減させるという効果を得ることができる。
【0051】
尚、実施形態1、2では青専用偏光フィルム13としているが、赤専用偏光フィルムであっても良いし、パネルの配置や用いる光の偏光方向に応じてその他の色用の偏光フィルムとしても良い。
【0052】
また、実施形態2の変形例について図6を用いて説明する。実施形態2と異なる点は、色合成素子5を有さない点である。本形態は用いる波長帯域の光は第1波長帯域と第2波長帯域の2色である。そして、光源は偏光光を射出するレーザー光である。図6の変形例では偏光ビームスプリッタ4とカバーガラス11で青専用偏光フィルム13を挟みこんでいる。
【0053】
このような形態であっても、カバーガラス11の厚みと、適切な温度変化による屈折率の変化を適切に設定してやることにより、投射レンズのバックフォーカスを短くしつつ、投射画像の色ずれを低減させることができる。
【0054】
(実施形態3)
図4は、本発明の実施形態3の説明図である。15は照明光学系、16はB光を反射し、RとG光を透過するダイクロイックミラー、17はRとGの光を反射し、B光を透過するダイクロイックミラー、18と19はミラーである。20はG光を反射し、R光を透過するダイクロイックミラー、21、22、23は偏光ビームスプリッタである。24はRパネル、25はGパネル、26はBパネル、30、31、32は偏光フィルム、27、28、29は偏光フィルムのカバーガラス、33は色合成素子、34は投射光学系である。
【0055】
不図示の光源から発せられた光は、照明光学系15に含まれる不図示の偏光変換素子によって、S偏光に揃えられた光となる。S偏光光は、照明光学系15によってダイクロイックミラー16、17に導かれ、色分離合成光学系に入射する。色分離合成光学系に入射した光のうち、B光は、ダイクロイックミラー16で反射され、ミラー19で再び反射され、偏光ビームスプリッタ23に入射する。偏光ビームスプリッタ23に入射したS偏光は、膜面で反射されてBパネル26側に導かれる。白表示時の場合、Bパネル26に入射した光は、パネルで画像変調を受けてP偏光となり、再び偏光ビームスプリッタ23に入射し、膜面を透過し、色合成素子33側に導かれる。色合成素子33側に導かれた光は、偏光フィルム32のカバーガラス29に入射し、偏光フィルム32を透過し、色合成素子33に入射する。
【0056】
一方、色分離合成光学系に入射した光のうち、GとR帯域の光は、ダイクロイックミラー17で反射され、ミラー18で反射され、ダイクロイックミラー20に入射する。ダイクロイックミラー20に入射した光のうち、G光は反射され、偏光ビームスプリッタ22に入射する。偏光ビームスプリッタ22に入射した光は、S偏光のため、膜面で反射され、Gパネル25側に導かれる。Gパネル25に入射した光は、Gパネルで画像変調を受けて、P偏光となり、偏光ビームスプリッタ22に入射し、膜面を透過し、色合成素子33側に導かれる。色合成素子33側に導かれた光は、偏光フィルム31のカバーガラス28と偏光フィルム31を透過し、色合成素子33に入射する。
【0057】
一方、ダイクロイックミラー20に入射したR光は、ダイクロイックミラー20を透過し、偏光ビームスプリッタ21に入射する。偏光ビームスプリッタ21に入射した光はS偏光であるため、膜面で反射され、Rパネル24側に導かれる。Rパネル24に入射した光は画像変調を受けてP偏光となり、偏光ビームスプリッタ21を透過し、色合成素子33側に導かれる。色合成素子33側に導かれた光は、偏光フィルム30のカバーガラス27と偏光フィルム30を透過し、色合成素子33に入射する。
【0058】
ここで、本明細書における色分離合成光学系とは、ダイクロイックミラー16から色合成素子33までである。色合成素子33に入射した光は、RGBの合成光として投射光学系34側に導かれ、投射光学系34に入射する。投射光学系34に入射した光は不図示のスクリーンに投射される。
【0059】
実施例1と同様に、偏光フィルムに光が入射することで、発熱が生じ、偏光フィルムのカバーガラスに温度分布が発生する。カバーガラスの材料の温度による屈折率分布が大きいときには、前記温度むらによって、ガラス内に屈折率分布が発生してしまう。これによって投射画像の倍率が変化してしまう。また、偏光フィルムの透過率は、一般的に、Bの波長域が他の波長域よりも低めである。さらに、光のエネルギーは短波長側で大きいこともあり、B光路の偏光フィルムでの発熱が、他の光路の偏光フィルムでの発熱よりも大きい。したがって、B光の画像の投射倍率が、他の色光の画像の投射倍率よりも大きく変化してしまうため、スクリーン面で色ずれが発生してしまう。
【0060】
本発明では、色ずれが根本的に発生しないようにするべく、偏光フィルムのカバーガラスのdn/dtを小さくすることで、偏光フィルムによる温度むらの影響を低減している。
【0061】
本発明の第2実施例では、偏光フィルム30、31、32のカバーガラス27、28、29の硝材として、S−BSL7を用いている。S−BSL7はdn/dtが小さいため、温度分布が発生しても、屈折率差の広がりを低減することができる。また、S−BSL7は安価であるため、コストダウンが可能である。以下に、実施例2のカバーガラス27、28、29の数値実施例3を示す。
【0062】
【数6】

【0063】
また、偏光フィルムのカバーガラスと同様に、偏光フィルムに接して配置されている色合成素子33に関しても、実施例1と同様に、温度分布が発生してしまう。そのため、色合成素子33についても、硝材のdn/dtを小さくすることが望ましい。式(3)の範囲を満足させることで、投射画像の倍率変化を低減できるので、色ずれの低減が可能となる。本発明の第2実施例では、色合成素子の硝材をS−BSL7としている。S−BSL7はdn/dtが小さいため、温度分布が発生しても、屈折率差の広がりを低減することができる。また、S−BSL7は安価であるため、コストダウンが可能である。以下に、色合成素子33の数値実施例4を示す。
【0064】
【数7】

【0065】
また、実施例1と2において、偏光フィルムのカバーガラスの硝材を、S−BAL2とすることで色ずれをほぼゼロにすることができるので、さらに良い。以下に、偏光フィルムのカバーガラスの硝材の数値実施例5を示す。
【0066】
【数8】

【0067】
また、上記実施例1と2において、偏光フィルムのカバーガラスの硝材を、S−BAL3とすることで色ずれを大幅に低減できるので、さらに良い。以下に、偏光フィルムのカバーガラスの硝材の数値実施例6を示す。
【0068】
【数9】

【0069】
尚、偏光フィルムは非吸収型のワイヤーグリッドであっても、本発明の効果を得ることができる。
【0070】
尚、以上の説明では反射型の液晶パネルを用いた投射型画像表示装置について説明したが、透過型の液晶パネルを用いた投射型画像表示装置に本発明を適用しても、偏光板により発生する温度分布を低減させるという効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0071】
5 色合成素子
11 カバーガラス
13 偏光フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を第1波長帯域の光と第2波長帯域の光に分離し、それぞれの波長帯域の光に対応した画像表示素子に導く色分離素子と、
前記画像表示素子により変調された第1波長帯域の光と第2波長帯域の光を合成する色合成素子と、
前記画像表示素子と前記色合成素子との間に配置された偏光手段と、
前記偏光手段に接するように配置された光学素子を有し、
前記光学素子の厚さをD、波長587.6nmの光に対する屈折率をn、温度変化に対する前記屈折率の変化率をdn/dt、とし、前記画像表示素子の有効部の対角方向の長さをPとするとき、
【数1】


を満足することを特徴とする色分離合成光学系。
【請求項2】
光源からの光を偏光方向に応じて第1波長帯域の光と第2波長帯域の光に分離し、それぞれの波長帯域の光に対応する画像表示素子に導くとともに、前記画像表示素子により反射された光を合成し投射光学系へと導く偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタと前記投射光学系との間に配置された偏光手段と、
前記偏光手段に接するように配置された光学素子と、
前記光学素子の厚さをD、波長587.6nmの光に対する屈折率をn、温度変化に対する前記屈折率の変化率をdn/dt、とし、前記画像表示素子の有効部の対角方向の長さをPとするとき、
【数2】


を満足することを特徴とする色分離合成光学系。
【請求項3】
前記光学素子は、前記第1および第2波長帯域の光のうち、波長帯域が短い光の光路に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の色分離合成光学系。
【請求項4】
前記偏光手段は、誘電体多層膜を有する偏光フィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の色分離合成光学系。
【請求項5】
前記偏光手段は、前記光学素子に対して接着されることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の色分離合成光学系。
【請求項6】
複数の画像表示素子と、
請求項1乃至5いずれか1項に記載の色分離合成光学系と、
前記色合成素子により合成された光を投射面に投射する投射光学系を有することを特徴とする投射型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−123194(P2012−123194A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273900(P2010−273900)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】