説明

茄子漬物の製造法

【課題】 茄子の表皮を明るい藍色に保ち、かつ、官能評価も良好な茄子漬物の製造法を提供すること。
【解決手段】 食塩と色止め剤として鉄含有酵母を含有する混合物で茄子を塩もみする工程、及び、その後、水を添加して、該混合物を含有する塩漬液中で茄子を塩漬する工程、を含む製造法により茄子漬物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩もみ工程及び塩漬工程において、茄子に対し色止め剤として鉄含有酵母との接触処理を行うことにより、茄子の藍色の天然色を維持し、かつ、官能的にも良好な茄子漬物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
茄子の果皮に含まれるアントシアニン系色素のナスニンは、塩漬にすると分解したり、漬液中に溶出したり、酸化することにより、本来有する藍色の天然色が変化してしまう。これらの変化を抑えるために、従来より、塩漬処理時に硫酸アルミニウムカリウムや鉄粉を塩水に含有させる技術が用いられてきた。これは、アルミニウムイオンや鉄イオンがナスニンと安定するキレート錯体を形成する性質を利用したもので、茄子の藍色の色合いを維持するのに一定の効果が認められる。(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−173028号公報
【特許文献2】特許第2981223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、塩漬処理時にのみ茄子に鉄粉等を作用させる上記文献記載の製造法では、ある程度の色止め効果は認められるものの、色止め効果が不十分であったり、茄子漬けの特徴である「茄子紺」の発色にムラが生じて斑状発色となったりするうえ、鉄臭い味覚を生じたりと、消費者からの安心、納得を十分に得ることができない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、茄子の表皮を藍色の天然色に保ち、かつ、官能評価も良好な茄子漬物の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、茄子の色止め剤として鉄含有酵母に着目し、塩もみ工程及び塩漬工程において、茄子に対し鉄含有酵母との接触処理を行うことにより、茄子の藍色の天然色を維持し、かつ、官能的にも良好な茄子漬物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 (1)食塩と色止め剤として鉄含有酵母を含有する混合物で茄子を塩もみする工程、及び(2)その後、水を添加して、該混合物を含有する塩漬液中で茄子を塩漬する工程、を含む茄子漬物の製造法、
〔2〕 工程(2)における鉄含有酵母の含有量が、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.3重量%である前記〔1〕記載の製造法、
〔3〕 色止め剤に、pH調整剤をさらに含有する前記〔1〕又は〔2〕記載の製造法、
〔4〕 塩漬液のpHが3.0〜4.5の範囲である前記〔3〕記載の製造法、
〔5〕 色止め剤に、シクロデキストリンをさらに含有する前記〔3〕又は〔4〕記載の製造法、
〔6〕 シクロデキストリンが、α−、β−及びγ−シクロデキストリンからなる群より選ばれる1種である前記〔5〕記載の製造法、
〔7〕 工程(2)におけるシクロデキストリンの含有量が、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.2重量%である前記〔5〕又は〔6〕記載の製造法、
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の製造法で使用する色止め剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、茄子の表皮を明るい藍色に保ち、かつ、官能評価も良好な茄子漬物の製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における茄子漬物の製造法は、塩もみ工程及び塩漬工程において、茄子に対して色止め剤として鉄含有酵母との接触処理を行う点に第1の特徴がある。
【0010】
本発明では、塩もみ工程を行うにあたり、原料となる茄子(茄子は丸ごとの形で使用する)に、食品として通常の前処理(洗浄、水切りなど)を施したり、前処理を施した茄子を、除菌液に浸漬させて除菌処理を施すことが好ましい。
【0011】
塩もみ工程は、前記茄子を、食塩と色止め剤として鉄含有酵母を含有する混合物を用いて行われる。この時、茄子の表面に傷をつけるように塩もみすることで、鉄含有酵母が茄子の内部に速やかに浸透し、これにより製造される茄子漬物の色止め効果が高まる。
【0012】
鉄含有酵母は、例えば、炭水化物・タンパク質・ビタミン等を含んだ特殊な栄養培地に硫酸鉄(FeSO−xHO)を添加してパン酵母(Saccharomyces Cerevisiae)を培養、酵素処理によって酵母の細胞壁を壊した後、熱処理・スプレードライすることにより精製したものが好適に用いられる。この工程により得られた鉄含有酵母は安全性が高く、かつ、摂取時、自然の食物と同じように鉄の体内吸収が緩慢に長時間にわたり行われるので、効果の持続が期待できる。かかる鉄含有酵母は容易に入手可能であり、例えば、米国Grow Company社製の商品名「鉄含有酵母」が挙げられる。
【0013】
塩もみの方法は、大量の茄子漬物を製造する場合には、大きな容器に入れた複数の茄子に、前記混合物を添加して機械的に攪拌する方法が一括して処理できて好ましいが、これに限らず、手に前記混合物をとり、茄子をひとつずつ丁寧にもむ方法でも良い。
【0014】
塩もみ工程終了後、茄子及び前記混合物が混入している容器内に水を添加して塩漬を実施する。塩漬は、食塩濃度を調理目的に応じて所要の濃度で、消費者の嗜好に応じて適宜の時間行えばよく、例えば、塩漬液中の食塩濃度を2〜10重量%の範囲に調整して、冷蔵庫に2日程度保管することが好ましい。なお、本発明において塩漬液とは、塩もみに使用する茄子以外の全ての原料、すなわち、食塩と色止め剤と水とが混合された混合液をいう。
【0015】
鉄含有酵母の含有量は、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.3重量%の範囲とするのが製造される茄子漬物の表皮の色目、官能評価ともに茄子漬物に適したものとなり好ましい。本発明における官能評価とは、製造された茄子漬物を食したときの歯ごたえ及び味の総合評価をいう。
【0016】
また、本発明では、色止め剤として鉄含有酵母に加えてpH調整剤を併用することができる。この場合、食塩、鉄含有酵母、水及びpH調整剤を含有する塩漬液のpHが、3.0〜4.5の範囲とすると、製造される茄子漬物の表皮が藍色になり好ましい。
【0017】
pH調整剤は、クエン酸のように金属イオンと反応して錯塩を作る有機酸、その塩が使用され、これらは単独で又は組み合わせて使用される。有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、オキザロ酢酸、グルコン酸、イソクエン酸、ピルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、こはく酸、アスコルビン酸、酒石酸が挙げられる。これらのうち、本発明に好ましいものとして、フマル酸及びフマル酸一ナトリウム、リンゴ酸及びリンゴ酸ナトリウムの各組み合わせ、又はリンゴ酸単独が挙げられる。
【0018】
本発明では、さらに、色止め剤として鉄含有酵母、pH調整剤に加えてシクロデキストリンを併用することができる。シクロデキストリンは、食品添加物として使用できる品質のものであればよいが、α−、β−、又はγ−シクロデキストリンが好ましく用いられ、それらの市販品を使用することができる。
【0019】
シクロデキストリンの含有量は、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.2重量%の範囲とすると、製造される茄子漬物の表皮が明るい藍色になり好ましい。
【0020】
以上説明したように、上記塩もみ工程及び塩漬工程を経て製造される茄子漬物は、表皮が明るい藍色に保たれて商品価値が高まるとともに、官能評価も良好なものとなる。また、製造された茄子漬物は、そのままで漬物として供することができるが、さらに糠床に漬けてぬか漬に加工したり、調味液で調味して調味茄子に加工することもできる。
【0021】
さらに、上記で説明した色止め剤は粉末のため、保存性が高い。したがって、上記塩もみ工程時に食塩と色止め剤を配合するようにすれば、1種類の色止め剤を用いて、用途に応じて食塩と色止め剤の配合割合を適宜変更することができる。
【実施例】
【0022】
以下、各種製造例、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。なお、本実施例において「%」と表示された数値は、「重量%」を意味する。
【0023】
1.好適なミネラル含有酵母の検討
1−1.塩もみ工程と塩漬工程
1個約(100〜180g)の茄子(ヘタを除去していない丸のまま)を約130個容器に入れ、該容器に食塩と下記色止め剤のうち一つを含有する混合物を添加し、該容器内を攪拌して、該混合物との摩擦で茄子の表面を傷付けて塩もみを行った。ついで、前記塩もみを行った茄子が入っている容器に水を添加し、冷蔵庫内で2日間保管して塩漬を行った。
本試験では、塩漬を行う際に、茄子と食塩水の重量比を1対1とし、食塩水濃度が5%になるように、塩もみ工程時における食塩の添加量と塩漬工程時における水の添加量を設定するとともに、塩漬工程時における茄子と食塩と水の合計重量に対して、前記ミネラル含有酵母の添加量が表1に記載の値になるように、塩もみ工程時におけるミネラル含有酵母の添加量を設定した。
【0024】
(ミネラル含有酵母)
鉄含有酵母:(米国 Grow Company社製、商品名「鉄含有酵母」、鉄含有量5%以上)
亜鉛含有酵母:(米国 Grow Company社製、商品名「亜鉛含有酵母」、亜鉛含有量5%以上
)
マグネシウム含有酵母:(米国 Grow Company社製、商品名「マグネシウム含有酵母」、マ
グネシウム含有量5%以上)
銅含有酵母:(米国 Grow Company社製、商品名「銅含有酵母」、銅含有量1%以上)
【0025】
1−2.表皮の色と官能評価
上記塩漬工程終了後に得られた茄子漬物を水洗いし、このときの茄子漬物の表皮の色と官能評価を以下の基準により評価した。なお、本試験において官能評価とは、茄子漬物を食したときの歯ごたえ及び味の総合評価のことをいう。
<表皮の色の判断基準>
◎:明るい藍色
○:藍色
△:黒い藍色
×:退色
*上記4段階の評価は、上に行くほど商品価値が上がることを示す。△(黒い藍色)以上だと商品価値はあると評価されるが、×(退色)だと商品価値はないと評価される。
<官能評価>
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0026】
表1に得られた結果を示す。表1の結果から、4種類のミネラル含有酵母のうち、表皮の色については、鉄含有酵母を使用した試験区1のみ商品価値があり、官能評価については、4つの試験区とも良好だった。これらの結果から、表皮の色の点で、鉄含有酵母が色止め剤として最も適していることが分かった。
【0027】
【表1】

【0028】
2.鉄含有酵母の好適な添加量の検討
前記「1.好適なミネラル含有酵母の検討」で使用した鉄含有酵母を使用し、塩漬工程時の鉄含有酵母の添加量が表2に記載の値になるように、塩もみ工程時における鉄含有酵母の添加量を設定したこと以外は、前記「1.好適なミネラル含有酵母の検討」と同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、鉄含有酵母の添加量を0.075%及び0.15%とした試験区3及び4の茄子漬物は、その表皮が茄子本来の藍色の色彩を残しているうえ、官能評価も良好であることが分かった。
【0031】
3.pH調整剤の添加効果の検討
色止め剤として、鉄含有酵母に加えて表3に示す有機酸、有機酸と有機酸塩の混合物(以下、まとめて「pH調整剤」という)等を添加し、塩漬工程終了間際に塩漬液のpH測定を行ったこと以外は、前記「1.好適なミネラル含有酵母の検討」と同様の試験を行った。
具体的には、鉄含有酵母の添加量は0.15%で統一し、塩漬工程におけるpH調整剤の添加量が表3に示す値となるように、塩もみ工程時に添加するpH調整剤の添加量を適宜調整した。なお、表3に示すpH調整剤の添加量は、塩漬工程時における茄子と食塩と水の合計重量に対する値である。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3より、塩漬液のpHが3.34〜4.12の範囲にある試験区1〜5の茄子漬物は、前記「2.鉄含有酵母の好適な添加量の検討」で製造された茄子漬物よりも、表皮が良好な藍色を呈したうえ、官能評価も良好であることが分かった。
【0034】
4.シクロデキストリンの添加効果の検討
色止め剤として、鉄含有酵母、表3に示す各種pH調整剤に加えて、シクロデキストリン(α−、β−、γ−)を添加したこと以外は、前記「3.pH調整剤の添加効果の検討」と同様の試験を行った。
具体的には、鉄含有酵母の添加量及びpH調整剤の添加量をそれぞれ0.15%及び0.2%(合計)で統一し、塩漬工程におけるシクロデキストリンの添加量が表4に示す値となるように、塩もみ工程時に添加するシクロデキストリンの添加量を適宜調整した。なお、表4に示すシクロデキストリンの添加量は、塩漬工程時における茄子と食塩と水の合計重量に対する値である。結果を表4に示す。
(シクロデキストリン)
α−シクロデキストリン:(米国 ワッカーケミカル社製、商品名「CAVAMAX W6food」)
β−シクロデキストリン:(パールエース(株)製、商品名「デキシパールβ−100」)
γ−シクロデキストリン:(米国 ワッカーケミカル社製、商品名「CAVAMAX W8food」)
【0035】
【表4】

【0036】
表4より、各種シクロデキストリンを添加した試験区1〜3の茄子漬物は明るい藍色を呈し、前記「2.鉄含有酵母の好適な添加量の検討」及び「3.pH調整剤の添加効果の検討」で製造された茄子漬物よりも、格段に良好な外観を呈したうえ、官能評価も良好であることが分かった。
【0037】
5.茄子ぬか漬の製造例
(実施例1)
流水にて軽く洗浄した茄子20kgを容器内に納め、それに、食塩1.5kgと色止め剤150g〔鉄含有酵母(米国 Grow Company社製、商品名「鉄含有酵母」)42%、フマル酸29%、フマル酸一ナトリウム29%からなる混合物〕を添加して機械的に攪拌することにより茄子の塩もみを行った。その後、容器内に水30Lを添加し、重石を使って茄子を塩漬液中に浸漬させ、2日間冷蔵庫に保存して塩漬を行った。
【0038】
その後、前記塩漬工程を経て製造された塩漬茄子を、下記配合で調整した糠床に2日漬けた。
米糠 5kg
食塩 1kg
水 6L
色止め剤 36g
※色止め剤は、前記塩もみ工程を行うときに使用したものと同一組成
【0039】
(比較例1)
色止め剤の代わりに硫酸第一鉄を塩漬時に15g、糠床に3.6g使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0040】
【表5】

【0041】
表5より、ぬか漬完了後の官能評価においては、実施例1と比較例1のいずれの茄子ぬか漬も良好と評価されたが、茄子の色目に関しては、実施例1のほうがより明るい藍色となり好適であることがわかった。
【0042】
6.調味茄子の製造例
(実施例2)
前記「5.茄子ぬか漬の製造例」の実施例1と同様に塩漬を行った後、得られた塩漬茄子150gを下記配合で調整した調味液150gで調味して調味茄子を製造した。
調味茄子用調味液 10kg
L−アスコルビン酸ナトリウム 40g
水 10L
全量 約20kg
【0043】
(比較例2)
塩漬時、前記「5.茄子ぬか漬の製造例」の実施例1で使用した色止め剤150gの代わりに茄子用色止剤((株)カワカミ製ナスピカ)を150g使用し、調味時、実施例2で用いたL−アスコルビン酸ナトリウム40gの代わりに茄子用色止剤((株)カワカミ製ナスエキ)を120g使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で調味茄子を製造した。
【0044】
【表6】

【0045】
表6によると、実施例2、比較例2のいずれの調味茄子も外観は極めて良好であるが、比較例2の調味茄子は皮がやや硬くなり官能評価がやや不良になるが、実施例2の調味茄子は官能評価も良好でより好適であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、茄子の表皮を明るい藍色に保ち、かつ、官能評価も良好な茄子漬物の製造法として広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)食塩と色止め剤として鉄含有酵母を含有する混合物で茄子を塩もみする工程、及び(2)その後、水を添加して、該混合物を含有する塩漬液中で茄子を塩漬する工程、を含む茄子漬物の製造法。
【請求項2】
工程(2)における鉄含有酵母の含有量が、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.3重量%である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
色止め剤に、pH調整剤をさらに含有する請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
塩漬液のpHが3.0〜4.5の範囲である請求項3記載の製造法。
【請求項5】
色止め剤に、シクロデキストリンをさらに含有する請求項3又は4記載の製造法。
【請求項6】
シクロデキストリンが、α−、β−及びγ−シクロデキストリンからなる群より選ばれる1種である請求項5記載の製造法。
【請求項7】
工程(2)におけるシクロデキストリンの含有量が、茄子と食塩と水の合計重量に対し、0.05〜0.2重量%である請求項5又は6記載の製造法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造法で使用する色止め剤。

【公開番号】特開2009−240209(P2009−240209A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90065(P2008−90065)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(599069817)株式会社かわかみ (1)
【Fターム(参考)】