説明

荷重伝達体の製造方法

【課題】 本発明は、荷重伝達体を1部品で構成すると共に該荷重伝達体の加工作業を容易にすることが出来る荷重伝達体の製造方法を提供することを可能にすることを目的としている。
【解決手段】 曲面状の受面24aを有し、且つ一方の構造物に固定される上側荷重受部Bと、曲面状の受面5aを有し、且つ他方の構造物に固定される下側荷重受部Aと、上側荷重受部B及び下側荷重受部Aの両受面間に介在される荷重伝達体を有する摩擦振子型免震装置の荷重伝達体の製造方法において、加工装置の把持機構11により丸棒10からなる金属ブロックを把持して切削工具12により該金属ブロックの一端部に一方の球面部を形成すると共に、穿孔工具13により該金属ブロックの一端部のセンターに該金属ブロックの軸方向に形成したネジ孔9cを加工装置の把持部として利用して該金属ブロックを加工装置に固定し、該金属ブロックの他端部に残りの球面部を形成する構成としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や美術品展示ケース或いはコンピューター用免震床等に適用可能な摩擦振子型免震装置に用いられる荷重伝達体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦振子型免震装置の一例として特公平5-62179号公報に開示された技術(特許文献1)は、図10に示すように、地盤上に設けられた支持基礎50に接続され、コンクリートで構成された皿ハウジング51により板厚30mm以上のステンレス鋼からなる厚板を機械加工して削り出して製作された曲面状の皿52を保持し、該皿52上を滑動して移動可能な荷重伝達体となる関節スライダ53を滑動可能に保持するスライダハウジング54が支持コラム55に接続され、更に支持コラム55が構造物接続板56に接続され、該構造物接続板56がボルト57により支持構造物58に固定されている。関節スライダ53は鋼材を機械加工して削り出して製作され、その上下側には夫々球面からなる凸形関節面53a及び凸形滑動面53bが形成されている。
【0003】
また、第2公知例として図11に示す技術は、板厚30mm以上の厚軟鋼板を機械加工して曲面61aを削り出して形成した下沓61を地盤上に設けられた支持基礎60上に載置してボルト止めにより固定し、該曲面61a上を滑動して移動可能な荷重伝達体となる下部スライディングプレート62を同じく荷重伝達体となる上部スライディングプレート63に接着し、該上部スライディングプレート63を滑動可能に保持する柱状部材64がフランジ部材65に接続されて上沓を形成し、該フランジ部材65がボルト止めにより支持構造物66に固定されている。上下部スライディングプレート63,62及び柱状部材64は夫々軟鋼材を機械加工して曲面63a,62a,64aを削り出して形成したものであり、フランジ部材65も軟鋼材により形成されている。
【0004】
一方、上記荷重伝達体となる関節スライダ53及び上下部スライディングプレート63,62は上下両面が球面となっており、これ等は通常、機械加工の削り出しにより製造される。この機械加工を行う際には削られる材料はしっかりと加工装置に固定されていなければならない。
【0005】
また、荷重伝達体となる関節スライダ53及び上下部スライディングプレート63,62の高さ方向の寸法が大きい場合には該荷重伝達体が転倒してスライダハウジング54や柱状部材64から脱離する虞があるため該荷重伝達体の高さ方向の寸法は出来るだけ小さい方が望ましい。
【0006】
上記関節スライダ53及び上下部スライディングプレート63,62からなる荷重伝達体は平面的には円形をしているので通常は図12(a)に示すような円柱状の丸棒71から削り出して製造されている。その際、2球面のうち一方の球面71aを削る時は丸棒71の切削側と反対側の側面部位を加工装置の把持機構72で把持することにより丸棒71はしっかりと固定され(図12(b)参照)、その球面71aは切削工具73により切削して容易に形成される(図12(c)参照)。
【0007】
しかしながら、残りの球面部を削る際にはその切削側と反対側の部位は既に球面71aが形成されているため、図12(d)に示すように、把持機構72により把持することが出来ず、残りの球面部の切削加工が困難であった。
【0008】
そのため、図11に示した第2公知例のように荷重伝達体を上下部スライディングプレート63,62の2部材から構成したものがある。その際、例えば、図13(a)に示すように、把持機構72により把持した丸棒71の切削側と反対側の端部に予め丸棒71を把持するための把持部71bを形成しておき、該把持部71bを把持機構74により把持して球面71aを形成する(図13(b)参照)。そして、他方の丸棒71も同様にして把持部71bを形成して該把持部71bを把持機構74により把持して球面71cを形成し、図13(c),(d)に示すように両者を接着して荷重伝達体を構成している。
【0009】
また、他の構成として、例えば、図14(a)に示すように、把持機構72により把持した丸棒71の切削側と反対側の端部に予め丸棒71を把持するための雌ネジ71dを形成しておき、把持機構72により把持された固定治具75に立設された雄ネジ75aに丸棒71に形成した雌ネジ71dを螺合締着して固定して球面71aを形成する(図14(b)参照)。そして、他方の丸棒71も同様にして雌ネジ71dを形成して把持機構72により把持された固定治具75に立設された雄ネジ75aに丸棒71に形成した雌ネジ71dを螺合締着して固定して球面71cを形成し、図14(c),(d)に示すように両者を接着して荷重伝達体を構成している。
【0010】
【特許文献1】特公平05−062179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の各公知例において、図10に示した特許文献1の皿52及び図11に示した第2公知例の下沓61は板厚30mm以上の厚ステンレス鋼板或いは厚軟鋼板を機械加工して球形凹形滑動面52a、曲面61aを削り出して形成するため加工作業に手間がかかり加工コストが増大する上、原材料として鋼材の厚板を使用するため高価であり材料コストが増大するという問題がある。特に図11に示した第2公知例の下沓61では下沓61の重量が大きくなり、例えば、1m角、30mm厚の厚軟鋼板では236kg程度の重量があるため、起重機械により搬入しなければならず、施工作業が困難であった。
【0012】
また、図11に示した第2公知例の構成では、柱状部材64を支持構造物66に結合するために別途にフランジ部材65が設けられており、該フランジ部材65と柱状部材64との相互を結合するための機械加工が必要となるばかりかフランジ部材65と柱状部材64との結合作業に手間がかかり、軟鋼材からなるフランジ部材65の材料コストもかかるという問題がある。
【0013】
また、図12に示したように荷重伝達体を丸棒71から加工する際の困難さから図13及び図14に示したように、荷重伝達体を2分割して別々に加工した後、両者を接着する場合には荷重伝達体の製造作業に手間がかかり、製造コストが増大するという問題がある。
【0014】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、荷重伝達体を1部品で構成すると共に該荷重伝達体の加工作業を容易にすることが出来る荷重伝達体の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するための本発明に係る荷重伝達体の製造方法は、曲面状の受面を有し、且つ一方の構造物に固定される上側荷重受部と、曲面状の受面を有し、且つ他方の構造物に固定される下側荷重受部と、前記上側荷重受部及び前記下側荷重受部の両受面間に介在される荷重伝達体を有する摩擦振子型免震装置の荷重伝達体の製造方法において、加工装置の把持機構により丸棒からなる金属ブロックを把持して切削工具により該金属ブロックの一端部に一方の球面部を形成すると共に、穿孔工具により該金属ブロックの一端部のセンターに該金属ブロックの軸方向に形成したネジ孔を加工装置の把持部として利用して該金属ブロックを加工装置に固定し、該金属ブロックの他端部に残りの球面部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、加工装置により金属ブロックを把持して該金属ブロックの一部に球面部を加工した後、該球面部にネジ孔を形成して該ネジ孔を加工装置の把持部として利用し、残りの球面部を加工することで荷重伝達体を1部品で構成することが出来ると共に該荷重伝達体の加工作業を容易にすることが出来、荷重伝達体を2分割して別々に加工して両者を接着する必要もなく荷重伝達体の製造作業が容易で製造コストを低減することが出来る荷重伝達体の製造方法を提供することが出来る。
【0017】
即ち、加工装置により丸棒からなる金属ブロックを把持して該金属ブロックの一端部に一方の球面部を形成すると共に、穿孔工具により該金属ブロックの一端部のセンターに該金属ブロックの軸方向に形成したネジ孔(雌ネジ)に雄ネジ付き固定治具を螺合締着して加工装置の把持部として利用して該金属ブロックを加工装置に固定し、該金属ブロックの他端部に残りの球面部を形成することで荷重伝達体を1部品で構成することが出来ると共に該荷重伝達体の加工作業を容易にすることが出来、従来例のように荷重伝達体を2分割して別々に加工して両者を接着する必要もなく荷重伝達体の製造作業が容易で製造コストを低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図により本発明に係る摩擦振子型免震装置に用いられる荷重伝達体の製造方法の一実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第1実施形態の構成を示す断面説明図、図2は第1実施形態の下側荷重受部の構成を示す平面図、図3(a)〜(c)は第1実施形態の下側荷重受部の設置方法を示す断面説明図、図4は荷重伝達体となるシューの構成を示す図、図5は荷重伝達体となるシューの製造方法を説明する図、図6は荷重伝達体を保持する柱状部となるシューホルダの構成を示す図、図7は本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第2実施形態の構成を示す断面説明図、図8は第2実施形態の上側荷重受部の構成を示す平面図、図9(a)〜(c)は第2実施形態の上側荷重受部の設置方法を示す断面説明図である。
【0019】
本発明に係る摩擦振子型免震装置に用いられる荷重伝達体の製造方法は住宅やオフィス等の建築物や美術品展示ケース或いはコンピューター用免震床等に適宜適用可能な摩擦振子型免震装置に関するものであり、以下の説明では、住宅やオフィス等の建築物に適用した場合の一例について説明する。
【0020】
先ず、図1〜図5を用いて本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第1実施形態について説明する。図1において、1は地盤であり、該地盤1内部には構造物となる杭2が埋設され、該杭2の上端部にはアンカーボルト3が地盤1上部に立設して取り付けられている。
【0021】
アンカーボルト3の高さ方向所定位置にはナット4が螺合されており、図3(a)に示すように、中央部に平面的には円形で下に凸の所定の曲率を有する曲面状の受面5aを形成した金属薄板5の該曲面状の受面5aの外部で4隅に形成された座ぐり部5bが該ナット4の上面に載置され、更に該座ぐり部5bの上面にアンカーボルト3に螺合締着されたナット6が当接して金属薄板5がアンカーボルト3に固定され、地盤1から浮いた状態で架設される。
【0022】
前記金属薄板5は、例えば、板厚が2.3mm以下程度の薄軟鋼板で構成することが出来、該金属薄板5を曲げ加工することにより曲面状の受面5aを容易に形成することが出来る。従って、プレス加工により大量生産することも出来、少量生産であればヘラ絞り加工等により金属薄板5を曲げ加工して曲面状の受面5aを容易に形成することが出来るものである。
【0023】
また、金属薄板5が薄軟鋼板であれば、材料費が安価で、例えば、1m角、2.3mm厚の薄軟鋼板では18kg程度の重量であるので前述の従来例と比較して超軽量化することが出来、起重機械にたよらずに作業員によって容易に現場に搬入することが出来、施工作業も容易に出来る。
【0024】
また、金属薄板5の4隅に設けられた座ぐり部5bもプレス加工等により容易に形成することが出来る。
【0025】
また、金属薄板5の曲面状の受面5aの外部の4隅で座ぐり部5bの近傍内側位置には、図2に示すように、貫通孔5cが形成されている。そして、図3(a)に示すように、アンカーボルト3に金属薄板5を固定して架設し、該アンカーボルト3の外側で金属薄板5の4辺に型枠7を配置した後、図3(b)に示すように、金属薄板5の貫通孔5cの1つから無収縮性のグラウト材8を充填する。
【0026】
無収縮性のグラウト材8は地盤1と型枠7と金属薄板5とにより形成された空間に充填され、他の3つの貫通孔5cから無収縮性のグラウト材8が吹き出したことを確認することで地盤1と型枠7と金属薄板5とにより形成された空間に無収縮性のグラウト材8が満たされたことを確認することが出来る。
【0027】
そして、無収縮性のグラウト材8が固化した段階で、図3(c)に示すように、型枠7を取り除き、無収縮性のグラウト材8が固化したグラウト固化層と金属薄板5とを一体化することにより下側荷重受部Aが形成される。
【0028】
また、通常、摩擦振子型免震装置の設置には、その高さレベル調整や水平度調整のために該摩擦振子型免震装置の下に無収縮性のグラウト材を数mmから数十mm程度の厚さで打設するが、上記構成によれば、金属薄板5と地盤1との間に無収縮性のグラウト材8を充填して固化させたグラウト固化層と該金属薄板5とを一体化して構成されるため、該無収縮性のグラウト材8がそのまま高さレベル調整や水平度調整用を兼ねることが出来るので合理的である。
【0029】
従って、前述の各公知例のように高価で重量のある厚ステンレス鋼板や厚軟鋼板を機械加工する必要がなく、加工作業を省略して加工コストを削減すると共に材料コストを低減し、重量を低減して施工作業を容易にすることが出来る。
【0030】
下側荷重受部Aの上面を構成する金属薄板5の曲面状の受面5a上には荷重伝達体となるシュー9が該曲面状の受面5aに対して滑動して移動自在に配置されている。シュー9は図4に示すように金属薄板5の曲面状の受面5aの曲率に対応して平面的には円形で下に凸の所定の曲率を有する滑動球面部9aと、該滑動球面部9aと同心上で同じく平面的には円形で上に凸の所定の曲率を有する滑動球面部9bとを有する一部品で構成されている。
【0031】
また、シュー9の滑動球面部9b側には、滑動球面部9a,9bと同心上で該滑動球面部9b側から滑動球面部9a方向に所定の深さで穿設されたネジ孔9cが形成されており、該ネジ孔9cの滑動球面部9b側には面取り部9dが形成されている。
【0032】
本実施形態では、シュー9を軟鋼材を用いて切削加工して形成しており、例えば、滑動球面部9aの曲率半径が2234mm、滑動球面部9bの曲率半径が50mm、ネジ孔9cの径が16mm、深さを20mmに設定したものである。シュー9の表面はリン酸マンガン処理(パーカライジング)により錆止めが施され、更にその表面には二硫化モリブデンを焼き付け等により被覆することにより潤滑処理が施されている。
【0033】
次に荷重伝達体となるシュー9の製造方法について図5を用いて説明する。先ず、図5(a)に示す軟鋼材等の金属ブロックとなる例えば外径100mmの丸棒10を加工装置の把持機構11により把持して該丸棒10の一端部に切削工具12により滑動球面部9bを切削して形成する(図5(b)参照)。
【0034】
その後、図5(c)に示すように、穿孔工具13により滑動球面部9bのセンターに丸棒10の軸方向に穿孔した後、タップをかけて該滑動球面部9bに加工装置の把持部として利用するネジ孔9cを形成する。
【0035】
その後、図5(d)に示すように、把持機構11により把持された固定治具14に立設された雄ネジ14aに丸棒10に形成したネジ孔9cを螺合締着して固定して丸棒10の他端部に切削工具12により残りの滑動球面部9aを切削して形成する。
【0036】
上記構成によれば、荷重伝達体となるシュー9を1部品で構成することが出来ると共に該シュー9の加工作業を容易にすることが出来、従来例のように荷重伝達体を2分割して別々に加工して両者を接着する必要もなく荷重伝達体の製造作業が容易で製造コストを低減することが出来る。
【0037】
尚、前記実施形態では、丸棒10に滑動球面部9bを形成した後、ネジ孔9cを形成したが、逆に、先ず丸棒10にネジ孔9cを形成した後、滑動球面部9bを形成するように加工をしても良い。
【0038】
図1において、シュー9の上部には該シュー9を滑動自在に保持する柱状部であって上側荷重受部となるシューホルダ15が配置されている。シューホルダ15の上端部には構造物の鉄骨材となるH形鋼16の下フランジ16aに形成した貫通孔16bに該下フランジ16aの上面側からボルト17を挿通して該ボルト17を螺合締着することによりボルト結合するための結合部となるネジ孔15aがシューホルダ15の上端面側から厚さ方向に所定の深さで穿設されている。
【0039】
また、シューホルダ15の下端部にはシュー9の滑動球面部9bに対応して平面的には円形で上に凸の所定の曲率を有する曲面状の受面15bが形成されている(図6参照)。
【0040】
本実施形態では、シューホルダ15も前記シュー9と同様に軟鋼材を用いて切削加工して形成しており、例えば、シューホルダ15の外径が110mm、厚さが50mmで、曲面状の受面15bの曲率半径が50mm、ネジ孔15aの径が12mm、深さを15mm、該ネジ孔15aを60mm四方の位置に配置して設定し、曲面状の受面15bの上端部の周部には更に曲率半径が1mmの曲面15cが形成されている。
【0041】
また、シューホルダ15の表面は前記シュー9と同様にリン酸マンガン処理(パーカライジング)により錆止めが施され、更に曲面状の受面15bの表面には二硫化モリブデンを焼き付け等により被覆することにより潤滑処理が施されている。
【0042】
シューホルダ15の製造方法は前述と同様に図5(a)に示すような外径110mmの丸棒10から機械加工により削り出すが、図6に示したシューホルダ15の場合、高さ寸法が50mmある周側面部15dを図5(b),(c)に示すように加工装置の把持機構11により把持して曲面状の受面15bを切削すると共にネジ孔15aを形成すれば良い。
【0043】
上記構成により、結合部となるネジ孔15aにボルト17を螺合締着して柱状部であるシューホルダ15を構造物となるH形鋼16に直接結合することが出来、前述した第2公知例のように柱状部と構造物との結合に別途必要であったフランジ部材を省略して該フランジ部材にかかる加工作業や結合作業を削減すると共に材料コストを低減することが出来る。
【0044】
上記構成において、地震等によりH形鋼16上部に構築された建築物に振動が加わると下側荷重受部Aの金属薄板5の曲面状の受面5a上に滑動自在に載置して支持されたシュー9が該曲面状の受面5a上を滑って移動し、水平方向の揺れを許容して建築物にかかる地震荷重を減衰させることが出来るようになっている。
【0045】
尚、建築物は上記摩擦振子型免震装置を少なくとも4基以上を介して地盤1側の構造物(杭2)に支持されている。そして、夫々の上側荷重受部となるシューホルダ15は上部構造物に固定され、夫々の下側荷重受部Aは地盤側構造物(杭2)に固定されているため上側荷重受部となるシューホルダ15及びこれを固定した上部構造物は地盤側構造物(杭2)及び下側荷重受部Aに対して常時平行に配置される。
【0046】
次に図7〜図9を用いて本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第2実施形態について説明する。図7において、地盤1上に円盤状のベース21が設置され、該円盤状のベース21の所定位置には構造物の鉄骨材となるアンカーボルト21aの下部が円盤状のベース21の内部に埋設され、該アンカーボルト21aの上部が露出するように立設されている。
【0047】
22は下側荷重受部を構成する柱状部となるシューホルダであり、図6に示して前述した第1実施形態のシューホルダ15のネジ孔15aの代わりに結合部となる鍔部22aがシューホルダ22本体の下端部外周に溶接して固着され、該鍔部22aの所定位置にはアンカーボルト21aが挿通し得る貫通孔22bが形成されている。尚、シューホルダ22の他の構成は前述した第1実施形態のシューホルダ15と同様に構成される。
【0048】
そして、シューホルダ22の鍔部22aに設けた貫通孔22bを円盤状のベース21に埋設して立設されたアンカーボルト21aに嵌挿して該シューホルダ22を円盤状のベース21上に載置した後、該アンカーボルト21aにナット23を螺合締着してシューホルダ22を円盤状のベース21上に固定する。
【0049】
一方、建築物を支持するH形鋼16の下部には上側荷重受部Bが設けられている。前記上側荷重受部Bの設置方法は、先ず、図9(a)に示すように、中央部に平面的には円形で上に凸の所定の曲率を有する曲面状の受面24aを形成し、外側の4辺に起立した側片24bを有する箱型形状の金属薄板24の上部に貫通孔25a及びネジ孔25bを設けた平板25がビス26を金属薄板24の側片24bの外側から該平板25の側辺部25cに止め付けることによって固定される。
【0050】
前記金属薄板24は、前記第1実施形態の金属薄板5と同様に、例えば、板厚が2.3mm以下程度の薄軟鋼板で構成することが出来、該金属薄板24を曲げ加工することにより曲面状の受面24aを容易に形成することが出来る。また、金属薄板24の外側の4辺に起立して設けられた側片24bもプレス加工等により容易に形成することが出来、前述した第1実施形態の金属薄板5と略同様な効果を得ることが出来る。また、金属薄板24と略同じ大きさを有する平板25も軟鋼板等で構成することが出来る。
【0051】
そして、図9(b)に示すように、平板25に形成した貫通孔25aの1つ(例えば中央部に設けた貫通孔25a)から無収縮性のグラウト材8を充填する。
【0052】
無収縮性のグラウト材8は箱型形状の金属薄板24と平板25とにより形成された空間に充填され、他の4つの貫通孔25aから無収縮性のグラウト材8が吹き出したことを確認することで金属薄板24と平板25とにより形成された空間に無収縮性のグラウト材8が満たされたことを確認することが出来る。
【0053】
そして、無収縮性のグラウト材8が固化した段階で、該無収縮性のグラウト材8が固化したグラウト固化層と金属薄板24とを一体化することにより上側荷重受部Bが形成される。
【0054】
そして、図7に示すように、円盤状のベース21上に設置したシューホルダ22の滑動球面部22c上に前述した第1実施形態のシュー9の滑動球面部9bを滑動自在に載置し、該シュー9の滑動球面部9aに対して金属薄板24の曲面状の受面24aが滑動自在に接触し得るように上側荷重受部BをH形鋼16の下部に固定する。
【0055】
上側荷重受部BをH形鋼16の下部に固定する際には、H形鋼16の下フランジ16aに設けた貫通孔16bに該下フランジ16aの上面側からボルト27を挿入して平板25のネジ孔25bに螺合締着して固定することで上側荷重受部BがH形鋼16に固定されて支持される。
【0056】
尚、他の設置方法として、先ず、平板25をH形鋼16に取り付けた後、平板25に金属薄板24を固定してH形鋼16を避けて形成された貫通孔25aから無収縮性のグラウト材8を充填しても良いし、先ず、金属薄板24に平板25を取り付けた後、該平板25を金属薄板24と一体的にH形鋼16に固定して同じく該H形鋼16を避けて形成された貫通孔25aから無収縮性のグラウト材8を充填しても良い。
【0057】
上記構成により、結合部となる鍔部22aの貫通孔22bに円盤状のベース21に埋設されて立設されたアンカーボルト21aを嵌挿してナット23を該アンカーボルト21aに螺合締着して柱状部であるシューホルダ22を構造物となる円盤状のベース21に直接結合することが出来、前述した第2公知例のように柱状部と構造物との結合に別途必要であったフランジ部材を省略して該フランジ部材にかかる加工作業や結合作業を削減すると共に材料コストを低減することが出来る。他の構成は前記第1実施形態と略同様に構成され、同様の効果を得ることが出来る。
【0058】
上記構成において、地震等によりH形鋼16上部に構築された建築物に振動が加わるとシューホルダ22の滑動球面部22c上に滑動自在に保持されたシュー9が上側荷重受部Bの金属薄板24の曲面状の受面24a上を滑動してH形鋼16及び上側荷重受部Bが一体的に移動し、水平方向の揺れを許容して建築物にかかる地震荷重を減衰させることが出来るようになっている。
【0059】
また、金属薄板5,24の曲面状の受面5a,24a、シュー9の滑動球面部9a,9b及びシューホルダ15,22の曲面状の受面15b、滑動球面部22cは球面で形成しても良いし、他の曲面で形成しても良い。
【0060】
尚、前記各実施形態では、下側荷重受部A或いは上側荷重受部Bの一方を曲面状の受面5a,24aを形成した金属薄板5,24と構造物との間に無収縮性のグラウト材8を充填して固化させたグラウト固化層と金属薄板5,24とを一体化して構成したが、他の構成として、下側荷重受部A及び上側荷重受部Bの両方を曲面状の受面5a,24aを形成した金属薄板5,24と構造物との間に無収縮性のグラウト材8を充填して固化させたグラウト固化層と金属薄板5,24とを一体化して構成し、該曲面状の受面5a,24a間に滑動自在な荷重伝達体を配置して構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の活用例として、建築物や美術品展示ケース或いはコンピューター用免震床等に適用可能な摩擦振子型免震装置に用いられる荷重伝達体の製造方法に適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第1実施形態の構成を示す断面説明図である。
【図2】第1実施形態の下側荷重受部の構成を示す平面図である。
【図3】(a)〜(c)は第1実施形態の下側荷重受部の設置方法を示す断面説明図である。
【図4】荷重伝達体となるシューの構成を示す図である。
【図5】荷重伝達体となるシューの製造方法を説明する図である。
【図6】荷重伝達体を保持する柱状部となるシューホルダの構成を示す図である。
【図7】本発明に係る荷重伝達体の製造方法により製造された荷重伝達体が設けられた摩擦振子型免震装置の第2実施形態の構成を示す断面説明図である。
【図8】第2実施形態の上側荷重受部の構成を示す平面図である。
【図9】(a)〜(c)は第2実施形態の上側荷重受部の設置方法を示す断面説明図である。
【図10】特許文献1を説明する図である。
【図11】第2公知例を説明する図である。
【図12】従来例の課題を説明する図である。
【図13】従来例の荷重伝達体の製造方法を示す図である。
【図14】従来例の荷重伝達体の他の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
A…下側荷重受部
B…上側荷重受部
1…地盤
2…杭
3…アンカーボルト
4…ナット
5…金属薄板
5a…曲面状の受面
5b…座ぐり部
5c…貫通孔
6…ナット
7…型枠
8…無収縮性のグラウト材
9…シュー
9a,9b…滑動球面部
9c…ネジ孔
9d…面取り部
10…丸棒
11…把持機構
12…切削工具
13…穿孔工具
14…固定治具
14a…雄ねじ
15…シューホルダ
15a…ネジ孔
15b…曲面状の受面
15c…曲面
16…H形鋼
16a…下フランジ
16b…貫通孔
17…ボルト
21…円盤状のベース
21a…アンカーボルト
22…シューホルダ
22a…鍔部
22b…貫通孔
22c…滑動球面部
23…ナット
24…金属薄板
24a…曲面状の受面
24b…側片
25…平板
25a…貫通孔
25b…ネジ孔
25c…側辺部
26…ビス
27…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面状の受面を有し、且つ一方の構造物に固定される上側荷重受部と、曲面状の受面を有し、且つ他方の構造物に固定される下側荷重受部と、前記上側荷重受部及び前記下側荷重受部の両受面間に介在される荷重伝達体を有する摩擦振子型免震装置の荷重伝達体の製造方法において、
加工装置の把持機構により丸棒からなる金属ブロックを把持して切削工具により該金属ブロックの一端部に一方の球面部を形成すると共に、穿孔工具により該金属ブロックの一端部のセンターに該金属ブロックの軸方向に形成したネジ孔を加工装置の把持部として利用して該金属ブロックを加工装置に固定し、該金属ブロックの他端部に残りの球面部を形成することを特徴とする荷重伝達体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−216382(P2007−216382A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107668(P2007−107668)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【分割の表示】特願平10−111707の分割
【原出願日】平成10年4月22日(1998.4.22)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】