説明

荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置の評価方法および荷電粒子ビーム描画装置

【目的】荷電粒子ビームの偏向位置でのドリフト量を、短時間で評価する荷電粒子ビーム描画方法を提供する。
【構成】ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射し、基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、ステージに載置される試料に荷電粒子ビームを照射し、試料にパターンを描画する第1の描画工程と、ステージを静止した状態で荷電粒子ビームを偏向させることにより、基準マークに順次荷電粒子ビームを照射し、基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、評価位置情報と基準位置情報とを比較する比較工程と、比較工程の結果から荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、試料に荷電粒子ビームを照射し、試料にパターンを描画する第2の描画工程と、を有する荷電粒子ビーム描画方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、図形を試料に描画する荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置の評価方法および荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを使ったパターンの転写が行われる。そして、高精度なレチクルを製造するために、優れた解像度を有する電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
マスクに電子ビーム描画を行う電子ビーム描画装置の一方式として、可変成形方式がある。可変成形方式では、例えば第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形され、偏向器により偏向制御された電子ビームによって、可動ステージに載置された試料上に図形が描画される。電子ビームの1回の照射により電子が照射される領域はショットと称される。
【0004】
マスクへの描画中または描画の待機中に、電子ビームの照射位置が所望の位置からずれるドリフト(またはビームドリフト)が生ずる場合がある。例えば、マスクに電子ビームが照射されると反射電子が発生する。発生した反射電子は、電子ビーム描画装置内の光学系や検出器などに衝突してチャージアップが生じ、新たな電界が発生する。そうするとマスクへ向けて偏向照射された電子ビームの軌道が変化する。このような、チャージアップが電子ビームのドリフトの一原因となる。
【0005】
特許文献1には、基準マークを用いて電子ビームのドリフト量を検出する電子ビーム描画装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−258339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子ビーム描画装置における電子ビームのドリフト量の評価においては、偏向器で電子ビームが偏向された状態、すなわち偏向位置でのドリフト量が評価されることが望まれる。そして、試料への描画中の電子ビームのドリフト量の評価は、試料描画のスループットを向上させる観点からできるだけ高速化されることが望ましい。また、描画中のみならず電子ビーム描画装置の装置立ち上げ時や定期点検時等におけるドリフト量評価も同様に高速化されることが望ましい。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、荷電粒子ビームの偏向位置でのドリフト量を、短時間で評価する荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置の評価方法および荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、前記ステージに載置される試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料にパターンを描画する第1の描画工程と、前記ステージを静止した状態で荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較工程と、前記比較工程の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、前記試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料にパターンを描画する第2の描画工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記態様の荷電粒子ビーム描画方法において前記ドリフト量算出工程の後、前記第2の描画工程の前に、前記ドリフト量を基に、偏向感度補正係数を変更する偏向感度補正係数変更工程を備えることが望ましい。
【0011】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置の評価方法は、ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、前記ステージを静止した状態で荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較工程と、前記比較工程の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
上記態様の荷電粒子ビーム描画装置の評価方法において、前記ステージの移動を間に挟むことなく、前記評価位置情報取得工程を複数回連続して繰り返すことが望ましい。
【0013】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射して得られる、前記基準マーク各々の基準位置情報を記憶する基準位置情報記憶部と、前記ステージを静止した状態で、荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射して得られる、前記基準マーク各々の評価位置情報を記憶する評価位置情報記憶部と、前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較部と、前記比較部における比較の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子ビームの偏向位置でのドリフト量を、短時間で評価する荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置の評価方法および荷電粒子ビーム描画装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態の電子ビーム描画装置の概略構成図である。
【図2】第1の実施の形態で採用されるベクタ走査方式及びステージ連続移動方式の描画方法の説明図である。
【図3】第1の実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。
【図4】第1の実施の形態で用いられる基準マークの具体例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態の電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法の作用の説明図である。
【図6】第2の実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。
【図7】第3の実施の形態の電子ビーム描画装置の評価方法の工程図である。
【図8】第4の実施の形態の電子ビーム描画装置の評価方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。ただし、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでもかまわない。
【0017】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、ステージ上に固定される複数の基準マークに電子ビームを照射して得られる、基準マーク各々の基準位置情報を記憶する基準位置情報記憶部と、ステージを静止した状態で、電子ビームを偏向させることにより、基準マークに順次電子ビームを照射して得られる、基準マーク各々の評価位置情報を記憶する評価位置情報記憶部と、評価位置情報と基準位置情報とを比較する比較部と、比較部における比較の結果から電子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出部と、備えている。
【0018】
また、本実施の形態の電子ビーム描画方法は、ステージ上に固定される複数の基準マークに電子ビームを照射し、基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、ステージに載置される試料に電子ビームを照射し、試料にパターンを描画する第1の描画工程と、ステージを静止した状態で電子ビームを偏向させることにより、基準マークに順次電子ビームを照射し、基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、評価位置情報と基準位置情報とを比較する比較工程と、比較工程の結果から電子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、試料に電子ビームを照射し試料にパターンを描画する第2の描画工程と、を備えている。
【0019】
本実施の形態の電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法は、複数の基準マークの位置情報の変動を、ステージを静止した状態で電子ビームを偏向させることで評価する。したがって、ステージ移動等の時間を設けることなく、短時間で偏向位置における電子ビーム位置の変動量、すなわちドリフト量を評価することが可能となる。
【0020】
なお、電子ビームのドリフトには、2種類のドリフトがある。すなわち、ビームの偏向位置に依存しないシフトドリフトと、偏向位置に依存する偏向ドリフトである。本実施の形態によれば、前者のシフトドリフトに含め、後者の偏向ドリフトをも評価することが可能となる。
【0021】
図1は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の概略構成図である。この電子ビーム描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。電子ビーム描画装置100は、描画部102と、この描画部102の描画動作を制御する制御部104から構成されている。電子ビーム描画装置100は、試料110に所定のパターンを描画する。
【0022】
描画部102は、ショットデータを用いて試料110上に順次電子ビームを照射することで描画を行う機能を備える。
【0023】
描画部102の試料室108内に試料110を載置するステージ112が収容されている。ステージ112は、制御部104によって、X方向(紙面左右方向)、Y方向(紙面表裏方向)およびZ方向(紙面上下方向)に駆動される。試料110として、例えば、半導体装置が形成されるウェハにパターンを転写するための露光用マスクがある。また、このマスクには、例えば、まだ何もパターンが形成されていないマスクブランクスも含まれる。ステージ112には、電子ビームのドリフトを評価するための基準マークが、試料110が載置される領域から離間して固定されている。
【0024】
マスクブランクスは、例えば石英ガラス上に遮光膜となるクロムが塗布されている。電子ビーム描画装置のステージ112上に載置される際に、例えばレジストが塗布される。
【0025】
試料室108の上方には、電子ビーム光学系114が設置されている。電子ビーム光学系114は、電子銃116、各種レンズ118、120、122、124、126、ブランキング用偏向器128、ビーム寸法可変用偏向器130、ビーム走査用の副偏向器132、ビーム走査用の主偏向器134、及び可変成形ビームで描画するための、ビーム成形用の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138などから構成されている。
【0026】
また、ステージ上に固定される基準マークに電子ビームが照射されて発生する反射電子を電流値として検出する検出器160が設けられている。
【0027】
制御部104は、描画データ記憶部106、ショットデータ生成部140、制御回路150、検出部161、基準位置情報記憶部162、評価位置情報記憶部163、比較部164、ドリフト量算出部165、および、偏向感度補正係数算出部166を備える。
【0028】
描画データ記憶部106は、試料に描画すべき描画パターンが定義された描画データが入力され、この描画データを記憶する機能を備える。描画データは例えば半導体集積回路の回路パターンである。描画データ記憶部106は、記憶媒体であれば良く、例えば、磁気ディスク等を用いることができる。
【0029】
ショットデータ生成部140は、描画データ記憶部106から読み出される描画データを、電子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換する機能を備える。
【0030】
制御回路150は、ショットデータ生成部140で生成されたショットデータに基づき描画部102を制御する機能を備える。
【0031】
検出部161は、検出器160で検出された電気信号を増幅し、A/D(アナログ・デジタル)変換する機能を備える。
【0032】
基準位置情報記憶部162は、ステージ112上に固定される複数の基準マークに電子ビームを照射して得られる、基準マーク各々の基準位置情報を記憶する機能を備える。すなわち、検出部161で複数の基準マークを測定することで得られた信号を、複数の基準マークの基準位置情報として記憶する。具体的には、複数の基準マークの座標位置を初期値として記憶する。
【0033】
評価位置情報記憶部163は、ステージ112を静止した状態で、電子ビームを偏向させることにより、基準マークに順次電子ビームを照射して得られる、基準マーク各々の評価位置情報を記憶する。すなわち、基準位置情報取得後に検出部161で複数の基準マークを測定することで得られた信号を、複数の基準マークの評価位置情報として記憶する。具体的には、基準位置情報取得後に評価した複数の基準マークの座標位置を記憶する。
【0034】
基準位置情報記憶部162、評価位置情報記憶部163は、記憶媒体であれば良く、例えば、磁気ディスク等を用いることができる。
【0035】
比較部164は、評価位置情報記憶部163、基準位置情報記憶部162に記憶された評価位置情報と基準位置情報とを読み出し、両者を比較する機能を備える。
【0036】
ドリフト量算出部165は、比較部における比較の結果から電子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出する機能を備える。具体的には、ビーム位置のドリフト量に相当する各基準マークの座標位置の変動量を算出する。
【0037】
偏向感度補正係数算出部166は、ドリフト量算出部165において算出されたビーム位置のドリフト量から、偏向感度補正係数を算出する機能を備える。ここで、偏向感度補正係数とは、電子ビームの所望の照射位置を試料上で実現するために、電子ビーム描画装置における各種要因、例えば、偏向器やDACアンプ(デジタル・アナログ・コンバーターアンプ)の特性、上述のチャージアップによる電子ビームの軌道変化等、を考慮して所望の照射位置に対して演算を行う際の、演算式の係数を意味する。
【0038】
例えば、具体的には、下記(式1)に示す四次近似多項式の、a〜a14、b〜b14の係数が偏向感度補正係数である。
X=a0+a1x+a2y+a3x2+a4xy+a5y2+a6x3+a7x2y+a8xy2+a9y3+a10x4+a11x3y+a12x2y2+a13xy3
+a14y4
Y=b0+b1x+b2y+b3x2+b4xy+b5y2+b6x3+b7x2y+b8xy2+b9y3+b10x4+b11x3y+b12x2y2+b13xy3
+b14y4
・・・(式1)
なお、上式において、X、Yは電子ビームの実際の照射位置座標、x、yは所望の照射位置座標、すなわち装置へ入力される入力位置座標である。
【0039】
また、DACアンプは図1には図示されないが、制御回路150の一構成要素である。装置に入力された入力位置座標は、DACアンプにデジタル信号で与えられDACアンプによりアナログ信号に変換されて増幅され出力される。そして、その出力により、ビーム走査用の副偏向器132、ビーム走査用の主偏向器134が制御されることにより、電子ビームが試料または基準マークの所望の位置に照射されることになる。この際、(式1)で示される関係を用いて、電子ビームの実際の照射位置が、所望の照射位置となるよう制御される。
【0040】
なお、偏向感度補正係数のうち、aとbはシフトドリフトに関わる係数であり、a〜a14、b〜b14は偏向ドリフトに関わる係数である。
【0041】
描画データ記憶部106、ショットデータ生成部140、制御回路150、検出部161、基準位置情報記憶部162、評価位置情報記憶部163、比較部164、ドリフト量算出部165、および、偏向感度補正係数算出部166の各機能の処理は、例えば、CPU等の演算処理デバイスや電気回路等のハードウェアを用いて実施される。或いは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせを用いて実施させても構わない。
【0042】
図1では、実施の形態を説明する上で、必要な構成部分以外については記載を省略している。電子ビーム描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれても構わないことは言うまでもない。
【0043】
次に、電子ビーム描画装置100を用いた、本実施の形態の電子ビーム描画方法について図1〜図4を用いて説明する。
【0044】
まず、描画部102の基本的な描画動作について図1および図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態で採用されるベクタ走査方式(2次元走査方式)及びステージ連続移動方式の描画方法の説明図である。描画部102では、制御部104で生成されたショットデータを用いて、試料110に描画する。
【0045】
実際の描画にあたっては、電子銃116から発せられる電子ビームをビーム寸法可変用偏向器130及びビーム成形用の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138により、ビーム形状を可変に制御し、ベクタ走査方式およびステージ連続移動方式により描画処理する。
【0046】
まず、試料110上の描画すべきパターン202は短冊状の描画データストライプ204と呼ばれる領域に分割され、描画データストライプ204を更にサブフィールド206と呼ばれる領域に分割し、その内部を必要な部分のみ、図1の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138により成形された可変成形ビーム208を偏向してサブフィールド206に配置された図形207を描画する。
【0047】
ステージ112(図1)を連続移動させながら描画処理が行われる。この時、副偏向器132および主偏向器134(図1)の2段の偏向器が用いられ、サブフィールド206の位置決めは制御部104より送られる主偏向位置データに従って主偏向器134(図1)で行い、サブフィールド206の描画は同じく制御部104より送られる副偏向位置データ、ショットサイズデータ等に従って副偏向器132で行われる。
【0048】
1つのサブフィールド206の描画が終了すると、次のサブフィールド206の描画に移る。さらに複数のサブフィールド206の集合である描画データストライプ204の描画が終了したら、X方向に連続移動していたステージ112(図1)を、Y方向にステップ移動させる。上記処理を繰り返して各描画データストライプ領域を順次描画するようになっている。ここで、描画データストライプ204は、例えば、主偏向器134(図1)の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、サブフィールド206は、例えば、副偏向器132(図1)の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0049】
図3は、本実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。
【0050】
まず、基準位置取得工程(S110)において、ステージ上に固定される複数の基準マークに電子ビームを照射し、基準マーク各々の基準位置情報を取得する。
【0051】
図4は、本実施の形態で用いられる基準マークの具体例を示す図である。例えば、図4(a)に示すように、基準マーク部500には、25個の十字型の基準マーク502が設けられている。例えば、基準マーク502の十字の交点が、各基準マーク502の位置となる。この基準マーク部は、ステージ112上に、ステージ上の試料110が載置される領域から離間して設けられている。
【0052】
例えば、基準マーク502は、基準マーク部500の基板とは電子ビームに対する反射率の異なる材料で形成されている。例えば、基板がシリコンであり、基準マーク502がシリコンより反射率の高いタングステンで形成される。タングステン以外の他の重金属を基準マーク502として用いることも可能である。
【0053】
なお、複数の基準マーク502は、必ずしも図4(a)に示すように、個々に分離されたパターンである必要はなく、複数のマークとして機能しうるのであれば、例えば、図4(b)のように、格子形状であってもかまわない。図(b)の場合は、格子の交点のそれぞれが、異なる基準マーク502として機能することになる。また、基準マーク502は、例えば矩形等、十字や格子以外の形状であってもかまわない。
【0054】
基準マークはステージ上に固定、すなわち、ステージと一体化して動くのであれば、取り外し可能に載置されていてもかまわない。
【0055】
基準位置取得工程(S110)は、後に電子ビームのドリフト量を評価するために、複数の基準マーク502の初期座標位置を把握するための工程である。例えば、ステージを静止させることにより、静止した各基準マーク502に電子ビームを偏向させることで順次、連続して照射していき、検出器160で反射電子の波形をモニタすることで、座標位置を評価することが可能である。得られた結果は、基準位置情報記憶部162に記憶される。
【0056】
次に、第1の描画工程(S120)にて、上述した描画方法でステージに載置される試料、例えばマスク、に電子ビームを照射し、試料にパターンを描画する。
【0057】
次に、評価位置情報取得工程(130)において、ステージを基準マーク部500に電子ビームが照射され得る位置に移動させた後、ステージを静止した状態で電子ビームを偏向させることにより、基準マーク520に順次電子ビームを照射し、基準マーク502各々、図4(a)(b)では25個、の評価位置情報を取得する。静止している各基準マーク502に電子ビームを偏向させることで順次照射していき、検出器160で反射電子の波形をモニタすることで、第1の描画工程(S120)を得た後の座標位置を評価することが可能である。得られた結果は、評価位置情報記憶部163に記憶される。
【0058】
次に、比較工程(S140)では、比較部164が、まず、基準位置情報記憶部162、評価位置情報記憶部163に記憶される基準位置情報および評価位置情報を読み出す。そして、評価位置情報と基準位置情報とを比較する。具体的には、各基準マーク502の座標位置を比較する。
【0059】
次に、ドリフト量算出工程(S150)において、ドリフト量算出部165が比較工程の結果から電子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出する。すなわち、電子ビームの偏向位置でのドリフト量を評価する。
【0060】
次に、偏向感度補正係数算出工程(S160)において、偏向感度補正係数算出部166がドリフト量を基に、電子ビームの偏向感度補正係数を算出する。具体的には、例えば上記(式1)の係数を算出する。
【0061】
次に、第2の描画工程(S170)にて、上述した描画方法でステージに載置される試料、例えばマスク、に電子ビームを照射し、試料にパターンを描画する。なお、第1の描画工程(S120)と第2の描画工程(S170)の区切りは、1枚のマスクの描画途中の適切な時間的位置である。
【0062】
なお、本実施の形態では、第2の描画工程(S170)までの描画方法について記載したが、例えば、第2の描画工程(S170)の後に、さらに、評価位置情報取得工程(S130)〜偏向感度補正係数算出工程(S160)を繰り返し、第2の描画工程(S170)中に生じた電子ビームのドリフト量を評価することも可能である。また、これらの処理をさらに繰り返してもかまわない。
【0063】
図5は、本実施の形態の電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法の作用の説明図である。図5(a)が本実施の形態の場合、図5(b)が従来技術の場合である。図5(a)に示すように、本実施の形態ではステージを静止した状態で、電子ビームを、例えば主偏向器134により偏向させ、複数の基準マーク502を連続して評価する。これに対し、例えば、図5(b)に示す従来技術では、1個の基準マーク502を、ステージを移動させることによって、電子ビームの偏向位置までもっていき評価を行う。
【0064】
本実施の形態によれば、ステージの移動を行うことなく、偏向位置での電子ビームのドリフト評価を行うことが可能となる。したがって、きわめて、短時間で偏向位置での電子ビームのドリフト評価を行うことが可能となる。このため、実際のマスクの描画中に、描画を中断して電子ビームのドリフト評価を行う場合であっても、最小限のスループットの低下にとどめることが可能となる。よって、最小限のスループットの低下で、描画中の電子ビームのドリフトをモニタすることが可能となる。
【0065】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画方法は、ドリフト量算出工程の後、第2の描画工程の前に、電子ビームの偏向感度補正係数を変更する偏向感度補正係数変更工程を備えること以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0066】
図6は、本実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。
【0067】
第1の実施の形態に加えて、ドリフト量算出工程(S150)の後、第2の描画工程の前(S170)に、算出されたドリフト量から算出される偏向感度補正係数を基に、電子ビームの偏向感度補正係数を変更する偏向感度補正係数変更工程(S162)を備える。偏向感度補正係数変更工程(S162)は、制御回路150(図1)の一要素として備えられる偏向感度補正係数変更部(図示せず)において実行される。
【0068】
具体的には、例えば、偏向感度補正係数算出工程(S160)にて算出された上記(式1)の補正係数で、従来の補正係数を置き換える処理が行われる。これにより、マスクの描画中に電子ビームのドリフトがあったとしても、描画位置の精度を維持することが可能となる。
【0069】
なお、図6に示すように、ドリフト量算出工程(S150)または偏向感度補正係数算出工程(S160)の後、偏向感度補正係数変更工程(S162)の前に、判断工程(S161)を設け、ドリフト量や偏向感度補正係数の変動が所定の閾値を超える場合にのみ、偏向感度補正係数変更工程(S162)を実行する構成であってもかまわない。
【0070】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置の評価方法は、ステージ上に固定される複数の基準マークに電子ビームを照射し、基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、ステージを静止した状態で電子ビームを偏向させることにより、基準マークに順次電子ビームを照射し、基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、評価位置情報と基準位置情報とを比較する比較工程と、比較工程の結果から電子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、を備える。第1の描画工程と第2の描画工程を備えないこと以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0071】
図7は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の描画方法の工程図である。基準位置情報取得工程(S210)、評価位置情報取得工程(S221)、比較工程(S231)、ドリフト量比較工程(S241)を実行する。
【0072】
本実施の形態によれば、電子ビーム描画装置の立ち上げ時や定期点検等の際に、短時間で電子ビームのドリフトをモニタすることが可能となる。
(第4の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置の評価方法は、ステージの移動を間に挟むことなく評価位置情報取得工程を複数回連続して繰り返すこと以外は、第3の実施の形態と同様である。したがって、第3の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0073】
図8は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の評価方法の工程図である。本実施の形態においては、ステージの移動を間に挟むことなく評価位置情報取得工程、比較工程、ドリフト量比較工程を、(S221)・(S231)・(S241)〜(S22n)・(S23n)・(S24n)のn回(nは2以上の自然数)、例えば1秒以下の短時間の間に繰り返す。
【0074】
本実施の形態によれば、高速時定数の偏向位置での電子ビームのドリフトを評価することが可能となる。例えば、従来の方法では検出できなかった、例えば1〜10秒程度での偏向位置における電子ビームのドリフトが評価可能となる。
【0075】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0076】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置の評価方法および荷電粒子ビーム描画装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0077】
100 電子ビーム描画装置
102 描画部
104 制御部
106 描画データ記憶部
110 試料
132 副偏向器
134 主偏向器
140 ショットデータ生成部
150 制御回路
160 検出器
161 検出部
162 基準位置情報記憶部
163 評価位置情報記憶部
164 比較部
165 ドリフト算出部
166 偏向感度補正係数算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、
前記ステージに載置される試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料にパターンを描画する第1の描画工程と、
前記ステージを静止した状態で荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、
前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較工程と、
前記比較工程の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、
前記試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料にパターンを描画する第2の描画工程と、
を有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記ドリフト量算出工程の後、前記第2の描画工程の前に、前記ドリフト量を基に、偏向感度補正係数を変更する偏向感度補正係数変更工程を備えることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の基準位置情報を取得する基準位置情報取得工程と、
前記ステージを静止した状態で荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射し、前記基準マーク各々の評価位置情報を取得する評価位置情報取得工程と、
前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較工程と、
前記比較工程の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出工程と、
を有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置の評価方法。
【請求項4】
前記ステージの移動を間に挟むことなく、前記評価位置情報取得工程を複数回連続して繰り返すことを特徴とする請求項3記載の荷電粒子ビーム描画装置の評価方法。
【請求項5】
ステージ上に固定される複数の基準マークに荷電粒子ビームを照射して得られる、前記基準マーク各々の基準位置情報を記憶する基準位置情報記憶部と、
前記ステージを静止した状態で、荷電粒子ビームを偏向させることにより、前記基準マークに順次荷電粒子ビームを照射して得られる、前記基準マーク各々の評価位置情報を記憶する評価位置情報記憶部と、
前記評価位置情報と前記基準位置情報とを比較する比較部と、
前記比較部における比較の結果から前記荷電粒子ビームの偏向状態でのビーム位置のドリフト量を算出するドリフト量算出部と、
を有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4888(P2013−4888A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136981(P2011−136981)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】