説明

荷電粒子線装置

【課題】高加速電圧で収差補正機能を備えた荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子線源と該荷電粒子線源から荷電粒子を引き出すための引き出し電極と荷電粒子線の収束手段を含む荷電粒子線銃と、該粒子線銃から放出された荷電粒子線を加速する加速手段と前記粒子線銃と加速手段の間に収差補正手段を設けて、引き出し電位あるいは、それとほぼ同等の加速初期段階のビームに、試料面上での粒子線プローブの収差をキャンセルするだけの収差を与えることにより上記課題を、解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に関わり、特に試料に荷電粒子線を収束させて走査する、走査電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、電子線半導体検査装置、電子線半導体測長装置、収束イオンビーム装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
試料表面を細く絞った電子ビームで走査し、発生する2次電子を2次電子検出器で検出し、走査と同期したTVモニター上で検出信号を輝度の変化として表示する走査型電子顕微鏡(SEM)は物体の表面を光学顕微鏡よりも高分解能で観察できるため、研究用の他、近年微細化の進む半導体ウェハーパターンの測長や表面異物観察、など産業用装置として広く用いられている。半導体検査の場合、検査物にダメージなく観察できる1kV以下の低加速電圧で数nmの高分解能が要求されるようになってきた。SEMの分解能は試料面上で電子ビームを如何に細く絞れるかに左右される。電子ビームのビーム径に影響を与えるパラメータとしては、例えば、電子源の大きさ、入射電子線のエネルギーのばらつき、収束角度、対物レンズの色収差、球面収差、回折収差などがある。従来、電子光学系の工夫、特に光源の縮小率を大きくとり、加速電界、減速電界を組み合わせ対物レンズの形状を最適化して収差を小さくすることで高分解能化を進めてきた。しかしながら、レンズ系の最適化のみでSEMの分解能を向上することは、段々と困難になりつつある。
【0003】
上記の色収差や球面収差を除去する装置として、収差補正器がある。その原理構成は、Zach(非特許文献1)の論文に示されており、Haider(非特許文献2)およびKrivanek(非特許文献3)らの論文には、その他の構成が示されている。Zachの収差補正器は、球面収差及び色収差を補正する機能を有し、光軸に沿って軸の周囲に配置された4段の静電4極子と、磁界4極子および静電8極子により構成されている。静電4極子と磁界4極子、静電4極子と磁界4極子に対する励起の強さの比を変えることにより、光軸上を通過する電子線の軌道を、x方向、y方向独立に変えることができる。
【0004】
Haiderらの論文(非特許文献2)に記載された収差補正器は、透過型電子顕微鏡(TEM)の対物レンズの球面収差を補正するための補正器であり、2つの磁界6極子と2組のダブレットレンズを組み合わせた構成を備えている。
【0005】
Krivanekらの論文(非特許文献3)記載された収差補正器は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)の球面収差を補正するための補正器であり、磁界4極子4つ、磁界8極子3つを組合わせた構成を有している。KrivanekらのSTEM用球面収差補正器は、基本的にはZachの色および球面収差補正器を4極子と8極子をすべて磁界型で構成したものである。
【0006】
米国特許6552340号公報(特許文献1)には、Krivanekの収差補正器を用いた、自動収差補正機能付き荷電粒子線応用装置が開示されている。
さらに、特開2001-351561号には、FIB加工装置のイオンビーム照射系に収差補正装置を適用した発明が開示されている。イオンビームは電子線と比べて質量が大きくエネルギーが高いことから、特開2001-351561号に開示された発明では、イオン源で発生したイオンビームを、加速した後一旦減速し、減速空間内に収差補正器を設けて収差補正を行なっている。
【0007】
【特許文献1】米国特許6552340号
【0008】
【特許文献2】特開2001-351561号公報
【非特許文献1】J.Zach and M.Haider, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A363 (1995) 316〜325ページ
【非特許文献2】M.Haider, G.Braunshausen and E.Schwan, Optik 99 (1995) 167〜179ページ
【非特許文献3】O.L.Krivanek, N.Dellby, A.R.Lupini, Ultramicroscopy 78 (1999) 1〜11ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の各先行技術文献に記載された先行技術ないし発明は、以下の点で実用的とは言えない。
Zachの収差補正方式(非特許文献1)は、理論上は球面収差、色収差の両方が補正できるものの、加速エネルギーの大きな電子線の収差補正を行なう場合に実用的でない。つまり、Zachの方式では、加速エネルギーを大きくすると、収差補正器の長さを加速電圧の比で伸ばす、4極子の開口半径を加速電圧の比の1/2乗で狭める、あるいは4極子の電極電圧を加速電圧の比で高めるなどの手立てが必要になり、電源電圧の上限や、多極子の耐電圧や製作組み立て等を考慮した製造コスト、あるいはSEMの設計寸法の点で実用的でなくなる。非特許文献1には、加速電圧が8keVの収差補正SEMが記載されているが、標準的な汎用SEMの最高加速電圧は、通常30kV程度である。Zachの方式で、加速電圧が10kV程度以上になると、事実上、SEMを製造することが困難になると思われる。
【0010】
またKrivanek(特許文献1及び非特許文献3)の方式では、高エネルギーに対応するために磁界型の多極子のみを用いて収差補正器を構成している。しかし、これらの方式では球面収差は補正できるものの、収差補正器自身のもつ色収差が大きく全体の色収差が増加してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、装置構成の大がかりな変更を伴わずに、収差補正が実現可能な荷電粒子光学系、荷電粒子銃、およびこれらを用いた荷電粒子線応用装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は、荷電粒子線源で発生した荷電粒子線が高加速状態になる前の段階、即ち荷電粒子線のエネルギーが、比較的低い加速初期段階で、収差補正を施すことにより解決可能である。加速初期段階の例としては、荷電粒子線の電位が引き出し電極の電位(引き出し電位)あるいはそれとほぼ同等の段階などである。引出電位を与えた後、荷電粒子線を何段階かに分けて加速を行なう場合には、最初の数段目で収差補正を実行しても良い。
【実施例1】
【0013】
本実施例では、走査型電子顕微鏡の例について説明する。図1には、走査型電子顕微鏡の全体構成図を示す。ショットキー電子源1はタングステンの単結晶に、酸素とジルコニウムなどを拡散させショットキー効果を利用する電子源で、その近傍にサプレッサー電極2が設けられる。この電子源1の近傍に磁界レンズ3を配置する。この磁界レンズ3の上磁極は引き出し電極を兼ねている。
【0014】
磁界レンズ3は、原理的には無くとも良いが、仮想光源位置(収差補正器5に対する物点)の調整機能の点で、あった方が良い。磁界レンズ3の作用がない場合、引き出し電圧V1でショットキー電子源1から引き出されたビームの収差補正器5側から見た仮想光源位置は、電子源の上方数cmのところになる。仮想光源位置が収差補正器5に対し固定されていると、コンデンサーレンズ、対物レンズの焦点変化、加速電圧変化などに対応した収差補正条件の調整ができないので、装置の操作上、仮想光源位置を調節する機能があった方が有利である。
【0015】
ショットキー電子源1を1800K程度に加熱し(加熱電源は図示せず)、磁界レンズ3との間に引き出し電源22で+2kV程度の電圧Vを印加することにより、ショットキー電子源1よりショットキー電子を放出させる。サプレッサー電極2にはサプレッサー負電圧が印加されショットキー電子源1の先端以外から放出される電子を抑制する。磁界レンズ3の下磁極に設けられた絞り4で、必要な量に制限された電子は 磁界レンズ3と一体となるよう取り付けられた収差補正器5に入射する。図1には図示されていないが、磁界レンズ3と収差補正器5とは、ネジなどの接合手段により取り付けられている。磁界レンズ3と収差補正器5とは、最初から一体成型しても構わないが、電子銃の組立工程の容易化を考えると、磁界レンズと収差補正器は、別々に製造してから組み立てた方が良い。
【0016】
収差補正器5では、入射電子に対して収差補正が施される。本実施例の収差補正器の動作について、図7を用いて説明する。収差補正器5は、光軸上に配置された4段の静電4極子91,92,93,94と静電4極子92、93が形成する電位分布とほぼ相似で、45度光軸の周りに回転した磁位分布を形成する磁界4極子95,96および静電8極子97,98,99,100から構成されている。図中各段に番号が併記されている。これは1段目と4段目では静電4極レンズによる電位と静電8極子による電位が重畳されていることを表している。同様に2段目と3段目では静電4極レンズと静電8極子の電位および45度光軸の周りに回転した磁界4極レンズの磁位が重畳している。4段の12極子を用いてこれらの電位分布、磁位分布を形成することができる。2段目と3段目の12極子を高透磁率の金属で形成すれば電位分布とほぼ相似の磁位分布を形成することができる。
【0017】
収差補正器5内では、4極子場のために光軸(z軸)に垂直な2方向(x軸、y軸)で各々、収束作用と発散作用が生じて近軸軌道を分離させる。図4では荷電粒子線の軌道を細線にて模式的に示した。荷電粒子線は収差補正器5の1段目の静電4極子91によりx方向の軌道(x軌道)は発散(図中の矢印一つの軌道)、y方向の軌道(y軌道)は収束(図中の矢印2つの軌道)され、分離する。任意の方向の軌道はこれらx軌道、y軌道の線形結合として考えることができる。2段目では静電4極子92による4極子電位と、磁界4極子95によりx−y面内で4極子電位に対し光軸の周りに45°回転した4極子磁位が重畳される。y軌道が静電4極子92の中心付近で光軸とクロスするように第1段の静電4極子91が励起される。このときx軌道は最大に離軸しており、静電4極子92の中心付近ではx方向に延びた線状クロスオーバー120を形成する。
【0018】
静電4極子92および磁界4極子95の励起は3段目の静電4極子93の中心付近でx軌道が光軸とクロスするように調整されている。このときの線状クロスオーバー121はy方向に伸びた線状をしている。4段目の静電4極子94を経て分離したx軌道とy軌道はクロスオーバー122にて一致する。このとき収差補正器5内で、静電4極子92と磁界4極子95を、基準となるエネルギーをもつ入射荷電粒子に働く合力を変化させないという拘束条件のもとで、静電と磁界の4極子の強さの比を変えて励起することができる。すると基準とずれたエネルギーをもった荷電粒子はその速度が基準となるエネルギーをもつ荷電粒子と異なっているので、電場と磁場の強さの比が変わると働く力が変わり軌道がずれる。
【0019】
このずれは光軸から離れているx方向で大きく、4極子電位の中心をめがけて通るy方向はほとんど影響されない。静電4極子93を通るときはこの関係がx、y逆になる。つまり静電4極子92と磁界4極子95、静電4極子93と磁界4極子96において励起の強さの比を変えることによりx方向、y方向、独立に入射エネルギーのずれたものだけ軌道を変えることができる。このことを利用して、収差補正器5であらかじめ、対物レンズを含む系全体の色収差を相殺する量だけ、エネルギーの高い荷電粒子の軌道を外側に、エネルギーの低い荷電粒子の軌道を内側にずらしておいて色収差を相殺する。球面収差は4段の静電8極子97,98,99,100で補正する。静電8極子は離軸距離の3乗に比例する力で荷電粒子に作用し、線状クロスオーバーが形成される2段目ではx方向、3段目ではy方向の球面収差(開口収差)を補正し、1段目と4段目では45度方向の球面収差(開口収差)を補正する。
【0020】
収差補正器5は磁界レンズ3と一体となっているが、磁界レンズ3はパーマロイなどの高透磁率金属で磁路を形成しているのに対し収差補正器5は非磁性金属のケースの内部には4段の多極子が配置され光軸に垂直な面内で4極子電位及び8極子電位各4段と2,3段目に4極子磁位を重畳する。そのため2段目、3段目の多極子(例として12極子で4極子ポテンシャル、8極子ポテンシャルを発生させ重畳する。)は磁極と電極を兼ねていて高透磁率金属で形成される。
【0021】
収差補正器中の磁界極子レンズに磁場を与えるための磁場発生用のコイル501は、収差補正器5のケースの内部に配置される場合と、真空筐体50の外部に配置される場合の2通りがある。収差補正器5のケースの内に置く場合には、高温耐性(300℃程度)のある材料、たとえば銅線にセラミックコーティングをした線材などを用いてコイルを形成すると好ましい。収差補正器の動作雰囲気は超高真空であるため、収差補正器の周囲にコイルの冷却手段を設けると装置構成が複雑になる。従って、コイル501を高温耐性のある材料で形成することにより、装置を簡便に構成できる。コイルを真空外に出す場合はこの限りでない。
【0022】
光軸上での磁場発生効率を高めるため、2段目、3段目の12極子の外側には極子と絶縁された外磁路リングが設けられる。(図示せず。)収差補正器5のケースに設けた絶縁フィードスルーを介して制御電源23より各12極子に電圧を印加し、コイル501に電流を供給する。制御電源23とレンズ電源24は引き出し電源22の電位にフローティングしている。
【0023】
次に、本実施例の収差補正器の制御方法について簡単に説明する。まず、収差補正器5でキャンセルすべき色収差および球面収差は、以下の式で表現することができる。
Ccobj +(Mobj)2Cccond + (McondMobj)2Ccgun-corr(V0 /V13/2 (3)
Csobj +(Mobj)4 Cscond + (McondMobj)4Csgun-corr(V0 /V13/2 (4)
ここで、Ccgun-corrは磁界レンズ3と収差補正器5をまとめた色収差係数、Csgun-corrは球面収差係数、Cccondはコンデンサレンズ9,10の色収差係数、Cscondは球面収差係数、Mcondは倍率、Ccobjは対物レンズ16による色収差係数、Csobjは球面収差係数、Mobjは対物レンズの倍率、V0は加速電圧、V1が引き出し電圧である。収差補正器5では、上記(3)(4)がゼロになるようにCcgun-corr, Csgun-corrを調整する。
【0024】
この調整は、加速電圧、引き出し電圧の値から制御コンピュータが収差補正器の多極子に印加する電流、電圧の初期値を計算し、その設定をもとにSEM画像を観察しながら操作者がおこなう。収差補正器5では主にCcobj、Csobjの逆収差を発生させるので、McondやMobj、V0 /V1が大きい方が補正効果が上がる。しかし倍率を大きくすると収差は補正できるが小さなスポット径を得ることと矛盾してくるので注意が必要である。
【0025】
収差補正器5のケース下面は電極材料により構成され、当該ケース下面(便宜上、バトラー上電極と称する)に対抗して配置されたバトラー下電極7とで静電バトラーレンズ6を形成している。バトラー上電極及びバトラー下電極7は、電子線が通過するための開口を備えており、開口の周囲には、レンズの球面収差を小さくするためにバトラーレンズの中心から外側に向かって開口の内径が小さくなるようなテーパが形成されている。この際、テーパ面を鏡面加工すると放電防止の効果がある。
【0026】
バトラー上電極とバトラー下電極7との間に加速電源20により電圧Vをかけることにより静電バトラーレンズ6が形成される。このレンズの強さはV0/V1の値により制御でき、仮想光源位置を決めるので、操作者が操作盤42で観察条件(加速電圧、倍率等、プローブ電流等)を選択すると、制御コンピュータ40は自身のメモリー上に格納された、あらかじめシミュレーションや実験により求めてあるその観察条件に最適な電子光学系でのV0、V1の値を読み出し、加速電源20、引き出し電源21にその値を出力させる。
静電バトラーレンズ6の下にはガンバルブ8が配置され、真空筐体50の中でガンバルブ8から上が超高真空に維持され電子銃を形成している(真空排気系は図示していない)。
【0027】
加速電圧Vで加速された電子は上記電子銃を出ると第一コンデンサレンズ9により,第二コンデンサレンズ10との間にクロスオーバーを形成し、第二コンデンサレンズ10によりビームブランカー11近辺でもクロスオーバーを成形して、対物レンズ16に入射する。対物上磁極15は対物レンズ16と絶縁されており、ブースティング電源31により加速電界をつくり電子をさらに加速して対物レンズ16に入射させることができる。試料17にはリターディング電源33により負の電圧をかけるので試料上に減速電界ができ、電子は減速されて試料に入射する。試料面上にフォーカスした電子線を走査コイル14で走査し、発生した2次電子はリターディングとブースティング電界により試料上方に引き上げられ、ExB偏向器13により曲げられ、反射板34に入射し、3次電子を発生させそれが2次電子検出器12で検出される。
【0028】
走査と同期してこの検出信号で輝度変調することにより試料表面の画像をモニター41上に形成する。半導体ウェハーのような大きな円板状の試料の場合は試料ステージ19の上に絶縁ベース18を介して試料17が固定される。試料交換時は、試料準備室53が試料を入れて充分な真空に排気されると真空筐体50との間のゲートバルブ51を開けて、試料搬送機構52により試料が試料ステージ19の上に運ばれる。このように本発明をSEMに適用すると、加速以前の低いエネルギーの電子について低い多極子電圧で収差補正をおこなってその後加速するので、たとえば10kV以上の加速電圧で収差補正したビームを得ることができ、今まで低加速領域にとどまっていた収差補正器の使用範囲を広げることができる。
【0029】
なお、本実施例の走査電子顕微鏡に対して、種々の画像解析装置ないし信号解析手段を付加することにより、半導体ウェハの外観検査装置や配線パターンの測長装置へ応用が可能であることは言うまでもない。
【実施例2】
【0030】
図2には、走査透過型電子顕微鏡(STEM)への応用例を示す。
電子銃部分は実施例1と同じ構成で、バトラーレンズ6の下に加速管61が配置され、加速電源20により電子を加速する。加速管61の下には電子銃チャンバー(図示せず)と呼ばれるスペースがあり,そこからイオンポンプなどにより電子銃部は超高真空に排気されガンバルブ8により低真空側と分離している。加速された電子ビームは加速管61を出て、コンデンサレンズ9,10により適当な角度と広がりに成形され、対物レンズ16で試料17上にフォーカスする。
【0031】
このフォーカスビームは走査コイル14により試料17上を走査される。試料を透過、散乱されたビームは大角散乱ビームはアニュラー検出器65により検出され、この検出信号で走査と同期してモニター41に輝度変調をかけて暗視野像を表示する。軸上ビームは軸上検出器67により検出され、明視野像を形成する。主に補正すべきは対物レンズ16の球面収差、色収差であるが、収差補正器5により高電圧で加速以前のビームにあらかじめ式(4)に相当する補正を施し球面収差、色収差を補正する。補正の様子はロンチグラムからモニターすることができ、調整が可能である。
【0032】
本実施例によればコンパクトな電子銃で球面収差だけでなく色収差も補正することにより、照射スポット径の小さい高分解能STEMが実現できる。
【実施例3】
【0033】
実施例3は、電子銃への応用例について説明する。図3には、本実施例の電子銃の構成例を示す。実施例1の電子銃では引き出し電圧V1と加速電圧V0が決まると、静電バトラーレンズ6の強さが決まる。電子光学系にもっと尤度を持たせるために、引き出し電圧V1と加速電圧V0が決まっても、図3のようにバトラー下電極7の上に中間電位Vを与えた中間電極70を絶縁筒601を介して挿入することにより、3枚電極構成としてこの部分の静電レンズの強さを制御することができ、特に減速側でのVの使用範囲が広がり、収差補正器5の前後の物点と像点の位置をそれぞれ磁界レンズ3と中間電位Vにより制御できようになる。さらに電子銃偏向器72を設ければ、続く電子光学系とのより精緻な軸あわせが可能となる。
【0034】
またこの電子銃全体をOリングを介して下の筺体と真空的に結合し、押しねじ等でそのOリング上を電子銃が横方向に微動できる機械軸あわせ機構をつければさらに好適である。このような構造では絶縁筒601から上は高電圧が露出するので、絶縁物を内側に、外側をアース電位にした絶縁ハウジング55をかぶせる。ハウジング55の内側にSFなどの絶縁ガスを封入できる構造にすればより効果的である。このように電子銃に収差補正器が組み込まれていれば、既存の装置の電子銃を本発明の電子銃で置き換えることにより、鏡体を設計変更することなく収差補正機能を取り込むことができる。
【実施例4】
【0035】
図4には、本発明を応用した電子銃のもう一つの例を示す。
この例では磁界レンズ3と収差補正器5の間にバルブ室801を設けガンバルブ8が取り付くようにする。磁界レンズ3側には超高真空排気のための小型イオンポンプ302が設けられる。収差補正器5の2、3段目の磁界4極子のためのコイルは真空外に設けている。パーマロイリング502,503は2、3段目の各磁極と磁路を形成するが各磁極間と電気的には絶縁されている。このような構造では収差補正器5側の真空を維持したまま電子源交換が可能な利点がある。
【実施例5】
【0036】
図5には、本発明を応用した電子銃のもう一つの例を示す。
この例では磁界レンズ3と収差補正器5の間にバトラーレンズ6を配置する。こうすることで磁界レンズ3により、バトラーレンズ6の直上に仮想光源を形成できるので、ビーム電流を多くとれ、バトラーレンズ6の球面収差を小さく使えて、補正のための収差補正器の多極子電圧、電流も少なくてすむ利点がある。
【実施例6】
【0037】
図6に本発明を集束イオンビーム装置(FIB)に応用した例を示す。
本実施例は高プローブ電流側での球面収差によるプローブ径増大を静電4極子、静電8極子を用いて補正し、高速精密加工に適したFIBを提供するものである。
イオン源101と引き出し電極103の間に引き出し電源22により負の電圧をかけると正イオンが電界により引き出される。イオン源101近傍にはサプレッサー2が設けられイオン源101に対し正の電圧を印加することによりイオンの放出を抑制する。引き出し電極103とその下の中間電極108および収差補正器5のケースの上部でコンデンサーレンズ109を形成する。中間電極108で加速し収差補正器5ではほぼ引き出し電圧と同程度になるように電源104で電圧を印加して、収差補正器5には略平行なイオンビームが入射する条件にする。
【0038】
収差補正器5には4段の多極子が配置され光軸に垂直な面内で4極子電位及び8極子電位各4段を重畳する。これらの多極子には制御電源23から電圧を供給する。この制御電源23は電源104の与える電位にフローティングして動作する。球面収差補正の方法は前述と同じである。イオンビームは収差補正器5を出射後ビーム制限絞り105により電流量を制限され、対物レンズ116により試料17上にフォーカスする。静電偏向器114とビームブランカ11を使って試料面上にビームを走査する。あらかじめ走査領域形状を決めて制御コンピュータ40に入力しておき、所望の形状で試料上に穴加工を施すことができる。加工後広い領域を低電流ビームで走査し発生する2次電子を2次電子検出器12により検出して穴の形状を SIM(Scanning Ion Microscope)像として観察する。
【0039】
本実施例のFIB加工装置では、磁界による色収差補正がなく、収差補正器5により色収差が発生するので、系全体としては色収差が増加する。そこでビームプローブ径が主に球面収差により増大している高プローブ電流域(プローブ電流20nA以上)で特に有効である。ほぼ引き出し電位でのビームに対し収差補正を行い、コンデンサーレンズ109の働きにより、収差補正器5の仮想光源位置が制御できるので実現可能なスケールで、より低い制御電源電圧で収差補正FIB装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は走査型電子顕微鏡、半導体検査装置、走査透過型電子顕微鏡、集束イオンビーム装置などへ利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施例の荷電粒子線応用装置の構成図。
【図2】第2の実施例の走査透過型電子顕微鏡の構成図。
【図3】第3の実施例の電子銃の構成図。
【図4】第4の実施例の電子銃の構成図。
【図5】第5の実施例の電子銃の構成図。
【図6】第6の実施例の集束イオンビーム装置の構成図。
【図7】収差補正器の動作説明図。
【符号の説明】
【0042】
1…ショットキー電子源、2…サプレッサー電極、3…磁界レンズ、4…絞り、5…収差補正器、6…バトラー静電レンズ、7…バトラー下電極、8…ガンバルブ、9…第1コンデンサーレンズ、10…第2コンデンサーレンズ、11…ビームブランカ、12…2次電子検出器、13…ExB偏向器、14…走査コイル、15…上磁極、16…対物レンズ、17…試料、18…絶縁ベース、19…試料ステージ、20…加速電源、21…サプレッサー電源、22…引き出し電源、23…収差補正器制御電源、24…磁界レンズ電源、25…レンズ電源、26…レンズ電源、27…ブランカ電源、28…2次電子検出器電源、29…ExB偏向器電源、30…走査コイル電源、31…ブースティング電源、32…対物レンズ電源、33…リターディング電源、34…反射板、40…制御コンピュータ、41…モニター、42…操作盤、50…真空筐体、51…ゲートバルブ、52…試料搬送機構、53…試料準備室、55…絶縁ハウジング、60…V2電源、61…加速管、62…分割抵抗、63…投射レンズ、64…レンズ電源、65…アニュラー検出器、66…アニュラー検出器電源、67…軸上検出器、68…軸上検出器電源、70…中間電極、71…中間電極、72…電子銃偏向器、91〜94…静電4極子、95〜96…磁界4極子、97〜100…静電8極子、101…イオン源、102…中間電極電源、103…引き出し電極、104…電源、105…ビーム制限絞り、108…中間電極、109…コンデンサーレンズ、114…静電偏向器、115…静電偏向器電源、116…対物レンズ、120〜121…線状クロスオーバー、122…クロスオーバー、301…非磁性金属、302…イオンポンプ、501…コイル、502…パーマロイリング、503…パーマロイリング、601…絶縁筒、801…バルブ室、802…イオンポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線源と、
該荷電粒子線源から荷電粒子を引き出すための引き出し電極と、
当該引出電極を通過した荷電粒子線を加速する加速手段とを備えた荷電粒子線装置において、
前記加速手段と前記引出し電極との間に配置された収差補正装置を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
荷電粒子線源と、該荷電粒子線源で発生した荷電粒子線を外部に引き出す引き出し電極と、
引出電極を通過した荷電粒子線の収差を補正する収差補正器とを備えた荷電粒子線銃を備えた荷電粒子線装置。
【請求項3】
荷電粒子線銃と、
該荷電粒子銃から放射された荷電粒子線を加速する加速手段と、
該加速手段により加速された電子を収束して所定位置に焦点を形成する手段と、
前記荷電粒子線銃と前記加速手段の間に配置された収差補正器とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線の光軸上で、前記収差補正器の荷電粒子線源側に配置された磁界レンズを備えた事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差補正器は、前記荷電粒子線の偏向手段と色収差または球面収差のうち少なくとも一つを補正する機能を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線銃の筐体と前記収差補正器の筐体とが一体形成されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線が通過するための開口を開閉するためのガンバルブと、該ガンバルブの駆動手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1または3に記載の荷電粒子線装置において、
前記加速手段がバトラーレンズであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差補正器を通過した荷電粒子線を加速するバトラーレンズを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の荷電粒子線装置において、
前記バトラーレンズは、前記収差補正器の底面に形成された上部電極と、該上部電極に対抗して配置された下部電極を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項10に記載の荷電粒子線装置において、
前記バトラーレンズの上部電極または下部電極は、荷電粒子線が通過する開口の周囲に沿ってテーパが形成されたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差補正器が、静電4極子4段と、該4段の静電4極子の中央の2段のつくる電位分布にほぼ相似で光軸の周りに45度回転した磁位分布を各々重畳させる磁界4極子2段を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差補正器が、静電4極子4段と、前記4段の静電4極子の中央の2段のつくる電位分布にほぼ相似で光軸の周りに45度回転した磁位分布を各々重畳させる磁界4極子2段と前記静電4極子4段に8極子電位を重畳する静電8極子4段を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差補正器が、静電4極子4段と、前記静電4極子4段に8極子電位を重畳する静電8極子4段を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
所定の回路パターンが形成された試料を保持する試料ステージと、
該試料に対して前記荷電粒子線を走査する手段と、
当該荷電粒子線走査により前記試料から発生する二次電子を検出する検出器と、
該検出器から得られる信号を処理することにより前記回路パターンの測長を行なう信号処理手段とを有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
試料ステージと、
該試料ステージに保持された試料に対して前記荷電粒子線を走査する手段と、
当該荷電粒子線走査により前記試料を透過した電子を検出する検出器と、
該検出器から得られる信号を処理して前記試料の画像を形成する信号処理手段と、
該画像を表示するモニタを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−216396(P2006−216396A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28372(P2005−28372)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】