説明

蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法

【課題】系統周波数が変動しても、自動的に負荷を下げ、系統の安定化を図る蒸気タービンの制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】蒸気タービン制御装置は、回転数または周波数の偏差検出手段と、速度調定率器と、負荷設定器と、速度調定率器の出力信号および負荷設定値の加算値と、予め定めた負荷制限値のいずれかの低値を選択して出力する低値優先回路とを備え、蒸気加減弁を全開状態にして運用するようにした蒸気タービン制御装置において、偏差が負の値になると負の信号を出力し、偏差がほぼゼロになると正の信号を出力するヒステリシス回路と、負の信号または正の信号を負荷設定器に入力する負荷設定値増加減手段、負荷設定値を監視し、ヒステリシス回路から出力された負の信号に基づいて負荷設定値が蒸気タービンの定格出力に相当する値まで低下したとき、負荷設定値増加減手段による負荷設定値減少動作を停止させる手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン制御装置に係り、特に蒸気タービンの入口に設けられた蒸気加減弁を全開状態にして運転する、いわゆるバルブ・ワイド・オープン(Valve Wide Open、略称:VWO)運用方式における蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービンは、図5に示すように、ボイラ1、高圧タービン2、再熱器3、中圧タービン4、低圧タービン5、復水器6、発電機7を備え、ボイラ1から発生した蒸気を高圧タービン2で膨張仕事をさせ、膨張仕事中に熱を失った蒸気を再熱器3で再び過熱させ、この過熱蒸気を中圧タービン4および低圧タービン5で再び膨張仕事をさせ、そのとき発生する動力で発電機7を駆動するとともに、膨張仕事を終えたタービン排気を復水器6で凝縮させて復水にし、この復水を浄化処理後、給水にしてボイラ1に再び戻している。
【0003】
また、蒸気タービンは、ボイラ1と高圧タービン2を結ぶ主蒸気管8に主蒸気止め弁9および蒸気加減弁10を設けるとともに、再熱器3と中圧タービン4を結ぶ再熱蒸気管11に再熱蒸気止め弁12およびインターセプト弁13を設け、例えば、系統に事故が発生したとき、制御装置14からの指令によって蒸気加減弁10およびインターセプト弁13を急速閉塞させ、ボイラ1から高圧タービン2に供給する蒸気を断ち、各タービン2,4,5のオーバスピードを防止している。
【0004】
一方、蒸気加減弁10は、図6に示すように、蒸気入口21、蒸気出口22を備える弁ケーシング15内のスリーブ16の内周部に摺動し、弁棒17の駆動力によって進退する弁体18と、弁棒17に駆動力を与える駆動装置19と、弁体18を当接させ、蒸気を水密的に閉鎖させる弁座20とを備え、負荷需要の増減変動があると、駆動装置19の駆動力によって弁体18を開閉させ、蒸気の流量を制御する。
【0005】
このような構成を備える蒸気加減弁10は、図7に示すように、縦軸に蒸気加減弁流量を採り、横軸に負荷設定(蒸気加減弁弁開度指令)を採る流量特性線図において、負荷設定と流量とを比例関係に維持させつつも、弁開度が高領域になってくると、弁座20の下流側の2次側圧力が高くなり、比例関係(線型)が成り立たなくなる領域が出るので、一般的に、流量特性が直線的増減範囲、つまり最大流量の90%〜95%の範囲の流量を蒸気タービンの定格負荷としている。図7の例では95%の位置を蒸気タービン定格出力(100%負荷)とし、負荷設定を100%位置としている。
【0006】
また、流量が最大流量(弁全開)のとき、負荷が140%相当に達するが、このときの140%負荷を最大流量負荷と称して取り扱っている。
【0007】
このように、蒸気加減弁10に蒸気タービンの定格負荷または最大流量負荷を与える制御装置14は、図8に示すように、負荷設定増減回路23を備えた負荷設定器24と、負荷制限増減回路25を備えた負荷制限器26と低値優先回路27を備え、回転数設定信号と実回転数信号とを加減算器28で比較し、比較の際に生じた偏差を速度調定率器29のゲイン(1/速度調定率)と掛算し、弁開度信号を演算し、演算した弁開度信号に加算器30で負荷設定器24からの負荷設定信号を加算し、この加算信号に低値優先回路27で負荷制限器26からの設定負荷信号を突き合せ、いずれか低値信号を弁開度指令信号として蒸気加減弁10に与え、弁体18を開閉させている。
【0008】
このような制御装置14を備える大型発電用蒸気タービンでは、一般に、速度調定率を3%〜5%に設定しており、蒸気タービンの実回転数が設定回転数に較べて5%以上上昇すると、蒸気加減弁10の弁開度が100%分降下させていた。つまり、蒸気タービン発電機負荷(出力)は、定格負荷から無負荷まで変動させていた。
【0009】
そして、発電機7に接続する系統の負荷が事故遮断されたため、系統周波数が上昇すると、制御装置14は、速度調定率に沿って蒸気タービンの負荷を低下させ、系統負荷を正規(定格)に回復させるように図っていた。
【0010】
なお、負荷設定追従運転と負荷制限追従運転とを切り替える制御技術には、例えば、特許文献1が開示されている。
【0011】
また、系統事故が発生し、蒸気タービンのオーバスピードを防止する制御技術は、例えば、特許文献2に提案されている。
【特許文献1】特開平5−163903号公報
【特許文献2】特開平11−153003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の通り、従来の蒸気タービンでは、蒸気加減弁10を流れる蒸気流量が最大流量に対し、90%〜95%であるときの負荷を蒸気タービンの定格負荷とし、この蒸気タービンの定格負荷運転から最大流量負荷運転までの間に、例えば、送電線系統に事故が発生し、実回転数が設定回転数を超えたとき、予め定められた速度調定率(ゲイン)、例えば5%速度調定率に基づいて実回転数を低下させる回転数制御を行っていた。
【0013】
しかし、予め定められた速度調定率の下、回転数制御を行っていても、蒸気加減弁10は、弁開度を絞り込まなければならず、流入する蒸気の圧力に対し、数%の圧力損失が出、発電プラント効率の低下を招いていた。
【0014】
最近の発電用大型蒸気タービンでは、蒸気加減弁10を流れる蒸気の圧力損失をより一層少なくさせ、発電プラント効率を増加させるために、蒸気タービンの最大流量および最大効率で運用することが求められている。
【0015】
このため、蒸気加減弁10を弁全開に維持させ、蒸気の最大流量(負荷140%に相当)を流す最大流量負荷運転と称する、いわゆるバルブ・ワイド・オープン(VWO)の運用形式を採る発電プラントが増加しつつある。つまり、蒸気加減弁10の弁開度指令(負荷設定)を140%またはそれ以上で運用する形態である。
【0016】
このように、蒸気タービンは、最大効率、最大流量で運用すると、既に図7でも示したように、蒸気タービンの定格負荷を超えて最大流量負荷で運転を行っているとき、系統内負荷が減少し、系統周波数が上昇しても、発電量を予め定められた速度調定率に見合う分、落とすことができず、ほぼ一定の負荷で運用することになる。
【0017】
すなわち、図7で示した蒸気加減弁10の流量特性から見ると、系統周波数が本来0.5%上昇するとき、タービン負荷が10%降下することになるが、蒸気タービンの最大流量負荷の場合、系統周波数が2.5%上昇しないと、負荷が10%降下しないことになる。
【0018】
このような回転数制御を行うと、送電線系統は、著しく不安定になり、系統の撹乱を発生させ易くし、また連鎖的な停電を誘発し、系統内の広域に亘る停電、いわゆるブラクアウトを発生させる要因となる。
【0019】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、バルブ・ワイド・オープン(最大流量、最大効率)の運用方式を採る蒸気タービンにおいて、何らかの事情で系統周波数が変動しても、速やかに、かつ自動的に負荷(蒸気タービン発電機出力)を下げ、系統の安定化を図る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る蒸気タービン制御装置は、上述の目的を達成するために、回転数または周波数の偏差を検出する偏差検出手段と、前記偏差に所定の速度調定率を乗じて出力する速度調定率器と、負荷設定値を出力する負荷設定器と、前記速度調定率器の出力信号および前記負荷設定値の加算値と、予め定めた負荷制限値のいずれかの低値を選択して蒸気加減弁の開度指令として出力する低値優先回路とを備え、前記蒸気加減弁を全開状態にして運用するようにした蒸気タービン制御装置において、前記偏差が予め定められた負の値になると負の信号を出力し、前記偏差がほぼゼロになると正の信号を出力するヒステリシス回路と、前記ヒステリシス回路から出力された負の信号または正の信号を前記負荷設定器に入力することにより、負荷設定減少動作または増加動作を行う負荷設定値増加減手段と、前記負荷設定器から出力される負荷設定値を監視し、前記ヒステリシス回路から出力された負の信号に基づいて前記負荷設定値が蒸気タービンの定格出力に相当する値まで低下したとき、前記負荷設定値増加減手段による負荷設定値減少動作を停止させるための手段と、を備えたものである。
【0021】
また、本発明に係る蒸気タービン制御方法は、上述の目的を達成するために、回転数または周波数の偏差に所定の速度調定率を乗じた後、負荷設定値を加算し、この加算値と、予め定めた負荷制限値のいずれかの低値を選択して蒸気加減弁の開度指令として出力し、蒸気加減弁を全開状態にして運用するようにした蒸気タービン制御方法において、前記偏差が予め定められた負の値になると負の信号を出力して負荷設定値を蒸気加減弁の全開状態位置から減少させ、前記負荷設定値が蒸気加減弁の全開状態位置から蒸気タービンの定格出力に相当する値まで減少したとき、その減少動作を停止させ、前記偏差がほぼゼロに復帰したとき、前記負荷設定値を蒸気タービンの定格出力に相当する値から蒸気加減弁の全開状態位置まで増加させる方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、回転数設定信号と実回転数信号との間に正負の偏差が出たとき、負荷設定器からの負荷設定信号を自動的、かつ自在に増減させるヒステリシス回路と負荷設定値増加減手段を備えたので、蒸気タービンの定格負荷から最大流量負荷までのバルブ・ワイド・オープン運転中、系統周波数に変動があっても、迅速に正規(定格)周波数に回復させて系統の安定化を図ることができ、蒸気タービンの最大流量、最大効率の運用を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の実施形態を図面および図面に付した符号を引用して説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第1実施形態を示す制御ブロック図である。
【0025】
本実施形態に係る蒸気タービン制御装置は、蒸気加減弁を全開状態にして運用する蒸気タービンを適用対象とするもので、回転数設定信号と実回転数信号とを突き合せる加減算器31と、この加減算器31にヒステリシス回路32、切替回路33を介装して接続し、負荷設定増減回路34を備える負荷設定器35と、この負荷設定器35の出力が蒸気タービンの定格負荷に対応する設定値(90〜95%)以下のとき通電をカットする比較器36とを備えた構成になっている。
【0026】
さらに、ヒステリシス回路32は、加減算器31からの偏差信号が予め定められた第1の設定値の、例えば、−0.5%以下のとき、負の信号を出力し、また偏差信号が予め定められた第2の設定値の、例えば、ゼロ以上になると、正の信号を出力する回路になっている。
【0027】
一方、切替回路33は、ヒステリシス回路32からの負の信号または正の信号を通電させ、かつ負荷設定信号が90〜95%以上のとき、上述の比較器36からの指令を受けてヒステリシス回路32からの負の信号をカットするように機能する回路になっている。
【0028】
また、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置は、加減算器31からの偏差信号にゲイン(1/速度調定率)を掛算して弁開度指令信号を演算する速度調定率器(ゲイン器)37と、この速度調定率器37からの弁開度指令信号に負荷設定器35からの負荷設定信号を加算する加算器38と、加算器38からの加算信号と負荷制限増減回路39を備えた負荷制限器40からの負荷制限信号とを突き合せ、いずれかの低値信号を選択して弁開度指令信号として蒸気加減弁に与える低値優先回路41を備えた構成になっている。
【0029】
次に、上述構成に基づく蒸気タービン制御方法を説明する。
【0030】
蒸気タービンが最大流量負荷運転を行っているとき、負荷設定器35の出力は、例えば140%以上の出力になっており、蒸気加減弁開度指令も同じく140%以上を出力している。そして、負荷制限器40の出力は、負荷設定器35の出力を妨げないように、それ以上に設定されている。
【0031】
このとき、例えば、送電線系統に発生した事故の除去により、系統周波数が定格周波数よりも高くなり、加減算器31から出力する負の偏差信号が、ヒステリシス回路32で設定している、例えば0.5%に近付くと、負荷設定信号(蒸気加減弁開度信号)は、図7で示したように、蒸気タービンの定格負荷から最大流量負荷(蒸気加減弁全開の140%負荷)に至るまでの間、なだらかな湾曲流量特性線図になっているので、蒸気加減弁を流れる蒸気の流量は殆ど変化しない。このため、蒸気タービンの負荷も殆ど変化しない。
【0032】
尤、蒸気タービンの定格負荷以下の運転であれば、図7で示したように、流量特性線図が線型であるから、加減算器31からの偏差信号がヒステリシス回路32で設定している、例えば0.5%に近付くと、負荷設定信号は、速度調定率を5%とするとき、(速度調定率/0.5%)、つまり10%減少することになる。
【0033】
さらに系統周波数が増加し、回転数設定信号と実回転数信号との偏差信号が加減算器31で−0.5%を超えると、ヒステリシス回路32は負の信号を出力し、切替回路33を介して負荷設定増減回路34の「減」信号を作動させ、この「減」信号の作動に伴って負荷設定器35は負荷「減」の方向に作動する。
【0034】
負荷設定器35が負荷「減」の方向に作動すると、蒸気加減弁開度指令は、減少を続けるが、負荷設定器35の出力信号が蒸気タービンの定格負荷に対応した値まで減少すると、比較器36が作動し、ヒステリシス回路32の出力が切替回路33を介して負荷設定増減回路34に入力するのをカットする。
【0035】
この結果、蒸気加減弁開度指令は、最大流量負荷140%から蒸気タービンの定格負荷に移行し、蒸気加減弁を流れる蒸気の流量は10%減少し、蒸気タービンの負荷も10%減少する。
【0036】
また、この状態において、系統周波数がさらに若干上昇しても、ヒステリシス回路32は、負の値を出力させたまま維持しているので、負荷設定器35から出力される負荷設定値に影響を与えない。
【0037】
次に、系統周波数が正規(定格)周波数に回復したとき、加減算器31において、回転数設定信号と実回転数信号との偏差がゼロ近傍の値になると、ヒステリシス回路32の出力は、正の値となり、切替回路33を介して負荷設定増減回路34の「増」信号を作動させ、この「増」信号の作動に伴って負荷設定器35は負荷「増」の方向に作動し、蒸気加減弁を全開させ、最大流量負荷を140%に至らしめる。
【0038】
このように、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、加減算器31で回転数設定信号と実回転数信号とを突き合せ、負または正(ゼロも含む)の偏差が出ると、負荷設定器から蒸気加減弁に負荷「減」信号または負荷「増」信号のいずれの信号も自在に出力させるヒステリシス回路32と切替回路33を備えたので、系統周波数が正規(定格)よりも、例えば0.5%以上変動したとき、蒸気加減弁開度指令値が増減し、本来、蒸気タービンとして作動すべき速度調定率で定められた負荷まで自動的に降下させることができ、系統の安定化に寄与することができる。
【0039】
また、系統周波数が正規(定格)に復帰したとき、自動的に蒸気加減弁の開度を全開状態に移行させることができ、蒸気タービンの最大流量、最大効率の運用を容易に行うことができる。
【0040】
なお、上述の説明で引用したヒステリシス回路32の設定値0.5%や比較器36の設定値95%等は、蒸気加減弁の流量特性やタービン発電機ユニットの運用で定まる値であり、この値に限定するものではない。
【0041】
また、上述の説明ではヒステリシス回路32の入力値に回転数設定信号と実回転数信号との偏差を用いたが、電力系統の実周波数と正規(定格)周波数の偏差を用いてもよい。
【0042】
また、蒸気加減弁の弁全開位置を負荷設定器35や蒸気加減弁開度指令の140%としたが、蒸気加減弁の全開位置を100%にし、各設定値をその比率で変えてもよい。
【0043】
(第2実施形態)
図2は、本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第2実施形態を示す制御ブロック図である。
【0044】
なお、第1実施形態の構成要素と同一構成要素には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0045】
本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、切替回路33の出力側に接続し、下限値を、例えば0%とする下限リミッタと上限値を、例えば45%とする上限リミッタとを備える積分器42と、この積分器42からの出力信号と負荷設定器35からの負荷設定信号とを突き合せて演算し、負荷設定増減信号を出力する加減算器43とを設けたものである。
【0046】
このような構成を備える蒸気タービン制御装置において、系統周波数が増加し、正規(定格)の例えば0.5%を超えると、ヒステリシス回路32が、正の信号を出力するとき、積分器42が予め定められたレートで減少信号を出力し、加減算器43で負荷設定器35からの負荷設定信号を減算して徐々に低下させ、負荷設定信号が蒸気タービンの定格負荷に対応する負荷設定値になったとき、比較器36からによって積分器42への通電がカットされ、これに伴って積分器42の上限リミッタからの上限値に基づいて蒸気タービンの定格負荷を維持させる。
【0047】
そして、負荷設定信号が蒸気タービンの定格負荷に維持されると、図7で示した蒸気の流量特性線図に基づいて蒸気タービン負荷が10%減少し、周波数を正規(定格)に整定させる。
【0048】
次に、系統周波数が正規周波数に回復すると、ヒステリシス回路32は、正の信号を出力し、切替回路33を介して積分器42に正の信号を入力する。すると、積分器42は上限リミッタの値に向って徐々に降下させ、この間に蒸気加減弁を全開に至らしめる。
【0049】
このように、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置は、切替回路33の出口側に上下限リミッタ付の積分器42と、負荷設定器35からの負荷設定信号を加減算させる加減算器43とを設けたので、最大流量負荷から蒸気タービンの定格負荷まで緩慢に負荷を増減させて系統の安定化を図ることができ、蒸気タービンの負荷変動速度をプラントの運用に適した変動速度に調整することができる。
【0050】
(第3実施形態)
図3は、本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第3実施形態を示す制御ブロック図である。
【0051】
なお、第1実施形態の構成要素と同一構成要素には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0052】
本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、切替回路33の出口側に上下限リミッタ付の積分器42と、負荷設定器35からの負荷設定信号を増減させる加減算器43とを備えるとともに、積分器42の入口側に接続し、低値優先回路41から出力される蒸気加減弁開度指令信号を用いて負荷変化率を一定にさせる関数(蒸気加減弁流量特性非線形部分を逆関数とする関数)を持つ関数器44を備えたものである。
【0053】
すなわち、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、既に図7で示した蒸気加減弁流量特性線図のように、蒸気タービンの定格負荷から最大流量負荷に至る間、蒸気加減弁を流れる蒸気の流量特性が緩慢な凸状の湾曲線になっており、特に、蒸気タービンの定格負荷位置および最大流量負荷位置に近付くに連れ、いわゆる寝ている状態の非線型流量特性になっていることに着目したので、蒸気タービンの定格負荷位置近傍および最大流量負荷位置近傍で積分器42の大きな積分定数で蒸気加減弁の弁開度をより早く作動させ、蒸気タービンの定格負荷位置近傍で積分器42の小さな積分定数で蒸気加減弁の弁開度をゆっくり作動させる非線型関数特性を持つ関数器44を備えたものである。
【0054】
このように、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、最大流量負荷位置近傍で積分器42の大きな積分定数で蒸気加減弁の弁開度をより早く作動させ、蒸気タービンの定格負荷位置近傍で積分器42の小さな積分定数で蒸気加減弁の弁開度をゆっくり作動させる非線型関数特性を持つ関数器44を備え、蒸気加減弁を流れる蒸気の流量特性を線型にするので、負荷増減変動率一定の下で蒸気タービンの負荷を増減させることができ、系統に与える外乱を防止することができる。
【0055】
(第4実施形態)
図4は、本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第4実施形態を示す制御ブロック図である。
【0056】
なお、第1実施形態の構成要素と同一構成要素には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0057】
本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、ヒステリシス回路32内に組み込まれている設定値および比較器36内に組み込まれている設定値のそれぞれを任意自在に変更できる設定値変更装置45を備えたものである。
【0058】
このように、本実施形態に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法は、ヒステリシス回路32内の設定値および比較器36内の設定値を変更できる設定値変更装置45を備えたので、プラント運転中であっても電力系統あるいは蒸気タービン出力の大小変動に応じた適正な運用を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第1実施形態を示す制御ブロック図。
【図2】本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第2実施形態を示す制御ブロック図。
【図3】本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第3実施形態を示す制御ブロック図。
【図4】本発明に係る蒸気タービン制御装置および蒸気タービン制御方法の第4実施形態を示す制御ブロック図。
【図5】従来の蒸気タービンを示す概略系統図。
【図6】従来の蒸気加減弁を示す概念図。
【図7】従来の蒸気加減弁を流れる蒸気の流量を示す流量特性線図。
【図8】従来の蒸気タービン制御装置を示す制御ブロック図。
【符号の説明】
【0060】
1 ボイラ
2 高圧タービン
3 再熱器
4 中圧タービン
5 低圧タービン
6 復水器
7 発電機
8 主蒸気管
9 主蒸気止め弁
10 蒸気加減弁
11 再熱蒸気管
12 再熱蒸気止め弁
13 インターセプト弁
14 制御装置
15 弁ケーシング
16 スリーブ
17 弁棒
18 弁体
19 駆動装置
20 弁座
21 蒸気入口
22 蒸気出口
23 負荷設定増減回路
24 負荷設定器
25 負荷制限増減回路
26 負荷制御器
27 低値優先回路
28 加減算器
29 速度調定率器
30 加算器
31 加減算器
32 ヒステリシス回路
33 切替回路
34 負荷設定増減回路
35 負荷設定器
36 比較器
37 速度調定率器
38 加算器
39 負荷制限増減回路
40 負荷制御器
41 低値優先回路
42 積分器
43 加減算器
44 関数器
45 設定値変更装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数または周波数の偏差を検出する偏差検出手段と、
前記偏差に所定の速度調定率を乗じて出力する速度調定率器と、
負荷設定値を出力する負荷設定器と、
前記速度調定率器の出力信号および前記負荷設定値の加算値と、予め定めた負荷制限値のいずれかの低値を選択して蒸気加減弁の開度指令として出力する低値優先回路とを備え、前記蒸気加減弁を全開状態にして運用するようにした蒸気タービン制御装置において、
前記偏差が予め定められた負の値になると負の信号を出力し、前記偏差がほぼゼロになると正の信号を出力するヒステリシス回路と、
前記ヒステリシス回路から出力された負の信号または正の信号を前記負荷設定器に入力することにより、負荷設定減少動作または増加動作を行う負荷設定値増加減手段と、
前記負荷設定器から出力される負荷設定値を監視し、前記ヒステリシス回路から出力された負の信号に基づいて前記負荷設定値が蒸気タービンの定格出力に相当する値まで低下したとき、前記負荷設定値増加減手段による負荷設定値減少動作を停止させるための手段と、
を備えたことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項2】
負荷設定値増加減手段は、蒸気タービンの定格出力から最大流量負荷運転までの負荷の増減移動を緩慢にさせる積分器を備えたことを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項3】
積分器は、上限リミッタと加減リミッタとを備えたことを特徴とする請求項2記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項4】
積分器は、蒸気タービンの定格出力から最大流量負荷運転までの間の負荷変化率を一定にさせる関数を持つ関数器を備えたことを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項5】
ヒステリシス回路は、設定値を自在に変更する設定値変更装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項6】
比較器は、設定値を自在に変更する設定値変更装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項7】
回転数または周波数の偏差に所定の速度調定率を乗じた後、負荷設定値を加算し、この加算値と、予め定めた負荷制限値のいずれかの低値を選択して蒸気加減弁の開度指令として出力し、蒸気加減弁を全開状態にして運用するようにした蒸気タービン制御方法において、
前記偏差が予め定められた負の値になると負の信号を出力して負荷設定値を蒸気加減弁の全開状態位置から減少させ、
前記負荷設定値が蒸気加減弁の全開状態位置から蒸気タービンの定格出力に相当する値まで減少したとき、その減少動作を停止させ、
前記偏差がほぼゼロに復帰したとき、前記負荷設定値を蒸気タービンの定格出力に相当する値から蒸気加減弁の全開状態位置まで増加させることを特徴とする蒸気タービン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−2337(P2008−2337A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172092(P2006−172092)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】