説明

蒸発源および真空蒸着装置

【課題】数百μmを超える厚膜の成膜が可能であり、かつ、多量の成膜材料を高い均一性で迅速に溶融でき、しかも、突沸に起因する欠陥等も防止できる真空蒸着用の蒸発源、および、この蒸発源を利用する真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】成膜材料を加熱/溶融して蒸発させる蒸発源が、成膜材料を加熱/溶融する複数の蒸発室と、この蒸発室の上方に配置される、成膜材料の蒸気が通過する開口部が1個のみ形成された遮蔽部材とを有することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置用の蒸発源(蒸着源)および真空蒸着装置に関し、詳しくは、数百μmを超えるような厚膜の成膜を行なうために、多量の成膜材料を充填する場合であっても、成膜材料の温度差が少ない状態で迅速に溶融できる蒸発源、および、この蒸発源を用いる真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療用の診断画像の撮影や工業用の非破壊検査などに、被写体を透過した放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を電気的な信号として取り出すことにより放射線画像を撮影する、放射線画像検出器が利用されている。
この放射線画像検出器としては、放射線を電気的な画像信号として取り出すパネル状の放射線画像検出器(いわゆる「Flat Panel Detector」 以下、FPDとする)や、放射線像を可視像として取り出すX線イメージ管などがある。
【0003】
また、FPDには、アモルファスセレンなどの光導電膜(光電変換膜(層))とTFT(Thin Film Transistor)等を用い、放射線の入射によって光導電膜が発した電子−正孔対(e−hペア)を収集してTFTによって電化信号として読み出す、いわば放射線を直接的に電気信号に変換する直接方式と、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体で形成された蛍光体層(シンチレータ層)を有し、この蛍光体層によって放射線を可視光に変換し、この可視光を光電変換素子で読み出す、いわば放射線を可視光として電気信号に変換する間接方式との、2つの方式がある。
【0004】
直接方式のFPDにおいて、アモルファスセレンなどの光導電膜は、真空蒸着によって形成される場合が有る。ここで、FPDの光導電膜は、数百μm以上の膜厚を有するのが通常であり、厚い場合には、1000μm程度の厚さとなる。また、間接方式のFPDでも、蛍光体層を真空蒸着で形成する場合が有り、また、蛍光体層の厚さは同程度となる場合が有る。
このような厚い膜(厚膜)を真空蒸着によって形成する場合には、大型の蒸発源(ルツボ)を用い、蒸発源に多量の成膜材料を充填する必要がある。ところが、多量の成膜材料を蒸発源に充填すると、成膜材料全体を均一に加熱すことが困難であるため、温度差が生じてしまい、成膜材料を均一に溶融できないという問題点がある。
【0005】
周知のように、真空蒸着における成膜材料の加熱方法としては、蒸発源の周囲に配置した電熱線などのヒータを用いる方法や、蒸発源自身を発熱させる抵抗加熱による方法、さらには、電子線によって成膜材料を加熱(EB加熱)する方法が知られている。
ここで、ヒータや抵抗加熱では、蒸発源の周囲から加熱されるため、成膜材料の量が多多い場合には、蒸発源の側面付近と中心部とに温度差が生じてしまい、まず、蒸発源の側面付近のみが溶融した状態となってしまう。また、EB加熱では、電子線が入射した位置を中心に加熱されるので、やはり、多量の成膜材料を用いる場合には、成膜材料の一部のみが溶融される。そのため、多量の成膜材料を用いる場合には、全ての成膜材料が溶融するまでに、非常に時間がかかってしまう。
【0006】
真空蒸着による成膜では、成膜材料の蒸発が安定し、かつ、残存する固体部等に起因する突沸などを防止するために、蒸発源に充填した成膜材料が全て溶融した後に、シャッタを開放して成膜を行なう。
ところが、成膜材料の量が多い場合には、全ての蒸発材料が溶融するまでに時間がかかるために、成膜を開始するまでに、先に溶融した成膜材料が蒸発して無駄になってしまい、すなわち、成膜材料の利用効率が悪くなってしまう。また、成膜材料の溶解を開始してから、成膜を開始するまでに時間がかかるため、生産性も良好とは言えない。
【0007】
このような蒸発源(ルツボ)内における成膜材料の温度差の問題点を解決するために、例えば、特許文献1には、底面を円錐や角錐状の形状とすることにより、成膜材料の底面からの厚さを、蒸発源の内側面から中心に向かうにしたがって薄くさせるような底面の形状を有することにより、蒸発源の側面付近と中心付近との温度差を小さくした蒸発源(ルツボ)が開示されている。
また、特許文献2には、蒸発源の上方から輻射熱によって成膜材料を溶融することにより、同様に、蒸発源の側面付近と中心付近との温度差を小さくした蒸発源(蒸着源)が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−222472号公報
【特許文献2】特開2002−348658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの方法によれば、蒸発源の中心部と周辺部との温度差を無くして、成膜材料を均一に溶解することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、蒸発源の形状が複雑になってしまうと共に、蒸着が進むにしたがって(成膜材料の液面高さに応じて)、液面すなわち蒸発面の面積が変化するので、蒸着レートが不安定になってしまう、成膜材料蒸気の指向性が変動して成膜が不安定になってしまう等が懸念される。
また、特許文献2に開示される方法では、厚膜を形成する場合のように成膜材料の量が多量である場合には、輻射熱源となるヒータを非常に高温にする必要が生じることが予想され、この熱による成膜材料の再蒸発による欠陥の発生等が懸念される。
【0011】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、数百μmを超える厚膜の成膜が可能な成膜材料を充填することができ、また、多量の成膜材料を充填しても、周辺部に比して中心部の温度が低い等の成膜材料に生じる温度分布を大幅に低減して、成膜材料の溶融時間を短縮することができる真空蒸着用の蒸発源、および、この蒸発源を利用する真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の蒸発源は、真空蒸着用の蒸発源であって、成膜材料を充填して加熱する、複数の蒸発室と、前記蒸発室の上に配置される、前記蒸発室からの成膜材料の蒸気を排出するための1つの開口を有する遮蔽部材とを有することを特徴とする蒸発源を提供する。
【0013】
このような本発明の蒸発源において、前記蒸発室の蒸気排出口を内包し、かつ、前記遮蔽部材を上面とする、前記遮蔽部材の開口以外は閉空間となっている混合室を有するのが好ましく、また、全ての蒸発室の蒸気排出口の少なくとも一部が、前記遮蔽部材の開口以外の領域の下方に位置するのが好ましく、特に、全ての蒸発室の蒸気排出口の全部が、前記遮蔽部材の開口以外の領域の鉛直方向の下方に位置するのが好ましく、さらに、前記蒸発室に充填した成膜材料の加熱を、前記蒸発室を外側面から加熱する加熱手段で行い、かつ、前記加熱手段による加熱の条件が、前記蒸発室の下方よりも上方の方が高温となる条件であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明の真空蒸着装置は、前記本発明の蒸発源のいずれかを利用する真空蒸着装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記構成を有する本発明によれば、成膜材料を充填して加熱する蒸発室を複数有するので、数百μmを超えるような厚膜を形成できるだけの成膜材料を充填できると共に、個々の蒸発室は小型にできるので、蒸発室内の中心部と周辺部(側壁近傍)との温度差を無くして、成膜材料を高い均一性で加熱でき、充填した成膜材料の全部の溶融を迅速に行なうことができる。従って、加熱開始から蒸着開始までの時間を短縮でき、その結果、加熱開始から蒸発開始までの無駄な成膜材料の蒸発量も低減できるので、生産性を向上すると共に、成膜材料の利用効率も向上でいる。
また、蒸発室を円筒状や角筒状のように、断面形状(上下(鉛直)方向と直交する方向の断面)が均一な形状とすることにより、蒸発によって成膜材料の液面の高さ、すなわち蒸発面の高さ(位置)が変化しても、液面の面積変動を生じることがなく、最後まで、成膜材料蒸気の指向性や、蒸着レート(成膜レート)が安定した状態で真空蒸着を行なうことができる。
【0016】
しかも、複数の蒸発室の上に、成膜材料の蒸気を排出するための1つの開口を有する遮蔽部材を有するので、複数の蒸発室を有する(すなわち複数の蒸発源/ルツボを有するのと同等の構成)にも関わらず、成膜材料の蒸気排出口が1つになるため、1個の蒸発源と同様に取り扱うことができる。そのため、成膜材料蒸気の指向性等が把握し易く、かつ、安定しており、形成する膜の膜厚分布を好適にでき、また、取り扱い性にも優れる。
さらに、鉛直方向から見た際に、遮蔽部材によって蒸発室の蒸気排出口の少なくとも1部が隠れる構成とすることにより、遮蔽部材の下方において、成膜材料蒸気をより好適に混合できるので、さらに指向性の安定化を図ることができ、しかも、蒸発室での突沸が生じても、遮蔽部材で突沸による液滴等を遮蔽することができるので、突沸に起因する膜の欠陥も、低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の蒸発源および真空蒸着装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0018】
図1に、本発明の蒸発源を利用する、本発明の真空蒸着装置の一例の模式図に示す。
図1に示すように、真空蒸着装置10(以下、蒸着装置10とする)は、基板Sの表面(被成膜面)に真空蒸着によって成膜するものであって、真空チャンバ12と、基板保持手段14と、回転手段16と、本発明の蒸発源18とを有して構成される。
なお、本発明の蒸着装置10は、図示した部材以外にも、真空チャンバ内12を排気する真空ポンプ、蒸着の開始前に蒸発源18から蒸発して基板Sに向かう成膜材料の蒸気を遮蔽するためのシャッタを有し、また、それ以外にも、公知の真空蒸着装置が有する各種の部材を有してもよいのは、もちろんである。
【0019】
本発明において、使用する基板Sには、特に限定はなく、ガラス板、プラスチック(樹脂)製のフィルムや板、金属板等、製造する製品に応じたものを用いればよい。
また、基板Sに成膜(形成)する膜にも、特に限定はなく、真空蒸着によって成膜可能なものが、全て利用可能である。
【0020】
ここで、後に詳述するが、本発明の蒸発源18は、1つで数百μmを超える厚膜の成膜が可能な多量の成膜材料を充填することができ、かつ、充填した成膜材料の温度差を少なくして、成膜材料全体を高い均一性を保って迅速に溶融することができる。
そのため、本発明は、厚膜の成膜には特に好適であり、特に200〜1000μm程度の膜厚が必要な、アモルファスセレンによる光導電層(光電変換膜)など、直接方式の放射線画像検出器(フラットパネル検出器(FPD(Flat Panel Detector))の光導電層の形成(成膜)には好適である。
【0021】
ここで、本発明をFPDの製造に利用する場合には、アモルファスセレン等の光導電膜とTFT(Thin Film Transistor)等を用い、放射線の入射によって光導電膜が発した電子−正孔対(e−hペア)を収集して、TFTのスイッチングを行なった個所から電流として感知することで放射線画像を得る、電気読取方式のFPDの製造工程における、光導電膜の形成に利用すればよい。
また、本発明をFPDの製造に利用する場合には、記録用光導電層および読取用光導電層と、両導電層の間に形成されるAs2Se3等から形成される電荷蓄積層とを有し、放射線の照射によって潜像電荷を蓄積し、読取光の照射によって潜像電荷を流して電流として感知することで放射線画像を得る、光読取方式のFPDの製造工程における、記録用光導電層および/または読取用光導電層の形成にも、好適に利用可能である。記録用光導電層は、電磁波を吸収して電荷を発生する光導電性物質で形成されるもので、また、読取用光導電層は、電磁波、特に可視光を吸収して電荷を発生する光導電性物質で形成されるもので、共に、アモルファスセレンやアモルファスセレン化合物等で形成される。
【0022】
この際には、電気読取方式のFPDや光読取方式のFPDの製造工程において、次に、光導電膜を形成する物(光導電膜が形成される基材)が、基板Sとなる。
【0023】
蒸着装置10において、真空チャンバ12は、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
また、図示は省略するが、真空チャンバ12には、真空チャンバ内を排気するための、メイン排気バルブやバイパス経路等を有する排気経路、および、真空ポンプが接続されている。真空ポンプには、特に限定はなく、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボモレキュラポンプ等や、これらの組み合わせなどの公知の真空ポンプが、各種、利用可能である。さらに、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。
また、真空チャンバ12には、真空度調整用のアルゴンガスの導入などを行なうための、ガス導入手段が設けられてもよい。ガス導入手段も、ボンベ等との接続手段やガス流量の調整手段等を有する(もしくは、これらに接続される)、真空蒸着装置で用いられる、公知のガス導入手段でよい。
【0024】
基板保持手段14は、基板ホルダ30と、ホルダ装着部32と、回転軸34とから構成される。
基板ホルダ30は、基板Sにおける成膜領域を蒸発源18に向けて開放した状態で、基板Sを収容/保持するものである。基板ホルダ30としては、基板Sの四辺を保持する枠体、成膜領域に対応する部分が開放する基板Sを収容する筐体等、真空蒸着装置等の真空成膜装置で利用されている各種の基板ホルダが全て利用可能である。また、基板ホルダ30が、基板Sの成膜面における成膜領域を規制するマスクを兼ねてもよく、あるいは、別途、マスクを設けてもよい。
【0025】
図示例において、基板ホルダ30は、嵌合や係合部材を用いる方法等、公知の手段で、ホルダ装着部32の所定の位置に着脱可能にされる。また、ホルダ装着部32は、円盤状の部材で、裏面側において円筒状の回転軸34の下端に固定されている。さらに、この回転軸34は、回転手段16によって軸支されている。
すなわち、図示例の蒸着装置10において、基板Sは、基板ホルダ30に収容されて、この基板ホルダ30がホルダ装着部32に装着されることにより、蒸着装置10の所定位置に装填され、真空蒸着による成膜に供される。
【0026】
蒸着装置10において、ホルダ装着部32の下面(あるいは上面)には、基板ホルダ30に収容した基板Sを加熱するための加熱手段や、加熱手段による熱をムラなく均一に基板Sに伝えるための熱伝導性シート等が設けられてもよい。
さらに、基板ホルダ30の内面にも、基板Sの裏面(成膜面の逆面)に密着して、ホルダ装着部32が有する加熱手段による熱をムラなく均一に基板Sに伝えるための熱伝導性シート等が設けられてもよい。
【0027】
前述のように、ホルダ装着部32は、裏面において回転軸34に固定され、この回転軸34は、回転手段16に軸支されている。
回転手段16は、回転軸34を、その中心線を中心に公知の手段で回転する。
【0028】
前述のように、回転軸34の下端には、ホルダ装着部32が固定され、このホルダ装着部32には、基板Sを収容する基板ホルダ30が装着されている。従って、基板ホルダ30すなわち基板Sは、この回転手段16によって回転される。
なお、本発明の蒸着装置10は、基板Sを回転しつつ成膜を行なう装置に限定はされず、基板Sを固定した状態で成膜を行なうものであってもよく、あるいは、基板Sを直線状に往復搬送しつつ成膜を行なうものであってもよい。
【0029】
蒸発源18は、成膜材料を収容し、加熱/溶融するものである。
図2に、蒸発源18を概念的に示す。なお、図2において、(A)は上面図(鉛直方向上方(基板S側)から見た図)であり、(B)は正面図(図1と同じ方向から見た図)である。
本発明の蒸発源は、成膜材料を収容して加熱/溶融する複数の蒸発室と、蒸発室の上方に配置される、1つの開口を有する遮蔽部材とからなるものである。図示例において、蒸発源18は、遮蔽部材を兼ねる混合室20と、4つの蒸発室22とを有する。また、蒸発室22は、成膜材料を収容する材料容器24と、材料容器24を加熱して成膜材料を加熱/溶融する電熱線26とを有する。
【0030】
なお、図示は省略するが、各蒸発源22の電熱線26には、電熱線26に電力を供給して発熱させ、かつ、発熱を制御する電力供給手段が接続される。また、同じく図示は省略するが、各材料容器24の外壁(一例として、底面の中心)には、材料容器24の外壁温を測定することによって成膜材料の温度を測定する熱電対等の温度測定手段が配置される。なお、電熱線26による材料容器24の加熱制御は、熱電対による温度素行低結果を用いたフィードバック制御等の公知の手段によればよい。
本発明において、蒸発室22の温度制御は、個々の蒸発室22毎に行なうのが好ましいが、これに限定はされず、適宜設定した複数もしくは全ての蒸発室に対して一括で温度制御を行なってもよい。同じく、成膜材料の温度測定も、各蒸発室22毎に行うのが好ましいが、これに限定はされず、適宜設定した複数もしくは全ての蒸発室に対して一括で温度測定を行なってもよい。なお、成膜材料の温度は、蒸発室22内に温度測定手段を配置して行なってもよい。さらに、個々の蒸発室22(もしくは後述する混合室22の開口部22a)から蒸発した成膜材料蒸気の量を測定する手段を有してもよい。
【0031】
前述のように、蒸発室22は、成膜材料を収容して加熱/溶融するものであり、材料容器(ルツボ)24と、加熱手段である電熱線26とから構成される。
材料容器24は、成膜材料を収容する容器であり、図示例においては、上面が開放する中空の円筒状の容器である。材料容器24は、電熱線等の外部からの加熱手段を用いる真空蒸着用のルツボと同様に、成膜材料と反応せず、かつ、十分な耐熱性を有する、熱伝導性の良好な材料で形成すればよく、例えば、各種の金属で形成すればよい。
【0032】
本発明において、材料容器24(抵抗加熱用のルツボを含む)の形状には特に限定はなく、各種の形状の容器が利用可能である。
材料容器24の形状、好ましくは、図示例の円筒状や、四角筒状などの角筒状のように、筒の上下方向(中心軸(線)方向)と直交する方向の断面の変動が無い形状である。材料容器24を、このような筒状とすることにより、充填する成膜材料が蒸発して液面(蒸発面)が下降しても、蒸発面の面積が変化しないので、成膜材料の蒸発量すなわち成膜レートの安定化、および、成膜材料蒸気の指向性の安定化等の点で好ましい。
また、材料容器24は、細長い筒状であるのが好ましい。特に、直径(材料容器24が多角形筒等であるの場合には、筒の上面(蒸気排出口)を内接する円の直径)が60mm以下で、長さ(高さ)が径の1.2倍以上の細長い筒状が好ましい。材料容器24を細長い形状とすることにより、成膜材料を加熱した際における、材料容器24の側面側と中心部との温度差をより小さくでき、成膜材料をより好適に均一に加熱して、成膜材料の溶融を、より効率よく迅速に行なうことができる。
【0033】
また、電熱線26も、通電によって発熱する、公知の電熱線である。図示例において、材料容器24を巻回するように螺旋状で、この螺旋の中に材料容器を挿通するように配置される。
なお、本発明の蒸発源において、成膜材料の加熱手段は、電熱線26を利用する方法に限定はされず、公知の各種のヒータなどの電熱線26以外の材料容器24の外部から加熱する加熱手段を用いてもよく、あるいは、カーボンルツボなどの誘導加熱体からなる材料容器と誘導加熱用コイルと高周波電源等を用いる誘導加熱を利用するものでもよい。
また、このような外部からの加熱手段を用いるものにも限定はされず、材料容器24として、通電によって自身が発熱する抵抗加熱体を用いる、いわゆる抵抗加熱によるものであってもよい。さらに、後述する混合室22(遮蔽部材)の形状等に応じて、可能であれば、電子線加熱を利用してもよい。
【0034】
ここで、図示例においては、好ましい態様として、材料容器24を加熱する電熱線26の巻回の密度(電熱線26の巻き数(電熱線26の巻回のピッチ))を、下部側より上部側(基板側)の方を多くしている。図示例においては、上下方向において、中心を境に、上部側の巻き数を下部側の2倍にしている。
【0035】
真空蒸着において、成膜した膜の品質劣化、成膜材料の利用効率の低下、装置内部の汚染の一因として、成膜材料の突沸が挙げられる。突沸の原因は、溶融した成膜材料の中(中心部や下部)において優先的に蒸発が生じて気泡が発生し、それが溶融液内や表面で弾けることによる場合が多い。
これに対し、電熱線26などを用いて、材料容器24の外側面から加熱手段で加熱を行なう場合には、図示例のように、上方の加熱を下方の加熱よりも高温になるような加熱条件とすることにより、溶液面における蒸発が、溶液内部における蒸発よりも優先する状態を好適に生成することができる。そのため、このような構成を有することにより、より好適に突沸を防止して、高品質な膜を成膜することができる。
【0036】
電熱線26の密度(外部加熱手段による加熱密度)を変更する場合において、密度は、上部を下部の2倍にするのに限定はされず、上部を下部の1.5倍にする等の2倍以下であってもよく、あるいは、2倍以上の密度であってもよい。
また、電熱線26の密度を変更する場合において、上部を下部の何倍とするのではなく、下方から上方に向けて、漸次、密度が増える用にしてもよい。この際においては、最下部から漸次密度を増加するのに限定はされず、下部は同じ密度で電熱線を巻回して、途中から、電熱線の密度を増加してもよく、密度が増加した領域を経て、上部において、増加した状態で、再度、密度を同じにしてもよい。
本発明において、材料容器24の上部と下部とで加熱条件を変更して、上部が高温となるようにする方法は、図示例のように、電熱線26の巻き数(加熱手段の密度)を変更する方法に限定はされない。例えば、上部は高出力の電熱線26(ヒータ)にする、上部と下部とで、互いに独立した電熱線26(加熱手段)として、上部を下部よりも高温になるように制御する方法等も、利用可能である。
【0037】
図示例においては、蒸発源18は、4個の蒸発室22を有するが、本発明において、蒸発室は4つに限定はされず、蒸発室22は2個あるいは3個であっても、5個以上であっても、複数であればよい。
すなわち、本発明において、蒸発室22の数は、1回の成膜で使用する成膜材料の量、基板Sの大きさ、要求される成膜材料溶融の均一性や溶融速度、使用する電源等に応じて、適宜、設定すればよいが、2〜4個が好ましい。
【0038】
蒸発源18において、蒸発室22の上には、混合室20が配置される。
混合室20は、材料容器24の上部開放面すなわち蒸発室22における成膜材料蒸気の排出口22aを内包し(図示例においては、一例として排出口22aは混合室20の底面に位置する)、かつ、上面の開口部20a以外が閉空間となっている中空の四角筒状の筐体である。すなわち、混合室20を有する場合には、開口部20aが形成されている混合室20(筐体)の上面が、本発明における遮蔽部材となる。
なお、蒸発室22は、成膜材料の溶融に対して十分な耐熱性を有するものであれば、各種の材料で形成可能である。
【0039】
すなわち、本発明の蒸発源18においては、4個(複数)の蒸発室22から蒸発した成膜材料の蒸気は、蒸発室22の排出口22aから混合室20内に排出され、混合室20を経て、混合室20の上面に形成された1個の開口部20a(すなわち蒸発源18)から排出されて、上方の基板保持手段14に保持された基板Sに向かう。
【0040】
このような本発明によれば、複数の蒸発室22を有することにより、前記FPDのアモルファスセレンの光導電層のような数百μm〜1000μmのような厚膜の成膜が可能な多量の成膜材料を充填できると共に、個々の蒸発室22は小型化することができる。そのため、蒸発室22の側面近傍と中央部との温度差を小さくすることができるので、個々の蒸発室22において、成膜材料全体を良好な均一性で加熱して、全体を迅速に溶融することができる。すなわち、本発明の蒸発源18によれば、成膜材料の充填量を多くして、かつ、高い均一性で迅速に成膜材料を溶融することができる。
一般的に、真空蒸着では、全ての成膜材料が溶融した後に、シャッタを開放して、蒸着を開始するが、本発明によれば、高い均一性で成膜材料を加熱して、迅速に全量を溶融できるので、加熱開始から蒸着開始までの時間を短縮でき、その結果、加熱開始から蒸着開始までの間に不要に蒸発する成膜材料の量を少なくできる。従って、本発明によれば、加熱開始から蒸着開始までの時間短縮による生産性の向上と、成膜材料の利用効率の向上を図ることができる。
【0041】
また、個々に成膜材料を加熱/溶融する複数の蒸発室22を有するが、全ての蒸発室22からの蒸気が、混合室20(遮蔽部材の下方)を経て、1つの開口部20aから排出される。そのため、本発明の蒸発源18は、複数の蒸発室22を有して成膜材料の充填量を増大しているにも関わらず、1つの蒸発源として取り扱うことができるので、成膜材料蒸気の指向性等が把握し易く、かつ、蒸気の指向性が安定しており、形成する膜の膜厚分布を好適にでき、また、取り扱い性にも優れる。
さらに、蒸発室22で突沸が発生した場合でも、成膜材料の液滴を開口部20a以外の混合室20の天井面で、遮蔽することができるので、基板Sに至る成膜材料の液滴等を低減して、突沸に起因する点欠陥等の少ない、良好な品質の膜を成膜することができる。また、突沸に起因する不都合を低減できるため、加熱を強く行なうことが可能となり、その結果、成膜レートを向上して、生産性を羽状できる。特に、図示例のように、混合室20を有することにより、突沸が生じた際における成膜材料の液滴が真空チャンバ12内に排出されることも、大幅に低減に低減できるので、突沸に起因する真空チャンバ12内の汚染も、大幅に低減できる。
【0042】
本発明の蒸発源18は、図2(A)に示すように、全ての蒸発室24において、蒸発室24(材料容器24)における成膜材料蒸気の排出口22aの少なくとも一部が、混合室20の上面(遮蔽部材)の開口部20a以外の領域の下方に位置するのが好ましい(排出口22aと開口部20aとの位置関係が、この関係を満たすのが好ましい)。図示例であれば、材料容器24の円筒の中心線方向において、排出口22aの少なくとも一部が、混合室20の上面の開口部20a以外の領域の下方に位置するのが好ましい。
具体的には、蒸発室22(材料容器24)に充填した成膜材料を溶融した際に、溶融した成膜材料の液面(蒸発面)と直交する方向(あるいは蒸発面頂点の法線方向)すなわち鉛直方向の上方から見た際に、排出口22aの少なくとも一部が混合室20の上面の開口部20a以外の領域の下方に位置するのが好ましい。言い換えれば、上方から見た際に、排出口22aの少なくとも一部が混合室20の上面で隠れるように、蒸発源18と開口部20aとが位置するのが好ましい。
【0043】
このように、排出口22aの少なくとも一部を混合室20の上面(遮蔽部材)で隠すような構成とすることにより、各蒸発室22から排出された成膜材料蒸気が混合室20内において、より好適に混合され、その結果、より成膜材料蒸気の指向性等が把握し易く、かつ、蒸気の指向性が安定させることができる。
また、蒸発室22で突沸が生じても、液滴を混合室20の天井面で遮蔽できる確率が、より向上するので、より好適に、基板Sに至る成膜材料の液滴を低減して、突沸に起因する点欠陥等の膜の品質低下を低減できる。
【0044】
本発明においては、より好ましくは、上方から見た際に、全ての蒸発室22の排出口22aの面積の50%以上、特に、70%以上が、混合室20の上面に隠れる(混合室20の天井面の下方に位置する)のが好ましい。すなわち、図2(A)において、点線で示す混合室20の上面に隠れる面積の割合が、排出口22aの50%以上、特に、70%以上であるのが好ましい。中でも特に、図3に示すように、排出口22aの全域が混合室20の上面に隠れるのが好ましい。
このような構成とすることにより、前記指向性の安定や突沸による不都合の防止等の効果を、より好適に得ることができる。中でも特に、図3に示すように、排出口22aの全域が混合室20の上面に隠れる場合には、その効果は大きく、特に、成膜材料の突沸による不都合の防止効果は、絶大である。
なお、本発明においては、混合室20の上面に排出口22aが隠れる量は、各蒸発室22で異なってもよい。
【0045】
本発明において、排出口22aから混合室20の天井面(遮蔽部材の下面)までの距離には、特に限定は無い。
一般的に、排出口22aから混合室20の天井面までの距離が長い程、前記成膜材料蒸気の指向性や突沸による不都合の低減などの本発明の効果が得易い傾向にある。その反面、この距離が長すぎると、基板Sと蒸発源18からの蒸気排出口である開口部20aとの距離が近く成り過ぎてしまい、基板Sの表面(蒸着面)に対して十分に拡散しない可能性が生じ、また、混合室20壁面の温度低下によって、混合室20内に成膜材料が付着してしまう可能性が生じ、さらに、これを防止するために、混合室20を加熱する必要が生じてしまう。
従って、排出口22aから混合室20の天井面までの距離は、蒸発室22の数、排出口22aの面積、開口部20aの面積、混合室20の天井面(遮蔽部材の下面)のサイズ、混合室20のサイズ(容積)、基板Sと混合室20(その上面)との距離、基板Sのサイズ、真空チャンバ12のサイズ(特に高さ)等に応じて、適宜、決定すればよい。
本発明者らの検討によれば、上記の点を考慮すると、排出口22aから混合室20の天井面までの距離は、20〜60mm、特に、30〜50mmとするのが好ましい。
【0046】
同様に、混合室の大きさ(底面および上面のサイズ)にも、特に限定はなく、排出口22aから混合室20の天井面までの距離と同様に、排出口22aから混合室20の天井面までの距離は、蒸発室22の数、排出口22aの面積、開口部20aの面積、混合室20の天井面(遮蔽部材の下面)のサイズ、混合室20のサイズ(容積)、基板Sと混合室20(その上面)との距離、基板Sのサイズ、真空チャンバ12のサイズ(特に高さ)等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0047】
なお、混合室20の開口部20aの大きさにも、特に限定はなく、通常の真空蒸着におけるルツボ(蒸発源)の成膜材料の蒸気排出口と同様に設定すればよい。
【0048】
本発明において、混合室20の形状は、図示例のような四角筒状に限定はされず、四角以外の角筒状であってもよく、あるいは、円筒状であってもよく、あるいは、それ以外の形状であってもよい。また、混合室20(その上面のみでも可)は、円錐台や角錐台のように、漸次、縮径(あるいは拡径)するものであってもよく、縮径する場合には、上面全域が混合室20の開口部20aとなっていてもよい。
また、開口部20aの形状も、図示例のような正方形に限定はされず、長方形やその他の角形、円形や楕円形であってもよい。なお、開口部20aが、角形で有る場合には、蒸発室22の排出口22aは、図示例のように、開口部20aの角部に対応して配置するのに限定はされず、辺に対応して配置してもよいのは、もちろんである。
【0049】
図1および図2に示す例は、蒸発源18は、好ましい態様として、蒸発室22の排出口22aを含み、1つの開口部20a以外は閉空間を形成する混合室20を有するが、本発明は、これに限定はされない。
すなわち、本発明は、閉空間を形成する混合室20を有さずに、図4に模式的に示す蒸発源40のように、蒸発室22の上方に、1つの開口部42aを有し、それ以外の領域で成膜材料の蒸気を遮蔽する遮蔽部材を設けてもよい。このような構成でも、前述の図1および図2に示す蒸発源18のように、成膜材料の充填量を多くして、かつ、高い均一性で迅速に成膜材料を溶融して、良好な生産性および成膜材料の利用効率で成膜を行なうことができると共に、成膜材料蒸気の指向性等が把握し易く、かつ、蒸気の指向性が安定しており、形成する膜の膜厚分布を好適にでき、また、取り扱い性にも優れ、さらに、突沸に起因する点欠陥等を減少できる蒸発源を得ることができる。
【0050】
図4に示す例においては、遮蔽部材42は、4辺の端部が下方に折れ曲がった形状を有するが、本発明は、これに限定はされず、平板状であってもよく、また、円錐台や角錐台状の形状であってもよく、また、その上面が1つの開口部であってもよいのは、前記混合室20の上面と同様である。
また、この遮蔽部材42の形状や開口部42aのサイズ、配置位置、蒸発室22との位置関係等は、前記混合室20の上面に準じればよい。
【0051】
ここで、遮蔽部材40のサイズは、基本的に、大きい程、前記混合室20を有する場合に近い効果を得ることができる。そのため、遮蔽部材40は、装置構成等に応じた可能な範囲で、大きくするのが好ましい。
また、同様の理由で、図4に示す例のように遮蔽部材42の端部が下方に折れ曲がっている場合や、錐台形の場合には、遮蔽部材の下端部が蒸発室22の排出口22aよりも下方に位置するのようにするのが好ましい。
但し、遮蔽部材40が大き過ぎると、あるいは、下端が下方に行き過ぎると、混合室20から離れた領域の温度が低下して、先と同様に、成膜材料の付着の可能性や、これを防止するための加熱の必要性が生じてしまう可能性が有るので、サイズ等は、これを考慮して決定するのが好ましい。
【0052】
図示例の蒸着装置10は、蒸発源18を1つのみ有するものであるが、本発明は、これに限定はされず、複数の蒸発源18を有するものであってもよく、また、この場合には、各蒸発源18に異なる成膜材料を充填する、多元の真空蒸着を行なってもよい。
また、蒸着装置10においては、蒸発源18の各蒸発室22に異なる成膜材料を充填して多元の真空蒸着を行なってもよい。
【0053】
このような蒸着装置10によって、基板Sに膜を形成する際には、まず、真空チャンバ12を開放して、蒸発源18の4つ(あるいは4つ以下)の蒸発室22の材料容器24に、所定量の成膜材料を充填し、また、基板Sを収容する基板ホルダ30をホルダ装着部32の所定位置に装填して、真空チャンバ12を閉塞する。
その後、真空ポンプ20を駆動して、バルブ22を開放し、真空チャンバ12の減圧を開始し、さらに、蒸発源18の電熱線26に通電して、成膜材料の加熱を開始する。
【0054】
真空チャンバ12内が所定の真空度となった時点で、必要に応じて回転手段16によって基板を回転し、さらに、全ての成膜材料(材料容器24)の温度が所定の温度になった時点で、シャッタを開放して、基板Sヘの成膜を開始する。
【0055】
基板Sに、所定膜厚の膜が成膜されると、蒸発源18の電熱線26への電力供給を停止して成膜材料の加熱を中止し、回転手段16が駆動している場合には、回転軸34すなわち基板Sの回転を停止する。
その後、真空チャンバ12が大気開放され、成膜を終了した基板Sを収容する基板ホルダ30がホルダ装着部32から取り外され、次の工程に供給される。
【0056】
このようにして得られた膜は、前述のように、突沸に起因する点欠陥等の極めて少ない高品位なものであると共に、このような高品位な膜を、高い生産性で、かつ、高い成膜材料の利用効率で成膜することができる。
【0057】
以上、本発明の蒸発源および真空蒸着装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明について、より詳細に説明する。
【0059】
[実施例1]
図2に示す蒸発源18を用いる図1に示す蒸着装置10によって、ガラス基板の表面に、アモルファスセレン膜を形成した。
【0060】
蒸発室22の材料容器24は、直径40mm、高さ80mmのステンレス製の円筒状の容器とした。
混合室20は、ステンレス製で、底面および上面が120×120mmで、高さが30mmの直方体とした。混合室20の壁の厚さは2mmであるので、蒸発室22の排出口22aから天井面までの間隔は、28mmである。
また、混合室20の開口部20aは、40×40mmの矩形で、混合室20の上面の中心の位置に形成した。
【0061】
材料容器24は、図2(A)に示すように、上方から見た際に、開口部20aから臨まれる排出口22a(排出口22aの混合室20上面で隠れない領域)が扇形となるように、開口部20aの角部近傍で、かつ、排出口22aの75%が混合室20の上面で隠れるように配置した。
さらに、材料容器24の高さ80mmに対して6巻(すなわち、巻回の密度が約13.3mm当たりに1巻(ピッチが約13.3mm))で、直径が44mmの螺旋状に巻回した電熱線26(シースヒータ 岡崎製作所製)を、材料容器24を挿通するように配置した。なお、電熱線26は、全ての領域で材料容器24の側面との間隔が等しくなるようにした。
【0062】
180×240mm、厚さ5mmのガラス製の基板Sを基板ホルダ30に収容して、この基板ホルダ30を蒸着装置10のホルダ装着部32に装着した。なお、基板保持手段14には、基板Sを加熱するために、温水を循環する加熱手段を設けた。
また、Naを10ppm(重量)ドープしたセレン(Se)を150gずつ、各蒸発室22の材料容器26に充填した(すなわち、成膜材料は計600g)。また、各材料容器26には、底面の中心に、温度測定手段としてK型熱電対を固定した。
【0063】
真空チャンバ12を閉塞した後、真空ポンプ(ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、ディフュージョンポンプの組み合わせ)を駆動し、メイン排気バルブを開いて、真空チャンバ12内を排気して、8×10−4Paの真空度とした。
また、基板保持手段14に設けた加熱手段に50℃の温水を供給して、50℃となるように基板Sを加熱した。
さらに、電熱線26に通電して、成膜材料の加熱を開始した。なお、加熱は、材料容器24の底面に固定したK型熱電対による温度測定結果に応じて、成膜材料(材料容器24底面)の温度が270℃となるように、フィードバック制御した。
【0064】
加熱を開始した後、45分を経過した時点で、シャッタを開放して、基板Sへのアモルファスセレン膜の成膜を開始した。なお、この加熱開始からシャッタ開放までの時間は、予め実験によって調べた、この加熱条件(前記270℃でのフィードバック制御)における、成膜材料の全量が溶融する時間に応じたものである。
シャッタを開放した後、300分を経過した時点で、電熱線26への通電を停止して、また、基板Sの加熱手段による温度制御も停止した。次いで、真空チャンバ12内を大気開放して、基板ホルダ30を取り出し、基板ホルダ30から基板Sを取り出した。なお、本例では、基板Sの回転は行なわなかった。
【0065】
基板Sの表面には、厚さ約200μmのアモルファスセレン層が形成されていた。
形成したアモルファスセレン層の表面を顕微鏡(NIKON社製:ECLIPSE L200)で観察して、1μmを超える欠陥の数を確認した。その結果、点欠陥の数は、8個であった。
【0066】
[実施例2]
蒸着源18の全ての蒸発室22において、材料容器24の上下方向の中央から上における電熱線の巻回の密度を倍にした以外は、前記実施例1と全く同様にして基板Sにアモルファスセレン層を形成した。
基板Sの表面には、厚さ約200μmのアモルファスセレン層が形成されていた。同様に、形成したアモルファスセレン層の表面を顕微鏡で観察して、1μmを超える欠陥の数を確認したところ、欠陥の数は1個であった。
【0067】
[実施例3]
蒸着源18の蒸発室22の位置を排出口22aの対角線方向の外側にずらして、図2(C)に示すように、排出口22aの全域が混合室20の上面に隠れる位置とした以外は、前記実施例1と全く同様にして基板Sにアモルファスセレン層を形成した。
基板Sの表面には、厚さ約200μmのアモルファスセレン層が形成されていた。同様に、形成したアモルファスセレン層の表面を顕微鏡で観察して、1μmを超える欠陥の数を確認したところ、欠陥の数は0個であった。
【0068】
[比較例1]
蒸発源18の代わりに、図5に模式的に示すような、直径120mmの円筒状のルツボ(カップ型のルツボ)を用い、成膜材料の全量をこのルツボに充填して、成膜を行なった以外は、前記実施例1と全く同様にして基板Sにアモルファスセレン層を形成した。
なお、電熱線26の巻回の密度、および、ルツボ側面と電熱線26との距離は、実施例1と同様になるように、電熱線26を螺旋状に巻回し、かつ、ルツボに挿通し、さらに、ルツボの底面にK型熱電対を固定した。また、加熱開始からシャッタの開放までの時間は120分とし、また、成膜の時間は300分とした。このシャッタ開放までの時間および成膜時間は、予め実験によって調べた、この加熱条件(前記270℃でのフィードバック制御)における、成膜材料の全量が溶融する時間、および、厚さ200μmのアモルファスセレン層を形成するのに必要な時間に応じたものである。
基板Sの表面には、厚さ約200μmのアモルファスセレン層が形成されていた。同様に、形成したアモルファスセレン層の表面を顕微鏡で観察して、1μmを超える欠陥の数を確認したところ、欠陥の数は25個であった。
【0069】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

上記表1に示されるように、本発明によれば、欠陥数を大幅に低減できると共に、加熱開始から蒸着開始までの時間も短縮できる。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の蒸発源を利用する本発明の真空蒸着装置の一例の模式図である。
【図2】(A)は図1に示される本発明の蒸発源の上面の模式図、(B)は同正面の模式図である。
【図3】本発明の蒸発源の別の例の上面の模式図である。
【図4】(A)は、本発明の蒸発源の別の例の上面の模式図、(B)は、同正面の模式図である。
【図5】本発明の比較例で用いたルツボの模式図である。
【符号の説明】
【0071】
10 (真空)蒸着装置
12 真空チャンバ
14 基板保持手段
16 回転手段
18,40 蒸発源
20 混合室
22 蒸発室
24 材料容器
26 電熱線
42 遮蔽部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着用の蒸発源であって、
成膜材料を充填して加熱する、複数の蒸発室と、
前記蒸発室の上に配置される、前記蒸発室からの成膜材料の蒸気を排出するための1つの開口を有する遮蔽部材とを有することを特徴とする蒸発源。
【請求項2】
前記蒸発室の蒸気排出口を内包し、かつ、前記遮蔽部材を上面とする、前記遮蔽部材の開口以外は閉空間となっている混合室を有する請求項1に記載の蒸発源。
【請求項3】
全ての蒸発室の蒸気排出口の少なくとも一部が、前記遮蔽部材の開口以外の領域の下方に位置する請求項1または2に記載の蒸発源。
【請求項4】
全ての蒸発室の蒸気排出口の全部が、前記遮蔽部材の開口以外の領域の鉛直方向の下方に位置する請求項3に記載の蒸発源。
【請求項5】
前記蒸発室に充填した成膜材料の加熱を、前記蒸発室を外側面から加熱する加熱手段で行い、かつ、前記加熱手段による加熱の条件が、前記蒸発室の下方よりも上方の方が高温となる条件である請求項1〜4のいずれかに記載の蒸発源。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかに記載の蒸発源を用いる真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−297582(P2008−297582A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143201(P2007−143201)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】