説明

蒸着マスク、有機LED、及び有機LEDの製造方法

【課題】有機LEDの製造において蒸着処理を精度よく行う。
【解決手段】蒸着のための貫通孔54,60,...を備えた蒸着マスク10の上面には、嵌合部として台形上の凸部150,152が設けられている。また、基板100の下面には、対応する凹部160,162が設けられている。蒸着は両者を嵌合した状態で行う。これにより、熱膨張にともなう位置ずれを防止することができる。嵌合部は、基板10に製作されるパネルの周囲に設置してもよいし、複数の有機発光素子からなるピクセルの周囲に設置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に有機発光素子を形成する技術、特に、蒸着を精度よく行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機LED(発光ダイオード)は、LEDと同じ発光原理をもつ有機発光素子、あるいは、この有機発光素子を備えたデバイスである。基板上に複数の有機発光素子を設けて制御することで、有機LEDによるフラットパネルディスプレイ(FPD)を製造することができる。
【0003】
有機発光素子の形成においては、一般に、基板に対する蒸着処理が行われる。処理においては、まず、有機発光素子に対応した貫通孔を有する蒸着マスクが、ガラス基板に対し所定のアライメント精度(位置精度)でセットされた後、ガラス基板に密着して保持される。そして、蒸着装置内においてマスクされたガラス基板上に有機層などの蒸着形成を行うことで、基板の所定の位置に有機発光素子が形成されるのである。
【0004】
下記特許文献1には、蒸着マスクの外周を適当な温度膨張係数を持つ素材で強化する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−220656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸着装置内は蒸着時に温度が上昇するため、蒸着マスクとガラス基板には、温度上昇にともなう微量の熱膨張が発生する。一般に、膨張の大きさは両者において異なり、また、膨張による面内方向のずれの力は、密着保持力を上回る。したがって、両者は面内方向に位置ずれを起こすことになり、そのずれの大きさはガラス基板(蒸着マスク)の大きさに比例する。
【0007】
本発明の目的は、有機LEDの蒸着の精度を向上させることにある。
【0008】
本発明の別の目的は、蒸着前になされた基板と蒸着マスクとのアラインメント精度が蒸着時に低下する事態を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蒸着マスクは、基板上に形成される複数の有機発光素子に対応した貫通孔を備え、この基板に重ねられてこれらの有機発光素子の蒸着形成に用いられる板状の蒸着マスクにおいて、基板と対向する面内に貫通孔の分布範囲に応じて広範囲に設けられ、基板上の対応する構造と嵌合し、基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する嵌合部を備える。
【0010】
基板とは、ガラスや樹脂などで形成された板状部材であり、その上に電極や有機素材などが積層形成されていてもよい。基板上には、複数の有機発光素子が形成される。蒸着マスクは、これら複数の有機発光素子、あるいは、そのうちの一部である複数の有機発光素子を蒸着形成するために用いられる。すなわち、蒸着マスクには、有機発光素子に対応した貫通孔が設けられており、この部分においてのみ気化した蒸着物質を貫通させて基板上に蒸着させる。
【0011】
蒸着マスクには、基板と対向する面内に嵌合部が設けられている。また、基板には、嵌合部と対応する箇所に嵌合部と嵌合するための構造が設けられている。嵌合部はポイント状のものが複数配置されて構成されていても、連続する長形状(ビーム状、曲線状など)のものにより構成されていても、これらが組み合わされて構成されていてもよい。こうした嵌合部は、蒸着マスク上に2次元的な広がりをもった範囲に配置される。熱膨張による位置ずれは、面内の各方向に起こりうるため、それを抑制する嵌合部も2次元的に広がって配置される必要があるからである。配置の具体的な距離は位置ずれの大きさに基づいて定めればよいが、一般には、嵌合部を内包する最小の図形が、蒸着マスクの広い範囲を覆う程度であることが望ましい。位置ずれの防止効果は、この図形の内部及び外部の近傍において高いからである。
【0012】
蒸着マスクは、嵌合部を基板の対応構造に嵌合させることで、基板の所定位置に取り付けられる。この位置関係は、嵌合位置が相対的に固定されているため、蒸着装置内で高温化され熱膨張が発生した場合にも保たれる。特に嵌合部付近や、複数の嵌合部の間においては、蒸着マスクと基板は面内方向にほとんど位置ずれを起こすことはなく、高い蒸着精度が確保される。
【0013】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、嵌合部の少なくとも一部は、全ての貫通孔を含む領域を取り囲んで配置され、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。領域の周囲の取り囲みは、連続的に行われてもよいし、例えば領域の頂点のみに嵌合部が配置されるなど、距離をあけて飛び飛びに行われてもよい。いずれにせよ、周囲を囲うことで、その内側において基板と蒸着マスクとの位置ずれ防止効果が高まる。また、貫通孔の周囲は、貫通孔や対応する有機発光素子が設けられておらず、嵌合部や対応する基板上の構造を配置しやすい利点もある。
【0014】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、基板には、複数の有機発光素子を備えたパネルが距離をおいて複数個形成され、嵌合部の少なくとも一部は、パネル間に対応する位置に設けられて少なくとも一つのパネルに対応する領域を取り囲み、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。
【0015】
つまり、この基板には、最終的に切り離され、別々のデバイスとして使用される複数のパネルが形成されている。そして、各パネルには複数の有機発光素子が設けられている。この場合、パネル間には、貫通孔や有機発光素子が存在しない。そこで、パネル間に嵌合部を設けた場合、取り付け位置の制限を受けにくく、また、嵌合部及び対応する基板状の構造を頑強にすることも可能となる。そして、嵌合部で取り囲んだ領域について、基板と蒸着マスクの位置ずれを有効に防止できる。
【0016】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、嵌合部の少なくとも一部は、各パネル間に対応する位置に設けられて各パネルに対応する領域を取り囲み、各パネルにおける基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。
【0017】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、基板には、複数の有機発光素子を備えたパネルが距離をおいて複数個形成され、当該蒸着マスクは、周囲に比べて柔軟に形成された可撓部であって当該蒸着マスクを複数に分割するようにパネル間に対応する位置に沿って配置された可撓部を備え、嵌合部は、分割される各領域内にその貫通孔の分布に応じて広範囲に設けられ、各領域における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。
【0018】
可撓部は、周囲に比べて曲げ、圧縮、伸張等による変形が容易となるように構成された部位であり、例えば、材質を変化させたり蒸着マスクの板厚を変化させたりして作ることができる。可撓部は、柔軟に変形することで、嵌合部の嵌合を容易にする効果がある。また、熱膨張による面内方向のずれを吸収する効果もある。可撓部は、各パネルに対応する領域を分割するように設けられてもよいし、複数のパネルををひとまとまりとして他の領域から分割するように設けられてもよい。
【0019】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、基板には、発光色の異なる複数の有機発光素子を組み合わせてなるピクセルが複数個形成され、当該蒸着マスクは、ある発光色をもつ複数の有機発光素子に対応した貫通孔を備え、嵌合部の少なくとも一部は、ピクセル間に対応する位置に設けられて少なくとも一つのピクセルに対応する領域を取り囲み、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。嵌合部はピクセル単位でアライメント精度の向上を図るために設けられている。
【0020】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、嵌合部の少なくとも一部は、各ピクセル間に対応した位置に設けられて各ピクセルに対応する領域を取り囲み、各ピクセルにおける基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する。
【0021】
望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、嵌合部は、基板上の対応する構造に対し、近傍の基板と当該蒸着マスクとが非接触に保たれる距離で嵌合される。望ましくは、本発明の蒸着マスクにおいて、嵌合部と基板上の対応する構造は、一方が先細の凸形状であり、他方が対応する先太の凹形状であり、斜めに形成された側面同士のみを当接させて嵌合される。側面は直線的であってもよいし、丸みを帯びるなどの曲線的構造であってもよい。摩擦抵抗を高めるために、側面の表面に細かな凹凸をつけるなどして滑らかさを低減させておくことも有効である。
【0022】
本発明の有機LEDは、蒸着マスクを重ねられて蒸着処理を受け、基板上に複数の有機発光素子が形成された有機LEDであって、蒸着マスクと対向する面内に有機発光素子の分布範囲に応じて広範囲に設けられ、蒸着マスクの対応する構造と嵌合し、蒸着マスクと当該基板との面内方向の位置ずれを防止する嵌合部を備える。
【0023】
本発明の有機LED製造方法は、前記蒸着マスクを用いて有機LEDを製造する方法であって、蒸着マスクの嵌合部を有機LEDの基板上の対応する構造に嵌合させ、蒸着マスクと基板とを重ね合わせる工程と、重ね合わせた蒸着マスクと基板に対し蒸着処理を行って、基板上に有機発光素子を蒸着形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明の技術により、有機LEDの蒸着処理が、嵌合部の分布パターンに応じた高い精度で実現される。これにより、例えば、従来よりも素子間隔を狭めた高分解能デバイスの製造も可能になると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、代表的な三つの実施の形態を説明する。しかし、本発明の形態はこれらの態様に限定されるものでないことは言うまでもない。
[実施形態1]
【0026】
図1は、本実施の形態に係る蒸着マスク10の平面図である。蒸着マスク10は、金属製の薄い平板を加工して作られている。金属としては、例えば、低膨張の合金として知られるINVARやNi−Coなどが用いられる。
【0027】
蒸着マスク10は、基板上に12個のカラーのパネルを作成するためのマスクとして用いられるものであり、蒸着過程において図示した面を基板に対向させて重ねられる。領域12,14,16,18,...は、この各パネルに対応しており、縦方向に3個、横方向に4個の合計12個の領域が、若干の距離をあけて配置されている。
【0028】
各パネルは、R(赤)G(緑)B(青)の3色の有機発光素子からなるピクセルを、複数個備える。そして、各有機発光素子は、その発光色に対応した有機層を蒸着することで形成される。蒸着マスク10は、このうちのRの有機発光素子を形成するためのものである。すなわち、RGBの3色のうち、Rの有機発光素子に対応した部分には貫通孔が設けられ、残るGBの二色の有機発光素子に対応した部分には孔があけられていない。
【0029】
図1においては、各有機発光素子と貫通孔のパターンを示すため、Rの有機発光素子に対応した貫通孔だけでなく、孔が開けられていないG,Bの有機発光素子の配置も描いている。例えば、右上の領域18においては、その最上列には、左から順にB,G,Rの各色に対応する小領域50,52,54,56,58,60,...が示されている。小領域50,52,54と小領域56,58,60はそれぞれ一つのピクセルを構成している。また、Rに対応する小領域54,60は、それぞれ貫通孔54,60を表している。
【0030】
各パネルに対応した領域には、その外縁部近くに嵌合部として凸状の出張り構造が設けられている。この構造は、領域18に符号70で示したように、有機発光素子に対応するパターン全体を取り囲む長方形状に作られている。
【0031】
図2は、図1のXX’について、蒸着過程における断面を示した図である。ここでは、蒸着マスク10は、基板100に対して重ね合わされいる。この吸引には、基板100の上側にある図示していない電磁石が用いられている。
【0032】
基板100は、ガラス基板102と、その下側に設けられた複数の層104,106,108,110を含んでいる。層104,106,108は、例えば、ITO電極層、ホール注入層、ホール輸送層に相当する。ただし、周知の通り、有機LEDを何層で構成するかには任意性があり、図示した積層パターンはその一例に過ぎない。
【0033】
層110は、形成される有機発光素子を分離するために設けられている。つまり、有機発光素子が形成されない部分には層110が設けられ、有機発光素子が形成される部分には層110が設けられていない。具体的には、図1に示した小領域50,52,54,56,58,60,...のパターンに対応して、B色素子120,G色素子122,R色素子124,B色素子126,G色素子128,R色素子130,...の形成が行われている。
【0034】
蒸着マスク10は、Rの有機発光素子を形成するためのものである。このため、図1で説明したように、Rに対応した小領域54,60,...のみが貫通孔54,60,...となっており、B,Gに対応した小領域50,52,56,58,...には孔が形成されていない。
【0035】
蒸着マスク10の上面には、図1に符号70で示した凸状の出張り構造の断面である凸部150,152が設けられている。その大きさは、例えば高さ2μm、幅10μm程度である。もちろん、この大きさに限定されるものではなく、必要な強度等を参酌して適宜定めることができる。一方、基板100の下面を構成する層110には、対応する凹部160,162が設けられている。凸部150,152は先端(図の上側)の方が細くなった台形状であり、凹部160,162が先端(図の下側)の方が太くなった台形状である。そして、この台形の側面の斜め部分のみを接触させて互いに嵌合されている。つまり、この台形の側面以外では、蒸着マスク10と基板100は互いに非接触に保たれている。これは、蒸着マスク10によって、基板100に形成された有機発光素子の構造が破壊されるのを防ぐためである。ただし、蒸着マスク10と基板100との距離が大きい場合には、マスク効果が低減してしまう。そこでこの間隔は例えば10μm程度以下に設定される。
【0036】
基板100と蒸着マスク10は、CCDカメラを用いた制御等により嵌合位置に位置あわせされる。そして、基板100の背後に設けた電磁石によって蒸着マスク10が基板100の下面に吸い寄せられ、両者は嵌合する。
【0037】
この蒸着過程においては、蒸着マスク10は、その有機材料の加熱にともなう熱により熱膨張する。また、基板100は、蒸着マスク10の背後に位置するため比較的低温に保たれるが、素材の特性のために蒸着マスク10よりも大きな熱膨張を示す。しかし、R色素子124,130,...と対応する貫通孔54,60,...が位置ずれを起こすことはない。これらの両外側において凸部150と凹部160及び凸部152と凹部162がそれぞれ嵌合し、水平方向のずれを防いでいるためである。
【0038】
この構成によれば、位置ずれの精度は、各パネルの領域内の微少誤差に抑えられている。また、各パネルにおける熱膨張の影響は、他のパネルには及ばない。そして、もしなんらかの原因で一部の嵌合が外れた場合にも、その影響は他の領域には影響することはない。このようにして、高い精度での蒸着処理が実現される。
【0039】
真空蒸着装置においては、B,Gの各色の有機発光素子の形成も同様にして行われる。すなわち、B色素子120,126,...の発光層の形成を行う場合には、蒸着マスク10の代わりに、Bに対応した小領域50,56,...のみに貫通孔が設けられた蒸着マスクが使用される。また、G色素子122,128,...の発光層の形成を行う場合には、Gに対応した小領域52,58,...のみに貫通孔が設けられた蒸着マスクが使用される。これらの蒸着マスクにおいては、望ましくは蒸着マスク10と同位置に嵌合部が設けられ、これにより、基板100上に複数の対応する嵌合構造を形成する無駄が省かれる。
【0040】
なお、ここでは、蒸着マスク10の側に嵌合部としての凸状の出っ張り構造を設け、基板100の側に対応構造としての凹状の構造を設けた。しかし、形状は嵌合可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、蒸着マスク10の側を凹状とし、基板100の側を凸状としてもよい。熱膨張率が相対的に大きな部材を凸状とし、熱膨張率が相対的に小さな部材を凹状として、熱膨張時の嵌合を強固にすることも有効である。また、断面形状も様々に設定可能であり、図示した台形状のみならず、長方形形状でも、丸みを帯びた形状であってもよい。望ましくは、初期に嵌合が容易であり、蒸着過程で水平ずれを起こす力が加わったときに外れにくいように、その迎え角や曲率が理論的にあるいは実験的に定められる。
[実施形態2]
【0041】
次に、図3、図4、図5を用いて、第2の実施の形態について説明する。この実施の形態は、蒸着により有機LEDのパネルを形成することに関しては実施形態1と同様である。そこで、同様の構成については説明を省略または簡略化し、本実施の形態に特徴的な点について詳しく説明する。
【0042】
図3は、蒸着マスク200の平面図であり、図1に対応した図である。図4は、図3の拡大図であり、図3のパネル対応領域210についてその上部付近を詳細に示している。また、図5は、蒸着マスク200が基板300の蒸着に用いられる様子を図3あるいは図4のYY’について示した断面図であり、図2に対応した図である。
【0043】
蒸着マスク200には、基板300に形成される各有機発光素子に対応した小領域が示されている。例えば、図4には、Rの有機発光素子に対応した小領域220,226,234、Gの有機発光素子に対応した小領域222,228,232,238、Bの有機発光素子に対応した小領域224,230,236が示されている。蒸着マスク200は、Rの有機発光素子の有機層を蒸着形成するために用いられる。このため、Rの有機発光素子に対応した小領域220,226,234は貫通孔220,226,234となっている。
【0044】
この有機LEDでは、RGBの有機発光素子が組み合わさって多色の画素を表現する。つまり、小領域220,222,224は一組のピクセルに対応したピクセル領域250に含まれ、小領域230,232,234は別の一組のピクセルに対応したピクセル領域252に含まれている。
【0045】
本実施の形態においては、各ピクセルにおける蒸着マスク200と基板300との水平ずれを防ぐため、各ピクセルの近辺に嵌合構造を設けている点に特徴がある。具体的には、図4の符号260で示したように、縦横に直線状にのびるこの構造が格子を形成し、各ピクセルを取り囲んでいる。
【0046】
個々の嵌合構造の態様は、実施形態1と同様である。すなわち、図5に示すように、蒸着マスク200の上面には、凸状の出張り構造である凸部270,272が形成され、基板300の下面には対応した凹部315,320が形成されている。
【0047】
図4や図5からわかるように、ここでは、異なるピクセルに対応する例えば小領域224と小領域226との間隔を同じピクセルに対応する例えば小領域222と小領域224との間隔に比べて若干大きく設定している。つまり、有機発光素子の形成間隔をピクセル内とピクセル外で変化させている。しかし、嵌合構造を小さく形成することが可能であれば、全ての有機発光素子の形成間隔を等しくすることも可能である。
【0048】
なお、ピクセルを構成するBGRの有機発光素子の組み合わせには任意性がある。例えば、図4において、小領域222,224,226に対応した三つの有機発光素子が一つの画素単位を構成しているとみることができる。つまり、ピクセルとは、回路や電気信号によって定められる特定の三つの有機発光素子の組み合わせではなく、近傍の三つの有機発光素子の組み合わせを指すとみなすこともできる。
[実施形態3]
【0049】
次に、図6、図7を用いて、第3の実施の形態について説明する。この実施の形態は、蒸着により有機LEDのパネルを形成することに関しては実施形態1と同様である。そこで、同様の構成については説明を省略または簡略化し、本実施の形態に特徴的な点について詳しく説明する。
【0050】
図6は、蒸着マスク400の平面図であり、図1に対応した図である。また、図7は、蒸着マスク400が基板500の蒸着に用いられる様子を図6のZZ’について示した断面図であり、図2に対応した図である。
【0051】
基板500には12個のパネルが形成され、蒸着マスク400には対応する12個の領域410,412,414,416,...が存在する。そして、この領域の外縁部付近に嵌合部としての凸状の出張り構造が設けられている。例えば、領域416内には、その外辺近くに符号430で示された凸状の出張り構造が設けられている。この態様は、実施形態1で説明したものと同様である。
【0052】
本実施形態において特徴的な点は、パネルに対応した各領域410,412,414,416,...が、格子状に設けられ可撓部440によって囲まれている点である。あるいは、各領域410,412,414,416,...は、可撓部440によって仕切られて分断されているとみなすこともできる。
【0053】
可撓部440は、素材や構造等を変化させることで周囲よりも弾性をもたせ、曲げ変形が容易となるように形成された構造である。図7には、可撓部440の断面である皺部450,452が示されている。皺部450,452は、周囲よりも薄く、かつ、短い間隔で折り曲げられた構造を有している。この構造のために、皺部450,452は、この鉛直断面内で力を作用させた場合に、伸縮や曲げにより容易に変形し、また、力を解放した場合に元の形状に容易に回復する。この可撓部440を導入することにより、蒸着マスク400を基板500に嵌合させる工程が容易化される。嵌合構造の微少な製造誤差等を吸収するからである。
【0054】
この構成においては、蒸着処理の過程で蒸着マスク400と基板500とが異なる大きさで熱膨張した場合、各パネルにおいては、嵌合構造によって両者の水平の位置ずれは防止される。例えば図7に示すように、蒸着マスク400には皺部450,452の内側に凸部460,462が設けられており、基板500の対応する凹部502,504と嵌合している。このため、パネル内で両者が位置ずれは抑制される。
【0055】
各パネルにおける位置ずれは、嵌合構造の間において蒸着マスク400や基板500がソリ変形などを行うことで吸収される。各パネルのこの変形の影響は、一般には、近傍のパネルにも及ぶことになる。しかし、本実施の形態においては、可撓部440が撓ることでこの影響を効率よく吸収するため、近傍のパネルの影響が排除される。つまり、可撓部440には、蒸着マスク400の可撓部440以外の部位や基板500に作用するずれの力を減少させ、蒸着マスク400と基板500との嵌合が外れにくくなる効果がある他、蒸着マスク400や基板500の設計強度を小さくできるなどの利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】蒸着マスクの構成例を示す平面図である。
【図2】図1の蒸着マスクで蒸着を行った場合の断面図である。
【図3】別の蒸着マスクの構成例を示す平面図である。
【図4】図3の蒸着マスクの拡大図である。
【図5】図3の蒸着マスクで蒸着を行った場合の断面図である。
【図6】さらに別の蒸着マスクの構成例を示す平面図である。
【図7】図6の蒸着マスクで蒸着を行った場合の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10,200,400 蒸着マスク、12,14,16,18 領域、50,52,56,58 小領域、54,56 小領域・貫通孔、100,300 基板、102 ガラス基板、104,106,108,110 層、120,126 B色素子、122,128 G色素子、124,130 R色素子、150,152 凸部、160,162 凹部、250,252 ピクセル領域、440 可撓部、450,452 皺部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される複数の有機発光素子に対応した貫通孔を備え、この基板に重ねられてこれらの有機発光素子の蒸着形成に用いられる板状の蒸着マスクにおいて、
基板と対向する面内に貫通孔の分布範囲に応じて広範囲に設けられ、基板上の対応する構造と嵌合し、基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する嵌合部を備える、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
嵌合部の少なくとも一部は、全ての貫通孔を含む領域を取り囲んで配置され、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項3】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
基板には、複数の有機発光素子を備えたパネルが距離をおいて複数個形成され、
嵌合部の少なくとも一部は、パネル間に対応する位置に設けられて少なくとも一つのパネルに対応する領域を取り囲み、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸着マスクにおいて、
嵌合部の少なくとも一部は、各パネル間に対応する位置に設けられて各パネルに対応する領域を取り囲み、各パネルにおける基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項5】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
基板には、複数の有機発光素子を備えたパネルが距離をおいて複数個形成され、
当該蒸着マスクは、周囲に比べて柔軟に形成された可撓部であって当該蒸着マスクを複数に分割するようにパネル間に対応する位置に沿って配置された可撓部を備え、
嵌合部は、分割される各領域内にその貫通孔の分布に応じて広範囲に設けられ、各領域における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
基板には、発光色の異なる複数の有機発光素子を組み合わせてなるピクセルが複数個形成され、
当該蒸着マスクは、ある発光色をもつ複数の有機発光素子に対応した貫通孔を備え、
嵌合部の少なくとも一部は、ピクセル間に対応する位置に設けられて少なくとも一つのピクセルに対応する領域を取り囲み、その内側における基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸着マスクにおいて、
嵌合部の少なくとも一部は、各ピクセル間に対応した位置に設けられて各ピクセルに対応する領域を取り囲み、各ピクセルにおける基板と当該蒸着マスクとの面内方向の位置ずれを防止する、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項8】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
嵌合部は、基板上の対応する構造に対し、近傍の基板と当該蒸着マスクとが非接触に保たれる距離で嵌合される、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項9】
請求項8に記載の蒸着マスクにおいて、
嵌合部と基板上の対応する構造は、一方が先細の凸形状であり、他方が対応する先太の凹形状であり、斜めに形成された側面同士のみを当接させて嵌合される、ことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項10】
蒸着マスクを重ねられて蒸着処理を受け、基板上に複数の有機発光素子が形成された有機LEDであって、
蒸着マスクと対向する面内に有機発光素子の分布範囲に応じて広範囲に設けられ、蒸着マスクの対応する構造と嵌合し、蒸着マスクと当該基板との面内方向の位置ずれを防止する嵌合部を備える、ことを特徴とする有機LED。
【請求項11】
請求項1に記載の蒸着マスクを用いて有機LEDを製造する方法であって、
蒸着マスクの嵌合部を有機LEDの基板上の対応する構造に嵌合させ、蒸着マスクと基板とを重ね合わせる工程と、
重ね合わせた蒸着マスクと基板に対し蒸着処理を行って、基板上に有機発光素子を蒸着形成する工程と、
を含む、ことを特徴とする有機LEDの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−127772(P2006−127772A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310469(P2004−310469)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】