説明

蒸着マスクのクリーニング方法、蒸着マスククリーニング装置、有機EL素子の製造方法、および、有機EL素子の製造装置

【課題】 本来の形状寸法を維持しつつ、できるだけ多数回、蒸着マスクの使用を可能にすることのできる蒸着マスクのクリーニング方法を実現する。
【解決手段】 堆積物が付着した蒸着マスク1に対し、蒸着マスク1における堆積物が付着した面の振動を誘起するレーザービーム15を照射し、蒸着マスク1から堆積物を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスクを使用した成膜一般に関し、特に、蒸着マスクのクリーニング方法、蒸着マスククリーニング装置、有機EL素子の製造方法、および、有機EL素子の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸着により成膜可能な蒸着材料を成膜するための蒸着マスクは、例えば、有機EL素子の有機材料の蒸着等に用いられる。このような蒸着マスクを用いて蒸着処理を繰り返し行うと、蒸着材料が蒸着マスクに堆積し、また、マスク開口部が堆積物により塞がれたり、堆積した蒸着材料が蒸着源に落下しこれを汚染したりすることもある。そのため、蒸着マスクに付着した蒸着材料(堆積物)を取り除くために、蒸着マスクをクリーニングする必要がある。
【0003】
従来から、蒸着マスクのクリーニングは、主に化学薬品を大量に使用して行われている。このようなクリーニングの多くは、水や溶剤を使用し、また強酸や強アルカリを使用するため、特別な作業環境を必要とする。この蒸着マスクのクリーニング方法は、ウエット法(ウエットプロセス)と呼ばれている。このウエット法で発生する多量の廃液は特別な廃液処理を必要とする。そのため、ウエット法を用いての蒸着マスクのクリーニングは、トータルコストが高くつく。また、環境汚染のリスクをも伴っている。
【0004】
一方、このウエット法に対する改善策の一つにドライ法を用いた蒸着マスクのクリーニングがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−103512(2004年4月2日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドライ法の多くは、蒸着マスクに付着した堆積物を蒸発、昇華させる方法であるので、大気汚染を伴う。そのため、特別の排気系やフィルターを必要とする。
【0006】
更に、従来技術において用いられるドライ法は、蒸発、分解させるために、堆積物の沸点温度、分解温度に相当する高温を必要とする。また、ウエット法の場合も除去効率を上げるために昇温を必要とする。ここで、一般に蒸着マスクの材料の厚みは薄いものが多い。なお且つ蒸着マスクの蒸着対象物体(被蒸着部材)表面への密着性を確かなものにするために、蒸着マスクはより強靭な枠に適当なテンションで張り付けられている。このことを図5を用いて具体的に説明する。図5に示すように、外枠8における貼り付け部9に対して、蒸着マスク1が張られる。貼り付け部9の外側が蒸着マスク1の外側とほぼ一致するように蒸着マスク1が貼り付けられる。このように貼り付けられた蒸着マスクは、温度に対して敏感なものとなっている。このような蒸着マスクは、昇温や高温にさらすことにより、直ぐに伸びてしまう。あるいは1、2度のクリーニングで寸法精度が確保できなくなる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、本来の形状寸法を維持しつつ、できるだけ多数回、蒸着マスクの使用を可能にする、簡便で環境に配慮した蒸着マスクのクリーニング方法、蒸着マスククリーニング装置、有機EL素子の製造方法、および、有機EL素子の製造装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記の課題を解決するために、高価な蒸着マスクを長期間使用可能にする諸条件を鋭意検討し、実験を繰り返した結果、以下に示す蒸着マスクのクリーニング方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法は、上記課題を解決するために蒸着マスクから、当該蒸着マスクに付着した当該蒸着マスクとは異なる材質を有する堆積物を除去する蒸着マスクのクリーニング方法において、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起するエネルギービームを、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに照射し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離することを特徴としている。
【0010】
上記方法によると、エネルギービームを照射して蒸着マスクを振動させることで蒸着マスクに付着した堆積物を剥離して除去する。この剥離について説明する。クリーニングを必要とする蒸着マスクの表面に、この蒸着マスクの材質に多少の吸収をもつ波長のエネルギービームを照射し、照射点に物理的な振動を発生させる。ここで、蒸着マスクの材質と堆積物の材質とは異なるので、振動に対する力学的な応答の違いが生ずる。この両者の物性の違いが剥離の駆動力になる。
【0011】
蒸着マスクに照射するエネルギービームは、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離させるためのものであるため、クリーニングにおいて蒸着マスクが高温にさらされることはない。そのため、蒸着マスクの元々の形状寸法を維持しつつクリーニングすることができる。よって、多数回、長期間の蒸着マスクの使用を可能にすることができる。
【0012】
また、堆積物を蒸着マスクから剥離する、つまり固体として除去することができる。よって、堆積物が蒸発または昇華することがないため、特殊な排出系やフィルター等を用いなくても、大気汚染を引き起こすことなく蒸着マスクから堆積物を除去することができる。
【0013】
また、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法では、上記エネルギービームとして、レーザービームを用いてもよい。
【0014】
上記方法によると、エネルギービームとしてレーザービームを用いるので、照射するビームの波長や強度を調整しやすい。それゆえ、希望の波長や強度のビームを効率よく蒸着マスクに照射することができる。また、レーザービームは、指向性に優れており、直進性が強く広がりにくいため集光させやすい。集光させることで、局所的にビームを照射することができる。
【0015】
また、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法では、上記方法に加え、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに、上記エネルギービームが透過するフィルムを貼り付け、当該フィルムを介して上記エネルギービームを照射してもよい。
【0016】
上記方法によると、フィルムを貼り付けることで剥離された堆積物の周囲への飛散を回避することができる。
【0017】
このフィルムの貼り付けは、蒸着マスクの両面に行うのが好ましい。両面にフィルムが貼り付けられていると、蒸着マスク裏面(被蒸着物質に向き合う面)に堆積物が回り込んで付着している場合に対応することができるからである。つまり、両面にフィルムが貼り付けられているものは、蒸着マスクの両面にエネルギービームを照射して堆積物を除去するのに適している。しかし、フィルムの貼り付けは両面には限定されず、例えば、堆積物が蒸着マスク裏面にまわりこんで付着していない場合や、まわりこんで付着していても差し支えない場合には、フィルムの貼り付けは、除去したい堆積物が付着した片面だけに行ってもかまわない。
【0018】
また、上記フィルムが、堆積物が付着する程度の粘着性を有していると、エネルギービーム照射後にフィルムを剥がすことで、剥離された堆積物をこのフィルム面に付着させて、簡単に堆積物を回収することができる。
【0019】
また、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法では、上記堆積物の除去は真空槽内において行われてもよい。
【0020】
上記方法によると、例えば、真空槽内で蒸着処理により成膜工程が行われる場合に、成膜に用いられた蒸着マスクをそのまま真空槽内でクリーニングし、再使用することができる。そのため、真空度を低下させたり真空引きを再度行ったりする必要がない。よって、時間を要することなく、何度でも高価な蒸着マスクのクリーニングをインラインで行うことができる。
【0021】
また、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法では、上記蒸着マスクがSUSで形成されている場合、上記エネルギービームとして245〜110000nm波長のレーザービームを照射してもよい。
【0022】
また、本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法では、上記蒸着マスクがニッケルで形成されている場合、上記エネルギービームとして245〜110000nm波長のレーザービームを照射してもよい。このように蒸着マスクの材質に応じて波長を変更し、蒸着マスクが振動して、堆積物の剥離が行われる波長のエネルギービームを照射すればよい。
【0023】
本発明に係る蒸着マスククリーニング装置は、上記課題を解決するために、蒸着マスクから、当該蒸着マスクに付着した当該蒸着マスクとは異なる材質を有する堆積物を除去する蒸着マスククリーニング装置において、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離させるためのエネルギービームを、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに照射するビーム照射手段を有することを特徴としている。
【0024】
上記構成によると、エネルギービームを照射して蒸着マスクを振動させることで蒸着マスクに付着した堆積物を剥離して除去することができる。蒸着マスクに照射するエネルギービームは、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、蒸着マスクから堆積物を剥離させるためのものであるので、蒸着マスクの元々の形状寸法を維持しつつクリーニングすることができる。
【0025】
また、本発明に係る蒸着マスククリーニング装置は、上記構成に加え、上記エネルギービームの照射点の集光スポットの近傍において、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起するように、上記エネルギービームを集光させる集光手段を備えていてもよい。
【0026】
上記構成によると、堆積物の剥離現象を起こさせるに充分な振幅及び振動数をもった振動を、ビーム照射点の集光スポットの近傍に起こさせることができる。そのため、局所的な堆積物の剥離に便利に適用することができる。
【0027】
本発明に係る有機EL素子の製造方法は、上記課題を解決するために、上記何れかに記載の蒸着マスクのクリーニング方法を用いて蒸着マスクから堆積物を除去する堆積物除去工程を含むことを特徴とする。
【0028】
上記方法によると、エネルギービームを照射して蒸着マスクを振動させることで蒸着マスクに付着した堆積物を剥離して除去する。蒸着マスクに照射するエネルギービームは、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離させるためのものであるため、クリーニングにおいて蒸着マスクが高温にさらされることはない。そのため、蒸着マスクの元々の形状寸法を維持しつつクリーニングすることができる。よって、有機EL素子の製造方法において、多数回、長期間の蒸着マスクの使用を可能にすることができる。蒸着マスクを繰り返し、多回数使用することができるので、コストを削減して、有機EL素子を製造することができる。また、堆積物を蒸着マスクから剥離して除去するため、堆積物が蒸発または昇華することがないので、環境に配慮して有機EL素子を製造することができる。
【0029】
本発明に係る有機EL素子の製造方法では、上記課題を解決するために、上記方法に加え、上記堆積物除去工程は、成膜室内において行われてよい。
【0030】
上記方法によると、成膜室で蒸着処理により成膜工程が行われる場合に、成膜に用いられた蒸着マスクをそのまま成膜室でクリーニングし、再使用することができる。成膜室が真空である場合でも、真空度を低下させたり真空引きを再度行ったりする必要がない。成膜室で堆積物を除去することができるため、蒸着マスクを取り出したりする時間を要することなく、何度でも高価な蒸着マスクのクリーニングをインラインで行うことができる。
【0031】
また、本発明に係る有機EL素子の製造装置は、上記課題を解決するために、上記に記載の蒸着マスククリーニング装置を含むことを特徴とする。
【0032】
上記構成によると、蒸着マスクのクリーニングを行っても、蒸着マスクの元々の形状寸法を維持することができる。よって、多数回、長期間の蒸着マスクの使用を可能にすることができる。蒸着マスクを繰り返し、多回数使用することができるので、コストを削減して、有機EL素子を製造することができる。また、堆積物を蒸着マスクから剥離して除去することができるので、堆積物が蒸発または昇華することがないため、環境に配慮して有機EL素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る蒸着マスクのクリーニング方法は、以上のように、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起するエネルギービームを、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに照射し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離する。
【0034】
上記方法によれば、エネルギービームを照射して蒸着マスクを振動させることで蒸着マスクに付着した堆積物を剥離して除去する。蒸着マスクに照射するエネルギービームは、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離させるためのものであるため、クリーニングにおいて蒸着マスクが高温にさらされることはない。そのため、蒸着マスクの元々の形状寸法を維持しつつクリーニングすることができる。よって、多数回、長期間の蒸着マスクの使用を可能にすることができる。
【0035】
また、また真空槽内でクリーニングを行っても、真空槽内を汚染したり、真空度を低下させたりすることなく、何度でも高価な蒸着マスクのクリーニングをインラインで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(実施の形態1)
本発明の一実施形態について図1〜図3に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態では、蒸着マスククリーニング装置を、有機EL素子の製造装置における有機EL膜の成膜に利用するものとして説明するが、本発明はこれに限定されず、蒸着マスクを使用した成膜全般に適用することができる。また、蒸着マスクとして、有機EL膜の成膜に用いられる蒸着マスク、また、堆積物として、有機EL膜を形成するための蒸着材料として説明するが、これらは単なる例示であり、限定されることはない。なお、蒸着マスクの材質と堆積物の材質とは異なるものとする。
【0037】
本実施形態の蒸着マスククリーニング装置30は、図1に示すように、光源(ビーム照射手段)11と集光レンズ(集光手段)14とを有する。
【0038】
光源11は、エネルギービームを放射するものである。本実施形態では、このエネルギービームはレーザービーム15であるとする。
【0039】
光源11として、例えば、Nd:YVO4レーザー、YAGレーザー、Arレーザー、COレーザー、エキシマレーザー等が好適に用いられる。また、照射するレーザー強度は、蒸着マスク1における上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、蒸着マスク1から堆積物を剥離できる強度であればよい。さらに、堆積物が蒸発または昇華しない強度であるのが好ましい。例えば、蒸着マスクの素材がSUSであると、レーザービームのパルス幅は、0.1〜200n秒、出力は1〜70W、繰り返しは1Hz〜45kHzであるのが好ましい。ここで、繰り返しとは、使用したレーザーパルスの繰り返し周波数を示すものである。つまり、5kHzとは1秒間に5000回照射しているということである。
【0040】
集光レンズ14は、レーザービーム15を蒸着マスク1上に集光させるものである。レーザービームを集光させることで、堆積物の剥離現象を起こさせるに充分な振幅及び振動数をもった振動を、ビーム照射点の集光スポットの近傍に起こさせることができる。そのため、局所的な堆積物の剥離に便利に適用することができる。
【0041】
ここでは、照射するレーザービーム15を蒸着マスク1上に集光させるために、集光レンズ14用いているが、集光の方法はこれには限定されない。また、光学部材も集光レンズに限定されることはないが、レーザービーム15を集光させることにより、蒸着マスク1に付着した堆積物が蒸発または昇華せず、蒸着マスク1における上記堆積物が付着した面の振動を誘起することができる集光径となるような、光学部材を用いるのが好ましい。
【0042】
また、蒸着マスククリーニング装置30は、平面ミラー12と、ガルバノミラー13とを備える。平面ミラー20は、光源11から出射したレーザービーム15を反射させ、ガルバノミラー13に導く。ガルバノミラー13は、レーザービーム15を蒸着マスク1上で走査させる。
【0043】
レーザービーム15を照射して蒸着マスク1を振動させることで蒸着マスク1に付着した堆積物を剥離して除去する。この剥離について説明する。クリーニングを必要とする蒸着マスク1の表面に、この蒸着マスクの材質に多少の吸収をもつ波長のレーザービーム15を照射し、照射点に物理的な振動を発生させる。ここで、蒸着マスク1の材質と堆積物の材質とは異なるので、振動に対する力学的な応答の違いが生ずる。この両者の物性の違いが剥離の駆動力になる。
【0044】
蒸着マスク1に照射するレーザービーム15は、蒸着マスク1における堆積物10が付着した面の振動を誘起し、蒸着マスク1から堆積物10を剥離させるためのものであるため、クリーニングにおいて蒸着マスク1が高温にさらされることはない。そのため、蒸着マスク1の元々のサイズを維持しつつクリーニングすることができる。よって、多数回、長期間の蒸着マスク1の使用を可能にすることができる。
【0045】
また、堆積物10を蒸着マスク1から剥離する、つまり固体として除去することができる。よって、堆積物10が蒸発または昇華することはないため、特殊な排出系やフィルター等を用いなくても、大気汚染を引き起こすことなく蒸着マスク1から堆積物10を除去することができる。
【0046】
また、レーザービーム15を用いるので、照射するビームの波長や強度を調整しやすい。それゆえ、希望の波長や強度のビームを効率よく蒸着マスク1に照射することができる。また、レーザービーム15は、指向性に優れており、直進性が強く広がりにくいため集光させやすい。集光させることで、局所的にビームを照射することができる。
【0047】
ここで、蒸着マスク1は、図2に示すように、成膜室31内に設置されている。成膜室31は、被蒸着基板(有機EL素子基板)に蒸着処理を行うための空間であり、本実施形態では、成膜室31には、少なくとも蒸着処理を行うための蒸着エリアと、蒸着マスクのクリーニングを行うための剥離エリアが設けられている。蒸着エリアでの蒸着処理は公知の方法で行われる。例えば、被蒸着基板(図示せず)に対向するように蒸着材料を保持した蒸発源(図示せず)が設けられている。また、被蒸着基板に蒸着マスク1が貼り付けられている。蒸発源から蒸発した蒸着材料は蒸着マスク1を介して被蒸着基板上に堆積され、蒸着処理により成膜が行われる。成膜室31はバキュームポンプで真空にされている。また、剥離エリアでは、蒸着マスクのクリーニングが行われる。
【0048】
このように、本実施の形態では、真空の成膜室31で蒸着処理により成膜工程が行われ、成膜に用いられた蒸着マスク1をそのまま真空の成膜室31でクリーニングし、再使用することができる。そのため、真空度を低下させたり真空引きを再度行ったりする必要がない。よって、時間を要することなく、何度でも高価な蒸着マスクのクリーニングをインラインで行うことができる。
【0049】
次に成膜室31内の剥離エリアでの蒸着マスクのクリーニングについて説明する。
【0050】
成膜室31において、蒸着エリアでの蒸着処理が行われた後、蒸着マスク1は、剥離エリアに移動される。この蒸着マスク1の移動は、例えば、ローダー等を用いて行えばよい。
【0051】
剥離エリアにおいて、蒸着マスク1に対して、フィルム4がクリーニング前の蒸着マスクに貼り付けられる。貼り付けは、フィルム巻き出しロール6が回転することで、フィルム巻き出しロール2から、ラミネートロール3を介して、フィルム4が引き出されることで、行われる。各ロールは、特に限定されるものではなく、例えば、ゴムライニングをしたロールであればよい。また、各ロールの操作は、例えば、成膜室31の外に設けられたの操作装置で行えばよい。
【0052】
なお、フィルム4は、堆積物10に確実にレーザーを当てるように目視で確認できるようにするため透明であることが好ましい。フィルム4は、レーザービームが透過するフィルムであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートの厚み50μmのもの、あるいは、ポリエチレンの厚み20μmのものが挙げられるが、材質、厚み等は、これらに限定されることはない。
【0053】
フィルム4を貼り付けた蒸着マスク1を図3に示す。このように、フィルム4を貼り付けた蒸着マスクにレーザービーム15を照射する。フィルム4を蒸着マスク1に貼り付けることで剥離された堆積物10の周囲への飛散を回避することができる。
【0054】
なお、フィルム4の貼り付けは、蒸着マスクの両面に行うのが好ましい。両面にフィルムが貼り付けられていると、蒸着マスク裏面(被蒸着物質に向き合う面)に堆積物が回り込んで付着している場合に対応することができるからである。つまり、両面にフィルムが貼り付けられているものは、蒸着マスク1の両面にレーザービーム15を照射して堆積物10を除去するのに適している。しかし、フィルム4の貼り付けは両面には限定されず、例えば、堆積物が蒸着マスク裏面にまわりこんで付着していない場合や、まわりこんで付着していても差し支えない場合には、フィルム4の貼り付けは、除去したい堆積物10が付着した片面だけに行ってもかまわない。
【0055】
また、フィルム4は、堆積物が付着する程度の粘着性を有している。エネルギービーム照射後にフィルムを剥がすことで、剥離された堆積物をこのフィルム面に付着させて、簡単に堆積物を回収することができる。
【0056】
レーザービーム15は、成膜室31の剥離エリアにおける蒸着マスク1に窓を通して照射される。窓は、例えば、ガラス板、石英ガラス板等レーザービームの透過率の高い材料が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態では、光源11および集光レンズ14は成膜室の外に設けられ、レーザービーム15は、成膜室31の蒸着マスク1に窓を通して照射するものとするが、例えば、成膜室内部に集光レンズ14等が設けられていてもかまわない。
【0057】
レーザービーム15照射後、成膜室31の剥離エリアにおいて、剥離ロール5が回転し、フィルム巻き出しロール6、ニップロール7を介して、フィルム4が、蒸着マスク1から、引き剥がされる。各ロールは、特に限定されるものではなく、例えば、ゴムライニングをしたロールであればよい。また、各ロールの操作は、例えば、成膜室31の外に設けられたの操作装置で行えばよい。
【0058】
引き剥がされたフィルム4に堆積物が付着し、蒸着マスク1は洗浄される。以上により、蒸着マスク1のクリーニングが終わる。
【0059】
なお、上記では、蒸着マスククリーニング装置30は、主に光源と集光レンズ14を有するとしたが、蒸着マスククリーニング装置30に成膜室(あるいは成膜室の剥離エリア)を含めてもかまわない。
【0060】
また、有機EL素子の製造において、上記蒸着マスククリーニング装置30を利用すると、多数回、長期間の蒸着マスクの使用を可能にすることができる。蒸着マスクを繰り返し、多回数使用することができるので、コストを削減して、有機EL素子を製造することができる。また、堆積物を剥離して除去することができるので、堆積物が蒸発または昇華することがないため、環境に配慮して有機EL素子を製造することができる。
(実施の形態2)
本発明における他の実施形態について図4に基づいて説明すれば以下の通りである。本実施形態においても、上記実施の形態1と同様に、蒸着マスククリーニング装置を、有機EL素子の製造装置における有機EL膜の成膜に利用するものとして説明する。しかし、本発明はこれに限定されず、蒸着マスクを使用した成膜全般に適用することができる。また、蒸着マスクとして、有機EL膜の成膜に用いられる蒸着マスク、また、堆積物として、有機EL膜を形成するための蒸着材料として説明するが、これらは単なる例示であり、限定されることはない。なお、説明の便宜上、上記実施の形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0061】
本実施形態の蒸着マスククリーニング装置32は、図4に示すように、光源11、コーナーキューブ16、平凸シリンドリカルレンズ17、平凹シリンドリカルレンズ18、平面ミラー12を有する。
【0062】
蒸着マスククリーニング装置32では、光源11から出射されたレーザービームをコーナーキューブ16で分離する。そして、平凸シリンドリカルレンズ17および平凹シリンドリカルレンズ18を用いて、略円形であるレーザービーム断面、平凸シリンドリカルレンズ17および平凹シリンドリカルレンズ18を用いて線状にする(シートビーム化)。ビーム断面は線状となるので、堆積物が付着した蒸着マスク1(ワーク)上に線として照射される。そして、このシートビームを、平面ミラー12を介して、例えば、ワークの1辺の長さに整形し、ワークに対して照射する。
【0063】
蒸着マスククリーニング装置32は、さらに、走査台(図示せず)を有する。走査台は、ワークを一定速度で移動するものである。ワークが移動することで、シートビームをワーク全体に照射することができる。ワークを一定速度で移動させてシートビームを照射することで、ワーク全面のクリーニングを行うことができる。
【0064】
ここで、例えば、蒸着マスクの素材がニッケルあるとワークの移動速度は、例えば、2〜8mm/s、レーザー出力は8〜14W、繰り返しは10Hz、パルス幅は10n秒であるのが好ましい。
【0065】
本実施形態の蒸着マスククリーニング装置32を用いて蒸着マスク1のクリーニングを行っても上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。つまり、蒸着マスク1の元々のサイズを維持しつつクリーニングすることができる。よって、多数回、長期間の蒸着マスク1の使用を可能にすることができる。また、堆積物10を蒸着マスク1から剥離する、つまり固体として除去することができるので、堆積物10を蒸発や昇華することはないため、特殊な排出系やフィルター等を用いなくても、大気汚染を引き起こすことなく蒸着マスク1から堆積物を除去することができる。さらに、本実施形態では、レーザービームをシートビームとしたため、蒸着マスク1の広範囲において堆積物を剥離することができ、時間を短縮して堆積物を除去することができる。
(実施例1)
本実施例では、実施の形態1で図1を用いて示した蒸着マスククリーニング装置30を用いて蒸着マスク1のクリーニングを行った。
【0066】
蒸着マスク1は、SUS(ステンレス鋼)から形成されており、サイズが35cm×45cmものを用いた。堆積物10は、有機EL膜を形成するための蒸着材料である。堆積物10の膜厚みは800〜1000Åであった。フィルム4として、材質がPET(ポリエチレンテレフタレート)であり、厚みが50μmのものを用いた。フィルム4は微粘着性を有するものを用いて、蒸着マスク1の両面に貼り付けたクリーニングは、有機EL膜の成膜室31内(真空)にて行った。
【0067】
光源11はYAG2倍波(波長532ナノメートル)のレーザービーム15を照射できるものを使用した。集光レンズ14を用いて、堆積物10が付着した蒸着マスク1(ワーク)上で集光径数百μmのビームスポットに集光させた。このレーザービーム15を光学系途中に設置したガルバノミラー13で走査した。なお、蒸着マスク1にテンションをかけた状態でレーザービームを照射した。
【0068】
レーザービーム15の照射点でビームスポットと同程度の堆積物10の剥離が確認することができた。加えて、下地である蒸着マスク1には何のダメージも与えないことも確認することができた。なお、ワーク上でのビームスポットの走査速度は、1〜4m/sであった。この操作を1回もしくは数回繰り返せばより完全な堆積物剥離を行うことができた。このときのレーザービームのパルス幅は、70〜200n秒、出力は20〜70W、繰り返しは5〜45kHzであった。ここで、繰り返しとは、使用したレーザーパルスの繰り返し周波数を示すものである。つまり、5kHzとは1秒間に5000回照射しているということである。
【0069】
また、フィルム4を蒸着マスク1表面に貼り付けてレーザービーム15を照射したことにより、堆積物の剥離に伴う周囲への飛散を防止することができた。また、その結果、真空中室内のパーティクルカウンターの数値は変わらず、真空中の低下も認められなかった。レーザービーム15を照射後、フィルム4を蒸着マスク表面により剥離し、堆積物10がフィルム4の粘着面に付着し、蒸着マスク1表面が清浄になっていることを確認することができた。サイズ35cm×45cmの蒸着マスクのクリーニングにおいて、長手方向の伸びは0〜5μmであった。つまり、概蒸着マスク1の伸びは確認されなかったことがわかる。
(実施例2)
本実施例では、実施の形態2で図4を用いて示した蒸着マスククリーニング装置32を使用して蒸着マスクのクリーニングを行った。
【0070】
蒸着マスク1は、ニッケルから形成されているものを用いた。堆積物10は、有機EL膜を形成するための蒸着材料である。堆積物10の膜厚みは800〜1000Åであった。フィルム4として、材質がPE(ポリエチレン)であり、厚みが20μmのものを用いた。フィルム4は粘着性を有するものを用いて、蒸着マスク1の両面に貼り付けた。クリーニングは、有機EL膜の成膜室31内(真空)にて行った。
【0071】
光源11は、YAG基本波(波長1064nm)のレーザービーム15を照射できるものを使用した。平凸シリンドリカルレンズ17および平凹シリンドリカルレンズ18によってレーザービーム15を線状にシートビームにした。このシートビームを堆積物10が付着した蒸着マスク1(ワーク)の1辺の長さに整形し、ワークを走査台(図示せず)を用いて一定速度で移動させた。このように、ワーク全面に対してレーザービームを照射して、蒸着マスク1のクリーニングを行った。なお、ワークの移動速度は2〜8mm/s、レーザー出力は8〜14W、繰り返しは10Hz、パルス幅は10n秒であった。
【0072】
レーザービーム15照射後に蒸着マスク1の伸びを確認したところ、伸びは確認されなかった。堆積物は粘着性のフィルム4上に付着して回収することができ、蒸着マスク1は完全に再使用可能であった。
【0073】
本発明は上述した各実施形態または各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、上記で説明した有機EL素子の製造以外にも、蒸着マスクを使用した成膜全般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態である蒸着マスククリーニング装置を簡略した構成図である。
【図2】成膜室における蒸着マスクのクリーニングを行う領域での蒸着マスクを示す断面図である。
【図3】堆積物が付着した蒸着マスクにフィルムを貼り付けたことを示す蒸着マスクの断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態である蒸着マスククリーニング装置を簡略した構成図である。
【図5】蒸着マスクの貼り付けを説明する平面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 蒸着マスク
2 フィルム巻き出しロール
3 ラミネートロール
4 フィルム
5 剥離ロール
6 フィルム巻き出しロール
7 ニップロール
8 外枠
9 貼り付け部
10 堆積物
11 光源(ビーム照射手段)
12 平面ミラー
13 ガルバノミラー
14 集光レンズ(集光手段)
15 レーザービーム
16 コーナーキューブ
17 平凸シリンドリカルレンズ
18 平凹シリンドリカルレンズ
30,32 蒸着マスククリーニング装置
31 成膜室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着マスクから、当該蒸着マスクに付着した当該蒸着マスクとは異なる材質を有する堆積物を除去する蒸着マスクのクリーニング方法において、
上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起するエネルギービームを、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに照射し、
上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離することを特徴とする蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項2】
上記エネルギービームとして、レーザービームを用いることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項3】
上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに、上記エネルギービームが透過するフィルムを貼り付け、当該フィルムを介して上記蒸着マスクに上記エネルギービームを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項4】
上記堆積物の除去は、真空槽内において行われることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項5】
上記蒸着マスクがSUSで形成されている場合、上記エネルギービームとして245〜110000nmの波長のレーザービームを照射することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項6】
上記蒸着マスクがニッケルで形成されている場合、上記エネルギービームとして245〜110000nmの波長のレーザービームを照射することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の蒸着マスクのクリーニング方法。
【請求項7】
蒸着マスクから、当該蒸着マスクに付着した当該蒸着マスクとは異なる材質を有する堆積物を除去する蒸着マスククリーニング装置において、
上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起し、上記蒸着マスクから上記堆積物を剥離させるためのエネルギービームを、上記堆積物が付着した上記蒸着マスクに照射するビーム照射手段を有することを特徴とする蒸着マスククリーニング装置。
【請求項8】
上記エネルギービームの照射点の集光スポットの近傍において、上記蒸着マスクにおける上記堆積物が付着した面の振動を誘起するように、上記エネルギービームを集光させる集光手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の蒸着マスククリーニング装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項に記載の蒸着マスクのクリーニング方法を用いて、蒸着マスクから堆積物を除去する堆積物除去工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
上記堆積物除去工程は、成膜室内において行われることを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
請求項5または6に記載の蒸着マスククリーニング装置を含むことを特徴とする有機EL素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−169573(P2006−169573A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361934(P2004−361934)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(503137621)株式会社 エスアンドデイ (4)
【Fターム(参考)】