説明

蒸着装置における蒸発源及び蒸着装置

【課題】オーバーシュートが小さく蒸着レートコントロールが容易で、蒸着材料を短い加熱時間で所定温度に到達させることができ、また基板全体に短時間に蒸着しタクトタイムを短縮する事が可能な実用性に秀れた蒸着装置における蒸発源の提供。
【解決手段】基板3と対向状態に設ける容器2に蒸着材料1を収納し、この容器2内の蒸着材料1を加熱して蒸発させることで基板3の成膜面4に蒸着材料1を付着させて成膜を行う蒸着装置における蒸発源であって、容器2は、基板3の成膜面4と対向する上面部7と蒸着材料収納本体部5とから成る箱状に構成し、この上面部7に、蒸発した蒸着材料1が通過可能な蒸着材料通過孔6を複数並設状態に設け、容器2にマイクロ波吸収体を設け、容器2にマイクロ波を照射してマイクロ波吸収体を発熱させるマイクロ波照射部8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置における蒸発源及び蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば有機EL膜などを成膜するために有機材料を蒸着する場合、例えば特許文献1に開示されるような抵抗加熱方式により加熱されるルツボ(蒸発源)を用いて成膜を行うことが多い。
【0003】
しかし、抵抗加熱方式の蒸発源は、抵抗ヒーターからの熱でルツボを加熱するため、熱応答性が悪く(オーバーシュートが大きい)、そのため蒸着レートコントロールが難しく、所定のレートに安定するまでに時間がかかり、蒸着開始までに長時間を要するという問題点を有する。
【0004】
そこで、ルツボを誘導電流で直接加熱することで熱応答性を改善した例えば特許文献2に開示されるような誘導加熱方式の蒸発源も提案されているが、更なる熱応答性の向上が求められているのが現状である。
【0005】
また、従来の蒸発源は、基板全体に均一な蒸着をするのに多くの時間を要し、生産タクトタイムが長いという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−222518号公報
【特許文献2】特開2004−134250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、オーバーシュートが小さく蒸着レートコントロールが容易で、蒸着材料を短い加熱時間で所定温度に到達させることができ、また基板全体に短時間に蒸着しタクトタイムを短縮する事が可能な極めて実用性に秀れた蒸着装置における蒸発源及び蒸着装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
基板3と対向状態に設ける容器2に蒸着材料1を収納し、この容器2内の前記蒸着材料1を加熱して蒸発させることで前記基板3の成膜面4に前記蒸着材料1を付着させて成膜を行う蒸着装置における蒸発源であって、前記容器2は、前記基板3の前記成膜面4と対向する上面部7と蒸着材料収納本体部5とから成る箱状に構成し、この上面部7に、蒸発した前記蒸着材料1が通過可能な蒸着材料通過孔6を複数並設状態に設け、前記容器2にマイクロ波吸収体を設け、前記容器2にマイクロ波を照射して前記マイクロ波吸収体を発熱させるマイクロ波照射部8を備えたことを特徴とする蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0010】
また、前記容器2の全体を炭化物セラミックスで形成したことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0011】
また、前記容器2の前記蒸着材料収納本体部5に収納される前記蒸着材料1の蒸発面の面積に対し、前記蒸着材料通過孔6の開口面積の総和が十分小さくなるように前記容器2を構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0012】
また、前記蒸着材料通過孔6は、隣り合う他の蒸着材料通過孔6を通過する前記蒸着材料1の照射領域が前記基板3上で互いに重なり合う間隔で複数並設状態に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0013】
また、前記蒸着材料通過孔6は、前記基板3の成膜面4の略全面に同時に成膜できるように前記容器2の前記上面部7に縦横に複数並設状態に設けたことを特徴とする請求項4記載の蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0014】
また、前記容器2全体を覆うように設けられ前記マイクロ波照射部8から照射されるマイクロ波を内部に閉じ込めるマイクロ波遮蔽箱体9を備え、このマイクロ波遮蔽箱体9に、前記容器2の前記上面部7と対向する前記マイクロ波遮蔽箱体9の遮蔽上面部10にして複数の前記蒸着材料通過孔6と夫々対向する位置に、この蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した前記蒸着材料1の通過を許容する通過許容孔11を夫々設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源を真空槽内に配設したことを特徴とする蒸着装置に係るものである。
【0016】
また、前記基板3と前記容器2の前記蒸着材料通過孔6との間に設けられ前記蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した前記蒸着材料1の前記基板3への到達を阻止するシャッター部12を備えたことを特徴とする請求項7記載の蒸着装置に係るものである。
【0017】
また、前記マイクロ波遮蔽箱体9と前記基板3との間に、複数の前記通過許容孔11と夫々対向する複数の貫通孔14を有するシャッター部12を前記基板3と平行な方向に移動自在に設け、前記貫通孔14と前記通過許容孔11との位置を一致させた状態では前記基板3への前記蒸着材料1の通過を許容し、前記貫通孔14と前記通過許容孔11との位置を前記通過許容孔11を通過した前記蒸着材料1が前記貫通孔14を通過し得ないズレた位置に移動させることで前記基板3への前記蒸着材料1の通過を阻止し得るように前記シャッター部12を構成したことを特徴とする請求項8記載の蒸着装置に係るものである。
【0018】
また、前記マイクロ波遮蔽箱体9にして前記通過許容孔11を設けた前記遮蔽上面部10を、前記基板3と平行な方向に移動自在に構成し、この遮蔽上面部10を、前記通過許容孔11を前記蒸着材料通過孔6を通過した前記蒸着材料1が通過し得ないズレた位置となるように移動させることで、前記蒸着材料1の前記基板3への到達を阻止し得るように前記遮蔽上面部10を構成したことを特徴とする請求項8記載の蒸着装置に係るものである。
【0019】
また、前記基板3をこの基板3の前記成膜面4の面方向と平行な方向に移動させる基板駆動機構25を有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上述のように構成したから、オーバーシュートが小さく蒸着レートコントロールが容易で、蒸着材料を短い加熱時間で所定温度に到達させ、また基板全体に短時間に蒸着し生産タクトタイムを短縮する事が可能な極めて実用性に秀れた蒸着装置における蒸発源及び蒸着装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施例の概略説明側断面図である。
【図2】本実施例の要部の拡大概略説明斜視図である。
【図3】本実施例の要部の拡大概略説明平面図である。
【図4】別例の要部の概略説明側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0023】
マイクロ波照射部8から容器2にマイクロ波を照射すると、マイクロ波吸収体が発熱して容器2が加熱され、この容器2を介して間接的に若しくは直接蒸着材料1が加熱される。例えば、マイクロ波吸収体として炭化物セラミックス(例えばSiC焼結セラミックス)を採用した場合、容器2が発熱し、この発熱により容器2を介して間接的に若しくは直接蒸着材料1が加熱される。
【0024】
この際、炭化物セラミックス(例えばSiC焼結セラミックス)の発熱効率は極めて高いため、短時間で所定温度まで蒸着材料1を加熱することが可能となる。また、発熱効率だけでなく熱応答性も高いため、急速加熱後のオーバーシュートが小さく所定温度に到達した後の蒸着レートコントロールが容易となる(例えば抵抗加熱方式や誘導加熱方式の場合、急速加熱後の温度のオーバーシュートが大きく、これが安定するまでの時間が極めて長い。)。従って、蒸着材料1の加熱制御を極めて容易に且つ応答性良く行うことが可能となり、蒸着開始までの加熱時間を極めて短くすることが可能となる(抵抗加熱方式の1/100、誘導加熱方式の1/10程度)。
【0025】
また、容器2の上面部7に設けた蒸着材料通過孔6の開口面積は蒸着材料収納本体部5に収納される蒸着材料1の蒸発面に比し小さく(蒸着材料通過孔6の開口面積の総和を蒸着材料1の蒸着面に比し十分小さく設定した場合には所謂クヌーセンセルとなり)、各蒸着材料通過孔6からは一様な(均一な)蒸発した蒸着材料1の分子流が夫々基板3の成膜面4に照射されて付着することになり、均一な膜厚分布を有する薄膜を成膜可能となる。即ち、容器2に収納される蒸着材料が面状に広がった状態で蒸着材料1の分子流を直接基板3の成膜面に付着させるのではなく、蒸着材料通過孔6を複数介して面状に基板3の成膜面4に付着させ成膜することで、短時間で広範囲に成膜可能でそれだけ生産タクトタイムを短縮可能となるのは勿論、均一な膜質且つ膜厚を有する薄膜を成膜可能となる。
【0026】
例えば、蒸着材料通過孔6を、隣り合う他の蒸着材料通過孔6を通過する蒸着材料1の照射領域が基板3上で重なり合う間隔で設けた場合には、より均一な膜厚分布を有する薄膜を成膜可能となり、また、基板3の成膜面4の略全面に同時に成膜できるように縦横に複数並設状態に設けた場合には、一時に基板3の成膜面4の略全面に成膜可能となり、蒸着時間を非常に短くすることが可能となる。
【0027】
また、例えば、容器2全体を覆うように設けられマイクロ波照射部8から照射されるマイクロ波を内部に閉じ込めるマイクロ波遮蔽箱体9を備え、このマイクロ波遮蔽箱体9に容器2の上面部7と対向するマイクロ波遮蔽箱体9の遮蔽上面部10にして複数の蒸着材料通過孔6と夫々対向する位置に、この蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した蒸着材料1の通過を許容する通過許容孔11を夫々設けた場合には、マイクロ波はマイクロ波遮蔽箱体9内に閉じ込められマイクロ波遮蔽箱体9の外部を加熱することがなく、また、基板3の成膜面4は、小さい通過許容孔11が開いた遮蔽上面部10を介して容器2と対向することになり、従って、容器2若しくは蒸着材料1からの輻射熱が基板3に与える影響は極めて小さくなり、従来問題となっていた輻射熱の問題も解決される。
【0028】
即ち、抵抗加熱方式においては、抵抗ヒーター及びルツボの熱容量が大きく、輻射熱が大きいため基板の温度を上昇させてしまうことになり、そのため、ルツボと基板との間の距離を大きく取る必要が生じ、装置の大型化を招いていたが、本発明によれば、このような問題は生ぜず、容器2と基板3との距離を短くでき、それだけ蒸着装置(真空槽)の小型化を図ることが可能となる。
【0029】
また、例えば、基板3と容器2の材料通過孔6との間に設けられ蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した蒸着材料1の基板3への到達を阻止するシャッター部12を備えた蒸着装置に容器2を配設した場合には、具体的には、例えばマイクロ波遮蔽箱体9と基板3との間に、複数の通過許容孔11と夫々対向する複数の貫通孔14を有するシャッター部12を基板3と平行な方向に移動自在に設けるか若しくはマイクロ波遮蔽箱体9にして通過許容孔11を設けた遮蔽上面部10を、基板3と平行な方向に移動自在に設けた蒸着装置に容器2を配設した場合には、シャッター部12を僅かに移動させるだけで蒸着材料1の基板3の成膜面4への到達を阻止することが可能となり、従って、成膜と成膜停止のサイクルを短くでき、それだけ生産タクトタイムを短縮することが可能な蒸着装置を実現可能となる。
【0030】
また、例えば、基板3をこの基板3の成膜面4の面方向と平行な方向に移動させる基板駆動機構25を有する場合には、基板3を移動させる(揺動する)ことにより、基板3の蒸着膜厚分布をより均一にすることが可能になる。
【実施例】
【0031】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、図1,5に図示したように、基板3と対向状態に設ける容器2(蒸発源)に蒸着材料1を収納し、この容器2内の前記蒸着材料1を加熱して蒸発させることで前記基板3の成膜面4に前記蒸着材料1を付着させて成膜を行う蒸着装置であって、前記容器2を、前記基板3の前記成膜面4と対向する上面部7と蒸着材料収納本体部5とから成る箱状に構成し、この上面部7に、蒸発した前記蒸着材料1が通過可能な蒸着材料通過孔6を複数並設状態に設け、前記容器2の全部を炭化物セラミックで形成し、前記容器2にマイクロ波を照射して前記炭化物セラミックスを発熱させるマイクロ波照射部8を備えたものである。
【0033】
具体的には、減圧用の真空系26を備えた真空槽16内の上部に、基板3を成膜面4が下向きとなるフェイスダウン状態で取り付け、この基板3の成膜面4と対向状態に容器2をマイクロ波遮蔽箱体9で覆われた状態で設け、この基板3と容器2(マイクロ波遮蔽箱体9)との間にシャッター部12を設け、一端側がマイクロ波遮蔽箱体9に連通し他端側が真空槽外部のマグネトロン(マイクロ波照射部8)のマイクロ波発生部と連通する導波管20を介してマイクロ波遮蔽箱体9内にマイクロ波を照射し得るように構成している。
【0034】
各部を具体的に説明する。
【0035】
容器2は、平面視方形状の箱状体であり、炭化物セラミックスであるSiC焼結セラミックスにより形成している。
【0036】
容器2は、基板3の成膜面4の面方向と同方向に広がる平板状の上面部7と、この上面部7により蓋をされる平板状の底面部とこの底面部の外周部に立設される4つの平板状の側周面部とから成る蒸着材料収納本体部5とで構成している。従って、上面部7により蒸着材料収納本体部5に収納される蒸着材料1はその大部分が隠蔽され、円形の蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した蒸着材料1の分子流のみが基板3の成膜面4へと到達する。
【0037】
各蒸着材料通過孔6は上面部7にして略同一平面上に並設状態に穿設している。具体的には、格子状に縦横(5×5)に同一所定間隔で並設している。本実施例においては、図2に図示したように、隣り合う他の蒸着材料通過孔6を通過する蒸着材料1(分子流)の逆さ円錐状の照射領域A(の外周縁部)が基板3の成膜面4上で互いに重なり合う間隔で並設している。尚、千鳥状等、他の並べ方で並設しても良い。また、蒸着材料通過孔6は基板3の成膜面4の全面に同時に(一時に)成膜可能となる範囲に渡って並設している。
【0038】
また、容器2の蒸着材料収納本体部5に収納される蒸着材料1の蒸発面(蒸着材料収納本体部5に収納される蒸着材料1の上面)の面積に対し、蒸着材料通過孔6の開口面積の総和が十分小さくなるように蒸着材料通過孔6の開口径を設定しクヌーセンセルとしている。
【0039】
具体的には、蒸着材料1の蒸発面の面積100に対し0.5〜10程度に設定することで、所謂クヌーセンセルとなるため、本実施例においては、100:1に設定している。
【0040】
クヌーセンセルからの分子線強度は、セル(蒸発源)の温度だけによって決まり、セル内の蒸発物質の量などにはよらない特性があり、従って、発熱効率及び熱応答性に秀れたSiC焼結セラミックスによる蒸発材料1の温度(容器2の温度)を制御するだけで、容易に且つ精密に蒸着レートをコントロールすることが可能となる。
【0041】
また、蒸着材料通過孔6は、単に容器2の上面部7の一部に孔を穿設した構成としても良いが、本実施例においては、上面部7に穿設した孔と、この孔と連通し基板3に向かって突設するノズル管部15(の内孔)とで蒸着材料通過孔6を構成している。本実施例においては、上述のように、上面部7、蒸着材料通過孔6及び蒸着材料収納本体部5は炭化物セラミックスであるSiC焼結セラミックスで一体成形している。従って、極めて加熱効率が良好となり、特にノズル管部15も加熱されるため蒸着材料通過孔6での材料詰まりが極めて生じ難く、長期間安定的に効率の良い成膜を行えることになる。
【0042】
また、本実施例の容器2には、容器2全体を覆うように設けられマイクロ波照射部8から照射されるマイクロ波を内部に閉じ込めるマイクロ波遮蔽箱体9を備えた構成としている。このマイクロ波遮蔽箱体9は、容器2の上面部7と対向するマイクロ波遮蔽箱体9の遮蔽上面部10にして複数の蒸着材料通過孔6と夫々対向する位置に、この蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した蒸着材料1の通過を許容する円形の通過許容孔11を夫々設けている。
【0043】
具体的には、マイクロ波遮蔽箱体9は、遮蔽上面部10とこの遮蔽上面部10により蓋をされる平板状の遮蔽底面部とこの遮蔽底面部の外周部に立設される4つの平板状の遮蔽側周面部とから成る容器収納本体部13とで構成している。この遮蔽上面部10の通過許容孔11は、容器2の蒸着材料通過孔6を構成するノズル管部15の上端部が丁度嵌合する大きさに設定され、このノズル管部15を嵌入してマイクロ波の外部への漏出がより確実に行えるように構成している。尚、ノズル管部15が通過許容孔11に嵌合せず、隙間が生じる場合であっても、ある程度小さい隙間であればマイクロ波は漏出しないため、必ずしも嵌入する必要はない。
【0044】
また、マイクロ波遮蔽箱体9の内面全面には金属メッキ処理が施されている。具体的には、Auをメッキすることでマイクロ波を反射し、マイクロ波によりマイクロ波遮蔽箱体9が加熱されることを阻止すると共に、容器2の全体をより均一に且つ効率的に加熱することを可能としている。
【0045】
従って、基板3の成膜面4に対して対向するマイクロ波遮蔽箱体9の遮蔽上面部10は各蒸着材料通過孔6と一対一で対応する位置(平面視において各蒸着材料通過孔6と夫々重なる位置、具体的には孔中心が一致する位置)に、蒸着材料通過孔6より若干径大な通過許容孔11を夫々有するのみで、容器2や蒸着材料1からの輻射熱の影響は極めて抑制され、また、真空槽内の他の部分もマイクロ波遮蔽箱体9により加熱されず、更に、このマイクロ波遮蔽箱体9自体も加熱されにくいため、基板3への輻射熱の影響は最小限となる。
【0046】
また、図1(図3)に図示したように、マイクロ波遮蔽箱体9の内部の下方側寄り位置には、マイクロ波を反射して容器2に均一にマイクロ波が照射されるようにするスターラー17を設け、このスターラー17は真空槽16外部に設けたモーター18により反射羽根19が回転するように構成している。
【0047】
尚、図中、符号21は成膜面4に成膜された薄膜の膜厚を計測する水晶膜厚計、22は容器2の温度分布を測定するための赤外線放射温度計である。この水晶膜厚計21と赤外線放射温度計22とはマグネトロンから発生するマイクロ波の強度等を制御する制御部23(コントローラ)に接続され、成膜面4に成膜される薄膜の膜厚や容器2の温度分布に応じて適切な強度でマイクロ波が容器2に照射されるように制御部23を構成している。尚、本実施例においては赤外線放射温度計を採用しているが、熱電対温度計を採用しても良い。
【0048】
また、本実施例は、基板3と容器2の蒸着材料通過孔6との間に設けられ蒸着材料通過孔6を通過した蒸発した蒸着材料1の基板3への到達を阻止する基板3の成膜面4の面方向と同方向に広がる板状のシャッター部12を備えた構成としている。
【0049】
具体的には、マイクロ波遮蔽箱体9と基板3との間に、複数の通過許容孔11と夫々対向する複数の円形の貫通孔14を有するシャッター部12を基板3と平行な方向に移動自在に設け、貫通孔14と通過許容孔11との位置を一致させた状態(材料通過孔6若しくは通過許容孔11から照射される蒸着材料1の照射範囲A全部を遮らない位置)では基板3への蒸着材料1の通過を許容し、貫通孔14と通過許容孔11との位置を通過許容孔11を通過した蒸着材料1が貫通孔14を通過し得ないズレた位置(材料通過孔6若しくは通過許容孔11から照射される蒸着材料1の照射範囲Aを全部遮る位置)に移動させることで基板3への蒸着材料1の通過を阻止し得るように前記シャッター部12を構成している。
【0050】
このシャッター部12は適宜な駆動機構24により縦横(蒸着材料通過孔6の並設方向)に移動自在に構成し、通過許容孔11より若干径大な貫通孔14のない板部分で通過許容孔11を通過した蒸着材料1の進行方向を阻止することで基板3への到達を阻止するように構成している。従って、シャッター部12を縦横に移動可能とすることで、それだけ様々な部位で分散して蒸着材料1を受けることが可能となり、シャッター部の清掃・交換サイクルを長期化することが可能となる。
【0051】
また、図3に図示したように、シャッター部12の貫通孔14、マイクロ波遮蔽箱体9の通過許容孔11及び容器2の蒸着材料通過孔6は、蒸着時には平面視においてその孔中心が夫々同一位置とし得るように同様の並設位置関係で夫々設けられている。即ち、材料通過孔6の孔中心と貫通孔14の孔中心が平面視において一致する状態がもっとも良好に蒸着材料1が基板3の成膜面4へ到達できる状態となる。
【0052】
尚、本実施例においては上記構成のシャッター部12を採用しているが、図4に図示した別例のように、マイクロ波遮蔽箱体9にして通過許容孔11を設けた遮蔽上面部10を、基板3と平行な方向に移動自在に構成し、この遮蔽上面部10を、通過許容孔11を蒸着材料通過孔6を通過した蒸着材料1が通過し得ないズレた位置となるように移動させることで、蒸着材料1の基板3への到達を阻止し得るように遮蔽上面部10を構成してシャッター部12としても良い。具体的には、遮蔽上面部10を各遮蔽側周面部の上端部に対して縦横スライド移動可能に構成して、通過許容孔11が存在しない板部分により蒸着材料通過孔6を閉塞し得るようにスライド移動させることでシャッター部12として使用できるようにしても良い。尚、この場合には通過許容孔11にノズル管部15は嵌入しないようにする。
【0053】
また、本実施例においては、基板3をこの基板3の成膜面4の面方向と平行な方向に移動させる基板駆動機構25を設けている。従って、蒸着時に基板3を少しずつ前後左右に移動させる(揺動する)ことにより、基板3の蒸着膜厚分布をより均一にすることが可能になる。
【0054】
本実施例の実施動作について説明すると、先ず基板3を蒸着位置にセットし適宜な基板駆動機構25により平行状態を維持しつつ往復運動させた状態で、蒸着材料1の温度が蒸発温度より低い温度(蒸発しない温度)に維持されていた状態から、マイクロ波照射強度を上げて容器2(面状クヌーセンセル)の温度を上げて蒸着材料1の温度を蒸着温度まで上げ、シャッター部12を(僅かに)移動させて蒸着材料1の通過を許容する開状態とし、基板3の成膜面4に成膜を始める。この際、適宜基板を揺動させる。そして、水晶膜厚計21で測定される膜厚が所定値になったら、シャッター部12を(全退避させずに僅かに)移動させて蒸着材料1の通過を阻止する閉状態とすると同時に蒸着材料の温度を蒸発温度より低い温度に下げるためにマイクロ波の照射をストップし、基板を次の処理機構へと移動させて終了となる。
【0055】
本実施例は上述のように構成したから、マイクロ波照射部8から容器2にマイクロ波を照射すると、容器2の形成材料であるSiC焼結セラミックスが発熱し、この発熱により容器2を介して蒸着材料1が加熱される。
【0056】
この際、SiC焼結セラミックスの発熱効率は極めて高いため、短時間で所定温度まで蒸着材料1を加熱することが可能となる。また、発熱効率だけでなく熱応答性も高いため、急速加熱後のオーバーシュートが小さく所定温度に到達した後の蒸着レートコントロールが容易となる。従って、蒸着材料1の加熱制御を極めて容易に且つ応答性良く行うことが可能となり、蒸着開始までの加熱時間を極めて短くすることが可能となる。
【0057】
また、容器2は、蒸着材料通過孔6の開口面積の総和を蒸着材料1の蒸着面に比し十分小さく設定したから所謂クヌーセンセルとなり、各蒸着材料通過孔6からは一様な(均一な)蒸発した蒸着材料1の分子流が夫々基板3の成膜面4に照射されて付着することになり、均一な膜厚分布を有する薄膜を成膜可能となる。即ち、容器2に収納される蒸着材料が面状に広がった状態で蒸着材料1の分子流を直接基板3の成膜面に付着させるのではなく、蒸着材料通過孔6を介して面状に基板3の成膜面4に付着させ成膜することで、短時間で広範囲に成膜可能でそれだけ生産タクトタイムを短縮可能となるのは勿論、均一な膜質且つ膜厚を有する薄膜を成膜可能となる。
【0058】
また、蒸着材料通過孔6を、隣り合う他の蒸着材料通過孔6を通過する蒸着材料1の照射領域が基板3上で重なり合う間隔で設けたから、より均一な膜厚分布を有する薄膜を成膜可能となり、更に、基板3の成膜面4の略全面に同時に成膜できるように縦横に複数並設状態に設けたから、一時に基板3の成膜面4の略全面に成膜可能となり、蒸着時間を非常に短くすることが可能となる。
【0059】
更に、蒸着材料通過孔6の周囲(上面部7及びノズル管部15)も加熱されるため、ノズル詰まりの問題が生ぜず、それだけ長期に渡って安定的な成膜が可能となる。
【0060】
また、マイクロ波遮蔽箱体9により、マイクロ波はマイクロ波遮蔽箱体9内に閉じ込められマイクロ波遮蔽箱体9の外部を加熱することがなく、また、基板3の成膜面4は、小さい通過許容孔11が開いた遮蔽上面部10を介して容器2と対向することになり、従って、容器2若しくは蒸着材料1からの輻射熱が基板3に与える影響は極めて小さくなり、従来問題となっていた輻射熱の問題も解決される。
【0061】
また、マイクロ波遮蔽箱体9と基板3との間に、複数の通過許容孔11と夫々対向する複数の貫通孔14を有するシャッター部12を基板3と平行な方向に移動自在に設けたから、シャッター部12を僅かに移動させるだけで蒸着材料1の基板3の成膜面4への到達を阻止することが可能となり、従って、成膜と成膜停止のサイクルを短くでき、それだけ生産タクトタイムを短縮することが可能な蒸着装置を実現可能となる。
【0062】
また、基板駆動機構25により蒸着時に基板3を少しずつ前後左右に移動させる(揺動する)ことにより、基板3の蒸着膜厚分布をより均一にすることが可能になる。
【0063】
よって、本実施例は、オーバーシュートが小さく蒸着レートコントロールが容易で、蒸着材料を短い加熱時間で所定温度に到達させ、蒸着の生産タクトタイムを短くすることが可能な極めて実用性に秀れたものとなる。
【0064】
本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0065】
1 蒸着材料
2 容器
3 基板
4 成膜面
5 蒸着材料収納本体部
6 蒸着材料通過孔
7 上面部
8 マイクロ波照射部
9 マイクロ波遮蔽箱体
10 遮蔽上面部
11 通過許容孔
12 シャッター部
14 貫通孔
25 基板駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と対向状態に設ける容器に蒸着材料を収納し、この容器内の前記蒸着材料を加熱して蒸発させることで前記基板の成膜面に前記蒸着材料を付着させて成膜を行う蒸着装置における蒸発源であって、前記容器は、前記基板の前記成膜面と対向する上面部と蒸着材料収納本体部とから成る箱状に構成し、この上面部に、蒸発した前記蒸着材料が通過可能な蒸着材料通過孔を複数並設状態に設け、前記容器にマイクロ波吸収体を設け、前記容器にマイクロ波を照射して前記マイクロ波吸収体を発熱させるマイクロ波照射部を備えたことを特徴とする蒸着装置における蒸発源。
【請求項2】
前記容器の全体を炭化物セラミックスで形成したことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置における蒸発源。
【請求項3】
前記容器の前記蒸着材料収納本体部に収納される前記蒸着材料の蒸発面の面積に対し、前記蒸着材料通過孔の開口面積の総和が十分小さくなるように前記容器を構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源。
【請求項4】
前記蒸着材料通過孔は、隣り合う他の蒸着材料通過孔を通過する前記蒸着材料の照射領域が前記基板上で互いに重なり合う間隔で複数並設状態に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源。
【請求項5】
前記蒸着材料通過孔は、前記基板の成膜面の略全面に同時に成膜できるように前記容器の前記上面部に縦横に複数並設状態に設けたことを特徴とする請求項4記載の蒸着装置における蒸発源。
【請求項6】
前記容器全体を覆うように設けられ前記マイクロ波照射部から照射されるマイクロ波を内部に閉じ込めるマイクロ波遮蔽箱体を備え、このマイクロ波遮蔽箱体に、前記容器の前記上面部と対向する前記マイクロ波遮蔽箱体の遮蔽上面部にして複数の前記蒸着材料通過孔と夫々対向する位置に、この蒸着材料通過孔を通過した蒸発した前記蒸着材料の通過を許容する通過許容孔を夫々設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置における蒸発源を真空槽内に配設したことを特徴とする蒸着装置。
【請求項8】
前記基板と前記容器の前記蒸着材料通過孔との間に設けられ前記蒸着材料通過孔を通過した蒸発した前記蒸着材料の前記基板への到達を阻止するシャッター部を備えたことを特徴とする請求項7記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記マイクロ波遮蔽箱体と前記基板との間に、複数の前記通過許容孔と夫々対向する複数の貫通孔を有するシャッター部を前記基板と平行な方向に移動自在に設け、前記貫通孔と前記通過許容孔との位置を一致させた状態では前記基板への前記蒸着材料の通過を許容し、前記貫通孔と前記通過許容孔との位置を前記通過許容孔を通過した前記蒸着材料が前記貫通孔を通過し得ないズレた位置に移動させることで前記基板への前記蒸着材料の通過を阻止し得るように前記シャッター部を構成したことを特徴とする請求項8記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記マイクロ波遮蔽箱体にして前記通過許容孔を設けた前記遮蔽上面部を、前記基板と平行な方向に移動自在に構成し、この遮蔽上面部を、前記通過許容孔を前記蒸着材料通過孔を通過した前記蒸着材料が通過し得ないズレた位置となるように移動させることで、前記蒸着材料の前記基板への到達を阻止し得るように前記遮蔽上面部を構成したことを特徴とする請求項8記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記基板をこの基板の前記成膜面の面方向と平行な方向に移動させる基板駆動機構を有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−94222(P2011−94222A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252180(P2009−252180)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(591065413)トッキ株式会社 (57)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】