説明

蒸着装置及び有機エレクトロルミネッセンス装置の製造装置

【課題】シャッターに付着し堆積した蒸着材料を、チャンバー(蒸着室)内を大気圧に戻すことなく真空雰囲気を維持したままで、坩堝に戻すことなく除去するようにした、蒸着装置とこれを備えた有機EL装置の製造装置を提供する。
【解決手段】蒸着室2内に配置されて蒸着材料3を収容する坩堝4と、坩堝4内の蒸着材料3を加熱する蒸着用加熱装置5と、坩堝4の開口部4aを覆う状態と開放した状態とに切り換えられるように移動可能に設けられたシャッター6と、シャッター6が坩堝4の開口部4aを開放した状態にするように移動した位置に、配置された回収容器7と、シャッター6を加熱するシャッター加熱装置8と、を含む蒸着装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び有機エレクトロルミネッセンス装置の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着法は、材料を加熱して蒸発もしくは昇華させることにより、基板に成膜する方法であり、真空中で行うことで、基板表面を清浄に保ち、かつ高純度の膜質を生成することができる。したがって、各種半導体装置や電気光学装置の製造では、従来、真空蒸着法による薄膜形成が多くなされている。例えば、電気光学装置として有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と記す)を製造する場合には、マスク蒸着法により、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などとして機能する有機膜(有機機能層)を、基板上に順次成膜している。
【0003】
ところで、このような真空蒸着法においては、材料を加熱して蒸発もしくは昇華させる際、シャッターの開閉によって基板への蒸着を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、使用に伴って蒸着材料がシャッターに蒸着し、堆積していくため、材料が堆積したシャッターはその都度交換する必要がある。しかし、シャッターを交換するためにはチャンバー内を大気圧に戻す必要があるが、その場合には、交換後再度チャンバー内を真空引きする必要があり、生産性を大きく損なうといった問題がある。一方、シャッターを交換することなく継続して使用すると、シャッターに堆積して劣化した材料が膜剥がれを起こし、坩堝内に落下して蒸着材料に混入したり、パーティクルとなってチャンバー内を汚染するおそれがある。
【0004】
また、シャッターへの材料の堆積に起因する不都合を回避するべく、シャッターにヒーターを内蔵しておくことにより、シャッターに堆積した材料を坩堝に回収するようにした、蒸着装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭06−006785号公報
【特許文献2】特開2008−088465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献2の蒸着装置では、一度シャッターに付着することで変質してしまった材料を回収するおそれがあり、有機EL装置などのデバイスの作製に用いるのは、発光特性の低下などの懸念があり、好ましくない。
【0007】
また、特に有機EL装置の有機機能層を基板に成膜する場合には、前記したように複数種類の材料を順次積層させるが、その場合には、これら材料を独立して順に蒸着させるため、複数種類の材料を別々に収容した複数の坩堝をチャンバー内に配置しておき、それぞれをシャッター制御することにより、蒸着を行い、あるいは非蒸着とすることが考えられる。
【0008】
このように複数の坩堝をチャンバー内に配置し、その蒸着・非蒸着をシャッターで制御する場合、特に有機EL装置の有機機能層では成膜された後の酸化等による変質が膜特性を大きく劣化させるため、異なる材料間ではなるべく時間をおくことなく、続けて成膜を行いたいという要望がある。
ところが、このように続けて成膜を行うことを可能にするべく、予め坩堝を加熱して待機させておき、シャッターの開閉で蒸着・非蒸着を制御すると、シャッターには必然的に蒸着材料が付着し堆積してしまい、その処理が大きな課題になってしまう。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、シャッターに付着し堆積した蒸着材料を、チャンバー(蒸着室)内を大気圧に戻すことなく真空雰囲気を維持したままで、坩堝に戻すことなく除去するようにした、蒸着装置とこれを備えた有機EL装置の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の蒸着装置では、蒸着室内に配置されて蒸着材料を収容する坩堝と、
前記坩堝内の蒸着材料を加熱する蒸着用加熱装置と、
前記坩堝の開口部を覆う状態と開放した状態とに切り換えられるように前記蒸着室内で移動可能に設けられたシャッターと、
前記シャッターが前記坩堝の開口部を開放した状態にするように移動した位置に、配置された回収容器と、
前記シャッターを加熱するシャッター加熱装置と、を含むことを特徴としている。
【0011】
この蒸着装置によれば、シャッターを移動可能に設け、このシャッターの、坩堝の開口部を開放した状態にするように移動した位置に回収容器を配置したので、シャッターに蒸着材料が付着し堆積したら、このシャッターを回収容器上に移動させ、シャッター加熱装置によってシャッターを加熱することにより、シャッターに堆積した蒸着材料を再度蒸発あるいは昇華させ、回収容器内に回収することが可能になる。したがって、シャッターに付着し堆積した材料を、チャンバー(蒸着室)内を大気圧に戻すことなく真空雰囲気を維持したままで、シャッターから除去し、回収容器内に回収することができる。
【0012】
また、前記蒸着装置においては、前記回収容器に冷却手段が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、回収容器を冷却手段によって冷却しておくことにより、回収容器上にてシャッターを加熱した際、シャッターに堆積した状態から再度蒸発あるいは昇華した蒸着材料を、より迅速にかつ確実に固化させ、回収容器内に回収することができる。
【0013】
また、前記蒸着装置において、前記シャッター加熱装置は、前記シャッターと一体に設けられていてもよい。
このようにすれば、シャッター加熱装置がシャッターを確実に加熱して、該シャッターに堆積した蒸着材料を良好に再蒸発あるいは再昇華させることが可能になる。
【0014】
また、前記蒸着装置において、前記シャッター加熱装置は、前記回収容器の近傍に配置されていてもよい。
このようにすれば、蒸着室内に坩堝が複数配置され、これら坩堝のそれぞれに対応して複数のシャッターが設けられている場合に、これら複数のシャッター全てを、一つのシャッター加熱装置によって加熱することが可能になり、装置構成を簡易にすることができる。
【0015】
また、前記蒸着装置においては、収容する蒸着材料が異なる複数の坩堝を備えているのが好ましい。
このようにすれば、例えば有機EL装置(有機EL素子)の有機機能層を基板に成膜する場合に、対象となる有機機能層の材料をそれぞれ異なる坩堝に収容し、蒸着室内配置することにより、これら複数種類の材料を、時間をおくことなく続けて順次成膜し、積層することが可能になる。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造装置は、前記の蒸着装置を備えてなり、前記蒸着材料が、有機エレクトロルミネッセンス素子の有機機能層の材料であることを特徴としている。
このようにすれば、前記したように対象となる有機機能層の材料をそれぞれ異なる坩堝に収容し、これら坩堝を蒸着室内に配置することにより、これら複数種類の材料を、時間をおくことなく続けて順次成膜し、積層することが可能になる。したがって、有機機能層が酸化等によって変質し、得られる膜の特性が劣化してしまうことにより、得られる有機EL装置の発光特性が低下するといった不都合が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の蒸着装置の第1実施形態を示す側面図である。
【図2】本発明の蒸着装置の第1実施形態を示す平面図である。
【図3】有機EL装置を示す図であり、(a)は側断面図、(b)は平面図である。
【図4】本発明の蒸着装置の第2実施形態を示す側面図である。
【図5】本発明の蒸着装置の第2実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0019】
(第1実施形態)
図1、図2は、本発明の蒸着装置の第1実施形態を示す図であり、図1は内部を透視した側面図、図2は内部を透視した平面図である。これらの図において符号1は蒸着装置である。この蒸着装置1は、チャンバー(蒸着室)2と、このチャンバー2内に配置されて蒸着材料3を収容する坩堝4と、坩堝4内の蒸着材料3を加熱する蒸着用ヒーター(蒸着用加熱装置)5と、坩堝4の開口部4aを開閉可能に覆うシャッター6と、回収容器7と、シャッター6を加熱するシャッター用ヒーター(シャッター加熱装置)8と、を備えて構成されたものである。
【0020】
チャンバー2には、排気孔2aを介して真空ポンプ(図示せず)が接続されており、この真空ポンプによってチャンバー2内は、成膜処理中やその待機中などの間、常時真空引きされている。このチャンバー2内には、内部の真空度を検知するための真空計9が設けられている。
【0021】
また、このチャンバー2内には、その上方に基板搬送部10が設けられている。基板搬送部10は、基板Wを保持する基板ホルダ(図示せず)と、蒸着マスク(図示せず)を保持するマスクホルダ(図示せず)と、これら基板W及び蒸着マスク、マスクホルダを一体にして、チャンバー2外からチャンバー2内に、さらにはその逆に搬送する公知の搬送機構と、を備えて構成されている。なお、チャンバー2には、基板Wを出し入れするための搬送口(図示せず)が、開閉可能に設けられている。
【0022】
坩堝4に収容された蒸着材料3としては、例えば有機EL装置を構成する有機EL素子の有機機能層、すなわち正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等となる有機膜の各形成材料が用いられる。もちろん、有機EL装置以外の用途においては、その用途に応じた種々の成膜材料が用いられる。
【0023】
坩堝4は、図示を省略して図1では1つのみ示しているものの、本実施形態では複数(例えば5個)配置されており、それぞれ異なる蒸着材料3が収容されている。例えば、前記有機EL素子の有機機能層の形成材料として、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の各形成材料が、それぞれ異なる坩堝4に収容されている。これら坩堝4には、該坩堝4を加熱することでこれに収容された蒸着材料3を加熱するための蒸着用ヒーター5が設けられている。蒸着用ヒーター5は、加熱温度がそれぞれの坩堝4毎に独立して制御されるようになっており、したがって、収容した蒸着材料に対応して、蒸着に最適な温度で加熱できるようになっている。
【0024】
シャッター6は、図示を省略して図1、図2では1つのみ示しているものの、本実施形態では坩堝4の数と同じ数(例えば5個)設けられている。これらシャッター6は、回動軸11と、回動軸11に支持軸12を介して一体に設けられた円盤状のシャッター本体13と、を有して構成されたものである。回動軸11は、これに接続する駆動軸(図示せず)が、チャンバー2の外に設けられたモーター等の駆動源(図示せず)に連結されたもので、これによって正逆方向に回動可能になっている。シャッター本体13は、例えば熱伝導性の高い金属によって形成されたものである。
【0025】
このような構成のもとにシャッター6は、回動軸11が前記駆動源(図示せず)によって回動駆動させられることにより、図1中実線で示すように坩堝4の開口部4aを覆う位置と、図1中二点鎖線で示すように坩堝4の開口部4aを開放し、回収容器7の開口部7a上となる位置との間を、正逆に移動(回動)可能になっている。
【0026】
なお、複数(例えば5個)配置されたシャッター6は、互いに干渉することなく、対応する坩堝4上と回収容器7との間を移動可能になっている。例えば、坩堝4とこれに対応するシャッター6の回動軸11との組が、回収容器7を中心にする円周上に所定間隔で配置されることにより、回動軸11に設けられたシャッター本体13は、他のシャッター6に干渉されることなく、坩堝4と回収容器7との間を移動可能(回動可能)になる。
【0027】
シャッター6には、本実施形態ではそれぞれにシャッター用ヒーター8が設けられている。シャッター用ヒーター8は、シャッター本体13の上面側に配置されてこれと一体に設けられたもので、前記蒸着用ヒーター5と同様に、加熱温度がそれぞれのシャッター本体13毎に独立して制御されるようになっている。したがって、対応する坩堝4の蒸着材料に対応して、これを蒸発あるいは昇華させるのに最適な温度で加熱できるようになっている。なお、シャッター用ヒーター8については、シャッター本体13に内蔵された状態に設けられていてもよい。
【0028】
回収容器7は、その開口部7aが円盤状のシャッター本体13の底面とほぼ同じ大きさの円形に形成された有低円筒状のもので、例えば熱伝導性の高い金属からなるものである。この回収容器7は、前述したようにシャッター6が回動駆動してシャッター本体13が回収容器7側に移動した際、開口部7aが平面視した状態でシャッター本体13と重なるように、配置されている。なお、このように回収容器7の開口部7a上にシャッター本体13が位置した際には、回収容器7とシャッター本体13との間には僅かな隙間が空く程度に、シャッター本体13は回収容器7に近接させられるようになっている。
【0029】
この回収容器7には、本実施形態では冷却手段14が設けられている。冷却手段14は、回収容器7に設けられた循環流路(図示せず)中に、冷却水を循環させるようにした冷却水循環装置からなるものである。このような構成のもとに、回収容器7は冷却手段14(冷却水循環装置)によって所定の温度に冷却させられるようになっている。
【0030】
次に、このような構成の蒸着装置1による成膜方法について説明する。ここでは、有機EL装置の有機機能層の成膜を例にして説明する。したがって、以下の説明では、蒸着装置1は有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)の製造装置として機能するようになる。
まず、有機EL装置の概略構成について説明する。
図3(a)、(b)は、有機EL装置の一例であるラインヘッドを示す図であり、(a)は要部側断面図、(b)は平面図である。
【0031】
図3(a)、(b)に示す有機EL装置50は、電子写真方式を利用したプリンタに使用されるラインヘッドであり、複数の有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)53を配列してなる発光素子列(発光部ライン)53Aを1列または複数列、例えば、3列備えている。このようなラインヘッドでは、発光素子列53Aに含まれる有機EL素子53のうち、所定の有機EL素子53を点灯させて感光ドラム上に照射することにより、感光ドラム上に電荷による像(潜像)を形成する。
【0032】
ここで、有機EL装置50は細長い矩形形状を有しており、通常は1枚の大型基板W上に有機EL素子53などを形成した後、単品サイズの複数枚の素子基板に切り出される。また、特にボトムエミッション方式の場合には、素子基板に封止基板が貼られることで、有機EL装置50とされる。
【0033】
すなわち、この有機EL装置50は、図3(a)に示すように発光層57で発光した光を画素電極54側から出射するボトムエミッション方式とされ、素子基板52側から発光光を取り出すようになっている。このため、素子基板52としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。また、素子基板52上には、画素電極54に電気的に接続された駆動用トランジスタ55a(薄膜トランジスタ)などを含む回路部55が、発光素子列53Aに沿って形成されており、その上層側に有機EL素子53が形成されている。
【0034】
有機EL素子53は、陽極として機能する画素電極54と、この画素電極54からの正孔を注入/輸送する正孔注入層及び正孔輸送層(合わせて正孔注入/輸送層56と記す)と、有機EL物質からなる発光層57と、電子を注入/輸送する電子注入層及び電子輸送層(合わせて電子注入/輸送層58と記す)と、陰極59とがこの順に積層された構造になっている。素子基板52の回路部55には、外部接続端子(図示せず)が接続されており、各有機EL素子53を外部より制御可能となっている。
【0035】
次に、このような構成の有機EL装置50における、有機機能層の成膜について説明する。
まず、有機機能層の材料として、前記の正孔注入層、正孔輸送層(正孔注入/輸送層56)、発光層57、電子注入層、電子輸送層(電子注入/輸送層58)の各形成材料を用い、それぞれ別々の坩堝4に収容する。そして、それぞれの坩堝4に対して、対応するシャッター6によってその開口部4aを覆っておく。
【0036】
また、基板Wを、基板搬送部10によってチャンバー2内の上方の所定位置に配置しておく。なお、この基板Wは、図3(a)に示した、画素電極4及び隔壁(図示せず)までを形成した個片化する前の素子基板52を、多数含んでなるものとする。
そして、チャンバー2内を真空引きして所定の真空度にするとともに、蒸着用ヒーター5によって全ての坩堝4を、収容する蒸着材料に応じた温度に加熱する。
【0037】
チャンバー2内が所定の真空度に達し、全ての坩堝4を所望の温度に加熱したら、まず、前記基板Wに対して、正孔注入層を形成するべく、これの形成材料を収容した坩堝4の開口部4aを開放する。すなわち、この坩堝4を覆っているシャッター6を回動し、そのシャッター本体13を坩堝4上から移動させる。すると、坩堝4は収容した蒸着材料に応じた温度に加熱されており、チャンバー2内は所定の真空度になっているため、坩堝4内の蒸着材料は蒸発あるいは昇華し、開口部4aの向きにしたがって基板Wの被成膜面に向かって飛散する。そして、基板Wに設けられた蒸着マスクによって所定位置に選択的に蒸着し、正孔注入層を形成する。
【0038】
このようにして所定時間シャッター本体13を回動し、坩堝4の開口部4aを開放し蒸着を行って所定厚さの正孔注入層を形成したら、再度シャッター本体13を回動し、坩堝4の開口部4aを覆って蒸着を停止させる。
続いて、正孔輸送層を形成するべく、これの形成材料を収容した坩堝4の開口部4aを、正孔注入層の場合と同様にして開放し、正孔輸送層の形成材料の蒸着を行う。これにより、図3(a)に示した正孔注入/輸送層56が形成される。
以下、同様にして発光層、電子輸送層、電子注入層の順に成膜(蒸着)を行い、図3(a)に示した発光層57、電子注入/輸送層58を形成することにより、基板Wに対して有機機能層を全て形成する。
【0039】
このように各蒸着材料を、前述したように時間をおくことなく続けて蒸着するために、予め全ての坩堝4を加熱して待機させておき、シャッター6の開閉のみで蒸着・非蒸着を制御する。すると、シャッター6を閉じていて非蒸着となっている坩堝4においても、蒸着材料の蒸発(あるいは昇華)は起こっており、このように蒸発(あるいは昇華)した蒸着材料は、シャッター本体13の下面に付着し堆積する。
【0040】
そこで、例えば基板Wに対して全ての有機機能層を蒸着し成膜したら、次の基板Wへの蒸着に先立ち、シャッター本体13に付着・堆積した蒸着材料を除去する。
具体的には、まず、全ての坩堝4について、その蒸着用ヒーター5をオフにし、坩堝4に対する加熱を停止する。そして、坩堝4が十分に冷え、蒸着材料の蒸着あるいは昇華が停止したら、いずれか一つのシャッター6を回動してそのシャッター本体13を回収容器7上に移動させる。すなわち、シャッター本体13を回収容器7の開口部7a上に移動し、平面視した状態で重なるように位置させる。
【0041】
また、これに先立ち、回収容器7には、冷却手段14によって所定の温度、例えば5℃〜15℃程度の室温以下に冷却しておく。
そして、回収容器7上に移動させたシャッター本体13を、これに一体に設けられたシャッター用ヒーターによって加熱する。加熱温度としては、坩堝4から蒸着する際の、蒸着用ヒーター5による加熱温度と同程度とされる。
【0042】
このようにして加熱すると、シャッター本体13に堆積した蒸着材料は再度蒸発あるいは昇華し、シャッター本体13の直下に位置する回収容器7側に飛散する。すなわち、シャッター用ヒーター8がシャッター本体13に一体に設けられているので、シャッター本体13がより十分にかつ確実に加熱され、該シャッター本体13に堆積した蒸着材料が良好に再蒸発あるいは再昇華するようになる。
その際、回収容器7内は冷却手段14によって冷却されていることから、回収容器7側に飛散した蒸着材料の蒸気はより迅速にかつ確実に固化し、回収容器内に回収される。
【0043】
なお、このようにシャッター本体13を加熱すると、これに堆積した蒸着材料が再度蒸発あるいは昇華するとともに、このシャッター本体13や蒸着材料に吸着された酸素等のガスも脱着して飛散する。すると、このガスの影響によってチャンバー2内の真空度は一時的に低くなる。しかし、チャンバー2内は常時真空引きしているので、その後は所定の真空度に戻る。したがって、真空計9によってチャンバー2内の真空度を監視しておき、一時的に低くなった後元に戻ったら、シャッター本体13からの蒸着材料の除去及び回収が終了したと判定できる。
【0044】
このようにして、一つのシャッター6について堆積した蒸着材料の除去及び回収が終了したら、シャッター本体13を再度回動させ、坩堝4を覆う位置に戻す。そして、他の一つのシャッター6についても同様に処理を行い、以下、全てのシャッター6について、同様の処理を順次繰り返す。
また、全てのシャッター6について蒸着材料の除去及び回収が終了したら、次の基板Wに対する蒸着(成膜)の準備をするべく、全ての坩堝4についてその蒸着用ヒーター5をオンにし、坩堝4を加熱しておく。
【0045】
前記構成の蒸着装置1にあっては、シャッター本体13に蒸着材料が付着し堆積した際、このシャッター本体13を回収容器7上に移動させ、シャッター用ヒーター8によってシャッター本体13を加熱することにより、シャッター本体13に堆積した蒸着材料を再度蒸発あるいは昇華させ、回収容器7内に回収するようにしたので、シャッター本体13に付着し堆積した材料を、チャンバー内を大気圧に戻すことなくその真空雰囲気を維持したままで、シャッター本体13から除去し、回収容器7内に回収することができる。
【0046】
したがって、シャッター6(シャッター本体13)の交換頻度を減少させて、交換なしで継続使用できる期間を長くすることができ、これにより、シャッター6の洗浄コストや新規購入コストを抑制することができる。さらに、再蒸着(再昇華)させた材料を回収容器7に回収することで、坩堝4内の蒸着材料に混入してしまうことや、パーティクルとなって基板Wに付着するといった、プロセスへの悪影響も回避することができる。
【0047】
(第2実施形態)
図4、図5は、本発明の蒸着装置の第2実施形態を示す図であり、図4は内部を透視した側面図、図5は内部を透視した平面図である。これらの図において符号20は蒸着装置である。この蒸着装置20が図1、図2に示した蒸着装置1と異なるところは、蒸着装置1ではシャッター用ヒーター(シャッター加熱装置)8をシャッター本体13に一体に設けていたのに対し、本実施形態の蒸着装置20では、シャッター用ヒーター(シャッター加熱装置)21を、回収容器7の近傍に配置した点である。
【0048】
すなわち、図1、図2に示した蒸着装置1では、複数のシャッター6に対してそれぞれにシャッター用ヒーター8を設けているのに対して、本実施形態の蒸着装置20では、シャッター用ヒーター21を回収容器7直上の近傍位置に一つだけ配置している。このシャッター用ヒーター21は、シャッター本体13が回収容器7に重なる位置に移動した際、このシャッター本体13の上面に当接しあるいはこれに近接する位置となるように、配置されている。
【0049】
このような構成によって各シャッター6は、シャッター本体13に堆積した蒸着材料を除去するべく、回収容器7上に移動させられると、シャッター用ヒーター8によって加熱されるようになっている。
したがって、本実施形態の蒸着装置20にあっては、坩堝4を複数配置し、これに対応してシャッター6も複数設けている場合にも、これら複数のシャッター6(シャッター本体13)全てを、一つのシャッター用ヒーター8によって加熱することができ、これにより、装置構成を簡易にすることができる。
【0050】
また、もちろん第1実施形態の蒸着装置1と同様の作用効果も得ることができる。
さらに、本実施形態の蒸着装置20にあっても、蒸着装置1と同様に有機EL装置(有機EL素子)の有機機能層の成膜に適用することができ、したがって、この蒸着装置20も有機EL装置の製造装置として機能するようになる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では本発明の蒸着装置1、20を、有機EL装置の有機機能層の成膜に適用する例について説明したが、本発明の蒸着装置はこれに限定されることなく、種々の蒸着膜の形成に用いることができる。また、複数の坩堝4を用いて複数種類の蒸着材料を蒸着するだけでなく、一つの坩堝4を用いて単一の蒸着材料を蒸着する場合にも、本発明の蒸着装置を用いることができる。
【0052】
また、前記実施形態では、回収容器7については特に蓋を設けていないが、シャッター6と同様な構成からなる蓋を設け、この蓋によって回収容器7を開閉可能に覆うようにしてもよい。すなわち、基板Wに対して成膜(蒸着)を行う前の待機時において、全ての坩堝4をシャッター6で覆っている間、回収容器7を蓋で覆っておくことにより、回収容器7内に回収されている蒸着材料がパーティクルとなって浮遊するのを防止することができる。また、蒸着時においても、シャッター6を蓋と干渉しない位置に移動させることで、回収容器7内の蒸着材料の浮遊を蓋によって防止することができる。
【0053】
さらに、蓋を設けない場合でも、蒸着時に、開口部4aが開放された坩堝4に対応するシャッター6(シャッター本体13)を回収容器7上に配置してその開口部7aを覆っておき、回収容器7内の蒸着材料の浮遊を防止するようにしてもよい。また、その場合には、回収容器7上に配置したシャッター6をシャッター用ヒーター8(21)によって加熱し、坩堝4からの蒸着と並行して、シャッター6に堆積した蒸着材料の除去・回収を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1、20…蒸着装置、2…チャンバー(蒸着室)、3…蒸着材料、4…坩堝、4a…開口部、5…蒸着用ヒーター(蒸着用加熱装置)、6…シャッター、7…回収装置、8、21…シャッター用ヒーター、13…シャッター本体、14…冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着室内に配置されて蒸着材料を収容する坩堝と、
前記坩堝内の蒸着材料を加熱する蒸着用加熱装置と、
前記坩堝の開口部を覆う状態と開放した状態とに切り換えられるように前記蒸着室内で移動可能に設けられたシャッターと、
前記シャッターが前記坩堝の開口部を開放した状態にするように移動した位置に、配置された回収容器と、
前記シャッターを加熱するシャッター加熱装置と、
を含むことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記回収容器には冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記シャッター加熱装置は、前記シャッターと一体に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記シャッター加熱装置は、前記回収容器の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着装置。
【請求項5】
収容する蒸着材料が異なる複数の坩堝を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蒸着装置を備えてなり、前記蒸着材料が、有機エレクトロルミネッセンス素子の有機機能層の材料であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−94197(P2011−94197A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250080(P2009−250080)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】