蒸着装置及び有機EL表示装置
【課題】シャドー現象を抑制して有機EL表示装置の画素領域を高精細に形成することが可能な蒸着装置を提供する。
【解決手段】蒸着装置は、蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成されている。上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。
【解決手段】蒸着装置は、蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成されている。上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及びそれを用いて有機物を蒸着して有機EL層が形成された有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理機器の多様化に伴い、陰極線管(CRT)よりも消費電力が少なく、薄型化が可能であるフラットパネルディスプレイに対する需要が高まってきている。低電圧駆動、全固体型、高速応答性、自発光性等の点で優れたフラットパネルディスプレイとしては、有機EL素子を備えた有機EL表示装置が挙げられる。
【0003】
フルカラー表示を行う有機EL表示装置の方式としては、赤色発光有機EL素子、緑色発光有機EL素子、及び青色発光有機EL素子を並置して画素を構成したRGB塗り分け方式や、白色発光有機EL素子と赤色、緑色、及び青色のカラーフィルタとを組み合わせたカラーフィルタ方式、青色発光有機EL素子と赤色・緑色への色変換フィルタとを組み合わせた色変換方式等が挙げられる。これらのうち、消費電力や色再現範囲に優れる点から、RGB塗り分け方式が広く採用されている。
【0004】
RGB塗り分け方式の有機EL表示装置において、各色の発光層をパターニングする方法として蒸着マスクを用いた真空蒸着法が挙げられる。
【0005】
蒸着マスクを用いた真空蒸着法では、蒸着マスクに、所望の有機膜の形成パターンに対応するように開口部が形成されている。そして、蒸着マスクが被蒸着基板を覆うように重ねられた状態で真空蒸着が行われる。このとき、マスクの開口部の周縁部において、蒸着マスク自体が所定の厚みを有することにより、所定の有機膜形成エリアの輪郭がぼやけた領域が形成される、いわゆるシャドー現象が生じる。
【0006】
かかる問題に対して、蒸着マスクの厚さを薄く形成する試みがなされている。しかしながら、蒸着マスクの厚さを薄くすることには加工精度の点で十分とはいえない。
【0007】
また、蒸着源を被蒸着基板から遠く離れたところに配置して有機物の進入角度を被蒸着基板に対して垂直に近い角度となるように蒸着を行うことがなされている。しかしながら、蒸着源と被蒸着基板との距離を大きくすればするほど、蒸着物質である有機物が被蒸着基板の所望の有機物形成エリアに付着する割合(材料利用効率)が低下してしまう。
【0008】
特許文献1には、開口部の周縁に傾斜面が形成されたシャドーマスクが開示されており、これによって有機化合物の蒸着時にシャドー現象を最小化でき、さらには、シャドー現象を防止することで有機発光層を均一に形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−335460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機EL層を形成するときのシャドー現象を抑制して有機EL表示装置の画素領域を高精細に形成することが可能な蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蒸着装置は、蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成されたものであって、
上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。
【0012】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部における内側内壁が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0013】
また、上記蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されていることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されているので、マスクの厚みに起因した有機膜のシャドー領域の形成が蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でより精度よくブロックされる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0015】
上記蒸着源は、一方向に連続するように設けられており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されている。そして、搬送手段は、蒸着マスクを上記蒸着源の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する。
【0016】
上記の構成によれば、蒸着マスクの搬送の往路においても復路においても、その開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることになる。そして、結果として、往路においても復路においても、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。
【0017】
また、搬送手段は、上記被蒸着基板を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送することが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、被蒸着基板に相対する2方向から有機膜の成膜を行うことになる。そのため、この蒸着装置によれば、蒸着マスクと蒸着源との鉛直方向の距離(T/S距離)を短く設定した場合でも膜厚の均一な有機膜を成膜することができる。また、T/S距離を短くした結果として、有機物の材料利用効率を高めることができる。
【0019】
その場合、上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されていてもよく、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向がいずれも同一方向であることが好ましい。
【0020】
上記の蒸着装置によれば、往路とは反対側の側方を通過する復路においても、開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面となり、結果として、往路搬送時においても復路搬送時においても、マスクの厚みに起因する有機膜のシャドー領域の形成を蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックした状態で有機膜を形成することができる。
【0021】
また、上記の蒸着装置によれば、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されているので、被蒸着基板に相対する2方向から有機物の蒸着を行うことになる。そして、その結果として、この蒸着装置を用いることにより厚さが均一な有機膜を形成することができる。
【0022】
或いは、上記蒸着源は、平面視において、上記搬送手段によって搬送される上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板と重なるように設けられていてもよい。
【0023】
その場合、上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されていてもよく、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向が蒸着源位置の両側で相互に逆方向であることが好ましい。
【0024】
上記蒸着マスクは、マスクシート材料を両面からエッチングすることにより開口部が形成されたものであってもよい。
【0025】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部がマスクシート材料を両面からエッチングすることにより形成されているので、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁を、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面とすることができる。
【0026】
本発明の有機EL表示装置は、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されたものである。
【0027】
上記の構成の有機EL表示装置によれば、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されているので、有機EL層を所望の画素領域に精度よく形成することができ、結果として高精細な有機EL表示装置が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の蒸着装置によれば、蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0029】
本発明の有機EL表示装置は、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されているので、有機EL層を所望の画素領域に精度よく形成することができ、結果として高精細な有機EL表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1にかかる蒸着装置の平面図である。
【図2】実施形態1にかかる蒸着装置の正面図である。
【図3】実施形態1にかかる蒸着マスクの(a)搬送方向に直交する方向の断面図及び(b)搬送方向の断面図である。
【図4】実施形態1にかかる蒸着マスクの断面図である。
【図5】実施形態1にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図6】実施形態1の変形例にかかる蒸着マスクの搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図7】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図8】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図9】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図10】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図11】被蒸着基板の横幅とT/S距離との関係を示すグラフである。
【図12】被蒸着基板の横幅と蒸着物の材料利用効率との関係を示すグラフである。
【図13】有機EL表示装置の断面図である。
【図14】実施形態2にかかる蒸着装置の平面図である。
【図15】実施形態2にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図16】実施形態2の変形例にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
《実施形態1》
<蒸着装置>
まず、実施形態1にかかる蒸着装置10について、図1を用いて説明する。蒸着装置10は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成するための装置である。
【0033】
蒸着装置10は真空チャンバ(図示せず)を備え、これに接続された真空ポンプによって内部を真空引きすることができる。真空チャンバには、最下位置に蒸着源11が設けられ、その蒸着源11の上方に、被蒸着基板20と取り付けるための基板ホルダ(図示せず)及び蒸着マスク12を取り付けるための蒸着ホルダ(図示せず)が設けられており、蒸着ホルダには蒸着マスク12が取り付けられている。また、蒸着装置10は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送するための搬送手段を有する。蒸着装置10は、均一な有機膜を形成する観点から上方蒸着を行うことが好ましい。
【0034】
真空チャンバは、例えば、縦100〜500cm、横100〜5000cm、及び高さ50〜500cmの直方体形状のものである。
【0035】
蒸着源11は、複数の蒸着源11が一列に並ぶように一定間隔で配されていてもよく、細長形状の単一の蒸着源11が配されていてもよい。複数の蒸着源11が一列に並ぶように一定間隔で配されている場合、複数の蒸着源11は、例えば100〜500mm毎に2〜10個設けられている。また、蒸着源11が細長形状の単一のものである場合、蒸着源11は、例えば幅30〜300mm及び長さ500〜2000mmである。なお、一列に連続的に設けられた蒸着源11は、直線状に一列に連続的に設けられていてもよく、曲線状に一列に連続的に設けられていてもよい。但し、蒸着マスク12等の搬送の容易性の観点からは、蒸着源11は直線状に一列に設けられていることが好ましい。
【0036】
蒸着源11は、内部に蒸着物質である有機物を収納可能なルツボを備えている。そして、蒸着源11は、ルツボ内に収納された有機物を昇華させるための有機物飛出手段を有する。有機物飛出手段は、例えば、加熱手段であってもよく、その他の手段であってもよい。
【0037】
有機物飛出手段が加熱手段である場合、例えば、ヒーターでルツボ内の有機物が150〜420℃に加熱されることにより、有機物が昇華されて蒸着源11の上方に飛出する。
【0038】
基板ホルダは、被蒸着基板20を把持する部材である。基板ホルダは、取り付けられた被蒸着基板20が蒸着源11の上方に平面視においては蒸着源11の側方に位置付けられるように設けられている。
【0039】
マスクホルダは、蒸着マスク12が被蒸着基板20の蒸着源11側表面を覆うように位置付けた状態で蒸着マスク12を把持する部材である。マスクホルダは、取り付けられた蒸着マスク12が蒸着源11の上方に上記基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20の下方表面を覆うように位置付けられるように設けられている。
【0040】
このとき取り付けられた蒸着マスク12と蒸着源11との距離(図2に示すT/S距離)は、例えば、100〜300mmである。有機物の材料利用効率が高める点からは、T/S距離は小さいことが好ましい。
【0041】
また、図2に示す蒸着源11と蒸着マスク12との水平方向の距離は、例えば50〜500mmである。また、このとき取り付けられた被蒸着基板20と蒸着マスク12との間の距離は、例えば1〜10mmであることが好ましい。なお、これらの各寸法は、蒸着マスク12の寸法等の条件に合わせて変量可能であることが好ましい。
【0042】
搬送手段は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及びマスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、蒸着源11の側方を蒸着源11に沿って搬送するコンベヤ等の手段である。具体的には、蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うように重ね合わせた状態で蒸着源11の側方を一方から他方に向かって搬送する。被蒸着基板20及び蒸着マスク12が蒸着源11の他端に到達すると、搬送手段は、マスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、上記蒸着源11の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送し、一方、被蒸着基板20を往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送する。これにより、往路とは反対側の側方を通過する復路においても、開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面となる。そして、再び両者が蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うように重ね合わせられた状態で、蒸着源11の他方から一方に向かって復路の搬送を行う。
【0043】
−蒸着マスク−
蒸着マスク12は、マスクシートに開口部が設けられた構成を有する。マスクシートは、例えばインバー等の材料で、縦が300〜1000mm、横が50〜500mm、及び厚さが5〜200mmの矩形シート状に形成されている。蒸着マスク12は、被蒸着基板20と同じ面積がそれよりも大きな面積であることが好ましいが、被蒸着基板20よりも面積の小さい蒸着マスク12を複数枚使用してもよい。この蒸着マスク12は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成する際に、被蒸着基板20に重ね合わせて使用される。
【0044】
開口部は、被蒸着基板20上に形成される有機膜の形成パターンに対応するように設けられている。設けられる開口部の数は単数であっても複数であってもよい。開口部は、例えば矩形であって、縦が20μm〜1mm、及び横が30μm〜1.5mmである。開口部は、例えば蒸着マスク12の単位面積あたり10〜300個/mm2程度形成されている。開口部は、タイル状に並べられていてもよく、その他のレイアウトとなるように並べられていてもよい。なお、開口部は矩形以外にも、円形等の形状を有していてもよい。有機膜形成時に蒸着マスク12が被蒸着基板20に重ね合わされると、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部が形成されたエリアに対応するエリアには有機膜が形成される。一方で、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部以外のエリアに対応するエリアでは、有機物が基板に重ね合わせられた蒸着マスク12で遮断されて被蒸着基板20に付着することができず、有機膜は形成されないことになる。
【0045】
蒸着マスク12は、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。傾斜面で被蒸着基板20の一部がブロックされてしまうことにより、蒸着物が拡散して本来の有機膜の形成領域からずれた場所に有機膜のシャドー領域の形成を防ぐことができる。
【0046】
傾斜面の傾斜角度は、例えば30〜85°である。傾斜面の傾斜角度は、図3(a)に示すように、蒸着源11から蒸着マスク12の開口部への有機物の進入角度と一致するように設けられていることが好ましい。進入角度θは、図4に示すT/S距離(長さaとする)と蒸着源11から開口部までの水平方向の距離(長さbとする)により以下の式で求められる。
【0047】
【数1】
【0048】
開口部が複数設けられているとき、傾斜面となっている開口部の内側内壁12aの傾斜方向がいずれも同一方向である。ここで、傾斜方向がいずれも同一方向とは、必ずしも各々が平行であることを意味するものではなく、いずれもが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面であることを意味する。より詳しくは、図5に示すように、各開口部の内側内壁12aの傾斜面の傾斜角度が、その場所における蒸着源11から開口部への有機物の進入角度とそれぞれ一致していることが好ましい。
【0049】
なお、ここでは蒸着マスク12は外側内壁が傾斜面に形成されているとして説明したが、図6に示すように外側内壁は傾斜面に形成されていなくてもよい。外側内壁が傾斜面に形成されていない場合でも、内側内壁12aが内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることによりシャドー領域の形成が蒸着マスク12の傾斜面となっている部分でブロックされるので、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成する効果を有する。但し、外側内壁が傾斜面に形成されていない場合には、蒸着マスク12の開口部に進入して外側内壁に衝突する有機物が外側内壁ではね返されて有機膜形成領域に付着する。そのため、形成される有機膜の層厚が外側内壁が傾斜面に形成されている場合よりも不均一になる虞がある。
【0050】
次に、上記の構成の蒸着マスク12の開口部の作製方法について詳述する。蒸着マスク12の開口部は、マスクシート材料31に露光マスク32を重ねてウェットエッチングを行って形成する。なお、ここでは、対象物の結晶性に関係なく全ての方向に一様な速度でエッチングを進行させることができる等方性エッチングを行うことが好ましい。
【0051】
図7は等方性エッチングの一般的な工程の説明図である。等方性エッチングに用いるエッチング液としては、例えば、リン酸、塩化第2鉄液等が挙げられる。等方性エッチングによって、開口部の内壁面に傾斜面が形成されることが分かる。なお、この傾斜面の傾斜角度は、等方性エッチングを行う場合のエッチング液の種類、エッチング液の温度、エッチング時間等の条件を変量することによって制御することができる。
【0052】
図8に示すように、マスクシート材料31の表面及び裏面の両方に露光マスク32を重ねて等方性エッチングを行うと、開口部の断面形状は、合同な2つの台形を上下に反転させて重ね合わせた形状となる。なお、表面からのマスクシート材料31のエッチング及び裏面からのマスクシート材料31のエッチングは、同時に行っても、順に1つずつ行っても、いずれでもよい。
【0053】
また、図9に示すように、マスクシート材料31の表面及び裏面に重ねる露光マスク32の位置をずらすことにより、開口部の内壁を任意の形状とすることも可能となる。さらには、マスクシート材料31の表面及び裏面に重ねる露光マスク32のずれ幅を適宜計算して調整することで、図10に示すように内側内壁12a及び外側内壁の傾斜面を平行になるように作成することも可能である。
【0054】
本実施形態にかかる蒸着マスク12は、図7(c)や図10(c)に示すように、開口部の内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることが好ましいが、図8(c)や図9(c)に示すように、内側内壁12aの一部が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている場合であってもよい。内側内壁12aの一部が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、その傾斜面の部分においてはマスクの厚みに起因する有機膜のシャドー領域の形成を蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックする効果を有するからである。
【0055】
−有機膜形成方法−
次に、本発明の蒸着装置10を用いた有機膜形成方法について説明する。
【0056】
ここでは、被蒸着基板20の基板サイズが横幅100mm及び縦長さ800mmであって、蒸着源11と被蒸着基板20との水平方向の距離が100mmである場合について例示する。被蒸着基板20上に形成される有機膜の層厚の分布を、最大厚さと最小厚さとの差を最大厚さと最小厚さとの和で除してそれを百分率で表した値((Max-Min)/(Max+Min)[%])で定義する。このとき、有機膜の層厚の分布が3%以下となるようにするためには、T/S距離を200mmに設定すればよい。
【0057】
図11は蒸着源11と被蒸着基板20との間の水平距離が200mmである場合の、被蒸着基板横幅とT/S距離との関係を示すグラフであり、図12は被蒸着基板横幅と有機物の材料利用効率との関係を示すグラフである。図11によれば、被蒸着基板20の横幅が小さいほどT/S距離も小さく設定できることが分かる。また、図12によれば、被蒸着基板20の横幅が小さくなるほど有機物の材料利用効率が高くなることが分かる。
【0058】
なお、従来の蒸着装置を用いて有機膜の形成を行った場合の有機物の材料利用効率は約5%であることから、実施形態1の蒸着装置10によれば、優れた有機物の材料利用効率で有機膜の形成を行うことができることが分かる。
【0059】
蒸着装置10を以上のように設定した状態で、蒸着源11を加熱して有機物をルツボから被蒸着基板20に向かって飛出させる。このときの蒸着源11の加熱温度は例えば200〜300℃であり、真空チャンバ内は、例えば、圧力が10−3〜10−6Pa、及び、温度が20〜30℃である。また、成膜速度は、例えば、形成する有機膜が正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の場合には2Å/s程度であり、形成する有機膜が発光層である場合は0.2Å/s程度である。そして、被蒸着基板20及び蒸着マスク12の搬送速度は、例えば30mm/sである。
【0060】
これによって、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成することができる。
【0061】
<有機EL表示装置>
次に、上記説明した蒸着装置10を用いて有機膜を形成して有機EL層48とした有機EL表示装置40について図13を用いて説明する。この有機EL表示装置40は、例えば、RGBフルカラー表示を行うものであり、携帯電話やカーナビ等のディスプレイとして用いられる。
【0062】
有機EL表示装置40は、TFT基板41上に有機EL素子42が設けられ、これらが不活性ガス雰囲気下で封止部材(それぞれ不図示)により封止された構造を有する。そして、それらによって複数の画素がマトリクス状に構成されており、画素によって画像表示を行う。なお、各画素のそれぞれは、赤色補助画素、緑色補助画素、及び青色補助画素の3つの補助画素で構成されている。
【0063】
TFT基板41は、ガラス基板43等の上に各補助画素に対応するようにTFT44が設けられ、それらのTFT44を覆うように平坦化膜45が形成されている。TFT基板41は、例えば厚さが1〜10mm、縦長さが200〜1000mm、及び横長さが200〜1000mmである。
【0064】
有機EL素子42は、TFT基板41上に、第1電極46、有機EL層48、及び第2電極49が積層された構成を有する。
【0065】
第1電極46は、導電性材料で形成されており、TFT基板41の平坦化膜45上に各画素に対応するように設けられている。第1電極46は、有機EL層48にホール(正孔)を注入する機能を有する。第1電極46は、例えばITO等の公知の材料で形成されている。第1電極46は、例えば厚さが50〜150nmである。
【0066】
第1電極46は、例えば、TFT基板41の平坦化膜45に各TFT44毎にドレイン領域に通ずるコンタクトホールを形成し、スパッタ法によって、そのコンタクトホールと電気的に接続するように第1電極46となるITO膜を形成し、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行い、さらに、各画素表示領域に対応する形状となるようにエッチングを行うことによって形成することができる。
【0067】
第1電極46上には、画素と画素との間の部分や補助画素と補助画素との間の部分に、アクリル樹脂等の絶縁性の材料でエッジカバー47が設けられている。エッジカバー47は、隣り合う補助画素同士を隔てる隔壁部としての機能を有すると共に、第1電極46の端部を被覆することにより端部での第1電極46と第2電極49との短絡を防止する機能を有する。エッジカバー47は、製造時に蒸着マスク12を重ね合わせる際のスペーサとして機能するマスクスペーサをさらに備えていてもよい。マスクスペーサは、エッジカバー47から基板とは反対の方向に突出するように設けられている。エッジカバー47及びマスクスペーサは、例えばスピンコート法によって絶縁膜を形成し、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行い、その後に熱硬化を行うことによって形成することができる。
【0068】
有機EL層48は、第1電極46側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層が順に積層された構造を有する。なお、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、及び電子注入層は必須ではなく、必要に応じて積層すればよく、削除することも可能である。これらは、上記説明した蒸着装置10を用いて形成するので、特に各発光色の発光材料毎に有機EL層48を塗り分けて形成する必要のある発光層については、画素領域に対して高精細な有機EL層48の形成が可能となる。なお、蒸着装置10を用いて有機EL層48の形成を行う場合には、蒸着材料である各有機物毎に蒸着装置10を用意する。例えば、赤色発光層、青色発光層、及び緑色発光層を形成する場合には、赤色発光層用蒸着装置、青色発光層用蒸着装置、及び緑色発光層用蒸着装置を使用する。
【0069】
正孔注入層及び正孔輸送層は、それぞれ発光層への正孔注入効率及び正孔輸送効率を高める機能を有する。正孔注入層及び正孔輸送層は、例えば、トリフェニルアミン誘導体等の公知の材料で形成されている。正孔注入層及び正孔輸送層は、それぞれ独立に構成されていても一体に構成されていてもよく、後者の場合は、例えば厚さが10〜100nmである。
【0070】
発光層は、第1電極46側から注入されたホール(正孔)と第2電極49側から注入された電子とを再結合させて光を出射させる機能を有する。発光層は、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の発光効率が高い材料で形成されている。発光層は、例えば、アルミキノリノール錯体(Alq3)等の公知の材料で形成されている。発光層は、例えば厚さが30〜100nmである。
【0071】
電子輸送層及び電子注入層は、それぞれ、第2電極49から発光層への電子輸送効率及び電子注入効率を高める機能を有する。電子輸送層及び電子注入層は、例えば、オキサゾール誘導体等の公知の材料で形成されている。電子輸送層及び電子注入層は、それぞれ独立に構成されていても一体に構成されていてもよく、後者の場合は、例えば厚さが10〜100nmである。
【0072】
第2電極49は、有機EL層48に電子を注入する機能を有する。第2電極49は、例えば、画素領域の全体にマグネシウム合金(MgAg等)等の材料で形成されている。第2電極49は、例えば厚さが50〜100nmである。第2電極49は、例えば真空蒸着法等を用いて形成することができる。
【0073】
第2電極49を覆うように保護膜(図示せず)が設けられていてもよい。保護膜は、絶縁性や導電性の材料で形成されており、厚さが例えば100〜1000nmである。保護膜は、水や酸素が有機EL層48へ混入するのを阻止する機能を有する。保護膜は、例えばイオンビームスパッタ法等によって形成することができる。
【0074】
封止部材は、例えば、ガラスやシリコンで形成されている。封止部材は、例えば熱硬化性樹脂の接着剤でTFT基板41に接着されており、有機EL層48に水や酸素等が混入しないように有機EL素子42を封止する機能を有する。微量に混入した水や酸素を捕捉するために、さらに乾燥剤が封入されていてもよい。
【0075】
以上の構成の有機EL表示装置40では、各画素において、TFT44がオンとなった際に、有機EL層48に対し、第1電極46からホール(正孔)が注入されると共に第2電極49から電子が注入され、それらのホールと電子とが発光層で再結合し、それによって放出されたエネルギーが発光層の発光材料を励起させ、励起された発光材料が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光や燐光を放出し、その蛍光や燐光が有機EL層48の発光として外部に出射され、画素全体として所定の画像を表示することとなる。
【0076】
なお、本実施形態では、第1電極46が陽極及び第2電極49が陰極である構成としたが、第1電極46が陰極及び第2電極49が陽極の逆構造型有機EL素子であってもよい。また、本実施形態ではTFTアレイが形成されたアクティブ型の有機EL表示装置40について説明したが、特にこれに限られるものではなく、例えばTFTアレイが形成されていないパッシブ型の有機EL表示装置40であってもよい。さらに、本実施形態ではRGBの3色の補助画素で1画素が構成されているとしたが、特にこれに限られず、例えば白色発光を行う白色補助画素を加えたRGBWの4色の補助画素で1画素が構成されていてもよい。また、本実施形態では、基板側から光を取り出すボトムエミッション型の構成としたが、封止部材側から光を取り出すトップエミッション型の構成であってもよい。
【0077】
<実施形態1の効果>
実施形態1にかかる蒸着装置10の蒸着マスク12は、開口部における搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置10を用いることにより所望の領域21に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0078】
また、実施形態1にかかる蒸着装置10は、蒸着源11は、一方向に連続するように設けられており、搬送手段は、蒸着マスク12で覆われた被蒸着基板20を、蒸着源11の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されている。この折り返し時においては、蒸着マスク12を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する。この蒸着装置10に使用する蒸着マスク12は、蒸着用の開口部が複数形成されており、蒸着マスク12の複数の開口部における傾斜面の内側内壁12aの傾斜方向がいずれも同一方向である。そのため、蒸着マスク12の搬送の往路においても復路においても、その開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることになる。そして、結果として、往路においても復路においても、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。
【0079】
さらに、蒸着装置10は、搬送手段が、被蒸着基板20を往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送するので、被蒸着基板20に相対する2方向から有機膜の成膜を行うことになる。そのため、この蒸着装置10によれば、T/S距離を短く設定した場合でも膜厚の均一な有機膜を成膜することができる。また、T/S距離を短くした結果として、有機物の材料利用効率を高めることができる。
【0080】
《実施形態2》
<蒸着装置>
図14は、実施形態2にかかる蒸着装置10を示す。実施形態1と同一名称の構成については同一の参照符号で説明する。蒸着装置10は、真空チャンバ(図示せず)を備え、これに接続された真空ポンプによって内部を真空引きすることができる。真空チャンバには、最下位置に蒸着源11が設けられ、その蒸着源11の上方に、被蒸着基板20と取り付けるための基板ホルダ及び蒸着マスク12を取り付けるための蒸着ホルダが設けられており、蒸着ホルダには蒸着マスク12が取り付けられている。また、蒸着装置10は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送するための搬送手段を有する。
【0081】
真空チャンバは、例えば、縦100〜500cm、横100〜5000cm、及び高さ50〜500cmの直方体形状のものである。
【0082】
蒸着源11は、実施形態1と同様に一列に連続的に設けられている。
【0083】
搬送手段は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及びマスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、蒸着源11の側方を蒸着源11に沿って搬送する手段である。具体的には、蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うようにそれらを重ね合わせた状態で蒸着源11の上方を一方から他方に向かって搬送する。このとき、平面視において、蒸着源11は搬送される蒸着マスク12及び被蒸着基板20と重なるように設けられている。
【0084】
−蒸着マスク−
蒸着マスク12は、マスクシートに開口部が設けられた構成を有する。マスクシートは、例えばインバー等の材料で、縦が300〜1000mm、横が50〜500mm、及び厚さが5〜200mmの矩形シート状に形成されている。蒸着マスク12は、被蒸着基板20と同じ面積がそれよりも大きな面積であることが好ましいが、被蒸着基板20よりも面積の小さい蒸着マスク12を複数枚使用してもよい。この蒸着マスク12は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成する際に、被蒸着基板20に重ね合わせて使用される。
【0085】
開口部は、被蒸着基板20上に形成される有機膜の形成パターンに対応するように複数設けられている。開口部は、例えば矩形であって、縦が20μm〜1mm、及び横が30μm〜1.5mmである。開口部は、例えば蒸着マスク12の単位面積あたり10〜300個/mm2程度形成されている。開口部は、タイル状に並べられていてもよく、その他のレイアウトとなるように並べられていてもよい。有機膜形成時に蒸着マスク12が被蒸着基板20に重ね合わされると、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部が形成されたエリアに対応するエリアには有機膜が形成される。一方で、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部以外のエリアに対応するエリアでは、有機物が基板に重ね合わせられた蒸着マスク12で遮断されて被蒸着基板20に付着することができず、有機膜は形成されないことになる。
【0086】
蒸着マスク12の蒸着源11上方に位置するように設けられた開口部は、図15に示すように、内壁が傾斜面に形成されていない。一方、蒸着源11位置に対応する場所に設けられた開口部の両側に位置付けられて設けられた開口部は、内側内壁12aが傾斜面に設けられていると共に、それらの傾斜方向が蒸着源11位置の両側で相互に逆方向に形成されている。また、各開口部の内側内壁12aの傾斜面の傾斜角度が、その場所における蒸着源11から開口部への有機物の進入角度とそれぞれ一致していることが好ましい。なお、図15には蒸着源11位置に対応する場所に開口部が形成されているとしたが、蒸着源11位置に対応する場所に開口部が形成されていなくてもよい。
【0087】
なお、蒸着マスク12の開口部の外側内壁が傾斜面に形成されているとして説明したが、図16に示すように外側内壁は傾斜面に形成されていなくてもよい。外側内壁が傾斜面に形成されていない場合でも、内側内壁12aが内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることにより、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができるので、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成する効果を有する。但し、外側内壁が傾斜面に形成されていない場合には、蒸着マスク12の開口部に進入して外側内壁に衝突する有機物が外側内壁ではね返されて有機膜形成領域に付着する。そのため、形成される有機膜の層厚が外側内壁が傾斜面に形成されている場合よりも不均一になる虞がある。
【0088】
開口部は、実施形態1と同様に、マスクシート材料31の表面及び裏面に適宜露光マスク32を重ねて等方性エッチングを行うことにより、開口部の内側内壁12aを傾斜面に形成することができる。
【0089】
−有機膜形成方法−
次に、本発明の蒸着装置10を用いた有機膜形成方法について説明する。
【0090】
ここでは、被蒸着基板20の基板サイズが横幅200mm及び縦長さ800mmであって、蒸着源11と被蒸着基板20との水平方向の距離が100mmである場合について例示する。有機膜の層厚の分布が3%以下となるようにするために、T/S距離を400mmに設定する。このときの材料利用効率は約40%である。
【0091】
蒸着装置10を以上のように設定した状態で、蒸着源11を加熱して有機物をルツボから被蒸着基板20に向かって飛出させる。このときの蒸着源11の加熱温度は例えば200〜300℃であり、真空チャンバ内は、例えば、圧力が10−3〜10−6Pa、及び、温度が20〜30℃である。また、成膜速度は、例えば、形成する有機膜が正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の場合には2Å/s程度であり、形成する有機膜が発光層である場合は0.2Å/s程度である。そして、被蒸着基板20及び蒸着マスク12の搬送速度は、例えば30mm/sである。
【0092】
これによって、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成することができる。特に、有機EL表示装置40の有機EL層48形成時にこの蒸着装置10を用いることにより、所望の画素領域に高精細に有機EL層4有機EL素子428を形成することができる。
【0093】
<実施形態2の効果>
実施形態2にかかる蒸着装置10の蒸着マスク12は、開口部における搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置10を用いることにより所望の領域21に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0094】
また、実施形態2にかかる蒸着装置10は、平面視において、搬送手段によって搬送される上記蒸着マスク12で覆われた被蒸着基板20と重なるように設けられており、該蒸着マスク12の複数の開口部における傾斜面の内側内壁12aの傾斜方向が蒸着源11位置の両側で相互に逆方向であるので、被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送する場合に蒸着源11の他端に到達した後それらを折り返して搬送する必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、被蒸着基板上に有機膜をパターン形成するための蒸着装置及び有機EL表示装置について有用である。
【符号の説明】
【0096】
10 蒸着装置
11 蒸着源
12 蒸着マスク
12a 内側内壁(傾斜面)
20 被蒸着基板
31 マスクシート材料
40 有機EL表示装置
48 有機EL層
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及びそれを用いて有機物を蒸着して有機EL層が形成された有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理機器の多様化に伴い、陰極線管(CRT)よりも消費電力が少なく、薄型化が可能であるフラットパネルディスプレイに対する需要が高まってきている。低電圧駆動、全固体型、高速応答性、自発光性等の点で優れたフラットパネルディスプレイとしては、有機EL素子を備えた有機EL表示装置が挙げられる。
【0003】
フルカラー表示を行う有機EL表示装置の方式としては、赤色発光有機EL素子、緑色発光有機EL素子、及び青色発光有機EL素子を並置して画素を構成したRGB塗り分け方式や、白色発光有機EL素子と赤色、緑色、及び青色のカラーフィルタとを組み合わせたカラーフィルタ方式、青色発光有機EL素子と赤色・緑色への色変換フィルタとを組み合わせた色変換方式等が挙げられる。これらのうち、消費電力や色再現範囲に優れる点から、RGB塗り分け方式が広く採用されている。
【0004】
RGB塗り分け方式の有機EL表示装置において、各色の発光層をパターニングする方法として蒸着マスクを用いた真空蒸着法が挙げられる。
【0005】
蒸着マスクを用いた真空蒸着法では、蒸着マスクに、所望の有機膜の形成パターンに対応するように開口部が形成されている。そして、蒸着マスクが被蒸着基板を覆うように重ねられた状態で真空蒸着が行われる。このとき、マスクの開口部の周縁部において、蒸着マスク自体が所定の厚みを有することにより、所定の有機膜形成エリアの輪郭がぼやけた領域が形成される、いわゆるシャドー現象が生じる。
【0006】
かかる問題に対して、蒸着マスクの厚さを薄く形成する試みがなされている。しかしながら、蒸着マスクの厚さを薄くすることには加工精度の点で十分とはいえない。
【0007】
また、蒸着源を被蒸着基板から遠く離れたところに配置して有機物の進入角度を被蒸着基板に対して垂直に近い角度となるように蒸着を行うことがなされている。しかしながら、蒸着源と被蒸着基板との距離を大きくすればするほど、蒸着物質である有機物が被蒸着基板の所望の有機物形成エリアに付着する割合(材料利用効率)が低下してしまう。
【0008】
特許文献1には、開口部の周縁に傾斜面が形成されたシャドーマスクが開示されており、これによって有機化合物の蒸着時にシャドー現象を最小化でき、さらには、シャドー現象を防止することで有機発光層を均一に形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−335460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機EL層を形成するときのシャドー現象を抑制して有機EL表示装置の画素領域を高精細に形成することが可能な蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蒸着装置は、蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成されたものであって、
上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。
【0012】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部における内側内壁が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0013】
また、上記蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されていることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されているので、マスクの厚みに起因した有機膜のシャドー領域の形成が蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でより精度よくブロックされる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0015】
上記蒸着源は、一方向に連続するように設けられており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されている。そして、搬送手段は、蒸着マスクを上記蒸着源の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する。
【0016】
上記の構成によれば、蒸着マスクの搬送の往路においても復路においても、その開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることになる。そして、結果として、往路においても復路においても、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。
【0017】
また、搬送手段は、上記被蒸着基板を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送することが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、被蒸着基板に相対する2方向から有機膜の成膜を行うことになる。そのため、この蒸着装置によれば、蒸着マスクと蒸着源との鉛直方向の距離(T/S距離)を短く設定した場合でも膜厚の均一な有機膜を成膜することができる。また、T/S距離を短くした結果として、有機物の材料利用効率を高めることができる。
【0019】
その場合、上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されていてもよく、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向がいずれも同一方向であることが好ましい。
【0020】
上記の蒸着装置によれば、往路とは反対側の側方を通過する復路においても、開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面となり、結果として、往路搬送時においても復路搬送時においても、マスクの厚みに起因する有機膜のシャドー領域の形成を蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックした状態で有機膜を形成することができる。
【0021】
また、上記の蒸着装置によれば、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されているので、被蒸着基板に相対する2方向から有機物の蒸着を行うことになる。そして、その結果として、この蒸着装置を用いることにより厚さが均一な有機膜を形成することができる。
【0022】
或いは、上記蒸着源は、平面視において、上記搬送手段によって搬送される上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板と重なるように設けられていてもよい。
【0023】
その場合、上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されていてもよく、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向が蒸着源位置の両側で相互に逆方向であることが好ましい。
【0024】
上記蒸着マスクは、マスクシート材料を両面からエッチングすることにより開口部が形成されたものであってもよい。
【0025】
上記の構成によれば、蒸着マスクの開口部がマスクシート材料を両面からエッチングすることにより形成されているので、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁を、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面とすることができる。
【0026】
本発明の有機EL表示装置は、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されたものである。
【0027】
上記の構成の有機EL表示装置によれば、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されているので、有機EL層を所望の画素領域に精度よく形成することができ、結果として高精細な有機EL表示装置が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の蒸着装置によれば、蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスクの内側内壁の傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置を用いることにより所望の領域に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0029】
本発明の有機EL表示装置は、上記蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成されているので、有機EL層を所望の画素領域に精度よく形成することができ、結果として高精細な有機EL表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1にかかる蒸着装置の平面図である。
【図2】実施形態1にかかる蒸着装置の正面図である。
【図3】実施形態1にかかる蒸着マスクの(a)搬送方向に直交する方向の断面図及び(b)搬送方向の断面図である。
【図4】実施形態1にかかる蒸着マスクの断面図である。
【図5】実施形態1にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図6】実施形態1の変形例にかかる蒸着マスクの搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図7】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図8】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図9】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図10】蒸着マスクの開口部の形成方法の説明図である。
【図11】被蒸着基板の横幅とT/S距離との関係を示すグラフである。
【図12】被蒸着基板の横幅と蒸着物の材料利用効率との関係を示すグラフである。
【図13】有機EL表示装置の断面図である。
【図14】実施形態2にかかる蒸着装置の平面図である。
【図15】実施形態2にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【図16】実施形態2の変形例にかかる搬送装置の搬送方向に直交する方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
《実施形態1》
<蒸着装置>
まず、実施形態1にかかる蒸着装置10について、図1を用いて説明する。蒸着装置10は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成するための装置である。
【0033】
蒸着装置10は真空チャンバ(図示せず)を備え、これに接続された真空ポンプによって内部を真空引きすることができる。真空チャンバには、最下位置に蒸着源11が設けられ、その蒸着源11の上方に、被蒸着基板20と取り付けるための基板ホルダ(図示せず)及び蒸着マスク12を取り付けるための蒸着ホルダ(図示せず)が設けられており、蒸着ホルダには蒸着マスク12が取り付けられている。また、蒸着装置10は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送するための搬送手段を有する。蒸着装置10は、均一な有機膜を形成する観点から上方蒸着を行うことが好ましい。
【0034】
真空チャンバは、例えば、縦100〜500cm、横100〜5000cm、及び高さ50〜500cmの直方体形状のものである。
【0035】
蒸着源11は、複数の蒸着源11が一列に並ぶように一定間隔で配されていてもよく、細長形状の単一の蒸着源11が配されていてもよい。複数の蒸着源11が一列に並ぶように一定間隔で配されている場合、複数の蒸着源11は、例えば100〜500mm毎に2〜10個設けられている。また、蒸着源11が細長形状の単一のものである場合、蒸着源11は、例えば幅30〜300mm及び長さ500〜2000mmである。なお、一列に連続的に設けられた蒸着源11は、直線状に一列に連続的に設けられていてもよく、曲線状に一列に連続的に設けられていてもよい。但し、蒸着マスク12等の搬送の容易性の観点からは、蒸着源11は直線状に一列に設けられていることが好ましい。
【0036】
蒸着源11は、内部に蒸着物質である有機物を収納可能なルツボを備えている。そして、蒸着源11は、ルツボ内に収納された有機物を昇華させるための有機物飛出手段を有する。有機物飛出手段は、例えば、加熱手段であってもよく、その他の手段であってもよい。
【0037】
有機物飛出手段が加熱手段である場合、例えば、ヒーターでルツボ内の有機物が150〜420℃に加熱されることにより、有機物が昇華されて蒸着源11の上方に飛出する。
【0038】
基板ホルダは、被蒸着基板20を把持する部材である。基板ホルダは、取り付けられた被蒸着基板20が蒸着源11の上方に平面視においては蒸着源11の側方に位置付けられるように設けられている。
【0039】
マスクホルダは、蒸着マスク12が被蒸着基板20の蒸着源11側表面を覆うように位置付けた状態で蒸着マスク12を把持する部材である。マスクホルダは、取り付けられた蒸着マスク12が蒸着源11の上方に上記基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20の下方表面を覆うように位置付けられるように設けられている。
【0040】
このとき取り付けられた蒸着マスク12と蒸着源11との距離(図2に示すT/S距離)は、例えば、100〜300mmである。有機物の材料利用効率が高める点からは、T/S距離は小さいことが好ましい。
【0041】
また、図2に示す蒸着源11と蒸着マスク12との水平方向の距離は、例えば50〜500mmである。また、このとき取り付けられた被蒸着基板20と蒸着マスク12との間の距離は、例えば1〜10mmであることが好ましい。なお、これらの各寸法は、蒸着マスク12の寸法等の条件に合わせて変量可能であることが好ましい。
【0042】
搬送手段は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及びマスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、蒸着源11の側方を蒸着源11に沿って搬送するコンベヤ等の手段である。具体的には、蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うように重ね合わせた状態で蒸着源11の側方を一方から他方に向かって搬送する。被蒸着基板20及び蒸着マスク12が蒸着源11の他端に到達すると、搬送手段は、マスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、上記蒸着源11の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送し、一方、被蒸着基板20を往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送する。これにより、往路とは反対側の側方を通過する復路においても、開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面となる。そして、再び両者が蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うように重ね合わせられた状態で、蒸着源11の他方から一方に向かって復路の搬送を行う。
【0043】
−蒸着マスク−
蒸着マスク12は、マスクシートに開口部が設けられた構成を有する。マスクシートは、例えばインバー等の材料で、縦が300〜1000mm、横が50〜500mm、及び厚さが5〜200mmの矩形シート状に形成されている。蒸着マスク12は、被蒸着基板20と同じ面積がそれよりも大きな面積であることが好ましいが、被蒸着基板20よりも面積の小さい蒸着マスク12を複数枚使用してもよい。この蒸着マスク12は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成する際に、被蒸着基板20に重ね合わせて使用される。
【0044】
開口部は、被蒸着基板20上に形成される有機膜の形成パターンに対応するように設けられている。設けられる開口部の数は単数であっても複数であってもよい。開口部は、例えば矩形であって、縦が20μm〜1mm、及び横が30μm〜1.5mmである。開口部は、例えば蒸着マスク12の単位面積あたり10〜300個/mm2程度形成されている。開口部は、タイル状に並べられていてもよく、その他のレイアウトとなるように並べられていてもよい。なお、開口部は矩形以外にも、円形等の形状を有していてもよい。有機膜形成時に蒸着マスク12が被蒸着基板20に重ね合わされると、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部が形成されたエリアに対応するエリアには有機膜が形成される。一方で、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部以外のエリアに対応するエリアでは、有機物が基板に重ね合わせられた蒸着マスク12で遮断されて被蒸着基板20に付着することができず、有機膜は形成されないことになる。
【0045】
蒸着マスク12は、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている。傾斜面で被蒸着基板20の一部がブロックされてしまうことにより、蒸着物が拡散して本来の有機膜の形成領域からずれた場所に有機膜のシャドー領域の形成を防ぐことができる。
【0046】
傾斜面の傾斜角度は、例えば30〜85°である。傾斜面の傾斜角度は、図3(a)に示すように、蒸着源11から蒸着マスク12の開口部への有機物の進入角度と一致するように設けられていることが好ましい。進入角度θは、図4に示すT/S距離(長さaとする)と蒸着源11から開口部までの水平方向の距離(長さbとする)により以下の式で求められる。
【0047】
【数1】
【0048】
開口部が複数設けられているとき、傾斜面となっている開口部の内側内壁12aの傾斜方向がいずれも同一方向である。ここで、傾斜方向がいずれも同一方向とは、必ずしも各々が平行であることを意味するものではなく、いずれもが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面であることを意味する。より詳しくは、図5に示すように、各開口部の内側内壁12aの傾斜面の傾斜角度が、その場所における蒸着源11から開口部への有機物の進入角度とそれぞれ一致していることが好ましい。
【0049】
なお、ここでは蒸着マスク12は外側内壁が傾斜面に形成されているとして説明したが、図6に示すように外側内壁は傾斜面に形成されていなくてもよい。外側内壁が傾斜面に形成されていない場合でも、内側内壁12aが内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることによりシャドー領域の形成が蒸着マスク12の傾斜面となっている部分でブロックされるので、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成する効果を有する。但し、外側内壁が傾斜面に形成されていない場合には、蒸着マスク12の開口部に進入して外側内壁に衝突する有機物が外側内壁ではね返されて有機膜形成領域に付着する。そのため、形成される有機膜の層厚が外側内壁が傾斜面に形成されている場合よりも不均一になる虞がある。
【0050】
次に、上記の構成の蒸着マスク12の開口部の作製方法について詳述する。蒸着マスク12の開口部は、マスクシート材料31に露光マスク32を重ねてウェットエッチングを行って形成する。なお、ここでは、対象物の結晶性に関係なく全ての方向に一様な速度でエッチングを進行させることができる等方性エッチングを行うことが好ましい。
【0051】
図7は等方性エッチングの一般的な工程の説明図である。等方性エッチングに用いるエッチング液としては、例えば、リン酸、塩化第2鉄液等が挙げられる。等方性エッチングによって、開口部の内壁面に傾斜面が形成されることが分かる。なお、この傾斜面の傾斜角度は、等方性エッチングを行う場合のエッチング液の種類、エッチング液の温度、エッチング時間等の条件を変量することによって制御することができる。
【0052】
図8に示すように、マスクシート材料31の表面及び裏面の両方に露光マスク32を重ねて等方性エッチングを行うと、開口部の断面形状は、合同な2つの台形を上下に反転させて重ね合わせた形状となる。なお、表面からのマスクシート材料31のエッチング及び裏面からのマスクシート材料31のエッチングは、同時に行っても、順に1つずつ行っても、いずれでもよい。
【0053】
また、図9に示すように、マスクシート材料31の表面及び裏面に重ねる露光マスク32の位置をずらすことにより、開口部の内壁を任意の形状とすることも可能となる。さらには、マスクシート材料31の表面及び裏面に重ねる露光マスク32のずれ幅を適宜計算して調整することで、図10に示すように内側内壁12a及び外側内壁の傾斜面を平行になるように作成することも可能である。
【0054】
本実施形態にかかる蒸着マスク12は、図7(c)や図10(c)に示すように、開口部の内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることが好ましいが、図8(c)や図9(c)に示すように、内側内壁12aの一部が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている場合であってもよい。内側内壁12aの一部が内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、その傾斜面の部分においてはマスクの厚みに起因する有機膜のシャドー領域の形成を蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックする効果を有するからである。
【0055】
−有機膜形成方法−
次に、本発明の蒸着装置10を用いた有機膜形成方法について説明する。
【0056】
ここでは、被蒸着基板20の基板サイズが横幅100mm及び縦長さ800mmであって、蒸着源11と被蒸着基板20との水平方向の距離が100mmである場合について例示する。被蒸着基板20上に形成される有機膜の層厚の分布を、最大厚さと最小厚さとの差を最大厚さと最小厚さとの和で除してそれを百分率で表した値((Max-Min)/(Max+Min)[%])で定義する。このとき、有機膜の層厚の分布が3%以下となるようにするためには、T/S距離を200mmに設定すればよい。
【0057】
図11は蒸着源11と被蒸着基板20との間の水平距離が200mmである場合の、被蒸着基板横幅とT/S距離との関係を示すグラフであり、図12は被蒸着基板横幅と有機物の材料利用効率との関係を示すグラフである。図11によれば、被蒸着基板20の横幅が小さいほどT/S距離も小さく設定できることが分かる。また、図12によれば、被蒸着基板20の横幅が小さくなるほど有機物の材料利用効率が高くなることが分かる。
【0058】
なお、従来の蒸着装置を用いて有機膜の形成を行った場合の有機物の材料利用効率は約5%であることから、実施形態1の蒸着装置10によれば、優れた有機物の材料利用効率で有機膜の形成を行うことができることが分かる。
【0059】
蒸着装置10を以上のように設定した状態で、蒸着源11を加熱して有機物をルツボから被蒸着基板20に向かって飛出させる。このときの蒸着源11の加熱温度は例えば200〜300℃であり、真空チャンバ内は、例えば、圧力が10−3〜10−6Pa、及び、温度が20〜30℃である。また、成膜速度は、例えば、形成する有機膜が正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の場合には2Å/s程度であり、形成する有機膜が発光層である場合は0.2Å/s程度である。そして、被蒸着基板20及び蒸着マスク12の搬送速度は、例えば30mm/sである。
【0060】
これによって、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成することができる。
【0061】
<有機EL表示装置>
次に、上記説明した蒸着装置10を用いて有機膜を形成して有機EL層48とした有機EL表示装置40について図13を用いて説明する。この有機EL表示装置40は、例えば、RGBフルカラー表示を行うものであり、携帯電話やカーナビ等のディスプレイとして用いられる。
【0062】
有機EL表示装置40は、TFT基板41上に有機EL素子42が設けられ、これらが不活性ガス雰囲気下で封止部材(それぞれ不図示)により封止された構造を有する。そして、それらによって複数の画素がマトリクス状に構成されており、画素によって画像表示を行う。なお、各画素のそれぞれは、赤色補助画素、緑色補助画素、及び青色補助画素の3つの補助画素で構成されている。
【0063】
TFT基板41は、ガラス基板43等の上に各補助画素に対応するようにTFT44が設けられ、それらのTFT44を覆うように平坦化膜45が形成されている。TFT基板41は、例えば厚さが1〜10mm、縦長さが200〜1000mm、及び横長さが200〜1000mmである。
【0064】
有機EL素子42は、TFT基板41上に、第1電極46、有機EL層48、及び第2電極49が積層された構成を有する。
【0065】
第1電極46は、導電性材料で形成されており、TFT基板41の平坦化膜45上に各画素に対応するように設けられている。第1電極46は、有機EL層48にホール(正孔)を注入する機能を有する。第1電極46は、例えばITO等の公知の材料で形成されている。第1電極46は、例えば厚さが50〜150nmである。
【0066】
第1電極46は、例えば、TFT基板41の平坦化膜45に各TFT44毎にドレイン領域に通ずるコンタクトホールを形成し、スパッタ法によって、そのコンタクトホールと電気的に接続するように第1電極46となるITO膜を形成し、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行い、さらに、各画素表示領域に対応する形状となるようにエッチングを行うことによって形成することができる。
【0067】
第1電極46上には、画素と画素との間の部分や補助画素と補助画素との間の部分に、アクリル樹脂等の絶縁性の材料でエッジカバー47が設けられている。エッジカバー47は、隣り合う補助画素同士を隔てる隔壁部としての機能を有すると共に、第1電極46の端部を被覆することにより端部での第1電極46と第2電極49との短絡を防止する機能を有する。エッジカバー47は、製造時に蒸着マスク12を重ね合わせる際のスペーサとして機能するマスクスペーサをさらに備えていてもよい。マスクスペーサは、エッジカバー47から基板とは反対の方向に突出するように設けられている。エッジカバー47及びマスクスペーサは、例えばスピンコート法によって絶縁膜を形成し、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行い、その後に熱硬化を行うことによって形成することができる。
【0068】
有機EL層48は、第1電極46側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層が順に積層された構造を有する。なお、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、及び電子注入層は必須ではなく、必要に応じて積層すればよく、削除することも可能である。これらは、上記説明した蒸着装置10を用いて形成するので、特に各発光色の発光材料毎に有機EL層48を塗り分けて形成する必要のある発光層については、画素領域に対して高精細な有機EL層48の形成が可能となる。なお、蒸着装置10を用いて有機EL層48の形成を行う場合には、蒸着材料である各有機物毎に蒸着装置10を用意する。例えば、赤色発光層、青色発光層、及び緑色発光層を形成する場合には、赤色発光層用蒸着装置、青色発光層用蒸着装置、及び緑色発光層用蒸着装置を使用する。
【0069】
正孔注入層及び正孔輸送層は、それぞれ発光層への正孔注入効率及び正孔輸送効率を高める機能を有する。正孔注入層及び正孔輸送層は、例えば、トリフェニルアミン誘導体等の公知の材料で形成されている。正孔注入層及び正孔輸送層は、それぞれ独立に構成されていても一体に構成されていてもよく、後者の場合は、例えば厚さが10〜100nmである。
【0070】
発光層は、第1電極46側から注入されたホール(正孔)と第2電極49側から注入された電子とを再結合させて光を出射させる機能を有する。発光層は、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の発光効率が高い材料で形成されている。発光層は、例えば、アルミキノリノール錯体(Alq3)等の公知の材料で形成されている。発光層は、例えば厚さが30〜100nmである。
【0071】
電子輸送層及び電子注入層は、それぞれ、第2電極49から発光層への電子輸送効率及び電子注入効率を高める機能を有する。電子輸送層及び電子注入層は、例えば、オキサゾール誘導体等の公知の材料で形成されている。電子輸送層及び電子注入層は、それぞれ独立に構成されていても一体に構成されていてもよく、後者の場合は、例えば厚さが10〜100nmである。
【0072】
第2電極49は、有機EL層48に電子を注入する機能を有する。第2電極49は、例えば、画素領域の全体にマグネシウム合金(MgAg等)等の材料で形成されている。第2電極49は、例えば厚さが50〜100nmである。第2電極49は、例えば真空蒸着法等を用いて形成することができる。
【0073】
第2電極49を覆うように保護膜(図示せず)が設けられていてもよい。保護膜は、絶縁性や導電性の材料で形成されており、厚さが例えば100〜1000nmである。保護膜は、水や酸素が有機EL層48へ混入するのを阻止する機能を有する。保護膜は、例えばイオンビームスパッタ法等によって形成することができる。
【0074】
封止部材は、例えば、ガラスやシリコンで形成されている。封止部材は、例えば熱硬化性樹脂の接着剤でTFT基板41に接着されており、有機EL層48に水や酸素等が混入しないように有機EL素子42を封止する機能を有する。微量に混入した水や酸素を捕捉するために、さらに乾燥剤が封入されていてもよい。
【0075】
以上の構成の有機EL表示装置40では、各画素において、TFT44がオンとなった際に、有機EL層48に対し、第1電極46からホール(正孔)が注入されると共に第2電極49から電子が注入され、それらのホールと電子とが発光層で再結合し、それによって放出されたエネルギーが発光層の発光材料を励起させ、励起された発光材料が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光や燐光を放出し、その蛍光や燐光が有機EL層48の発光として外部に出射され、画素全体として所定の画像を表示することとなる。
【0076】
なお、本実施形態では、第1電極46が陽極及び第2電極49が陰極である構成としたが、第1電極46が陰極及び第2電極49が陽極の逆構造型有機EL素子であってもよい。また、本実施形態ではTFTアレイが形成されたアクティブ型の有機EL表示装置40について説明したが、特にこれに限られるものではなく、例えばTFTアレイが形成されていないパッシブ型の有機EL表示装置40であってもよい。さらに、本実施形態ではRGBの3色の補助画素で1画素が構成されているとしたが、特にこれに限られず、例えば白色発光を行う白色補助画素を加えたRGBWの4色の補助画素で1画素が構成されていてもよい。また、本実施形態では、基板側から光を取り出すボトムエミッション型の構成としたが、封止部材側から光を取り出すトップエミッション型の構成であってもよい。
【0077】
<実施形態1の効果>
実施形態1にかかる蒸着装置10の蒸着マスク12は、開口部における搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置10を用いることにより所望の領域21に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0078】
また、実施形態1にかかる蒸着装置10は、蒸着源11は、一方向に連続するように設けられており、搬送手段は、蒸着マスク12で覆われた被蒸着基板20を、蒸着源11の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されている。この折り返し時においては、蒸着マスク12を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する。この蒸着装置10に使用する蒸着マスク12は、蒸着用の開口部が複数形成されており、蒸着マスク12の複数の開口部における傾斜面の内側内壁12aの傾斜方向がいずれも同一方向である。そのため、蒸着マスク12の搬送の往路においても復路においても、その開口部における搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることになる。そして、結果として、往路においても復路においても、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。
【0079】
さらに、蒸着装置10は、搬送手段が、被蒸着基板20を往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送するので、被蒸着基板20に相対する2方向から有機膜の成膜を行うことになる。そのため、この蒸着装置10によれば、T/S距離を短く設定した場合でも膜厚の均一な有機膜を成膜することができる。また、T/S距離を短くした結果として、有機物の材料利用効率を高めることができる。
【0080】
《実施形態2》
<蒸着装置>
図14は、実施形態2にかかる蒸着装置10を示す。実施形態1と同一名称の構成については同一の参照符号で説明する。蒸着装置10は、真空チャンバ(図示せず)を備え、これに接続された真空ポンプによって内部を真空引きすることができる。真空チャンバには、最下位置に蒸着源11が設けられ、その蒸着源11の上方に、被蒸着基板20と取り付けるための基板ホルダ及び蒸着マスク12を取り付けるための蒸着ホルダが設けられており、蒸着ホルダには蒸着マスク12が取り付けられている。また、蒸着装置10は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送するための搬送手段を有する。
【0081】
真空チャンバは、例えば、縦100〜500cm、横100〜5000cm、及び高さ50〜500cmの直方体形状のものである。
【0082】
蒸着源11は、実施形態1と同様に一列に連続的に設けられている。
【0083】
搬送手段は、基板ホルダに取り付けられた被蒸着基板20及びマスクホルダに取り付けられた蒸着マスク12を、蒸着源11の側方を蒸着源11に沿って搬送する手段である。具体的には、蒸着マスク12が被蒸着基板20の下側表面を覆うようにそれらを重ね合わせた状態で蒸着源11の上方を一方から他方に向かって搬送する。このとき、平面視において、蒸着源11は搬送される蒸着マスク12及び被蒸着基板20と重なるように設けられている。
【0084】
−蒸着マスク−
蒸着マスク12は、マスクシートに開口部が設けられた構成を有する。マスクシートは、例えばインバー等の材料で、縦が300〜1000mm、横が50〜500mm、及び厚さが5〜200mmの矩形シート状に形成されている。蒸着マスク12は、被蒸着基板20と同じ面積がそれよりも大きな面積であることが好ましいが、被蒸着基板20よりも面積の小さい蒸着マスク12を複数枚使用してもよい。この蒸着マスク12は、被蒸着基板20上に有機膜をパターン形成する際に、被蒸着基板20に重ね合わせて使用される。
【0085】
開口部は、被蒸着基板20上に形成される有機膜の形成パターンに対応するように複数設けられている。開口部は、例えば矩形であって、縦が20μm〜1mm、及び横が30μm〜1.5mmである。開口部は、例えば蒸着マスク12の単位面積あたり10〜300個/mm2程度形成されている。開口部は、タイル状に並べられていてもよく、その他のレイアウトとなるように並べられていてもよい。有機膜形成時に蒸着マスク12が被蒸着基板20に重ね合わされると、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部が形成されたエリアに対応するエリアには有機膜が形成される。一方で、被蒸着基板20のうち蒸着マスク12の開口部以外のエリアに対応するエリアでは、有機物が基板に重ね合わせられた蒸着マスク12で遮断されて被蒸着基板20に付着することができず、有機膜は形成されないことになる。
【0086】
蒸着マスク12の蒸着源11上方に位置するように設けられた開口部は、図15に示すように、内壁が傾斜面に形成されていない。一方、蒸着源11位置に対応する場所に設けられた開口部の両側に位置付けられて設けられた開口部は、内側内壁12aが傾斜面に設けられていると共に、それらの傾斜方向が蒸着源11位置の両側で相互に逆方向に形成されている。また、各開口部の内側内壁12aの傾斜面の傾斜角度が、その場所における蒸着源11から開口部への有機物の進入角度とそれぞれ一致していることが好ましい。なお、図15には蒸着源11位置に対応する場所に開口部が形成されているとしたが、蒸着源11位置に対応する場所に開口部が形成されていなくてもよい。
【0087】
なお、蒸着マスク12の開口部の外側内壁が傾斜面に形成されているとして説明したが、図16に示すように外側内壁は傾斜面に形成されていなくてもよい。外側内壁が傾斜面に形成されていない場合でも、内側内壁12aが内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されていることにより、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができるので、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成する効果を有する。但し、外側内壁が傾斜面に形成されていない場合には、蒸着マスク12の開口部に進入して外側内壁に衝突する有機物が外側内壁ではね返されて有機膜形成領域に付着する。そのため、形成される有機膜の層厚が外側内壁が傾斜面に形成されている場合よりも不均一になる虞がある。
【0088】
開口部は、実施形態1と同様に、マスクシート材料31の表面及び裏面に適宜露光マスク32を重ねて等方性エッチングを行うことにより、開口部の内側内壁12aを傾斜面に形成することができる。
【0089】
−有機膜形成方法−
次に、本発明の蒸着装置10を用いた有機膜形成方法について説明する。
【0090】
ここでは、被蒸着基板20の基板サイズが横幅200mm及び縦長さ800mmであって、蒸着源11と被蒸着基板20との水平方向の距離が100mmである場合について例示する。有機膜の層厚の分布が3%以下となるようにするために、T/S距離を400mmに設定する。このときの材料利用効率は約40%である。
【0091】
蒸着装置10を以上のように設定した状態で、蒸着源11を加熱して有機物をルツボから被蒸着基板20に向かって飛出させる。このときの蒸着源11の加熱温度は例えば200〜300℃であり、真空チャンバ内は、例えば、圧力が10−3〜10−6Pa、及び、温度が20〜30℃である。また、成膜速度は、例えば、形成する有機膜が正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の場合には2Å/s程度であり、形成する有機膜が発光層である場合は0.2Å/s程度である。そして、被蒸着基板20及び蒸着マスク12の搬送速度は、例えば30mm/sである。
【0092】
これによって、被蒸着基板20上の所望の領域21に高精細に有機膜を形成することができる。特に、有機EL表示装置40の有機EL層48形成時にこの蒸着装置10を用いることにより、所望の画素領域に高精細に有機EL層4有機EL素子428を形成することができる。
【0093】
<実施形態2の効果>
実施形態2にかかる蒸着装置10の蒸着マスク12は、開口部における搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源11位置に対する内側内壁12aが、蒸着源11側から被蒸着基板20側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されているので、マスクの厚みに起因して有機膜のシャドー領域が形成されるのを蒸着マスク12の内側内壁12aの傾斜面となっている部分でブロックすることができる。そのため、この蒸着装置10を用いることにより所望の領域21に精度よく有機膜を蒸着形成することができる。
【0094】
また、実施形態2にかかる蒸着装置10は、平面視において、搬送手段によって搬送される上記蒸着マスク12で覆われた被蒸着基板20と重なるように設けられており、該蒸着マスク12の複数の開口部における傾斜面の内側内壁12aの傾斜方向が蒸着源11位置の両側で相互に逆方向であるので、被蒸着基板20及び蒸着マスク12を搬送する場合に蒸着源11の他端に到達した後それらを折り返して搬送する必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、被蒸着基板上に有機膜をパターン形成するための蒸着装置及び有機EL表示装置について有用である。
【符号の説明】
【0096】
10 蒸着装置
11 蒸着源
12 蒸着マスク
12a 内側内壁(傾斜面)
20 被蒸着基板
31 マスクシート材料
40 有機EL表示装置
48 有機EL層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成された蒸着装置であって、
上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されている蒸着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された蒸着装置において、
上記蒸着源は、一方向に連続するように設けられており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクを、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する蒸着装置。
【請求項4】
請求項3に記載された蒸着装置において、
上記搬送手段は、上記被蒸着基板を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送する蒸着装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されており、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向がいずれも同一方向である蒸着装置。
20 被蒸着基板
【請求項6】
請求項1又は2に記載された蒸着装置において、
上記蒸着源は、平面視において、上記搬送手段によって搬送される上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板と重なるように設けられている蒸着装置。
【請求項7】
請求項6に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されており、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向が蒸着源位置の両側で相互に逆方向である蒸着装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクは、マスクシート材料を両面からエッチングすることにより開口部が形成されたものである蒸着装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成された有機EL表示装置。
【請求項1】
蒸着用の有機物を飛出する蒸着源と、被蒸着基板を搬送する搬送手段と、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板を覆うと共にその被蒸着基板と共に搬送されるように設けられ且つ蒸着用の開口部が形成された蒸着マスクと、を備え、該蒸着源からの有機物を、該搬送手段によって搬送される被蒸着基板に、該蒸着マスクの開口部を介して蒸着させるように構成された蒸着装置であって、
上記蒸着マスクは、開口部における上記搬送手段による搬送方向に直交する方向の蒸着源位置に対する内側内壁が、蒸着源側から被蒸着基板側に向かうマスク厚さ方向において、内側から外側に向かう方向に傾斜した傾斜面に形成されている蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクの開口部における傾斜面の内側内壁は、その傾斜角度が上記蒸着源から該蒸着マスクの開口部への有機物の進入角度となるように形成されている蒸着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された蒸着装置において、
上記蒸着源は、一方向に連続するように設けられており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板を、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かって搬送した後、折り返して他方から一方に向かって搬送するように構成されており、
上記搬送手段は、上記蒸着マスクを、上記蒸着源の側方の一方から他方に向かう往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が、折り返して他方から一方に向かう復路でもそれぞれ搬送方向先端及び搬送方向後端となるように搬送する蒸着装置。
【請求項4】
請求項3に記載された蒸着装置において、
上記搬送手段は、上記被蒸着基板を、往路における搬送方向先端及び搬送方向後端が復路ではそれぞれ搬送方向後端及び搬送方向先端となるように搬送する蒸着装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されており、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向がいずれも同一方向である蒸着装置。
20 被蒸着基板
【請求項6】
請求項1又は2に記載された蒸着装置において、
上記蒸着源は、平面視において、上記搬送手段によって搬送される上記蒸着マスクで覆われた被蒸着基板と重なるように設けられている蒸着装置。
【請求項7】
請求項6に記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクには蒸着用の開口部が複数形成されており、該蒸着マスクの複数の開口部における傾斜面の内側内壁の傾斜方向が蒸着源位置の両側で相互に逆方向である蒸着装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された蒸着装置において、
上記蒸着マスクは、マスクシート材料を両面からエッチングすることにより開口部が形成されたものである蒸着装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された蒸着装置を用いて有機膜を蒸着して有機EL層が形成された有機EL表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−174305(P2010−174305A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16693(P2009−16693)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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