説明

蒸着装置及び電気光学装置の製造方法

【課題】蒸着装置において、基板上に均一な無機配向膜を備えることにより、高品位な画像表示を行う電気光学装置を形成する。
【解決手段】蒸着装置は、基板(210)に蒸着源(110)から蒸発される蒸発物質を蒸着させる蒸着手段と、真空槽(101)と、所定の角度で基板を保持する保持手段(901)と、所定の角度を第一及び第2の方向に沿って変更可能であり、第1の方向に沿って移動可能なヒンジ部(902)と、第2の方向に沿って延在する開口部(905)を有するスリット板(904)と、第2の方向に沿って分割された複数の遮蔽板(906a、906b及び906c)から構成されており、遮蔽板の各々が、遮蔽状態と解放状態とを個別に切り替え可能なシールド板(906)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶装置等の電気光学装置に係る無機配向膜を斜方蒸着するのに好適に用いられる、蒸着装置及びそれを用いた電気光学装置の製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸着装置の一例として、蒸着源に対して基板を傾斜させて配置し、基板面に所定の入射角で配向膜を蒸着するものがある。ここで、基板上に均一に配向膜を形成するために、基板全面に亘って均一な入射角度で蒸着することが要求される。
【0003】
例えば特許文献1及び2には、蒸着源に対する基板の角度を可変に調整すると共に、蒸着源及び基板間にスリットを設け、当該スリットに対する基板の相対的な位置を調整することにより、蒸着方向と基板がなす角度のバラツキを軽減及び防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−330411号公報
【特許文献2】特開2006−330656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び2では、一の方向に関する基板角度について均一性の向上が図られているものの、当該一の方向と異なる角度(例えば、基板面に平行で、且つ当該一の角度と直交する方向)についての均一性については依然としてバラツキが生じるという技術的問題点がある。例えば、基板面を基準として、仰角方向については基板の角度が調整であるが、方位角方向については角度の調整機能が備わっていない。特に、蒸着対象となる基板のサイズが大きい場合、方位角のバラツキは増大し、蒸着される無機配向膜の均一性が損なわれてしまい、このような問題点はより一層顕著となる。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、基板上に均一な無機配向膜を備えることにより、高品位な画像表示を行う電気光学装置を形成可能な蒸着装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蒸着装置は上記課題を解決するために、基板に蒸着源から蒸発される蒸発物質を蒸着させる蒸着手段と、前記蒸着源及び前記基板を設置するための空間を規定すると共に該空間を真空に維持することが可能な真空槽と、前記空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように所定の角度で前記基板を保持する保持手段と、前記所定の角度を第一の方向に沿って変更するように前記保持手段を制御する第1の角度制御手段と、前記基板が前記第1の方向に沿って移動するように前記保持手段を制御する位置制御手段と、前記基板及び前記蒸着源間に配置され、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って延在するように前記蒸着粒子を通過させるための開口部が形成されたスリット板と、前記第2の方向に沿って分割された複数の遮蔽板から構成されており、前記複数の遮蔽板の各々が、前記蒸着粒子の前記基板への到達を遮る遮蔽状態と前記蒸着粒子が前記開口部を通過して前記基板に到達可能な解放状態とを個別に切り替え可能なシールド板と、前記所定の角度を前記第二の方向に沿って変更するように前記保持手段を制御する第2の角度制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係る「蒸着手段」は、基板に蒸着源(或いは、ターゲットとも称される)から蒸発される蒸発物質を蒸着させることにより蒸着を行う。ここで、蒸着源とは、加熱することによって蒸発させることが可能な物質を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、その材質、形状及びその他の物理特性は何ら限定されない。例えば、蒸着源は、SiOやSiO2などの無機材料であってもよい。また、液晶装置などの電気光学装置における無機配向膜材料として使用可能な無機材料であってもよい。尚、被蒸着基板への蒸着方法としては、例えば抵抗加熱蒸着法、電磁加熱蒸着法等を用いることができる。
【0009】
本発明に係る「真空槽」とは、蒸着源及び基板を設置するための空間を規定すると共に該空間を真空に維持することが可能であり、例えば、チャンバなどの箱体を表す概念である。係る概念が担保される限りにおいて、真空槽の形状及び材質などは何ら限定されない。尚、真空槽の構成材料としては、機械的、物理的及び化学的な安定性に鑑みて金属材料、鉄鋼材料、ガラス材料、陶器又は陶磁器材料などが使用されて好適である。
【0010】
ここで、「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされている空間の状態を包括する概念であり、好適には、蒸発物質が基板上に蒸着される際の膜質に大気雰囲気中に含まれる酸素や窒素などの不純物が影響しない程度に大気圧から減圧された空間の状態を指す。また、係る真空を作り出すための排気機構、排気装置又は排気システムの構成も、係る真空を作り出すことが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ又はターボ分子ポンプなどによって係る真空状態が作り出されてもよい。或いは、これらがその排気特性などに鑑みて予備排気系及び主排気系として複合的に使用されることによって真空が作り出されてもよい。尚、「真空に維持する」とは、このような排気系によって排気される気体の量と、真空槽における気体の漏れ量(即ち、リーク量)とが相殺する結果として、一定或いは一定とみなし得る程度に安定した真空度に到達している状態を含む概念である。
【0011】
本発明に係る「保持手段」は、空間において基板の少なくとも一部が蒸着源の少なくとも一部と対面するように所定の角度で前記基板を保持する。ここで、「対面して」とは、正対していることのみを表すものではなく、蒸着源又は蒸発物質の飛行方向(即ち、蒸着方向)に対し、一定の傾きをもって基板が設置されてもよい趣旨である。尚、本発明における「保持手段」とは、このように基板と蒸着源の夫々少なくとも一部が相互に対面するように基板を保持することが可能である限りにおいてその態様は何ら限定されない。
【0012】
基板を保持する保持基板の位置及び角度は、本発明に係る「第1の角度制御手段」、「位置制御手段」及び「第2の角度制御手段」の作用により、変更することが可能である。具体的には、第1の角度制御手段は、所定の角度を基板の第一の方向に沿って変更可能であり、位置制御手段は保持手段に保持された基板の位置を第1の方向に沿って移動可能であり、第2の角度制御手段は、所定の角度を基板の第二の方向に沿って変更可能である。このように基板を保持する保持手段の位置及び角度を変更することにより、基板の表面に蒸着される無機配向膜等の膜の均一性を効果的に高めることができる。
【0013】
本発明に係る「スリット板」は、基板及び蒸着源間に配置され、第1の方向に交差する第2の方向に沿って延在するように蒸着粒子を通過させるための開口部が形成されている。蒸着源から放出された蒸着粒子は、スリット板に形成された開口部を通過するものを除いて、蒸着対象である基板に到達することなく、当該スリット板で遮蔽される。一方、開口部を通過する蒸着粒子は、基板と当該開口部との相対的な位置関係により規定される所定の範囲内の入射角度で基板の表面に到達し、膜を形成する。
【0014】
本発明に係る「シールド板」は、第2の方向に沿って分割された複数の遮蔽板から構成されている。ここで、複数の遮蔽板の各々は、遮蔽状態及び解放状態の二種類の状態を個別に切り替えることができる。遮蔽状態とは、遮蔽板がスリット板に設けられた開口部を覆うことによって、蒸着粒子の基板への到達を遮る状態である。解放状態とは、遮蔽板がスリット板に設けられた開口部を解放することによって、蒸着粒子が開口部を通過して基板に到達な状態である。上述した第1及び第2の角度制御手段並びに位置制御手段により、基板を保持した保持手段の位置及び角度の変化に応じて、複数の遮蔽板を夫々開閉することにより、基板に対する蒸着物質の入射角度のバラツキを抑制することができる。つまり、保持手段の位置及び角度の単純な変更のみを行う場合に比べて、複数に分割された遮蔽板を個別に可動させることによって、蒸着物質が基板に到達する領域をより細かく制御することが可能になるため、基板への蒸着物質の入射角のバラツキをより効果的に抑制することができる。その結果、基板上に蒸着される膜の均一性を高めることが可能となる。
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、基板上に均一な蒸着膜を形成することが可能な蒸着装置を実現することができる。
【0016】
本発明の蒸着装置の一態様では、前記複数の遮蔽板は、前記基板の表面に対する前記蒸着粒子の入射角のバラツキが前記基板の表面に亘って小さくなるように、前記第2の角度制御手段による前記所定の角度の変化に応じて、一の遮蔽板が前記解放状態をとると共に、該一の遮蔽板を除く他の遮蔽板が前記遮蔽状態をとる。
【0017】
この態様によれば、各々の遮蔽板の開閉タイミングは、基板の表面に対する蒸着粒子の入射角のバラツキが小さくなるように、第1及び第2の角度制御手段並びに位置制御手段による保持手段の位置及び角度の変化に同期するように制御される。
【0018】
この場合、前記複数の遮蔽板のうち前記解放状態をとる一の遮蔽板は、前記第2の角度調整手段により前記所定の角度が変更される毎に変更されるとよい。
【0019】
保持手段の位置及び角度が第1及び第2の角度制御手段並びに位置制御手段によってされると、基板の表面に対する蒸着粒子の入射角のバラツキが小さくなるための条件もまた変化する。この態様では、このような条件の変更に応じて、複数の遮蔽板のうちどの遮蔽板を解放状態にするかを選択し直すことによって、基板上に蒸着される膜の均一性の向上を促進することができる。
【0020】
本発明の蒸着装置の他の態様では、前記複数の遮蔽板の各々の表面は、前記基板の表面に対して斜めに交差するように傾いている。
【0021】
この態様によれば、蒸着粒子がスリット板に設けられた開口部を介して基板表面に蒸着される際に、遮蔽板の端部を回り込んだ蒸着粒子(即ち、軌道が回折した蒸着粒子)に基板が曝されることを防止することができる。遮蔽板の端部では、蒸着粒子の軌道が回りこむように変化するので、当該付近において配向膜の均一性が乱れやすい傾向があるが、本態様に係る蒸着装置は、このような軌道が回り込む蒸着粒子を遮蔽板によって遮ることができるように、遮蔽板の表面が斜めに傾いて形成されている。
【0022】
本発明の蒸着装置の他の態様では、前記第2の角度調整手段は、前記所定の角度を前記第2の方向に沿って±10度変更可能である。
【0023】
上述した課題を解決するため、本発明に係る電気光学装置の製造方法は、無機材料を前記蒸着源とする請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸着装置によって前記基板上に電気光学装置用の無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程を具備する。
【0024】
本発明に係る電気光学装置の製造方法によれば、高品質な画像表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器に使用可能な液晶表示装置などの電気光学装置の製造工程において、無機配向膜を生産性良く蒸着することが可能となる。
【0025】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る蒸着装置の構成を示す模式的な側面断面図である。
【図2】本実施形態に係る蒸着装置の治具の平面構造及び断面構造を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る蒸着装置の治具のX-Y面における可動メカニズムを模式的に図示する模式図である。
【図4】本実施形態に係る蒸着装置の治具のZ-Y面における可動メカニズムを模式的に図示する模式図である。
【図5】変形例に係る蒸着装置の可動シールドの平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0028】
<全体構成>
先ず、本実施形態に係る蒸着装置の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、本実施形態に係る蒸着装置の構成を示す模式的な側面断面図である。尚、図1において、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、適宜縮尺を異ならしめてある。
【0029】
図1において、蒸着装置10は、本発明に係る「真空槽」の一例であるチャンバ100を備えている。チャンバ100は、例えばアルミニウムやステンレス鋼などの金属材料或いは鉄鋼材料で構成されている。チャンバ100の内壁部分は、チャンバ100の内部に空間101を規定しており、空間101には、ターゲット110、電子ビーム照射系120、基板210及び基板210を保持するための治具900(図1において図示略)が設けられている。
【0030】
チャンバ100の側面部分の一部には、排気系11が接続されており、空間101内の気体をチャンバ100外に排出することによって、空間101を真空に維持することが可能に構成されている。尚、排気系11は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
【0031】
ターゲット110は、基板210上に蒸着される材料のバルクであり、本発明に係る「蒸着源」の一例である。ターゲット110は次に説明する電子ビーム照射系120から電子ビームを照射されることによって蒸発し、基板210の表面上に蒸着される。ターゲット110は、例えば、液晶装置などの電気光学装置において無機配向膜の形成材料となる無機材料のバルクであり、不図示のルツボに載置されている。
【0032】
電子ビーム照射系120は、不図示のフィラメント並びに電源系、冷却水系、制御系及び各種配線部材の一部などを含んでなり、フィラメントから電子ビームを発生させることが可能に構成されている。尚、電子ビーム照射系120は、本発明に係る「蒸着手段」の一例である。
【0033】
基板210は、液晶装置などの電気光学装置に使用されて好適な低温ポリシリコン基板であり、本発明に係る「基板」の一例である。尚、基板210上の蒸着材料が蒸着される面には、基板からの出ガスや水分等が侵入することを防止するための下地膜を予め形成していてもよい。
【0034】
以下では、基板210の法線方向をY方向とし、Y方向に垂直なX-Z面内に基板210の表面が平行になるように基板210が配置されているとして説明する。ここで、X方向は本発明に係る「第1の方向」の一例であり、Z方向は本発明に係る「第2の方向」の一例である。
【0035】
ここで、図2を参照して、基板210をチャンバ100の内壁部分に固定するための治具900の具体的な構造について説明する。図2は、本実施形態に係る蒸着装置の治具900の平面構造及び断面構造を示す模式図である。
【0036】
治具900は、本体部901及び該本体部をチャンバ100に固定するためのヒンジ部902からなる。治具900の本体部901は、基板210を内部に格納しており、ヒンジ部902を介してチャンバ100の側壁面100aに固定されている。ヒンジ部902は、チャンバ100の側壁面100aに対する本体部901(即ち基板210)の角度を調整することができる。尚、ヒンジ部902は、本発明に係る「第1の角度制御手段」及び「第2の角度制御手段」の一例である。
【0037】
基板210は、本体部901の内部に固定されているウェハーホルダー903によって裏面側から固定されることにより、本体部901に格納されている。一方、本体部901の基板210の表面側(即ち、蒸着物質が蒸着される側)には、スリット板904が設けられている。
【0038】
スリット板904には、Z方向に沿って延在するように開口スリット905が設けられている。ここで、スリット板904は、本発明に係る「スリット板」の一例であり、開口スリット905は、本発明に係る「開口部」一例である。ターゲット110から放出された蒸着粒子は、このように基板210の表面側に配置されたスリット板904に設けられた開口スリット905を通過して基板210上に到達する。言い換えれば、開口スリット905によって基板210上の特定の表面領域にのみ選択的に蒸着粒子が到達するように、開口スリット905はターゲット110からの蒸着粒子を制限する。
【0039】
スリット板904の表面側(即ち、基板210に対向しない側)には、開口スリット905を覆うように可動シールド906が設けられている。ここで、可動シールド906は、Z方向に沿って並ぶように分割された3つの可動シールド906a、906b及び906cからなり、各々の稼働シールド906は独立して可動する。尚、可動シールド906a、906b及び906cは、夫々、本発明に係る「遮蔽板」の一例である。
【0040】
可動シールド906a、906b及び906cは、シールドスライダ907によってX方向に延在するように設けられたシールドガイド906に沿って移動し、開口スリット905を開閉することができる。
【0041】
続いて、図3を参照して、本実施形態に係る蒸着装置の治具900のX-Y面における可動メカニズムについて説明する。図3は、本実施形態に係る蒸着装置の治具900のX-Y面における可動メカニズムを模式的に図示する模式図である。
本体部901の内部に格納された基板210を、本体901の内部でX方向に移動することができる。すると、基板210の異なる表面について、到達する蒸着物質の入射角度θ1(以下、適宜「仰角θ1」という)を揃えることができる。基板210の表面に到達する蒸着物質は、開口スリット905を通るものに制限される。そのため、当該スリットの幅の分だけバラツキは生ずるものの、そのバラツキの大きさは微小である。
【0042】
続いて、図4を参照して、本実施形態に係る蒸着装置の治具900のZ-Y面における可動メカニズムについて説明する。図4は、本実施形態に係る蒸着装置の治具900のZ-Y面における可動メカニズムを模式的に図示する模式図である。
【0043】
Z-Y面で見た場合に、本実施形態に係る蒸着装置は、3つの可動シールド906a、906b及び906cを夫々開閉すると共に、Z軸に対する基板210及び本体部901の角度を変化させることにより、基板210に対する蒸着物質の入射角度θ2(以下、適宜「方位角θ2」という)のバラツキを抑制することができる。以下、その具体的な動作例について詳細に説明する。
【0044】
まず、図4(a)に示すように、基板210及び本体部901を、X軸に対して平行に保った状態で、3つの遮光板のうち可動シールド906bを解放する。このとき、他の2つの可動シールド906a及び906cは開口スリット905を覆うように閉じた状態に保持される。すると、ターゲット110から飛散する蒸着物質が、可動シールド906bによって部分的に解放された開口スリット905を通過し、基板210に到達する。ここで、蒸着物質は基板に対してθ2aの角度で入射する。
【0045】
次に、図4(b)に示すように、基板210及び本体部901を、X軸に対して左側に向かって傾けた状態で、3つの可動シールド906のうち可動シールド906aを解放する。このとき、他の2つの可動シールド906b及び906cは開口スリット905を覆うように閉じた状態に保持される。すると、ターゲット110から飛散する蒸着物質が、可動シールド906aによって部分的に解放された開口スリット905を通過し、基板210に到達する。ここで、蒸着物質は基板に対してθ2bの角度で入射する。
【0046】
そして、図4(c)に示すように、基板210及び本体部901を、X軸に対して右側に向かって傾けた状態で、3つの遮光板のうち可動シールド906cを解放する。このとき、他の2つの可動シールド906a及び906bは開口スリット905を覆うように閉じた状態に保持される。すると、ターゲット110から飛散する蒸着物質が、可動シールド906cによって解放された開口スリット905を通過し、基板210に到達する。ここで、蒸着物質は基板に対してθ2cの角度で入射する。
【0047】
ここで、基板210に対する蒸着物質の入射角θ2a、θ2b及びθ2cは、図4(a)から(c)に示すように、開閉する可動シールド906の位置(即ち、3つの可動シールド906のうちいずれを開閉するか)、基板210及び本体部901のX軸に対する傾きを調整することによって、一定の許容値内に収めることができる。つまり、仮に基板210及び本体部901のX軸に対する傾きが不変であり、可動シールド906が一つしかない場合に比べて、基板210に対する蒸着物質の入射角θ2a、θ2b及びθ2cのバラツキを抑制又は解消することができる。その結果、基板210上に形成される無機配向膜の均一性を高めることが可能となる。
【0048】
尚、本実施形態に係る開口スリット905は、Z方向に沿って3つに分割されているが、このような可動シールド906は2つに分割されていてもよい。この場合、可動シールド906の分割数が少ないため、蒸着装置の構造を複雑化せずに済む。例えば、可動シールド906の分割数に伴って増加するシールドスライダ907等の部品填数を抑えることができるので、省コスト及び省資源の要請に応じた蒸着装置を実現することができる。
【0049】
また、可動シールド906は、4つ以上に分割されていてもよい(即ち、分割数を増加させてもよい)。この場合、基板210に対する蒸着物質の入射角θ2a、θ2b及びθ2cのバラツキを、より精度よく向上させることができるので、更に均一性の高い無機配向膜を形成することができる。
【0050】
尚、図4(a)から(c)に示す各状態を繰り返す順番は問わず、順不同でよい。好ましくは、基板210上に形成される膜厚が均一になるように、図4(a)から(c)に示す各状態を等しいバランスで組み合わせることで、良質な無機配向膜を基板210上に形成するとよい。
【0051】
<変形例>
続いて、図5を参照して、変形例に係る蒸着装置の可動シールド906の構造及び動作について説明する。図5は、変形例に係る蒸着装置の可動シールド906の平面図及び断面図である。尚、本変形例に係る蒸着装置は、図5に示す可動シールド906の付近を除いて、上述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略することとする。
【0052】
3つの可動シールド906a、906b及び906cはZ方向に沿って並べられており、シールドスライダ907に沿って可動することができる。可動スリット906は、開口スリット905を覆う状態である閉じた状態と、開口スリット905を開放する状態の2種類の状態を取ることができる。
【0053】
シールドスライダ907は、図5(b)に示すように、X−Y平面において、基板210の表面に対して斜めに傾いて設けられている。可動シールド906の形状もまた、部分的にシールドスライダ907に沿って斜めに傾いた面を有するように形成されており、開閉それぞれの状態を切り替える際に、当該シールドスライダ907に沿って斜め方向に可動する。可動シールド906が閉じた状態では、可動シールド906の端部が、開口スリット905の端部に接触するように開口スリット905を覆う。このように可動シールド906を閉じることによって、開口スリット905と、閉じた状態にある可動シールド906との間に隙間が生じないため、確実に蒸着物質が基板に到達することを遮蔽することができる。また、上述の実施形態のように(図2参照)、端に平坦な面で可動シールド906を構成する場合に比べて、可動シールド906の端部を回り込んで基板210側に侵入しようとする蒸着粒子を確実に遮断することができる。そのため、不要な蒸着粒子の侵入を遮断するという可動シールド906の機能を確実に発揮でき、その結果、より均一性の高い無機配向膜を基板210上に形成することができる蒸着装置を実現することができる。
【0054】
一方、可動シールド906が開放している状態では、可動シールド906の端部が開口スリット905に重ならないように、可動シールド906が移動される。このように斜めに可動シールド906を可動することによって、解放された状態では蒸着粒子の軌道を邪魔することなく、開口スリット905を介して基板210上に確実に到達させることが可能となる。
【0055】
このように変形例に係る蒸着装置では、より確実に開閉動作が可能な可動シールド906を備えることにより、高品位な無機配向膜を蒸着することができる蒸着装置を実現することができる。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う蒸着装置及びこのような蒸着装置によって電気光学装置を製造する製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
101 真空槽、 110 ターゲット、 210 基板、 901 本体部、 903 シールドスライダ、 904 スリット板、 905 開口スリット、 906 可動シールド、 907 シールドスライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に蒸着源から蒸発される蒸発物質を蒸着させる蒸着手段と、
前記蒸着源及び前記基板を設置するための空間を規定すると共に該空間を真空に維持することが可能な真空槽と、
前記空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように所定の角度で前記基板を保持する保持手段と、
前記所定の角度を第一の方向に沿って変更するように前記保持手段を制御する第1の角度制御手段と、
前記基板が前記第1の方向に沿って移動するように前記保持手段を制御する位置制御手段と、
前記基板及び前記蒸着源間に配置され、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って延在するように前記蒸着粒子を通過させるための開口部が形成されたスリット板と、
前記第2の方向に沿って分割された複数の遮蔽板から構成されており、前記複数の遮蔽板の各々が、前記蒸着粒子の前記基板への到達を遮る遮蔽状態と前記蒸着粒子が前記開口部を通過して前記基板に到達可能な解放状態とを個別に切り替え可能なシールド板と、
前記所定の角度を前記第二の方向に沿って変更するように前記保持手段を制御する第2の角度制御手段と
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記複数の遮蔽板は、前記基板の表面に対する前記蒸着粒子の入射角のバラツキが、前記基板の表面に亘って小さくなるように、前記第2の角度制御手段による前記所定の角度の変化に応じて、一の遮蔽板が前記解放状態をとると共に、該一の遮蔽板を除く他の遮蔽板が前記遮蔽状態をとることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記複数の遮蔽板のうち前記解放状態をとる一の遮蔽板は、前記第2の角度調整手段により前記所定の角度が変更される毎に変更されることを特徴とする請求項2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記複数の遮蔽板の各々の表面は、前記基板の表面に対して斜めに交差するように傾いていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記第2の角度調整手段は、前記所定の角度を前記第2の方向に沿って±10度変更可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
無機材料を前記蒸着源とする請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸着装置によって前記基板上に電気光学装置用の無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程を具備することを特徴とする電気光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140689(P2011−140689A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1710(P2010−1710)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】