説明

蒸着装置

【課題】蒸着膜の欠陥を抑えることが可能な蒸着装置を提供すること。
【解決手段】被処理基板11に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置1であって、蒸着材料を収容する坩堝21と、該坩堝21を加熱する加熱手段30と、坩堝21内の純度の低い蒸着材料から発生する可能性のあるスプラッシュを帯電させ、被処理基板11に到達する前に捕捉するために、坩堝21の開口部29近傍に設けられ帯電された帯電部材40とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着装置を用いた蒸着法は、デバイスの製造過程における電極や配線パターン等の形成に広く用いられている。蒸着装置は、例えば導電性の蒸着材料を収容するセラミック製の坩堝(るつぼ)と、坩堝に収容された蒸着材料を蒸発させる高周波誘電コイル(加熱手段)とを備えている。これを用いて成膜するには、例えば真空チャンバ内に、坩堝に蒸着材料が収容された蒸着装置を設置するとともに、蒸着装置の上方に被処理基板を配置する。そして、坩堝内の蒸着材料を加熱して蒸発させ、気体となった蒸着材料を被処理基板に接触させてここに付着させる。これにより、蒸着材料からなる膜を被処理基板の表面に形成することができる。
【0003】
デバイスとして、例えば、低分子の有機EL装置は、一般的に真空蒸着法により作製される。この有機EL装置は、有機化合物層として、通常、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極とが積層されている。
この陰極の材料には、電子の注入を効率良く行うため、MgAgのような仕事関数の低い材料が用いられるのが一般的である。MgAgの場合、MgとAgとは別々の蒸着源から材料を蒸発させるが、Mgの坩堝内には加熱され続けて純度の低いMgが溜まる。坩堝に溜まったMgは主に粉状であり、飛散物(スプラッシュ)となって基板に付着するため、有機EL装置の欠陥の要因となる。
これにより、坩堝に材料を装填するたびに、坩堝に溜まったMgを取り除く作業が必要となり、生産性の低下や坩堝を長時間大気に暴露することによるコンタミネーション(汚染)の影響が問題となっている。
【0004】
この問題を解決するために、Mgが収容された容器の開口部に反射板を設けた構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載のMgの蒸着装置は、容器の上部に開口部が形成され、開口部を覆うようにダクトが設けられている。ダクト内に反射板を設け、スプラッシュが素通りしないような構成になっている。これにより、スプラッシュに起因する蒸着膜の欠陥の発生を防止することが可能となる。
【特許文献1】特開平8−92734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のMgの蒸着方法では、粉状の物質は密度が低く軽いため、純度の低いMgは、純度の高いMg蒸気とともに開口部から噴出するので、蒸着膜の欠陥を抑えることは困難である。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、蒸着膜の欠陥を抑えることが可能な蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の蒸着装置は、被処理基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置であって、前記蒸着材料を収容する坩堝と、該坩堝を加熱する加熱手段と、前記坩堝の開口部近傍に設けられ帯電された帯電部材とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る蒸着装置では、加熱手段により、坩堝を加熱し坩堝に収容された蒸着材料を蒸発させる。蒸発された蒸着材料は被処理基板に蒸着される。このとき、坩堝内から純度の低い蒸着材料がスプラッシュとして発生しても、坩堝内の純度の低くなった蒸着材料は帯電しているため、坩堝近傍に設けられた帯電部材により捕捉される。すなわち、純度の低い蒸着材料は、被処理基板に到達する前に帯電部材によって捕捉されるため、被処理基板に蒸着される蒸着膜の欠陥を抑えることが可能となる。
【0009】
また、前記蒸着材料が、昇華性を有する金属であることが好ましい。
発明者は、蒸着材料が昇華性を有する金属である場合、スプラッシュが発生し易く、昇華性を有する金属は純度が低くなると帯電することを発見した。そこで、本発明に係る蒸着装置では、坩堝内から純度の低い蒸着材料がスプラッシュとして発生しても、帯電部材により、坩堝内から純度の低い蒸着材料のみを好適に捕捉することが可能となる。したがって、純度の低い蒸着材料が純度の高い蒸着材料と混ざることなく、純度の高い蒸着材料のみを被処理基板に蒸着させることが可能となる。
【0010】
また、本発明の蒸着装置は、前記帯電部材が第1電極及び第2電極を有し、前記第1電極と前記第2電極とが前記坩堝の開口部を囲むように設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る蒸着装置では、第1電極と第2電極とが坩堝の開口部を囲むように設けられているため、純度の低い蒸着材料が被処理基板に向かって飛散する前に、坩堝内から発生したスプラッシュを確実に捕捉することが可能となる。
【0012】
また、本発明の蒸着装置は、前記第1電極及び前記第2電極の前記坩堝側の面の形状が、前記坩堝の外形に対応していることが好ましい。
【0013】
本発明に係る蒸着装置では、第1電極及び第2電極の坩堝側の面の形状が、坩堝の外形に対応しているため、例えば、坩堝が円筒状である場合、第1電極及び第2電極の坩堝側の面を凹面状に湾曲させる。これにより、純度の低い蒸着材料を効率良く、かつ、確実に捕捉することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る蒸着装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
[一実施形態]
図1は、本実施形態の蒸着装置を示す正面図であり、図2は、蒸着装置の内部を側面側から見た図であり、図3は、蒸着装置の坩堝を上面から見た図である。
本実施形態に係る蒸着装置1は、図1に示すように、基板(被処理基板)11の表面11aに薄膜を蒸着形成する装置であり、チャンバ12と、基板保持部13と、蒸着源20と、電極(帯電部材)40とを備えている。
チャンバ12は、外部との間を密閉可能に形成されており、図示しないポンプ等の減圧装置によって内部が減圧可能になっている。基板保持部13は、チャンバ12の天井側(図中上側)に設けられており、基板11を保持可能になっている。
【0016】
蒸着源20は、図2に示すように、昇華性を有するMg(マグネシウム)材料(蒸着材料)が収容されたMg用坩堝21と、Ag(銀)材料(蒸着材料)が収容されたAg用坩堝26と、Mg用坩堝21,Ag用坩堝26をそれぞれ加熱する加熱装置(加熱手段)30とを備えており、Mg材料及びAg材料による共蒸着が行われる。また、基板11に蒸着されるMg材料の量は、Ag材料の量の約10倍である。
加熱装置30は、Mg用坩堝21,Ag用坩堝26の外周を覆うように設けられており、例えば電熱線等の加熱機構が設けられている。
【0017】
Mg用坩堝21は、図1に示すように、外周部27と底部28とを有する円筒状の容器であり、円筒の一方の端部(図中上側)は、開口部29になっている。また、Mg用坩堝21の上端21aから基板11までの距離Dは、40cm〜50cmとなっている。
【0018】
電極40は、図1に示すように、平板状の第1電極41と平板状の第2電極42とを備えている。第1電極41及び第2電極42は、Mg用坩堝21の開口部29の近傍、具体的には、Mg用坩堝21の上端21aよりも基板11側に配置され、図3に示すように、開口部29を囲むように設けられている。この第1電極41及び第2電極42は、できるだけ開口部29に近づけることが好ましい。さらに、第1電極41,第2電極42は、Mg用坩堝21から蒸発され、基板11に向かう純度の高いMg材料がかからない位置に配置されている。
また、第1電極41及び第2電極42は電源Eに接続されており、第1電極41と第2電極42との間に電圧が印加されるようになっている。
【0019】
次に、以上の構成からなる本実施形態の蒸着装置1を用いて、基板11にMgAg膜50を形成する方法について説明する。
まず、基板11の表面11aが蒸着源20に対向するように基板11を基板保持部13に保持する。Mg用坩堝21にMg材料を所定量収容し、Ag用坩堝26にAg材料を所定量収容する。また、電源Eにより、第1電極41と第2電極42との間に電圧を印加する。
【0020】
次いで、加熱装置30によって、Mg用坩堝21及びAg用坩堝26を加熱すると、図2に示すように、Mg用坩堝21の開口部29からMg材料が蒸発するとともに、Ag用坩堝26の開口部29からAg材料が蒸発する。ここで、純度の低い粉状のMg材料がスプラッシュとして発生し、Mg用坩堝21の開口部29から飛散される。このとき、純度の低い粉状のMg材料は帯電しているため、Mg用坩堝21の開口部29の近傍に配置された第1電極41及び第2電極42によって捕捉される。このようにして、純度の高いMg材料,Ag材料は、基板11の表面11aに付着してMgAg膜50が形成される。
【0021】
本実施形態に係る蒸着装置1では、純度の低い粉状のMg材料がスプラッシュとして発生しても、基板11に到達する前に、第1電極41及び第2電極42により捕捉される。したがって、基板11に蒸着されるMgAg膜50の欠陥を抑えることが可能となる。
また、基板11に蒸着されるMg材料の量は、Ag材料の量の約10倍であるため、純度の低い粉状のMg材料の量が比較的多く発生し易い。そこで、純度の低い粉状のMg材料を捕捉することにより、より純度の高いMgAg膜50を形成することが可能となる。
つまり、本実施形態の蒸着装置1は、MgAg膜の欠陥を抑えることが可能となる。
【0022】
また、蒸着材料が昇華性を有する金属に限らないが、蒸着材料が昇華性を有する金属(例えば、本実施形態で示したMg材料)である場合に有効である。すなわち、発明者は、蒸着材料が昇華性を有する金属である場合、スプラッシュが発生し易く、昇華性を有する金属は純度が低くなると帯電することを発見した。そこで、第1電極41及び第2電極42を備えることにより、Mg用坩堝21内から純度の低いMg材料がスプラッシュとして発生しても、Mg用坩堝21内から純度の低いMg材料のみを好適に捕捉することが可能となる。したがって、純度の低いMg材料が純度の高いMg材料と混ざることなく、純度の高いMg材料のみを基板11に蒸着させることが可能となる。
【0023】
なお、第1電極41及び第2電極42は、Mg用坩堝21の上端21aよりも基板11側に配置されているとしたが、図4に示すように、Mg用坩堝21の上端21aよりも、Mg用坩堝21の底部28側に配置され、Mg用坩堝21の開口部29を挟み込むように配置されていても良い。この構成では、Mg用坩堝21から飛散される純度の低いMg材料を早い段階で捕捉することが可能となる。
【0024】
また、第1電極41及び第2電極42の形状は平板状に限らず、図5に示すように、Mg用坩堝21の外形に応じた湾曲面51a,52aを有する第1電極51及び第2電極52であっても良い。すなわち、Mg用坩堝21は円筒状であるため、第1電極51及び第2電極52のMg用坩堝21側の面が、凹部を有する湾曲面51a,52aとなっている。このように、第1電極51及び第2電極52の形状をMg用坩堝21の外形に応じた形状にすることにより、第1電極51及び第2電極52によってMg用坩堝21から飛散される純度の低いMg材料が囲まれる。これにより、Mg用坩堝21から純度の低い粉状のMgを効率良く捕捉することが可能となる。
【0025】
また、第1電極41と第2電極42との間に電圧を印加することにより、純度が低くなったMgを捕捉したが、1つ帯電部材を帯電させて純度の低いMg材料を捕捉する構成であっても良い。
また、本実施形態では、Mg材料を用いて説明したが、これに限るものではなく、Ca(カルシウム)、Mn(マンガン)、Si(珪素)、Zn(亜鉛)等であっても良い。
【0026】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る蒸着装置を示す内部の正面図である。
【図2】図1の蒸着装置の内部を側面から見た図である。
【図3】図1の蒸着装置の坩堝を上面から見た図である。
【図4】図1の蒸着装置の電極の配置の変形例を示す正面図である。
【図5】図1の蒸着装置の電極の形状の変形例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…蒸着装置、11…基板(被処理基板)、21…Mg用坩堝、29…開口部、30…加熱装置(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置であって、
前記蒸着材料を収容する坩堝と、
該坩堝を加熱する加熱手段と、
前記坩堝の開口部近傍に設けられ帯電された帯電部材とを備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸着材料が、昇華性を有する金属であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記帯電部材が第1電極及び第2電極を有し、
前記第1電極と前記第2電極とが前記坩堝の開口部を囲むように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記第1電極及び前記第2電極の前記坩堝側の面の形状が、前記坩堝の外形に対応していることを特徴とする請求項3に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−235480(P2009−235480A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82485(P2008−82485)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】