説明

蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法および蓄光部を有する強化ガラス製品

【課題】蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法および蓄光部を有する強化ガラス製品を提供する。
【解決手段】ガラス製品の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいは、この混合物の焼成物で覆うカバー工程4と、このカバー工程4の後にガラス製品に混合物あるいは焼成物を融着させるとともに、該混合物あるいは焼成物が融着されたガラス製品を表面空冷法により強化処理する強化処理工程5とを含む蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は避難誘導表示等に使用する蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法および蓄光部を有する強化ガラス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品を強化する手段として、表面空冷法が多用されている。この表面空冷法は「空冷強化法」とも呼ばれ、ガラス製品を加熱炉の中で、ガラスの歪点以上に加熱し、加熱炉より出して、室温の空気を吹き付けて空冷することで、物理的にガラスの表面に圧縮応力層を形成し、その強度を増大させている。
【0003】
一方、ガラス製品に印刷部を形成する手段として、通常セラミックカラーよりなる着色顔料によってガラス製品に印刷し、これを加熱し、焼きつけすることにより行うのが一般的である。
【0004】
この種のセラミックカラーよりなる着色顔料は580℃〜620℃の温度で焼き付けることにより、ガラス化してガラス表面に融着固定される。
【0005】
ガラス製品を強化処理後に印刷部を形成する工程を行うと、セラミックカラーよりなる着色顔料を焼き付ける工程において、ガラス表面に形成された圧縮応力が緩和されて強化の能力が損なわれてしまうという欠点があった。
【0006】
このため、印刷部形成後に、強化処理工程を行うことも考えられるが、印刷部をガラス製品に融着固定するために焼き付けを行うため、高温で、ひび割れが生じたり、破損したりすることがあり、歩留りが悪くなるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−219317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、ガラス製品にひび割れが生じたり、剥離や破損したりするのを効率よく阻止することができるように強化処理が可能でガラス製品の一部あるいは全面を蓄光材で発光させることができ、かつ、ガラスという機能で太陽光や人工光等の紫外線の吸入と発光が可能な蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法および蓄光部を有する強化ガラス製品を提供することを目的としている。
【0009】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
【0010】
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明はガラス製品の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいは、この混合物の焼成物で覆うカバー工程と、このカバー工程後にガラス製品に混合物あるいは焼成物を融着させるとともに、該混合物あるいは焼成物が融着されたガラス製品を表面空冷法により強化処理する強化処理工程とで蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法を構成している。
【0012】
また、本発明はガラス製品の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいはこの混合物で覆った後、ガラス製品に蓄光材を融着させるとともに、ガラス製品を表面空冷法により強化処理して蓄光部を有する強化ガラス製品を構成している。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1により、ガラス製品の表面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいはこの混合物の焼成物で覆って、蓄光材を融着させるとともに表面空冷法により強化処理するので、ガラス製品を1度の加熱処理で、蓄光材の融着と強化処理ができる。
したがって、ひび割れが生じたり、剥離や、破損したりして、歩留りが悪くなったりするのを効率よく阻止できる。
(2)前記(1)により、ガラス製品と蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいはこの混合物の焼成物を融着させるとともに、表面空冷法により、強化処理するので、ガラス製品と蓄光材とをガラス化した素材融和用ガラスフリットにより、完全に一体化することができるとともに、強化された状態にできる。
(3)前記(1)により、ガラス製品に蓄光材を融着しているので、太陽光や人工光等の紫外線をどこからでも吸入し、発光させることができる。
(4)請求項2も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物中の有機物を取り除いた状態で、ガラス製品に融着できるとともに強化処理ができる。
(5)請求項3も前記(1)〜(4)と同様な効果が得られる。
(6)請求項4も前記(1)〜(4)と同様な効果が得られるとともに、画像部をガラス製品と融着された蓄光材とで覆うことができ、画像部の損傷を効率よく阻止することができる。
(7)請求項5も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに蓄光材を含む、融着層の厚さが500μ以上3000μ以下でなるので、蓄光材の残光能力を最大限効率よく行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を実施するための第1の形態の工程図。
【図2】カバー工程の説明図。
【図3】強化処理工程の説明図。
【図4】焼成物の製造工程の説明図。
【図5】本発明を実施するための第2の形態の工程図。
【図6】カバー工程の説明図。
【図7】蓄光部を有する強化ガラス製品の説明図。
【図8】本発明を実施するための第3の形態の工程図。
【図9】カバー工程の説明図。
【図10】強化処理工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1ないし図4に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は本発明の蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法で、この蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法1は、図2で示すガラス製品2の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの焼成物3で覆うカバー工程4と、このカバー工程4後にガラス製品2に焼成物3を融着させるとともに、該焼成物3が融着されたガラス製品2を表面空冷法により強化処理する強化処理工程5とで構成されている。
【0017】
前記カバー工程4で使用する焼成物3は、図4に示すように吸水力を高めるために圧縮された紙で形成された台紙6の表面に剥離性を良くするためにデキストリン(のり剤)7をコーテングし、このコーテングされた台紙6A上にステンレス板で形成した厚さが500μ以上3000μ以下となる型機8を固定する。
【0018】
次に、ひび割れや剥離を防止するために150μ〜300μの粒形の蓄光材9と素材融和用ガラスフリット10とスキージオイル(アクリル系樹脂)11を一定の割合で混合した混合物12を前記台紙6Aに固定された型機8内に流し込み、表面の手滑性を保つため、ゴムベラ等で型機8の上面の余分な混合物12を取り除き、厚さが500μ以上3000μ以下にする。
しかる後、台紙6Aより型機8を除去し、台紙6A上の混合物12を十分乾燥させて硬化させた後、水に浸すことにより、台紙6Aにコーテングしたデキストリン7を水に溶かし、硬化した混合物12と台紙6Aとを分離する。
【0019】
次に、分離した硬化した混合物12を焼成炉13内で焼成条件として450℃〜580℃で10時間程加熱して焼成物3を作る。なお、短時間で焼成した場合、ひび割れ等の原因となる。
前記焼成物3を作る時に使用する蓄光材9は化学的、光学的に優れた、例えばSrAl;Er2+,Dy3+などのアルカリ希土類、アルミン酸蓄光蛍光体が使用される。
【0020】
前記素材融和用ガラスフリット10はB(ホウ素)を主成分とし、ZrO,ZnO,CaO,SiOの化合物が使用されている。
【0021】
前記スキージオイル(アルカリ系樹脂)11に光硬化型(UVインク)の樹脂を用いることにより、台紙6Aより型機8を除去する時間を短縮でき、作業性も向上する。
【0022】
前記強化処理工程5は焼成物3で覆われたガラス製品2を焼成炉13内で、焼成温度としてガラス歪点以上である650℃前後で、焼成時間として、ガラス製品2の厚みによって異なるか、3mmの厚さの場合には約3分、1mmの厚さが増すごとに約30秒、加熱時間を増して行なう融着焼成工程14と、この融着焼成工程14後に、焼成炉13内より取り出し、室温の空気を吹き付けて空冷する急冷工程15とで構成されている。
【0023】
このような蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法1で製造された蓄光部を有する強化ガラス製品16はガラス表面に圧縮応力層が形成され、強度が増大するとともに、焼成物3の素材融和用ガラスフリット10が完全にガラス化し、ガラス製品2と融着し、一体化する。
【0024】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図5ないし図10に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当たって、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
図5ないし図7に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点はガラス製品2にスクリーン印刷により無機顔料(セラミックカラー)等で1色あるいは多色で文字、数字、避難誘導を示す避難誘導表示等の画像部17をプリントしたプリントガラス製品2Aを用いてカバー工程4Aを行なった点で、このようなカバー工程4Aを用いた蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法1Aで製造した蓄光部を有する強化ガラス製品16Aにしても同様な作用効果が得られるとともに、画像部17で表示することができるとともに、画像部17がサンドイッチ状態で覆われるため、キズや損傷するのを確実に阻止することができる。
【0026】
図8ないし図10に示す本発明を実施するための第3の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点はガラス製品2の表面の一部あるいは全面を前記混合物12で覆うカバー工程4Bと、このカバー工程4B後に焼成炉13に入れ、焼成条件として450℃〜580℃で10時間程加熱して、前記混合物12の中の有機物を取り除く仮焼成工程18を行なった後、焼成炉13を650℃前後にして、焼成時間を前述の条件と同じ条件で融着焼成工程14および急冷工程15を行なう強化処理工程5Aを行なった点で、このような蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法1Bで製造した蓄光部を有する強化ガラス製品16Bにしても前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られる。
【0027】
なお、本発明の実施の形態でも画像部17をプリントしたプリントガラス製品2Aを用いて、カバー工程4Bを行なっても、前記本発明を実施する第2の形態と同様な作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は蓄光部を有する強化ガラス製品を製造する産業で利用される。
【符号の説明】
【0029】
1、1A、1B:蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法、
2:ガラス製品 2A:プリントガラス製品、
3:焼成物、 4、4A、4B:カバー工程、
5、5A:強化処理工程、 6、6A:台紙、
7:デキストリン、 8:型機、
9:蓄光材、
10:素材融和用ガラスフリット、
11:スキージオイル、
12:混合物、 13:焼成炉、
14:融着焼成工程、 15:急冷工程、
16、16A、16B:蓄光部を有する強化ガラス製品、
17:画像部、
18:仮焼成工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製品の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいは、この混合物の焼成物で覆うカバー工程と、このカバー工程後にガラス製品に混合物あるいは焼成物を融着させるとともに、該混合物あるいは焼成物が融着されたガラス製品を表面空冷法により強化処理する強化処理工程とを含むことを特徴とする蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法。
【請求項2】
強化処理工程はガラス製品を覆う蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物中の有機物を取り除くために加熱炉で450℃〜580℃の温度で仮焼成する仮焼成工程と、この仮焼成工程後に加熱炉をガラスの歪点以上に加熱後、室内の空気を吹き付けて急冷する表面空冷工程とで構成されていることを特徴とする請求項1記載の蓄光部を有する強化ガラス製品の製造方法。
【請求項3】
ガラス製品の表面の一部あるいは全面を蓄光材と素材融和用ガラスフリットの混合物あるいはこの混合物で覆った後、ガラス製品に蓄光材を融着させるとともに、ガラス製品を表面空冷法により強化処理された蓄光部を有する強化ガラス製品。
【請求項4】
ガラス製品の混合物あるいは焼成物で覆われる面には画像部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の蓄光部を有する強化ガラス製品。
【請求項5】
ガラス製品を覆う混合物あるいは焼成物の層の厚さは500μ以上3000μ以下であることを特徴とする請求項3、4いずれかに記載の蓄光部を有する強化ガラス製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−184261(P2011−184261A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53010(P2010−53010)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(510066411)株式会社環境光学技術 (2)
【Fターム(参考)】