説明

蓄圧器を備えた自動車用ブレーキ装置

第1および第2の油圧ブレーキ回路(1、2)を備えた自動車用ブレーキ装置において、部分制動のとき、前記第2のブレーキ回路(2)がマスタ・ブレーキ・シリンダ(9)から切り離され、且つ特に、作用装置(20)例えば発電機による追加の減速作用を考慮する制御装置(22)により制御されて、蓄圧器(26a)により作動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用多回路ブレーキ装置の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に油圧式構造のこのような多回路ブレーキ装置は、自動車構造内において、効率と、および冗長性による機能の確実性とに基づいて、広く採用されてきた。典型的には、ブレーキ・ペダルの操作によりマスタ・ブレーキ・シリンダ内に油圧液が圧縮され且つ油圧ブレーキ回路に供給される。
【0003】
例えば、車両の点灯用発電機またはハイブリッド車において発電運転される駆動電動機の形の、例えば接続された発電機のような追加の減速手段がブレーキ装置内に組み込まれることにより、拡張形態が得られる。これにより、例えば回生制動が可能となり、回生制動は、一方でブレーキを保護し、他方で制動における車両の運動エネルギーからエネルギーを回収する。しかしながら、この場合、一方の対応する作用装置および他方の車輪ブレーキによる減速作用の組み合わせにおいて多くの問題点が解決されなければならない。特に、発電作用装置の減速作用は可変であるので、ドライバは、ブレーキ・ペダルの操作の強弱によって減速度/加速度の対応変化を調節しなければならない。
【0004】
ブレーキ装置の要素を操作/制御するための制御装置は基本的に種々のタイプが既知である。これらは、例えば、ABS装置において、駆動滑り制御において、カーブ走行における車両の動的電子式安定化において、またはカーブ内側車輪の自動制動によってペダル操作のないカーブ走行を支援するためにも使用される。
【0005】
ドイツ特許公開第102006020890号から、油圧ブロックの特にコンパクトな構造を有するブレーキ装置が既知である。
【0006】
ドイツ特許公開第102006020520号から、制動を制限する、対応制御される弁を備えたブレーキ装置が既知である。
【0007】
ドイツ特許公開第4128087号から、カーブ制動において後車軸の不足制動が阻止される車両用ブレーキ圧力制御装置が既知である。この場合、前車軸におけるブレーキ圧力はドライバにより予め与えられ、後車軸におけるブレーキ圧力はこれの関数として制御される。
【0008】
基本的に、摩擦の利用を考慮してできるだけ強い車両の制動が達成されるようにブレーキ力を分配することもまた既知であり、この場合、静的および/または動的により強く力が加えられた車輪に、それに対応してより強い制動力を与えることが可能である。
【0009】
欧州特許第0173954号から、個々のブレーキに対するブレーキ圧力が、車両に対する基準質量およびドライバにより設定された目標減速度により、記憶されている車両固有の特性曲線群内において決定される装置が既知である。決定されたブレーキ圧力がブレーキ内に供給され、車両減速度が目標値から偏差を有している場合、必要に応じて目標減速度に到達するまで後続制御される。
【0010】
ドイツ特許公開第3313078号から、個々の車輪ブレーキの均等摩耗が継続して達成されるように、種々の車輪ブレーキの摩耗が決定され且つこれが考慮されるブレーキ圧力制御装置が既知である。
【0011】
ドイツ特許公開第102005046606号から、車両の車軸の1つにそれぞれ1つのブレーキ回路が付属され、これにより、駆動滑り制御装置並びに走行動特性制御装置が1つのブレーキ回路内のみに設けられていてもよく、このことから構造的全体費用が低減されるブレーキ装置が既知である。
【0012】
最後に、ドイツ特許公開第10316090号から、基本的に油圧的に作用し且つ個々の車輪の摩擦ブレーキに作用する複数のブレーキ回路を備え、並びに発電機、ないしは発電運転が可能であり且つ減速のために追加的に利用可能な駆動電動機を備えたブレーキ装置が既知である。種々の走行動特性変数を考慮して個々の全ての車輪へのブレーキ力分配を最適化するために、制御装置が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102006020890号
【特許文献2】ドイツ特許公開第102006020520号
【特許文献3】ドイツ特許公開第4128087号
【特許文献4】欧州特許第0173954号
【特許文献5】ドイツ特許公開第3313078号
【特許文献6】ドイツ特許公開第102005046606号
【特許文献7】ドイツ特許公開第10316090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術を背景として、本発明の課題は、ブレーキ動特性および走行動特性の複合制御過程であってもそれを支援し、できるだけ高い信頼性を有し、且つこの場合、構造的にできるだけ簡単に形成可能な自動車用ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、本発明により、請求項1の特徴によって解決される。
【0016】
本発明により、第1のグループのブレーキ回路(通常の自動車においては、ブレーキ回路はたいていの場合ただ1つの第1のブレーキ回路のみであろう)において、既知のような簡単な構造およびそれに対応する信頼性および利用可能性を有する通常の油圧ブレーキ回路が実現可能である。さらに、ドライバは、第1のブレーキ回路のブレーキの操作において、ブレーキ・ペダルがマスタ・ブレーキ・シリンダを介して1つまたは複数の第1のブレーキ回路に結合されていることにより、直接の操作感覚を有している。
【0017】
しかしながら、さらに、第2のグループの少なくとも1つの第2のブレーキ回路が設けられ、第2のブレーキ回路は、少なくとも部分制動過程において、ブレーキ・ペダルないしはマスタ・ブレーキ・シリンダに直接結合されてなく、典型的にはブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキとしてブレーキ・ペダルにおいて電気を消費して機能する。この構造により、第2のブレーキ回路のブレーキ作用を介して、対応する車輪に作用する追加の作用装置の減速作用を重ね合わせること、即ち全体としてできるだけ均等な、且つドライバの制動意図に対応する減速作用が合わせて発生するように、加算的に組み合わせることが特に簡単に可能である。
【0018】
重ね合わせ制御を使い切ったとき、第2のブレーキ回路は通常の油圧機能モードに戻るので、全制動能力は保持されたままである。
【0019】
第2のブレーキ回路を、アクセル・ペダルの形のブレーキ操作装置ないしはマスタ・ブレーキ・シリンダから十分に切離し可能にするために、この場合、本発明により、このブレーキ回路に圧力を供給するために蓄圧器が設けられ、蓄圧器は、蓄圧弁を介して第2のブレーキ回路の圧力側と結合可能であり、およびここで、制御装置により制御されて、必要なブレーキ圧力を、ブレーキ昇圧弁を介して車輪ブレーキに供給する。
【0020】
蓄圧器の容積は、複数のブレーキ過程が後充填なしに実行可能なように設計されることが有利である。
【0021】
蓄圧器の後充填は、制動されていない状態において、第2のブレーキ回路の油圧ポンプにより行われることが理想的である。
【0022】
蓄圧弁は、蓄圧制御弁として、特定の差圧に制御するようにまたは特定の絶対圧力を達成するように設計されていてもよく、この場合、後者の変更態様においては、第2のブレーキ回路の圧力側に圧力センサが必要である。
【0023】
蓄圧装置は、蓄圧器および蓄圧制御弁のほかに、蓄圧器の充填率を決定するためのセンサを有していることが有利であり、これにより、後充填がいつ必要であるかを決定可能である。
【0024】
この場合、センサが、ベローズとしてまたはピストン/シリンダ装置としても形成された蓄圧器の圧縮ストロークのためのストローク・センサであるように設計されていても、またはセンサが圧力センサであるように設計されていてもよい。
【0025】
本発明の有利な一形態は、さらに、蓄圧器が、車両車軸の車輪ブレーキの各々のそれぞれ1つのブレーキ昇圧弁と結合され、この場合、車輪ブレーキの各々は、それぞれ1つのブレーキ解放弁と結合され、ブレーキ解放弁は、それ自身、低圧蓄積器と結合され、この場合、ブレーキ解放弁は制御可能な差圧弁であるように設計されている。
【0026】
特に、対応する昇圧弁およびブレーキ解放弁が制御可能な差圧弁として形成されていることにより、例えばABS装置または駆動滑り装置の作用においてモジュール化されたブレーキの形の個々の車輪ブレーキにおけるブレーキ圧力の制御を、僅かな油圧液の流量により、したがって蓄圧器の僅かな容量消費により行うことが可能である。
【0027】
蓄圧器を介して、制御装置により決定された所定の絶対油圧が提供されるべき場合、圧力センサが第2のグループの少なくとも1つのブレーキ回路内に設けられ且つ蓄圧弁のための制御装置と結合されていることが有意義であることがわかった。
【0028】
特に油圧液がマスタ・ブレーキ・シリンダの貯蔵容器から吸い込まれることによって蓄圧器の特に有効な後充填を可能にするために、ブレーキ圧力発生装置の貯蔵容器が、切換可能な充填弁を介して、第2のグループのブレーキ回路の油圧ポンプの吸込側と結合されていることが有利なことがわかった。車両が制動されていない状態において、油圧ポンプが運転しているときに蓄圧器の充填を可能にするために、充填弁が蓄圧弁と同時に開放可能である。
【0029】
本発明によるブレーキ装置は、車両における追加の減速作用装置と共に使用可能であることが特に有利である。このために、第2のグループのブレーキ回路により制動される車輪が、減速作用を与える作用装置と結合されていることが有利なことがわかった。代替態様または追加態様として、第1のグループのブレーキ回路により制動される車輪が減速作用装置と結合されていてもよい。蓄圧器により操作される車輪、即ち例えば車両の後車輪または前車輪のブレーキ作用が、ドライバまたは場合により車両の同乗者が不快感を有することなく、作用装置の減速作用と最適に重ね合わせ可能である。
【0030】
この場合、作用装置が、発電機特に発電運転される自動車の駆動電動機であるように設計可能であることが有利である。
【0031】
本発明によるブレーキ装置は、基本的に、通常の車両においてのみならず、混成の通常/電気駆動装置を備えたハイブリッド車においても使用可能である。
【0032】
両方のグループのブレーキ回路が油圧ブレーキ回路として形成され且つそれぞれ1つの油圧ポンプを有し、この場合、油圧ポンプが共通のポンプ駆動装置と動的に結合されている場合、第1のグループのブレーキ回路に付属された油圧ポンプが、特にポンプ駆動軸の回転方向によって制御可能なフリーホイール・クラッチにより、ポンプ駆動装置から機械的に切離し可能であることが有利であることがわかった。
【0033】
しかしながら、上記の場合において、代替態様として、第1のグループのブレーキ回路に付属された油圧ポンプの吸込側が、弁を介して、その吐出側と結合可能であるように設計されていてもよいことは有利である。
【0034】
これにより、それぞれ作動されていないブレーキ回路の油圧ポンプは機械的にまたは油圧的に切り離されるので、充填過程の間にドライバがブレーキ・ペダルを操作したとき、ドライバによって通常不快に感じられる、場合により発生する圧力の脈動が回避される。
【0035】
本発明は、ブレーキ装置に関するのみならず、このようなブレーキ装置の作動方法にも関するものである。この場合、充填弁が開放され、蓄圧弁が開放され且つブレーキ昇圧弁が開放され、および第2のブレーキ回路の油圧ポンプが蓄圧器の充填のために運転されるように実行されてもよい。
【0036】
このようにして、蓄圧器の最適充填が可能である。
【0037】
さらに、ブレーキ装置の作動方法は、部分制動の場合、蓄圧弁が少なくとも部分開放され、これにより第2のグループの1つ/複数のブレーキが操作または制御されるように実行されてもよい。
【0038】
これにより、第2のブレーキ回路の機能は、部分制動がきわめて頻繁に発生する場合において明確である。通常、部分制動においては、第2のグループのブレーキ回路はマスタ・ブレーキ・シリンダから切り離され、対応する遮断弁は閉鎖されている。
【0039】
蓄圧器が十分に充填されていない場合には、全制動または非常制動の場合、対応する遮断弁が開放され且つブレーキ操作装置ないしはマスタ・ブレーキ・シリンダが1つまたは複数の第2のブレーキ回路と直接結合されるように実行されてもよい。これにより、ブレーキ・ペダルのストロークは確かに長くなるが、それほどでもなく、且つドライバは全ての油圧ブレーキ回路の達成された全ブレーキ作用をブレーキ感覚により把握する。
【0040】
このために、全制動の場合、蓄圧器が十分に充填されていない場合には遮断弁が開放され、且つ油圧液がブレーキ圧力発生装置から第2のグループの1つ/複数のブレーキ回路内に供給されることが実行される。
【0041】
以下に本発明が一実施例に基づいて図面に示され且つそれに続いて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、追加の減速作用装置をも備えた制御装置を含む本発明によるブレーキ装置の略構成図を示す。
【図2】図2は、機械式フリーホイールにより不必要な油圧ポンプを切り離すための装置を示す。
【図3】図3は、不必要な油圧ポンプを油圧的に切り離すための1つの可能性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、第1のブレーキ回路1および第2のブレーキ回路2を備えた二回路ブレーキ装置を示し、この場合、第1のブレーキ回路1は、図1の右側におけるブレーキ回路の第1のグループを表わし、および第2のブレーキ回路2は、図示の実施例におけるブレーキ回路の第2のグループのただ1つのブレーキ回路を形成している。しかしながら、この場合、一点鎖線は機能的境界および領域を示すにすぎず、それとは無関係に、対応するユニットは共通の構造ユニット例えば油圧ブロック内に統合されていてもよい。
【0044】
以下において、はじめに第1のブレーキ回路1の機能が説明され、次に、第2のブレーキ回路2の詳細が説明される。
【0045】
図1は、二軸自動車の前車輪3、4に付属されている右側の第1のブレーキ回路1並びに自動車の後車輪5、6に付属されている第2のブレーキ回路2を備えたブレーキ装置を示す。ブレーキ回路は一点鎖線によりそれぞれの区画が示されている。自動車が2つのブレーキ回路のみを有する特定の場合、第1のブレーキ回路1は、直接油圧操作可能なブレーキ回路の第1のグループを形成し、一方、第2のブレーキ回路2は、例外的にのみ油圧ブレーキ操作装置7と結合されるが、部分制動においてはこれから油圧的に切り離されている、ブレーキ回路の第2のグループを形成する。このような変更態様の代わりに、第2のグループの1つ/複数のブレーキ回路が前車軸に付属され且つ第1のグループのブレーキ回路が後車軸に付属されていてもよい。
【0046】
油圧ブレーキ圧力発生装置7はブレーキ・ペダル8並びにマスタ・ブレーキ・シリンダ9を有し、マスタ・ブレーキ・シリンダ9内に、場合によりブレーキ力増幅器を使用して、ブレーキ・ペダル8を踏み込んだときにブレーキ装置を操作するための油圧が形成される。
【0047】
はじめに、例として、第1のブレーキ回路1によりこのようなモジュールの基本機能を説明することにする。
【0048】
ブレーキ・ペダル8が操作された場合、高いブレーキ圧力がマスタ・ブレーキ・シリンダ9内に発生する。高いブレーキ圧力は、それの他の機能がのちに詳細に説明される、いわゆる切換弁10を介して、個々の車輪3、4に付属されている昇圧弁11、12に供給される。
【0049】
基本的に、昇圧弁11、12は高い油圧を車輪3、4のブレーキ・シリンダに供給し、これにより、例えばディスク・ブレーキの形の対応する摩擦ブレーキが操作される。昇圧弁は制御可能であり、および正常な部分制動過程において、昇圧弁が油圧液を制御によって場合により両方向に通過可能にすることにより、ブレーキ解放にも使用される。例えばアンチロック装置が応答した場合における個々の車輪の車輪ごとのブレーキ解放においては、降圧弁13、14もまた使用可能であるので、車輪ブレーキ・シリンダ内の油圧は、対応するブレーキ回路の高圧部分内の圧力レベルとは無関係に降圧可能であり、且つ油圧液を油圧ポンプ15の吸込側に供給可能である。ここで、油圧液を受け取るために油圧蓄積器16が設けられている。ばね付勢された逆止弁17は、油圧ポンプが油圧液を場合により開放された吸込弁18を介して吸い込み且つ油圧ポンプの吸込側から油圧液が容量蓄積器16に流入不可能なように働く。
【0050】
通常、個々の車輪に対して、きわめて強い制動における車輪のロックを阻止するアンチロック装置が設けられている。このために、車輪4、3に例えば図示されていない回転速度センサが設けられ、回転速度センサは、車輪がロックしたとき、制御装置22に信号を出力する。それに続いて、車輪のロックを解放するために、車輪に付属されたブレーキ昇圧弁11、12が閉鎖され、同時に付属のブレーキ降圧弁13、14が開放される。同時に、他の制御サイクルのために提供するように高い圧力の油圧液をブレーキ回路の一次側にポンピングするために、油圧ポンプ15が駆動される。
【0051】
対応する車輪が回転し続けた場合、再びロックのおそれがあるまでの間、ブレーキ昇圧弁11、12の開放により圧力したがってブレーキ作用を再び上昇可能である。この繰返しプロセスはブレーキ回路の一次側に高い圧力の油圧液を必要とし、この油圧液はブレーキ操作装置により提供される。油圧蓄積器16は、特に弁13、14を介しての車輪ごとのブレーキ解放において油圧液に対して容量の調節を可能にするように働く。油圧ポンプ15により、油圧液はマスタ・ブレーキ・シリンダに戻される。
【0052】
車両の発進時において1つの車輪または複数の車輪において滑りが発生したとき、または走行動特性制御のために、マスタ・ブレーキ・シリンダ内にブレーキ圧力が発生することなく、車輪ブレーキが操作されたときもまた、上記の過程が同様の形で実行可能である。このために、ポンプが投入され、且つ切換弁10が閉鎖されるかまたはそれに対応して希望の圧力に制御される。
【0053】
同時にいわゆる吸込弁/充填弁18が開放され、これにより、油圧液はマスタ・ブレーキ・シリンダの貯蔵容器の領域から油圧ポンプ15の吸込側に到達可能である。その他の全ての場合、吸込弁18は閉鎖されていることが有利である。
【0054】
図1の左側の第2のブレーキ回路2の機能は種々の観点において第1のブレーキ回路1に類似しているが、この場合、相違点として、例えば、特に部分制動において、第2のブレーキ回路2は遮断弁19により二室のマスタ・ブレーキ・シリンダ9から完全に切離し可能であること、および第2のブレーキ回路2においては第1のブレーキ回路1とは異なり、ブレーキ解放が降圧弁を介してのみ実行可能であること、に注目されるべきである。第2のブレーキ回路の機能方法の説明において、3つの基本的な状態が区別可能である。
【0055】
1.自動車の減速のない走行においては、車輪5、6の車輪ブレーキが操作されないのみならず、例えば発電運転される駆動電動機の形の作用装置20もまた必然的に利用されない。必要に応じて対応する作用装置が作動されることは当然である。
【0056】
2.部分制動の場合、回生制動が行われることが好ましく、即ち、作用装置20により車輪5、6に周知のブレーキ・トルクが作用する。ブレーキ・ペダル8の操作によってドライバにより表わされる減速希望は、センサ21により測定され且つ制御装置22に伝送可能である。作用装置20の減速トルクが制御装置22に伝送されるか、または作用装置20の減速トルクが出力センサ23により測定され且つ伝送される。代替態様または追加態様として、作用装置20の負荷状態を特定するために、場合により作用装置によって充電されるバッテリ25の充電状態が充電センサ24により測定され、かつ、制御装置22に与えられてもよい。
【0057】
ブレーキ希望と、第1のブレーキ回路1により実際に油圧経路において達成された減速作用と、および得られた作用装置20の減速トルクと、を考慮して、制御装置22は、第2のブレーキ回路により達成されるべきブレーキ減速を計算し、およびこれを、主として、例えば差圧制御弁として働く蓄圧弁26bの操作によって設定する。蓄圧器26aは通常加圧された油圧液により充満され、油圧液は蓄圧弁26bの開放によりブレーキ昇圧弁11a、12aに移送される。このように設定された油圧はブレーキ昇圧弁11a、12aを介して車輪5、6の車輪ブレーキ・シリンダに伝達される。車輪の滑り回転のない最大可能なブレーキ作用に到達したとき、ないしはブレーキ解放のために、ブレーキ降圧弁14a、13aが開放され且つ油圧液は油圧ポンプ15aの吸込側ないしは蓄積器16aに流れて戻ることが可能である。
【0058】
蓄圧装置26の考え方により、マスタ・ブレーキ・シリンダから切り離したとき、第2のブレーキ回路内においては、ブレーキ圧力は、油圧ポンプ15aによって発生されるのではなく、十分且つ遅れなく蓄圧器から利用可能である。
【0059】
装置の非制動状態においては、通常、遮断弁19は開放され且つ吸込弁/充填弁18aは閉鎖されている。
【0060】
他方で、ブレーキ過程が終了したのち、本質的に、メタル・ベローズ、弾性膜を有する容器、全体として弾性のある容器、またはピストン/シリンダ装置として形成されていてもよい蓄圧器26aが、必要な場合には、吸込弁/充填弁18aが開放され且つ遮断弁19が閉鎖されて、油圧ポンプ15aを運転することにより再充填可能であることは有利である。この状態において、油圧液はマスタ・ブレーキ・シリンダ室の貯蔵容器から吸込み可能である。さらに、容量蓄積器16aが空にされ且つそこに蓄積された油圧液がポンプ15aにより蓄圧器26a内に充填される。
【0061】
蓄圧器の充填状態をモニタリングするために、圧力センサまたは充填ストローク・センサの形のセンサ26cが利用可能である。
【0062】
第2のブレーキ回路2の回生ブレーキ過程においては、第2のグループのブレーキ回路の必要なブレーキ強度は、駆動軸27を介して車輪5、6に与えられる作用装置20の追加の減速作用により基本的に低減され、およびそれに対応するエネルギーが作用装置を介して回収され且つ例えばバッテリ25内に蓄積される。
【0063】
作用装置20の減速トルクが変動する場合、即ち、例えば、バッテリ25が充満しているとき、車両が減速しているとき、または駆動系が変速機切換過程により車輪から切り離されたとき、全減速度を一定に保持するために、制御装置22により、それに対応して例えば電気消費機器28の投入により作用装置の減速トルクができるだけ上昇されなければならず、および/または第2のブレーキ回路2の操作が、蓄圧弁26bの対応操作により、変化されたブレーキ力が作用装置20の変化された減速トルクを補償するように適合されなければならない。
【0064】
これは、本発明によるブレーキ装置においては、通常のブレーキ装置においてよりも本質的により簡単に可能であり、その理由は、一方で、第1のブレーキ回路の直接操作によりそこで得られたブレーキ作用が一定のままであり且つドライバによって良好に制御可能であり、他方で、両方の独立の部分ブレーキ装置2、20の間のブレーキ作用の調整が制御装置22により比較的簡単且つ定常的に実行可能であるからである。
【0065】
3.全制動において、蓄圧器が十分に充填されていないかぎり、部分制動過程においては閉鎖されたままである遮断弁19が開放され、これにより、マスタ・ブレーキ・シリンダ9内において発生された高いブレーキ圧力が、遮断弁19およびブレーキ昇圧弁11a、12aを介して直接車輪5、6のブレーキ・シリンダに供給可能なように設計されていてもよい。このようにして、ブレーキ・ペダル8における対応ブレーキ感覚により最適な即時ブレーキ作用が発生される。第2のブレーキ回路2のブレーキ圧力発生装置7への結合により、ペダル・ストロークの最小伸長が行われるが、非常制動の場合、これは許容可能である。
【0066】
図1内に、制御装置22の範囲内において、さらに、センサ29(横方向加速度センサ)、センサ30(滑りセンサ)およびセンサ31(回転速度センサ)が示されている。さらに、前進走行と後退走行との間を区別するために制御装置22を支援する走行方向センサが設けられていてもよく、これにより、後退走行においては後車軸のブレーキをより強く作動可能である。
【0067】
さらに、制御装置22は、車輪5、6における回転速度センサ並びに変速機クラッチの操作を指示するセンサと結合されていてもよい。
【0068】
対応する出力32が、ブレーキ装置の制御可能な弁、特に弁11a、12a、26b並びに弁13a、14aと結合されている。
【0069】
図2内に、大部分図1内に示されている部分に対応するブレーキ装置が示されている。それに対応して、同じ要素には同じ符号が付けられている。図2内に快適性を向上させる装置が示され、対応するブレーキ回路内において必要とされないそれぞれの油圧ポンプ15は、それが必要とされなくなったとき、ポンプ駆動モータ36の駆動系から切り離されることによって、装置は快適性を向上させる。これは、ポンプ駆動モータ36が対応する駆動軸37を基本的に両方の回転方向に駆動可能であること、および第2のブレーキ回路の油圧ポンプ15aが軸37の回転方向とは無関係に油圧を発生可能であること、によって行われる。軸37に、駆動モータ36と第1のブレーキ回路の油圧ポンプ15との間に機械式フリーホイール装置38が形成され、フリーホイール装置38は、第1のブレーキ回路の油圧ポンプ15は軸37の一方の回転方向においてのみ駆動されるが、反対の回転方向には駆動されないように働く。
【0070】
これにより、ブレーキ・ペダル操作の間に蓄圧器の充填が行われなければならないとき、共に運転されたポンプによって対応する脈動が発生し且つ場合によりブレーキ・ペダルの操作においてドライバがそれを感じることが阻止される。
【0071】
図3内に、図2内に示されたブレーキ装置と類似のブレーキ装置が表わされ、この場合、第1のブレーキ回路1の油圧発生を、第2のブレーキ回路2内の油圧発生から切り離すという課題は、油圧ポンプの駆動軸の機械式フリーホイールによって解決されるのではなく、第1のブレーキ回路1の油圧ポンプ15は確かに第2のブレーキ回路2の油圧ポンプ15aと同時に運転されるが、切り離す場合に、油圧ポンプ15の吐出側が、この場合に開放された切換弁39を介して、その油圧ポンプ15の吸込側と結合され、これにより、ポンプは油圧液を循環させる。これにより、油圧ポンプ15の無負荷運転が保証されるので、脈動は回避されるかまたは少なくとも低減される。
【0072】
マスタ・ブレーキ・シリンダを介して場合により行われる油圧ポンプ内への液の供給を回避するために、油圧ポンプ15はばね付勢された逆止弁40を介して第1のブレーキ回路1の圧力側と結合されている。
【0073】
したがって、本発明によるブレーキ装置は、個々のブレーキ回路をマスタ・ブレーキ・シリンダから切り離して同時にこのブレーキ回路に蓄圧器から供給すること並びに回生ブレーキ過程を快適に利用することを可能にし、この場合、ブレーキ装置の部分装置内の変動は検出され且つ補償可能であり、これにより、変動がドライバないしは車両の同乗者によって感知されることはない。さらに、場合により、調節過程から影響を受けることなく、直接マスタ・ブレーキ・シリンダにより油圧操作される、ブレーキ装置の他の部分装置が設けられている。適切な制御装置は、発生する全てのブレーキ作用および減速作用を適切な方法で制御する。
【符号の説明】
【0074】
1 第1のブレーキ回路
2 第2のブレーキ回路
3、4 前車輪
5、6 後車輪
7 ブレーキ圧力発生装置(ブレーキ操作装置)
8 ブレーキ・ペダル
9 マスタ・ブレーキ・シリンダ
10 油圧弁(切換弁)
11、11a、12、12a ブレーキ昇圧弁
13、13a、14、14a ブレーキ解放弁(ブレーキ降圧弁)
15、15a 油圧ポンプ
16、16a 低圧蓄積器(油圧蓄積器、容量蓄積器)
17 逆止弁
18、18a 充填弁(吸込弁)
19 遮断弁
20 作用装置(減速装置)
21 減速希望センサ
22 制御装置
23 出力センサ
24 充電センサ
25 バッテリ
26 蓄圧装置
26a 蓄圧器
26b 蓄圧弁
26c 充填率センサ
27 車両車軸(駆動軸)
28 電気消費機器
29 横方向加速度センサ
30 滑りセンサ
31 回転速度センサ
32 出力
36 ポンプ駆動モータ
37 ポンプ駆動軸
38 フリーホイール・クラッチ(機械式フリーホイール装置)
39 切換弁
40 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ油圧ブレーキ回路として形成されているブレーキ回路(1)からなる第1のグループおよびブレーキ回路(2)からなる第2のグループを備えた自動車用ブレーキ装置において、
前記第1のグループの少なくとも1つの第1のブレーキ回路(1)が、直接、特に制御可能な油圧弁(10)を介して、ブレーキ圧力発生装置(7)と結合され、前記第2のグループの少なくとも1つの第2のブレーキ回路(2)が、油圧遮断弁(19)を介して、前記ブレーキ圧力発生装置(7)から油圧的に切離し可能であり、および蓄圧器(26a)が設けられ、蓄圧器(26a)は、前記第2のブレーキ回路(2)の圧力側と、および場合により前記第2のグループを除く他のブレーキ回路の圧力側と、制御可能な蓄圧弁(26b)を介して結合されていることを特徴とする自動車用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記蓄圧器(26a)が、充填率を決定するためのセンサ(26c)を設けていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記センサ(26c)が、特にベローズまたはピストン/シリンダ装置として形成された蓄圧器の圧縮ストロークのためのストローク・センサであることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記センサ(26c)が圧力センサであることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記蓄圧器(26a)が、車両車軸(27)の車輪ブレーキの各々のそれぞれ1つのブレーキ昇圧弁(11a、12a)と結合され、この場合、車輪ブレーキの各々は、それぞれ1つのブレーキ解放弁(13a、14a)と結合され、ブレーキ解放弁(13a、14a)は、それ自身、低圧側、特に低圧蓄積器(16a)と結合され、この場合、ブレーキ解放弁は制御可能な差圧弁であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項6】
圧力センサが前記第2のグループの少なくとも1つのブレーキ回路内に設けられ且つ前記蓄圧弁(26b)のための制御装置(22)と結合されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のブレーキ装置
【請求項7】
前記ブレーキ圧力発生装置の貯蔵容器が、切換可能な充填弁(18a)を介して、前記第2のグループのブレーキ回路の油圧ポンプの吸込側と結合されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記第2のグループのブレーキ回路により制動される車輪(5、6)が、減速作用を与える作用装置(20)と結合されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項9】
前記作用装置(20)が、発電機、特に発電運転される自動車の駆動電動機であることを特徴とする請求項8に記載のブレーキ装置。
【請求項10】
両方のグループのブレーキ回路(1、2)が油圧ブレーキ回路として形成され且つそれぞれ1つの油圧ポンプ(15、15a)を有し、この場合、油圧ポンプが共通のポンプ駆動装置と動的に結合されている、ブレーキ装置において、
前記第1のグループのブレーキ回路(1)に付属された油圧ポンプ(15)が、特にポンプ駆動軸の回転方向によって制御可能なフリーホイール・クラッチ(38)により、ポンプ駆動装置から機械的に切離し可能であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項11】
両方のグループのブレーキ回路(1、2)が油圧ブレーキ回路として形成され且つそれぞれ1つの油圧ポンプ(15、15a)を有し、この場合、油圧ポンプが共通のポンプ駆動装置と動的に結合されている、ブレーキ装置において、
前記第1のグループのブレーキ回路(1)に付属された油圧ポンプ(15)の吸込側が、弁(39)を介して、その吐出側と結合可能であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項12】
前記充填弁(18a)が開放され、前記蓄圧弁(26b)が開放され且つ前記ブレーキ昇圧弁(11a、12a)が開放され、および前記第2のブレーキ回路(2)の油圧ポンプ(15a)が前記蓄圧器(26a)の充填のために運転されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のブレーキ装置の作動方法。
【請求項13】
部分制動の場合、前記蓄圧弁(26b)が少なくとも部分開放され、これにより前記第2のグループの1つ/複数のブレーキ(2)が操作または制御されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のブレーキ装置の作動方法。
【請求項14】
前記蓄圧器がモニタリングされ、全制動の場合、蓄圧器が十分に充填されていない場合には前記遮断弁が開放され、且つ油圧液が前記ブレーキ圧力発生装置(7)から前記第2のグループの1つ/複数のブレーキ回路(2)内に供給されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のブレーキ装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−521843(P2011−521843A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512047(P2011−512047)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054700
【国際公開番号】WO2009/149981
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】