説明

蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体

【課題】良好な蓄熱性能を有し、厳しい使用環境下においても十分な蓄熱性を示し、長時間高温化に晒された場合においても該蓄熱性が維持される耐久性を備え、且つ被覆物との密着性に優れた蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を提供する。
【解決手段】官能基として水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかを有するアクリル系樹脂と、硬化剤と、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルとを、少なくとも用いて形成される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体であって、架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、且つ、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC(ASKER C型)硬度計で測定される硬度が55以下である蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体に関し、より詳しくは、蓄熱ボード、電子機器部品用の蓄熱剤、保冷材、保温材等に用いることができる蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器内の発熱部分の表面温度を任意の温度域に長時間保持させて熱による部品の破損防止や安定作動を確保するために蓄熱性樹脂成形体が用いられてきた。そして、このような蓄熱性樹脂成形体としては、蓄熱剤を内包したマイクロカプセルを樹脂内に含有させた蓄熱性樹脂成形体が種々研究開示されてきている。
【0003】
例えば、特開2003−246931号公報(特許文献1)においては、潜熱蓄熱性物質を封入した、粒径分布が1μm以上5μm以下の範囲内で、かつ平均粒径が1μm以上2μm以下のマイクロカプセルが、成形物の重量に対し20重量%以下の割合で練り込まれているマイクロカプセル保有成形物(成形体)が開示されている。また、特開2005−23229号公報(特許文献2)においては、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを樹脂内に含有することを特徴とする蓄熱性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の蓄熱性樹脂組成物やその成形体においては、製造の際に上記マイクロカプセルを高比率で含有させた場合に、樹脂等の粘度が高くなって混練りが困難となったり、更には、マイクロカプセル同士が凝集して早期に沈降してしまうためシート化が困難となる場合があり、加工適性の点で問題があった。
【0005】
これに対し本発明者は、先に、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを高比率で含有することを可能とする優れた蓄熱性を示す蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を開発している(下記特許文献3)。本発明者の開発した上記蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、カルボキシル基を有するアクリル系共重合体とグリシジル基を有する化合物とからなるマトリックスに、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルと湿潤分散剤とを所定量含有させることにより、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを高比率で含有させることを可能とするものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−246931号公報
【特許文献2】特開2005−23229号公報
【特許文献3】特開2007−31616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来は、電子機器中の発熱部分に熱伝導性シート状成形体を被覆させた上、さらにファンを設け、あるいは周囲に放熱するスペースを確保するなどの対策が一般的に可能であった。しかしながら電子機器などの小型・精密化が非常に早いスピードで改良されており、上記ファンの設置や放熱スペースの確保が物理的に困難となってきている。したがって、電子機器内の急激な温度変化の緩和の対策として、主として蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体のみに依存する場合が増大している。換言すると、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体がより厳しい環境で使用される結果となっている。このため、長時間高温化に晒された場合であっても、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の本来備える蓄熱性が充分に発揮されるよう、該成形体の耐熱性、耐久性のさらなる改良が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、良好な蓄熱性能を有し、厳しい使用環境下においても充分な蓄熱性を示し、長時間高温化に晒された場合においても該蓄熱性が維持される耐久性を備え、且つ被覆物との密着性に優れた蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
シート状成形体の耐熱性、耐久性を研究する過程において、本発明者は、THF抽出のゲル分率で表される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の架橋密度を高くすることによって望ましい耐熱性を付与することができることに着目した。しかしながら、さらなる研究の結果、ゲル分率が高くなった蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は硬度が高くなる傾向にあることがわかった。蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体が適度な柔軟性を有していない場合には、電子機器中の発熱部分に該成形体を被覆した際に、該発熱部分と該蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体との密着性が悪くなり、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の有する蓄熱性能が実質的に充分に発揮されず望ましくない。したがって、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の改良において、耐熱性の向上とシートの良好な硬度の確保を同時に達成させる必要がある。
【0010】
本発明者は、シート状成形体が良好な耐熱性を示すべくその架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、且つ、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC(ASKER C型)硬度計で測定される硬度が55以下である蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体であれば、耐熱性、耐久性に優れ、且つ、被覆部分との密着性が良好で、シート状成形体が本来備える蓄熱性能を実質的に充分発揮しうること、及び、上記良好なゲル分率と硬度とを実現するための蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の構成を見出し本発明の完成に至った。
【0011】
即ち本発明は、
(1)官能基として水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかを有するアクリル系樹脂と、硬化剤と、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルとを、少なくとも用いて形成される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体であって、上記硬化剤は、上記アクリル系樹脂の有する水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかと硬化反応可能な反応性官能基を有し、且つ上記硬化剤として、1分子中の該反応性官能基の数が異なる2種以上の硬化剤を用いており、上記アクリル系樹脂の有する官能基に対する上記硬化剤の有する反応性官能基の官能基当量比が、0.8〜1.2であり、架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC硬度計で測定される硬度が55以下であることを特徴とする蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体、
(2)上記アクリル系樹脂100質量部に対して、上記蓄熱剤を内包するマイクロカプセルが40乃至180質量部含有することを特徴とする上記(1)に記載の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体、
(3)上記硬化剤が有する官能基の数は、1分子あたり2個以上であることを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを高比率で含有させることができ高い蓄熱性能を発揮可能であって、その蓄熱性能は、長時間高温化に晒された場合であっても、上記マイクロカプセルを破壊することなく長時間保持することができる。また本発明は優れた柔軟性をも有しており、電子機器などとの密着性が良好であり、本発明の備える優れた蓄熱性を実質的に充分発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体(以下、単に「シート状成形体」ともいう)は、官能基として水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかを有するアクリル系樹脂と、官能基数が異なる2種以上の硬化剤と、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルとを、少なくとも用いてシート状に成形される。上記硬化剤は、アクリル系樹脂の有する官能基と硬化反応をおこす反応性官能基を有するものであって、上記アクリル系樹脂と上記2種以上の硬化剤とは、両者が有する硬化反応に関与する官能基の官能基当量比において特定の関係にある。即ち、上記アクリル系樹脂の有する官能基に対する上記硬化剤における反応性官能基の官能基当量比が、0.8〜1.2であることが必要である。そして上記蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体において、その架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC(ASKER C型)硬度計で測定される硬度が55以下であることが示されることにより、本発明の所期の目的が達成される。以下、本発明を実施するための最良の形態についてより詳細に説明する。
【0014】
(アクリル系樹脂について)
本発明のシート状成形体を構成するアクリル系樹脂は、官能基として水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基(以下、これら3種の官能基をまとめて単に「3種の官能基」という場合がある)のいずれかを有するアクリル系樹脂である。上記官能基の量は、後述する硬化剤における官能基当量との関係で調整される。上記アクリル樹脂が有する官能基は、アクリル樹脂の分子末端又は分子鎖中間にあってもよく、側鎖上あるいは主鎖上のどちらかまたは両方に存在しても構わない。
さらに上記官能基は、平均して1分子中に2個以上存在することが好ましく、これより少ないと、これら官能基が後述する硬化剤における反応性官能基と反応して充分に鎖延長することができない。そのため、結果として、得られるシート状成形体のゲル分率が70%以上のものが得られ難く、結果として耐熱性を良好に向上させることができない虞がある。
【0015】
上記アクリル系樹脂として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及びこれらの誘導体のようなモノマーを、ラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法(ソリューション法、例えば乳化重合法(エマルジョン重合法)、懸濁重合法(サスペンジョン重合法)等)、又は塊状重合法(バルク法)等の重合法を用いて重合させることで得られるアクリル系共重合体を用いることができる。
【0016】
このとき、アクリル系共重合体への上記3種の官能基の導入は、共重合時に所望の官能基を有したモノマーを上述するアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及びこれらの誘導体のようなモノマーと共重合させることによりなされる。例えば、官能基を有さないアクリル系モノマーを主体として、これに共重合可能なビニル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを同時に重合(共重合)させる方法、官能基を有するアクリル系モノマーと他のアクリル系モノマーを共重合させる方法、アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーを重合させ、停止反応として官能基含有分子により末端停止反応を行う方法等を採用することができる。
【0017】
上述するアクリル系共重合体は、ランダム共重合したもの、或いはブロック共重合したものであってもよい。また、アクリル系共重合体の構造は、単一なものに限られず、様々な繰り返し単位のアクリル系共重合体を混合したものを用いることが可能である。さらに、アクリル系共重合体は、前述のようにして得られる2種以上のモノマーを共重合させたアクリル系共重合体の他にも、アクリル系共重合体同士を混合して用いることができる。
【0018】
上記アクリル系共重合体には、2種類以上の異なった官能基が含まれていても構わない。例えば1分子中に、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基のいずれか2種以上が含まれていてもよく、あるいは上記3種の官能基の少なくとも1種と、さらなる別の官能基を有することも可能である。ただし、2種以上の異なる官能基を有する場合、上記アクリル系共重合体と反応する官能基を有する硬化剤との硬化に際して反応が安定せずに制御が困難とならないように留意する必要がある。
また、2種以上の異なる官能基を有するアクリル系共重合体同士を混合する場合は、互いに硬化反応を起こしうる官能基同士の比率が重要であるため、アクリル系共重合体中に、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基に対する上記官能基当量比を算出する場合には、アクリル系共重合体に含まれる官能基のうち、硬化剤の有する反応性官能基と硬化反応を起こすことが可能な官能基の当量の総和を、該硬化剤の官能基との当量比率で算出する。
【0019】
上記3種の官能基のいずれも有さないアクリル系モノマーとしては、メチルアクリレート(アクリル酸メチル)、エチルアクリレート(アクリル酸エチル)、プロピルアクリレート(アクリル酸プロピル)、iso−プロピルアクリレート(アクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルアクリレート(アクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルアクリレート(アクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルアクリレート(アクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルへキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルアクリレート(アクリル酸オクチル)、iso−オクチルアクリレート(アクリル酸−iso−オクチル)、デシルアクリレート(アクリル酸デシル)、iso−デシルアクリレート(アクリル酸イソデシル)、iso−ノニルアクリレート(アクリル酸−iso−ノニル)、ネオペンチルアクリレート(アクリル酸ネオペンチル)、トリデシルアクリレート(アクリル酸トリデシル)、ラウリルアクリレート(アクリル酸ラウリル)等の、アクリル酸アルキルエステル;シクロへキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等の脂環式アルキルアクリレート;メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、エチルメタクリレート(メタクリル酸エチル)、プロピルメタクリレート(メタクリル酸プロピル)、iso−プロピルメタクリレート(メタクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルへキシルメタクリレート(メタクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルメタクリレート(メタクリル酸オクチル)、iso−オクチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−オクチル)、デシルメタクリレート(メタクリル酸デシル)、イソデシルメタクリレート(メタクリル酸イソデシル)、イソノニルメタクリレート(メタクリル酸イソノニル)、ネオペンチルメタクリレート(メタクリル酸ネオペンチル)、トリデシルメタクリレート(メタクリル酸トリデシル)、ラウリルメタクリレート(メタクリル酸ラウリル)等のメタクリル酸アルキルエステル;シクロへキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等の脂環式アルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0020】
上記3種の官能基のいずれも有さないアクリル系モノマーの中で、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、特にn−ブチルアクリレート(アクリル酸−n−ブチル)、2−エチルへキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルへキシル)を用いることが好ましい。
【0021】
また上記3種の官能基のいずれかの官能基を有するモノマーとしては、例えば後述する水酸基含有モノマー、カルボキシル基樹脂モノマー、グリシジル基含有モノマーが挙げられる。ただし、本発明のアクリル樹脂に含まれる水酸基、カルボキシル基あるいはグリシジル基は、後述するモノマー由来のものに限定されるものではない。本発明のシート状成形体を構成する、上記3種の官能基の少なくともいずれかを有するアクリル系樹脂は、本発明の所期の目的を達成する範囲において、従来公知の方法、及び従来公知の物質を適宜選択して生成することができる。
【0022】
水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、アクリル酸又はメタクリル酸とポリプロピレングリコール又はポリエチレングリコールとのモノエステル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ラクトン類と2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの付加物等が挙げられる。
【0023】
さらに、上記官能基としてカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸又はこれらのモノマーから誘導される官能性モノマー等が挙げられる。
【0024】
グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルグリシジルアクリレート、2−エチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0025】
また、上記ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ジメチルアクリルアミド、N−ジメチルメタクリルアミド、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
本発明のシート状成形体を構成するアクリル系樹脂(アクリル系共重合体)は、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミュエションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算の数平均分子量が800乃至20,000であることが望ましい。数平均分子量が800未満であると、得られるシート状成形体の耐熱性、耐候性が劣る傾向にあり、また極低分子量体(モノマー、ダイマー、トリマー等)が重合体中に存在しやすく、硬化物とした際にブリードアウトするばかりか、硬化させる際にボイドが発生しやすくなる傾向にある。また、逆に数平均分子量が20,000を超えると、アクリル系共重合体の流動性がなくなる傾向にあり、蓄熱剤や難燃剤等の他の添加剤を高比率で充填させることが困難となるばかりか、シート加工性が低くなりシート化が困難となる場合がある。
【0027】
本発明のシート状成形体を作成する際に用いられる上記アクリル系樹脂としては、シート状成形体を製造する際にボイドの発生をより確実に防止するという観点から、溶剤分を含有しないものを使用することが好ましい。そのため上記アクリル系樹脂の粘度は、圧力1013hPa、温度25℃の条件下で90000mPa・s以下であることが好ましい。上記粘度が90000mPa・sを超えると、重合体の流動性が低下して上記マイクロカプセルの添加、分散が困難となり加工適性が低下する傾向がある。なお、本明細書で使用する粘度は、ブルックフィールドBH型回転粘度計での測定値である。上記アクリル系共重合体の流動特性はチキソトロピック流動を示す場合、剪断速度を上げた状態で粘度が90000mPa・s以下になれば好ましく、またダイラタント流動を示す場合、剪断速度が極低剪断の時においても粘度が90000mPa・s以下となるものが好ましい。
【0028】
(硬化剤について)
本発明に用いられる硬化剤は、上述するアクリル系樹脂に含まれる3種の官能基のいずれかと硬化反応を起こす反応性官能基を備える化合物である。本発明者は、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を構成するアクリル樹脂を特定の硬化剤で反応せしめゲル分率を良好な値に調整することによって、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の耐熱性を向上させることが可能であることに着目した。しかし、1種の硬化剤を用いて、上記硬化反応を起こした場合に、良好な性状のシート状成形体が得られ難く、例えば、1分子中に2官能のエポキシ基を有する硬化剤を用いてアクリル系樹脂を硬化させた場合に、シート状成形体の硬度が小さくべたべたする(半硬化状の)シートが成形される傾向にあり、一方、1分子中に3官能のエポキシ基を有する硬化剤を用いてアクリル系樹脂を硬化させて場合には、シート状成形体の硬度が大きくなり良好な柔軟性を得られない傾向にあった。そこで鋭意研究した結果、1分子中の平均反応性官能基数の異なる2種以上の硬化剤を用いてアクリル系樹脂と反応させることにより、所期の目的を達成可能なシート状成形体を成形することが可能であることを見出したものである。反応性官能基数の異なる2種以上の硬化剤をブレンドして使用する際、特にブレンド後の硬化剤1分子あたりの平均反応性官能基数が2.2乃至2.8となるように添加量を調整すると、ゲル分率において70%以上であり、アスカーC硬度が55以下のシート状成形体が容易に得られる。
尚、本発明において、硬化剤の有する官能基のうち、アクリル樹脂の有する水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかと硬化反応することが可能な官能基を特に「反応性官能基」と呼ぶ場合がある。
【0029】
上記硬化剤における反応性官能基としては、上記アクリル系樹脂に含まれる3種の官能基のいずれかと硬化反応を起こすことが可能な官能基であれば特に制限されないが、硬化反応の際に副生成物を伴わないことが好ましい。上記副生成物の生成は、アクリル系樹脂における官能基と硬化剤における反応性官能基との組合せによって生じ得るため、この組合せに留意するとよい。
【0030】
例えば、アクリル系樹脂の官能基が水酸基であり、2種以上の硬化剤の官能基の少なくともいずれかがカルボキシル基であると、両者の反応により副生成物として水が発生する。上記硬化反応時における副生成物は硬化される成形体中に残留する場合が多く、とくに気泡の発生を伴うものは好ましくない。
【0031】
アクリル系樹脂における官能基が水酸基である場合、副生成物の発生なく該水酸基と硬化反応することが可能な硬化剤として、イソシアネート基を有するイソシアネート系化合物が好ましく用いられる。イソシアネート系化合物としては、トリレジンイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジジイソシアネート(IPDI)等の種々のものが使用できるが、常温で液状のものが好ましい。これらイソシアネート系化合物としては、耐候性に優れる点で、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族系イソシアネートが特に好適に使用される。
また別の好ましい例としては、アクリル系樹脂における官能基が水酸基である場合、硬化剤として酸無水物を用いることもできる。酸無水物としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、安息香酸無水物、無水フタル酸系化合物、無水マレイン酸系化合物、テトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物などが用いられ、酸無水物はアクリル系樹脂の水酸基と反応してカルボン酸となる。
【0032】
またアクリル系樹脂の官能基がカルボキシル基である場合、硬化剤は反応性官能基としてグリシジル基を有する化合物が好適に使用され、アクリル系樹脂のカルボキシル基と反応して副生成物に影響されることなく良好な硬化物(即ちシート状成形体)を得ることができる。
【0033】
上記グリシジル基を有する硬化剤として用いられる化合物は特に制限されず、種々のものを使用することができる。このようなグリシジル基を有する化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(PGPGE)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(PETPGE)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(DGPGE)、グリセロールポリグリシジルエーテル(GREPGE)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、レゾルシノールジグリシジルエーテル(RESDGE)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(NPGDGE)、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル(HDDGE)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(PGDGE)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPGDGE)、ポリブタジエンジグリシジルエーテル(PBDGE)、フタル酸ジグリシジルエーテル(DGEP)、ハロゲン化ネオペンチルグリセロールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル(DGEBF)が挙げられ、特に好ましくは、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)等が使用される。
【0034】
反応性官能基としてグリシジル基を有する化合物である硬化剤の官能基当量(エポキシ当量:WPE)は、80乃至400の範囲にあることが好ましい。エポキシ当量が400を超えるとアクリル系樹脂と反応させるために、硬化剤を多く添加することが必要となって得られるシート状成形体の要求性能が充分果たせない傾向にあり、他方、エポキシ当量が80未満であると、硬化反応の速度が速くなりすぎてシート状成形体の製造が困難となる傾向にある。
【0035】
上記グリシジル基を有する化合物としては、圧力1013hPa、温度25℃の条件下において液状のものであることが好ましい。
【0036】
特に、グリシジル基を反応性官能基として有する化合物としては、圧力1013hPa下で150℃の温度条件で10分間加熱した後の加熱重量減少値が加熱前の重量に対して3%以下となるような実質的に溶媒を含まないものであることが好ましい。加熱重量減少値が3%を超えると、含有されている溶媒が反応の障害となりシート状成形体の製造が困難となる傾向にあり、更には、含有されている溶媒が得られるシート状成形体の内部に気泡を発生させる原因となる。なお、このような加熱重量減少値の算出方法としては、メトラートレド株式会社製のHG53型ハロゲン水分計を用い、常圧下(1013hPa)で、試料5gを150℃の温度条件で10分間加熱した時の重量変化を測定し、加熱前後の重量比較により減少率を算出する方法を採用する。このようなグリシジル基を有する化合物としては、エポキシ系化合物等があり、例えば、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等が挙げられる。
【0037】
さらにまたアクリル系樹脂の官能基がグリシジル基である場合、副生成物の影響を受けることなく硬化反応することが可能な硬化剤としては、反応性官能基としてアミノ基を有する化合物、あるいは、イソシアネーと基を有するイソシアネート系化合物、メルカプト基を有するメルカプト系化合物、クロルスルホン基を有するクロルスルホン系化合物、イミダゾール基を有するイミダゾール系化合物、酸無水物等が好適に使用される。
上記アミノ基を有する化合物は、脂肪族ポリアミン、脂環族アミン、芳香族アミン、ポリアミドアミン等を用いることができる。これらの中でも脂肪族アミンであるポリオキシプロピルジアミン、ポリオキシプロピルトリアミンが好適に用いられる。
上記イソシアネート系化合物としては、トリレジンイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジジイソシアネート(IPDI)等を用いることができる。
上記メルカプト系化合物は、メルカプト酢酸の様にメルカプト基を有する化合物を用いることが出来る。
上記クロルスルホン系化合物は、クロルスルホン化ポリエチレンの様にクロルスルホン基を有する化合物を用いることが出来る。
上記イミダゾール系化合物は、2−メチルイミダゾールの様なイミダゾール基を有する化合物を用いることができる。
上記酸無水物としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、安息香酸無水物、無水フタル酸系化合物、無水マレイン酸系化合物、テトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物などが用いられる。
【0038】
(官能基当量比)
本発明の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体において、良好なゲル分率と良好な硬度をともに実現するための、さらなる要素として、アクリル系樹脂が有する上記3種の官能基のいずれか(あるいは2種以上)の官能基当量と、硬化剤である化合物が有する反応性官能基の官能基当量との比率が重要である。即ち、上記アクリル系樹脂の有する水酸基、カルボキシル基あるいはグリシジル基のいずれかの官能基(または2種以上の官能基)に対する上記硬化剤における反応性官能基の官能基当量比が、0.8〜1.2となるようアクリル系樹脂と硬化剤の配合量を調整する。
【0039】
上記官能基当量比が、0.8未満の場合には、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の製造の際に硬化が充分に進行せず、完全に樹脂が固化しないか、あるいは成形体が粘着性を帯び、シート状成形体の取扱い不良や耐熱性不良の問題が生じる傾向にある。他方、上記官能基当量比が1.2を上回る場合には、硬化が過剰に進行し、シート状成形体の硬度が所望の範囲を超える傾向にあり、さらには未反応の反応性官能基を有する硬化剤が残留するためシート状成形体を形成後、経時でのブリードアウトが生じるばかりか、該成形体の耐熱性を低下させる可能性もあり好ましくない。
【0040】
以上、説明する本発明におけるアクリル系樹脂と硬化剤とは、上記記載の範囲内で適宜、諸条件を選択し組み合わせることができる。特に本発明の好適な組合せの例としては、カルボキシル基を官能基として有するアクリル系樹脂と、グリシジル基を有する硬化剤とによる組合せが好ましい。
上記組合せにおいて、アクリル系樹脂におけるカルボキシル基の割合は、水酸化カリウム(KOH)滴定による酸価(AV)が20〜150のものであることが好ましく、50〜150のものであることがより好ましい。そして、これにより得られるカルボキシル基の官能基当量に対し、硬化剤におけるグリシジル基の官能基当量の比率が、0.8〜1.2であることが好ましい。上記カルボキシル基の酸価が20未満では、架橋密度が低くなり、得られる蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の耐熱性が低下する虞があり、他方、上記酸価が150を超えると、架橋密度が上がり過ぎて得られる蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の硬度が上がり、良好な柔軟性を有するシート状成形体を提供することができない場合がある。
【0041】
(マイクロカプセルについて)
本発明にかかる蓄熱剤を内包したマイクロカプセルは、皮膜の内側に蓄熱剤を内包した微小な粒子である。このような蓄熱剤としては特に制限されないが、単位体積当たりの蓄熱量が大きく、安全で腐食しにくく、融解と凝固を繰り返しても安定して放熱と蓄熱作用が得られるとともに、安価であるノルマルパラフィン、有機酸及びアルコール等を用いることが好ましく、n−テトラデカン、n−オクタデカン、n−ペンタコサン、ステアリン酸、セチルアルコール等を用いることがより好ましい。このような蓄熱剤は、使用目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、目的の温度範囲に融点を有する1種の蓄熱剤を選択して用いたり、2種以上の蓄熱剤を混合して用いたりすることも可能である。
【0042】
また、上記マイクロカプセルの皮膜を形成する膜材としては特に制限されず、例えば、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの膜剤は、単独であるいは混合して皮膜を形成することができる。特にユリア樹脂及び/またはメラミン樹脂により形成された皮膜が好ましい。また、蓄熱剤をマイクロカプセル化する方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができる。なお、このような蓄熱剤を内包したマイクロカプセルとしては、市販されている蓄熱剤を内包したマイクロカプセルを適宜用いてもよい。
【0043】
また、平均粒子径が1〜100μm、好ましくは5〜50μm程度のマイクロカプセルを用いることが好ましい。上記平均粒子径が上記1μm未満では、シート状成形体を構成する樹脂中に混合せしめた際に、該樹脂の粘度が高くなり過ぎて加工性が低下する傾向にあり、他方、上記平均粒子径が100μmを超えると、上記マイクロカプセルが上記樹脂中に均一に混合させることが困難であるためシート状成形体に均一に分散し難くなる傾向にある。
【0044】
本発明における蓄熱剤を内包したマイクロカプセルの配合量は、上記アクリル系樹脂100質量部に対して40〜180質量部、好ましくは50〜150質量部である。上記マイクロカプセルの配合量が40質量部未満では、得られる蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体に充分な蓄熱性が得られず、他方、180質量部を超えると、配合後の樹脂の粘度が高くなって、シート加工性が低下する傾向にある。
【0045】
(ゲル分率について)
本発明の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、そのゲル分率が70%以上である。本発明においてゲル分率は、所謂THF抽出法で測定される。より具体的には、硬化したシート(厚み1.0mm)を25mm角の大きさにカットして、これを試料片とする。この試料片をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬し、15時間後に不溶解分を200メッシュの濾過布により分離し、100℃で1時間、乾燥オーブン中でTHFを蒸発させ、浸漬後の重量減少を以下の式1により算出することにより求められる。
ゲル分率(%)=(THF浸漬後の不溶解分の重量[g])/(浸漬前のシート重量[g])×100 (式1)
【0046】
(硬度について)
本発明の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、その硬度が、55以下、好ましくは50以下、より好ましくは45以下である。硬度の下限については特に限定されないが、シート状成形体の取扱い性が良好であるという観点からは、硬度は15以上であることが好ましい。本発明における硬度は、所謂アスカーC硬度を意味し、JIS K 7312に準拠し、ASKER−C硬度計を用いて測定される。アスカーC硬度は、一般的には硬化したシートを25mm角に切断して厚さが6mm以上になるよう重ねて測定される。
【0047】
尚、本発明における硬度は、シート状成形体と電子機器内における発熱部分との密着性が良好であり、該発熱部分から放熱される熱を効率よくシート状成形体が吸収し蓄熱される、という観点から特定されたものである。ここで、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、一般的に、使用の経時によりシート状成形体が高熱に晒された場合には、成形後の硬度よりも高くなるとともに若干収縮し、むしろ発熱部分との密着性が高くなる傾向にある。したがって、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の硬度は、主として使用時における柔軟性が重要であるため、本発明で特定するアスカーC硬度は、原則として、シート状成形体を形成後、蓄熱性シートとして使用する前(即ち高熱に晒される前)の成形体の硬度を意味する。
【0048】
(樹脂組成物について)
上述するアクリル系樹脂、硬化剤、及びマイクロカプセルを用いて本発明のシート状成形体を成形する場合には、これらをまず配合し、蓄熱性アクリル系樹脂組成物として扱うことが一般的である。上記樹脂組成物は、各成分を好ましい含有量となるように計量して配合し、混合攪拌することで製造することができる。このような混合攪拌の方法は特に制限されるものではなく、重合体の組成、粘度、各成分の添加量により適宜選定することができ、具体的には、ディゾルバーミキサー、ホモミキサー等の攪拌機を用いる方法が挙げられる。
【0049】
また、前述のようにして混合攪拌された混合物に対し、必要に応じて未分散のマイクロカプセル等の固まりを除去するために濾過を行ってもよい。このような濾過を行うことで、より均質な蓄熱性アクリル系樹脂組成物が得られる。さらに、前述のような混合攪拌で液中に生じた気泡は減圧下で脱泡を行うことが好ましい。このような脱泡を行うことで、得られる蓄熱性アクリル系樹脂組成物を用いて製造される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体に気泡が生じることを防止することが可能となる。
【0050】
上記蓄熱性アクリル系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)には、アクリル系樹脂、硬化剤、及びマイクロカプセル以外、適宜他の成分を配合させることができる。例えば、シート状成形体に難燃性を付与するために難燃剤を含有させても良い。難燃剤としては、金属水酸化物、赤燐、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステル系化合物、燐酸アンモン、炭酸アンモン、錫酸亜鉛、トリアジン化合物、メラニン化合物、グアニジン化合物、硼酸、硼酸亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、膨張黒鉛等が挙げられる。これら難燃剤は単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
上記難燃剤の中でも特に、金属水酸化物が好ましい。金属水酸化物は、他の難燃剤と比較して樹脂との相溶性が高く、200℃以上で結晶水の解離反応が起こり、大きな吸熱を伴うことにより自己消化性を示すことから難燃性が高く、好ましい。金属水酸化物は具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0052】
このような金属水酸化物の大きさ、形状等は特に制限されるものではないが、形状としては球状又は擬球状であることが好ましい。
【0053】
また樹脂組成物に配合される他の添加剤として湿潤分散剤を配合させてもよい。湿潤分散剤としては、アクリル系樹脂との相溶性を向上させることが可能な官能基と、マイクロカプセルや難燃剤に吸着することが可能な官能基とを有している湿潤分散剤を好適に用いることができる。このような湿潤分散剤を用いると、マイクロカプセルや難燃剤の粒子の表面に湿潤分散剤が吸着され、それにより大きな電荷を持たせることができ、マイクロカプセルや難燃剤同士の静電反発力を高めて凝集を防止できる。さらに、粒子表面に吸着されている湿潤分散剤同士の立体反発力によっても、マイクロカプセルや難燃剤の凝集が防止できる。その結果、マイクロカプセルや難燃剤を高比率で含有することができるのである。
【0054】
このような湿潤分散剤としては、硼酸基及び/又は燐酸基を有する飽和ポリエステル系コポリマー、多価アルコール有機酸エステル、特殊アルコール有機酸エステル、ウレタン変性アクリルコポリマー、高分子量ポリエステル、ポリカルボン酸共重合体、アリルアルコールと無水マレイン酸とスチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化物、ポリアクリル酸アンモニウム塩、アクリル共重合物アンモニウム塩、シリコン系ポリマーエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0055】
このような湿潤分散剤の中でも、マイクロカプセルや難燃剤に吸着して、マイクロカプセルや難燃剤とアクリル系樹脂組成物との相溶性をより向上させることが可能となるという観点から、硼酸基及び/又は燐酸基を有する飽和ポリエステル系コポリマーを用いることが好ましい。
【0056】
湿潤分散剤の添加量は、アクリル系樹脂100質量部に対して、0.05〜3.0質量部、好ましくは0.1〜2.0質量部である。湿潤分散剤の添加量が0.05質量部未満では、蓄熱剤を内包したマイクロカプセルや難燃剤等の添加剤との相溶性が低く混練りが困難となり、加工性が低下する。また、湿潤分散剤の添加量が3.0質量部を超えると、得られる蓄熱性アクリル系樹脂組成物の増粘、ゲル化が起こり、組成物の硬化性が低下してシートの製造が困難となる。
【0057】
さらに、蓄熱性アクリル系樹脂組成物には熱伝導性充填剤を組み合わせて用いることも可能である。熱伝導性充填剤としては、金属酸化物、窒化硼素、窒化アルミ等の窒化物、銅、銀、アルミ等の金属粉末、天然黒鉛(燐状、土状、燐片状、塊状等)、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系を添加することも可能である。
【0058】
さらには、熱伝導的には必ずしも優れない炭酸カルシウム等の炭酸金属や、クレー、カオリン等の充填剤等を添加することも可能である。
【0059】
さらに、上記樹脂組成物は、これを用いて成形されるシート状成形体の要求性能に応じて、触媒、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤等を適宜添加することが可能である。
【0060】
上記アクリル系樹脂組成物は、上述するゲル分率、アスカーC硬度、官能基当量比などの諸条件を満たす範囲において、アクリル系樹脂100質量部に対し、2種以上の硬化剤の総量が1.0〜60.0質量部、マイクロカプセルが40〜180質量部の割合で配合されることが好ましい。
【0061】
(シート状成形体の成形について)
上記蓄熱性アクリル系樹脂組成物を用いてシート状成形体を形成する方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を用いることが可能である。例えば、ポリエステルフィルム等のセパレータフィルムの上に上記蓄熱性アクリル系樹脂組成物をコーティングし、160〜200℃の温度条件下で5〜15分間加熱することによって硬化させる方法を挙げることができる。
【0062】
このような本発明の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、一般的には単層のシートとして形成され、その厚さとしては、0.3mm〜30mmであることが好ましく、1.0mm〜6.0mmであることがより好ましい。上記厚さが0.3mm未満では、充分な蓄熱性を達成できない傾向にあり、他方、上記厚さが6.0mmを超えると、蓄熱性は向上するが、電子機器部品等の使用目的にそぐわない製品となってしまう傾向にある。
【0063】
このように形成される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体は、必要に応じて切断することが可能であり、任意の形状にすることにより蓄熱が必要な部位に容易に貼着させることが可能である。
【0064】
このような蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体としては、このような蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体が用いられる電子機器の性能や寿命、更には誤作動の防止等の観点からみて、環境温度+50℃の範囲内で使用されることが多い。そのためこのような蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の蓄熱性能としては、0〜100℃の範囲内で機能を発現するものが好ましく、20〜90℃の範囲内で機能を発現するものがより好ましい。
【0065】
上記蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の蓄熱量としては、上述する蓄熱性能が発現されるのに好ましい温度環境において10J/g〜100J/g程度であることが好ましい。上記蓄熱量が10J/g未満では、例えば厚さ1mm×タテ10mm×ヨコ10mmのシートを製造して熱を発生する部品に貼付した場合の蓄熱性能が約0.2cal/枚(約0.3℃)であり、蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体としての蓄熱性が不充分となる傾向にある。一方、上記蓄熱量が100J/gを超えると、例えば厚さ1mm×タテ10mm×ヨコ10mmのシートを製造して熱を発生する部品に貼付した場合の蓄熱性能が約2.3cal/枚(約3.3℃)となり、充分な蓄熱性が得られるものの、そのシート状成形体を得る際に用いられる蓄熱性アクリル系樹脂組成物中に含有させるマイクロカプセルの添加量が多くなりすぎて、シート化が困難になる傾向にある。
【0066】
このような蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の用途としては特に制限されないが、携帯電話、パソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、テレビ、DVD、カーナビゲーション、プリンター等の電子機器における発熱を伴う部品等に適用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1〜8及び比較例1〜5)
先ず、表1に示すアクリル系共重合体、及び表3に示す蓄熱剤を含有するマイクロカプセル1、表4に示す湿潤分散剤を、それぞれ表5及び表6に示す割合で配合して混合攪拌した後、減圧下において充分に脱泡し、次いで、表2に示す硬化剤を、表5及び表6に示す割合で配合して再度混合攪拌し、減圧下において脱泡して蓄熱性アクリル系樹脂組成物の実施例1〜8及び比較例1〜5を得た。
【0069】
次に、このようにして得られた蓄熱性アクリル系樹脂組成物を用い、これを表面がシリコン離型処理されているポリエステルフィルムの上にコーティングした後、180℃のオーブン中で10分30秒間加熱することにより硬化させ、その後、常温にて24時間放置することにより養生して厚さ1mmの蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を得た。
【0070】
このようにして得られた各蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体について、以下のような評価を行った。評価結果は、実施例の結果を表5に、比較例の結果を表6にそれぞれ示す。
【0071】
<硬度測定>
上述に記載する硬度測定方法に従い、ASKER-C硬度計を用いて、実施例及び比較例で得られた本発明のシート成形体及び比較例で得られた比較としてのシート成形体の硬度測定を行った。より具体的には、得られたシートを25mm角に切断して厚さが6mm以上になるように重ねて硬度測定を行った。
【0072】
<ゲル分率測定>
本発明の蓄熱性熱硬化樹脂シートのゲル分率は、上述に記載する方法に従いTHF抽出法で行った。硬化したシート(厚み1.0mm)を25mm角の大きさにカットして、これを試料片とした。この試料片をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬し、15時間後に不溶解分を200メッシュの濾過布により分離し、100℃で1時間、乾燥オーブン中でTHFを蒸発させ、浸漬後の重量減少を以下の式2に基づいて算出することによりゲル分率を求めた。
ゲル分率(%) = (THF浸漬後の不溶解分の重量[g])/(浸漬前のシート重量[g])×100 (式2)
【0073】
<蓄熱性の試験>
蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の融解を行い、DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定した。このような測定の結果、蓄熱量が10〜90℃の間で10〜100(J/g)となる蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を合格とし、それ以外のものを不合格とした。
【0074】
<耐熱性の試験>
まず、厚み1mmの蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を200mm角の大きさにカットした。そして、DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定し、融解熱量Aを得た。一方、上記同一の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体を同様に200mm角の大きさにカットし、これを100℃のオーブン中に1,000時間置いた後、その試験片を取り出してDSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定し、融解熱量Bを得た。このようにして得られた融解熱量Aおよび融解熱量Bを用いて以下の式3により算出することによって、100℃のオーブン中に1,000時間置く前と後の融解熱量(J/g)を比較して各蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体の融解熱量(J/g)変化率を求め、耐熱性を評価した。評価基準は下記の通りである。
変化率(%)=(A−B)/A×100 (式3)
【0075】
〔評価基準〕
○:融解熱量(J/g)変化率が20%以下であった
△:融解熱量(J/g)変化率が21〜40%以下であった
×:融解熱量(J/g)変化率が41以上であった
【0076】
(表1)

*表中、官能基当量は、官能基当量=分子量/1分子あたりの平均官能基数、として算出した。
【0077】
【表2】

【0078】
(表3)

【0079】
(表4)

【0080】
【表5】

【0081】
(表6)

*1:表中、アクリル系共重合体1乃至4、硬化剤1乃至5、蓄熱剤1、及び湿潤分散剤の数値の単位は質量部であり、且つ( )内に示す数値は表記のとおり%を示す。また空欄はいずれも0を示す。
*2:NAは測定不能であったことを示す。
【0082】
実施例1〜8は、本発明の特定する官能基当量比、ゲル分率、硬度を満たし、蓄熱性、耐熱性も良好であった。
一方、比較例1は蓄熱剤の原材料を評価した。硬度、ゲル分率に関しては測定不可であったが、耐熱性の評価においては蓄熱剤を内包するカプセルが破損して融解熱量の変化率が41%以上であった。比較例2はゲル分率が65%であり、また融解熱量の変化率が21〜40%であった。即ち、耐熱性試験前後において蓄熱性能が有意に低下したことが示された。比較例3は官能基当量比が0.7、ゲル分率が60%で、いずれも本発明の特定する数値範囲をはずれ、融解熱量の変化率が21〜40%であり耐熱性が不良であることが確認された。比較例4は蓄熱性、耐熱性においては良好な結果であったが、硬度が75であり、電子部品との密着性が悪化して実質的な蓄熱性が低下する。比較例5は官能基当量比が2.0であり、シート成形時における硬化不良が発生して評価可能なシートを得ることが出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基として水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかを有するアクリル系樹脂と、硬化剤と、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルとを、少なくとも用いて形成される蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体であって、
前記硬化剤は、前記アクリル系樹脂の有する水酸基、カルボキシル基またはグリシジル基のいずれかと硬化反応可能な反応性官能基を有し、且つ前記硬化剤として、1分子中の該反応性官能基の数が異なる2種以上の硬化剤を用いており、
前記アクリル系樹脂の有する官能基に対する前記硬化剤の有する反応性官能基の官能基当量比が、0.8〜1.2であり、
架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、
日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC硬度計で測定される硬度が55以下であること
を特徴とする蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂100質量部に対して、前記蓄熱剤を内包するマイクロカプセルが40乃至180質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体。
【請求項3】
前記硬化剤が有する官能基の数は、1分子あたり2個以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の蓄熱性アクリル系樹脂シート状成形体。

【公開番号】特開2009−29985(P2009−29985A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197207(P2007−197207)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】